花魁道中いろは唄~外伝~薬玉に焚き染めし罪の香り 人数任意 / 白鷹

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所要時間:60分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

 

椿   (♀) 16歳

    可愛らしい顔と愛らしい仕草で水揚げ前の振袖新造時代から客に絶大な期待をされていた
    水揚げ年齢が近くなった頃から、『華屋』では先触れを出して客を呼び込み
    椿の水揚げには破格の花代が付けられたにもかかわらず、御開帳には申し込みが殺到した
    現在は花魁として活躍し次代お職の立場が約束されている


 

牡丹 (♀) 22歳

    遊郭の見世の中でも屈指の人気を誇る大見世、華屋のお職
    その美貌と教養の高さから史上最年少の17歳でお職の座に就いた実力者であり魅力的な女性
    美しい容貌とは正反対の竹を割ったような性格で、他の見世からの女郎からも羨望のまなざしを向けられる


 

蓮太郎(♂) 16歳

    大見世、華屋の若衆。生真面目で優しく人当たりもよい少年。
    生まれも育ちも遊郭であり母親の美しさを生き写しに持ってきた美少年の為、時々陰間と間違えられる。
    料理番の為餌付けが得意。


 

惣一郎(♂) 24歳

    老舗の呉服屋で目利きとして働く青年。
    非常に遊び人で遊郭内でも様々な見世をうまく立ち回り馴染みになっている。美形で遊女からの人気も高い。
    蓮華が華屋に来る以前は、蓮華の元姐女郎、紅の間夫だった。現在は牡丹の妹女郎、椿の客。


 

女将 (♀) 28歳

    華屋の女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く
    自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為
    折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている


 

忍虎 (♂) 38歳

    華屋の楼主。昼行燈のような顔をしてかなりの敏腕楼主。不正が嫌いで人道を外れた人間は笑顔で殴り飛ばす。
    体裁上で祝言をあげた律に惚れているが手出しはしていない。
    女郎にも優しいが何より若衆を大切にしており、己の子の様な優しさと厳しさで躾けている。


 

蓮華 (♀) 14歳

    中見世、大野木屋、紅花魁の新造で、元は『琥珀』と言う名前。
    牡丹に引き取られ、彼女の奉公するようになる。
    本来は17歳で迎えるお開帳だが、紅の策略の為に既にお開帳を済ませてしまっている。


 

藤   (♀) 25歳(過去の年齢)

    元々は華屋、牡丹の先々代のお職。5年前に年季明けを迎えて大門から出て行った
    真面目な性格で、年が進んでもしとやかな色気をまとう美女


 

淡墨 (♀) 21歳

    『華屋』に隣接するお見世『手鞠屋』のお職
    牡丹と同様、教養も高く、こぢんまりとした顔の人形の様な美貌が売りの花魁
    遊郭で産まれ、遊郭で育ち己自身も遊女になるという生粋の花魁気質で気位が高い
    次代の花魁を教育するくらいなら客の相手をすると、新造も禿もつけてはいない


 

銀杏 (♀) 19歳

    『手鞠屋』の花魁
    淡墨の妹女郎的に懐いておりとても淡墨を大切に思っている
    女性らしく優しい、またしっとりとした魅力を持っている
    姐花魁の淡墨とはよく同じ座敷に呼ばれるなど、客は二人を同時に見る事を好む


 

水仙 (♀) 25歳

    華屋の花魁。年季明けが近いがお職の噂が立った事もある程美しい容貌を持っている
    しかし、その為に気位も非常に高く、手練手管と言われる遊女の技芸を下品だと蔑み客が
    付かない日が続いている。


 

菖蒲 (♀) 22歳

    牡丹とほぼ同時期に水揚げをした『華屋』の花魁
    幼い頃から遊郭で躾けられる新造や禿と違い、15歳の時に遊郭に売られ17歳で水揚げをした
    遅掛けの廓入りにも拘らず、色気と迫力のある美貌で人気を集め、花魁に上り詰めた実力肌の女郎
    廓言葉には慣れておらず教養も低いため、時々粗暴な言葉遣いになる


 

冬馬 (♂) 20歳

    華屋に入り浸る若者。若衆と勘違いされている所もあるが放浪癖がある為必ずしも華屋にいるとは限らない。
    実は華屋楼主、忍虎の実子らしい。ただし忍虎が酔っぱらって遊んだ女との間の息子の為忍虎はうろ覚え。
    蓮太郎の兄貴分。背が高く武道に秀でており腕力もある為頼りにされているが脳筋


 

手鞠屋 榊 (♂) 28歳

    大見世『手毬屋』の楼主。先代が亡くなり弟の樹が若すぎる為、繋ぎ的に楼主になった為その言われ方が気に入らない
    凡庸な男だが狡さを持っている。今後の身の振り方を考えて何やら画策をしているようだが・・・

――――――――

役表

 

(最大配役表 16人)

椿   (♀)81・・・
牡丹 (♀)55・・・
蓮太郎(♂)85・・・
惣一郎(♂)32・・・
女将 (♀)60・・・
忍虎 (♂)57・・・
蓮華 (♀)47・・・
藤   (♀)5・・・
淡墨 (♀)33・・・
銀杏 (♀)37・・・
水仙 (♀)39・・・
菖蒲 (♀)46・・・
冬馬 (♂)34・・・
榊   (♂)61・・・

 

配役表(多分最小人数役表 8人)

椿    (♀)
女将+藤 (♀)・・・
牡丹+淡墨(♀)・・・
銀杏+菖蒲(♀)・・・
水仙+蓮華(♀)・・・
蓮太郎+榊(♂)・・・
忍虎+男2+若衆 (♂)・・・
惣一郎+冬馬+男1(♂)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

椿  「れんひゃろぉ~・・・」
蓮太郎「椿、ん? どうした? 顔がくしゃくしゃ」
椿  「はにゃが曲がりひょお」
蓮太郎「鼻が?」
椿  「二階が凄い匂い」
蓮太郎「あぁ、端午の節句か」
椿  「端午の節句?」
蓮太郎「紋日(もんび)だよ、知らないのか?」
椿  「知らない」
蓮太郎「端午の節句は、厄除け日なんだ。だから花魁それぞれが好き好きに香を焚くんだ。
    悪鬼に取り憑かれない様に匂いで鬼を除ける」 
椿  「ふ~ん。でも去年私、この時期まだ新造だったし、風邪を引いてたから一階のお部屋で寝てたと思う」
蓮太郎「あぁ、じゃ初めてなんだ」
椿  「うん、匂いで気持ち悪く・・・、うぷ、おえぇえぇえ」
蓮太郎「うわっ! ちょっ! 吐くな!とにかく紋日(もんび)の準備をしないと
    今日は揚代も倍になるから、花魁として客が居ないのは示しが付かない」
椿  「ふにゃあぁあ」
蓮太郎「綺麗な薬玉(くすだま)を貰えるよ。頑張ろう?」
椿  「薬玉(くすだま)?」
蓮太郎「・・・、仕事なんだから、ちゃんと牡丹花魁に教えて貰いなさい」
椿  「う、はーい(不満そう)」

 

忍虎 「蓮太郎、渡せたか?」
蓮太郎「お、楼主(おやかた)?!」
忍虎 「そんなに驚くこたねぇだろが」
蓮太郎「な、何しに来たんですか?」
忍虎 「なんでぇ、俺が台所裏に来ちゃまずいのかい?」
蓮太郎「そういう訳じゃ」
忍虎 「で、渡したのかって」
蓮太郎「まだ、渡せてない・・・、です」
忍虎 「どん臭せぇな」

牡丹 「そう言えば、椿はまだ知りんせんかったな」
椿  「うん、牡丹姐さんのお部屋はまだ匂いが他の所より優しい」
牡丹 「白檀(びゃくだん)でありんす。というか、邪気を払う匂いでおんしが払われてどうしんすか」
椿  「だって臭いんだもん」
牡丹 「廓言葉は? 椿」
椿  「ごめんなさいでありんす」
牡丹 「違いんす! ・・・はぁ、全く。丁度、蓮華もおりんすからきちっと話しておきんしょか。蓮華、ここに座りなんし」
蓮華 「あい。牡丹姐さん、さっきとても綺麗な手鞠を牡丹姐さんにって、預かりんした」
牡丹 「三蔵の清水様からでありんすな。これは鞠ではありんせん。薬玉(くすだま)という魔除けの玉でありんすよ」
蓮華 「魔除けの、玉?」
牡丹 「古くは京の都、公家(くげ)の行事でありんす」
蓮華 「歴史が深いんでありんすね」
牡丹 「そうでありんすね。わっちも藤姐さんに教わりんした」

 

 

 

――――――・・・


藤  「牡丹、こちらへおいで」
牡丹 「あい! これはなんでありんすか?」
藤  「薬玉(くすだま)と言って、邪気を払うお守りじゃ
    春雨の時期、皐月は雨が多く食べ物は腐りやすくて、病に罹りやすい
    本来は香りの高い菖蒲(しょうぶ)を使って屋根に葺(ふ)いたり、床に敷いたり湯に入れて
    枕に忍ばせて邪気を払うのでありんすが、若山ではこの薬玉(くすだま)だけが行事に残っておりんす」
牡丹 「屋根に葺(ふ)いたり、床に敷くって・・・、そんな事になったら若山中が大変でありんす」
藤  「そう、だからこの厄除けの薬玉(くすだま)で邪気を払うのでありんす」
牡丹 「でも仲ノ町(なかのちょう)には菖蒲(あやめ)が植えられておりんすな」
藤  「それも縁起ものでありんすよ」
牡丹 「薬玉(くすだま)って綺麗」
藤  「おんしもお守りに一つ持ってお行き」
牡丹 「あい!」

 

牡丹 「薬玉(くすだま)の中には匂い袋が入っておりんす。
    この時期を無事に過ごせるようにと、願いを込めて大切な人に贈るものでありんす」
女将 「あたしゃ、匂い袋より金がいいねぇ」
牡丹 「・・・、お母さん。そんな邪念を持つんは良くありんせん」
女将 「なーに言ってんだい。匂い袋が何の役に立つ。金がありゃ医者にも診て貰えるってもんさね」
牡丹 「相変わらず金、金でありんすな
    蓮華、この様に匂い袋を入れた竹の丸い籠に錦色の絹糸を巻き付けて綾玉(あやだま)にして
    作り物の花を挿したり房飾りを付けて綺麗に飾りんす」
蓮華 「綺麗、それにとってもいい香りがしんす」
女将 「ほら牡丹、追加の薬玉(くすだま)だよ。相変わらず多くて部屋が薬玉(くすだま)だらけになりそうだね」
忍虎 「おぉ、早速牡丹の所は薬玉(くすだま)だらけだな。若衆呼んで飾り付けて貰いな」
牡丹 「わっちの部屋だけでは余りんす。玄関にでも飾り付けたらどうでござんしょ」
忍虎 「そりゃ、見世中が華やかになるな。ウチの知名度を角(かど)名賀楼(ながろう)や手鞠屋に見せ付けるにゃ丁度いい」
蓮華 「大見世同士で競っているんでありんすか?」
忍虎 「おうよ、一番の美しい薬玉(くすだま)はどれか、一番大きいのはどれか、沢山貰ったのは誰か
    始まりは手鞠屋だったが今じゃ華屋の方が貰う薬玉(くすだま)は多い。馴染みが多いんだから当たり前だがな」
惣一郎「よ、牡丹。おぉっと、相変わらず賑やかな部屋になってるな」
女将 「あ、まーた惣一郎様。二階へ勝手に上がって貰っちゃ困ります、と何度言えば判りますかね?」
忍虎 「いいじゃねぇか。呉服屋老舗、松川屋がウチを懇意にしてるってのを他の見世に見せ付けるいい機会だ
    こぞって松川屋に張り合おうって大店の旦那方も増えるってなもんよ」
女将 「あんたが! そうやってなぁなぁにしてどうするんだい! 客の勝手放題を許すなんざ聞いた事がない!」
惣一郎「まぁまぁ、落ち着けって」
女将 「あんたのせいだろうが!」
惣一郎「丹精込めて作った薬玉(くすだま)を、本人に直接渡したいだろう?」
椿  「ただでさえ二階中の匂いで頭がくらくらしてるのに、これ以上匂い袋なんて要りんせん!」
惣一郎「そう言うだろうと思って、薬玉(くすだま)ん中にゃ干菓子(ひがし)を沢山詰め込んであるぜ
    行事が終わったら紐を解いて食え」
椿  「うわーーい!! 嬉しい! 惣一郎様、ちょっと好きになりんした」
惣一郎「ちょっとかい!」
蓮華 「でも、こんな綺麗な綾玉(あやだま)を解くのは勿体ない気がしんす」
惣一郎「綺麗だろう? 呉服屋だからな、反物や製糸問屋繋がりは敗けやしねぇぜ」
蓮華 「いいなぁ」
惣一郎「蓮華、お前にはこれをやるよ」
蓮華 「え?! いいんでありんすか?!」
牡丹 「惣一郎様! 敵娼以外に薬玉(くすだま)を贈るなんざ許されると思っておりんすか!」
惣一郎「俺からじゃねぇよ」
牡丹 「は?」
惣一郎「蓮華、お前まだ大野木屋に居た頃に親しくしてた若衆が居なかったか?」
蓮華 「え? わっちが? 懇意に? ・・・? 思い当たりんせん」
惣一郎「そうか、向こうは随分親しげだったけどな」
女将 「じゃあ、その薬玉(くすだま)はその若衆の預かり物って事かね?」
惣一郎「おう、大野木屋の・・・、ちょっと前まで雑用だったが今は喜助をやってる、卯之助って若衆だ」
女将 「まさか蓮華、間夫を作ったりしてないだろうね。新造の身の上で」
蓮華 「そそ! そんな事しんせん! だいたい卯之助・・・? 覚えがありんせん」
惣一郎「卯之助が不憫だな。とにかく、そいつから預かって来た。俺の遣いは高けぇぞって言ったらビビッてやがったがな」
忍虎 「松川屋様に遣いを頼む若衆とは、大野木屋の楼主(ろうしゅ)に一つ言っておかなきゃならんな」
女将 「そうですよ。椿の突出しをめちゃくちゃにしておいて、本来なら見世ごと潰してやりたい所だよ」
惣一郎「まぁ、そう物騒な事言うなって。俺は別に気にしちゃいない」
女将 「あたしはそんなに優しくないんでね!」
椿  「でも、今更なんででありんしょか? あ、見世が変わったから間夫の契りを交わしたい、とか?」
惣一郎「・・・、ま、客から贈られる薬玉(くすだま)よりゃ数段粗末だがな
    お前の無事を願って作ったんだろうよ。有難く貰っとけ」
蓮華 「・・・ぅ」
牡丹 「構いんせんよ、貰っておきなんし」
蓮華 「はい! 有難うございんす!」
惣一郎「礼なら、直接言いに行って来い」
蓮華 「え?」
牡丹 「惣一郎様! わっちはそこまで許しんせん! 間夫の手引きなど!」
惣一郎「いいから、行ってやれ。俺が許す」
女将 「あたしは許さないよ。あんたからもなんか言ってやんな! へらへら笑ってないで!」
忍虎 「え? 俺ぇ? ま、いいじゃねぇか。訳ありなんだろ? 蓮華行ってやんな」
蓮華 「はい! ありがとうございんす。失礼致しんす!」
椿  「惣一郎様」
惣一郎「ん? どうした椿」
椿  「あんまり勝手が過ぎると、惣一郎様の座敷には二度と行きんせん」
惣一郎「おお、珍しく怒ってんのか」
椿  「怒ってはおりんせん。けんど、呆れておりんす。こんな無茶を通すんなら訳を聞かせてくんなんし」
惣一郎「あぁ、それな・・・。卯之助ってのは大野木屋の楼主(ろうしゅ)に貰った名前で本名を太郎と言うらしい
    蓮華の本当の兄貴らしい」
忍虎 「兄貴と同じ見世で働くなんて、そんな偶然があるもんか?」
惣一郎「偶然じゃねぇよ。郷にいる頃から随分大事にしていたらしい
    だから、郷に来た女衒の伝手を辿って数年かけて大野木屋に辿り着いて
    名前を変えてひっそりと見守っていたらしい」
椿  「けんど、見世替えで華屋に来てしまいんした、って事でありんすね?」
惣一郎「華屋の若衆なんざ格式高くて紹介状でもなけりゃ雇い入れなんてしねぇ。せめて薬玉(くすだま)を、ってな」
忍虎 「いーーぃ話じゃねぇか! 泣かせるねぇ」
惣一郎「人情話に弱くてな、ついお節介を焼いちまった。済まねぇ」
忍虎 「構わねぇよ。足抜けするって訳でもあるめぇし、来年があるかどうかも判らねぇこのご時世だ」
惣一郎「卯之助は蓮華に本名を打ち明ける積もりはないらしい
そうなったら元気な顔をひと目拝ませてやりてぇって思っちまったんだ」
女将 「やれ、男ってのは人情だの忠義だの鬱陶しい生きもんだね」
惣一郎「女将、お前ぇさん畳の上じゃ死ねねぇぜ」
女将 「結構な事で。あたしゃ大判小判の上で死ぬって決めてるんでね」
忍虎 「潔いな、おい」
女将 「さて、惣一郎様。用事が済んだら帰って下さい。玄関までお送りしますよ」
惣一郎「ちぃと蓮太郎で遊んで帰るかな?」
椿  「とっとと帰ってくんなまし」
惣一郎「お前ら」
女将 「見世も忙しくなるんでね、はい立った立った。ほい、回って廊下に出る」
惣一郎「そう急かすなよ、鬱陶しい」
女将 「鬱陶しいのは松川屋様です」
惣一郎「この野郎」

 

女将 「さぁて、厄介払いは出来たし、仕事しないとね。忙しい」
忍虎 「お律っちゃん」
女将 「・・・っ、なんだい忍虎。いい加減子供じゃないんだから、ちゃん付けで呼ぶのはやめとくれ」
忍虎 「ほらよ」
女将 「って、薬玉(くすだま)じゃないかい。なんだよ、藪から棒に」
忍虎 「いやほら、もうお互いいい年だろ」
女将 「いい年なのはあんただろ。あたしはまだ28だよ」
忍虎 「薹(とう)が立ってらぁな。もうそろそろ邪気払いもしておかないとな。貰ってやってくれ」
女将 「そんな言われ方したら死んでも貰いたくないよ」
忍虎 「連れ添ってもう十年余り。もうちょっと柔らかくなっても良さげなのになぁ
    ま、まだまだ元気でいて貰わないと困るってこった」
女将 「いいよ、貰ってやるよ。けど、連れ添ったって言ったって体裁上の事さね、そんな気にするもんじゃない」
忍虎 「そうだな。さ、仕事に戻るかぁ」
女将 「・・・、はぁ、全く。いつまででも心配して・・・。迷惑なんだよ、こういうのは。
    どう礼を言っていいか判らないじゃないか」

 

椿  「蓮太郎!」
蓮太郎「椿、そう言えばさっき渡し忘れた物があったんだ」
椿  「見て! 惣一郎様から薬玉(くすだま)貰ったの!」
蓮太郎「・・・、惣一郎様から。・・・、豪華だな。そうか、馴染み客だもんな、当たり前か」
椿  「中にお干菓子がいっぱい詰まってるんだって! 開けるのが楽しみ!」
蓮太郎「・・・、花より、団子?」
椿  「開けたら蓮太郎も一緒に食べよう?」
蓮太郎「惣一郎様からの贈り物なんか食べない」
椿  「えぇーーー!」
蓮太郎「それより、これ」
椿  「ふぇ? これって・・・、うわぁ、すっごくちっちゃい! 薬玉(くすだま)?」
蓮太郎「竹串で作ってみた。花は作り物」
椿  「ちりんちりん」
蓮太郎「椿、きつい匂い苦手だろ? だから匂い袋の代わりに鈴を入れた
    鈴も魔除けになるからね、取り敢えず邪気を寄せ付けない為の役割は果たしてくれると思うよ
    あ、根付紐(ねづけひも)を付けておいたから、懐紙入れとか財布とかに付けられるかなと思って」
椿  「蓮太郎」
蓮太郎「う」
椿  「ありがと、すごく嬉しい」
蓮太郎「馴染み客から贈られる様な豪華な薬玉(くすだま)は手が出ないから、さ。小さいけどお守り」
椿  「他の誰からの薬玉(くすだま)よりずっと嬉しい。ありがとう、蓮太郎」
蓮太郎「さ、夜見世の準備だ」
椿  「うん、またね」

 

菖蒲 「だっ!! もう、足元に薬玉(くすだま)置いたの誰?! 転んじまったじゃないか!」
水仙 「菖蒲も凄い数でありんすな」
菖蒲 「あぁ、水仙姐さん。なんなら持って行って貰っても」
水仙 「嫌味かい!」
菖蒲 「水仙姐さんは幾つ貰ったんでありんすか?」
水仙 「二つ。それもそこらで売ってるような薬玉(くすだま)でありんすよ」
菖蒲 「そんなケチな客、もう見世に上がらせなきゃいいのに」
水仙 「客を選べる立場じゃありんせん。そんな事を言っていたら毎月の払いがまともにできやせんのに」
菖蒲 「でも薬玉(くすだま)を届けてくれたって事は、客が居るんだろう?」
水仙 「そりゃあ、あちきだって紋日(もんび)にお茶挽きなん恥は晒したくありんせん」
菖蒲 「紋日(もんび)は揚げ代も倍になる」
水仙 「揚げ代はわっちらの懐に入る金じゃあありんせんが、紋日(もんび)のおきちゃはこぞって金を積みたがりんすからな」
菖蒲 「どうせやる事なんて変わらないのにね」
水仙 「知ってるかい? 紋日(もんび)は揚げ代が倍になるだけじゃありんせん」
菖蒲 「祝儀も、でありんしょ?」
水仙 「それだけじゃありんせん。惣花(そうばな)、二階花(にかいばな)といって若衆達にも祝儀が渡されんす」
菖蒲 「はぁー、ホントいつも思うよ。金は払って貰わないと困るけど、遊郭に来る男は馬鹿だよ」
水仙 「本当に、1回の登楼でいくら使うんだか」
菖蒲 「ま、客の心配なんかしていられる立場じゃないからね」
水仙 「そ。客の懐より我が身でありんす」
菖蒲 「妹の手前もあるもんね」
水仙 「笑い者にされるんはごめんでありんす。それ故に馴染みという馴染みに全部文を書いて」
菖蒲 「・・・、んっ・・・。なんだ? この香り・・・、くらくら、す、る・・・」
水仙 「菖蒲?! どなんしんした! 菖蒲!」
菖蒲 「・・・ぅ・・・」
水仙 「菖蒲!!」

 

水仙 「牡丹、ちょっといいかい? ん、誰だい? この子」
牡丹 「手毬屋の銀杏花魁でござんす」
水仙 「なんでまた」
銀杏 「淡墨姐さんがいなくなったのでありんす」
水仙 「足抜けでありんすか? いずれにしろ華屋には関係ござんせん。見世に帰りや」
銀杏 「お門違いなのは重々承知しておりんす。けんど淡墨姐さんに限って足抜けなん考えたりしんせん」
水仙 「姐ゆえの妄信も判らん訳じゃあありんせん。けんど、人は魔が差すもの。手毬屋の楼主(ろうしゅ)に相談しや」
銀杏 「楼主(おやかた)は・・・、わっちは」
水仙 「それとも、手毬屋の楼主(ろうしゅ)と淡墨が通じ合っていたんなら相談のしようもありんせんが」
銀杏 「姐さんに限って男と通じ合うなんありんせん!」
水仙 「やれ、困りんしたな。
    どんな状況に陥ろうと有り得る可能性をことごとく己の希望で打ち消すんなら人に相談なんするのはよしなんせ」
銀杏 「けんど・・・」
牡丹 「水仙姐さん、銀杏花魁の申し分が判らん訳じゃありんせん。
    淡墨は毅然としたお人柄。楼主(ろうしゅ)と通じ合うなん考えられんせん」
水仙 「そんなら尚更手毬屋の楼主(ろうしゅ)に相談するべきでありんしょ」
銀杏 「その、わっちは・・・。今の楼主(おやかた)が余り信用できんのでありんす」
水仙 「そんなもんは知らん」
牡丹 「水仙姐さん。これ程に困っておりんすに、そんなきっぱり」
水仙 「そんなら、どうして楼主(ろうしゅ)に相談できんのかしっかり説明をして貰わんとなりんせん」
牡丹 「それは、そうでありんすな」
銀杏 「その、・・・楼主(おやかた)が、頼りないのでありんす」
水仙 「呆れた・・・。楼主(ろうしゅ)は絶対でありんす。それを頼りないとは」
銀杏 「こんな、見世の恥を晒す様なみっともない事を言うんはわっちとて躊躇いんした! けんど」
牡丹 「頼りない、とは? どの様に?」
銀杏 「金の亡者の様な男なんでありんす。若衆達の噂では見世の売り上げを使い込んで賭場に出入りしているとも」
水仙 「・・・は? 使い込みに、賭場?」
牡丹 「手毬屋の楼主(ろうしゅ)は堅実な方だと聞いておりんしたが」
銀杏 「今年の初めに先代楼主(おやかた)が、年のせいもあって肺の病で亡くなりんした。
    ご長男がお継ぎになりんしたが楼主(おやかた)になった途端花魁に手を出したり、賭場に狂ったり、酒に溺れるなど
    放蕩振りが酷く、聞いた話では茶屋との談合(だんこう)で賄賂(まいない)まで受け取っていると」
水仙 「花魁に手を出す楼主(ろうしゅ)など聞いたことありんせん」
牡丹 「談合(だんこう)・・、賄賂(まいない)。そりゃあ困った楼主(ろうしゅ)でござんすな。女将さんは?」
銀杏 「何度か喧嘩しておりんすが、殴る蹴るの始末で」
水仙 「殺してしまえ」
牡丹 「す、水仙姐さん・・・」
水仙 「死んだ方がマシじゃ」
牡丹 「そうは思いんすが。淡墨が居なくなったのは何故でござんしょう。勤めを投げ出すようなおなごではありんせん」
水仙 「・・・、あっ! そうだ!」
牡丹 「水仙姐さん?」
水仙 「牡丹に言いたい事がありんした。菖蒲が、突然気を失って・・・」
牡丹 「菖蒲が? え? 気を」
水仙 「客からの薬玉(くすだま)を見て楽しんでおりんしたが、突然意識を手放したんでありんす。
    息はしておったがなんぞ不安になりんして牡丹の所にきんした」
牡丹 「銀杏花魁、申し訳ありんせんが少し待っとってくんなんし」
銀杏 「あ、あい・・・」

 

水仙 「菖蒲・・・。大丈夫かい? ・・・、ん? 菖蒲?」
牡丹 「・・・? 水仙姐さん、菖蒲はおりんせんが」
水仙 「菖蒲?! 確かにさっき気を失ってここにおりんした!」
牡丹 「気が付いて、手水(ちょうず)でも使いに行ったんでありんしょうか?
水仙 「そんな、・・・?」
牡丹 「そこの若衆、菖蒲を見掛けんせんかったか?」
若衆 「菖蒲花魁を? いえ?」
牡丹 「誰ぞ見掛けたという者はおりんせんか?」
若衆 「聞いてないなー? ん? ていうかいらっしゃらないんですか?」
牡丹 「いないからきいておりんす」
若衆 「大変だ」
牡丹 「大変、て?」
若衆 「さっき蓮太郎さんが血相変えて見世から出て行くのを見掛けたんです」
水仙 「蓮太郎が?」
若衆 「椿花魁が姿を消した、と」
牡丹 「え?」
水仙 「椿が?」
牡丹 「菖蒲に、椿に、淡墨・・・」
水仙 「纏めて足抜けは考えられんせんな。先程の銀杏とやらの話、きちっと聞かねばならん!」

 

椿  「・・つう、あ、たま・・、痛っ・・・、うぇ、気持ち悪い・・・。・・・ん? ここどこ? 真っ暗・・・」
淡墨 「ここがどこかは判らん」
椿  「・・・人が、いるの?」
淡墨 「窓も無い、行燈もないこんな暗闇では何一つ判らぬ」
椿  「あの、あなたは・・、どなたですか?」
淡墨 「この際、互いの名など知らずとも良い。つい先程、そなたの前に一人放り込まれたがまだ気が付かぬ」
椿  「一人。じゃあ、ここには少なくとも三人いるという事ね」
淡墨 「わっちは暗闇に目が慣れてきんしたから少々見えんす。三人は間違いなかろう」
椿  「その、まだ目を覚まさないという人は、大丈夫なんですか?」
淡墨 「判らぬ。じゃが、生きてはおるようじゃ」
椿  「良かった」
蓮華 「・・・ん、んん・・」
椿  「あ、気が付いた」
蓮華 「ん・・・、おれはどねぇしだんだ? まっぐらでなんも見えね」
椿  「・・・? その声、蓮華?」
蓮華 「・・・っ?! つ、椿花魁?!」
淡墨 「・・・椿、花魁。蓮華・・・。おんしら華屋のおなごじゃな?」
椿  「はい、あの。あなたはいつからここに?」
淡墨 「わっちが連れて来られた時はわっち一人でありんした。いつからかなど判らん。
わっちも気を失っていたゆえ、いつから気を失っていたのか、ここに来てどれ程時が経ったのか知る術がないでな」
椿  「蓮華、気を失う前の事とか覚えてる? 確かお兄さんに会いに行ったのよね?」
蓮華 「は? 兄?」
椿  「だって、惣一郎様がそう言って、た」
蓮華 「わっちは大野木屋まで行きんしたが、卯之助なんぞという若衆はおらんかった。
    見知った男衆(おとこし)に聞きんしたが、そもそも卯之助なんぞという若衆を知らんと言っておりんした」
椿  「惣一郎様・・・」
蓮華 「惣一郎様がこんな変な事を企むなんてありんせん!」
椿  「そんな事誰も言ってないでしょ? 人情深くてお人好しな所を利用された間抜けだとは思うけど」
蓮華 「間抜け・・・」
淡墨 「そこの娘。薬玉(くすだま)を貰いんしたか?」
蓮華 「え、あ、あい。貰いんした」
淡墨 「やはり、か。わっちも薬玉(くすだま)の香りを嗅いだ所から覚えがありんせん。なんぞ妙な香を混ぜておったのじゃろう」
椿  「わっちは薬玉(くすだま)はまんだお一人にしか貰っておらん。香りなん嗅いでおりんせん」
淡墨 「そなた、頭が痛いと言っておったな」
椿  「・・・まだ、痛いでありんす」
淡墨 「殴られたのでありんしょうな。目的はおそらくかどわかし」
蓮華 「かどわかしてどなんする積もりでありんしょうか」
淡墨 「そこまでは判らぬ。が、なんぞ悪事を働いておる事だけは確かでありんしょう」
男1 「おい、お前ら。粥だ。食え」
椿  「びびびび、びっくりしたぁ?!」
蓮華 「あ、飯は貰えるんでありんすね。良かった、お腹すいてた」
淡墨 「手を付けてはならん!」
蓮華 「え、なんで?」
男1 「なんだ、お前。腹減ってるだろうが。やせ我慢なんかせずに食やいいだろう」
椿  「普通に考えたらこんな環境で出された飯に手を付けるなんしんせん」
男1 「はっ! 飢え死にする積もりか」
淡墨 「わっちら女郎は飢える事に慣れておりんす。妙な憐憫は無用。敵の施しなぞ受けぬ」
椿  「飯に何が入っているか判りんせん。蓮華手を付けてはならん」
蓮華 「わ・・・、判りんした」
淡墨 「無駄じゃとは思うが、おんしら何を思って女郎をかどわかした」
男1 「さあな。俺は金が貰えるから手え貸しただけだ。頭目が何考えてるかなんざ知らねえよ」
椿  「こんな事が露見したら、あなた達だってただじゃ済まないのよ」
男1 「先の事なんか知るけぇ。俺は役目が終わったらおさらばよ。じゃあな」
男2 「痛ってえな! この女噛み付きやがった!」
男1 「なんだ? お、新しい女か」
菖蒲 「放せ、このクソ野郎! 金も払わないで女郎に触るな!」
男2 「新入りだ! くっそ、痛てぇな」
菖蒲 「こんな乱暴なことしやがって! お前らのケツにたいまつ突っ込んでやる!」
椿  「・・・、菖蒲姐さん・・・」
淡墨 「やれ、下品なおなごが来たようじゃ」
菖蒲 「その声・・・、椿。あんたもさらわれたのかい?」
椿  「多分」
菖蒲 「そんなら大丈夫だね」
椿  「は? なんで、大丈夫?」
菖蒲 「こんなの蓮太郎が黙ってる訳ないだろ? すぐに調べがついて助けて貰えるよ」
椿  「蓮太郎・・・。あんまり危ない事しなきゃいいけど」

 

牡丹 「蓮太郎、椿が居なくなったって」
蓮太郎「牡丹花魁。・・・、はい。
    遣いで茶屋に行く途中に椿のお守りが落ちていたので、一度見世に戻って来たんですがいなくて。
    もう一度探しに行きました」
牡丹 「当てもなく探し回っても見付かりゃあせん」
蓮太郎「椿は良く出掛けますが行く所は大体決まっているし、裏通りやお歯黒溝近辺などは怖がって近付かない。
    周辺で様子を聞いたんですが椿の姿を見た人は居ませんでした」
水仙 「実は、菖蒲も居なくなりんした」
蓮太郎「そうですか」
牡丹 「おんしは、椿以外はどうでもいいのかい」
蓮太郎「いえ。道中で噂を聞いたんです。色々な所で綺麗所の女郎が消えていると」
銀杏 「では、淡墨姐さんもその一件に巻き込まれたとしか!」
蓮太郎「淡墨花魁も、ですか」
銀杏 「なんて事・・・」
蓮太郎「五右衛門会所と番屋に行って少し状況を聞いてきます。牡丹花魁」
牡丹 「なんでありんしょ」
蓮太郎「蓮華さんは?」
牡丹 「そう言えば、まんだ帰って来ておらん」
蓮太郎「途中で大野木屋を通り掛かりましたが、蓮華さんらしき人は見掛けませんでした」
水仙 「蓮華もかい・・・。紋日(もんび)になんて事でありんしょう」
蓮太郎「紋日(もんび)だからでしょう。人がごった返す紋日(もんび)は事件が起こりやすい。
    だから会所も番屋も見回りに出掛ける位注意を払っています」
牡丹 「それなのにこんな大それた事件が起こって」
蓮太郎「銀杏花魁・・・、でしたっけ。
    済みませんが淡墨花魁が居なくなった件については手毬屋の楼主(ろうしゅ)に相談してください」
銀杏 「え? けんど」
牡丹 「蓮太郎。手毬屋の楼主(ろうしゅ)はとんでもない放蕩者だと聞きんした」
蓮太郎「だからです」
銀杏 「その、訳が判りんせん」
蓮太郎「相談して解決を求めるのでなく、相談した際の楼主(ろうしゅ)の様子を教えて下さい」
牡丹 「蓮太郎、手毬屋の楼主(ろうしゅ)を知っておりんすか」
蓮太郎「いいえ、今はまだ。ですが華屋の楼主(おやかた)が良く文句を言っているので可能性は棄てきれません」
牡丹 「楼主(おやかた)が・・・。そうでありんしたか。けんど蓮太郎、随分落ち着いておりんすな」
蓮太郎「何がですか?」
牡丹 「椿がさらわれたんに、もっと取り乱すかと思いんした」
蓮太郎「犯人を挙げた後、殺さない様に抑える事で必死ですから」
牡丹 「落ち着いてなかった・・・」

 

菖蒲 「・・・ん」
蓮華 「・・・隣の部屋も同じ様な感じでありんす。なんぞ女が沢山居るような」
菖蒲 「こっから出せとか、何するんだとか色々喚き声がやかましい」
淡墨 「おんしら・・・。壁に耳を付けて隣の部屋の様子を聞くなん、よう恥ずかしげもなく」
菖蒲 「あたしは集合女郎からの成り上がりでそんな高貴な生まれじゃないんでね」
蓮華 「わっちもでありんす」
菖蒲 「蓮華はあたしと気が合いそうだね。牡丹の奉公やめてあたしの妹になるかい?」
蓮華 「そ、それは、わっちには決められんせん」
菖蒲 「今度、牡丹に話してやるよ」
蓮華 「ぅ? ・・・隣の女達も女郎なんでありんしょうな」
菖蒲 「そうだね、なんでこっちと分けたんだろう」
淡墨 「便宜上の問題であろう? 大見世の女とそれ以外を分けたのでありんしょう」
菖蒲 「なるほどね。椿、あんたさっきから黙って。大丈夫かい?」
椿   「かどわかしの理由を考えておりんした。花魁に新造、小見世中見世の女郎。
    さらう女に一貫性がないのが気になっておりんす。
    いずれの悪事が働かれているかは判りんせんが、犯人の目的が判らん。
    かどわかしで得るものは金なり地位なりありんしょうが、これ程大掛かりとなると前もって相当な準備も必要だった筈。
    おそらく買収された男衆(おとこし)が潜んでいたんでありんしょう」
淡墨 「ふむ、頭の巡りは良さそうでありんすな」
菖蒲 「次代お職らしいからね。あたしは認めないけど」
淡墨 「認めるも認めないも、思慮や行動から決まったようなもんでござんす」
菖蒲 「蓮華、次に誰か敵が入ってきたらとっ捕まえて目的を吐かせるよ」
蓮華 「え、でもどうやって」
菖蒲 「あたしらには身体がある。数々の男が競う身体を逆手に取るんだよ」
淡墨 「わっちは協力しんせん」
椿  「菖蒲姐さん、わっちも協力はできんせん」
菖蒲 「いいよ、蓮華と二人でやる。お高く止まったあんたらになんか任せないよ」
椿  「別に、お高く止まっている訳じゃありんせん。余計な事をして事態がもっと悪くなれば助けを待つことも出来ん」
菖蒲 「ああ、まあそうだね」
蓮華 「本当に、助けが来るんでありんしょうか?」
椿  「そう、願うしか、出来んせん」

 

銀杏 「あの・・・、楼主(おやかた)・・・」
榊  「銀杏かい? そんな不安そうな顔をしてどうしたんだい?」
銀杏 「あの、通りで、その、女郎かどわかしの話を聞いて」
榊  「あぁ、それなら私も聞いているよ」
銀杏 「あの、淡墨姐さんが居なくなりました」
榊  「なんだって?」
銀杏 「戴いた薬玉(くすだま)の中で一番高値(こうじき)な薬玉(くすだま)を戴いた馴染みのおきちゃに文を出すと、
    昼見世前に出掛けたきり戻らんのでありんす」
榊   「文を・・・。どこに出すと言っていたのかね?」
銀杏 「会所でござんす。紋日(もんび)でなければいつ届いてもいいからと、貸本屋なりお針なりに届けて貰うんでありんすが」
榊  「会所かい」
銀杏 「あい」
榊  「それなら問題は無いだろう」
銀杏 「え?」
榊  「ん? 会所は岡っ引きも出入りする。何かあれば助けてくれるだろう」
銀杏 「けんど、こんなに帰りが遅いなん、おかしいと思いんす」
榊  「どの位、出掛けているんだね?」
銀杏 「1刻半になりんす」
榊  「ふむ」
銀杏 「楼主(おやかた)?」
榊  「お前は何も心配しなくてもいい。淡墨の件は私に任せておきなさい」
銀杏 「けんど!」
榊  「夜見世の支度もあるだろう。さっさと湯を使って準備を始めなさい」
銀杏 「お職不在のまま、紋日(もんび)を迎えるんでありんすか?」
榊  「紋日(もんび)だからこそ、お職が居なくても客を迎えるんだ」
銀杏 「楼主(おやかた)は、心配じゃありんせんのか?」
榊  「心配?」
銀杏 「かどわかしの事件があるというに、淡墨姐さんがそのかどわかしにあったとするならどなんしんすか!」
榊  「その時は番屋に任せる! 私達にどうこうできる問題じゃないだろう」
銀杏 「何故、それ程に落ち着いていらしゃんすか」
榊  「銀杏、お前。まさか私を疑っていないだろうね」
銀杏 「それは・・・!」

榊 ぱーん!(手を叩く等で表現して下さい)

銀杏 「・・・あぅっ!」
榊  「たかが女郎が! 己の妓楼(ぎろう)の楼主(おやかた)を疑うとは! けしからん妓(おんな)だ!」
銀杏 「わっちは! もう少し姐さんを探させて戴きんす! 夜見世には帰りんす!」
榊  「勝手にしろ!」

銀杏(M)「きっと何か知っておりんす・・・。牡丹花魁に話さねば!」


忍虎 「おう、蓮太郎、来たな。襖を閉めな」
蓮太郎「はい」
忍虎 「さて、蓮太郎。今回の1件どう読み解く」
蓮太郎「そんな悠長に謎解きしてる場合じゃないと思います」
忍虎 「急いて得る物があるか? これが、今回行方不明になった女郎と花魁の一覧だ」
蓮太郎「・・・、行方不明になった女に関係性はありませんが、一貫性を追求するなら美人と評判の高い女が多いですね」
忍虎 「牡丹がさらわれなかったのが不思議なくらいだ」
蓮太郎「出不精が幸いでしたね。余り外に出ない分隙が少なかったんでしょう」
忍虎 「とは言え、妓楼の中に居た筈の菖蒲が消えた」
蓮太郎「纏めて足抜けは考えられません。かどわかしだと考えています。規模の大きな事件だ、と」
冬馬 「親父、口を割ったぞ」
蓮太郎「冬馬兄さん」
忍虎 「ウチの若衆にも関係者が居ると踏んで冬馬に調べさせてた」
蓮太郎「口を割った、って」
忍虎 「これだけの大事だ。若衆を装って遊廓に侵入した者、元々の若衆で買収された者、会所や番屋の諜報員。
    足掛かりは沢山ある」
蓮太郎「それじゃ、華屋の中にも居た、という事ですか」
冬馬 「菖蒲をさらったのはそいつだ。会所の連中と組んで背戸(せど)を使って女郎の引渡しをしていたらしい」
蓮太郎「冬馬兄さん、どうやって口を割らせたんですか?」
冬馬 「聞くか?」
蓮太郎「いえ、済みません、結構です、悪趣味な」
冬馬 「ケツ巻り上げて竹箒の柄を突っ込んでねじりながら蹴り上げてやった」
蓮太郎「聞かないって言ってるのに」
忍虎 「冬馬。お前ぇ、それでそいつが新しい道に目覚めたらどうするんだよ」
蓮太郎「楼主(おやかた)?!」
冬馬 「そりゃ大門(おおもん)横に売り付けるしかねえんじゃね?」
蓮太郎「はあ~・・・、この人達は、全く」
忍虎 「会所も番屋も今は信用出来ないって事だな」
冬馬 「ちらっと様子をのぞいた感じだと、番屋にも会所にも諜報員が潜んでるってんで
    どっちのせいだってくだらねえ擦り付け合いの最中だ」
忍虎 「大事な時にゃいつも役立たずだよ、あそこら辺は」
冬馬 「そんな状態だから何を聞いても無駄だ」
忍虎 「ま、ここはこっちでケリを着けるしかあるめえ。そのケツ掘った奴だがよ」
冬馬 「俺が掘ったんじゃねえよ、掘ったのは箒だ。誤解するような言い方すんな」
蓮太郎「どうでもいい気がする」
忍虎 「他に何か言ってたか」
冬馬 「てめえはこれ以上何も知らねぇ、金を貰っただけだとか抜かしやがるんで誰から金を受け取ったか聞いた」
忍虎 「誰からだ」
冬馬 「手毬屋の番頭だ」
蓮太郎「手毬屋?!」
忍虎 「番頭も組んでやがったか」
蓮太郎「も? じゃ、楼主(おやかた)は手毬屋の楼主(ろうしゅ)が怪しいと思っているんですか?」
忍虎 「死んだ楼主(ろうしゅ)がウチは愚兄(ぐけい)賢弟(けんてい)だと嘆いて、何かしでかすかもしれんと俺に釘刺して逝きやがった」
蓮太郎「最初から弟の方に継がせれば良かったのでは?」
忍虎 「弟はまだ今年15だ。ギリギリまで自分で仕切って後を継がせる積もりが予想より早くお迎えが来ちまったってだけだ」
蓮太郎「前の楼主(ろうしゅ)が不憫、ですね」
忍虎 「とにかく、遊郭から女郎をかどわかすなんざ見逃す訳にはいかねえ。一つの町から金を盗んだ罪は重いぞ」
蓮太郎「金・・・、て。盗まれたのは女であって金じゃありません」
忍虎 「端から見りゃ女郎は金のなる木だ。冬馬も蓮太郎も、お前らの惚れた腫れたなんざ連中にゃ関係ねぇ。
    まずは足取りを掴んで女を取り返す。手毬屋の楼主(ろうしゅ)の制裁はその後だ。いいな」
蓮太郎「・・・、はい」
冬馬 「目的はなんだ? こんな大勢かどわかして別の所に売り飛ばすってったって手間も時間も掛かるだろう」
蓮太郎「足も着きます」
忍虎 「ぼんくらの考えるこた判るかボケ」
冬馬 「あ? ボケっつったか? クソ親父」
忍虎 「んーじゃあ、お前えは考えりゃ判るんかい、流石ぼんくら同士気が合うなあ? ああん」
蓮太郎「冬馬兄さん! 楼主(おやかた)も!」
忍虎 「兎にも角にも! 女達の救出が先だ。
遠くに連れて行かれたり、焼きが回って殺されたりしたんじゃ堪ったもんじゃねえ」
冬馬 「救出って、どこに連れて行かれたか皆目見当も付かねえよ」
忍虎 「これだけ沢山の女を集めるんだ、相応な場所がないと籠めて置く事は出来ん。
    菖蒲がさらわれてから二刻。女を抱えて逃げるのも限度があるだろう」
蓮太郎「遊廓近辺の宿や茶屋を当たってみます」

 

女将 「ああ、お待たせしました。手毬屋の榊様。
    楼主(ろうしゅ)を襲名された折にはロクにご挨拶にもお伺い出来ませんで申し訳ありませんでした」
榊   「こんにちは。見世回りの忙しい時間に申し訳ありません」
女将 「いえいえ、大丈夫ですよ。ひと段落着いて茶でも飲もうかと思っておりましたので。粗茶ですが、どうぞ」
榊  「折り入って女将さんに相談をさせて頂きたい旨がありましてね」
女将 「私で大丈夫ですかね? 旦那を呼びたい所ですが、若衆と何やら打ち合わせしておりまして外せないらしいんですよ」
榊  「いや、女将さんに相談させていただきたいんですよ」
女将 「それなら結構ですが。なんでございましょう?」
榊  「ああ、私とした事が、お手土産が先ですね。どうぞ、こちらをお納め下さい」
女将 「・・・、百両」
榊  「手前、若輩者ゆえにこのお時間を作って頂く相場を知りませんで。ただ、こういう物がお好きだとお伺いしまして」
女将 「無論、大好きですよ。酒のつまみには絶品でございましょう?」
榊  「それは良かった」
女将 「ああ、これは気が付きませんで。襖を閉めましょうかね? お困りごとなら他に聞かれたくはないでしょう」
榊  「お気遣いありがとうございます」
女将 「それで? お話とは」
榊  「ウチの愚妻と違って随分と見世の切り盛りが上手いと聞きましてね」
女将 「おやまあ、連れ添った方をその様に仰るもんじゃございませんよ」
榊  「好きあって挙げた祝言ではないのでね。たまたま年の頃が同じだという小見世の娘。才が無くて苦労しております」
女将 「まあ、見た感じ凡庸で飲み込みが悪そうでしたが、
    そんなら見世の手伝いは先代の女将さんに任せればよろしいでしょうに」
榊  「母は、私を余り好いてはおりませんでね。来年か再来年、弟に楼主(ろうしゅ)の座を任せると言っているんですよ。
    私はその間の中継ぎに過ぎない、とはっきり言われましてね」
女将 「そんな不安を抱えておいででしたか。けど、私にどうこうできる問題ではありませんよ? 
    あくまで総名主(そうなぬし)はウチの旦那なんでね」
榊  「随分と他人行儀だと、聞きましたが」
女将 「祝言を挙げる事情なぞ、どこも似ておりますよ。私も便宜上の問題でしてね」
榊  「あなたの様にお美しい方が勿体無い話ですね」
女将 「嫌ですよ、三十路手前の女をからかうもんじゃありません」
榊  「少々、お耳を拝借致します」 
女将 「なんでございましょう」
榊  「あなた程の采配をお持ちの方が、
どれだけ懸命に働いても手柄は全部総名主(そうなぬし)の楼主(ろうしゅ)に有りとは面白くないのでは?」
女将 「・・・、そりゃあねぇ。けど手柄なんざ殿方にあるもんだと諦めてますよ」
榊  「諦める。それはまた謙虚ですね」
女将 「あたしが貰えるんならそんなに有難いこたありませんけどねぇ」
榊  「あるんですよ」
女将 「例えば?」
榊  「舟橋向こうに廃れた岡場所がありましてね。そこを立て直そうと考えているんですよ」
女将 「舟橋向こう・・・。幕府非公認ですね?」
榊  「私もいつお役ご免になるか判らぬ身の上、今後の事を考えるのは当然です」
女将 「なるほど? 非公認なら売り上げは全部懐に入るという算段ですねぇ? けど、たかが岡場所でしょう?」
榊  「要は女の良さと集客具合でしょう」
女将 「妓楼(ぎろう)の様に格が高けりゃ集客が望めない、そんなら男達の通い易い岡場所で稼いで、
    座敷の経費と女郎の祝儀も全部こちらで戴くという算段ですね」
榊  「効率がいいと思いませんか」
女将 「更には幕府に税を納める必要が無い、女郎の値段は青天井。悪くない話ですね」
榊  「機転の利く女性です。ウチのはそこまで考えが至りませんで喧嘩ばかりですよ」
女将 「いいでしょう。その話、あたしも便乗させて頂きましょう」
榊  「決断も早い。素晴らしいですね。付きましてはこの後、打ち合わせなんぞを考えておりましてね。
    名目は茶屋との親睦会ですが席を設けてあります。お越し戴く事は可能ですかね」
女将 「無論ですよ。そんな美味しい話、見逃す訳無いじゃないですか。ウチの旦那には適当に誤魔化して出掛けます」
榊  「それでは、後程。また会いましょう」
女将 「ええ、更にいい話がある事を期待してますよ」
榊  「失礼します」

 

冬馬 「蓮太郎、見ろ」
蓮太郎「こんな裏通りの廃れた長屋に遊廓で見た事のある男衆(おとこし)がごろごろしてますね」
冬馬 「全く、頭巾被って身元割れを防ぐ事くらい考えねぇのかって」
蓮太郎「荒事に慣れていないんでしょう」
冬馬 「のらりくらり平々凡々と遊廓の仕事をこなしてるだけのぬけさく揃いだ」
蓮太郎「周囲の聞き込みですが、この長屋の大家は最近から随分金廻りが良くなったそうです」
冬馬 「ほぉ?」
蓮太郎「元々、住人も少ないか居ても滞納者だらけで儲けも無く、
    他に持っている長屋も無い為金繰りが苦しかったそうですが、
    この所着物を新調したり、女を連れ込んだり、酒を飲んだりと活発になった、との事です」
冬馬 「どうせ一度か二度のあぶく銭だろうが。そんな贅沢覚えたら後が苦しいだろうに・・・。とろ臭ぇ」
蓮太郎「心配して差し上げる恩も義理もありませんし、今回の件に加担しているなら手が後ろに回るだけですよ」
冬馬 「そりゃそうだ。女郎大量隠匿だかなんだか。首が繋がりや御の字だろう」
蓮太郎「死罪確定ですよ。奉行所(ぶぎょうしょ)が許す訳ない」
冬馬 「微々たる金で命掛けやがって。馬鹿め」
蓮太郎「で、どうしますか? 楼主(おやかた)に報告しますか」
冬馬 「親父に報告するまでも無い。俺達で方を着けるぞ」
蓮太郎「二人で方を付けるには人手が足りない気がする」
冬馬 「なんだ? 蓮太郎。お前ビビってんのか?」
蓮太郎「いえ。奴らを一網打尽にする分には問題ないと思います。
ただ、連れ出された女郎がこれを機に隙を見て足抜けを考えた場合、止められるかどうか気になっています」
冬馬 「さらわれた状況下で足抜け考えられる豪傑な女なら、今後遊廓に引き戻しても足抜けを考えるだろうな」
蓮太郎「あぁ、まぁ、確かに」
冬馬 「とにかく、さっさと救出しないと場所を移されたら厄介だ」
蓮太郎「行きましょう」
冬馬 「顔を隠せ」
蓮太郎「はい」

 

淡墨 「全く、余計な事をして状況が酷くなるやもしれん、と椿花魁が示唆したんに言う事を聞かんおなご達じゃ」
菖蒲 「結局悪くならなかったんだから結果良好。蓮華、あんた本当にあたしと気が合うね」
蓮華 「色仕掛けは菖蒲姐さんの方が良く効いておりんした」
椿  「結果良好に見えるんは今だけかもしれんせんぇ? この事を他の人達が知れば何されるか判りんせん」
菖蒲 「椿、あんたは深く考え過ぎ」
淡墨 「助けが来なんだなら、覚悟を決めねばなりんせんな」
菖蒲 「覚悟、てなんの」
椿  「自決でありんす」
菖蒲 「あぁ・・・、まぁ、そうなるよね」
蓮華 「え? 自決?! え、なんで?!」
菖蒲 「蓮華、あんた岡場所がどんな所か知っているかい?」
蓮華 「わっちは、そんな、外の事は余り・・・、知りんせん」
椿  「幕府公認ではない女遊びをする場所でありんす」
淡墨 「先程のおんしらが色仕掛けで口を割らせた男が、
    舟橋向こうの岡場所近辺にある廃れた岡場所を復興させる為に女を集めていると言っておりんした」
椿  「つまり、わっちら花魁や女郎を集めているのは、そこで働かせる為の準備」
菖蒲 「どの道お開帳は変わらないけどね」
蓮華 「それが、なんで自決なんて」
淡墨 「遊廓の妓楼(ぎろう)と違って客層が貧相なのじゃ」
蓮華 「それは・・・、そう、なるでありんしょうな」
菖蒲 「客を選ばない。つまり遊廓の局見世に出入りする様な客も来る」
蓮華 「あ、あの・・・。ごめんなんし。意味が、判りんせん」
椿  「痩毒(そうどく)を持った客も来るという事でありんす」
蓮華 「え?! 嫌!」
菖蒲 「あたしだってごめんだよ、そんなの」
蓮華 「じゃあ、どうすれば・・・、自決・・・、って」
椿  「最悪、助けが及ばなかった場合、自決もやむを得ん」
蓮華 「そんな・・・」
菖蒲 「痩毒(そうどく)はゆっくりと女郎を殺す逃れようのない病だ。罹れば治ることなんてない。
    体中に膿が広がり頭をやられ、顔も頭もどこもかしこも醜く崩れて最後は、鼻が落ち死ぬ」
蓮華 「嫌・・・、嫌・・・! いやああ」
菖蒲 「はは・・・、あたしは、外に出るならこんな形でなく惚れた男と外に出たかったよ」
淡墨 「隣の女郎達がどうするかは判らんが、
    わっちもそんな末路を辿るくらいならここで果てるんもまた己の道じゃと思うておりんす」
椿  「もう少し、わっちは待ちんす」
淡墨 「意外と気概が無いのじゃな」
椿  「きっと、助けに来てくれる。大丈夫、こんな事許すはずが無いもの」
淡墨 「夢や希望など得てして外れる物じゃ。今すぐとは言わぬが、皆覚悟するのじゃな」
男1 「おいお前ら! 場所を移すぜ」
男2 「待てよ、その前に頭目は味見くらいしても良いって言ってたぜ」
男1 「あーあ、そういやそう言ってたなぁ。お前どいつにする?」
男2 「俺が先に選んで良いのか?」
男1 「どの道、犯りたい女は全部犯るに決まってんだろう」
男2 「そりゃそうだ。さあーて、どれがいいかな」
淡墨 「おんしらに穢される位ならわっちらは自決の覚悟がありんす」
男1 「ひひひ、そりゃあ大した覚悟だぜ」
男2 「死なせるのはまずいんじゃねえのか」
男1 「アホか。自決なんざそんな簡単なもんじゃねえ。第一刃物も何もない暗闇でどう自決するって?」
男2 「そぉかぁ、それもそうだな」
男1 「まあ、あの気の強そうな女はやめておいた方がいいな」
男2 「へ・・・、へへ。じゃあ俺はこの新造を貰うとするか。新造って言ったら生娘だろう?」
蓮華 「嫌!」
男1 「んじゃあ、俺はこっちの椿を貰うぜ」
椿  「・・・、えっと・・・」
男1 「何考えてやがるんでえ、へへ、まあいいや。大人しくしろよ」
椿  「金的を蹴り上げた上っ、で!」
男1 「はうっ!」
椿  「平手打ちをお見舞いして!」
男1 「ふ・・・、あっ? あ、っ、 痛っ、ひ・・・」
椿  「大きな悲鳴を上げる。いやああああああああああああ!! 誰か助けて!!」
男2 「叫んだって誰も来やしねえよ!」
椿  「禿の時から無粋者に犯され続けそうになってたあたしを舐めないでよ、ねっ!」
男2 「うぎゃ!」
菖蒲 「椿・・・、あんた、強っ」
男1 「へっ・・・。ここは公道を離れた長屋だ、誰が助けに来てくれるって?」
蓮太郎「椿!」
椿  「・・え? そ、その声・・・。蓮太郎?!」
蓮太郎「椿に・・・、何を、した」
男1 「ぐあっ! うがっ! げえ! ぎゃあ、ふがっ、やめ・・・、があっ!」
椿  「あの、蓮太郎? もう・・・、その辺で・・・。あたし、大丈夫、だから・・・、ね?」
冬馬 「蓮太郎! お前は! 椿の声が聞こえた途端に突っ走りやがってアホが!」
淡墨 「本当に助けが来るとは・・・、驚きでありんす」
菖蒲 「まぁ、蓮太郎だからね。必死だったろうし」
蓮華 「でも、よかった・・・」
椿  「蓮太郎! 蓮太郎・・・、う・・・、蓮太郎・・・」
蓮太郎「つ、椿、そんなぎゅうぎゅうに抱き付いたら、動けな・・・」
冬馬 「蓮太郎! お前ぇ、抱き付かれたくらいでデレデレしてんじゃねえ!」
蓮太郎「す、済みませ」
冬馬 「お仲間のご到着だ」
蓮太郎「椿、離れて」
椿  「え・・・、あ・・・」
冬馬 「ざっと見て30人か」
蓮太郎「32人です」
冬馬 「細けぇこたいいんだよ。お前が25人、俺が7人やる」
蓮太郎「はい。・・・? 滅茶苦茶割に合いませんけど?」
冬馬 「こういう時にしか椿にいい所見せられねえぜ」
蓮太郎「普通にやれる限りでいいんじゃないですか?」
冬馬 「まあいいや、ここん所暴れ足りなかったからな。思う存分やらせてもらう」
蓮太郎「同じく、です」
冬馬 「殺すなよ。こいつらは全員生き証人だ」
蓮太郎「難しい事を言う」
椿  「れんたろ・・・、え? なん、で? そんな岡っ引きみたいな・・・、は?」
菖蒲 「喧嘩慣れしてるねえ」
蓮華 「お二人ともかっこいいでありんす」
淡墨 「やれ、男は乱暴で好かぬ」
椿  「あ、あの!! 十手なんて、誰でも持てるものなの?」
菖蒲 「さあ? どうでもいいよ。助かったんだから」

 

女将 「手毬屋、榊様。お邪魔させて頂きますよ」
榊  「ああ、ようやくおいでになりましたか。お待ち申し上げておりましたよ」
女将 「遅れて済まないねぇ。色々と準備が必要だったので」
榊  「準備?」
女将 「ご挨拶のお品を戴いたんだから相応のお返しをしなくちゃいけないでしょう」
榊  「お返しなど、そんな大した物じゃありませんよ」
忍虎 「よぉ、手毬屋の。茶屋の旦那方も。大した面子を揃えているじゃねぇか」
榊  「・・・っ?!」
忍虎 「どうした、手鞠屋の。顔色が悪いぜ?」
榊  「華屋の! 楼主(ろうしゅ)!」
忍虎 「ウチの内儀(かみ)さんが世話になったっつうからよ。俺からも礼をしなきゃならんようだなと思ってよ」
榊  「女将! 何の積もりだ!」
女将 「何の積もり? さて、何に対して聞いているのやら皆目見当も付きませんねぇ」
榊  「まさか、全部、話したんじゃないだろうな!」
忍虎 「話したに決まってるだろ。人の内儀(かみ)さんまでかどわかそうとするんじゃねぇよ。
    他でどういわれているか知らねえが、ウチは相違相愛、おしどり夫婦よ」
女将 「あんたの妄想はそこまでにしといてくれ」
榊  「か、会はお開きだ! 逃げるぞ!」
忍虎 「もう逃げられないっつの。会所も番屋も報告済みだ。奉行所(ぶぎょうしょ)も動いてる。ここからは蟻の子一匹逃がさねえぞ」
女将 「榊さん、あんたねぇ。自分の幸先が不安で一応将来を構築したんだろうけど、迂闊な犯罪に手を染めちゃいけない」
榊  「お前ら・・・。お前らに! 何が判る!」
忍虎 「ぼんくらの考えるこた判らねぇよ」
女将 「馬鹿が馬鹿なりに一生懸命出した答えはやっぱり馬鹿だったって事さね」
榊  「人を馬鹿にしやがって・・・!」
女将 「百歩譲って阿呆にしてあげようか?」
榊  「俺は・・・、弟が技楼を継いだら俺は用無しなんだぞ! これからどうやって生きていけばいい!」
女将 「もっとちゃんとした考え方でウチの旦那に相談していれば、
    総名主(そうなぬし)でもあるんだから小見世の一つや二つくらい譲ってくれただろうよ」
忍虎 「一攫千金を夢見て、金の価値も判らず、女郎をかどわかして幕府非公認の岡場所を作ろうなんざ、
    性根の腐った考え方が通る世の中じゃねぇ」
榊  「小見世の、一つや二つ、だって? そんなちんけな稼ぎでどうにかなると思っているのか」
忍虎 「いいか、ぼんくら。良く聞け。非公認の岡場所なんざ幕府に嗅ぎ付けられたらすぐに仕舞だ。
    それで無くとも江戸じゃ老中が財政難を危惧して岡場所に目ぇ付けてっからな」
榊  「は? 幕府が?」
女将 「これだから頭の悪い男は嫌いだよ。幕府の財政事情も知らない」
忍虎 「てめぇの事で手一杯なんだろう」
女将 「まぁ、いいさ。いいかい、華屋の女はみんなあたしの娘同様なんだ。
    岡場所で働かせるなんて、くそったれの話をまともに聞くと思ったのかい」
榊   「ば・・・、幕府の狗が!」
女将 「お歯黒溝のドブ鼠よりやマシだよ。あたしとまともに話をしたきゃ百両ぽっちじゃなくて、千両箱を積んできな!」
榊  「は、はは、ふはははは! どうせ連れ出した女の居場所なんざ判りゃしねぇ! 探し出せないまま死なせちまえよ!」
忍虎 「ついさっきウチの若衆が全員連れ帰ってきたさ」
榊  「なん、だって?」
忍虎 「椿をさらったのが運の尽きだ。あれをかどわかしてウチの若衆が黙ってると思っているのかい?」
榊  「あんな辺鄙な場所を、見付けた、だと?」
忍虎 「お前さんトコと違って優秀なんだよ。ウチの若衆は」
女将 「特に椿はウチの宝さ。岡場所なんてとんでもない。岡場所で薄汚い稼ぎをするんならてめぇのケツで稼ぎな!」
榊  「そんな・・・、じゃあ、あそこの連中も・・・」
忍虎 「証拠も証言も揃ってるって事よ」
榊  「俺は・・・、俺は・・・」
忍虎 「さぁ、番所から同心のご到着だ。観念しろ」

 

銀杏 「淡墨姐さん!」
淡墨 「心配掛けて済まんかった。銀杏、夜見世の支度をしんす」
水仙 「菖蒲! 良かった! 無事で、ほんに良かった」
菖蒲 「水仙姐さん、牡丹も、心配掛けたね。足抜け扱いされなくて良かったよ」
牡丹 「蓮華!! 何か酷い事はされんかったか? 大丈夫でありんすか?」
蓮華 「牡丹姐さん、ご心配をお掛けしんした。ただいまでありんす」
牡丹 「ん・・・、椿は?」
菖蒲 「野暮な事聞くんじゃないよ。助けに来てくれたのは蓮太郎ともう一人の若衆さ」
牡丹 「台所裏でありんすか。紋日(もんび)の準備もありんすに・・・、全く」