対決 -最高の姉妹愛を伝えるのは誰だ?- 専用台本 / 白鷹

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所要時間:15分程度
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2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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椿  「姐さん、牡丹姐さん。雪が降っていんす」

牡丹 「どうりで、今朝方から冷え込むと思いんした」

椿  「掛布(かけふ)をもう一枚お持ちしんしょうか?」

牡丹 「障子を閉めておくんなまし。ちぃと・・・、冷えて参りんした」

椿  「あい。・・・さっきまで粉雪だったんに、吹雪いて来んしたぇ」

牡丹 「この雪は積もりそうでありんすね」

椿  「雪が深いと、おきちゃの足が遠のいてしまいんす。お母さんの機嫌が悪うなってしまいんす」

牡丹  「ほんに、廓で待つ事しか出来ないわっちらに当たったところでおきちゃも増えやせんのにお母さんのその癖だけは困った事でありんすぇ」

椿  「牡丹姐さんがお母さんにそう言ってくんなまし。お母さんも姐さんにはなぁんも言えせんのでありんすから」

牡丹  「もう、わっちの時代は終わりんした。お母さんもこんな風になったわっちの言う事なん聞きんせん。これから、華屋のお職として、姐も妹も束ねて行かねばならんのは椿、おんしでありんす」

椿  「お職なん・・・、自信がありんせん。それに姐さん、姐さんにはまだ一年年季が残っておりんすぇ?」

牡丹 「年季明け・・・、年季明け・・・。あぁ、そんなもんもありんしたな」

椿  「早々と引退しようなんずるい事いいしゃんすな」

牡丹 「そうで、ありんすな」

椿  「それに、あちきにはまず、姐さんの様な図々しさと度胸がありんせん」

牡丹 「椿?」

椿  「あい?」

牡丹 「度胸はいいとしんしょう。図々しいとはどういう意味でありんすか?」

椿  「あっちは間違ったことは言っておりんせん?」

牡丹 「ほんに・・・、可愛らしい顔の割に頑固でありんす」

椿  「けんど、しわ虫太郎をあしらうんに、京の都のおなごの様な痛い嫌味で追い返す事が出来るんは姐さんくらいなものでありんすぇ? あの時の武勇伝は語り草になっておりんす」

牡丹 「そさまは座敷遊びにこなれた粋な方でございんすなぁ。羽振りも良くていらしゃんすがそれを鼻にかけないところなん、わっちはいいおきちゃに恵まれんした。おなごの立場もよう分かっておりんす。今宵は初会でありんすから本来ならお泊まりはお断り致しんすが、どんぞお泊りになって行ってくんなまし。愚かな女郎は皆下がらせんすので、主さまお一人でごゆっくりと冷えた湯漬けなどもお召し上がりになって行ってくんなまし」

椿  「姐さんの様に、若山の中でも頂天を極めたおなごにそう言われるんはおきちゃも恥なのでござんしょう?よたろうは何やら訳の判らんことを喚いてかえりんした」

牡丹 「金子があるからと花魁達を女郎女郎と蔑みバカにして無理難題を押し付けるよたろうが、あれくらいの報復なん当然の報いでありんしょ? (激しく咳き込む)」

椿  「姐さん!無理をなさらないでくんなましっ。横になってくんなまし」

牡丹 「・・・、わっちは、こうして何人もの花魁達も看取ってきんした・・・。奥座敷で痩毒や中条流に失敗しんして苦しみ泣き濡れる大切な妹も姐も看取ってきんした。とうとう今度はわっちの番が回ってきんしたなぁ・・・」

椿  「牡丹姐さん、そんな弱気な事を言わないでくんなまし!」

牡丹 「労咳になってもうひと月、手も足もこんなにか細くなりんした。髪もやせ細って乱れておりんす。おきちゃの前に出られなくなった花魁は奥座敷でひっそり消えていくのがならわし」

椿  「病が治りんしたら、また華やかなお座敷でおきちゃを迎えてくんなまし」

牡丹 「椿はわっちが花魁になって初めて育てた大切な妹。文句ひとつ言んせんと仕えてくれた椿を置いてゆくのは心配でありんすが、椿を看取らずに済みんした」

椿  「嫌でありんす! そんな事を言わんでくんなまし! 牡丹姐さんにはお武家様の長男でありんした、幼馴染の新之助様が身請けに来ると約束がありんしょ? それを待たずに逝きなんすか?!」

牡丹  「所詮は身分違いの淡い恋。雪のように地に落ちて声無しとはよう言うたものでありんすなぁ」

椿  「事情があってちぃとばかりお迎えに来るのが遅れているだけでありんす。そんな短気を起こしんすは、牡丹花魁らしくありんせん」

牡丹  「まこと、椿は強いおなご。今更あちきのいうことでもありんせんけんど、椿、今生を幸せにおなり?華屋のお職はわっちの筋だけでありんす。辛いことも沢山ありんしょう」

椿  「あちきは花魁のままがいいでありんす。華屋のお職は牡丹姐さんだけやと思っとりんす」

牡丹 「『体は売っても心は売るな』」

椿  「・・・、・・・姐さん?」

牡丹 「わっちら廓のおなごは、身一つで売られ多くのおなごたちが身一つのまま奥座敷で天寿を全うする。ならば、わっちらに許されたたった一つの己の物はこの心一つ。体は殿方の戯れにされても心までは誰にも許しゃせん」

椿  「『体は売っても心は売るな』」

牡丹 「二年前、あちきは50万石の斎藤の殿様に見初められ身請けの話を切り出されんした。けんど、この遊郭で客の戯れものにされ続け、外に出て尚殿方の慰み者として生きるんは己の心がきりきりと悲鳴を上げて痛んでなぁ・・・」

椿  「身請けの話は華屋という楼閣にとっていい話でござんす」

牡丹 「己の心は己の物。わっちもこの心を抱えたまま天寿を全うする事が出来んすぇ」

椿  「牡丹姐さん!そんなこといわんでくんなまし! まんだ天寿を迎えるのは早すぎでござんしょ」

牡丹 「そんな聞き分けの悪い子供みたいな駄々をこねるんじゃござんせん」

椿  「生きたいと言んした! 死にとうないと姐さんは言ったじゃありんせんか!」

牡丹 「もう、無理だと、さしものわっちにも判りんす」

椿  「白湯を持ってまいりんす。」

牡丹 「椿、もちっとここにいなんせ」

椿  「手拭いも洗ってきんす」

牡丹  「わっちにはなぁ・・・、今日、お迎えが来ることは何となくわかっていたのでありんす」

椿  「姐さんの思い違いでございんす」

牡丹  「遊郭より身請けによってあがる女郎の祝い膳は、小豆の紅ままと真っ白なままで飾られたきれいな膳で送られんしょ? けんど、わっちの行く先にそんな華やかな飾り膳はいりんせん」

椿  「祝膳なん、姐さん、何の話をしておりんすか」

牡丹 「椿、わっちを看取った後、祝い膳を炊いておくんなまし、真っ白な膳を供えて・・・(咳き込む)」

椿  「姐さん!! そんなこと言わないでおくんなまし!」

牡丹 「今日は、ずぅっと重かった胸の痛みがなくなりんしてなぁ。久し振りに身体が軽いのでありんす。このまま、風に乗って郷へかえれるかもしれんなぁ・・・」

椿  「嫌でありんす! 姐さんがいなくなったらあっちはこれから誰に教えて貰えばいいのでありんすか?!」

牡丹 「もう、椿に教える事はなんにもありんせん」

椿  「年季が明けるまであと少しでありんす!」

牡丹 「もう・・・、堪忍・・・、して、おくんなまし・・・、椿。苦界は十分に知りんした」

椿  「そう、思うんなら、これから幸せを知らんとなりんせん!」

牡丹 「幸せ・・・、幸せ。椿、よう考えたらあちきは幸せだったんかもしれん。椿を妹に持って、育てて妹とはこんに可愛いもんかと思いんした。若山を共に歩いて、姐さん姐さんと暇があればついて回って、思えば椿に沢山の幸せを貰いんした。これ以上望んだら、神さんに贅沢だと怒られてしまいんす」

椿  「神さんはそんな心狭くありんせん! もっと沢山望んだって構わんでありんす!」

牡丹  「菖蒲は束の間でも幸せを感じたんでありんしょうか。淡墨は未だに小田切の殿さんを心に思っているのでありんしょうか? 水仙姐さんは月乃介さんと彼岸で祝言(しゅうげん)を挙げたんでありんしょうか・・・。藤姐さんは幸せを求めて生まれ変わったのでありんしょうか(激しく咳き込む、吐血する)」

椿  「姐さん、もう喋らんといてくんなまし」

牡丹 「そんなに泣いて、子供のようでありんすぇ?」

椿  「姐さん! だって姐さん!!」

牡丹 「涙が出るんも生きてる証。笑うんも、怒るんも・・・、生きてるからできる事。そんなら椿、目一杯泣いて、怒って、喧嘩して、心から笑って、生きて行くのでありんすぇ?」

椿  「姐さん、もう、喋らんでくんなまし、血が、血が止まらん・・・」

牡丹  「ありがとう、椿・・・、今生はこれにて・・・、おさらばえ・・・」

椿  「ふ・・・っ、・・・、ね、えさん? 姐さん? 姐さん?! 嫌じゃ・・・。姐さん! 姐さん!! 返事をしてくんなまし!!」

牡丹  「・・・」

椿  「姐さん! 姐さん、いや、目を開けて、もう一度あっちをみてくんなまし!! こんなんいやや!!牡丹姐さん!! いやああああああああ!!!!!(激しく泣く)」