花魁道中いろは唄~四葉~ 我が世誰ぞ ♂×2 ♀×3 / 白鷹

○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*

 

 

所要時間:40分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*

◆登場人物◆

牡丹  (ぼたん)  ♀ 23歳

    遊郭の店の中でも屈指の人気を誇る『華屋』のお職
    遊郭の中を花魁道中として練り歩き美貌と立ち居振る舞いと教養の高さを誇る
    人々の羨望を集めた遊郭トップクラスのお職
    水揚げ後、異例の早さと若さでお職に選ばれた実力者


 

椿   (つばき)  ♀ 17歳

 

    可愛らしい顔と愛らしい仕草で水揚げ前の振袖新造時代から客に絶大な期待をされていた
    水揚げ年齢が近くなった頃から、『華屋』では先触れを出して客を呼び込み
    椿の水揚げには破格の花代が付けられたにもかかわらず、御開帳には申し込みが殺到した
    現在は花魁として活躍し次代お職の噂が立っている


 

水仙   (すいせん)  ♀  26歳

 

    華屋の花魁。年季明けが近いがお職の噂が立った事もある程美しい容貌を持っている
    しかし、その為に気位も非常に高く、手練手管と言われる遊女の技芸を下品だと蔑み客が付かない日が続いている。
    月乃介とは同郷の出であり、幼馴染であり年季明けには所帯を持とうと約束した中である


 

月乃介 (つきのすけ)  ♂  27歳

 

    歌舞伎役者の女形を張り続けた美形の役者。自分の美しさを知っており遊女などより美しいと
    胸を張って言えるほどの自信を持っている。役者の時以外は男らしくさっぱりした性格
    水仙と同郷の出で水仙に惚れている。
    最近は遊郭内をうろつくなど役者の仕事をしていないようだがその理由は不明

 

 

庄一郎 (しょういちろう)  ♂ 38歳

 

    木綿問屋、橋本屋の主人。
    遊郭では小見世を中心に遊んでいたが接待の関係で大見世の女と関係を持つ必要に迫られ水仙の客となる
    見栄っ張りで小心者。

 


――――――――

役表

 

牡丹  (♀)・・・
椿   (♀)・・・
水仙  (♀)・・・
月乃介 (♂)・・・
庄一郎 (♂)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

◆◆◆華屋◆◆◆


 

椿   「ほんに、姐さんは金に糸目をつけんいいおきちゃにめぐまれんすなぁ」

 

牡丹  「『華屋』の客はお武家様でも腰が引けるほど格が高い。いずれ椿もそうなりんしょ」

 

椿   「豪商と名高い源屋様を馴染みに持つなん、あちきには真似できん」

 

牡丹  「ふふ・・・、ふふふ、豪商・・・、豪商が何だっていうんだい」

 

椿   「ね・・・、姐さん?」

 

牡丹  「人のあそこ一晩中拝み倒しやがって!
     崇め奉るんなら伊勢神宮にでも行って後世願って来いってんだ」

 

椿   「一晩中・・・、おがみ・・・。姐さん、言葉遣いが・・・」

 

牡丹  「この寒空に足開きっぱなしで一晩中!
     おかげで風邪を引きんした!! へっくしょい!!」

 

椿   「そりゃあ、あとで熱燗でも持って行きんす。部屋で休んどってくんなまし

 

水仙  「はっ、お職ってったら、股開いて見せびらかしてるだけで金がもらえるんでありんすね」

 

牡丹  「水仙・・・、姐さん」

 

水仙  「大したご身分でござんすなぁ、牡丹」

 

椿   「水仙姐さん」

 

水仙  「こっちは相も変わらずお茶挽きで凍えてたってのに、
     おきちゃに文句を着けるなんざぁ、お職のする事じゃありんせんのと違いんせんか?」

 

牡丹  「すまん事をしんした。
     確かに妹分の前でおきちゃの愚痴など漏らすべきではありんせんな」

 

水仙  「どこまで本気で謝ってんだかわかりゃあせんな」

 

牡丹  「・・・」

 

椿   「あ、あの! 水仙姐さん」

 

水仙  「なんでありんしょう」

 

椿   「後で、水仙姐さんの所にも熱燗を持って行きんす。それで寒さを」

 

水仙  「妹分の施しなんいりんせん!」

 

椿   「・・・、施しなん・・・、そんな積もりじゃありんせんのに・・・」

 

牡丹  「水仙姐さんは気位が高すぎるのでありんす」

 

水仙  「所詮、股を開いて男の精を抜くのがあっちらの仕事。
     けんど、だからこそ気位を棄てたらあっちらに残るものなんありんせんのと違いんすか?」

 

牡丹  「言う通りでありんす。けんど、さじ加減と言うんも大事やと思いんすけどなぁ」

 

水仙  「はんっ!
     一晩中、股をかっ開いてただけの女郎が、さじ加減を口にするなんざぁ、お笑い種でありんすな」

 

椿   「水仙姐さんはひがみすぎでありんす! 牡丹姐さんが脚広げて見せるだけで花代が貰えるんは、
     牡丹姐さんのあそこが観音様のようだからじゃありんせんか!!」

 

牡丹  「椿・・・、褒められてるようにもかばわれてるようにも感じんせん・・・」

 

椿   「あ・・・」

 

水仙  「ふんっ! バカバカしい。あちきはちょっと出かけてくるでありんす」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆甘味処[もみじ屋]◆◆◆


水仙  「おやっさん。団子と薄茶をおくれよ、確か三文で良かったね。お代はここに置いとくよ」

 

月乃介 「よぉ、水仙じゃないか」

 

水仙  「おんし! 大介! いや、今は綾瀬月乃介って名前でありんしたね」

 

月乃介 「どっちでもいいさ、そんなもん。同郷の出なんだから遠慮なんかしてたら肩が凝っちまう」

 

水仙  「て、言うかこんな所で何しとりんすか? 歌舞伎役者が女を買うのはご法度でありんしょ」

 

月乃介 「買わなきゃいいんだろ。見るだけさ。今自分の別嬪ってなぁ、どんなもんかよ。
     張見世見て飽きたら帰らぁな。
     まぁ、お前がいるような華屋は張見世もねぇから見る事もできねぇけどよ」

 

水仙  「見たって買いんせんのでありんしょう?」

 

月乃介 「お前ぇこそここで何してんだよ。夜見世の準備しねぇとまずいんじゃねぇのかい?」

 

水仙  「今夜もお茶挽きさ」

 

月乃介 「・・・も、ってぇ・・・」

 

水仙  「ここ数ヶ月、あちきに客はついとりゃせん」

 

月乃介 「そ・・・っか、別嬪だと思うんだがなぁ」

 

水仙  「ふふ、初見世の時には道中を歩きながら耳にしんしたね。『果ては華屋のお職だ』・・・って。
     けんど、現実はこんなもんでありんしょう。三つも年下の牡丹にあっさりお職の座を取られ、
     あちきは名前すら忘れられてるんじゃないかってくらい、客も見向きもしない」

 

月乃介 「華屋だから連日満員御礼ってぇわけでもねぇんだな」

 

水仙  「名代以外で客の相手をしたのは何ヶ月前だったかすら、覚えておりんせん」

 

月乃介 「俺が役者でなきゃ、毎日でも買ってやったのにな」

 

水仙  「その前に金がないじゃありんせんのか」

 

月乃介 「そりゃあそうだ」

 

水仙  「みっともない話、今日はツケ払いの日でござんしてね、
     鬼ババの様な女将から逃げてここにおりんす」

 

月乃介 「ツケ? お前のかい? どういうこったい」

 

水仙  「着物も帯もかんざしも櫛も箪笥も鏡も、見世が買ってくれる訳じゃありんせん。
     若い頃人気があった時に派手ないいもんばっか揃えてさ
     だるまのように借金が膨れ上がってる始末」

 

月乃介 「ねぇもんは払えねぇだろ」

 

水仙  「そ。ないものは払えない。今頃女将さんが躍起になってあちきの部屋をあさくって、
     金目のもん探しているんでありんしょ」

 

月乃介 「そんな事させて、お前平気なのかよ」

 

水仙  「今更あちきの部屋なん、なぁんもありんせん。
     虫食った畳が敷いてあるだけの殺風景な部屋さ。
     あって漆が剥げてヒビの入った鏡と綿の詰め直しもできない布団だけ。
     金目のものがあるなら逆に探し出して欲しいくらいでありんすよ」

 

月乃介 「しっかし、お前程の別嬪に客がつかないって、華屋はどんなバケモンそろいだ?」

 

水仙  「顔だけじゃ捌けやせん。要は褥(しとね)の技芸」

 

月乃介 「なんでぃ、お前ぇ床下手かい?」

 

水仙  「その口縫い付けてやりんしょうか?」

 

月乃介 「んじゃ、不感症かい」

 

水仙  「ここじゃその方が好都合でありんすよ」

 

月乃介 「んじゃまたなんで」

 

水仙  「はしたないほどに喘ぐおなごの方が客の好みなんす。あっちはそんなん嫌でありんす」

 

月乃介 「ん、まぁ感じてんだかそうでないんだか判んねぇ女より、
     派手に喘ぐ女の方が好まれるのは当然だな」

 

水仙  「日干しにされたカエルみたいに脚をかっ開いて、般若のようなしかめっ面で、
     隣の部屋まで聞こえるような喘ぎ声を出して。 そんなみっともない真似、あっちはようせん」

 

月乃介 「それが仕事じゃねぇんかい」

 

水仙  「それでも! 嫌でありんす」

 

月乃介 「絶世の美女てぇんなら話は別だが、ちぃと気位が高すぎらぁな」

 

水仙  「華屋にいるってことは別嬪の代名詞でありんす。あっちはそれに誇りを持っておりんす!」

 

月乃介 「俺の方が別嬪だぁ?」

 

水仙  「なんて?」

 

月乃介 「女形(おやま)で稼いでんだ。お前ぇよりゃ別嬪だ」

 

水仙  「男のあんたにあっちが負けてるって言うんでありんすか!」

 

月乃介 「おう、この綾瀬月乃介。
     そんじょそこらの女郎よりゃあ色っぺぇ流し目で男を虜にするってぇんなら負けやしねぇぜ」

 

水仙  「あんた、若山数千人の女郎に喧嘩売るつもりでありんすか」

 

月乃介 「それも悪かねぇなあ」

 

椿   「そんなら花魁道中と座敷で勝敗つけたらどうでありんしょ?」

 

水仙  「椿!」

 

月乃介 「ん? 誰でぇ? お前ぇの新造か?」

 

水仙  「違うよ、立派な花魁でありんす。何しに来たんだい、椿」

 

椿   「愚問でありんす。甘味処に椿あり。甘いもん食べに来たでありんすよ。
     だんなさん、お抹茶と団子三つ、おはぎとあんみつくださいな」

 

水仙  「た、食べ過ぎじゃ無いのかい?」

 

月乃介 「胃の腑がもたれそうだぜ」

 

椿   「甘いもの食べると元気がでるんでありんす」

 

水仙  「椿、さっきの勝負残念だけど、勝負どころがありんせん」

 

椿   「水仙姐さんがお嫌で無いなら、来週からあっちが行水に入った時の名代でできんしょ?」

 

水仙  「バカみたいな話でありんす」

 

椿   「そちらのお方は女形おやまの綾瀬月乃介さまでありんしょ?」

 

月乃介 「ん、なんでぇ。俺のこと知ってんのかい」

 

椿   「歌舞伎は見に行ったことがありんせん。けんど、名前くらいは知っておりんす。
     あっちらは大門から出られんせん。 女形おやまがどんなもんかも知らん。
     もし、見られるなら見てみたいのでありんす」

 

水仙  「道中も座敷も遊びじゃありんせん。まず女将が許しゃせん」

 

椿   「お母さんのお許しが出たらやってくれるのでありんすか?! 頼んでくるでありんす!!」

 

月乃介 「ってぇ、ちょっと待てよ、お前ぇ、団子やらあんみつやら」

 

水仙  「食べ終わっておりんす」

 

月乃介 「は?」

 

水仙  「全部、食べ終わっておりんす。あっちらのお代まで置いて行きんした」

 

月乃介 「忙しい花魁だな」

 

水仙  「騒がしいったらない」

 

月乃介 「で? さっきの話どうするんでぇ」

 

水仙  「閑古鳥が鳴くよりゃマシでありんす。
     あほぅなお遊びに付き合うのもたまにはいいんじゃありんせんか?」

 

月乃介 「しゃあねぇな、付き合ってやるよ」

 

水仙  「女将が許せば、の話でありんすけんど」

 

 

 

 

 

◆数日後―――

 


椿   「姐さん!! 水仙姐さん!! 差し紙でありんす!!」

 

水仙  「椿・・・、今更あちきに差し紙なん来るわけがありんせん。誰かと間違えておりんしょ?」

 

椿   「間違いじゃありんせん、ちゃんと水仙姐さんに来ておりんす」

 

水仙  「なんで椿が持ってきんした? 新造に任せればいいモノを」

 

椿   「なんだか自分のことのように嬉しくて!! 初回なんで揚げ屋でお座敷でありんす!」

 

水仙  「・・・」

 

椿   「姐さん? どなんしんした?」

 

水仙  「道中に着て行く仕掛けもかんざしもありんせん」

 

椿   「あ、あっちのを持って参りんす。使ってくんなまし」

 

牡丹  「椿の仕掛けじゃ水仙姐さんに似合いんせん。
     あちきの仕掛けとかんざし、櫛を持ってきんした
     水仙姐さん、よろしければ使ってやってくんなまし」

 

水仙  「牡丹・・・、同情でありんすか? それとも憐れみ」

 

牡丹  「違いんす。水仙姐さんはあっちに誇りを持てと教えてくんなんした。
     あっちに足り無いモノをどうぞ教えてくんなまし。何より、水仙姐さんの復帰を心より願っておりんす」

 

水仙  「牡丹・・・」

 

牡丹  「水仙姐さんの道中、また見られる日が来るなん、こんな嬉しい事が他にござんしょうか。
     どんぞ、使ってやってくんなまし」

 

水仙  「牡丹、・・・ありがとう」

 

牡丹  「お支度をなさいませ」

 

水仙  「・・・、髪結いを、呼んでくんなまし」


 

 

◆◆◆揚屋・座敷◆◆◆

 


水仙  「橋本屋庄一郎様、本日はお呼びに預かりありがとうございんす。華屋花魁、水仙と申しんす
     以後よろしくお頼み申しんす」

 

庄一郎 「へ?」

 

水仙  「いかがなさいんした?」

 

庄一郎 「いや、とんでもねぇ別嬪が来たと思って驚いただけだ」

 

水仙  「ありがとうございんす。庄一郎様はどちらかでお見かけ致しんしたか?」

 

庄一郎 「いや、違うよ」

 

水仙  「では、今宵のお呼びたては一体・・・?」

 

庄一郎 「いやあ、俺ぁ商売柄、接待が多くてな、つい先日の宴会で若山の話が出てよぉ。
     んで懇意にしてる友人が大見世『手毬屋』の女を抱いたって自慢して来やがってよぉ。
     あんまり鼻について腹が立ったからよ
     『俺は今度【華屋】の女を抱いて来るんだ』って張り合っちまったんだ。
     けど、さすが華屋の格は高けぇし牡丹や椿なんざぁ手がでねぇ。
     んで、揚げ屋でちょいと聞いて、華屋で一番安い花魁を頼むっつったら『水仙』だっつうし・・・、
     値段も手頃だったんで、その場でちょちょいと差し紙書いて出したってぇ訳さ」

 

水仙  「一番・・・、安い花魁・・・」

 

庄一郎 「おぅ、けどさすが華屋だよなぁ。格安の値段でこんな別嬪が来るたぁ夢にも思わなかったぜ」

 

水仙  「格安・・・」

 

庄一郎 「三度のしきたりで予算もギリギリだがよ、まぁなんとかならぁ」

 

水仙  「く・・・っ!」

 

庄一郎 「これから頼むぜ、水仙・・・、ぶっはっ!! な、な、な、何しやがんでぇ!!! 
     いきなり酒ぶっかけるなんざ、これが華屋の座敷かよ!!」

 

水仙  「帰ってくんなまし」

 

庄一郎 「なんだって?!」

 

水仙  「耳が遠くていらしゃんすか? お帰りあそばせと申し上げんした!」

 

庄一郎 「客に対して、なんだぁ!! その態度は!!!」

 

水仙  「揚げ代も花代も祝儀もいりんせん!! とっとと出て行ってくんなまし!!」

 

庄一郎 「いいのかよ、これが噂になったら華屋の看板に傷をつける事になるんだぜ?!」

 

水仙  「結構でありんす。元より恥をかくのはおんしの方でありんしょ」

 

庄一郎 「俺が恥をかくってぇ?!?!」

 

水仙  「懐が寂しい癖に、座敷遊び。その上、野菜でも買い叩くように花代を出し惜しみして、
     女郎に追っ払われたなん噂がたちゃあどこの女郎も相手にしんせん!!」

 

庄一郎 「んな・・・」

 

水仙  「いくら本当の事でも言っちゃあならん事もありんす。懐を気にしながら座敷なん心底楽しめやせんでありんしょ?!」

 

庄一郎 「貴様、女郎の分際で」

 

水仙  「分際?! ここは若山でありんす! 身分素性は若山が決めなんす!
     座敷遊びの心得を持たん分際で華屋の女郎を相手に出来ると思いなんすな!!!
     揚げ屋に名前が残った以上、橋本屋庄一郎は小見世の暖簾もくぐれやせん!!
     それでも女遊びがしたきゃあ、線香一本いくらの鉄砲女郎で抜いて来な!!!」


 

水仙(M) 「安い・・・、女・・・。華屋で、一番安い女・・・。
     く・・・、うぅ・・・
     ちくしょう・・・、ちくしょう! ちくしょう!!
     うわあああああああああああんん(泣く

 

◆数日後―――

 


庄一郎 「す、水仙?」

 

牡丹  「あいすみませんが、水仙姐さんに会わせる訳には参らんのでございんす」

 

庄一郎 「お、お前は?」

 

牡丹  「華屋のお職をしておりんす、牡丹と申しんす」

 

庄一郎 「お職・・・?」

 

牡丹  「あいにく、おかあさ・・・、いえ、女将が所用で外に出かけておりんしてなぁ。
     話ならあちきがお伺いいたしんしょう」

 

庄一郎 「俺ぁ、水仙に謝りに来たんだ、水仙に会わせてくれ」

 

牡丹  「それは出来んと申し上げんした」

 

庄一郎 「なんでだ」

 

牡丹  「前回のお座敷で水仙姐さんになんと言いなんした?」

 

庄一郎 「そ、それは」

 

牡丹  「なんと言いなんした!」

 

庄一郎 「その・・・」

 

牡丹  「酒が入ってなけりゃあ言うのも憚れるような雑言を浴びせんしたなぁ?」

 

庄一郎 「だから、それを詫びたいと思ってこうしてきているんだ。詫び状も書いてきた」

 

牡丹  「詫び状? それをどうしろと言いなんすか」

 

庄一郎 「す、水仙に渡して欲しい」

 

牡丹  「どこまでも無粋な男でありんすなぁ」

 

庄一郎 「悪かったと思ってるんだ」

 

牡丹  「庄一郎様、ここをどこだと思っとりんすか」

 

庄一郎 「は、華屋・・・、だろ?」

 

牡丹  「あっちらは殿方の用を足す厠じゃござんせん」

 

庄一郎 「厠、なんぞとは思ってやしない!」

 

牡丹  「違う。けんど、詫び状一つでどうにかなるもんだと思っとりんしょ?
     その詫び状も、これから座敷遊びをするんに、華屋のおなごを侮辱したという汚名を雪いで、
     小見世巡りをする為でござんしょうな? 」

 

庄一郎 「ぅっ、いや、その・・・」

 

牡丹  「華屋の赦しがなきゃあ、どこの見世も断られるから仕方なく書いたもんでありんしょう!」

 

庄一郎 「す、すまねぇ・・・、すまねぇと思っている!」

 

牡丹  「水仙姐さんがどれほど傷付いたか」

 

庄一郎 「か、可哀想な事をしてしまったと後悔している、だから会わせてくれ!」

 

牡丹  「華屋の暖簾を土足で踏みにじったも同然なんでありんすよ」

 

庄一郎 「じゃ、じゃあどうすれば赦して貰えるんだ」

 

牡丹  「水仙姐さんは庄一郎様の顔なん二度と見たくないでありんしょうな」

 

庄一郎 「・・・、どこまで、お高く留まってやがんでぇ!! たかが女郎ごときが偉そうにふんぞり返りやがって!!」

 

牡丹  「ようやく、本性を現しんしたな!」

 

庄一郎 「こっちが下手に出てりゃあ、言いたい放題。
     所詮股開いて精を抜くだけの道具に過ぎねぇ分際が痛くもねぇ腹を探って客を怒らせちまってるんだからなぁ!!
     本性? ああ、お前ぇさんの言う通り女郎なんざ厠と変わりゃあしねぇよ! 一発二発抜いたらおさらばでぇ!
     詫び状なんざ必要もなかったなぁ、ああん?」

 

牡丹  「どうせそんなこったろうと思いんした」

 

庄一郎 「だからなんだってんでぇ?」

 

牡丹  「こっちはね。身体張って商売してんだよ! その商売道具を買い叩かれて詫び状一つで赦せるもんかい!
     どうしても赦して欲しいってんなら、小指の一本でも詰めて来るべきだったんじゃないのかい?!」

 

庄一郎 「女郎一人買い叩いたからって小指詰める阿呆がどこにいるってんでぇ! 世迷言も大概にしろってんだ!」

 

牡丹  「相手が悪かったねぇ、庄一郎さん?」

 

庄一郎 「何居直ってやがんでぇ!」

 

牡丹  「おんしが侮辱したんは、若山随一の大見世華屋のおなごでありんす!」

 

庄一郎 「それが何でぇ? 俺ぁ遊郭で遊べねぇってんならこっちから願い下げでぇ!
     お高く留まって一発やるまでに金ばっかりぼったくるような廓なんざ二度と来るもんけぇ!」

 

牡丹  「そりゃあ、不遇にも顔を会わしてしまいんしたなんてことがおこらんでようございんす」

 

庄一郎 「もう二度と顔を会わせることもねぇなぁ、あばよ!」

 

牡丹  「お一つだけお伝えしたい事がありんす」

 

庄一郎 「なんでぇ」

 

牡丹  「橋本屋とは木綿問屋の橋本屋さまでござんしょう?」

 

庄一郎 「おうよ、それがなんでぇ」

 

牡丹  「あちきのおきちゃに、布団屋の尾河屋、呉服屋佐川屋、
     妹のおきちゃに呉服屋松川屋と他にも沢山のおきちゃがおりんす。
     全てのおきちゃに文を出させていただきんす。橋本屋と縁を切っていただくように、と」

 

庄一郎 「な・・・!」

 

牡丹  「そんじゃあ、あちきも夜見世の支度があるんで失礼いたしんす」

 

庄一郎 「ま、待ってくれ!!」

 

牡丹  「おさらばぇ」


 

 

◆◆◆水仙の部屋◆◆◆

 


牡丹  「姐さん、飯を持ってきんした。イワシの煮付けと野菜の煮しめ、それからゆで卵もありんす。
     きちっと食べて元気を出しておくんなまし」

 

水仙  「・・・」

 

牡丹  「姐さんのとった態度に間違いがあったとは思いんせん」

 

水仙  「・・・」

 

牡丹  「立派だったと思いんす」

 

水仙  「じゃあなんで」

 

牡丹  「・・・」

 

水仙  「なんで見世替えの話になるんでありんすか」

 

牡丹  「お母さんなりの配慮だと思いんす」

 

水仙  「年季明けを目前にした見世替えが配慮?」

 

牡丹  「姐さんは張見世に出た方が客がつくと判断しんしたから」

 

水仙  「池田屋なんて見世、あっちは今まで聞いたこともござんせん。
     そんな小見世に行くんのどこに配慮があると言んしょうか」

 

牡丹  「半籬の張見世なら姐さんが一番の稼ぎ頭になりんしょう」

 

水仙  「慰めにもなりんせん」

 

牡丹  「それと、つい先日椿が言うとりんした綾瀬月乃介様との勝負事、
     華屋の祭りとして楽しませて貰うとお母さんが言っておりんした」

 

水仙  「月乃介と・・・、会える?」

 

牡丹  「水仙姐さんはもしや月乃介様と心を通わせておいででありんすか?」

 

水仙  「あちきの年季が明けたら内儀かみさんにしてくれるって、まだ郷にいる時に誓ったんだよ
     役者として、成功して贅沢して暮らそうって」

 

牡丹  「そうでありんしたか。
     そんなら、きちんと食べて身綺麗にしとかんと、月乃介様に呆れられてしまいんすよ」

 

水仙  「そうだね、食べたら湯を使ってこようかね」


 

 

◆4日後―――

 


椿   「ひぃえぇえぇえ。おなごと区別がつきんせん。月乃介様は本当に殿方でありんすか?」

 

月乃介 「おう、舞台に立つ時以外は身も心も立派な男だぜ、ってぇ裾まくりあげて何してんでぇ」

 

椿   「一物がちゃんとあるか見ておりんす」

 

月乃介 「水仙、この間から思ってたんだがよぉ、こいつ」

 

水仙  「(溜息) ちぃとおつむの弱い所がありんす」

 

椿   「立派なものがついとりんしたああああああ!!!」

 

水仙  「勝手に見てんじゃないよ! この抜け作が!!」

 

椿   「いったあーーい!! 姐さんに相応しいもの持っとるかちぃと確認しただけでありんす!
     何も叩く事ないでありんすぅ!!」

 

水仙  「おんしに確認してもらわんでも結構でござんす!」

 

椿   「姐さんは気位も嫉妬心も高いでありんす」

 

水仙  「うるさいよ、椿」

 

牡丹  「そんなら、今回のこの催し、決め事を申しんす」

 

月乃介 「うし、気張っていくか」

 

牡丹  「期間は椿が行水の七日間。お二人には名代としてお座敷についてもらいんす」

 

月乃介 「若山の座敷を見られるなんざぁ、役者としちゃあ俺以外にはいねぇだろうよ」

 

牡丹  「月乃介様は『梔(くちなし)』という名前の通り口がきけない花魁にさせていただきんした」

 

月乃介 「ま、喋ったらばれちまわぁな」

 

牡丹  「褥は共につく桜と水仙でお相手させていただきんす」

 

月乃介 「陰間ならやれるんだがよ」

 

牡丹  「せんでよろしんす。お座敷をお取りいただいたおきちゃ全員に、
     どの花魁が一番の別嬪かを書いていただき票としんす」

 

月乃介 「桜と来た場合はどうするんでぇ」

 

牡丹  「その場合どちらにも票ははいりんせん。
     また、月乃介様が殿方と見破られた場合、お座敷は打ち切り。
     その時点で月乃介様にどれだけ票が入っていたとしても負けとなりんす」

 

月乃介 「見破られる奴がいるなら見破ってみろってんだ」

 

水仙  「大した自身でありんすなぁ」

 

牡丹  「あっちらが関わるんは七日後の勝敗まで。賭けの対象はお二人で決めてくんなんし」

 

水仙  「その話はもうついとりんす」

 

牡丹  「では、お二人共、お気張りなんせ」


 

 

◆◆◆牡丹の部屋◆◆◆

 


椿   「あーーん、もう。あっちもお座敷行きたかったでありんす!」

 

牡丹  「おんしが行けるんなら名代の意味がありんせん」

 

椿   「姐さんは、どっちが勝つと思いなんすか?」

 

牡丹  「どちらでありんしょうな。あちきも月乃介様があれほど化けるとは思いんせんかったから、
     この勝敗の行方は見当もつきんせん」

 

椿   「ほんにキレイでありんしたなぁ。」

 

牡丹  「女形(おやま)故の色っぽさも備え持って、
     抱きたいとおっしゃるおきちゃが必ず出て参りんす。」

 

椿   「お断りするのが大変でありんすなぁ」

 

牡丹  「ほんにどうなるのでありんしょう」


 

 

◆1週間後―――

 


牡丹  「お約束の七日間をおすぎなされましたので、開票に参らせていただきんす」

 

椿   「七日間も見破られなかったとは驚きでございんす」

 

月乃介 「当然でぃ。こちとら女形おやま歴10年だ。そう簡単に見破られる筈ねぇだろう」

 

水仙  「まこと、お見事でございんした」

 

牡丹  「さて、票でございんすが、水仙姐さんは二票、月乃介様が八票と月乃介様の圧勝でございんす」

 

水仙  「はぁ、負けた負けた。おめでとう、月乃介」

 

月乃介 「予想通りの結果ってぇとこだな」

 

牡丹  「明日より水仙姐さんは見世替え、この七日で祝儀を稼げたというんで、お母さんがお二人には今晩のみ、
     ゆるりとくつろいでくりゃれと酒とつまみを水仙姐さんの部屋にご用意してございんす」

水仙  「女将が珍しく気がきくじゃござんせんか。じゃ、遠慮なく参りんしょうか」


 

 

◆◆◆水仙の部屋◆◆◆

 


水仙  「あちきが賭けに勝ったら、
     年季明けでいいから月乃介の舞台を見させてくりゃれと言んした」

 

月乃介 「そうだったなあ」

 

水仙  「その願いは叶わんかったけんど、月乃介は勝ったら教えてくれると言んしたな。
     聞かせてくんなまし」

 

月乃介 「ああ、・・・。」

 

水仙  「月乃介?」

 

月乃介 「此岸での道中も座敷も十分楽しんだからなぁ・・・」

 

水仙  「そうでありんすな。あっちも久方ぶりに楽しんだでござんすよ」

 

月乃介 「だから、水仙、いやお夕」

 

水仙  「ん、なんだい、いきなり本名なんか呼んだりして」

 

月乃介 「死に道中に付き合ってくれねぇか」

 

水仙  「・・・・・・、・・・え?」

 

月乃介 「俺と心中、してくれねぇか」

 

水仙  「・・・、いいよ、大介」

 

月乃介 「理由は聞かねぇんだな」

 

水仙  「なんとなく、わかってた。大介、役者続けられないんだろ?」

 

月乃介 「なんで、判った」

 

水仙  「客に酌をする時、手が震えてた。
     必死にこらえていたけど、あれが精一杯なら扇持って舞うなんてできる筈ないもんね」

 

月乃介 「長く役者やってると、大抵のやつがこうなる。なんでかは判らねぇ。
     一度この病にかかっちまったらよ治らねぇどころかどんどんひどくなりやがる」

 

水仙  「じゃあ、もう舞台は」

 

月乃介 「長い事上がってねぇなあ。その内これが足にも回って、立てなくなる。
     だからよ、今回の勝負、勝つのに必死だったさ。お前ぇに舞台を見せてやるなんて出来ねぇんだからよ」

 

水仙  「女形で花魁やって楽しかったかい?」

 

月乃介 「ああ、楽しかったなぁ、あの椿ってぇ花魁に感謝だぁな」

 

水仙  「負けちまったあっちにそんな権利無いけどさ、お願いを聞いてもらえるかい?」

 

月乃介 「お願い?」

 

水仙  「あっちももう苦界くがいで生き抜くのは無理そうでさ。
     年季明けを待てないんだよ」

 

月乃介 「そう、か」

 

水仙  「だから、大介、あんたの内儀(かみ)さんにしとくれよ」

 

月乃介 「内儀(かみ)さんって」

 

水仙  「一晩でいい、内儀(かみ)さんとして抱いとくれよ。そんでから死に道中に向かおうじゃないかい」

 

月乃介 「そうだな、そうするか」


 

 

◆翌日―――

 


椿   「・・・っ、ふ・・・、ぁっ、ど、うして・・・。水仙姐さん、月乃介様」

 

牡丹  「水仙、姐さん・・・。なぜ・・・、こんな事を」

 

椿   「イヤ、嫌!! 目を開けてくんなまし!! 
     どうして死んだりなんか!!! 水仙姐さん!!」

 

牡丹  「椿・・・、水仙姐さんのお顔をよく見てごらん?」

 

椿   「・・・、・・・っ 笑っておりんすっ・・・!」

 

牡丹  「気位の高い水仙姐さんの笑顔なん、あちきは見た事がありんせん。
     けんど、こんな幸せそうに微笑む事がありんすか」

 

椿   「幸せに旅立ったという事でありんしょうか・・・」

 

牡丹  「そうである事を願うばかりでありんす」