花魁道中いろは唄~外伝~ 散りゆく淡雪が如し ♂×3 ♀×4 / 白鷹

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所要時間:60分程度
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2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

 

蓮華  (れんげ)  14歳 ♀

    中見世、大野木屋、紅花魁の新造で、元は『琥珀』と言う名前。
    牡丹に引き取られ、彼女の奉公するようになる。
    本来は17歳で迎えるお開帳だが、紅の策略の為に既にお開帳を済ませてしまっている。


 

牡丹  (ぼたん)  22歳 ♀

    遊郭の見世の中でも屈指の人気を誇る大見世、華屋のお職
    その美貌と教養の高さから若くしてお職の座に就いた実力者であり魅力的
    美しい容貌とは正反対の竹を割ったような性格で、他の見世からの女郎からも羨望のまなざしを向けられる


 

鈴蘭  (すずらん)  14歳 ♀

 

    大見世、華屋で修業中の振袖新造。
    蓮華が来る前は椿の後がまとして牡丹に奉公する予定だった。
    蓮華が華屋に来たことでその道が閉ざされてしまったため、蓮華を好ましく思ってないが心根は優しい


 

余一  (よいち)  16歳 ♂

    扇子屋で働く少年。今まで遊郭に来た事がなく右も左も判らず途方に暮れていたところで蓮華と出会う
    心優しく生真面目で一目会った時から優しく素朴な蓮華に想いを寄せるようになる


 

蓮太郎 (れんたろう)  16歳 ♂

    大見世、華屋の若衆。生真面目で優しく人当たりもよい少年。
    生まれも育ちも遊郭であり母親の美しさを生き写しに持ってきた美少年の為、時々陰間と間違えられる。
    料理番の為餌付けが得意。


惣一郎 (そういちろう)  24歳 ♂

    老舗の呉服屋で目利きとして働く青年。
    非常に遊び人で遊郭内でも様々な見世をうまく立ち回り馴染みになっている。美形で遊女からの人気も高い。
    蓮華が華屋に来る以前は、蓮華の元姐女郎、紅の間夫だった。現在は牡丹の妹女郎、椿の客。


女将  (おかみ)  28歳 ♀ (セリフ数極少)

    華屋の楼主兼女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く
    自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為
    折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている


 

――――――――

役表

蓮華  (♀)・・・
牡丹  (♀)・・・
鈴蘭 + 女郎2(♀)・・・
余一  (♂)・・・
蓮太郎 + 岡引き1(♂)・・・
惣一郎 + 岡引き2(♂)・・・
女将 + 女郎1 +女郎3(♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

鈴蘭  「へったクソな三味線」

蓮華  「す、鈴蘭・・・」

鈴蘭  「調子も音も外れっぱなしでありんすなぁ・・・、歌も下手くそ。聞いてて苛々しんす」

蓮華  「あ・・・」

鈴蘭  「三味だけならいざ知らず、琴も踊りもさっぱり」

蓮華  「は、初見世までには、なんとかしんす・・・」

鈴蘭  「おんし、出て行きなんし。華屋から」

蓮華  「え、で、出て行くって・・・」

鈴蘭  「牡丹姐さんが優しいからって調子に乗ってるんでありんしょ?」

蓮華  「調子にのってなんか・・・っ!」

鈴蘭  「元は中見世の出で、その醜女しこめっぷり、華屋には似合いんせん」

蓮華  「・・・っ」

鈴蘭  「椿花魁に継いでお職になれるとでも思っておりんすか?」

蓮華  「つ、椿花魁になん! そんな事思っとりんせん!」

鈴蘭  「はっ! 当たり前でありんしょ? 真に受けて返事するなん、馬鹿にも程がありんす」
     ましてやおんし、初見世の仕掛け友禅染がいいって、ねだったそうでありんすな」

蓮華  「ねだった訳じゃ・・・っ。
     あれは、椿花魁の仕掛けを見てちょっとうらやましかったから・・・、そのっ」

鈴蘭  「そうしたら、牡丹姐さんが準備してくんなんした。
     厄介者のあんたを引き取ったせいで、牡丹姐さんの年季明けが半年伸びたんでありんすよ?」

蓮華  「年季明けが? そ、そんな・・・」

鈴蘭  「別の見世から女を買い取るなん相応の金が要りんす。そんな事も知りんせんのか?」

蓮華  「そ、それは・・・、知らんかった」

鈴蘭  「それに、おんしは生娘でもありんせん」

蓮華  「それは・・・っ、牡丹姐さんも知っているから!」

鈴蘭  「華屋の初見世に生娘でない女は、
     飛び抜けて優れた点がないと示しがつかないってお母さんが言ってたんでありんすよ!
     芸事が素晴らしいか、見目がとんでもなくいいか!
     蓮華、おんしに一体何があるっていうんでありんすか?」

蓮華  「あ・・・、ちきは、前の姐さんには・・・、何も教えて貰えんかったから」

鈴蘭  「そんなもん言い訳になんなりんせん!」

蓮華  「それでも、あちきは牡丹姐さんに感謝しておりんす!」

鈴蘭  「感謝を仇で返してるだけでありんしょ?」

蓮華  「そんな事!」

鈴蘭  「おんしの初見世のおきちゃを、牡丹姐さんが必死で探してるって」

蓮華  「あ、あちきは、そんないいおきちゃをつけて貰おうなん考えとらん!」

鈴蘭  「はぁ? なに寝ぼけた事を言ってるんでありんすか?
     華屋のおきちゃは皆身分も地位もしっかりしているお方ばかり!
     初見世を受けてくれるおきちゃがおらんのでありんす!」

蓮華  「・・・っ! そんな・・・」

鈴蘭  「おんし自身の花代は格安でもさぁ、布団代だって祝儀だってバカになりんせん。
     それを判った上で突出しを受けてくれるおきちゃなんおりんせん!」

蓮華  「それでも!、あちきは牡丹姐さんに恩を返す積もりでありんす!」

鈴蘭  「牡丹姐さんはさ、華屋の新造、禿みんなの憧れなんでありんす!
     どれだけの子が牡丹姐さんの元で奉公したいと願っているのか、おんし知らんでありんしょ?!」

蓮華  「知っておりんす!
     取り立てて芸のないあちきが牡丹姐さんの奉公する事がおこがましい事も知っておりんす!」

鈴蘭  「だったら! もっと分を弁えなんし!」

蓮華  「分を・・・、って」

鈴蘭  「新造出しして貰って道中に着いて行って!
     おんしが後ろに控えてるってだけで牡丹姐さんの格が下りんす!」

蓮華  「そんなこと・・・っ、す、鈴蘭は、なんでそんなに・・・、あちきの事を酷く言うのでありんすか?」

鈴蘭  「なんで? あはははは」

蓮華  「す、鈴蘭?」

鈴蘭  「おんしがいなかったら! あちきが牡丹姐さんの新造だったんだ!」

蓮華  「え・・・」

鈴蘭  「牡丹姐さんだって妹の面倒を見るには限りがありんす!
     おんしが来る前まであたしは牡丹姐さんの新造の予定でありんした!」

蓮華  「ご・・・、ごめん・・・、なさい」

鈴蘭  「おんしなん!! 死んじまえばいいんだ!!」

 

 


 

蓮華  「う・・・、くっ・・・、ひ・・・っく・・・。え、ぐ」

蓮太郎 「琥珀・・・、じゃなくて、蓮華さん。どうしたんですか? こんな、台所の隅っこで」

蓮華  「れ・・・、蓮太郎、さん」

蓮太郎 「目が張れて真っ赤だ。そんなんじゃ客の前に出られないよ? 手拭いを濡らしてくるから待ってて?」

蓮華  「あの、放っておいて貰っても平気!」

蓮太郎 「平気なはずないだろ? はい、目を冷やして」

蓮華  「ありがとう・・・」

蓮太郎 「新造仲間に酷い事言われたんだろう?」

蓮華  「え?!」

蓮太郎 「椿もよく、ここで泣いてた」

蓮華  「椿・・・、花魁が?」

蓮太郎 「牡丹花魁は廓中の憧れの花魁だからね。妹分になる子はみんな目の敵にされる」

蓮華  「そう、なんだ」

蓮太郎 「っていっても、俺も椿花魁のことしか知らないけどさ」

蓮華  「ホントね、あちきは不器用で、何やってもとろくさくて、おまけにそんな別嬪でもないし、だからね
     椿花魁が羨ましいの」

蓮太郎 「椿と蓮華さんは違うよ。」

蓮華  「椿花魁と比べるのなんておこがましい・・・、よね」

蓮太郎 「そうじゃなくて。きっと蓮華さんには蓮華さんのいい所があると思う」

蓮華  「例えば?」

蓮太郎 「判らない」

蓮華  「わか・・・っ」

蓮太郎 「ん、ごめん。根拠もなくそんな事をいうものじゃないね」

蓮華  「判ってるの。牡丹姐さんも一生懸命あちきのいい所を探してくれてる
     だからその期待に応えたいのに、あちきにはなぁんにもない」

蓮太郎 「焦る事はないんじゃないかな?」

蓮華  「え?」

蓮太郎 「今は牡丹花魁について学ぶ時期だろう?
     それなら、しっかり学ぶ事に集中すればいいんじゃないかと思うんだ」

蓮華  「あちきはもう新造出しも終わって、おきちゃの前に出ているのでありんす。
     学ぶ時間なん、もう終わっておりんす」

蓮太郎 「蓮華さん」

蓮華  「ぅ・・・?」

蓮太郎 「はい、きなこ餅」

蓮華  「え?」

蓮太郎 「蓮華さんは、少し考えすぎなんだ」

蓮華  「考え過ぎ?」

蓮太郎 「そう、考え過ぎ。そういう時はね甘いものを食べて、ゆっくり休むんだ」

蓮華  「や、休んでなんおれん!
     牡丹姐さんが間無しにおきちゃを取っているんに、妹のあちきが休んどったらバチが当たる!」

蓮太郎 「ほら、そうやって自分を追い込んでる」

蓮華  「でも、紅姐さんの時は」

蓮太郎 「今の姐さんは牡丹花魁だろう?」

蓮華  「けんど、だからって!」

蓮太郎 「初見世が終わったら嫌でも遣り手が客を回す。
     新造の間だけだよ、ゆっくりできるのなんか。 それに・・・」

蓮華  「それに?」

蓮太郎 「牡丹花魁は蓮華さんをそんな風に追い込む為に、妹にしたのかな?」

蓮華  「・・・、違うと思いんす。ただ、憐れだと思って・・・」

蓮太郎 「それだけ?」

蓮華  「え・・・、と」

蓮太郎 「同情だけで身を引き受けるのは、ちょっと考えにくいけどな」

蓮華  「あちきには、わからん・・・」

蓮太郎 「とにかく食べなよ、きなこ餅」

蓮華  「う、うん・・・。はむ、まぐまぐ、う・・・っくん・・・
     お・・・、おいしい・・・」

蓮太郎 「だろ?」

蓮華  「あむ、まぐ、ふふ・・・、ホントに、おいしい」

蓮太郎 「くす・・・、笑えるじゃん」

蓮華  「え?」

蓮太郎 「いつも困ったように眉毛を八の字にしてるから、笑えないのかと思った」

蓮華  「そ、そういう訳じゃ」

蓮太郎 「蓮華さんの笑顔、すごく可愛いよ」

蓮華  「・・・っ、えと・・・、あの」

蓮太郎 「牡丹花魁は、そういう笑顔を見たいんじゃないのかな?」

蓮華  「そ・・・、なのかな?」

蓮太郎 「多分ね。落ち着いたら、牡丹花魁の所にもどりな?」

蓮華  「う、うん。あの、蓮太郎さん」

蓮太郎 「ん?」

蓮華  「ありがとう」

蓮太郎 「くす、どういたしまして」

 

蓮華  「あ・・・、椿花魁・・・。蓮太郎さんの所に行くんだ。
     そっか、甘いお菓子を用意してあるのって、椿花魁の為なんだね。
     蓮太郎さんだって、椿花魁の前で素敵な笑顔するのに。
     ・・・、蓮太郎さんも、椿花魁が好き、だったっけ・・・」

 

 

 

牡丹  「ああ、蓮華。どこに行っておりんしたか?」

蓮華  「あの、台所に・・・」

牡丹  「蓮太郎に甘いお菓子でも貰ってたんでありんすか?」

蓮華  「なんでっ!」

牡丹  「ふふ、蓮太郎はそういう奴だからでありんす。
     ん? あれは・・・」

蓮華  「・・・ぁっ! 惣一郎様! お久し振りでございんす!」

牡丹  「あ、こら! 蓮華! はしたない!」

惣一郎 「お、琥珀じゃねぇか、元気にしてるか?」

蓮華  「あい! 元気でございんす!」

牡丹  「惣一郎様、琥珀の名は今、蓮華と申しんす」

惣一郎 「へぇ。蓮華か、いい名を貰ったな、蓮華」

蓮華  「あ、ありがとうございんす。
     また、惣一郎様にお目に掛かれるなんてあちきは幸せでありんす」

惣一郎 「その素直さは、蓮華の一番の魅力だと思うぜ」

牡丹  「惣一郎様!」

惣一郎 「ん?」

牡丹  「・・・最近は椿の所へマメにお通い戴いているとの事。
     姐女郎でもありますあちきからもお礼を言わせていただきんす。」

蓮華  「椿・・・、花魁」

牡丹  「初見世以来、懇意にして戴いて、椿は恵まれておりんすな」

惣一郎 「・・・、あぁ、そういや、紅ん所で約束したっけなぁ。
     お前の初見世の客になってやるってよ。すまねぇな、蓮華」

牡丹  「蓮華と・・・、その様なお約束がありんしたか。
     ん? その時はあちきが敵娼あいかたじゃござんせんでしたか? 惣一郎様?」

惣一郎 「あ、ま、まぁ、細けぇこたナシにしようぜ」

牡丹  「大概にしておきなんせ? いつか後ろから刺されんすよ?」
     そんで? 本日は? 夜見世にはまだお早いようでございんすが」

惣一郎 「まぁ、夜見世は椿ん所に行くようやり手に通してあるがな。
     その前にいい反物が入ったんでちょっと商売をな」

牡丹  「反物・・・、そりゃあ、あちきも見せて貰わんとな」

惣一郎 「今回の反物は若い花魁に見立てたもんだからな
     牡丹花魁にはちぃとキツイだろ」

牡丹  「なんだって?」

惣一郎 「今回の反物は若い花魁に見立てたもんだからな
     牡丹花魁にはちぃとキツイだろ」

牡丹  「一言一句たがわずに言い直してんじゃないよ!」

惣一郎 「ははは、すまんすまん
     牡丹にゃあ、もちっとしっとりした色気を引き出す反物を見付けたらもってくらぁな」

牡丹  「ふふ、商売上手な事でありんすな
     では近い内にあちきの仕掛けと新造と禿の反物を併せてお頼みしんしょうか」

惣一郎 「毎度あり」

牡丹  「けんど、あちきもここまで惣一郎様が椿に入れ込むとは思いんせんでした
     椿の何が、そこまで通わせるのでありんしょ?」

惣一郎 「何が・・・、ってぇと決め手はねぇが、あのつれなさかなぁ」

牡丹  「つれなさ、でござんすか?」

惣一郎 「客を客とも思わん潔さってぇのか?」

牡丹  「おきちゃを・・・、潔い?」

惣一郎 「気に入らん時にゃ、平気で蹴飛ばす気風(きっぷ)の良さって言うのかな」

牡丹  「・・・、あ、なん・・・、蹴飛ばす? そ、そ、惣一郎様を?」

惣一郎 「おうよ」

牡丹  「な、な、お、おきちゃにその様な・・・」

惣一郎 「まぁな、無理難題吹っかけたのは俺だから仕方ねぇんだけどよ」

牡丹  「な、何を言ったのでござんしょ?」

惣一郎 「牡丹、お前ぇさん、四十八手っての知ってるかい?」

牡丹  「四十八手。一応、技芸として知ってはおりんすが、使った事はありんせんな」

惣一郎 「その内の一つに逆立ちしながらやるってのがあるんだがよ」

牡丹  「まさか」

惣一郎 「おう、それでやろうっつったらよ、無言で蹴り飛ばされたわな」

牡丹  「・・・、惣一郎様・・・。そりゃあ、あちきでも蹴り飛ばしんす」

惣一郎 「そういうもんか?」

牡丹  「当たり前でござんしょう?」

惣一郎 「けど、小見世・・・、うーん中見世くらいまでならやってくれたぜ?
     中々、鬼畜なもんだったが、いや楽しかったぜ」

牡丹  「おや・・・、惣一郎様はウチ以外にお通いになっていらっしゃる見世がある、と」

惣一郎 「あ」

牡丹  「薄々感じてはおりんしたが、本人の口から聞けるとはあちきも思っとりやせんでした
     お母さんと、遣り手に話を通しておかんとなりんせんなぁ?」

惣一郎 「でよう! そうだ、椿にゃ無言で殴られるって事もあったなぁ」

牡丹  「誤魔化しんしたな。で? 何をなさったのでありんしょ?」

惣一郎 「や、あいつ、胸が薄いだろ? どんな反応するかちぃと興味あってよ。
     俺のイチモツを椿の胸で挟んでくれって言ったんさぁ」

牡丹  「そんで?」

惣一郎 「そうしたら、自分の胸と俺のイチモツ交互に見て、だんだん目が潤んできやがってな、
     かわいいと思ってたらよ、ほっぺたに衝撃的な痛みが走ったってぇ訳さ。」

牡丹  「あ、椿・・・」

惣一郎 「まぁ、首を絞められて殺されそうになった時は、さすがの俺も参ったぜぃ」

牡丹  「今度は何をなさったのでありんすか」

惣一郎 「やぁ、まぁまぁまぁ。それはな? まぁうん。まぁな。」

牡丹  「惣一郎様?」

惣一郎 「ま、まぁまぁ、うん、それはいいんだ、うん、済んだことで」

牡丹  「な・に・を・言んしたんでありんすか!!」

惣一郎 「いやぁ、ちょっとまぁな、ちぃとケツの穴をだな、な??」

牡丹   パーーーン!!(平手打ち)

牡丹  「あちきの妹に何してくれてんだーーー!!!!
     ケツに入れたいって言うんなら大門横の陰間茶屋でやってきなあああ!!!
     なんなら家の蓮太郎でもいいよ、蓮太郎!!!」

蓮太郎 「お断りします」

牡丹  「蓮太郎、居たのかい」

蓮太郎 「椿花魁に対する数々の仕打ち、しっかりと聞かせていただきました」

惣一郎 「忘れた方がお互いの為ってなぁ?」

蓮太郎 「ご自分の都合でしょう」

惣一郎 「おう、そういや、蓮太郎。お前ぇ前から思ってたが綺麗な顔してんな」

蓮太郎 「・・・、お断りしますと言った筈ですが」

惣一郎 「そう堅ぇこと言わずによ。まぁ、どうだちっと。
     うーーん、そうだなぁ、余計なもてなしは要らねぇからよ。10両でどうでぃ」

蓮太郎 「食事に毒盛りますよ。俺料理番なんで」

牡丹  「さて、ここは蓮太郎に任せて、蓮華、夜見世の支度を手伝ってくんなまし」

蓮華  「あ、あい・・・っ」

蓮太郎 「あ、ちょっ! 牡丹花魁! 任されても困ります!
     惣一郎様! 俺に10尺以上近寄らないでください!」

 

 


蓮華  「みんな、行く先々が決まって己の心意気も固めているって言うのに
     あっちの身はお歯黒溝に浮かべた笹舟の様に定まりんせんなぁ・・・
     ん・・・? はなびら? こんな寒空に? あぁ、違う。雪が散っているんだ」

余一  「あのっ! すみません!」

蓮華  「・・・? なんでござんしょう?」

余一  「あの、道を尋ねたくて」

蓮華  「道? ここは目抜き通りでありんす。どちらの見世に御用でございんしょう?」

余一  「・・・ぁ、よかった。誰も彼も忙しそうで声が掛けられなくて立ち往生していたんだ」

蓮華  「もうそろそろ夜見世が始まりんすから、忙しいのは当たり前でござんすよ?」

余一  「夜見世?」

蓮華  「・・・、あの、ここが廓だって知っておりんすか?」

余一  「おやっさんから聞いて名前だけは知ってるけど、不思議な場所だね
     夜の方が忙しいなんて」

蓮華  「ふふ、近頃見ない程のおぼこい男でありんすな・・・」

余一  「ん? 何か言った?」

蓮華  「何でもありんせん。それより何の用でここにいらしゃんした?」

余一  「手鞠屋って所に行きたかったんだ。扇を注文してくれるってんでいくつか見せに来たんだ」

蓮華  「手鞠屋なら明日にした方がいいでありんすよ? 忙しくてきっとそれどころじゃありんせん」

余一  「ぁ、そっか・・・。はは・・・、まーた、おやっさんに怒られちまうな
     道に迷ったりしなきゃ昼の内に用を済ませて帰れたってのに、俺はどん臭いからな」

蓮華  「怒られる?」

余一  「俺はさ、頭も悪いし要領も悪いからおやっさんに怒られてばかりなんだ」

蓮華  「・・・おんなじ」

余一  「済まないけど君・・・、え、と」

蓮華  「蓮華、と申しんす」

余一  「蓮華・・・、きれいな名前だね。俺は余一。明日の羊刻に手鞠屋まで案内して貰えないかな?」

蓮華  「羊刻でありんすな。ではここで待っておりんす」

余一  「ありがとう」

 

 


◆数時間後―――


牡丹  パーーン(平手打ち)

牡丹  「なんて事をしたんでありんすか!! 蓮華!!」

蓮華  「だって姐さん!」

牡丹  「ここは大野木屋ではありんせん! 大見世華屋でありんす!
     躾も終わっとらん新造がお開帳なん、する場所ではありんせん!」

蓮華  「けんど姐さん! 名代としておきちゃを帰らせる訳に参らんかったんでありんす!」

牡丹  「名代であろうと新造にお開帳させるよたろうなん放っぽり出して塩撒いときな!
      ・・・いいかい、蓮華」

蓮華  「ぅあっ! いや!! いやあああああ!!!」

牡丹  「・・・っ?!」

蓮華  「堪忍! 堪忍してくんなまし! もう叩かないで! 火かき棒はイヤ!」

牡丹  「蓮華・・・?」

蓮華  「もう、しません! 姐さんの言う通りにしんすから! だから煙管を押し付けないで!」

牡丹  「あっちはそんなことしんせん。蓮華? 顔をお上げ?」

蓮華  「嫌・・・、う、ぐ、ぐす・・・。嫌・・・。許して・・・、ひっく」

牡丹  「蓮華・・・」

 

 


女将  「ふーーーー・・・、余り言いたくない事だけどね、牡丹」

牡丹  「・・・そんなら、黙っとってくんなまし」

女将  「そうも言ってられないんだよ。・・・、琥珀の事だよ」

牡丹  「蓮華でありんす」

女将  「あんたが可愛がっているのはあたしだってよく判っているさ」

牡丹  「絶対にあちきが立派な花魁に育てあげんす。もう少し、待ってくんなんし」

女将  「諦めな」

牡丹  「何か、おきちゃを引き付けるいい所が必ずありんす」

女将  「それが、若山頂点を極める女の言う事かい!
     同情憐憫であの子を見世に出してあんたの手を離れたらその先をどうするんだい!」

牡丹  「まともな教育を受けて来なかったから戸惑っているだけでありんす」

女将  「誰も彼もが椿の様に呑み込みの早い娘だと思うんじゃないよ!
     琥珀は元来が不器用で要領が悪い! 頭だっていい方じゃない!
     華屋の客の前に出せる娘じゃないんだよ!」

牡丹  「そんな事判っておりんす! 今まで教えて来たのはあっちでありんすから」

女将  「だったら」

牡丹  「元の中見世に返すんでありんすか? それとも別の見世に?
     どういう扱いを受けるか判っていてそんな酷な事をあっちにしろと!」

女将  「ちったぁ見世の立場も考えな!」

牡丹  「・・・っ!」

女将  「華屋から初見世を出したと言えば、客は期待するだろう!
     それが出来栄えの悪い娘なら華屋の評判に関わる! ひいては詐欺師扱いされるんだよ!」

牡丹  「・・・っ!」

女将  「あたしだって何にも考えてなかった訳じゃないさ」

牡丹  「・・・、お母さん」

女将  「内芸者として身を立てる方法も検討したさ。けどあの不器用さじゃ内芸も勤まらない」

牡丹  「お母さん!」

女将  「なんだい牡丹、血相変えて・・・、・・・っ、蓮華?!
     い・・・、いつから聞いていたんだい?」

牡丹  「あぁ、蓮華、心配せんでもいいでありんす
     お母さんの口の悪さは今に始まった事ではありんせん、気にせんでもよろしんす」

蓮華  「姐さん・・・、もう・・・、いいでありんす・・・」

牡丹  「大丈夫でありんす
     時間が掛かってもあっちがきっと立派におきちゃの前に出られる花魁に育て上げんす」

女将  「牡丹!!」

牡丹  「あっちの新造にこれ以上文句を言わんでくんなんし!」

蓮華  「・・・っ」

牡丹  「蓮華?! どこに行くんでありんすか?! 蓮華! 戻ってきなんし!」

女将  「・・・、ふーーーーっ。心配しなくても、戻って来る事しか出来ないさ」

牡丹  「あっちらはどこに行くことも許されてはおりんせん
     そうして人の命をくくりつけて、縛り付けて、あっちら女郎は生きるも死ぬも廓の中
     ならせめて、廓の中での幸せを教えてやりたいのでありんす」

女将  「あの子は幸せになれる運命でもなけりゃあ、華もない
     あんたが入れ込むのは構いやしないけど、金を掛けったってたかが知れてるもんに
     つぎ込むのは大概にしておきな。見てるあたしが痛いよ」

 

 


余一  「蓮華さん! すみません、俺が頼んだのに遅れてしまって」

蓮華  「大丈夫でありんす。あっちは・・・、そんなに忙しい訳ではありんせん
     手鞠屋はこっちでありんす」

余一  「ありがとう」

蓮華  「お礼を言われるような事ではありんせん」

余一  「・・・、蓮華さん、元気がないね。どうかしたの?」

蓮華  「廓に自由に出入りして、用事が終わったら出て行ける。いい身分でありんすな」

余一  「え・・・、蓮華さん?」

蓮華  「ぁ・・・っ! ご、ごめんなんし。少し、その・・・羨ましいと、思ってしまって」

余一  「出て行ける、って・・・」

蓮華  「あっちらはあの大門、あそこの余一さんが入って来た門から出て行く事を許されてはおらん」

余一  「え? 出られないって? じゃあ外に用事がある時はどこから出入りするの?」

蓮華  「出る事はかないんせん。ここは牢獄、あっちらは罪人
     許されんままここから出るなら死を覚悟せんとならん」

余一  「罪人・・・? 君は一体何の罪を犯したの?」

蓮華  「さぁ・・・? それはあちきにも判りんせん」

余一  「判らない・・・、って」

蓮華  「さぁ、余一さんここが手鞠屋でございんす。あちきが案内できるのはここまで
     そんじゃ、お達者で」

余一  「あ! ありがとう! その蓮華さん、良かったらこれ、使って下さい」

蓮華  「・・・っ?! これは・・・」

余一  「大きさが合えばいいけど。あ、多分小さいという事はないと思うよ」

蓮華  「どうして・・・」

余一  「昨日、雪が降っていたのに、寒そうだったから」

蓮華  「寒そう・・・、そう。そうでありんすね、ありがとうございんす」

余一  「蓮華さんもお元気で、もし良かったら俺多分この時間に、さっきの場所に行くようにするから
     会えるなら、暇な時でいいから来てみてよ!」

蓮華  「会えるなら・・・、か。女郎と逢いたいなんて物好きでありんすな」

余一  「だ、ダメかな?」

蓮華  「あっちに逢いたいなら、華屋の牡丹花魁を呼んでくんなまし」

余一  「え?」

蓮華  「お達者で」

 

 


惣一郎 「よぉ、蓮華。しょぼくれた顔してどうした」

蓮華  「そ、惣一郎様・・・?」

牡丹  「友禅の反物が届いたんで、仕立てを思い入れのある松川屋様に頼もうと思いんしてな
     生地を見てもらっとりやんす」

蓮華  「友禅染め」

惣一郎 「目も手も腫れちまうくらいの反物だ。お前、牡丹花魁に頭あがらねぇぜ?
     こんな仕度整えて貰えんのなんざ、遊郭一の振袖新造くらいだ。お前留袖だろ?」

牡丹  「惣一郎様、それは今関係ござんせん。蓮華もこっちに来て見なんし?」

蓮華  「あっちには・・・、そんな上等な着物に袖を通す資格なんございんせん!」

牡丹  「・・・、そんじゃあ、これは作り損という事になりんすなぁ?
     着て貰えん着物が可哀想でありんす」

蓮華  「でも、姐さん! あっちは出来のよくない妹でありんす。迷惑しか掛けとらん!」

牡丹  「妹に掛けられる迷惑なん、ありがたいもんでありんす
     迷惑なおきちゃに比べりゃなんて事ありんせん。よう、帰って来なんした」

蓮華  「姐さ・・・」

牡丹  「おかえりなんし」

惣一郎 「そんじゃ、牡丹、反物は預かって行くぜ」

牡丹  「よろしくお頼み申しんす」

 

 


蓮華  「惣一郎様・・・、一つお伺いしてもよろしんすか?」

惣一郎 「見世の外まで追っかけて来てどうした、牡丹の支度を手伝わなきゃならねぇだろ」

蓮華  「あっちの手伝いは返って牡丹姐さんの足を引っ張ってしまいんすから」

惣一郎 「はーー・・・ん。そっか。で、何の用だ?」

蓮華  「あっちが大野木屋をやめた後、紅姐さんがどうなったか知っておりんすか?」

惣一郎 「死んだよ」

蓮華  「・・・っ?! ・・・、え?!」

惣一郎 「ひと月も経たん内にな、風邪こじらせておっ死んだ」

蓮華  「そんな・・・、誰も世話をしてやらんかったんでありんすか?!」

惣一郎 「お前以外に誰があの気性の激しい紅の面倒を見られるってんだ
     みんな、鼻をつまむ様にして避けてたって話だぜ?」

蓮華  「あっちが・・・、いなくなったから」

惣一郎 「お前、本気で言ってんのか?それ」

蓮華  「どういう事でありんすか?」

惣一郎 「俺ぁよ、相応の死に方だと思ったぜ?
     一番被害を被ってたお前が心配してるなんて誰が信じられるってんだ?」

蓮華  「見損ないんした」

惣一郎 「俺をか」

蓮華  「あい」

惣一郎 「俺がそんな出来た人間だなんていつから勘違いしてやがったんだ? 蓮華」

蓮華  「けんど、亡くなった人に対してその言い方はあんまり酷いじゃありんせんのか?!」

惣一郎 「紅と縁が切れたってんでようやく、松川屋の旦那も気前よく遊んで店も順風満帆だ
     女郎と客の縁で店にまで影響及ぼしてたんだ。喜んで何が悪い」

蓮華  「そんな酷い言い方が出来る人だとは思っとりやせんでした!!
     そうやって女を遊び道具にして椿さんが同じような目に合ったら
     縁が切れたと他の女と縁を持つんでありんすか?!」

惣一郎 「お情けで華屋にいる身の上でお前、何偉そうに物言ってやがんだ?」

蓮華  「惣一郎様?!」

惣一郎 「姐女郎の身支度一つまともに整える事も出来ない新造が、偉そうに客に難癖つけて
     俺がこの一件で華屋と縁切りしたらどうなるか判ってんのか?」

蓮華  「そ、それは堪忍してくんなまし!」

惣一郎 「何が堪忍だ。一つ言っとくぜ蓮華」

蓮華  「・・・、なんでありんしょう」

惣一郎 「大野木屋にいる時にお前の事を大野木屋の新造の中で一番別嬪だって言ったがよ」

蓮華  「・・・あい」

惣一郎 「そりゃ大野木屋だからだぜ? 勘違いしてんなら言っとかなきゃならねぇと思っててよ」

蓮華  「そう・・・、いちろう、様?」

惣一郎 「紅の仕打ちで惨めに見えたからお前の相手もしてやったがよ
     俺は別嬪が好きなんだ」

蓮華  「と、殿方はみんな、そうでありんしょう?」

惣一郎 「だからよ、昔馴染みとか変な思い出で俺の回りをうろちょろして貰っちゃあ困るんだよ」

蓮華  「・・・、そんな・・・」

惣一郎 「牡丹の頼みだから反物も預かるが、お前の為じゃない
     それをきちっと頭に入れておけよ」

蓮華  「・・・」

惣一郎 「さっさと部屋に戻れや」

蓮華  「・・・、お足を留めて、申し訳ありんせんでした。失礼致しんす」

惣一郎 「じゃあな・・・、ふーーー・・・」

牡丹  「惣一郎様・・・」

惣一郎 「なんだ、牡丹。二階から見下ろしやがって、蹴出しが丸見えだぞ
     もちっと捲ったら湯文字が見えるぜ?」

牡丹  「惣一郎様になら見せて差し上げんすよ
     それより、蓮華が大変なお世話をお掛けしたようで申し訳ござんせんでした」

惣一郎 「世話なんざしてねぇよ、けどまぁ、酷い事言って済まなかったな」

牡丹  「いいえ? 辛い思いをしんしたんは惣一郎様でござんしょう?」

惣一郎 「・・・、んあぁ、隠し事の効かねぇ女だな。・・・まぁ、な」

牡丹  「蓮華の惣一郎様に対する想いは端から見ていても明らか
     けんど、あっちらの仕事は想いを寄せる殿方がいる娘には辛い
     そんなら、その想いを断ち切ってやるんが男として一番の情け」

惣一郎 「憎んでも恨んでも構いやしねぇ。俺なんざ想ってたって一文の得にもならねぇんだからよ」

牡丹  「惣一郎様のその想い、いつか蓮華に届く事を祈っておりんす」

 

 


余一  「わぁあぁあ!! やめろ!! 放せ!!」

女郎1 「そんな事言わないでさ、ねぇお兄さん・・・」

余一  「や、やめろぉ!」

女郎3 「ちょっとあんた、嫌がってるじゃないのさぁ」

女郎2 「あんたの腐ったあそこは用無しだってさ」

女郎1 「ねぇ、あんた。あたしにしときなよ」

余一  「やめてくれ! 腕を放してくれ! なんなんだよ! あんた達!」

女郎2 「なんなんだ、だってぇ。うふふ、あははは、あーっはっはっはっは」

女郎3 「おぼこいんだねぇ、んふふ。あたしがたっぷりかわいがってあげるよぉ」

余一  「放してくれって!」

蓮太郎:ぱーん!!(手を叩く等で表現して下さい)

蓮太郎 「放せ! 客かそうでないかの区別もつかないのか! 梅毒かさが頭に回ってるんだな」

余一  「あ、あんた・・・」

蓮太郎 「こっちです! 早くここから離れましょう」

女郎1 「ちょっとぉ! あたしの客を奪わないどくれよ!」

余一  「ひ・・・っ!」

蓮太郎 「手を放せと言っている(再度パーン)」

女郎2 「あんた陰間茶屋の男じゃないのかい?!」

蓮太郎 「こっちです! 早く!」

女郎3 「客を返しやがれ! この、陰間ぁあぁあ!!」

 

余一  「はぁ・・・、ぜぇ、は・・・」

蓮太郎 「はぁ、はぁ・・・、あなた、どうして、あんな所に居たんですか?」

余一  「はぁ、道に、迷って」

蓮太郎 「寄りにもよって羅生門河岸らしょうもんがしで迷うとか馬鹿ですか?」

余一  「あそこは、あの人達は一体?」

蓮太郎 「あの辺りは腕引き通りとも言って遊郭の中でも最も性質の悪い女郎たちが集まっている場所です」

余一  「腕引き、通り・・・? 女郎?」

蓮太郎 「言葉通り、腕を引っこ抜かれますよ?」

余一  「う、腕を引っこ抜かれる?」

蓮太郎 「彼女達は一晩に何人もの客を取って生きる糧としています
     一人でも多く客を取らなければ、死あるのみです。通り掛かった男は逃しません」

余一  「客を・・・、取る? って?」

蓮太郎 「呆れましたね、あなたはここがどこだか判っていないのですか?」

余一  「遊郭って、ここは一体どういう所なんですか?」

蓮太郎 「花街、と言われます」

余一  「花街」

蓮太郎 「春をひさぐ、と言えば判りますか?」

余一  「あ・・・っ」

蓮太郎 「ここでは女達が春をひさぎ暮らす場所。男達は金で束の間の快楽を求めて女を買います」

余一  「春をひさぐって、それは! つまり!」

蓮太郎 「女達は体を売って生計を立てています」

余一  「じゃあ、それじゃあ・・・、まさか、彼女も」

蓮太郎 「彼女? 懇意にしている女性がいるのですか?」

余一  「懇意と言うほどの仲じゃ。けど、あそこの大門から出られないって言ってました」

蓮太郎 「あぁ、では間違いなくここの女郎です。残念ですがお忘れになった方がよろしいかと思います」

余一  「そんな・・・。あんな素朴で優しそうな人が・・・」

蓮太郎 「女を見た目で判断するのはいい傾向ではありませんね」

余一  「それに、まだとても幼い! 体も小さくてあんな壊れそうな人なのに!」

蓮太郎 「外見がどうであれ、ここから出られるのは初めて客を取ってより10年と決まっています
     10年間の年季と呼ばれる奉公期間が明けて、運よく健康で命があれば出て行けるでしょう」

余一  「10年だって?! そんな長い期間を?! 女を一体なんだと思っているんだ!
     お上だってこんな事許す筈がない」

蓮太郎 「ここは、幕府公認の若山遊郭です」

余一  「幕府、公認・・・、だって?」

蓮太郎 「一応、忠告しておきます。
     懇意にしている女がいたとしてここから連れて出ようなんて思わない事です
     あなたも、その女も命を落としますよ」

余一  「そんな・・・」

蓮太郎 「俺も仕事があるんでそろそろ失礼します」

 

 


鈴蘭  「おんし、蓮華。惣一郎様に手を出そうとしてこっぴどく振られたんだって?」

蓮華  「鈴蘭?! そ、そんな! あっちは手を出そうなんて」

鈴蘭  「惣一郎様は椿花魁の大切なおきちゃでありんす
     その惣一郎様に言い寄るなん立場を弁えんにも程がありんす」

蓮華  「あっちは言い寄ったりなんしとらん!」

鈴蘭  「見世先で振られたんをみんな見ておりんした。言い訳なん通用せん」

蓮華  「みんな、見てたって・・・」

鈴蘭  「いい恥さらしでありんすなぁ?」

蓮華  「まさか、椿花魁も見ていたんでありんすか?」

鈴蘭  「さぁ、見世中で噂になっておりんすから、いずれにしても知っとりんしょう?
     椿花魁はそんで何か思いんしたとして誰にも言んせんから判りんせんけんど
     いい気分はしないでありんしょうな」

蓮華  「どうしよう・・・、どうしたら・・・」

鈴蘭  「そこまであっちは知りんせん
     それに、蓮華。おんし牡丹姐さんのおきちゃとも寝たんだって?」

蓮華  「ぇ? そ、そんな事まで?!」

鈴蘭  「椿花魁どころか牡丹姐さんのおきちゃまで寝取ろうとするなん
     さすが中見世出身の女郎はやる事もえげつないでありんすなぁ?」

蓮華  「違いんす! あれは牡丹姐さんのおきちゃを帰らせちゃあならんと思って!」

鈴蘭  「牡丹姐さん程のお人がおんしの力添えなんなくても、おきちゃが離れて行く筈がありんせん!!
     牡丹姐さんを侮辱するんは華屋の女全員許しゃあせんのぇ?!」

蓮華  「ぁ・・・」

鈴蘭  「おんしが来てから華屋の格は下がりっぱなしでありんす
     お母さんだっておんしの扱いに困っているのなん察しているんでありんしょう?!」

蓮華  「それは」

鈴蘭  「内芸者にも出来ん、おきちゃにも恥ずかしくて初見世が決まらん!
     余計な事をしんして姐さん方に仇をなす! 目障りなんでありんすよ!!」

蓮華  「ご・・・、めん・・・、なんし・・・」

鈴蘭  「ちょっと蓮華! 話はまだ終わっとりんせん! どこに行くんでありんすか?!
     待ちなんし!」

蓮華  「もうこれ以上迷惑はかけられん!!」

鈴蘭  「この期に及んで逃げる気でありんすか!」

蓮華  「放っといてくんなんし!」

鈴蘭  「自分の部屋に来て何をするんでありんすか?
     ・・・、部屋持ちなん振袖新造でもあるまいに贅沢な部屋」

蓮華  「何もかんもがあっちには分不相応なんでありんす」

鈴蘭  「ちょ・・・、蓮華? 箪笥開けて何して」

蓮華  「自分の荷物を出すだけでありんす」

鈴蘭  「は? え、ちょっと!」

蓮華  「そんな大した荷物もありんせんけどな」

鈴蘭  「蓮華! わ、悪かったよ! 謝るって! あっちも言い過ぎんした」

蓮華  「気ぃ遣わんでもいいでありんす」

鈴蘭  「気なん遣っとらん! そんな追い詰める積もりありんせんかった! 謝るから!
     ごめんなんし! 荷物を戻して!」

蓮華  「口は悪いけど鈴蘭の方がずっと別嬪だし三味も上手い。あっちに牡丹姐さんの新造なんて務まりゃせん」

鈴蘭  「何言ってるのか判りんせん! 荷物を戻し! 早よ!」

蓮華  「あっちが出て行けば、鈴蘭が牡丹姐さんの新造になれんしょう?」

鈴蘭  「ぁぅ・・・っ、そ、そんなん決めるんはお母さんでありんす
     他にも沢山、牡丹姐さんの新造になりたがってる娘はおりんすから」

蓮華  「そんじゃあ、尚更あっちがここに留まるんはよくありんせんなぁ?」

鈴蘭  「ちょっと! 本気で出て行く積もりでありんすか?! やめなんし!」

蓮華  「鈴蘭、今まで世話になりんした」

鈴蘭  「待ちなんし! せめてお母さんに相談せんと!!
     とにかく、荷をほどいて!!」

蓮華  「・・・あっ!」

鈴蘭  「・・・? これ、足袋?」

蓮華  「・・・ふふ、笑えるでありんしょう? たった一度道を案内しただけの男に貰ったんでありんすよ」

鈴蘭  「どんな、おぼこい男でありんすか。女郎は足袋なん履きんせん
     ・・・、もしかして蓮華その男と出来てるんじゃ?!」

蓮華  「まさか、そんな筈ありんせん。二度、会っただけ。道を案内しただけでありんすよ」

鈴蘭  「本当でありんすな?」

蓮華  「そんな、心配せんでも。あっちに間夫なん出来る筈がありんせん」

鈴蘭  「だって、間夫飼いなんただでさえ許されんのに新造でそんなことしんしたらお母さんが」

蓮華  「知ってるのは名前だけでありんす」

鈴蘭  「そんならいいけんど。とにかく牡丹姐さんを呼んできんす」

蓮華  「やめて!」

鈴蘭  「あっちの言った事で蓮華が出て行ったなん、牡丹姐さんが怒りんす」

蓮華  「牡丹姐さんはそんな事で新造を責めたりなんしんせん
     そんな事、あっちなんかより華屋にずっと長くいる鈴蘭の方が良く知っておりんしょう?」

鈴蘭  「出て行ってどこに行くんでありんすか?」

蓮華  「まだ、決めとらん。西河岸があっちにはちょうどいいかもしれんなぁ・・・」

鈴蘭  「?! 西河岸って。や、やだよ! 考え直しなよ! ねぇ蓮華」

蓮華  「道中小見世にでも拾って貰えれば幸せでありんすな」

鈴蘭  「蓮華! 沢山苛めてごめんって! その、羨ましかっただけなんだ!」

蓮華  「判っておりんす。鈴蘭は不器用でなんも出来んあっちを心配していてくれたんでありんしょう?
     なんだかんだ言ってもこうして話しかけてくれるのなん鈴蘭しかおらんかった」

鈴蘭  「そんなら、あちきの為にもせめて、お母さんか牡丹姐さんに相談してくんなんし!」

蓮華  「鈴蘭、世話になりんした。鈴蘭が牡丹姐さんの新造になれるよう祈っておりんす」

鈴蘭  「やだよ! 蓮華!」

蓮華  「お達者で」

鈴蘭  「いやだ! 戻って来てよ! 蓮華! 蓮華―――!!!」

 

 


蓮華  「今日も・・・、雪が降りんすな」

余一  「蓮華さん!」

蓮華  「余・・・、一、さん?」

余一  「良かった、やっぱりここに居た。やっと会えた」

蓮華  「あっちに、他に行く場所なんありんせんよ?」

余一  「色々聞いたんだ! ここがどんな所か、蓮華さんがどういう人なのか」

蓮華  「そう、でありんすか。じゃあ、女を買いんせん男がこんな所におったらいかん
     早く、出て行きなんし・・・。あの、大門から」

余一  「それなんだけど、一緒に行こう」

蓮華  「は?」

余一  「蓮華さんみたいに優しい人がこんなひどい所にいる理由なんてない、一緒にここから出よう」

蓮華  「ふふふふ」

余一  「蓮華さん?」

蓮華  「まさか、あっちにもそんな事を言ってくれる男がおったなん思いんせんかった」

余一  「冗談を言っているんじゃないんだ。あ、持ってきてるじゃないか
     今夜は冷えるから、足袋を履いて」

蓮華  「足袋・・・、ふふ、こんなん初めて履きんした。あったかいでありんすな」

余一  「よかった、大きさもあってる」

蓮華  「余一さんは、なぁんも知らんのでありんすなぁ。あっちの喋り方変わっているでありんしょ?」

余一  「あ、うん・・・。それは、そう思った、けど」

蓮華  「あっちの故郷はもっとずっと東に下って更に北に行った山の向こうの
     もっと山奥に入って行った小さな村でありんす」

余一  「そんな遠くから」

蓮華  「なんも遊ぶところなんありんせん、ついでに日々食っていくんも難しい田舎でありんす」

余一  「そういう所が、ある、とは知っているよ」

蓮華  「村の言葉じゃ何を言っているのかも判らんから、と・・・、この廓の言葉を教え込まれんした」

余一  「そうなんだ」

蓮華  「あっちは要らん子なんでありんす」

余一  「そんな事は無い! そんな要らない子なんている筈がない!」

蓮華  「あちきの覚えに間違いがなければ上に3人の姉兄、下に7人の妹弟がおって毎日の食うもんなん足りん
     そんでも何とかいきとったよ? それなりに幸せだった
     あっちは家族ん中で一番の別嬪だと言われとったしいい気になっとったら
     ある日知らん男が来てあっちを連れて行くって言ったんでありんすよ
     何の事は無い、あっちは父親に売られたんでありんすよ」

余一  「父親に?! 売られた?!」

蓮華  「余一さんには想像もつかんでありんしょうなぁ?」

余一  「そんな、だって、父親が・・・、自分の娘を売る、なんて」

蓮華  「口減らしも出来る、ついでにしばらく食っていくだけの金も手に入る」

余一  「だからって!!」

蓮華  「そうでもせんと家族が食っていけんかった!
     あっちが売られて餓死する兄弟を救えるんならそれでいいと思いんした
     それだけでも充分だったのに、ここに来たら毎日二回も白い米が食える」

余一  「飯を食うのなんて当たり前のことだ!」

蓮華  「世話をしてくれるという姐さんは気分の浮き沈みの激しいお人で仕置きと言っては
     火かき棒で叩いたり煙管を押し付けたりひどい扱いを受けんしたが飯は食える」

余一  「そんな・・・」

蓮華  「それだけが生きていて幸せでありんした」

余一  「こんな所にいるから、そんな酷い生き方が当たり前になっているんだ」

蓮華  「それでしか生きていけんかったのでありんす!!」

余一  「・・・っ」

蓮華  「けんどあっちは華屋に見世替えして、あんな大見世であっちなんか務まる筈もないもんを」

余一  「蓮華さん・・・」

蓮華  「恩人だった姐さんを裏切る事しか出来ん!
     なんも取り得もなくて生きている価値もないもんを図々しく生きた罰でありんす!」

余一  「もういいよ! 蓮華さん、もういいから・・・」

蓮華  「あっちは・・・、生まれてきちゃあならんかったんでありんす」

余一  「俺と一緒にここを出よう」

蓮華  「出たって帰る場所なんありんせん!!」

余一  「俺が面倒を見る!」

蓮華  「余一さん・・・?」

余一  「俺は不器用で何にもできないけど、食わせてやるぐらいはきっと出来るから、だから・・・」

蓮華  「本気でそんな事を言っておりんすか?」

余一  「嘘も本気もあるもんか」

蓮華  「あっちを助けるって? 会って間もないのに?」

余一  「それでも蓮華さんがここにいるのは我慢できないんだ」

蓮華  「本当に・・・。馬鹿なお人でありんすな(小声)」

余一  「さぁ、早く行こう。今なら人が賑わってる、逃げるなら今だ」

蓮華  「(この手を取ればもう後戻りは出来ない
     その先に待つものが不幸しかなかったとして、あの門をもう一度出られるなら、あっちは・・・)」

 

岡引き1「足抜けだーーーー!! 女が逃げたぞ!! 男と一緒だーーー!!」

余一  「蓮華さん、急いで!!」

岡引き2「捕えろぉ! 女は殺すな!! 男は殺してもいい!!」

蓮華  「余一さん!!」

岡引き1「切り捨てごめん!」

蓮華  「危ない!! 余一さん!!! あぁあぁあぁあぁあ!!」

余一  「蓮華さん!! こ、の!! ぅああぁあぁああぁあ!!」

蓮華  「余・・・、一、さ、ん・・・」

余一  「ぁ、が・・・っ」

蓮華  「余一さん・・・、ありが、とぅ・・・
     あっちは・・・、幸せでありん、す。おおもんの、外で・・・、命を、終え・・・」

 


牡丹  「蓮華!! 蓮華ぇえ!! どうして!! こんな無茶な事をどうして・・・!!」

蓮太郎 「まさか、この人の想い人が、蓮華さんだったなんて
     判っていればもっとしっかり止めたのに・・・」

鈴蘭  「蓮華? 蓮華? ねぇ、嫌だよ蓮華、こんな終り方なんて嫌だよ。蓮華ぇええぇえ!!」

女将  「死ぬと判っていながらこの道を選んだのかい? 蓮華
     あんたには相応だったかもしれないねぇ」

牡丹  「お母さん?! もう死んでしまったというのに! なんて酷い事を言いしゃんすか!」

女将  「酷い?! あたしには最初から判っていたよ! 蓮華が女郎になんざなれやしないってね!
     それを妙な憐憫で手掛けて狂わせたのはあんただろうが! 牡丹!」

牡丹  「・・・っ?!」

女将  「この、弱い子にあんたみたいな修羅の道は歩けやしない。あんたは頂点の花、この子は道端の雑草だ!
     蓮華にとっては大門の外で死ねたのが唯一の幸せだったってどうして判ってやれないんだい!」

牡丹  「だってお母さん、こんな事が幸せだなんて、あっちには判らん!」

鈴蘭  「牡丹姐さん。あっちにもその幸せ、判りんす
     ねぇ、蓮華? ずるいよ一人で出て行くなんて。判ってたらあっちも連れて行って貰ったのに
     どうして!! 連れて行ってくれなかったんだよ! 蓮華!!」

牡丹  「鈴蘭・・・」

惣一郎 「女がみんなお前みたいに気丈で肝の座った奴ばかりじゃねぇってこった」

牡丹  「惣一郎様まで」

惣一郎 「大門の外で死ねて幸せか? 蓮華。馬鹿野郎・・・、堅気の女でもあるめぇに足袋なんざ履きやがって
     一度くらい友禅に袖を通してから死ねよ、この阿呆・・・」

 

蓮華  「(例え人の目にそれが残酷に映っても、いつかは死ぬ運命なら選べるのはどうやって死ぬかだけ)」