時空の護人 2 ~蝶 聖なる乙女達~ ♀×4 /白鷹

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所要時間:50分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

奏(かなで) 凛音(りおん) 14歳(♀)


    シャトーと言われる司令部から妖(あやかし)を狩る使命を預かっているハンター。
    攻撃の武器は真言陀羅尼を使った札と呪文。妖(あやかし)の気配を耳で聞き取る特殊能力を持っている。
    妖(あやかし)を狩り始めたのは最近で、シャトーの中ではまだまだ見習いだが、能力値は高く期待されている。

 

倉敷(くらしき) 綾(あや)香(か) 14歳(♀)
 

    カトリック制の聖ラファエル女学院の寮に住む中等部の2年生。凛音と同級生で寮の部屋をシェアしている。
    明るく元気な少女。

 

西園寺(さいおんじ) 郁(かおる) 17歳(♀)
 

    聖ラファエル女学院高等部の生徒会長。すらりとした長身と中性的な顔や声などで学院の女生徒のアイドル的な存在。
    その実は暗い過去を持ち、心を許す存在は副会長の清祥院涼香だけ。

 

清祥院(せいしょういん) 涼香(すずか) 18歳(♀)
 

    聖ラファエル女学院高等部生徒会の副会長。日本人形のような儚い美貌を持っている。
    常に郁と行動を共にしている。

――――――――

役表

 

凛音 (♀)・・・
綾香 (♀)・・・
郁  (♀)・・・
涼香 (♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

綾香「あ、凛音遅一い! 郁様の出校に間に合わなかったらどうするの!」
凛音「うん、綾香、ごめんね。もう、全く興味ないんだわ」
綾香「凛音! あんた目、どうかしてるよ? 西園寺先輩だよ? 才色兼備眉目秀麗この学院の象徴! 高等部生徒会長の西園寺先輩」
凛音「うは一・・・。すっごい肩書・・・」
綾香「その隣に凛と立つ同じく副会長の清祥院様」
凛音「もう、名前が二人共鬱陶しいね」
綾香「なんて事いうの?! 凛音! あんたはこないだ中等部転入して来たばかりだから知らないかもしれないけどお二人とも三谷財閥の」
凛音「財閥なんてもう無いよ」
綾香「制度がなくなっただけじゃない!」
凛音「昭和初期にね」
郁 「おはよう、僕の可愛い子猫ちゃん達」
綾香「きゃあ! 私の方見て言ったぁ」
凛音「うげっ、鳥肌」
郁 「倉敷・・・、綾香ちゃん、だっけ。君の隣にいるのは?」
綾香「名前覚えて貰ったとかもう死んでもいい」
凛音「奏、凛音といいます。先週転入してきました。倉敷さんと寮の部屋をシェアしてます」
郁 「そう、可愛いね」
凛音「よく言われます」
綾香「凛音!」
郁 「はは、素直だね」
凛音「ダメだ、女なのに自分の事僕って言っちゃう辺りでもう凄く痛い(小声)」

凛音(M)「双子の弟、零音が自分の使命に気付いて家を出て行ってから一週間も経たない内に、

    同じ使命を持っているあたしの所に指令があった。

    あたし達はうなじに埋め込まれたインプラントを通じてシャトーと言われる指令塔から、

    妖(あやかし)を狩れと指令を受けて動いている。

   インプラントがいつの時点で埋め込まれたのか、それとも生まれた頃からあったのか、それは判らないけれど、

   あたし達ハンターは前世に罪を犯していて、それを償うまでハンターであり続けるしかないらしい。

   体内の時間を止められ、時に時空すら移動させられる事もあるみたいだけど、あたしは今の所現代から離れた事はない。

   ハンターは主に単独行動を義務付けられていて、他のハンターと接触する事は許されていない。

   つまり、あたしは務めを果たすまで零音とは二度と会えないって事。

 

 

 

凛音「はー、やっぱり自分の部屋が一番落ち着くわ。でさ、綾香」
綾香「んー?」
凛音「毎朝、あんなアイドルの出待ちみたいな事しないといけないの?」
綾香「義務じゃないけど」
凛音「じゃあ、あたしは明日から遠慮するわ」
綾香「えー!?」
凛音「それよりもうちょっと寝たい」
綾香「だってだってだって! 西園寺先輩は凛音に興味あるみたいだし」
凛音「綾香が興味持って貰える様に頑張りなよ。あたしは要らない」
綾香「だって今まで全然興味持って貰えなかったんだよ?」
凛音「その方がいいと思うけどなー。っていうか、綾香」
綾香「ん?」
凛音「転入してきて判らない事だらけなんだけど、聖ラファエル学院、この学院で何か事件めいたこと起こってない?」
綾香「えっ、あ・・・」
凛音「起こってるんだね?」
綾香「あ、別に、その、噂って言うか、なんていうか」
凛音「何でもいいよ、手掛かりが欲しい」
綾香「昔から、女生徒が行方不明になる事は、あるみたい」
凛音「行方不明? 親は? 何も言ってこないの?」
綾香「警察も来て一応調べてるけど、迷宮入りっていうの? 判らないみたい」
凛音「そっか・・・。やっぱりそんな簡単にはいかないかー」
綾香「凛音の家は何をしてるの?」
凛音「は? 家?」
綾香「この学院は、政治的でも社会的でも何でもいいけど要人の子女が入る学院だよ?」
凛音「へえ・・・。綾香は?」
綾香「ウチはおじいちゃんが製薬会社の代表取締役なんだけど、オーナーと仲が良くて無理にねじ込んだっていうか」
凛音「コネか」
綾香「あははー。どうしてもこの学院に入りたくて。ってそうじゃなくて凛音は?!」
凛音「寺の住職」
綾香「は」
凛音「寺の住職」
綾香「なんか・・・、うん。強く生きるんだよ」
凛音「何に同情されたか全く判らないんだけど」
綾香「ていうか、ウチの学院カトリックだよ? なんで寺の住職が転入できたの?」
凛音「それは一、あー、うん、親戚・・・、うん、親戚の便宜上の問題と言うか、ね」
綾香「変なの」
凛音「ともかく、あたし、明日の朝は出待ち行かないからね」
綾香「え、ちょっとやだ! なんで西園寺先輩の魅力が判らないの?

   あのキリッとした涼しげな目元とか、風になびくさらさらの髪の毛とかすらりとした長身で足長いし」
凛音「女じゃん」
綾香「女性だからいいの! あー! あの目で見詰められて、あの声で耳元で囁かれて、あの唇にキスされたい!」
凛音「ちょっと何言ってるか判らない」
綾香「ん? ノック? 誰か来た見たい。はーい」
郁 「やぁ」
凛音「寝たふりしよ」
綾香「西園寺せんぱーい!!」
郁 「奏、凛音ちゃん?」
凛音「寝てます」
郁 「起きてるじゃないか」
凛音「・・・、何の用ですか?」
綾香「ちょっと凛音! そんな態度ないんじゃない?! せっかく来て下さったのに。お茶くらい出そうよ!」
凛音「寮則に、他の部屋との交流は21時まで、内線通話22時までってありますよね。今もう22時半ですよ」
郁 「済まない」
凛音「用事があるなら明日校内で伺います。今日はもうお引取り下さい」
綾香「凛音!」
凛音「学院のアイドル的存在だから寮則は破ってもいい、なんて特権でもあるの?」
綾香「それは・・・、ないけど」
凛音「じゃあ、西園寺先輩、お休みなさい」
郁 「そうだね、悪かった。おやすみ」
綾香「もー! 酷いよ、凛音」
凛音「今回の行為で、あたしは好きじゃない、から嫌いに変わったわ。もう寝る、おやすみ綾香」
綾香「凛音たら・・・」

 

涼香「どう? あの転入生」
郁 「とても綺麗な子だったよ。ちらっとしか見られなかったけど瑞々しくて白い肌、鈴を転がしたかのような声」
涼香「なかなか居ない逸材ね」
郁 「ねえ涼香」
涼香「ストップ。余り深い話はこんな所でするものじゃないわ」
郁 「そうだね。でも、本当に綺麗な子だ・・・。欲しい、な」
涼香「この学院の子達はみんな私たちの物よ。焦らないで?」
郁 「ああ」

凛音(M)「聞こえる・・・。妖(あやかし)の被害を受けた悲痛な人達の呻き声が。泣き声が・・・。

   良かった、被害を受けた人達、まだ、生きてる」

 

 

 

綾香「おはよ」
凛音「おはよ一、綾香。どうしたの、凄く機嫌が悪い」
綾香「放課後の礼拝、一緒に来ないかって西園寺先輩に誘われたの」
凛音「・・・良かった、んじゃないの? なんでそんなに機嫌が悪いの?」
綾香「凛音と一緒にって!」
凛音「行きませーん」
綾香「そう言うと思ったから! あたし一人じゃ行くに行けないじゃない!」
凛音「正直に言っていいよ。あたしが断ったって」
綾香「なんでそんなに郁先輩を嫌うの?」
凛音「色々。とにかく生理的に無理。嫌いって伝えるのが無理なら用事があるって言ってたって伝えて」
綾香「用事なんてない癖に」
凛音「用事があるのは本当」
綾香「そうなの?」
凛音「うん」
綾香「それならいい」

 

涼香「まだ、子猫ちゃん達は来ないの?」
郁 「来ないな。別に待つくらいどうって事ないよ。涼香が傍に居るなら」
涼香「私はどこにも行かないわ。むしろ、郁は私の物よ」
郁 「悪くないな」
涼香「束縛されるのがお望み?」
郁 「涼香に束縛されたいし、束縛したい」
涼香「おかしな事を言うのね。もうとっくにそうじゃない。・・・あら? 頬に薄い傷があるわ。どうしたの?」
郁 「ああ。これは今朝小枝に引っ掛けてしまって」
涼香「酷い小枝ね」
郁 「大した事ないよ」
涼香「ダメよ。郁には傷一つ許さない」
郁 「大袈裟だな」
涼香「私がどれだけ郁を大切にしているか知らないからそんな事を言うのね」
郁 「それは知っているよ。涼香がいなければ今の僕はいない」
涼香「私は、あなた以外誰も要らない」
郁 「僕も、涼香だけだよ」
涼香「治してあげるわ。こっちへ来て」
郁 「涼香・・・」
涼香「綺麗な唇・・・。好きよ、郁・・・、ん」
郁 「ん・・・。不思議だね、キスで傷が治る、なんて」
涼香「精気を流し込んで治癒力を上昇させるの。活発になった治癒の力でこのくらいの傷なら治るわ」
郁 「こんな、治療なら毎朝怪我をしてこようかな」
涼香「ダメよ、もっと体を大事にして頂戴。この精気は無限じゃないの」
郁 「知ってるよ。じゃあ、精気はもう要らない。涼香の唇にもっと触れていたい」
涼香「欲張りね」
郁 「僕をこんな風にしたのは涼香じゃないか」
涼香「仕方ないじゃない。あなたの傷を全て癒して綺麗な体に作り上げるのに必要だったんだもの」
郁 「涼香は自分にも使った方がいいんじゃないか? その、精気」
涼香「あら、今の私にどこか醜い所があって?」
郁 「いや? 涼香は綺麗だよ」
涼香「当然よ。全身の傷を回復させてから、更に美しくなる為にどれだけの時間と労力が要ったのか、郁は知っているものね?」
郁 「僕も、涼香が居なければ傷の回復なんてしなかった」
涼香「出会った頃の郁は、本当に蹂躙しつくされて酷い有様だったものね」
郁 「涼香には感謝してる」
涼香「寮を出て、家に帰るなんて私は許さないわよ?」
郁 「帰ったりなんかするものか。あんな家、思い出すだけでも忌々しい」
涼香「安心したわ。ね、郁、もう一度キスして」

 

凛音「こっちの方から聞こえる。この悲痛な声」
綾香「凛音一!」
凛音「綾香・・・。どうしたの? 礼拝に行かないの?」
綾香「行くけど、凛音の用事っていうのが気になっちゃって」
凛音「綾香って好奇心で身を滅ぼすタイプだね」
綾香「そう? っていうか・・・。なんでこんな所にいるのよ。ここ、旧校舎だよ? 立入禁止」
凛音「鹿鳴館(ろくめいかん)みたいな建物だね」
綾香「明治だか昭和初期だかに立てられた所みたい」
凛音「なんで放置してあるの? 外観的にも撤去した方がいい筈でしょ? 中庭造ったりとか、財力がない訳じゃなし」
綾香「副会長が随分こだわってるみたい」
凛音「副会長・・・。あの人、そういう権力あるの?」
綾香「理事長の孫だよ?」
凛音「ふーん。なのに生徒会長じゃなくて副会長なんだ? 変なの」
綾香「ここになんの用事があるの? って凛音ーーー! なんで入ってんのーーー!!」
凛音「鍵、老朽化して役立たずだったから」
綾香「そうじゃなくて! どうして入ってるのかって聞いてるの」
凛音「用事があるから」
綾香「ちょちょちょ、ちょーーーっと! 旧校舎になんの用事があるの?!」
凛音「付いて来ないでよ」
綾香「ダメだよ! 寮の部屋シェアしてる以上連帯責任になるんだから!」
凛音「あ、そっか。・・・、妖(あやかし)本体の声は聞こえないから、連れてっても大丈夫か・・・(小声)」
綾香「なんか湿っぽい匂い・・・。うぇ」
凛音「あたしから離れちゃダメだよ?」
綾香「当たり前だよ! こんな、怖いじゃんか」
凛音「可愛いなー」
綾香「なんて?!」
凛音「やー、あたしもそんな風に普通の女の子みたいに怖がれたらちょっとは可愛げがあるんじゃないかと思って」
綾香「あーね、なんか凛音って雄々しいよね。胸ないし」
凛音「それ関係ある?! 今関係ある?! ないよね?! 全然関係ないよね?!」
綾香「反応が草」
凛音「綾香なんかもう知らない!」
綾香「やぁ! ちょっと待って! 置いて行かないで! って・・・、なんか、あっちから物音しない?」
凛音「ホントだ。少し、声も聞こえる」
綾香「ええ?! 声なんて聞こえないよ?」
凛音「ああ、あたしにしか聞こえないのか・・・」
綾香「え? なんで?」
凛音「あたし聴力が凄いの」
綾香「そうなんだ。じゃ、普通に喋ったらうるさくない?」
凛音「んー、まぁ、もう慣れた」
綾香「なんか・・・、変な匂い」
凛音「この部屋だね。空けてみよ」
綾香「やだ、なんかお化けとか出て来たらどうするの?」
凛音「わーーー!」
綾香「きゃああああああ!!」
凛音「きゃーだって、可愛い」
綾香「もう! 凛音のバカ!」
凛音「ごめんて」
綾香「・・・っ?! 何?! ここ・・・。なんでこんなにおばあさん達が沢山いるの?」
凛音「凄い臭っ! 20人はいるよね」
綾香「この人達、このおばあさん達、何?」
凛音「死んではないみたい。みんな生きてるけど。何? 旧校舎って老人ホームにでもするの?」
綾香「そんな訳ないでしょう?!」
凛音「だよね、うん。このおばあちゃん達どうしてセーラー服着てるの? 年齢的に流石にマズイでしょ」
綾香「凛音!! 良くこんなの見て平気だね? どう考えたって異常じゃない!」
凛音「うん、異常だよね。それは判るんだけど、どうしてこうなったのか、そっちの方が気になる」

 

涼香「だいぶ郁の痣も消えて無くなったと思ってたけど、しぶとい痣が残っているようね」
郁 「どこに?」
涼香「ここ、肩から背中にかけて赤黒く残っているわ」
郁 「それは多分、中学1年の時の父にガラスの破片で切られた時のものかな」
涼香「もう、忘れて欲しいのに、やっぱり覚えているのね」
郁 「大きな傷はなかなか忘れられないよ」
涼香「本当に酷い父親」
郁 「全寮制のここに入って父の支配下から逃げられたんだ。今の僕は幸せだよ」
涼香「それでも、犯され続けた心の傷までは癒せない」
郁 「全く、母親ですら父の機嫌を取る為に僕を差し出して身の保身を図ったんだからどうしようもない家族だ。いや、家族とは呼べないな」
涼香「郁が綺麗だったから魔が差すのは仕方ないとしても、本当に陵辱するなんて獣以下ね」
郁 「精力旺盛で絶倫の父親に毎晩犯されて、哀れむ様な目で母親は僕を見るんだ。従わなければ殴られるから」
涼香「私も両親の気持ちは判らないわ。だって郁と私は結局同じ穴の狢・・・。両親に抱き締められた事なんで一度もないわ」
郁 「過干渉とネグレクト、どちらがいいんだろう?」
涼香「極端ね、両方遠慮したいわ」
郁 「涼香がいなかったらここに来ても死んでいたかもしれないな」
涼香「体中を痣だらけにして怯えた兎の様な瞳で、郁の心の悲鳴が私には聞こえたの。

   きっと、両親の愛情を受けられなかった者同士通じ合うものがあったのかもしれないわね」
郁 「涼香が傷を治してくれたから、少しずつ心も癒されていった。その時から僕は女である事を棄てたんだ」
涼香「私にこんな治癒の力があるのも、元を辿れば私に無干渉な両親のせいなのにね。皮肉だわ」
郁 「僕は涼香の傷を癒してあげられない。涼香の傷を知らないから」
涼香「郁ほど最悪でもなかったわよ。ただ、両親は仕事で私に関わっている暇なんかなかっただけ。

   寂しかったから厨房に立ち寄った父に駄々をこねたら傍にあった油をぶちまけられた。一瞬の事よ」
郁 「十分、酷いじゃないか」
涼香「そうね、多分そうなんだろうけど、ただ一度の事だもの。陵辱され続けた郁より心の傷は楽よ」
郁 「良く生きてたね」
涼香「救急車で搬送されたわ。重症熱傷レベル3の全身火傷、致死の怪我から生きて私は絶望した」
郁 「生きていたのに?」
涼香「髪は焼け落ちて、酷い顔だったわ。目も鼻も唇も溶けて人の顔じゃなかった。

   九死に一生を得たとしてもこんな醜い姿で生きてなど行けない。私はこの世の全てを恨んだわ」
郁 「醜くなんて・・・。今の涼香はとてもきれいだ」
涼香「そうよ。煮え滾る油を全身に被って悶絶するような痛みを感じながら私の中に何かが流れ込んできたの。

   それが多分この人から精気を吸い取る力。人から奪う精気はとても美味だわ」
郁 「美味しいかどうか、僕には判らないけど肌に感じる瑞々しさは捨て難い、かな」
涼香「郁の体中についた父親からの暴力の痕も、この力で治してあげられる。爪の先まで、傷一つ残したくないの」

涼香「いやだ・・・。ゴミ置場にネズミがうろついているようだわ」
郁 「ゴミ置場・・・? ああ、抜け殻を棄ててある旧校舎か」
涼香「旧校舎は立ち入り禁止って書いてある筈なのに」
郁 「子猫は好奇心が旺盛な物だよ」
涼香「冗談を言っている場合ではなくてよ、郁」
郁 「済まない。行くなら僕も行くよ」
涼香「行かなくてはならないわ。あの場所が公になってはいくら権力を振(ふ)り翳(かざ)したって学院の危機に繋がるもの」
郁 「僕と涼香の時間を邪魔したネズミにお仕置きをしないとな」

 

 

 

 

 

綾香「ね、ねぇ、凛音。もう、出ようよ・・・。出て、警察か理事長に報告した方がいいよ」
凛音「この人、胸ポケットに生徒手帳が入ってる」
綾香「ねーぇ、凛音。あたし怖いよ」
凛音「学院がこの事を知らない筈がないでしょ? 知ってて黙秘してるのよ」
綾香「え、なんで・・・?」
凛音「宗像(むなかた)、菜々。第48期生だって。ねえ、あたし達が50期生なのよね?」
綾香「え、う、うん。学院が新制度に変わってから数え直したから。学院自体はもっと昔からあるよ」
凛音「でもさ、どう見てもこのおばあさんがあたしより2歳年上とは思えないわ」
綾香「ろ・・・、老化が、早かった? なんて、ね」
凛音「多分ね」
綾香「そんな筈ないでしょ?! 2歳上って16歳だよ?! 老化って年齢じゃないでしょ?!」
凛音「老化だよ。人為的な」
綾香「人為・・・? って、凛音って時々難しい事考えるよね」
凛音「残された人達は、乾いた肌に老いた体。つまり、妖(あやかし)が奪ったのは若さと美貌。美」
綾香「何言ってるの? あやかしって何?」
凛音「泣かないで、大丈夫よ? ちゃんと助けてあげる」
綾香「え? 誰に言ってるの? あたし、泣いてない」
凛音「気を失っているけど、この菜々さんの心が泣いてるの」
綾香「う・・・、ごめん。ちょっと・・・、何言ってるか判らない」
凛音「判らない方が良かったかもね」
綾香「何、書いてるの?」
凛音「惹(じゃ)、護符を書いただけ」
綾香「護符? って、え?」
涼香「校則は絶対よ? 奏さん」
郁 「ごきげんよう、子猫ちゃん達」
凛音「清祥院先輩、西園寺先輩、どうも」
綾香「きゃっ! あ、あの、ごめんなさい!」
涼香「そっちの子は判らずに迷い込んだのかしら」
郁 「そうか、じゃあ罰則はなしでもいいんじゃないか?」
涼香「見られたからには放置出来ないわ」
郁 「精気を戴いてここの住人になって貰えばいい」
凛音「聞こえる・・・、精気を欲する妖(あやかし)の声! 清祥院涼香! あんた闇に堕ちたね?」
涼香「ふふ・・・、そう・・・。そういう事」
郁 「涼香、どういう事か教えてくれないか? 僕には判らない」
涼香「時期外れの肩書もない転入生。受け入れたのは迷宮入りの事件が相次ぐのを阻止したいおじい様の差し金ね?」
郁 「凛音ちゃんを? ごめん、涼香」
涼香「判らないわよ、郁には。でも、流石ね。私が妖(あやかし)なのをたった二度で見抜くなんて」
凛音「意地汚い妖(あやかし)の性を剥き出しにしてよく言うわ」
綾香「ね、凛音」
凛音「綾香、後で説明するからあたしの傍を離れないでね」
綾香「う、うん」
涼香「私を狩るの? ハンターさん」
凛音「うん。大人しく狩られてくれるとは思わないけど」
涼香「いいわ。でも狩られる前に私の話を聞いて?」
凛音「故人の残留思念に興味ないけど」
郁 「故人? 何を言っているんだ? 凛音ちゃん、君は可愛い顔をしている割に物騒なんだね」 
凛音「郁先輩、涼香さんはもう死んでるよ?」
郁 「は? ・・・はは、馬鹿な事を言う。こうして生きて話しているじゃないか。それにこんなにも綺麗だ」
凛音「そう、その美貌の代償はこのおばあちゃん達」
郁 「そうだよ」
綾香「そうだよ、って・・・、何? なんで? え? り、凛音?」
凛音「綾香、信じられないかもしれないけど、清祥院涼香は化け物なの」
綾香「え、や・・・、やだ」
凛音「ちゃんと怖がってくれて安心した。今からね、あたし、この化け物と戦うから、あたしから離れちゃダメだよ」
綾香「そんなの、凛音・・・、大丈夫なの?」
凛音「うん、大丈夫」
綾香「判った、凛音から離れない」
涼香「せっかく可愛い子猫ちゃんだと思ったのに、残念」
郁 「どうするの? 涼香」
涼「郁は何もしなくていいのよ。そこで大人しく見ていて頂戴? 私の大切なお人形さん」
郁 「判った」
凛音「人から精気を奪い、自分と郁先輩に流し込んでたんだね」
涼香「そうよ? 我が身の為に、人を犠牲にするのは仕方のない事ね」
凛音「限度ってものがあるでしょう?」
涼香「限度なんて言っていたら私も郁も醜いままよ」
凛音「ふーん? 妖(あやかし)になるって事は人に対する怨嗟と憎悪の負の感情がないと付け入る隙がないから、

   何かあったんだろうけど興味ないや。っていうか、なんで西園寺先輩に生徒会長を任せたの? 自分の方が利点が大きいでしょ?」
涼香「ふふっ、郁の中性的な美しさに人は盛(さか)るみたいだから、集客にちょうど良かったの」
凛音「ま、そんな所だよね」
郁 「涼香・・・? なんて?」
凛音「かわいそうね、西園寺先輩。あんた、この妖(あやかし)に利用されただけだよ?」
郁 「そんな馬鹿な! 涼香?!」
涼香「何度も言っているでしょう? 郁、あなたは私のかわいい人形だ・・・、って」
郁 「それは」
凛音「妖(あやかし)に心なんて期待したのが間違いだよ、西園寺先輩」
綾香「なんて、酷い・・・」
涼香「まず、そちらの戸惑ってる可愛い子猫ちゃんを戴こうかしら。郁、その子抱きしめてあげて? あなたの事好きみたいだから」
郁 「涼香! 僕は」
涼香「私のいうことが聞けないの? 郁。もう、精気要らないの?」
郁 「・・・判った」
凛音「知能あり、人を操る能力なし。シャトーに報告だね」
綾香「いや! 来ないで! ば、化け物!」
郁 「化け物だなんて、酷いな。あんなに僕を熱心に見ていてくれた癖に」
凛音「オン・アミリティ・ウン・ハッタ!」
郁 「あぅ!」
綾香「水? え? お札と水?」
凛音「妖(あやかし)の力を分けて貰った体には効くでしょ? 香を溶かし込んだお札は!」
綾香「凛音・・・? これは」
凛音「言ったでしょ? 大丈夫だ、って。綾香には指一本触らせないから! 西園寺! 清祥院!」
涼香「そう・・・、じゃあ直接お前を戴くわ!」
凛音「オン・サラサラ・バザラ・ハラキャラ・ウン・ハッタ。戻りなさい、精気達、元の主の元へ」
涼香「・・・っ! いや、いや!! 精気が、抜けてしまう!」
郁 「あ、い、やだ・・・。痣が、元に戻ってしまう」
凛音「人から物を奪っちゃいけませんって、幼稚園で習わなかった?」
涼香「おのれえええ!!」
綾香「あ、おばあさん達、少し若返った・・・」
凛音「オン・サラサラ・バザラ・ハラキャラ・ウン・ハッタ。オン・サラサラ・バザラ・ハラキャラ・ウン・ハッタ」
涼香「この精気は・・・、あたしの、物! お前を食らった後にもう一度食ってやる!」
凛音「酷い顔」
涼香「この顔を見たお前も! お前も! 生かしては置かない!」
綾香「え?! あ、あたしも?!」
凛音「アビラウンケン!!」
涼香「あ・・・っ! がぁ!!」
凛音「アニ・マニ・マネイ・ママネイ・シレイ・シャリティ・シャミヤ・シャビタイ・センテイ・モクテイ・モクタビ・シャビ・アイシャビ・ソウビ・シャビシャエイ・アキシャエイ・アギニ・センテイ・シャビ・ダラニ」
涼香「いやあああぁあぁぁぁあ!!」
凛音「長い間、妖(あやかし)の力だけで生きて来たら元の体は残ってないね・・・。塵と化す、か・・・」
綾香「凛音・・・、西園寺先輩は・・・」
凛音「その人は本当に生きていたからね」
郁 「僕は・・・、僕は、涼香がいないと、ダメなんだ。涼香がいてくれたから、あぁ、こんなに痣が残っていて・・・」
綾香「なんだか、かわいそう・・・。あ、おばあさん達みんな若返った!」
郁 「僕は・・・、これから・・・」
凛音「人に依存して生きて生きた罰ね」
郁 「君、強いんだね・・・。ねぇ、僕はこれから、どうしたらいい?」
凛音「考える事すら放棄してきたんだね。面倒見きれないわ、自分で考えて」

 

綾香「転校、するんだって?」
凛音「仕事、終わったからね」
綾香「あー、はは、あのね。あたしも月末で転校することにしたわー」
凛音「そうなの?」
綾香「やっぱ、コネで入ってもいい事ないね。お金持ちは何考えてるか判らない!」
凛音「まぁ、そうよね」
綾香「あのさ! 凛音!」
凛音「ん?」
綾香「また、会えるかな?」
凛音「あたしのいる所には妖(あやかし)がいるよ? 関わらない方がいいって」
綾香「それでも! ちょっとの間だけど、友達だったから、だから・・・」
凛音「LIME、交換しよ? 司令部が許してくれたら通信できるかも」
綾香「うん! うん!」
凛音「元気でね、綾香」
綾香「風邪ひかないでね? 無理しちゃだめだよ? 一人で抱え込まないでね?

   相談できる事あったらして欲しいの。頼りないけど、あたし、あたし・・・」
凛音「ありがと、綾香」
綾香「・・・うん、ずっと友達でいてね? 大好き凛音」
凛音「バイバイ、またね」