​原典の勇者 第9話 -終焉の地 グニタヘイズ / ♂×3 ♀×5 / 嵩音ルイ

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所要時間:130分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス 23歳 ♀

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。気さくで明るく、気を許した人間には優しい。

顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。

アンドラにより生み出された人造人間。コーヒーが好き。

 

アニ 12歳 ♀

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。天真爛漫で可愛い。

好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。既存の枠にとらわれない魔法の扱い方をする。

オティスのためになることは何かを常に考えている。ネリネという気さくに話せる友達が出来て嬉しく思っている。

ベニオット 26歳 ♂

王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。最近紅茶を淹れるのが妙にうまくなった。

真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。

パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

ヴラドニア 22歳 ♀

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。

元王女であり、兄の死の真相を追っている。メイカの奸計により視力を喪失したが、気配探知の術で賄っている。

 

ヴァンハーフ 30歳(自称) ♂

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。

人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多才な人物。

勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。不満を持つ住民と勇者を焚きつけ、戦争を引き起こした。

 

ネリネ 11歳 ♀

半竜半人の謎の少女。未来の探検家を志しており、隙あらば世界を回ろうと企んでいる。

非常に活発で、年齢にそぐわない力と知識を持ち合わせている。

君臨勇者ヴァンハーフの娘。最近あった嬉しいことは、アニと仲良くなれたこと。

デュラハン ??歳 ♂

死者の憎念、生を食い散らかす怪物。伝承『霧の町デュラハンの首無し騎士』より、広く世界に知られている。

ヴァンハーフの策略とキバイラの強化により姿が変貌し、会話能力と個としての外殻を得た。声がどこから出るかは謎。

ガープ大橋にて、無月剣を折られオティスに敗北したはずだったが・・・?

ゴフォード(瑚鳳度) 20歳(人間換算) ♀

現代を生きる鬼。『鬼邪八塩船団』という海賊団を率いている。珠酊院の流派であり、人と寄り添う事を良しとしている。

鬼こそが世界の覇者に相応しいと考え、あくまで人は利用する物と認識している冷徹で狡猾な性格。

名前の正しい発音は「ごほうど」なのだが、誰も正しく読んでくれないのを少し気にしている。

ウォースロット(デュラハンと兼ね推奨)27歳 ♂

かつてのオティスの仲間。黒騎士と呼ばれる、当時世界最強の竜騎士。

人と会話するときに一切言葉を選ばないため、相手に誤解されがち。

根は素直で、オティスのことを第一に思っている。煙草は戦いの前にしか吸わない。

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役表

 

オティス(♀)・・・

アニ(♀)・・・

ベニオット(♂)・・・

ヴラドニア(♀)・・・

ヴァンハーフ(♂)・・・

ネリネ(♀)・・・

デュラハン/ウォースロット(♂)・・・

ゴフォード(♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

〇終焉の地「グニタヘイズ」

 

ウォースロット 「魔龍の本拠地グニタヘイズに、かつて国があったというのは知っているか?」

オティス 「え・・・なにそれ。知らないけど」

ウォースロット 「まずおさらいと行こう。この国の統治形態は?」

オティス 「ええと、絶対王政だよね。王都アスカロンを中心として、各地の諸侯が与えられた領土を治める・・・だよね?」

ウォースロット 「遠からず近からずだな。本質を理解しているならばそれでいい。グニタヘイズはフレイズマル全土を統べるアスカロンの鎖からは外れ、鬼灯島と同様に独自のコミュニティを築いていたとされている。住まうのはあくまで人だがな」

オティス 「鬼灯島・・・か」

ウォースロット 「すまない、配慮を欠いた話題だった」

オティス 「いや、いいよ。あれは私が選んだことだ。はー・・・知らなかった。魔龍の拠点に国があったのか」

ウォースロット 「呪われた国だ。魔龍伝説より以前から歴史の隅にひっそりと存在し、しかし確実に爪痕を残している。グニタヘイズが統治形態に飲み込まれなかったのは、偏に高度な文明と凶悪な軍事力をたった一つの島で所有していたからだ」

オティス 「高度な文明――なにそれ面白そう!どんなのがあったの?」

ウォースロット 「俺の竜騎士戦法も、無月剣も、原初を辿ればグニタヘイズから生まれたものらしい。人と竜とで連携し、常人以上の戦闘力を引き出す。効果は高いが、あまりに難解な戦法であるが故に封印されていたものらしいが」

オティス 「それをしれっと使いこなしてるお前は何なの?」

ウォースロット 「相応の努力はしていたとも。しかし人の行いとは、常に才能と適性が付いて回るものだ。構想を練り上げた者には感謝の念しかないな」

オティス 「ま、ふつう竜に乗ろうなんて考えないよね」

ウォースロット 「しかし、それだけの力を持った国でさえ魔龍により滅ぼされた。もはや彼の地に文明は無く、魔物が蔓延る不毛の地となった。準備を整え、俺たちが目指すべき場所。説明はこれくらいで構わないか?」

オティス 「ああうん、有難う。大体わかった・・・そうか、それだけ強い国でも魔龍には負けるのか」

ウォースロット 「勇者だからと慢心するな。最善の手を以て最善を尽くす。それでもようやく届くかどうか、だろう。その七星剣に恥じぬ強さを手に入れることだ」

オティス 「ん、そうだね。しかしなんだってそんなにグニタヘイズのこと知ってるの?アンドラに聞いても知らないの一点張りだったし」

ウォースロット 「俺とてそこまで鮮明に覚えているわけではない。が――グニタヘイズは、俺の生まれ故郷だ」

オティス 「・・・・・・は????」

ウォースロット 「物心ついたころにはアスカロンにいたからな、記憶は幼少期の朧げなものだ。しかしこの国ではない景色を俺は確かに知っている。故に、俺は自身を「そう」いうものだと認識している」

オティス 「あー、と?あ、ははは。そんなことある?」

ウォースロット 「俺がこの度お前の一味となったのも、故郷の奪還が建前だ。だがあくまで個人的な願いだ、お前は気にしなくとも構わない。やるべきを変わらずにやればそれでいい」

オティス 「いやそんなこと話されたら気にもなっちゃうでしょ・・・って、ん?待って。建前って言った?」

ウォースロット 「さて、やることはまだ山積みだ。ひとまずここの町長に話を通さないとな」

オティス 「や、ちょ、待てって!建前じゃない目的は何!?何なのー!!!」

 

 

 

アニ    「へー。グニタヘイズって、そんなところだったんだね?」

ネリネ   「すっごーい!とても面白そうなのだわ!」

ヴラドニア 「王家には伝わっていた話ね。グニタヘイズにて築かれていた文明や技術はその殆どが魔龍の襲撃で失われたとされている。辛うじて残ったものが竜騎士戦法と・・・ここ数年で発掘されたのは空中戦艦ね」

ネリネ   「え!このゴールデン・ヴェニソン号ってグニタヘイズの技術なの!?」

ヴラドニア 「メイカが過去の文献を読み解いて基礎設計をして、核の機関と調整はフォラスがやったみたい。つくった本人すら、浮く理由を完璧に解析できていないようだけれど」

アニ    「なんで飛ぶかわかってないってこと?うーん、ちょっとこわいね?」

オティス  「当時のグニタヘイズ観はそんな感じかな。色々脚色されてはいるけど、今とそんなに変わんないと思うよ」

ネリネ   「有難う!とっても面白かったのだわ!人が失せた未開の地・・・興味深いのだわ!」

オティス  「・・・ところでアニちゃん、使うコーヒー豆変えたりした?なんかいつもと違うような」

アニ    「えっ?うん、変えたよ。よく気付いたねお姉ちゃん」

ヴラドニア 「オティスさん。カラドインが堕ちたというのは御存じでしたか?」

オティス  「ん?堕ちた、とは?」

ヴラドニア 「暴動の話よ。魔龍信仰者の軍勢を勇者同盟が扇動してるのは知ってるわよね」

オティス  「う、うん。原典至上主義者も、行方不明になったメイカに続かんとして、君臨勇者と同盟を組んだって」

ヴラドニア 「その軍勢が、王都を目指しながら各地の町を拠点として制圧しているのは?」

オティス  「知ってるけど・・・まさ、か」

ヴラドニア 「そのまさかよ。向こうの手に堕ちたの、カラドイン。流通経路も乗っ取られたおかげでコーヒー豆の供給も止まってしまっていて・・・」

アニ    「うん、だから昨日の1杯で備蓄が切れたみたいなん・・・、ってお姉ちゃんすごい凹んでるう・・・?」

ヴラドニア 「ごめんなさい。シパオにも備蓄がなくて・・・ん、サザエが鳴っているわね。ベニオットかしら」

ベニオット 『おいオティス、少しいいか』

オティス  「・・・なぁに?」

ベニオット 『いやなんだそのテンションの低さ――ヴァンハーフお抱えの船団に動きがあったぞ』

オティス  「っ!ヴァンハーフの!?」

ベニオット 『キャリコの旗を掲げている船がいた。『鬼邪八塩船団(きじゃやしおせんだん)』の船もちらほら混じっていたがな』

ヴラドニア 「鬼邪八塩船団・・・やっぱり出てきたわね。ここ最近は大人しくしていたのに」

オティス  「なにその変な名前の部隊」

ネリネ   「むむむ、海賊なのだわ!すべての海を股にかけ、全てを奪い尽くす悪逆の徒!いい噂は全く聞かないのだわ!」

ヴラドニア 「キャリコの船団を取り込んでいたのね。もう血染めのヴラドニア怖るるに足らず、とでも言いたいのかしら。舐められたものね」

オティス  「海賊まで取り込んでるのか・・・そいつらはどこに向かっていた?」

ベニオット 『カラドイン方面からアスカロンへと向かっているようだな』

オティス  「カラドイン」

ベニオット 『ああ。ひとまず合流できるか?俺だけでは船団を相手出来ん、まずはおまえだけでも――』

オティス  「ヴラドニア、船回せる?」

ヴラドニア 「え。ええと・・・わかったわ。準備に少しかかるけれど、よろしくて?」

オティス  「さーて、七星剣のメンテして来よう。ははは、八塩だか社(やしろ)だか知らないが、食べ物の恨みはこわいぞ~」

ネリネ   「あら、行っちゃったのだわ。カラドインに大切な人でもいたの?」

アニ    「人というよりは・・・お姉ちゃん、コーヒー好きでしょ?カラドインで獲れるコーヒー豆って美味しいから、飲めなくなってショック受けてるんだと思うよ」

ネリネ   「そうなのね?コーヒーがなければ紅茶を飲めばいいじゃない!昔を悔やむより今を楽しまないとなのだわ!というわけで、クッキー頂きまーす!」

ヴラドニア 「昔を悔やむより、ね・・・」

ネリネ   「んー!このクッキーとても美味しいのだわ!これはアニがつくったの?」

アニ    「ううん、ヴラドニアさんだよ。お菓子作るの得意らしいんだ」

ネリネ   「そうなのね!あれ?けど、今って」

ヴラドニア 「・・・「こう」なる前につくっていたものです。気配探知じゃ、上手く料理は出来ないものね」

ネリネ   「はわわぁ!?そんな貴重なもの、食べてよかったのだわー!?」

ヴラドニア 「構わないわ。食べるためにつくったものだもの」

ネリネ   「そうなのね!なら遠慮なくいただくわ!うーん!これは罪、まさに芸術的なのだわ!けど、どれもこれも赤いのはどうしてなのかしら?」

アニ    「それはほんとにわからない」

ヴラドニア 「何故か赤くなったの。何も製法は間違えてなかったはずなのに・・・」

アニ    「いつものソースを入れたわけじゃないんだよね?ますます理由がわからないや」

ネリネ   「味はチョコやバニラと色とりどりなのに、全てが一様に赤いのだわ。まるでギャンブルね。食べるまで何の味かわからない・・・けど、これはこれで楽しいのだわ!前人未踏猪突猛進!うん!まるで冒険みたいなのだわ!」

アニ    「うん、そうだね・・・これはイチゴ味なんだ。見た目通りだね」

ネリネ   「アニのコーヒーも美味しいのだわ!ネリネ、甘いほうが好きだからお砂糖とミルクはたっぷり入れちゃったけど」

アニ    「飲みたいように飲むのが一番いいよ。甘くしたカフェオレ、私も好き」

ネリネ   「こういうの、とても素敵なのだわ。大好きな友達と一緒にティータイム。騒がしくて楽しいのも好きだけど、平穏も好きなのだわ!」

アニ    「そうだね、あたしも楽しいよ」

ネリネ   「うん。今までたくさんの人に出会ったけど、アニと出会えてとても嬉しかったのだわ。歳が近しい子には、いつも怯えられていたもの」

アニ    「そうかな?変だとは思わないけど」

ネリネ   「ほんと!?」

アニ    「お姉ちゃんと旅をして、いろんなものと巡り合ったから。首無し騎士、鬼、魔物・・・竜騎士に、王女様に、お姉ちゃん。ネリネは、なにもおかしくなんてない。どこにでもいる普通の女の子でしょ?」

ネリネ   「っ・・・そ、そう?けど、けどね!このネリネもネリネなのだわ!空も飛べるし、火も吐ける!これこそがネリネなのだわ!」

アニ    「立派な翼、生えてるね。いいなあ。あたしも空、飛んでみたい」

ネリネ   「アニはいっつもこのお船で空を飛んでいるのに?」

アニ    「そうじゃなくて、自分の力で飛びたいの!」

ネリネ   「うーん、ネリネはあまり重いものを持つと飛べなくなっちゃうのだわ。空を飛ぶ魔法はないの?」

アニ    「なさそうかな。アンドラの魔導書に、それらしいものは書いてあったけど難しくて」

ネリネ   「じゃあ、約束!」

アニ    「え、何を?」

ネリネ   「いつか二人で、空を飛ぶの!綺麗な景色をたくさん見て、行ったことないところに行って、誰も知らない新天地を空から見つけるの!どう?とってもとっても楽しそうだわ!」

アニ    「っ!うん!約束!約束だよネリネ!二人で、絶対見ようね!」

ネリネ   「見つけた島の名前はネリネでいいよね?」

アニ    「あたしの名前は!?」

ネリネ   「そんなもの、早い者勝ちなのだわ!えっへん、ネリネは空舞う冒険者として歴史に名を刻むのだわ!まずは誰も登頂に成功していないグレート・マウンテンの山頂にネリネ印の旗を立てるところからはじめるのだわ!」

アニ    「そ、壮大だね?」

ネリネ   「夢は大きく、目標は高く!お父様も言っていたのだわ、確実に達成できる目標なら立てないほうがいっそマシだって。いつだって研鑽、鍛錬、そして成長!なのだわ!」

アニ    「ネリネが世界一の冒険家なら・・・あたしは世界一の魔法使いになっちゃおうかな~?」

ネリネ   「おおお!?アニってば大胆さんなのだわ!それは、とてもとても素晴らしいことなのだわ!」

アニ    「目標は大きく、なんでしょ?だったらあたしもこの名前を歴史に刻まないと!ふふん!」

ネリネ   「オティス様の仲間として、もう歴史には刻まれてると思うわ?」

アニ    「じ、自分の力でがんばりたい!」

ネリネ   「そうね!じゃあ、はい」

アニ    「ん?小指を出して、どうしたの?」

ネリネ   「キバイラさんに聞いたの!こうやってお互いの小指を結んで、約束するという儀式があるらしいの!」

アニ    「変わった文化だね?鬼のしきたりって不思議・・・わかった、はい。こうでいいの?」

ネリネ   「そう!ええと・・・ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!指切った!のだわ!」

アニ    「針千本!?ちょ、聞いてないよ!?」

ネリネ   「それくらい礼節を重んじると言う事だと思うわ!えへへ、ネリネとアニだけの約束!」

アニ    「・・・うん、約束だよ」

ネリネ   「へへへ。ネリネ、嬉しいのだわ・・・」

 

 

 

ヴァンハーフ「ネリネは今、勇者一行と共にいるのか。それはとてもいいね、彼女たちにはとても綺麗な絆がある。これでネリネも『完成』に近付いただろうか」

ゴフォード 「全く、貴様も飽きないものじゃな。相も変わらず珍妙な実験ばかり。脳が捻くれておるのか?」

ヴァンハーフ「ん?ああ、ゴフォードか。元気にしていたかな」

ゴフォード 「戯け。いくら同盟を結んでおるとは言え、我の『鬼邪八塩船団』を荷運びなんぞに扱うなど。大層な身分であるな君臨勇者、貸しは高くつくぞ」

ヴァンハーフ「相応の報酬は与えているはずだよ。それに、君は積み荷の一部をこっそり着服しているだろう。分け前としては十分だ」

ゴフォード 「はて、何のことやら。我にはさっぱり判らぬな。其方が寄越してきた何とかという船団の者ではないか?いくら我とて末端の末端まで目は届かぬ」

ヴァンハーフ「君は相変わらず、のらりくらりと言葉を濁すねゴフォード。自分の立場はわかっているかい?」

ゴフォード 「人の視点でいう「立場」なんぞ我の与り知らぬものよ。我は鬼ぞ?人と手を組みはすれど決して相容れぬ。貴様とて例外ではないわ」

ヴァンハーフ「そうだね。君たちとヴラドニアとの確執も記憶に新しい」

ゴフォード 「彼奴にはいくつも船を沈められたからのぅ。王都の事件のおかげで大人しくなったようで清々したわ」

ヴァンハーフ「そのまま邁進してくれると有難いね。君のおかげでツラヌキ1.7の各地への配備も恙なく進んでいる、キャリコの船団だけでは立ち行かなかっただろう」

ゴフォード 「ツラヌキ・・・?なんじゃそれ、ダッサい名前じゃな」

ヴァンハーフ「君に運んでもらってる、量産型の魔法銃の名称だよ。命名したのは原典の勇者だ」

ゴフォード 「ほう?それはいいな。民草にとっては英雄のお墨付きが付いた武器と言う事になる。人間とは単純故な、原典の勇者の加護ありと謳えばさぞかし鼓舞されるであろう。これも貴様の予測の内か?」

ヴァンハーフ「命名に関しては製作者の気まぐれだからね、僕は関わっていないよ。しかしこの世に偶然というものはないのかもしれないね。ツラヌキ1.7と言う名に成ったことも、こうして僕と君が指の先だけ手を組んでいるのも、女神が決めた必然なのかもね」

ゴフォード 「貴様、無神論者であろう?」

ヴァンハーフ「無神論者だとも。僕はね、女神の不在を証明したいんだ」

ゴフォード 「気持ち悪いのう」

ヴァンハーフ「まっすぐな言葉だね。とても心に響いたよ」

ゴフォード 「そんなことをして何になる。ただ示したいだけか?」

ヴァンハーフ「人は、世界は、変わらないといけないんだよ。女神がもしも本当に世界を調律しているのなら、人を救い人を罰すると言うなら――僕の計画はとうに破綻しているはずだ。女神がこんな無礼を許すはずもないからね」

ゴフォード 「答えになっておらぬぞ」

ヴァンハーフ「小鳥はいずれ親鳥の元から離れ、飛び立たなければいけない。しかし翼が未成熟であれば失墜し死んでしまう。いつまでも巣にいて自由を知らぬは、死んでいるも同義だ。小鳥は、飛び立てるようにならなくてはね」

ゴフォード 「人も・・・そうじゃと言いたいのか?」

ヴァンハーフ「人は何かに縋らなければ生きていけない。女神は人の弱さが生み出した虚像なのだとしたら――人は、弱さを棄てなくてはいけない」

ゴフォード 「鬱陶しいわ。もう良いもう良い、底のない腹を探るほど気持ち悪いものもないわ」

ヴァンハーフ「君は君のままであるといい。お互い対等でいたほうが都合がいいだろう?君の目的を叶えるためにもね」

ゴフォード 「そうさな。我は我のあるがまま、この海の支配者と成ろうか。これからも精々利用されてやろう、我の『鬼邪八塩船団』の発展のためにな」

ヴァンハーフ「しかし、考えたものだね。祝福の紋章が馴染まなかった者を登用して船団の構成員に加えるとは」

ゴフォード 「勇者に成り得るものであれば、そこらの人間より強かろう?紋章刻印に失敗したとて地力がある。奴隷を買い込むよりは余程有益よ」

ヴァンハーフ「人に属しながら人を道具のように扱う。とても興味深いね」

ゴフォード 「魔龍を喚ぶのであろう?我をわざわざ呼び出して、何のつもりじゃ?」

ヴァンハーフ「ああ、そうだった。少し頼みたいものがあってね。これを、運んでもらえないかな」

ゴフォード 「・・・随分とでかいのう?鋼で出来た繭のようじゃが・・・中身はなんじゃ。よもや兵器か」

ヴァンハーフ「そうだね、『番外個体(シファル)』とでも呼ぼうか。稀代の魔法使いアンドラ――彼は自身の魔導書に「オティスの創り方」を隠していたんだ。ヴァンハーフとなってから試行錯誤を続け、ようやく1体だけ完成したんだ」

ゴフォード 「は・・・ははは!成程、成程!勇者をつくったというわけか!しかし、どう使う?貴様がかねてより欲しがっていた大義名分にでもするつもりか」

ヴァンハーフ「それならば王都で強引に入手した。あくまで『番外個体(シファル)』は僕が使命を失した後の次策だ。つまりね、このカプセルを開けるべきは僕じゃない」

ゴフォード 「ふむ、置き土産だというつもりか。まあ良い、どうせ我には関係のないことよ。それで、どこに持っていけばいい?」

ヴァンハーフ「どこでもいいよ」

ゴフォード 「は?」

ヴァンハーフ「これは未来に送るべきものだ。僕が行使する物でも、君が手に入れるものでもない。いつか誰かの手で見つけられ、楔となるためのモノだ」

ゴフォード 「・・・やっぱり気持ち悪いのう」

ヴァンハーフ「二度目はさすがに勘弁願いたいね」

ゴフォード 「仕方あるまい。貴様の気まぐれに付き合ってやろう、報酬は弾め。その口ぶりじゃとどこに運んだは伝えんでも構わんな?」

ヴァンハーフ「ああ。よろしく頼むよ。海の中に投げ捨てたりは御免だよ」

ゴフォード 「ふん。そら、疾くと準備せい瓶汰(びんた)、天乃(あまの)!お主らよく休暇で向かう町はどこじゃ、教えい!」

 

デュラハン 「・・・なるほどな、民間に銃を卸していたのはゴフォードの船団に由るものか。キャリコを取り込み、勢力を拡大していった結果か。しかし――『生産』はどこだ?あれだけの量のツラヌキ1.7を生産できるのは一朝一夕では叶わない。どこかに生産工場があるはずだが、そのようなものもどこにもない。まだ泳がせるか?それとも――」

 

 

ヴァンハーフ「さて、皆の衆。ここからが佳境だ。僕は世界のために戦えだとか、大義を背負えという気はない。ただ君たちは、生きてきて感じたはずだ。不満を、不平を、不服を、不安を、不可解を、不利益を。だがもう、抑え込まれ心の燻りを握りつぶす生活は今日で終わりだ。君たちの手には力が与えられた。現状を変えるための、打ち砕くための力が。勝ち取るんだ。ただ与えられるのを、女神の救いを待つだけではいけない。掴み取るんだ。君たちの心の拠り所を、「間違い」だとされないために。僕と共に、新世界への扉を開く手伝いをしてほしい。世界を変えるのは、立ち上がる人間だけだよ」

 

 

 

ヴラドニア 「はーいベニオット、もう一回言ってもらってもいいかしら?」

ベニオット 「おう、何度でも言ってやろう。現国王、ゲオルグ13世が王都から逃亡したそうだ」

ヴラドニア 「はっ・・・はああああああああああああ!?なんで?どうして!?意味が、意味がわからないのだけれど!?!」

ベニオット 「俺も耳を疑ったとも。なんならこの目で確認に行った。しかし、本当に王宮はもぬけの殻になっていた」

ヴラドニア 「あんの人は!お父様の性格は承知していたつもりよ?今回もどーせ役に立たないとは思ったけれど、王都から逃げ出すなんて選択肢を取るなんて!!」

ベニオット 「正直、そこまでとは俺も考えてはいなかった。さて・・・どうしたものかな」

ヴラドニア 「まさか、軍の指揮官も逃げ出した――なんて言わないわよね!?」

ベニオット 「さすがにそこまで腐ってはいないさ。しかし、如何せん上がごっそり前線から消えたわけだ。そこに魔法銃を携えた暴徒が押し寄せてる。踏ん張りどころなのだが・・・逃げた兵士も大勢いる、と」

ヴラドニア 「あぁ。そうよねー、そうなるわよねー」

ベニオット 「王の激励も何もなく、ましてや尻尾巻いて逃げたとなっては士気も上がらんだろう。そのせいで王都外縁の守りが突破されたとあっては、いよいよ以て王都アスカロンは終わるな」

ヴラドニア 「王都が落ちれば、各地への影響も計り知れない・・・そろそろ、覚悟を決めなければいけないわね」

ベニオット 「ヴラドニア?何を企んでいるんだ」

ヴラドニア 「私はね、王位継承権を放棄して勇者特権者と成りました。それでも私は、シャーロット家の長女であることに変わりはないの。だから、空いた席を借りるわ」

ベニオット 「な、ヴラドニア・・・お前、王都の指揮系統を乗っ取るつもりか?」

ヴラドニア 「利用させてもらうだけよ。お父様が成さないなら、私が成さないと。ヴァンハーフと勇者同盟は討ち果たさなくてはいけない。そのために使えるものなら何でも使うわ」

ベニオット 「はは。お前は勇者と暴徒を相手に戦争を起こそうとでも?」

ヴラドニア 「こうなってしまっては避けられぬ事象でしょう。ここは歴史の帰還不能点となる。その分岐の鍵は、私が握ります」

ベニオット 「ならば・・・俺も、お前の駒になろう」

ヴラドニア 「そうね。貴方にしか出来ない役割もあるでしょうし。力になってくださる?」

ベニオット 「当然だ――ああそれと、一つ伝え忘れてた」

ヴラドニア 「なに?」

ベニオット 「逃亡した王を護衛していた部隊がいたらしい。その指揮役は・・・君臨勇者だった、と」

ヴラドニア 「・・・それ、最初に伝えるべきじゃないかしら!?」

ベニオット 「すまん、俺もそう思う」

ヴラドニア 「すぐに取り掛かるわよ!敵の戦力、拠点の把握!それから兵士たちの現在の配置に、あとはあとは・・・そうだ、私の魔法銃の弾!どうなってるかわかるかしら?」

ベニオット 「心配いらん。量産済みだ!」

ヴラドニア 「わかったわ!・・・いよいよ、佳境ね。気を引き締めなさい、ヴラドニア。お兄様が大好きだったこの国を、守り通すために」

 

 

 

ヴラドニア 「聞け!この世に生を受けし数多の兵士たちよ!望まずして此処に居る者もいるだろう、国のために命を賭けられぬという者もいるだろう!それでもいい、願いは強制されるものでもなく、信仰は強要されるものではない!大きいものを掲げる必要はない、ただ手の中にある、大切なもののために戦え!親でもいい、友でもいい、財や名誉、自分自身でも!明日を奪われないため、大切なものを守り通すため!この薔薇の紋章の下に集え、我が名はヴラドニア・リ・シャーロット!悪を討つ正義の徒、血染めのヴラドニアだ!貴公が信じる者のために、此処にいる全ての者を導く旗と成ろう!進め!これは、守るための戦いだ!!」

 

 

 

ゴフォード 「くは、うはははははは!女神を打ち倒す者として君臨勇者が。女神の力を護る者として血染めが。かつては同じ同盟下で轡を並べた二大の勇者が異なる旗を掲げぶつかり合う。滑稽なことこの上ないのう」

デュラハン 「・・・興味はないな」

ゴフォード 「革命軍が奪い、王都軍が奪い返す。どこもかしこも戦場戦場、心が躍るが――どいつもこいつも大層なことよな。勇者というのはこれだから気に食わん」

デュラハン 「人が人を御するのがそんなにも目に障るか?」

ゴフォード 「人は神ではない、ただ誰かの胸の内にある拠り所こそが『神』と呼ばれるものとなる。そこに人間風情が居座ろうなど傲慢とは思わぬか」

デュラハン 「人を導くものが、必ずしも神であるとは限らない」

ゴフォ―ド 「そうさなぁ、それは然り。故にこそこの世界は荒れておる。必要なのは象徴ではなく、力よ」

デュラハン 「夢がないな。欲に溺れ、ついぞ夢想することを忘れてしまったと見える。」

ゴフォード 「無謀な妄想を夢とは呼ばん、下らぬ夢を視るのは人間の特権よ。そうは思わぬか?首無し騎士。それとも――鬼殺しの英雄、叛逆の黒騎士とでも呼んだほうがええかのう?」

デュラハン 「その結果を悔いる気はない。俺は俺の正義のため、成せるべきを成しただけだ」

ゴフォード 「そうじゃな、もし謝罪などしようものならその首、刎ねておったところであったぞ」

デュラハン 「俺はデュラハンだが」

ゴフォード 「知っておるわ、融通が利かん奴め・・・我はな、正直この戦争でどちらが勝とうがどうでもいいのよ」

デュラハン 「鬼だから、か?」

ゴフォード 「その通り。じゃから貴様が何を思い、何のために我の船団に襲い掛かったのか・・・そんなことは些事じゃ、過程に興味などない。ただ貴様が我の船団に挑み、こうして拘束された。その漫然たる事実があれば良い」

デュラハン 「己の失態に言い訳はしない」

ゴフォード 「うは、高潔なる黒騎士様は格好ええのう!己の未熟さ故に怪物に身を落とした道化が、騎士道と勘違いしたまま大道芸を続けるか!」

デュラハン 「そうしてまで、俺には為すことがあるからな。貴様に俺は殺せないぞ」

ゴフォード 「それも知っておる。というか貴様、インチキにも程があるわ。首を失い、核を喪い、なおこの世界に存在し続けるなぞ。どうやって討てばいいんじゃお主は」

デュラハン 「おいそれと死んでいる場合ではなくなったからな」

ゴフォード 「じゃが所詮は亡霊よ。生者に楯突いて、よもやただで済むとは思うまいな?緋徳智(ひとくち)、そのまま魔の鎖を離すでないぞ――我は臆病者故な、こちらに牙を剥かんとする狼には鎖を付けて躾けねばならん。『天上布武(シクス・ドミネイト)』!」

デュラハン 「っ!?ぐ・・・貴様」

ゴフォード 「亡霊とは虚ろなもの。世界に呪われしもの。故にな、他からの呪いにも弱いのよ。簡単に紋章を植え付けられ、鬼狽羅なんぞにギアスを結ばれるのもそうじゃ」

デュラハン 「この俺を、呪いで縛ろうというのか」

ゴフォード 「死ねぬ理由があると言ったな。なればこそ好都合じゃ、死なぬ奴隷ほど価値のあるものがあるか?我が貴様に新たな剣を与えてやろう。この瑚鳳度の為!正義を穿つ剣となるがいいわ!」

デュラハン 「・・・承知した。この力は、今は貴様のために振るおう」

ゴフォード 「抵抗しようなどと考えるでないぞ?貴様の核として、1つ聖遺物を据えた」

デュラハン 「聖遺物――成程、禍々しい気を感じる。呪いの品か」

ゴフォード 「かつて王へと叛旗を翻した男が持っていた短刀じゃ。歴史は浅い聖遺物じゃが、貴様と相性は良かろうて」

デュラハン 「ふむ、そういうことか。似た者同士なら馴染みやすいだろうな」

ゴフォード 「消滅を免れることは出来ようが、貴様の存在は我の呪いで縛られておる。使命を成せぬまま消えたくはあるまい?」

デュラハン 「拘束具のような代物だな。少々、窮屈だ。腕が動かし辛い」

ゴフォード 「貴様なら支障はなかろうて。我らはこのままアスカロンを目指す。戦況を左右するのは一騎当千の英雄でも最高の軍師でもない、武力じゃ。戦術は戦略で打ち壊すもの。故に使えるものは貴様とて懐に入れてやろう」

デュラハン 「物好きめ。ところで、12時の方向。船団が確認できるぞ」

ゴフォード 「ほう?監視班からの報告は何もなかったが?おい見張り!12時の方向に船が見えるか」

船員A  「12時・・・?うわ、本当だ!船団がいます!10隻ほどがこちらに向かって――ごはぁ!?」

ゴフォード 「使えん奴よ。デュラハンの目に劣るなど恥を知るが良いわ。来世でやり直せ」

デュラハン 「船員を、殺すとはな」

ゴフォード 「人間などいくらでも変わりは居る、使えぬものを船に載せるほど我は優しくない。しかし・・・『魔の海域』じゃというのにこちらを捉えてくるか。気配探知でもしたか?」

デュラハン 「この海域を庭のように進むとあれば、血染めのヴラドニアだろうな。向こうには魔法使いと最新鋭の魔道具がある」

ゴフォード 「たしかに、1隻宙に浮いておるな。金鹿号ならば相手にとっては不足なし!者ども、迎撃準備じゃ!大砲に弾を込めろ!単縦陣にて会敵!2番艦は防御壁を展開!ぬかるでないぞ!」

デュラハン 「俺は好きに動かせてもらおう」

ゴフォード 「構わぬ、貴様に船は必要あるまい?せめて、邪魔はしてくれるなよ」

 

 

 

オティス  「珈琲の恨みィー!『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!」

アニ    「船相手に大技!?」

ベニオット 「下手な大砲撃つより万能だな」

ヴラドニア 「戦術も何もあったものじゃないわね・・・ベニオット!別動隊はどう?」

ベニオット 「心配いらん!海賊なんぞに後れを取る海軍ではないようだ!」

ヴラドニア 「オティスさん、アニさん!その船の傍から退避してください!ネリネさん、主砲を5番艦に!」

ネリネ   「わかったのだわ!えいやー!エクストリームキャノーン、発射ァ!!!」

ヴラドニア 「私の船の主砲に変な名前を付けないでくださる!?」

ネリネ   「かっこいい名前にするのがいいのだわ!」

ヴラドニア 「琴線がわからない」

ベニオット 「あと戦艦は3隻・・・輸送船のほうが多いのはリリフの船団を取り込んだからか」

オティス  「積み荷には魔法銃と宝石・・・各地に武器をばら撒いて、戦火を広げてるわけか」

アニ    「リリフさんが大切にしてた船を、んなふうに使うなんて!」

ベニオット 「ああ、一泡吹かせてやらないとな!アニ、オティス!次は3番艦を落とせ!」

アニ    「わかった!隣の船に――って、ん?」

ヴラドニア 「アニさん?何かあったの?」

アニ    「誰も、いない?戦う人も操縦する人も、誰もいないよ!」

ベニオット 「前線の船だろ?さっきまで大砲も撃ってたはずなのに」

アニ    「なんだろうこれ。人の気配というより、まるで魔道具みたいな・・・ッ!?お姉ちゃん、急いで離れて!ここ、危ない!」

オティス  「え?何が――」

ゴフォード 「まんまと釣られおってからに、原典もつまらんものじゃな。『怨恨の平蜘蛛(エターナル・パインズ)』」

アニ    「きゃあああああ!?爆発したー!」

ベニオット 「な、3番艦が吹き飛んだぞ!おいヴラドニア、まだ主砲を撃ちこむには早かっただろ!」

ヴラドニア 「違う、私じゃないわ!」

ベニオット 「なんだと!?」

ネリネ   「ネリネ、回収してくるのだわ!ちょっとの間だけなら、二人を抱えて飛べるもの!」

ヴラドニア 「まさか、自分の船を囮にしたというの?そんな戦法を取るだなんて」

ゴフォード 「勇者ともなれば、高潔な者としか戦かわんようじゃな?狡猾な獣でも、自爆なんぞという策は取らんか」

ヴラドニア 「この気配――そう。そういうことね。ボス自らお出ましとは気が利いてるじゃない」

ゴフォード 「改めて名乗るとしよう。『鬼邪八塩船団』棟梁にして、現世にてなお生ける鬼の首魁!瑚鳳度(ごほうど)であるぞ!」

ヴラドニア 「へえ、海賊の棟梁が鬼の首魁なの。勇者の小間使いだなんて、鬼も堕ちたものね?」

ゴフォード 「ほーう、其方アイパッチをつけておるのか!なかなかに似合っておるな、何せ海賊にとっては必須アイテムだというからのぅ?しかし両目に付けるというのは聞いたことがなかった!さすがは時代の先駆者!ファッションも最先端と言う事か?」

ヴラドニア 「ええ、おかげさまで貴方の顔を見なくて済みました。さぞ醜い顔で笑っていることでしょう?鬼とは口も心も姿も醜いものなのね」

ゴフォード 「我、めちゃめちゃ美人じゃぞ?腰抜かすぞ?いやー、我の姿をその目で見れんとは勿体ないのぅ!」

ヴラドニア 「関係ないわ。海賊なんて輩に、高尚な者なんて居やしない」

ゴフォード 「・・・言うではないか、この瑚鳳度をただの海賊と呼んだな?」

ヴラドニア 「事実でしょう?港を見つければ襲い、船を見つければ沈める。暴力を振りまき無辜な民を苦しめる貴方が、海賊でなくてなんだというのかしら!」

ゴフォード 「無辜な民ィ?は!人間がどうなろうと我が知ったことか!時には人と手を組み、人が為と剣を振るうことも選ぼう。じゃがな、全ては鬼の復古のためよ。人間が何人死のうが、最後にこの瑚鳳度がこの海に君臨出来ればそれでよい」

ヴラドニア 「だからヴァンハーフと組んだのね」

ゴフォード 「然り。何故なら我の益になるからじゃ。鬼狽羅のように人を拒むでもなく、珠酊院のように人に寄り添うでもない!我は我のやり方で鬼の世界を手にする。邪魔立てしてくれるな、血染めの」

ヴラドニア 「そうもいかないわ。何故なら――貴方は人の邪魔をする「悪」だもの!フレック!」

ゴフォード 「其方には散々付け回されたものじゃ。しかしまあ、それも今宵で終わるか?そら、戦場を変えようか!」

ヴラドニア 「何を・・・っ!しま!?」

ゴフォード 「抜かせ!『戦艦抜錨(バスタード・ラストランナー)』!」

ヴラドニア 「船底を抜かれた!?やば、お、おちるうううううううううう!!」

ベニオット 「っわ、と!平気かヴラドニア!」

ヴラドニア 「きゃ!あ、ありがとうアホ毛!助かったわ!」

ベニオット 「受け止めた俺への感謝は無しか!?ひとまずこちらの船に降りる、『不死孵しの盾(キュベレイ・クラシュ)』を起動しておけ!」

ヴラドニア 「ゴフォードが現れた時から起動しています、御心配なく!」

ゴフォード 「魔断と血染めか――仲睦まじいのう、羨ましいとは微塵も思わぬがな。女が阿り男が図に乗る、吐き気がするわ」

ヴラドニア 「とことん、他人を記号としてしか見ないのね」

ゴフォード 「軟弱な感情で飯は食えぬ。友情や愛で船は動かん!飯は食えん!」

ベニオット 「そうだな、だが人は1人では生きられまい!」

ゴフォード 「だからといって友情を紡がねばならぬ理由がどこに在る?愛を語る間に命は死ぬぞ」

ヴラドニア 「さみしい人ね」

ゴフォード 「なら、示してみよ!其方らの言う愛とやらで、この我を打ち倒してみるがいいわ!」

ヴラドニア 「く!船の錨を振り回すなんて、馬鹿げた膂力ね!」

ゴフォード 「忘れたか?我は鬼ぞ!其方らを仕留めるためならば手段は一切選ばん!」

ヴラドニア 「まともに受けてたらこっちが壊されるわね。さあ、鬼ごっこと行きましょうか?アルヴィド!」

ゴフォード 「ネズミのようにすばしっこいのう。ちまちました作業は性に合わん。いっちょやるか、『五天世界(エクス・カーム)』」

ベニオット 「そうだ、そのまま追い風に乗って輸送船を・・・ん?っ!?おいヴラドニア!」

ヴラドニア 「なにかしら!今それどころじゃ」

ベニオット 「風向きが急に変わった!このまま進行すると包囲されるぞ!」

ヴラドニア 「なんですって!?」

ゴフォード 「我が待ち受ける戦場にのこのこ現れよって。既に事は終わっておる」

ヴラドニア 「まさか、貴方」

ゴフォード 「1番艦!砲撃放て!血染めごと4番艦を沈めてしまえ!」

ヴラドニア 「く、きゃあああ!?この、やってくれるわねゴフォード!」

ゴフォード 「いつ、我のみで相手すると言った?使えるものは何でも使う、戦いにおいて基本のことじゃろうが!」

ベニオット 「くそ、近づけん!退避しろヴラドニア!」

ヴラドニア 「こんな状況で、逃げられると思っていて?」

ベニオット 「なんだっていきなり風向きが変わる?とっくに『魔の海域』は抜けただろうに!」

ゴフォード 「戦いで勝つ方法は知っておるか?相手を自分の得意なリングに引きずり上げることよ。我が支配する海で我に挑んだ時点で、勝ち目などないわ」

ヴラドニア 「そう、そういうからくり。貴方、風魔法を使えるのね」

ゴフォード 「然り!我は人を食いつぶす毒でもなければ、人を癒すせせらぎでもない!我は風!この世を吹き抜け、船を導く風である!この海の上に於いて、我に勝とうなど思い上がりも甚だしい!」

ヴラドニア 「帆船を己の風で操るだなんてね。そんな力を持ちながら、この私からずっと逃げ回っていたの?」

ゴフォード 「我も得るべき宝を得たと言う事!かつての我と同じと思うな!」

ヴラドニア 「ははぁ、勇者特権ね!?自ら人の道具に堕ちるなんて、浅ましいことこの上ないわ!」

ゴフォード 「それがどうした!我を卑怯だ浅ましいだと罵りながら死ぬが良い、貴様にこの4番艦は過ぎた棺桶じゃろうがな!」

ヴラドニア 「活路を開くには、もう手段を問うてる暇はないわね・・・リンク切り換え。集中しろ、集中しろ!ゴフォードと砲弾と、錨の位置!フレック、乱舞!」

ゴフォード 「凌げるならば凌いでみるが良い!そら、盲目だからと遠慮はせぬぞ!」

ヴラドニア 「ええ、それで結構!突かれて困る弱点なら、元より曝したりしないもの!」

ゴフォード 「その心意気や良し!」

ヴラドニア 「音を聞いて、起動を予測する!セイル収縮、エンジン出力低下。隔壁全閉鎖!防御壁、底面に集中展開!」

ゴフォード 「戦いに集中せんかあ!『鎌鼬(ウィンド・ソード)』!」

ヴラドニア 「っぎ!?く、肩に掠った・・・」

ゴフォード 「この距離を躱すか。しかし――何か小細工を弄しておったようじゃが、無駄な足掻きよ」

ヴラドニア 「心配いらないわ、もう終わったもの!スルーズ!」

ゴフォード 「予備動作が大きい。銃を棍棒代わりにするなど、それで裏をかいたつもりか血染め!」

ヴラドニア 「ええ、最初から裏をかく気なんてないわ!とーーう!」

ゴフォード 「な、船から飛び降りたじゃと!?何が――は?」

ヴラドニア 「ベニオットおおおお!受け止めてええええ!」

ベニオット 「ああくそ、こういう役回りだよな俺は!」

ゴフォード 「な、なな、なななななな!?なんじゃとおおおおおおおおお!?」

ネリネ   「うおわあああああああ!?い、いきなりなんなのだわー!?」

アニ    「ご、ゴールデン・ヴェニソン号を・・・船の上に落とした?」

ベニオット 「お前な、流石にその攻撃はどうかと思うぞ」

ヴラドニア 「私の船のほうが丈夫ですもの。ゴフォードが手段を択ばないと言うなら、こちらも狡猾になるだけのこと。ごめんなさいね、途中から船の方にリンクしていたの」

ゴフォード 「くははは、やるではないか。そうでなくては面白くない!」

オティス  「いや、無茶苦茶やりすぎじゃないの?ヴラドニアの発想にはたまについていけないな」

ゴフォード 「っ、原典の勇者」

オティス  「一応聞くね。積み荷全部海に捨てて逃げるってんなら、ここは見逃してあげてもいいけど?」

ゴフォード 「は・・・笑止!我は鬼の首魁瑚鳳度!原典の勇者を前に、引くという選択肢はないわ!」

オティス  「そうかい、やっぱり鬼は鬼だよな。それじゃあ――」

ヴァンハーフ「穿つは必中、始まりを辿る一矢がこれだ。『欺瞞漁師の狩り(シリウス・イン・アワーグラス)』」

オティス  「っ!?アニちゃん!避けて!」

アニ    「え?きゃ!?」

オティス  「っ、大丈夫。矢が飛んできたみたいだけど――これは」

ヴァンハーフ「苦戦しているようだねゴフォード。手を貸そうか?」

ゴフォード 「貴様・・・いつからここに居た」

ヴァンハーフ「輸送船に乗り込んでいたよ。4番艦の操舵をしていたんだ。急に押しつぶされてびっくりしたよ」

ゴフォード 「そう言う事は先に言わんか」

オティス  「ヴァンハーフ、不意打ちでアニちゃんを狙うなんて」

ヴァンハーフ「戦いに綺麗も汚いもないよ。僕の魔法で射出したとはいえ、矢の速度なんてそう大したことはない。君ならば気付いてくれると思っていたよ、気付いてくれてありがとう」

オティス  「なにを・・・お、あッ!?があああああああ!?」

アニ    「・・・え?お姉ちゃん?そんなっ・・・なんで!?」

オティス  「いぐ、つううううう・・・えう、おぇあ?か、はぅ・・・なに、ぉ・・・ふぅぐ!?」

ヴァンハーフ「君に打ち込んだ矢の先端には特殊な魔法を施してあってね。体に浸透し、痛覚を植え付けるんだ」

アニ     「・・・え?」

ヴァンハーフ「既に痛覚がある者には君以外には何の意味も為さない魔法だ。無駄にならなくてよかったよ」

アニ     「そんな・・・痛覚を、なんて!ともかく、傷を治さないと!回復かけるよ!」

オティス   「ありが・・・ぐ、ううう。あ、う・・・なん、で!傷は、治ってるのに!消えろよ!」

ヴァンハーフ「痛覚が残留しているだろう?傷が消えたとしても、さっきまでの痛覚は鈍くそこに残る。傷が急激に治ることによる現象だよ。知らなかっただろう?」

オティス   「ひい!?う・・・や!」

ヴァンハーフ「原典の勇者でも、腰が引けるのか・・・けど容赦はしないよ。創剣、舞え」

オティス   「避け、なきゃ――ぎゃああああああ!?」

ヴァンハーフ「痛みは人を鈍らせるものだ。君が戦闘において全力を出し続けることが出来たのは、痛みに意識を割かれないからだ」

オティス   「ああ、うあああああああああ!ささった、剣が刺さった!ひう、いだい、苦しいよぅ・・・あい、やだ、嫌だぁ!来るな!やめろ!こんなの知らない、知りたくない!」

ヴァンハーフ「それが痛みだよオティス。君が生まれ持たなかった、人間らしさだ。降り注げ、光よ」

オティス   「あ、ぅあ・・・いやだあああ!」

アニ     「アニ式超硬バリア!!」

ヴァンハーフ「ふむ、なるほどね。良い連携だ」

オティス   「あ?え・・・あり、がとう。アニちゃん」

アニ     「平気!お姉ちゃん、立てる?」

オティス   「っえ、う・・・っ。足に、力が・・・入らない」

アニ     「震えてる。立って!お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

オティス   「なん、で?手が握れない。剣を握れよ、なあ。言う事、聞いて・・・!」

ヴァンハーフ「回復魔法で癒せぬものもあるよ。君の身体はもう、痛みへの恐怖で敵へ立ち向かうことが出来ない」

オティス   「うる、せえよ・・・っぎ、あ!?」

ヴァンハーフ「魔法弾だ。この程度の攻撃も避けられない、しかし心は折れていないか。こればかりは僕も予想外だね。けれど、頭と身体が追いついていないよ。もう君の身体は戦いに身を投じることが出来ない。痛みを、恐怖を知ってしまったから」

オティス   「っは、っは、っは、かふ・・・やだ、なんで、こんなに苦しいんだよ!もう嫌だ。助けて、こんなのいらない、こんなもの必要ない!かは、うゃ・・・っ!」

ヴァンハーフ 「では、もっと刺してみようか」

オティス   「っ、え」

ヴァンハーフ 「創剣。ほら行くよ、1本、2本、3本、4本」

オティス   「あが!?え、ぐ、あああああ!や、ぎぁえ!いやあ!やめろ、やめろやめろやめろおおおおお!がああああああああ!」

アニ     「やめて!お姉ちゃんを虐めないで!アニ式突破ランス!」

ヴァンハーフ「おっと、危ない危ない」

オティス   「が、うぁう・・・ひいあ、痛い。か、はぅ・・・やだ、もうやだ・・・たす、けて」

アニ     「っ・・・恐怖も、回復魔法で消せたらいいのに。こんな時に、役に立てないなんて」

オティス   「アニちゃん・・・守らなきゃ。けど・・・身体が、動かない。なんで、く、うううう!」

ヴァンハーフ「最後の機会だオティス。僕とともに、計画を為してはくれないだろうか」

オティス   「聞き入れる、私だと思ったか?」

ヴァンハーフ「そのための詰めだよ。無論、有り余るほどの対価は用意するよ。君たち全員の平穏も保障しよう。どうだろうか」

オティス   「ああ――そこだよ、ヴァンハーフ。わかってない、わかってないんだお前は」

ヴァンハーフ「わかっていない、とは?」

オティス   「与えられた平穏なんて、つまんねーだろ。自分の人生、自分で勝ち取るから意味があるんだ。自分で選ぶから、楽しいんだ!」

ヴァンハーフ「・・・君を苛むその痛覚を、消してあげると言ってもかい」

オティス   「っ!?」

ヴァンハーフ「与えたのは僕だ、だから消すこともできる」

オティス   「ふ・・・はは、あはははははは!お前の慈悲に与るくらいなら、死んだほうがいっそマシだ!」

ヴァンハーフ「心が折れても、最後の芯は無事か・・・そうか。助かったよ。君が篭絡を選んでいたらどうしようかと思った」

オティス   「お前の軍門になんて、下るもんか!私は守らなきゃいけない、お前を倒さなくちゃいけない!」

ヴァンハーフ「誇らしいな、原典の勇者は。ならば、創剣――『不可逆への叛逆(ブレイヴ・メーカー)』」

アニ     「え、無月剣!?どうして?たしかにベニオットさんが持ってたはず」

ヴァンハーフ「魔力を練り上げて創った偽物だとも。しかし、本物に近い強度と威力はあるよ」

アニ    「お姉ちゃん、避けて!」

ヴァンハーフ「いいのかな?後ろにはアニがいるよ――これが英雄に捧ぐ鎮魂歌だ、『虚妄の射手(ハーマン・ヴァルカン)』」

オティス   「ああ、やれよ。やるんだよオティス!このまま無下に殺されるなんて御免だろう!そのために、私は此処に居るんだろうが!うおおおおおおおおおおお!『七色覆いし蒼天の剣(セブンカラーズ・レイブンダガー)』!!」

ヴァンハーフ「ああ。君ならばそうするだろうね。死が迫れば、君とて手ぐらいは動くだろう」

オティス   「っ――あ?え、お、が・・・うがああああああああああああああああああああああ!?腕っ、右腕があああああああああああ!!!」

ヴァンハーフ「だから備えくらい用意するさ。搦め手をよく使う者は、その実搦め手に弱いというのはよくある話だ」

アニ     「もう一撃、あった。発射した無月剣の後ろに、もう一本別の剣を飛ばしたの?それっ、て」

ヴァンハーフ「君がハルセルを討った戦法は、こうだったかな?参考にさせてもらったよ」

オティス   「けは、お、ぅえ・・・逃げ・・・て・・・アニ、ちゃ」

アニ     「い、いやああああああああ!!お姉ちゃん!お姉ちゃあああああん!!!」

ヴァンハーフ「痛覚という負荷に、脳が耐えられなかったようだね。これで原典は気絶。まだ、続けるのかな?」

アニ    「っ・・・!」

ネリネ   「やめて!アニを傷つけたら許さないのだわ!」

アニ    「ネリネ!?ダメだよ、下がって!」

ネリネ   「どかない!ネリネにだって、誰かを守ることくらい!」

ゴフォード 「君臨勇者の仔か。やめておいたほうが賢明ぞ。父親のことを一番よく知っておるのは其方であろう」

ネリネ   「それでも、退く理由にはならないのだわ!」

ヴァンハーフ「・・・成程ね、とうとうここまで来たか」

ゴフォード 「分を弁えろ、と言うたのじゃ。我の敵になると言うなら、子供とて容赦はせぬ」

ネリネ   「ネリネは貴方に負けないのだわ!ブレス!ごわあああああ!」

ゴフォード 「舐められたものじゃな。子供の遊びに付き合う道理はない。その程度の火、痒くもないわ」

アニ    「ネリネ!逃げて!」

ゴフォード 「斬り裂け、『鎌鼬(ウィンド・ソード)』」

ヴァンハーフ「魔の鎖」

ネリネ   「っ!うう――あ、れ?」

ゴフォード 「貴様、何故我の邪魔をする!」

ヴァンハーフ「駄目だよ、ゴフォード。子供は未来を拓く財産なんだ。殺してはいけない」

ネリネ   「っ、お父様も!アニたちに手を出さないで!」

ヴァンハーフ「ネリネが帰ってきてくれるのなら、僕は此処で退くよ。ゴフォードもそれで構わないかな」

ゴフォード 「はぁ?貴様の事情に我を巻き込むでないわ!もとは貴様が頼んだ仕事ではないか」

ヴァンハーフ「そうだね、では部隊を2つに分けてくれ。このままアスカロンへ積み荷を流す部隊と、『宝箱』を運ぶ部隊。君には後者を任せよう」

ゴフォード 「っち・・・貴様から譲り受けた部隊を輸送に回す。文句は言うまいな?我が出来る最大の譲歩じゃ」

ヴァンハーフ「大事の前の小事なんだ、すまないね――さて、『宝箱』はこれでいい。あとは、『鍵』だ」

アニ     「っ!?お姉ちゃんの七星剣!返して!返してよ!」

ヴァンハーフ「取り返す算段が君にあるのかい?」

アニ     「あたしがいる!よくも・・・許さない!」

ヴァンハーフ「やめておいたほうがいい。 ハルセルがどうだったかは知る由もないが、今の僕は慢心しないよ。立ち向かうというなら、同様に排除するまでだ」

アニ     「っ・・・負けないよ。行かせない!」

ヴァンハーフ「僕としては、君に害を為したくはないのだがね。君はネリネを完成に導いてくれた」

アニ     「完成?どういうこと」

ヴァンハーフ「何もなかった状態から、ネリネは様々な感情を得ようとしていた。しかしね、そのプロセスを潤滑に回すための存在――対等な関係を築ける友人がいなかったんだ。君という友と交流することで僕では観測できなかったデータをいくつも取れた。感謝してるよ」

アニ     「あたしを、利用したっていうの!?」

ヴァンハーフ「いいや、君を友人に選んだのはネリネの意思だ。そして、それを許諾したのも君だ。ネリネは基本的に放し飼いの教育方針をとっていてね。必要な知識は徹底的に叩き込んだが、経験のない知識は本物とは言えない」

アニ     「放し飼い・・・ペットみたいな言い方するんだね」

ヴァンハーフ「語弊があると?」

アニ     「ネリネはペットじゃない!れっきとした人間でしょう!?」

ヴァンハーフ「成程。君も魔法使いの端くれなのだとしたら、一つ肝に銘じておいたほうがいい。差別はいけないよ」

アニ     「差別?何を、言って」

ヴァンハーフ「命とは、何にだって一つだ。土を這う虫にも、獲物を求める魔物にも、死を間近にした孤児にも、君にも、原典の勇者にも。命の価値を己の物差しだけで測ってはいけない。生命は平等なんだ」

アニ     「人の命を食いつぶして、命をいくつも持ってる貴方が言うの?」

ヴァンハーフ「ふむ、痛いところを突かれてしまったかな」

アニ     「たしかに、命の価値は平等かもしれないよ。けど、インチキしてる貴方が偉そうに語らないで!命は、貴方の研究文書の上の文字じゃないんだよ!」

ヴァンハーフ「いいね、なら是非とも示してくれ。君の語る命とは何かな?命を尊ぶ君だからそこの答えがあるのだろう。さあ、教えてくれ。君はこの旅路の果てに、何を得たのかな」

アニ     「ネリネは渡さない・・・防御魔法、最大展開!」

ヴァンハーフ「だったら貫くまでだ。『不完全な創生(セブン・ノースターター)』――おや?」

ベニオット 「やらせんぞ君臨勇者!」

ヴァンハーフ「おっと、君か」

ベニオット 「アニ!オティスを連れて退け!殿は俺がやる!」

アニ    「っ・・・けど!」

ベニオット 「さっさとしろ!ヴラドニアと合流して、態勢を立てなおせ!」

アニ    「う、うん!絶対帰って来てねベニオットさん!」

ベニオット 「ああ、必ず戻る」

アニ    「お姉ちゃん、ネリネ・・・好きになんてさせない。絶対に、させないんだから!」

 

 

 

ヴァンハーフ「格好いいね、魔断のベニオット。どうかな?今からでも僕に与してはくれないかな」

ベニオット 「情けのつもりか?だったらやめておけ。今の俺は些か憤っている」

ヴァンハーフ「君に害をなした記憶はないよ」

ベニオット 「仲間を傷つけられて、黙って見過ごせる性分じゃないんでな」

ヴァンハーフ「参ったね。仕方ない、ここは――君に任せようか、デュラハン」

デュラハン 「承知した。『光蝕・無月の湖(アロンダイト・ダムト・フール)』」

ベニオット 「な!?っぐ、おおおおお!」

デュラハン 「腕がいいな。初撃を往なされたのは久々だ。とはいえ俺はデュラハン、時間などもやは凍結しているようなものだがな」

ベニオット 「貴様・・・そうか、ガープ大橋では消滅に至ってはいなかったのか」

デュラハン 「要らぬ世話で生き恥を曝してしまっているな。まあ、もう死人だが」

ヴァンハーフ「手を貸したほうがいいかな?」

デュラハン 「とっとと消えるがいい。貴様の存在は些か目に障る」

ベニオット 「何のことかは知らんが、ここから先には行かせないぞ!飛べ、アホ毛!」

デュラハン 「デュラハンたる俺に空中戦を挑むつもりなのか?面白いな・・・その誘いに乗ってやろう」

ベニオット 「いつまで天上を気取るつもりだ?貴様の天下は300年前に終わっているぞ、黒騎士!」

デュラハン 「お、っと。無月剣を使いこなしているようだな。しかし一点――いや二点訂正しておこう。まず一点目、俺は黒騎士ではない。亡霊デュラハンだ」

ベニオット 「写し絵であることに変わりはあるまい?俺にとって、仲間を脅かす敵であるという事実もな!アホ毛、火の玉を浴びせろ!」

デュラハン 「狙いは悪くないが、軌道が単調だ。それで落とされる俺だと思うな。炎はこう撃つものだ、『黒竜の息吹』!」

ベニオット 「っな!?躱せアホ毛!」

デュラハン 「飛行生物は急な方向転換は出来ない。飛ぶ方向を予測し、先んじて攻撃をするものだ」

ベニオット 「掠ってしまったか、すまん!負けられん、ここで俺が退くわけにはいかんのだよ!」

デュラハン 「ああ、二点目の訂正を忘れていた。無月剣は敵を殺す剣ではない」

ベニオット 「戯言を!」

デュラハン 「俺の剣は、人を守るための剣だ」

ベニオット 「俺にだって守るものはある!」

デュラハン 「何を守る。何を救う!お前の剣は何を為す!」

ベニオット 「決まっている!世界の平和だ!」

デュラハン 「オティスすら成せなかった命題を、お前が背負う覚悟はあるのか!」

ベニオット 「そのために俺は此処に居る!」

デュラハン 「・・・違うな」

ベニオット 「何が――っぐあああああああ!?」

デュラハン 「『光蝕・無月の湖(アロンダイト・ダムト・フール)』!どうした、手元を鈍らせている場合ではあるまい!」

ベニオット 「く、躱し損ねた!だがまだだ!まだ負けんぞ!」

デュラハン 「それでは勝ちは拾えまい!弱き剣で、信念無き剣で何かを救えると思うな!」

ベニオット 「そうだな、その通りだとも!俺如きが世界を変えられるなどとは思っちゃいない!」

オティス  『誰かを救いたいと願うこの気持ちは本物だ!それだけは嘘だと言わせない、これだけは誰にだって奪わせやしない!』

ベニオット 「俺はオティス程強くない!」

アニ    『あたしは――私は、人を救う魔法使いになるんだ』

ベニオット 「アニのように人に優しくもなれない!」

ヴラドニア 『私は戦うわ!オティスさんを世界の楔から解き放つために!』

ベニオット 「ヴラドニア程信念のために苛烈にもなれなやしないさ!」

デュラハン 「ならば貴様に何が出来る?何が成せる!示してみろ竜騎士!」

ベニオット 「全てを守る力がないというのであれば!俺は手の届くたった一つを守り通そう!勇者だなんだと、血染めと囃し立てられようと!あいつはただの人間だ!」

デュラハン 「――ほう?それは、貴様である必要はあるのか?」

ベニオット 「はは!そんなもの、俺がそうあるべきだと勝手に決めた!俺の剣は、血染めのヴラドニアを守るための剣だ!」

デュラハン 「それは何とも、人間らしい自己中心さだ!」

ベニオット 「ああ、人間とは勝手なものだからな!引いてもらうぞ霧の町の亡霊!」

デュラハン 「ならば俺をどう超える?俺程度の脅威を排除出来ずに、いったい何が守れるというのか!」

ベニオット 「無論だ、超えて見せよう原初の竜騎士!アホ毛、高度を上げろ!デュラハンより高く、もっと高く!お前が上がれるギリギリまでだ!」

デュラハン 「破れかぶれの吶喊(とっかん)でもするつもりか?太陽に己の影を重ね、目を眩ます――俺に目があれば、有用な手だっただろうがな」

ベニオット 「急降下だ!遠慮はいらん、加速しろ!もっと、もっとだ!」

デュラハン 「速度が乗れば一撃の力は増す。しかし、その分反撃も手痛くなるというものだ!『光蝕・無月の(アロンダイト)――』」

ベニオット 「まだもう一手だ!うおおおおおおあああああああ!!」

デュラハン 「な、竜から飛び降りただと!?」

ベニオット 「完璧なタイミング調整が仇となったな!『秘剣・飛燕落とし』!!!!」

デュラハン 「――成程、これが生ける人間の強さか」

ベニオット 「アホ毛、着地頼む!・・・はは、ははははは!!どうだ、デュラハン?地面に叩き落される気分というのは!」

デュラハン 「・・・無謀な戦略だな。竜から飛び降りるなど、一歩間違えれば無事では済まなかったはずだ」

ベニオット 「戦略のうちだ、隙に付け込まなくては貴様から勝利など得られまい。それに、アホ毛となら確実にやれる。そう思い実行したまでだ」

デュラハン 「そう言う腹か。しかし・・・俺を本気で斃す気だったのなら、二の手三の手も考えて動くべきだったな」

ベニオット 「腹に風穴が開いているというのに、そこまで平然と立ち上がるとはな。大したタフネスだ。だが俺はお前を越えるぞ。これ以上、死者に好き勝手させるわけにはいかん」

デュラハン 「英雄的思考に囚われず、目前を顧みる。お前は・・・その剣を担うに相応しい男のようだ。『黒竜の息吹』」

ベニオット 「な・・・キャリコの船団を焼き払った?」

デュラハン 「さて、ひとまずこれで話が出来るな。後は・・・こうだ」

ベニオット 「さっきからなんなんだお前!武器を海に捨てるなど」

デュラハン 「呪いの核となる聖遺物を、貴様の剣が砕いた。もうゴフォードにより課せられた鎖がない以上、お前に攻撃する理由はない」

ベニオット 「怪物の言う事を信用しろと?それに、「デュラハン」としてのお前の行いに憤慨していないわけじゃない」

デュラハン 「心当たりはないが、何せ俺はデュラハンだ。恨みの1つや2つ買っていてもおかしくはあるまい・・・これで、借りは返しただろうか」

ベニオット 「は?借り?」

デュラハン 「とはいえ、俺は借りばかりの身だ。この程度利子の返済にも充てられないだろうが・・・俺は賭け事は得意なほうでな」

ベニオット 「いや、待て。わからん。一つ一つ噛み砕いて喋ってくれるか?」

デュラハン 「それは些か難儀だな。かつてオティスから一言多いと叱責された俺だが、肝心の多い部分が何処かわからない。故に俺はただ思いを連ねることしか出来ない。怪物に成長を求めるな。元より、噛む砕くための顎もない。俺はデュラハンだからな」

ベニオット 「いやそういうことじゃなくて」

デュラハン 「此度の君臨勇者の大博打、どう見ている?」

ベニオット 「博打だと?」

デュラハン 「ああ。世界を相手取った博打だ。奴の目的は魔龍の復活。その先の世界に、君臨勇者は何を見ているのだろうな」

ベニオット 「話を逸らすな。俺は、お前の是非を問うている」

デュラハン 「俺は今武器を持っていない、その意味を少しは考察してくれるとありがたいのだが」

ベニオット 「手から炎出すだろうが」

デュラハン 「ふむ・・・そうだった、失念していた。それではこのように両手を上に向けよう。これでお前に向けて炎は撃てない」

ベニオット 「あくまで俺と敵対する気はないと言うんだな」

デュラハン 「何度もそう言っている。だが、理解してくれたのならばそれでいい。殺意を飼いならすのも大変だからな。不殺の誓いというのもなかなかどうして難しい」

ベニオット 「本当に平気なんだよな??」

デュラハン 「ああ。さて、話を戻そう。俺が壊滅させた船団は、元はキャリコのものだ。今やキャリコは君臨勇者の傀儡、さらに今は『鬼邪八塩船団』の所有物と化している。故にこの船団の動きは、君臨勇者自身の意思だと見ていい」

ベニオット 「各地で魔法銃をばら撒いていると聞いた。だから俺たちは此処に来たんだぞ」

デュラハン 「そう、つまりこれは民間人を扇動し、奴が世界に向けて起こした「戦争」だ。海路はこの通り俺が潰した。しかし、まだ陸路が残っている。何故だろうな」

ベニオット 「そりゃ、あいつは空を飛べないから」

デュラハン 「君臨勇者が万全の姿勢であれば、船団を潰されるなどというヘマは犯さないだろう。ハルセルを使い、ヒルブデリにディストピアを築いたような男だ」

ベニオット 「一人では限界もあるだろうさ」

デュラハン 「・・・貴様、本当に竜騎士か?」

ベニオット 「どういう意味だ!?」

デュラハン 「一度、世界を良く見渡せ。お前には人にはない竜の目がある。そこから見えるものもあるはずだ」

ベニオット 「それは・・・おま、何処に行く!逃げるのか!」

デュラハン 「そういうお前こそ、こんなところで油を売っていていいのか?おそらく、もう猶予は殆ど無いぞ」

ベニオット 「余計な口ばかり達者だな!」

デュラハン 「俺はデュラハンだ。口はないが?」

ベニオット 「じゃあどこから喋ってんだ!?あのな、オティスがいう「一言多い」はそう言う事だと思うぞ?」

デュラハン 「成程、そういうことか・・・そうか、なるほどな。そういう、ことか」

ベニオット 「一番ダメージ通ってないか?」

デュラハン 「しかし、お前は良い洞察力を持っている。それによく竜と分かち合えている。お前のような人間は稀有だ。大切にするといい」

ベニオット 「飛んで行った・・・いやまて、そっちにはゴールデン・ヴェニソン号が」

デュラハン 「早く来るがいい、いくつか情報を提供してやろう」

 

 

 

ヴラドニア 「ベニオット!!良かった、本当に良かった!」

ベニオット 「まずは自分の心配をしろ、お人よしめ」

ヴラドニア 「もう、一人で殿やるなんて!馬鹿じゃないの!?」

ベニオット 「あの状況では俺が動くしかあるまいよ・・・オティスとアニは?」

ヴラドニア 「奥の部屋で、寝ています」

ベニオット 「大丈夫だった、のか?」

ヴラドニア 「アニさんは、目立った負傷はしていません。ただ・・・その」

ベニオット 「ただ、なんだ?」

ヴラドニア 「ネリネさんは、連れ帰れましたか?」

ベニオット 「・・・すまん、俺はお前たちを逃がすだけで精いっぱいだった」

ヴラドニア 「ちが、ベニオットを責めているわけじゃないの。もっと何かできたんじゃないかって」

ベニオット 「全員生きていただけでも儲けものだ、まだ立て直せる」

ヴラドニア 「それと、オティスさんのことも。つくづく、君臨勇者は怖ろしい男ですね」

ベニオット 「どういうことだ?」

ヴラドニア 「・・・右腕を、落とされていました」

ベニオット 「っ!?腕を!?」

ヴラドニア 「それから・・・魘されていたようでした。いや・・・苦しんでいた、のかしら?」

ベニオット 「まさか、呪いや毒を付与されたのか?魘されるほどのものなんだろう?」

ヴラドニア 「あれは・・・おそらくだけれど幻肢痛じゃないかしら。ずっと腕が痛い腕が痛いと唸っていたわ。もう・・・無い方の腕を」

ベニオット 「幻肢痛?オティスが?だって、あいつは」

アニ    「・・・あるよ。今のお姉ちゃんには」

ヴラドニア 「アニさん?起きてたのね」

ベニオット 「それで?あるって、一体どういうことだ」

アニ    「植え付けられたの。今のお姉ちゃんには、痛覚があるんだよ」

ベニオット 「っ!?なんだと!?オティスを潰すのに、そんな度し難い手段を思いつくなど」

ヴラドニア 「今まで生きてきて、ずっと痛みを知らなかったんでしょう?なのに、戦って傷ついて、腕まで落とされて・・・常人ですら、堪え難い苦痛でしょうに・・・」

アニ    「もう、お姉ちゃんは戦えないかもしれない。震えてたんだ。痛いのが怖くて、嫌で、動けなくなってたんだ」

ヴラドニア 「そう、でしょうね。今まで痛みというものを知らなかったんだもの」

アニ    「けど・・・けどね。お姉ちゃんがもう戦えないかもしれないと思って・・・安心、しちゃったんだ」

ヴラドニア 「っ・・・アニさん、それは」

アニ    「もう、お姉ちゃんが傷つかなくて済むかもって。もう無茶しないでくれるのかもって!そんなこと考えちゃったの!誰かのために戦えるお姉ちゃんが好きなのに。これじゃ・・・あたし、嫌な子だ。わがままな子だ。お姉ちゃんの足手まといになりたくて、一緒にいるわけじゃないのに!」

ベニオット 「そりゃ、そう思うだろ」

アニ    「・・・ふぇ?」

ベニオット 「俺だって、叶うなら誰も傷つかないほうがいいと思うぞ。ボロボロになって血まみれになる姿を、望むことなんかあってたまるか」

ヴラドニア 「そう、なの?意外ね」

ベニオット 「俺をなんだと思ってたんだ?」

ヴラドニア 「戦うこと大好きー!って感じなのかと」

ベニオット 「違うわ・・・しかしな。戦う事の尊さを、覚悟を、俺は知っている。立ち上がることの誇りを知っている。止めたくはないさ。オティスがそうあれかしと願うなら、俺は同盟相手として最後まで付き添ってやろう」

アニ    「勝手じゃ、無いかな?」

ベニオット 「人間、誰しも勝手なもんだ。俺だって、お前だってな」

アニ    「けど・・・」

ヴラドニア 「そう、ね。けどきっとオティスさんは止まれないわ。そういう人だもの」

アニ    「これで、最後にしたい。お姉ちゃんはずっと頑張ってきたんだ。もう、頑張らなくてもいいはずなんだ」

ヴラドニア 「これで終わらせるために、支えないとね。私たちは、仲間なんだから」

ベニオット 「ああ――そうだな」

 

 

オティス  「っう、ぐ・・・アニ、ちゃん?」

アニ    「お姉ちゃん!目、覚めた?」

オティス  「ここ、は?」

アニ    「ゴールデン・ヴェニソン号の寝室だよ。腕、どう?傷は塞げたんだけど」

オティス  「っ、あう・・・頭、くらくらする。こんなに続くものなのか・・・右手の指が、痛い?のかな。ずきずきする」

アニ    「腕、もう――幻肢痛、なのかな」

オティス  「うん、多分そう。どうにかならないものかな、このままずっとは、嫌だな」

アニ    「ごめん、ね。その痛みはあたしじゃ治せない」

オティス  「わかってるよ。いつも助かってるよ、アニちゃん」

アニ    「・・・まだ、戦うの」

オティス  「アニちゃん?」

アニ    「ねえ、お姉ちゃん。逃げよう?」

オティス  「え?何を言って」

アニ    「お姉ちゃんが戦わなきゃいけないの?こんなにボロボロになって、手までこんなになって!まだ傷も全部治せてない、剣も奪われたんだよ!?」

オティス  「じゃあ誰があいつらを止められるの?私が戦わないで誰がやるんだ!」

アニ    「お姉ちゃんを傷つけてまで護られたくない!」

オティス  「な!?なんで、そんな事言うの?」

アニ    「世界じゃなくてあたしを見てくれるのは嬉しいよ?けど、そのために!あたしのためにお姉ちゃんが自分を投げ出して、いつもぼろぼろになって!今回は特に酷いんだよ!?自分のことちゃんとわかってるの!?」

オティス  「ここで歩みを止めたら、君臨勇者の思う壺だろ!」

アニ    「戦争も人も、勇者だって!全部お姉ちゃんだけで何とかしようとしてる!無理だよ、だってお姉ちゃんはお姉ちゃん一人しかいないなんだから!」

オティス  「わかってるよ、届かないものがあるくらい!だからこそ手に届くものは助けたい!出来る限り手を伸ばしたい!そう思う事はいけないことだって言うのか?」

アニ    「違うよ、そうじゃないの!」

オティス  「だったら!私に守らせてよ!」

アニ    「なにもかも背負わないでよ!右腕が・・・潰されちゃったんだよ?体が!無くなっちゃったんだよ!?」

オティス  「左腕がある。剣は握れる!」

アニ    「人の身体は玩具じゃないんだよ!もう手を伸ばすことも出来ない!その手であたしの頭を撫でることも、剣を握ることだって難しいのに!全部を、抱えようとしないでよ」

オティス  「それじゃ・・・私は、なんのために戦ってきたのかわからないじゃんか!」

アニ    「もう、頑張らないでよ。あたしはお姉ちゃんが、皆が生きてくれればそれでいいの。もう失いたくないの!」

オティス  「奪われないために、戦うんだ」

アニ    「ううううー!お姉ちゃんの分からず屋!」

オティス  「わかってないのはアニちゃんの方だよ!」

アニ    「戦闘狂!」

オティス  「意気地なし!」

アニ    「味音痴!」

オティス  「まだ子供なんだから無理しないでよ!」

アニ    「馬鹿!もう知らない!」

デュラハン 「そうにらみ合うな。人の意思とは難解にして不明瞭なもの。元より完全な相互理解など不可能だ」

オティス  「ふぁ!?!?」

アニ    「デュラハン!?」

オティス  「お前!まだ生きてやがったのか!」

デュラハン 「武器もなく、傷だらけの身体で俺に勝てると思うな。万全のお前でも412勝412敗だっただろう」

オティス  「ガープ大橋の勝ちがある!413勝412敗だ!」

アニ    「こだわるところそこなの!?」

ベニオット 「なんだ、騒がしいな――よし、大体察した」

デュラハン 「遅かったな竜騎士」

ベニオット 「どちらかといえばお前が早すぎるんだよ。何の説明もなく現れたら騒がしくもなるだろう」

デュラハン 「そうか、配慮に欠けていたな」

オティス  「いや何仲良く会話してんだお前!?いつ打ち解けたの!?」

ベニオット 「あー、何と言えばいいのやら・・・戦ってるうちに、なのか?」

デュラハン 「お前を殺す以外に別の道を見つけただけのこと。人間は考える葦とも言う、学び、経験し、成長するのが人間の強さというものだ」

アニ    「・・・あれ、亡霊さんなんだよね?」

デュラハン 「いかにも。俺は霧の町の亡霊デュラハンだ。それ以上でもそれ以下でもない」

オティス  「ごめん結論だけ先に教えて」

ベニオット 「協力関係を築いてもいい、とのことだ」

オティス  「は・・・頭が、締め付けられるみたいな感覚だ。なるほど、これが頭痛ってやつなの?」

ベニオット 「きついよな、色々。俺も同意見なんだがな」

 

 

 

デュラハン 「タディシアは陥落したようだ。君臨勇者の手遊びだろうがな。カラドインは王都軍が奪還したとのことだ。今は暴徒とにらみ合い中か。なにか動きがないと形勢は変わらないと見える。他は?」

ヴラドニア 「アスカロンはさすがに堅牢ね。現時点ではにらみ合いが続いてる。むしろ・・・同流しようとしている援軍と、それを阻止する別動隊のぶつかり合いが激しいわね」

デュラハン 「革命軍としては、王都は手にしておきたいだろうな。波動勇者と竜騎士ジークが衝突中・・・この二人の実力はほぼ互角と見ていい、その勝敗でアスカロンの是非は決まるだろう」

ヴラドニア 「シパオは壊滅状態でした。港としての機能はほぼ死んでいると見ていいでしょう」

ベニオット 「これは・・・すごいな。各地の軍の動きを此処まで細かく知れたのか。これほどの情報、どこで?」

ヴラドニア 「ふふ、元王女を舐めてはいけないわよ。勇者として培ったパイプもあるし、これくらいならなんとかなったわ」

デュラハン 「俺が君臨勇者から聞いたものだけじゃ何ともならなかったな、素晴らしい収集力だ」

ヴラドニア 「まあ、その・・・イフォニさんも、協力して頂いたのだけれど」

ベニオット 「あいつ――そうか。ちなみに何割くらいがイフォニの情報だ?」

ヴラドニア 「・・・・・・6割、くらいかしら?」

ベニオット 「イフォニのほうが多いんかい」

デュラハン 「海路は『鬼邪八塩船団』がほぼ制圧している。しかしカラドインを放棄したようだ、陸は王都軍が押さえてる。そうなると劇的な戦況の変化はないな」

ヴラドニア 「しかし、こうして見ると思ったよりも拮抗してるのね」

ベニオット 「え?お前も見えてるのか」

ヴラドニア 「駒がわりに、魔力を込めた宝石を並べてもらったの。気配探知で視れてます」

ベニオット 「そうか・・・魔力消費が大きい、あまり多用するなよ」

ヴラドニア 「わかっています。普段は抑えてるわよ・・・貴方が、その。色々やってくれるから」

アニ    「お姉ちゃーん!ホットサンドお待ちー!ヴラドニアさんも!」

オティス  「ん、頂くね」

ベニオット 「おお。有難い。どれどれ・・・おお、これは」

ヴラドニア 「んんー!おいしいわ!ハムとチーズがシャキシャキのレタスとマッチしてるわ!パンも外はさっくり中はふわふわで・・・」

ベニオット 「お前、そんなキャラだったか?」

ヴラドニア 「ええと――こうなってから、他の残った感覚が鋭敏になっていて。味の変化とか、些細な音とか、よく気付くようになったの」

アニ    「およよ?なあに、これ。色の違う宝石がたくさん並んでる」

ヴラドニア 「配置図よ。どこにどれだけ戦える人がいるかを表してるの。次はどこに救援に行くべきかの参考にできるでしょう?」

アニ    「そうなんだ。ほむほむ、地図に並べてるんだね・・・なんか、全部同じ数だね」

オティス  「どっちもどっちだね。優劣がはかりにくいったらありゃしない」

デュラハン 「・・・待て。同じ?全部か?」

オティス  「え?ええと・・・・・・殆ど、同じだな」

デュラハン 「完全なる均衡?戦争においてそれは些か妙な話だ」

ベニオット 「だよな。幾らなんでも殆どの戦場で戦力が自然に釣り合うなんてことにはならないだろう」

オティス  「そう、なんだよね。後手後手に回ってる王都軍はともかく、反乱側や勇者同盟があまり押せてないと言うか」

ベニオット 「ここまで最適な兵の配置が出来るような奴が今の軍にいたか?」

アニ    「ヴラドニアさんは?」

デュラハン 「血染めのヴラドニアはあくまで旗頭、戦場の全てを仕切っているわけではないだろう」

ヴラドニア 「ええ・・・この配置は私の意図じゃないわ」

オティス  「火事場の馬鹿力って言うし、誰かが才能覚醒させたとかないかな」

ヴラドニア 「・・・逆じゃ、ないかしら」

アニ    「逆って、なに?」

デュラハン 「ああ、そういうことか。向こうが現状を合わせてきていると?」

ヴラドニア 「そう見えます。暴徒側を指揮している者の目的が制圧ではない、としたら?敢えて拮抗させて、この状態を維持するのが目的だったら?」

デュラハン 「向こうの指揮官――君臨勇者が、あえてこの状態を維持してるということか?」

ベニオット 「ふむ、有り得なくはないな。奴は王政を倒すことに主眼を置いていない。もしそうなら、王都に現れた時点で全てが終わっていたはずだ」

ヴラドニア 「そうね。色々なところから情報を得たけれど、君臨勇者の目撃情報はなかった」

オティス  「だとすれば、奴が何をしたいかだ。なんのために、ここまで滅茶苦茶やってるのか。ハルセルはなんて言ってた?人間の自立と、共存。だとすると」

アニ    「目的・・・魔龍の、復活って言ってたよね」

デュラハン 「魔龍は存在しない。オティスから聞いていなかったか?」

ヴラドニア 「ヴァンハーフがそれを知っているかどうかもわからない。彼は、本気かもしれないわ。少なくとも嘘は言わないもの」

アニ    「ネリネを、大切にしてたんだ。だからきっとネリネに何かするのかもしれない」

オティス  「魔龍、君臨勇者、ネリネ、世界の混乱、勇者特権・・・待てよ。今の軍の配置はどうなってる?」

ヴラドニア 「オティスさん?」

オティス  「均衡しているところは無視でいいな、勇者が配置されているところも陽動と見る。どこだ、兵士たちがひっきりなしに動員されている今、誰も目を向けてない手薄なところは・・・あ」

ベニオット 「どうした、気になるものがあったか」

オティス  「・・・グニタヘイズ」

ヴラドニア 「グニタヘイズにも軍が居たはずよ。配属されてる部隊って――なんだったかしら。ごめんなさい、覚えてないわ」

ベニオット 「そこは「グニタヘイズ外縁警備部隊」だな。万が一にもグニタヘイズから魔龍が復活した際、真っ先に対処できるようにと配備されている部隊だ」

アニ    「魔龍は居ないんだよね?それって必要なの?」

ベニオット 「存在の是非を問われ続けている部隊ではあるがな。主に怖いもの見たさでグニタヘイズに押し入ろうとする輩は結構多いんだ。だからそいつらの掃討という意味でも、彼らは配備される価値があると俺は思う」

ヴラドニア 「左遷先とかにされてそうね?」

オティス  「海運は潰された。海賊も此処の近郊では暴れてない・・・この部隊、今どういう動きをしてる?」

ベニオット 「――少し待て、確認してこよう」

アニ    「お姉ちゃん、どうしたの?この人たちがなにかしたの?」

オティス  「何かしてたら拙いんだよ」

アニ    「え?それって、どういう」

ベニオット 「俺だ、ベニオットだ。グニタヘイズ外縁警備部隊の動きについて聞きたいんだが・・・ああ、そうだ。その部隊の動きは・・・なに?動かした?」

オティス  「・・・やっぱり。そうだよな、あいつは始めから嘘なんて言ってなかったんだよな!」

ベニオット 「わかった、感謝する――オティス、近隣の町へ全員援軍に出たそうだ」

オティス  「ベニオット!ヴラドニア!ゴールデン・ヴェニソン号回して!取り舵いっぱい!」

ベニオット 「あ、ああ。どこを目指したらいい?」

オティス  「グニタヘイズだ!ヴァンハーフはそこにいる!」

 

 

 

ネリネ    「それで、ここがグニタヘイズなのだわ?」

ヴァンハーフ「そうだよ。想定通り、警備部隊は居なかったね。邪魔されることなくグニタヘイズに来ることが出来た」

ネリネ    「お父様なら、此処を守っていた部隊を退けるなんて簡単だったんじゃないの?」

ヴァンハーフ「そうだね、けれど魔龍への畏怖をそのまま表した部隊だ、なかなかに手強い。消耗を避けるためになるべく万全な状態でここに来る必要があったんだ」

ネリネ    「さすがお父様!聡明なのだわ!それで、この建物はなあに?どれもこれも、変わった形なのだわ!」

ヴァンハーフ「此処にはかつて国があったんだよ。しかし魔龍の襲撃で滅ぼされ魔物の拠点になった――とされている」

ネリネ    「されている?」

ヴァンハーフ「言っただろう、魔龍はこの世に存在しない。であれば――この国は、如何様にして滅びたのだろうね」

ネリネ    「うーん。けれど、魔龍がいないのだったら・・・人が滅ぼすしかないのではないかしら!」

ヴァンハーフ「さて、どうだろうね。真実を知るものは誰もいない」

ネリネ    「むむ!お父様の話はいつも難しいのだわ。それで、此処で何をするの?」

ヴァンハーフ「魔龍を呼び起こす。さてネリネ、手伝ってくれるか」

ネリネ    「いいのだわ!私は何を――きゃ!?」

ヴァンハーフ「ネリネはただ、其処にいてくれればそれでいい」

ネリネ    「鎖・・・お父様、これは?」

ヴァンハーフ「ここはね、魔龍が封印されたとされている場所だ。ちょうどネリネを鎖で縫い付けたその台座、其処が封印の祠だとされているんだ」

ネリネ    「魔龍、の?」

ヴァンハーフ「そう。今から、魔龍がこの世に再臨する」

ネリネ    「そうよね?そのために此処に来たのよね?え、まさか・・・ネリネを、贄にするの?」

ヴァンハーフ「それは考えが浅いよ、ネリネ。逸話の力、過去の「思い込み」の力が現実に及ぼす影響力の話は散々教えてきたよね」

ネリネ    「う、うん。オティスさんだったり、キバイラさんの腕だったり、よね。たしかに面白いと思ったわ。人の思い込みがどれだけの影響を及ぼすのか・・・か?」

ヴァンハーフ「そう、ここには魔龍が眠っている。そしてここには、龍の因子を身体に宿すネリネがいる。そして勇者たる僕が、七星剣を手にしている」

ネリネ    「あ・・・」

ヴァンハーフ「グニダヘイズで勇者と戦う龍は、魔龍以外あり得ないだろう?」

ネリネ    「っ!そうなの、そういうことなのだわ!?その解にたどり着くなんて、さすがはお父様――」

ヴァンハーフ「さて、始めようか。世界を裏返し、人を翻し、智を揺るがし、その先に待つ変革を手にする時だ。『創世記(フェアリ・ティル)』」

ネリネ    「あ、ぎ、ぎぃああああああああああああああ!?!?」

ヴァンハーフ「七星剣で傷をつけた。ネリネが半竜半人のまま停止しているのは、身体の中の力が龍と化すことへ抵抗しているからだ。この呪いは強力なものだが、育ち盛りの子供を以てしても浸食できるのは6割まで・・・これじゃ、足りないんだ」

ネリネ    「痛い、痛いよう!う、あ!ああああああああああ!!」

ヴァンハーフ「身体の全てを内側から作り替えるようなものだからね。想像を絶する痛みだろう」

ネリネ    「やだ、やだやだやだやだぁ!とめて!やめてえええ!いたいのだわ!あぎぇ、あああああああ!!!」

ヴァンハーフ「だが、これは世界に必要なものだ。すまないね、ネリネ」

ネリネ    「おとう、さ・・・ま・・・あ、ううううううううううう!」

ヴァンハーフ「さあ、魔力を喰らうんだ。僕から発せられる全てを持っていけ」

ネリネ    「か、はぅう。ネリネ、は・・・アニ、来ない、で」

ヴァンハーフ「さて、準備は全て整った。あとは・・・これで終局だ。行こうか、ネリネ」

ゴフォード 「・・・悪趣味じゃのぅ。自分の娘を贄とするか」

ヴァンハーフ「ネリネを殺すつもりはないよ」

ゴフォード 「人であることを棄てさせられることと死ぬこと、何が違う」

ヴァンハーフ「そうだね、今までのネリネは消えてしまうかもしれない。けれどネリネは此処に存在し、新たな形を得て生まれ変わる。それだけのことだよ」

ゴフォード 「やはり貴様、気持ち悪いわ・・・で、報酬を貰っておらんのだが」

ヴァンハーフ「そうだったね、君が望むものはなんでもあげよう。宝島への海図なんてどうかな」

ゴフォード 「要らんわそんなもの――そうさな、七星剣はどうじゃ?我の貴様への研鑽を思えば、それくらいあってもよかろうて」

ヴァンハーフ「ふむ・・・少し割高じゃないかな?」

ゴフォード 「もう使わんじゃろ?かねてよりほしかったコレクション故な、機会が与えられれば縋りつきたくなるというもの」

ヴァンハーフ「良いというまで動かない構えだね、仕方ない」

ゴフォード 「初めから素直に渡せ、愚か者」

ヴァンハーフ「君はどうする?このまま見届けるのかい、それとも――」

ゴフォード 「貴様の悪趣味にこれ以上付き合う道理はない。して、他にしてほしいことはあるか?」

ヴァンハーフ「もうないよ。僕の全てはこのために用意してきたものだ。後は好きにしてくれ」

ゴフォード 「好きなように、か。良かろう、それではさらばじゃ、君臨勇者」

ヴァンハーフ「ああ。また会えるといいね」

 

 

 

ヴラドニア 「ベニオット、どう?見えてきましたか?」

ベニオット 「ああ、もう視認できる距離まで来た。あれがグニタヘイズか・・・ん」

ヴラドニア 「どうかしたの?」

ベニオット 「・・・鬼邪八塩船団だ。正面に陣取っている」

ヴラドニア 「そう、また立ち塞がろうというのね?今度こそ殲滅しないといけないかしら」

ゴフォード 「そう警戒せんでも、用があるのはこちらじゃ。出向いてやった故感謝するが良い、首を垂れよ」

ヴラドニア 「っ!?貴方、また・・・どこから入って来てるのかしら!」

ゴフォード 「うははは、跳んできたに決まっておろう?我は風使い故な。しかし、随分と遅い到着じゃな?勇者というのも気楽で敵わん」

ベニオット 「お前――また邪魔する気か」

ゴフォード 「それも一興じゃろうな。じゃが其方らが望むのは鬼邪八塩船団の壊滅ではあるまい?」

ベニオット 「そうだな、貴様に構っている暇はない。この先にヴァンハーフが居るというのなら、通してもらおうか」

ゴフォード 「・・・一つ、問う。其方は君臨勇者を倒して、それからどうするつもりじゃ」

ベニオット 「どうするか、だと?」

ゴフォード 「君臨勇者と血染めの、どちらが成す世界のほうが面白いかと聞いておる」

ヴラドニア 「面白い、ね。何様のつもりなのかしら、傍観者のつもり?」

ゴフォード 「瑚鳳度様のつもりじゃ。己が人生は己が主役、あとは脇役でしかない。面白くあれと願って何が悪い」

ヴラドニア 「未来を示せ、というのね」

ゴフォード 「君臨勇者は未来を望んでおるぞ。血染めのヴラドニア、貴様は何を望む」

ヴラドニア 「――そうね、私が望むのは正しい世界です。悪を討ち、正義を成す。今までそうしてきた、これからもそうするつもりです。私は血染めのヴラドニア、すでに白に戻れないというのなら赤く染まりきってしまうしかない」

ゴフォード 「では、貴様が築くのは血みどろの世界か?何を為す、何を生む。其方の自己満足で世界は動かんぞ」

ヴラドニア 「そうね、そうかもしれません。私の正義は所詮、独りよがりだったのかもしれないわ」

ゴフォード 「じゃったら」

ヴラドニア 「けれど『瑚鳳度』。貴方が悪を成す限り、私はいつまでも貴方を追いましょう。貴方という悪を滅するまで、私は止まるつもりはありません」

ゴフォード 「ほう?」

ヴラドニア 「もしかしたら、ヴァンハーフは本当に未来をより良いものにしてしまうかもね。けど、そこには海賊の居場所なんてないのではなくて?鬼の居場所はないのではなくて?退屈は嫌いでしょう瑚鳳度、私が貴方に終わりをあげるわ」

ゴフォード 「・・・く、はは!くははははははは!!そうか、そうか!そういう算段か!成程なあ、成程なあ!面白いぞ血染めのヴラドニア!」

ヴラドニア 「では、貴方はどうするの?」

ゴフォード 「是非もないな!さて、聞くが良い鬼邪八塩船団に名を連ねる者どもよ!敵はどこにいる?王都アスカロンか?この海上か?否!敵はグニタヘイズにあり!」

ヴラドニア 「ずいぶんとあっさり手を返したわね」

ゴフォード 「鬼狽羅は伝記上では魔龍の部下と言う事になっていたのであろう?然らば!この我が魔龍を討ち果たしたとなれば我のカリスマも右肩上がりじゃろうて」

ヴラドニア 「あ、ははは。そういう話ね?」

ゴフォード 「ああそうじゃ、忘れておった。君臨勇者からこれを預かっておるぞ」

ヴラドニア 「これは・・・っ!?七星剣!?」

ゴフォード 「報酬としてもらったんじゃが、なんか受け取った途端急に冷めてしもうてな。くれてやるわ」

ヴラドニア 「あ、ありがとう。オティスさん・・・また、剣を握ってしまうのかしら」

ゴフォード 「其方が決めることではあるまい。原典の人生は原典のものぞ」

ヴラドニア 「そう、だけれど」

ベニオット 「ところで、おそらく俺らを追ってきた船団が後方に見えるが?」

ゴフォード 「寄せ集めに負ける我が鬼邪八塩船団ではないわ!雑兵はこちらの艦隊に任せよ、先を急ぐぞ!」

 

ゴフォード 「しかし・・・これは間に合わんかもなあ。はは、どうしたものか」

 

 

 

ヴァンハーフ「・・・来たのか。軍門に下りに来た、というわけではなさそうだね」

オティス  「ああ、お前とケリをつけに来た」

ヴァンハーフ「人とは強いものだね。君は痛みを、恐怖を味わったというのに歩みを止めないんだね」

オティス  「怖いよ。今すぐにだって逃げてやりたいさ。けど、私の後ろにはアニちゃんがいる。ヴラドニアが、ベニオットがいる。だから、逃げるわけにはいかないんだよ」

ヴァンハーフ「そうか、君には守りたいものがあるんだね」

オティス  「そうさ。知識と研究欲だけに突き動かされたお前とは違ってな!」

ヴァンハーフ「君には僕がそう見えていたのか。君が認識する僕と、僕が認識する僕。其処に相違が現れるというのはなんとも興味深いね」

オティス  「当然のことを難しく言って博識ぶるなよ。馬鹿に見えるぜ?」

ヴァンハーフ「当然のことではないよ?ところでオティス。自分とは、何だと思う?」

オティス  「急になんだ、気持ちが悪い!お前はお前で、私は私だろ」

ヴァンハーフ「君は芯があるね。けれど、僕は僕がわからなくなってしまった。貌を失い、声を失い、居場所を失い、何もかもが無くなった僕は、果たして以前の僕と同一人物なのか?僕は一体何だ?天才魔法使いフォラスか?その弟ロノウェか?それともそうだと思い込んでいる一般市民か?わからない、わからなくなった。だから、僕は仮面を手にした」

オティス  「それが、君臨勇者という怪物の誕生秘話か?」

ヴァンハーフ「顔を喪った僕はもう、何にも成ることは出来ない。だから、『何者でもない誰か』になることにした。それがヴァンハーフ、個性無き君臨勇者だ。そうして、仮面を得た僕は考えた。どうして僕は仮面を被っているんだ?と」

アニ     「自分で被ったんじゃないの・・・?」

ヴァンハーフ「何故こうなったのだろう。元々孤独だった僕が、叡智を知って、愛を知って、嫉妬を知って、憎悪を知って、また孤独を知った。なぜ人は分かり合えないのか。なぜ人は貶め合うのか。なぜ人は・・・争うのか」

オティス   「そんなの当たり前だ。だからこそ、人は人なんだよ。完璧な相互理解が出来ないからこそ、歩み寄り合うのが人なんだよ!」

ヴァンハーフ「僕はこう思った。人は、未だに稚拙なんだと。辿り着くべき段階到達できていないから、人は未だに進化を遂げることが出来ないのだと。人はかつて、魔龍という幻影に怯えて魔法を完成させた。戦争という狂気を怖れ武器を創った。人間が新たな黎明を迎えるためには試練が必要なんだ。だから僕が試練を与える。幻影などではない、本当の魔龍を創造することによってね」

オティス   「そのために、今まで何人殺した?」

ヴァンハーフ「魔龍ここに完全復活を果たしたり、と世界に示す必要がある。原典の勇者を魔龍が食らい殺す。かつて民衆が信じ込んだ定説を覆し、勇者の名を完全に失墜させる。そうなれば、人類の脅威である魔龍が完成する」

オティス   「お前の世迷言のために、これから何人殺すつもりなんだ!?」

ヴァンハーフ「人々は自立しなければいけないんだ。己を己で守れるよう、人間を次の段階に進ませる。そのために、魔龍という淘汰圧が必要なんだ」

オティス   「本気で言ってんのか?」

ヴァンハーフ「本気だとも。このままでは人は緩やかに滅びていくしかなくなる。変わらなければいけない、変えなければいけない!人が成り上がるため他の人を蹴落とすような野蛮な獣となってしまってはいけない」

オティス   「ここに辿り着くために、お前こそ何人蹴落としてきた?キャリコも、フォラスも・・・デュラハンだって!」

ヴァンハーフ「未来を変えるためだ、犠牲無くして変革は成せない。誰かがやらねばならぬことだ!」

オティス   「そうだな、じゃあお前じゃないんだ。『個人』を思いやれないお前が、『人類』しか見えてないお前が!目指す世界などいいものであるものか!」

ヴァンハーフ「答えは――じきにわかるとも。もしもこの世界に観測者がいるのならば、僕の行動を「外道」だと謗るならば!僕の志は半ばで尽きるはずだ。抑止力が、人の意思が、僕が正しいかどうかを決定付けるはずだ!」

オティス   「だったら、私が答えをくれてやる!たしかにお前の叡智は人を豊かにしたかもな。けど、それまでだ!その叡智で人を殺し、人を傷つけ、世界を掻きまわした!その行為を見過ごして――何が原典の勇者だ!!!」

ヴァンハーフ「なら、止めてみるがいい!ネリネはじきに魔龍に成る!それこそが全てだ!」

オティス   「ごたごたと・・・お前に世界を騙る権利なんかねえよ!だから、だからこそお前は私が倒さなきゃいけない。全ての民の笑顔のために!それを奪おうとするお前を、ここで!私が!止めなきゃいけないんだよ!」

ヴァンハーフ「二度は言わないよ。僕は、止まるわけにはいかないんだ。新たなる世界をつくるために!これ以上、未来で余計な血を流させないために!人は変わらなくてはいけない、変えなくてはいけない!此処で僕は、ネリネを完成させなくてはいけないんだ!」

オティス   「そうか、結局お前も見たいものしか見ていないんだな?なら、それでもいい。泡沫の夢を抱いたまま、ここで終われ」

ヴァンハーフ「ここまで積み重ねてきた全てを無駄にするわけにはいかない。魔法陣、展開」

オティス  「は、魔法陣が1,2,3・・・30?以前にも増して、なんなんだお前!その魔力量は!」

ヴァンハーフ「勝てる算段もなく此処に来やしないさ。魔力遠隔供給の話は、研究発表会で聞いていたかな?」

オティス  「人間相手にも魔力を送れるのは画期的だと思うけど?それがどうしたんだ」

ヴァンハーフ「あれの問題点はね、送る魔力量に限界があることなんだ。精々、一般人が凡庸な魔法使いになれる程度。無論個人差はあるがね。ヴラドニアのように魔法の才能がない人間でも、空中戦艦を駆ることが出来るように」

オティス  「じゃあ、お前の紋章は特別性ってか?」

ヴァンハーフ「いいや、才能のない僕の紋章は平凡極まりないものさ。せいぜい、魔の鎖を1本展開できればいい方だ。1を10にするのが精一杯でね。だったらどうするか?簡単さ。いくつも紋章を持てばいい。同じ紋章は1つしか身体に馴染まない。だったら10個、100個の紋章を身体に刻んだとしたら?」

オティス  「お前・・・ははぁ、だから勇者同盟か!」

ヴァンハーフ「人手が欲しかったというのもあるけどね。しかし、今の僕の体には135個の紋章が刻んである」

オティス  「っ!?」

ヴァンハーフ「勿論、複製された紋章は魔力伝達効率は下がるから実質の相当数は少なくなるがね。しかし、今の僕は全盛期のアンドラに相当する魔力を秘めている」

オティス  「アンドラと・・・随分と回りくどいことをするな」

ヴァンハーフ「ネリネを生み出すために膨大な魔力が必要なんだ。しかし、魔力炉は持ち運べるものは魔力が少ない。相応の魔力を得ようとすれば大型化して取り回しが悪い。だから、僕自身を中継器にしたんだ。感覚的にやりやすいからね」

オティス  「趣味悪。だが、そんな膨大な魔力、使いこなせなくちゃ意味がないよな?お前はここで止める!そのお前を殺せば、企みも全部パァだよなぁ!」

ヴァンハーフ「君だけで何が出来る?片腕を失った君が」

オティス  「そうだな、私だけじゃ何ともできないさ。けれど今は、みんながいる。仲間がいる!」

ヴァンハーフ「それも、君の力だ。かかってくるがいい、原典の勇者!」

オティス  「ああ、上等だよ!」

 

 

 

アニ    「ネリネ!」

ネリネ   「っが、う・・・ア、二?」

アニ    「そうだよ!あたしだよ!」

ネリネ   「来てくれた、のね?うれしいの、だわ」

アニ    「鎖、鎖を解かないと!待ってて、今助けるから!」

ネリネ   「うれしい、うれしいのだわ。ネリネの、ねりねのために。ために、めに、めめめめめに!」

アニ    「これが、ヴァンハーフから注がれてる魔力なの?こんなの身体に押し込まれて・・・痛いどころの話じゃないよね」

ネリネ   「へいき、なのだわ。ネリネは、冒険家になって、世界を――」

アニ    「うん、うん!忘れてない、忘れてないからね!」

ネリネ   「アニは、世界一の魔法使いになるのだものね。ネリネは、ネリネはぇう!」

アニ    「鎖、いつもより硬い・・・魔力を潤沢に回すと、こんな頑丈になるなんて」

ネリネ   「優しいのね、アニ。あり、がとう」

アニ    「いいんだよ!ねえ、冒険の話を聞かせて?また二人で甘くしたコーヒーを飲んで、美味しいお菓子に・・・それから!」

ネリネ   「もう、手遅れなのだわ」

アニ    「え・・・?」

オティス  「ああくそ鬱陶しい!ちまちました攻撃ばっかり!」

ヴァンハーフ「今の君には、それくらいでいいだろう?『螺旋鋼線(スパイラル)』」

オティス  「いぐぅ!?あ、うううう!くそ、いい加減にしろよな!」

ヴァンハーフ「魔の鎖をさらに綿密に編み込み、練り上げたものだ。硬度も威力も向上しているよ」

オティス  「小手先ばっかり・・・ああ、お前相手に手数の多さで挑んでも意味がないな。一撃で、沈めてやるよ!」

ヴァンハーフ「大技を放つつもりかい?それを許すほど、僕は馬鹿ではないよ」

オティス  「魔力充填、回路循環!皆、ごめん!ちょっとだけ時間稼いで!」

ヴラドニア  「任せて、オティスさん!チャージ臨界、150%!主砲、放て!!」

ヴァンハーフ「防御魔法、展開」

ヴラドニア 「とんでもない防御力ね――けど、背中ががら空きなのよ!」

デュラハン 「合わせろ、竜騎士!」

ベニオット 「そっちが俺に合わせろ!『絶剣・朧月』!」

デュラハン 「『光蝕・無月の湖(アロンダイト・ダムト・フール)』!」

ヴァンハーフ「背後からとは感心しないね。『不完全な創生(セブン・ノースターター)』」

ベニオット 「まるで要塞だな、攻撃が届かん!」

ヴァンハーフ「魔法は手から撃つものだと思っているかい?僕は魔法陣を複数展開できる。だからこうやって」

ベニオット 「っ!?な・・・」

ヴァンハーフ「複数方向から同時に攻撃することだってできる」

ヴラドニア 「アルヴィド、火炎弾!」

ヴァンハーフ「防御もそうだ。その程度では貫通出来ないよ」

ゴフォード 「そうさな、だがそれがどうした!貴様とて所詮は人間であろうが!」

ベニオット 「な!?おい、伏せろ黒騎士!」

ゴフォード 「塵芥と化すがいい!『百火繚嵐(ケンラ・ゴーカ)』!!」

ヴァンハーフ「っ!そうか・・・裏切るのかい、ゴフォード」

ゴフォード 「世迷言を。我は元から誰の味方でもないわ!」

ヴァンハーフ「そうか、残念だよ。君を倒さねばならなくなるとはね」

ゴフォード 「うはは、上等じゃ!その面、青く染めてやるわ!」

ヴァンハーフ「ふむ。少々、面倒だね。まとめて吹き飛ばしてしまおうか」

オティス  「――よし、溜まった」

ヴラドニア 「オティスさんの周りに、光が集まっている。これは?」

ゴフォード 「七星剣の本気が見れると言う事か?ふはは、見ものであるな!」

オティス  「うん、皆有難う――さあ、私の全身全霊だ!受けてみるがいい、君臨勇者!」

ヴァンハーフ「為してみるがいい。これが、最後の審判だ。世界は誰を選ぶのか、女神は君に微笑むのか!」

オティス   「万物の喝采を聞け!これは英雄を討ち亡ぼす一撃にして、全てを終焉させる深淵の刃だ!」

ヴァンハーフ「世を統べる天秤を傾けよう。右には宝石左には鋼鉄。捧ぐは純金、どちらに置くかを決めるは神に非ず!」

オティス   「さぁ、審判の時だ!ぶちかませ!『七星揺蕩う魔滅の刃(セブンスターズ・ティルファング)』!!」

ヴァンハーフ「全てを打ち消せ!『天帝の号令(グラム・ド・ポラリス)』!」

オティス   「ぐ、うううううおおおおおおおおおおおお!!!」

ヴァンハーフ「君1人で敵うはずもあるまい!君の前に立ち塞がるのは、100を超える勇者の証だ!」

オティス   「それが、どうした!誰が来ようが、何が来ようが!倒さねば明日が来ないというのなら倒すのが私だ!!そのために、私は今ここにいる!!」

ヴァンハーフ「それだけの魔力を放出し続けるなど・・・身体の負担が大きいのではないかな?規格外の魔力が身体を駆け巡るのは激痛を伴うだろう?」

オティス   「関係、ないね!あは、はははは!そうか、これが痛みか!私が数十年知らなかった「普通」か!!そうか、そうか!だったら!猶更負けるわけにはいかないな?この痛みを、苦しみを!お前が世界中に齎そうとするなら!くだらねえ大義で人々を苦しめるつもりなら!ここでお前だけは殺さなくちゃいけないよなぁ!?」

ヴァンハーフ「世界は変革を求めている!」

オティス  「平穏を望む人だっている!」

ヴァンハーフ「人は変わらねばならない!」

オティス  「お前が変える必要がどこに在る!」

ヴァンハーフ「全ては調停者が決めることだ!」

オティス  「気取ってんじゃねえ!お前は、お前だけはああああ!!」

ヴァンハーフ「ぐ・・・随分と魔力を持っていかれたが・・・相殺がやっとか。しかし、もう次の駒がないのではないか?」

オティス  「いいや?まだとっておきが残ってるとも!すぅ(息を吸う)・・・アニちゃああああああああん!!!」

アニ    「うん、溜まってるよ!横にずれてお姉ちゃん!」

ヴァンハーフ「・・・そうか。全員、ただの前座だったのか」

アニ    「アニ式・超弩級バリスタ!おりゃあああああああああああ!」

ヴァンハーフ「まだ、こちらにも余裕はある!『初に至る極点(ファウス・トップ)』!」

アニ    「っ、これも防ぐの!?」

オティス  「いいや、それでいいんだよ!船の上ではよくもやってくれたな!」

ヴァンハーフ「な、爆炎の陰から――そうか。一手、競り負けたのか」

オティス  「さあ、天上の夢は見終えたか!?いい加減夢から覚めろ!『狼王失墜(バスタード・フェンリル)』!!」

ヴァンハーフ「が、は・・・身体が、動かない。なるほどね、僕は届かなかったのか」

オティス  「ああ、そうだな。お前の志は尊ぶべきものだったかもしれない。けど、行きついた先が最悪だった」

ヴァンハーフ「素晴らしい、とても興味深い。やはり人類を変革させるのは、可能性・・・だ、な」

オティス  「気持ち悪い口上をごたごたと。たしかにお前は強かったよ。お前なりに本気で世界を憂いて、変えようとした結果がこれなのかもしれない。けど・・・お前の理論に基づいて言うなら、資格がなかったんだよ。君臨勇者の『憧れ』は、ここで終わらせる」

ヴァンハーフ「やはり、創造主は世界を見捨ててはいなかった。そうか、あの時見た光はやはり・・・」

アニ    「っ!そうだ、ネリネは?」

ヴラドニア 「祠のほうよ!魔力を、感じるわ。まだ生きているわ」

アニ    「ネリネ、ネリネ!大丈夫?生きてる!?」

ネリネ   「う、ぐ・・・ゆうしゃ、さま・・・あに?」

アニ    「うん。もう、大丈夫だよ」

ネリネ   「お父様は、どこ」

オティス  「恨んでくれて、構わない」

ネリネ   「ううん、お父様は弱かったのよ。だから、負けてしまった。夢に手が届かず死んでしまった。それだけのことだわ」

オティス  「アニちゃん、動ける?まずは鎖を解かないと。ネリネちゃんを――」

ネリネ   「だから、ネリネも強くならないといけないのだわ」

オティス  「え・・・・・・が、ふ!?」

アニ    「あ・・・お、お姉ちゃん?」

ネリネ   「ダメよ、勇者さま。『魔龍』を前にして油断なんてしたら」

オティス  「い、ぎ・・・あぐ、ああああああああああああああ!!?」

アニ    「い、いやあああああああああ!?」

ネリネ   「ふ、うふふふふ。人の身体って、柔らかいのね。こんな簡単に胴体を貫けるなんて。赤くて黒くて、とても綺麗」

オティス  「がふ、う・・・あぎぇあ!?えぐ、う、ううううううううう!!ぐ・・・く、ぁえ」

ネリネ   「いっただきまーす、はむ・・・じゅる、まぐ、もしゃ・・・ぷはぁ!あー、美味しいのだわ」

アニ    「ネリネ?いま・・・何を、食べたの?」

ネリネ   「ふふ、オティス様の肝臓よ」

オティス  「っ!?肝臓、って」

ネリネ   「血は魔力により運ばれるもの。血が集う器官にして、生命力を蓄える臓器。さすが魔力を効率的に生み出し、使役するために造られた人間ね。とてもきれいな魔力だけれど・・・まだ、お腹は空いているのだわ」

デュラハン 「まさか、既に魔龍としてすでに大成して・・・っな!?影に、捕まった?」

ネリネ   「竜騎士の残滓、亡霊の末路。こんな美味しそうなもの、置いておくなんて勿体ない」

アニ    「なにを、して」

ネリネ   「核を喪っているのよね?今のあなたは底に穴の開いたバケツ。空にしないようにするためにはどんどん魔力を注がないといけない。うふふ。お父様に植え付けられた紋章のおかげで命拾いしたのね?」

デュラハン 「まさか、紋章ごと取り込む気か!?く、待て!俺を取り込んだとしても意味はないぞ!」

ネリネ   「お父様も、首無し騎士も、全て贄にして成りあがる。だって、ネリネはもう魔龍なのだから!」

オティス  「が、はぅ・・・これは、まずいな」

ネリネ   「デュラハン様。ネリネに全部、頂戴・・・いただきます」

デュラハン 「退け、原典の勇者!このままではすべて――ぐ、あああああああああああああああああ!!!」

ネリネ   「じゅる(舌なめずり)・・・ふう。どす黒くて素敵ね。けれど、お腹は膨れたのだわ。そんなにも原典の勇者を慮っていたのね?素敵、素敵なのだわ。これが殺意――いや、それを越えた狂愛ね。胸がすく思いだわ」

アニ    「呑み、こまれた?そんな、デュラハンが」

ネリネ   「あは、あはははははははははは!これがネリネ、これが魔龍なのだわ!」

ヴラドニア 「なに、この魔力量。尋常じゃないわ、まだ増え続けるなんて!」

ネリネ   「お父様、共に行きましょう?ネリネの傍で、ネリネを見守っていてほしいわ、力になってほしいわ」

ヴラドニア 「そんな?! 父親の・・・、ヴァンハーフの、首を引き千切る、なんて・・・!」

ネリネ   「お父様は仮面の裏に紋章を刻印しているの。だから、これはお父様の示威。お父様の象徴。お父様の栄光!だから、ネリネも肖るのだわ。この世に君臨せし、魔龍として!」

アニ    「やめて、待ってよネリネ!なんでそんなことしようとしてるの!?探検家になりたかったんじゃないの!?」

ネリネ   「やめないし、待てないわ。だって、これはネリネが望んだことだもの」

アニ    「・・・え?」

ネリネ   「お父様は、世界を変えたくて、人という生き物を変えたくて、ずっと手段を探していたのだわ。だから、ネリネが教えてあげたの。魔龍を復活させればいいんじゃないかなって」

ヴラドニア 「貴方が、そう仕向けたって言うの!?」

ネリネ   「ネリネだけの力じゃないのだわ。きっとネリネがいなくても、お父様はその結論にたどり着いたと思うの。封印されし聖遺物『キバイラの右腕』を見つけて、虚構は真実に引きずり落とされたのだもの」

ヴラドニア 「逸話の力、というものね・・・ここまで全部、想定通りなんて」

ネリネ   「魔力炉がどうして魔力を生むのか。全てはあの聖遺物が物語っていたのだわ。お父様の理論は確信に代わり、お父様の計画は、全て魔龍の復活のために集約された!けれど、これはあくまで手段。勇者と成ったオティス様が、七星剣を手にしたようなもの。むしろ、ここからが始まりなのだわ」

オティス  「ネリネ、ちゃん・・・」

ネリネ   「原典を見せしめにするだなんて、そんな回りくどいことしなくてもいいのだわ。ここにいる勇者一行を皆殺し、王都で小競り合いを続ける民衆を王都ごと消す!今のネリネにはそれだけの力があるわ!」

ヴラドニア 「っ、そんなことになれば、もう戦争どころじゃないわね」

ネリネ   「人の世を滅ぼし、作り替え、新たな舵を切る!そう!これがネリネとお父様の計画なのだわ!ネリネを恐れ、魔龍を怖れる!そして、ネリネを乗り越えるために人は強くなる!手を取り合い、皆で笑い合う!それはなんて素敵なことなのかしら!」

アニ    「ダメだよ、帰ってきてネリネ!二人で、空を飛ぶって約束したじゃない!」

ネリネ   「今のネリネなら何でもできるのだわ。ふふ、手始めに・・・勇者様のお味が、気になるわ」

アニ    「いやだ、帰って来てよネリネ!これじゃ、あたしが世界一の魔法使いになったって!」

ヴラドニア 「ごめんなさい、アニさん!こうなってしまった以上は・・・勇者として、正義として!ここでネリネさんを止めないと!」

アニ    「ヴラドニアさん!?やめて!待ってよ!」

ヴラドニア 「黒槍弾、装填!スルーズ!」

ネリネ   「当たらないのだわ!乱してあげる、『最超音波(スプリーム・スクリーム)』!ぼええええええええ!!」

ヴラドニア 「う、あああああ!?耳が!ぐ、なんで?気配探知が、乱れて」

ネリネ   「魔力探知なんてさせないわ。ダメよ?ネリネはもう、その絡繰りに気が付いているのだから!」

ヴラドニア 「っ!?しま――」

ベニオット 「させるか!」

ネリネ   「あら、ベニオット様。邪魔しないでほしいのだけれど?」

ベニオット 「オティスの腹を抉るだけある。重い一撃だが・・・その程度ではな!」

ネリネ   「きゃあ!?ひどいわ。ひどいのだわ。せっかく仲良くなれたのに」

ベニオット 「剣を向けない理由にはならん。悪いな、お前を救ってやりたかった。だが俺にも守るべきものがある。来いアホ毛!」

ネリネ   「目には目を、竜には竜を。そういうことなのだわ?」

ベニオット 「ひとまず遠慮はいらん!焼き払え、アホ毛!」

ネリネ   「熱いのは嫌なのだわ。『宣託と返礼(リジェクト・セレクト)』!せーい!」

ベニオット 「っ!?ばかな、羽ばたきの風で炎をかき消しただと!?」

ネリネ   「そして、ネリネも竜だから火くらい吐けるのだわ。『邪竜の息吹(カイェン・ファイア)』!ぶわああああああ!!」

ベニオット 「っぐ、あああああああああああ!!」

ヴラドニア 「ベニオット!?どこ、ネリネさんは何処に行ったの!?誰がいるの!?気配が読めない!」

アニ    「ヴラドニアさん、うしろ!」

ヴラドニア 「っ!そこね!」

アニ    「きゃあ!?」

ヴラドニア 「な、アニさん!?どうして・・・」

ネリネ   「仲間を撃つなんてひどい人なのね。『原初の鞭(ファウスト・フィスト)』!せいや!」

ヴラドニア 「あぐ!?が・・・は」

ネリネ   「あら?あらら?もう二人、倒しちゃったみたいなのだわ。つまらないの・・・っ!?」

ゴフォード 「『百火繚嵐(ケンラ・ゴーカ)』!そらそら、人間ばかりに構っている暇はあるまいて!」

ネリネ   「風と炎の合体魔法ね?あは、さすがだわゴフォードさん!まるで魔法使いのようね!」

ゴフォード 「いやはや!我が生涯において魔龍と戦える日が来るとは思わなんだな!『戦艦抜錨(バスタード・ラストランナー)』!」

ネリネ   「うふふ、楽しいかしら。楽しんでもらえてるなら光栄だわ!」

ゴフォード 「そら、勇者ども!態勢を立て直すなら今の内ぞ!あまりに時間がかかるようならば、この我が全て持って行ってしまうぞ?」

ネリネ   「それは敵わないのだわ。何故なら私のお腹の中には、鬼殺しの英雄がいるのよ?」

ゴフォード 「ほう?ならば貴様を喰らえば我も勇者を殲滅できるやもしれぬな!」

ネリネ   「なら、受けて頂戴!『無月の廃墟(アローン・ダストダイト)』!!」

ゴフォード 「っげぇあ!?錨が砕けた!?」

ネリネ   「楽しかったのだわ。ゴフォードさん!『原初の鞭(ファウスト・フィスト)』!」

ゴフォード 「うぐおおおお!?く、そ。なんなんじゃ、その膂力は」

アニ    「ぐ・・・肩、が・・・回復、を・・・・ネリネ。もう、戻れないの?ネリネがやらなきゃいけないの!?」

ネリネ   「これは、ネリネに与えられた使命なのだわ。ごめんねアニ。貴方だけなら、見逃してあげてもいいのよ?」

アニ    「そんなことできない!あたしは、このパーティの回復役だ!みんなを治して、支えるのがあたしの役目だ!そんなあたしが、ここで逃げるなんて出来ない!」

ネリネ   「不器用ね、アニは」

オティス  「馬鹿言え。その素直さが、アニちゃんなんだろうが」

ネリネ   「あららら?起きたのね、勇者様。足元がおぼつかないみたいだけれど、平気かしら」

オティス  「安心しなよ、致命傷だ。まさか最後に立ちふさがるのが君だなんてね・・・考えも、しなかった」

アニ    「お姉ちゃん!今、治すからね」

オティス  「欠けた身体を直す魔法はないよ。腕も内臓も――もう、戻らない」

ネリネ   「ネリネ自身もどこまでやれるか確かめたいの。勇者様、全力を出して?その上から、叩き潰すのだわ」

アニ    「お姉ちゃん・・・何とかなるよね?ネリネも、お姉ちゃんも!何とかできるよね!?」

オティス  「今のネリネは、デュラハンとヴァンハーフ、世界の負の力を飲み込んで変化し続けている。今はまだ闇雲に力を放出しているだけだけど、いずれ馴染んでくる。体もどんどん竜になっていってる。ここで止められなきゃ・・・けど」

ベニオット 「アホ毛、まだ飛べるか?っ、墜落の衝撃で顎を怪我しているな。炎は、吐けそうにないか」

ヴラドニア 「ぐ・・・まだ、やれるわ。鈍りが戻ってきた、まだ負けるわけにはいかない、正義のために、オティスさんの、ために・・・」

オティス  「ヴラドニア、それ以上やるとまた病気ぶり返すよ。死にたいの?」

ヴラドニア 「けど!今ここで止められなかったら!」

オティス  「そうだね、魔龍ネリネが『完成』する。けど、今ある戦力じゃ磨り潰されて終わりだ。大技を撃つ余力もほとんどない」

ヴラドニア 「そんな!」

オティス  「まともな戦いじゃ、話にならないな。これは、もう・・・は、は、強いなあネリネちゃん。最後にこれって、狡いだろ」

ヴラドニア 「・・・オティスさん?」

オティス  「けど、手段はある・・・アニちゃん、ちょっとこっちきて」

アニ    「お姉ちゃん?なに・・・ねえ。なんで、抱きしめるの?」

オティス  「ありがとう、私に価値をくれて。私に生きる理由をくれて」

アニ    「お姉、ちゃん?」

オティス  「貴方は、私の光だった。暗闇の中でも道を違わず、何もないところを照らしてくれる希望だった」

アニ    「そんなこと、ないよ。私にとっては、お姉ちゃんだって」

オティス  「どんな困難にも立ち向かえた。どんな苦難も、乗り越えられた。側に、居てくれたから」

アニ    「お姉ちゃんが、頑張ったからだよ?私なんてそんな、回復しかしてないし」

オティス  「病める時も健やかなる時も、隣にいてくれた。だからこそ、私はこの足で立つことができた。私の物語は、貴方がいたから綴ることができた・・・ありがとう、アニちゃん。ここで終幕だ」

アニ    「・・・お姉ちゃん?なんでそんな顔、してるの?」

オティス  「どうか、選択を間違えないでね。アニちゃんはアニちゃんの道を見つけて、絶対に幸せになってね・・・・・・さようなら、アニちゃん」

アニ    「まさか・・・待って!やめて!お姉ちゃん!」

オティス  「それじゃ意味ないだろ。私が、やらなきゃいけない」

アニ    「駄目だって!お姉ちゃんはもうお姉ちゃんなんだよ?もう勇者じゃなくてもいいんだよ!?お姉ちゃんもこっちに来て!お願い!お姉ちゃっ――」

オティス  「瑚鳳度」

ゴフォード 「やれ、貸しは高いぞ原典の。『風伯葬送(シナツヒコ・イーテ)』」

アニ    「やだ、やあああああああああああ!!」

ベニオット 「な!?お前!」

ゴフォード 「疾くと拾いに行くが良い。風力に任せて適当に飛ばした故、着地のことは考えておらん」

ベニオット 「この・・・お前という奴は!」

オティス  「ごめんね」

ベニオット 「全く、最後の最後で搔き回しやがる!いいか、帰ってきたら説教してやる!覚悟しておけ!わかったか!」

オティス  「はは、こわいこわい――うん、覚悟しとく」

ベニオット 「アホ毛、アニを追うぞ!ヴラドニアも来てくれ、俺じゃアニがどこに飛んで行ったかわからん!気配探知直して探せ!」

ヴラドニア 「え?ちょ、何?まだオティスさんが!離して、ベニオット!オティスさん、オティスさあああああん!」

ゴフォード 「これで満足か、原典の」

オティス  「お前は逃げなくていいか?」

ゴフォード 「うはは、これほど見ごたえのある舞台があるか?手は出さんし貸さん、やり遂げるがいい」

ネリネ   「なあに?皆逃がしちゃうなんて。ひどいことするのね」

オティス  「行ったかな。さてと、ネリネ。あとはもう君と私の2人だけだ・・・あとお前、まだ起きてるだろヴァンハーフ」

ヴァンハーフ「く、ははは・・・何をする気かな?時間稼ぎのつもりだろうが、ネリネは大成した。今の君では止められない、せいぜい稼げて2分程度だろう」

ネリネ   「あら?あららら?お父様、首だけになっても生きているなんて!好奇心旺盛すぎるのだわ!」

オティス  「それくらいあれば十分だよ。だってもう、終わってるから」

ヴァンハーフ「・・・何?」

オティス  「お前、結果主義みたいに見えて意外と過程を楽しむ性質だろ。だから私とアニちゃんの別れも、水を差さないだろうなとは思ってた」

ヴァンハーフ「ふむ、そうだったかな?」

オティス  「だからチャンスはそこしかなかった。現に今も、こうして私の言葉に耳を傾けようとしてる。好奇心か?それとも驕りか?なんにせよ、その慢心がお前が敗ける理由だ」

ヴァンハーフ「そうかね、だが今の君には何も出来ないよ」

オティス  「うん、多分今からどんな技を撃とうとしてもその前にネリネに潰される。それくらいわかるよ」

ヴァンハーフ「だったら」

オティス  「言ったろ、もう終わってるって。悪いね、アニちゃんとさっき交わした会話・・・最後を除いて、全部詠唱だったんだよね」

ヴァンハーフ「・・・なに?」

オティス  「ま、トリガーはまだ引いてないんだけど。その前は言わばお膳立てみたいなもんでさ。女神由縁のものだから、細工が必要だった」

ヴァンハーフ「女神由縁だと、まさか、まさか。オティス、君が使ったのは」

オティス  「言わば逸話の再現さ。原典の勇者は自らを魔龍ごと封印したとされている。ならお前の理論に基づいて逆説的に言うなら!このグニタヘイズにおいて!私には魔龍を封印する術を行使し得る力を持てるってことだよな!?」

ネリネ   「ん、なあに?七星剣が光りだしたのだわ!」

オティス  「なぁ『魔龍』!たしかに君はすごいよ。私を殺せるかもしれない。けどね、私に勝てる日は永遠に来ない。何故なら勇者は、魔龍を封印する存在だからな!」

ヴァンハーフ「過去が紛い物である証明など出来はしない――信仰力を逆手に取って、偽りの歴史を『再現』するというのか?」

オティス  「試合なら私の負けだよ、けど勝負なら私の勝ちだ!もう封印の術は発動してるよ、私が、七星剣がその楔だ!一緒に行こうぜ。君の野望は私がずっと聞いてやるからさ」

ヴァンハーフ「ネリネ!オティスを殺せ!」

ネリネ   「わかったのだわ!『安易なる突き(チープ・ド・チョップ)』」

オティス  「があ、ぅああああああ!!あ、ははははは!今更もう遅いよ!さぁ、女神の領域へ堕ちてもらおうか!『この奇跡に感謝します(プリエール・ア・デュー)』!」

ネリネ   「いや、いや!封印なんて嫌!まだ見てないことも、やりたいこともたくさんあるのに!いやああああああああ!!!」

ヴァンハーフ「ふは、ふはははははははは!!!素晴らしい、素晴らしいぞ!絶体絶命のこの局面で、その解を叩き出すのか!素晴らしい!まさに人が有する無限大の可能性の顕現だ!人生は可能性に満ちているゥうううううううううう!!」

 

 

オティス  「あーあ、アニちゃんに怒られるな、これ・・・なあ、ウォースロット。私に心臓をくれた時、お前もこんな気分だったのか?だったら、やっぱりお前は嫌なやつだよ」

ウォースロット  「――そうだな、あの時のことは鮮明に記憶している。価値とは掛け替えのないものほどその大きさに気がつかないものだ。愚かなものだ、お前が死んで初めてその価値が貴いものだと気付いた。笑いたければ笑うと良い」

オティス  「お前・・・なんで」

ウォースロット  「魔龍――否、その姿を歪められたネリネという少女に、デュラハンは変化の糧として吸収された。そのネリネをお前が封印した。つまりデュラハンのうちに眠る俺の意識も、ネリネ共々引きずり込まれたということだろう。予測の域を出ないがな」

オティス  「ごめん、全然わからない」

ウォースロット  「む、そうか。こうは言ったものの俺自身、何故ここに存在できているのかは不明瞭だ。デュラハン、心臓、無月剣。俺を成す要素がいくつも此処に集まったことによる作用だろうか?」

オティス  「だから!もっとわかりやすく言ってくれる?」

ウォースロット  「要はただの残留思念、黒騎士ウォースロットの残滓のようなものだ。泡沫の言葉、胡蝶の夢。秘術を使い死した俺の意識は、どうやら再びここに囚われてしまったらしい。俺は・・・このような結末を拒絶するため、お前に心臓を捧げたのだがな」

オティス  「うん、ごめんね。けど多分、こうするしかなかったんだ。悔しいけど、勝つことは出来なかった。みんなを守るためには、こうするしか・・・私はもう、何も喪いたくなかった」

ウォースロット  「その結果、己を滅ぼしてもか?」

オティス  「あは、人のこと責められないや――いいよ、意思は受け継いだから。お前から受け取ったものは、ヴラドニアが、べニオットが・・・アニちゃんが、紡いでくれる。300年前の聖遺物よりも、今を生きる人を生かすほうがずっといいでしょ?」

ウォースロット 「後悔はない、か・・・俺はお前が望むように生きることを望んだ。お前がこの結末を許容するというなら、俺は徒に口を挟むべきではないな」

オティス  「・・・なあ。なんでお前は、あんなことしたんだ?」

ウォースロット  「300年前の封印の話か?言っただろう。俺はお前の剣、お前が望むように生きるを望んだ男だ。お前はあの時、諦観でもなく、憎悪でもなく、未練を口にした。「死にたくない」と。俺が剣を振るうには、命を賭けるには、それだけで十分だった」

オティス  「・・・は?それだけ?」

ウォースロット  「そも、俺は特別なことをしたという自覚はない。俺はお前が望むままに俺が出来ることをしてきた。だからこそ最期もそうした。ただそれだけのことだが、お前にとっては何か違ったか?」

オティス  「え・・・あはは。なーんだ、似た者同士だったんだね、私たち」

ウォースロット  「だが、お前がここに落ちるにはまだ早いんじゃないか」

オティス  「はい?」

ウォースロット  「例えこの先に悲劇が待つとしても、俺はお前の幸福を望み続ける。守るべき故郷も、貫くべき信念もない男が俺だ。だからこそお前という可能性だけは、未来へ繋ぎたかった・・・今度は、300年も費やさせるわけにはいかないということだ」

オティス  「どういうこと?じゃあ・・・力を、貸してくれるの?」

ウォースロット  「この俺は完全な俺ではない。かつてのようにはいかないが、今後魔龍を世に蘇らせないように抑え込む助けくらいはできる。だから、お前は生きてくれ。何も得ることが出来なかった、俺の代わりに」

オティス  「そうか、うん。やっぱりお前は頼りになるな・・・ありがとう」

ウォースロット  「礼には及ばない。俺にとっては当然のことだ――我が、妹よ」

ネリネ   「むにゃむにゃ・・・もう、食べられないのだわ」

ウォースロット  「全ては、俺の故郷から始まったことだ。終わらせるのも、俺でなくてはいけなかった。すまないな、幼き少女よ。魔龍と成ってしまったお前に、施せる術を俺は持ち合わせていない」

ネリネ   「アニ・・・約束・・・はり、せんぼん」

ウォースロット  「ふむ、どうやら物騒な約束をしていると見える。代償の重さを鑑みるに、ギアスに匹敵する誓いか。そうであるならば、例え命に代えてでも為さねばならないな、少女よ」

ネリネ   「むむ、む?お兄さんは、誰なのだわ?・・・私は、誰なのだわ?」

ウォースロット  「わざわざ名乗る名も無い。何もない世界に、一人だけでは寂しかろう。せめて、俺という意識が消えてしまうその時まで一緒に在ろう・・・此処があの世とやらでなければいいがな。滅びるのは、俺だけでいい」

ネリネ   「お兄さん!じゃあ、なにか楽しなお話を聞かせてほしいのだわ!」

ウォースロット  「いいだろう。何から話そうか・・・では、俺がかつてカケゴットという町で賭け事に快勝したときの話なのだが――」

 

 

 

アニ    「っは、っは、っは・・・二人とも、急いで!」

ベニオット 「わかっている!」

アニ    「ヴラドニアさん、気配探知出来そう?」

ヴラドニア 「もう少しで直せると思うわ。まさか、音波をぶつけられて乱されるなんて」

ベニオット 「何があるかわからん、最悪の場合も考えて臨戦態勢を取れ!」

アニ    「わかってるよ!着いた!お姉ちゃん!ネリネは・・・・・・お姉、ちゃん?」

ベニオット 「これは。どういう、ことだ?」

ゴフォード 「見事であったぞ、原典の。其方はまさに勇者であったな」

ヴラドニア 「気配が無い・・・誰も、いない。何があったの?3人とも、まるで痕跡が消えてしまっているわ」

アニ    「どこ?ねえ、二人ともどこに行ったの!?」

ベニオット 「まさか、自爆技を?」

ヴラドニア 「いいえ。そうであればこの一帯に残留魔力が残っているはずよ」

ベニオット 「じゃあ、戦っているうちに場所の移動を?」

ヴラドニア 「グニタヘイズとその近海にそれらしい気配はないわ。そも、戦闘の余波がほとんど残っていないの。あの後、魔法の行使は殆どなかったということじゃないかしら」

アニ    「お姉ちゃんが死んだって言うの!?」

ヴラドニア 「そ、そうは言ってないわ!状況を鑑みるに、死んだわけじゃないとは思うけれど」

アニ    「じゃあ、お姉ちゃんは?ネリネはどこに行ったの?死んでないならどうしてここに居ないの!ねぇ、ねえってば!」

ヴラドニア 「わ、私にもわからないわよ!ねえ瑚鳳度!なにがあったの!?」

ゴフォード 「我から語ることは何もない。ただ見届けたのみぞ?」

アニ    「お姉ちゃんはどこ!ねえ!」

ゴフォード 「教える義理はない。其方が勝った以上、我と其方は改めて敵同士であろう?」

ヴラドニア 「貴方ね!」

ベニオット 「お前らで言い争ってどうする!居ないと言うなら辺りを探すしかないだろう!」

ヴラドニア 「けど、気配はどこにもないのよ!?」

ベニオット 「俺は空から探す!あのオティスが黙って消えるなどあるものか、どこかで騒ぎが起こっているはずだ!」

アニ    「お姉ちゃん!お姉ちゃんってば!どこ?どこなの?出て来てよ。ヴァンハーフもネリネもいないってことは、勝ったんでしょ?なら、もうお姉ちゃんのやることは終わったじゃない。もう、戦わなくていいんでしょ?」

ヴラドニア 「これは――石碑に、七星剣が突き立てられている・・・え、まさか」

アニ    「ねぇ、やだよ。消えないでよ。私を置いて行かないでよ!お姉ちゃん、お姉ちゃあああああん!!うわああああああああああん!いやあああああああ!!」