​原典の勇者 第8話 -王都 アスカロン / ♂×4 ♀×4 / 嵩音ルイ

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所要時間:130分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス 23歳 ♀

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。気さくで明るく、気を許した人間には優しい。

顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。

アンドラにより生み出された人造人間。料理のセンスは人並み以下。

 

アニ 12歳 ♀

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。天真爛漫で可愛い。

好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。既存の枠にとらわれない魔法の扱い方をする。

オティスのためになることは何かを常に考えている。回復魔法のみなら杖なしで行使できるようになった。

ベニオット 26歳 ♂

王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。ネリネに懐かれている。

真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。

パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

ヴラドニア 22歳 ♀

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。

元王女であり、兄の死の真相を追っている。最近ベニオット達に構ってもらえなくて拗ねている。

 

ヴァンハーフ 30歳(自称) ♂

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。

人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多才な人物。

勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。

 

イフォニ 年齢不詳 ♂

その筋では有名な情報屋。対価さえ積めば有用な情報を明かしてくれる。

童顔で小柄であるうえ、身分を全く明かしておらず謎が多い人物。ヴァンハーフに与している自立型端末。

背が小さいことをかなり気にしており、馬鹿にすると怒る。かつて愛した女性がいた。

 

フォラス 38歳 ♂

「アンドラの再来」と謳われる魔法使い。王都に属し、魔法の研究と発展を担う「宮廷魔導士」の第一席。

正当なアンドラの血筋を継いでいる。自身の才能を絶対と思っており、「天才」を自称するほど自尊心が高い。

最近は研究ではなく後進育成に力を入れている。

メイカ 25歳 ♀

フォラスの一番弟子。魔道具の作成に長けており、自身の技術に絶対的な自信を持っている。好きな魔道具は魔法銃。

研究や資金調達優先で睡眠を碌に取っていないため、常に躁状態でテンションが高い。基本的に自己中心的。

原典の勇者を神格的に崇めており、勇者こそが世界を救済する存在なのだと信じて疑っていない。人の話を聞かない。

ロノウェ 18歳 (兼ね役推奨)

フォラスの義弟。魔法の才能があるが、当人はほとんど体内に魔力を有していない「不適合者」。

控えめな性格で、相手を尊重した物言いをする。魔法の研究のみに人生を消費させられており、この数年間空を見ていない。

勇者冒険譚を本が壊れる寸前まで読みつぶした。好きな人物はオティスらしい。

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役表

 

オティス(♀)・・・

アニ(♀)・・・

ベニオット(♂)・・・

ヴラドニア(♀)・・・

ヴァンハーフ/ロノウェ(♂)・・・

フォラス(♂)・・・

メイカ(♀)・・・

 

――――――――――――――――――――――――
 

〇王都『アスカロン』

フォラス   「ロノウェ。もう寝る時間だぞ、何をしている?」

ロノウェ   「フォラス義兄さん・・・本を、読んでいました」

フォラス   「勇者冒険譚か。好きだなお前も。こんなに擦り切れるまで読み返したのか」

ロノウェ   「はい、とても面白くて。僕が見たことないものも知らないことも、たくさん書いてあります。義兄さんは誰が好きですか?」

フォラス   「勇者一行か?勿論、俺の祖先であるアンドラだ。彼が成してきた功績はとても大きなものだ。その血を継ぐものとして、恥ずかしい真似は出来ない」

ロノウェ   「アンドラが好きなんですね」

フォラス   「当たり前だ。魔法というものを突き詰め、解き明かし、広めた英雄。俺たちの生活はこの人あればこそ生まれたものだ。憧れないわけがないだろう?」

ロノウェ   「そうですね。けれど僕は、オティスが格好いいと思います」

フォラス   「お前は、勇者になりたいのか?」

ロノウェ   「そうじゃない、と思います。けど、誰かのために立ち上がり、戦うことができる。見返りを求めず誰かを守ろうとする。それはとても、誇らしいことなんじゃないかって思ったんです」

フォラス   「そういうものか?」

ロノウェ   「僕も、そうありたい。僕が成したことで、少しでも誰かが救われるのならば・・・これほど嬉しいことはないです」

フォラス   「そうだな。俺たちの魔法が人々を救うならば、それほど誇らしいことはない」

ロノウェ   「頑張りましょう。僕が魔法をつくって、義兄さんが使う。そうやって二人で、一緒に頑張っていきましょう!」

フォラス   「ああ・・・だから、今日はもう寝るんだぞ。ランプの油も、あまり多くは用意してやれない」

ロノウェ   「大丈夫です。じゃあ今日はもう終わりにします。もう少しで雷魔法の基礎解析も終わるはずですから」

フォラス   「任せたぞ。解析が終わったら、美味い飯を用意してやるからな」

ロノウェ   「はい。嬉しいです・・・フォラス義兄さん」

フォラス   「どうかしたか?」

ロノウェ   「今度は、いつ会えますか?」

フォラス   「そうだな――お前が、それを完成させたら、かな」

ロノウェ   「っ!で、では頑張ります!頑張りますね!」

フォラス   「身体を壊したら元も子もないぞ。ほどほどに、だ」

ロノウェ   「はい!では、おやすみなさい」

 

 

 

ヴァンハーフ「ふむ、久々に夢を見たな。過去の夢・・・いつぶりだろうか、僕が僕であることを認識するのは」

イフォニ   「おはよう。研究熱心だね、ヴァンハーフ。夢の中でも魔法のことを考えてるなんてさ」

ヴァンハーフ「おや、おはようイフォニ。モーニングを共にしたい、というわけではなさそうだね。魔法銃をこちらに向けて・・・何だい?」

イフォニ   「お前に聞きたいことがあるんだ。構わないよね」

ヴァンハーフ「構わないよ。記憶の一部を共有している以上、今更だとは思うが」

イフォニ   「何故ハルセルを使った」

ヴァンハーフ「はて・・・使った、とは。なんのことかな」

イフォニ   「ヒルブデリのことだよ。僕としたことが、詳細を調べなかったなんて落ち度でしかない。情報屋失格だよ」

ヴァンハーフ「あのハルセルのことか。先に言わせてもらうが、僕は君との協定を忘れたわけじゃないよ」

イフォニ   「君に協力する代わりに、ハルセルを蘇生させる方法を見つける。そういう「契約」だったはずだぞ」

ヴァンハーフ「そうだね、その通りだとも」

イフォニ   「何故ハルセルのコピーを作った?いや、この際それは良いよ。神父の副官なんぞに仕立て上げ、お前の意識を上書きして女神信仰をぶち壊そうとした。なんのつもりなんだ」

ヴァンハーフ「発想の転換だよ。蘇生魔法は未だに不安定だ。ならば死んだ身体を生き返らせるのではなく、新たな身体を作り、そこに死したものの意識を書き込めばいいんじゃないかと思った。あのハルセルは、その実験で生み出した個体だ」

イフォニ   「質問に答えろよ」

ヴァンハーフ「ハルセルはもはや僕からは独立した存在なんだ。だから彼女の哲学で、彼女の目的のために動いていた。それが何か、僕にはわからないよ」

イフォニ   「ついぞ会話もできなくなったのかな?そのハルセルの亡骸を!そんなことに利用した理由を聞いている!」

ヴァンハーフ「あのハルセルは失敗作なんだ。自身の身体で魔力を生成することが出来ない。けれど、そのまま捨ててしまうのも惜しいと思ってね。だから僕の計画の一端を握らせて独立端末にしたんだ。聖遺物と祝福の紋章さえあれば、一応の活動は出来る。このデータは収集し、今後に生かしたんだよ。具体的には――」

イフォニ   「つくづく、馬鹿にしてくれるな君臨勇者。命をなんだと思ってるんだ?」

ヴァンハーフ「協定には反していないよ。僕も、君のためにハルセルを蘇らせてあげたいんだ。蘇生術の完成は僕としても成しておきたい悲願でもある」

イフォニ   「じゃあそんなことに使うなよ。お前はもっと、命を尊ぶ奴だと思ってた」

ヴァンハーフ「その認識は間違っていない、僕は全ての命を尊んでいるよ」

イフォニ   「・・・はぁ、そうだった。君は全ての命を平等に扱ってるんだったね。あーあ、嫌だなほんと」

ヴァンハーフ「僕を、殺すのかい」

イフォニ   「もういい、興が覚めた。それにお前殺したって何の意味もない。後悔も反省もしないだろ」

ヴァンハーフ「とはいえ、申し訳ないと思っている。すまないねイフォニ、今後は君の意思に反したことをハルセルには行わないことにしよう」

イフォニ   「気持ちは受け取っておく。けど次はない、ハルセルを悪用したらお前の本体を殺す」

ヴァンハーフ「これはこれは。恐ろしい話だな」

イフォニ   「あと少しで死にたくないだろ?だったら腹括れよ君臨勇者。僕も、君が作る世界を見たいんだからさ」

ヴァンハーフ「そうだね。ひとまずは君が回収してきてくれた資料を元に、ハルセルの蘇生手段を突き詰めることにしようか」

イフォニ   「よろしく頼むよ。貴重な手駒、失いたくないだろ?」

ヴァンハーフ「その作業は、タディシアにいる僕に任せればいいか・・・さて、向かうとしようか」

イフォニ   「どこに?」

ヴァンハーフ「王都だよ。そろそろ宮廷魔術師合同の研究発表会があるんだ」

イフォニ   「ただ、研究会を見学するためだけに王都に?リスクとリターンが釣り合ってないんじゃないの」

ヴァンハーフ「何事においても、自身のみで為し得る叡智には限界がある。他者と知識を共有し、高め合う事こそが本懐というものだ」

イフォニ   「・・・言ってることは真っ当なんだろうけど、君が言うとうすら寒いんだよな」

ヴァンハーフ「無論、ただの見学だけで終わる気はないよ。少々思うところもあってね」

イフォニ   「やっぱり。まあ、それでこそ君臨勇者だよな」

ヴァンハーフ「共に行こう、イフォニ。最後の楔を打ちに行こうじゃないか」

イフォニ   「構わないよ。じゃあ僕も、個人的な恨みを晴らしておこうかな」

ヴァンハーフ「おやおや、恐ろしいね。君にそんな感情があったとは」

イフォニ   「君に言われたくありませ~ん」

 

ヴァンハーフ「あと少しだ。僕の目指すものは昔から変わらない。人類のため、未来のために僕は君臨勇者と成ったんだ」

 

 

 

フォラス   「まずはお近づきの印に、これを」

ベニオット  「魔法銃・・・新作か?」

フォラス   「はい。我が弟子が作ったもので、銘を『スルーズ』といいます。弾はアルヴィドと共通化されていますから、スルーズ用に弾を作る必要はございません」

ベニオット  「成程な。使いまわせるのは便利だが・・・これ、俺宛てじゃないよな?」

フォラス   「ええ。血染めのヴラドニア様にお渡しください」

ベニオット  「だと思った・・・会って直接渡せばいいものを」

フォラス   「直接!?そのようなおこがましい真似、私にはとてもとても!」

ベニオット  「お前、そんなキャラじゃないだろうに」

フォラス   「何を仰いますか!あのお方はまさに高嶺の薔薇、私如きが触れていいものではない!まあ、私は稀代の天才魔法使いですけれど?それはそれとて話は別です!」

ベニオット  「いや・・・聞いとらん聞いとらん。俺は依頼料の話をしに来たんだぞ」

フォラス   「正直なところ、皆々様原典の勇者一行をご拝謁出来ただけで私としては十分な報酬ともいえますが・・・そうも言ってられませんね」

ベニオット  「二年に一度、宮廷魔術師が一堂に会して魔法研究の成果を発表し合う――合同魔法研究発表会とか言ったか?その会場の警備をしろとは、仮にも勇者一行に対して大きく出たな」

フォラス   「昨今、世の情勢は不安定ですから。安心できる材料が欲しいと、第二席と第七席がごねましてね。報酬については、宮廷魔術師一同から均等に資金を募ってお支払いする予定です」

ベニオット  「つまりこの銃は前払い分、ということか?」

フォラス   「いえ、そういうわけではありません。私のほんの気持ちですとも」

ベニオット  「どうだかな。そもそも、フレックもアルヴィドも――ゴールデン・ヴェニソン号も、もとはお前のものだろう?」

フォラス   「ええ、私が開発したものです。しかし、あれらは使われるために製造したもの。兵器は集めて嬉しいコレクションではない、ヴラドニア様の正義のための力として振るわれるのならば本望ですとも」

ベニオット  「そういうものか?」

フォラス   「そういうものですとも。昨今のベニオット様のご活躍により、竜騎士の育成プログラムが組まれたのは御存じでしょうか?ええ、要は示威なのです。私の技術が血染めのヴラドニア様を血染めのヴラドニア様足らしめている、それこそが私の叡智の宣伝となりますから。下手な御託を並べるよりも確実なのです、ええ」

ベニオット  「ならこれは先行投資みたいなものか――で、幾ら出すんだ」

フォラス   「即金で100万メナ出しましょう。成功報酬などと硬いことは言いません。王都まで来ていただければ、その場で払います」

ベニオット  「・・・よくそこまで積ませたな」

フォラス   「13人いますから、一人当たりの負担はそこまで大きくありません。ただ私としては、あなた方がその力を以て私を守ってくれればそれでいい。それが私の『発表』の一部になります」

ベニオット  「そうか、何故俺たちをと考えたが。うまく利用されたものだ」

フォラス   「申し訳ありません。代わりに、貴方たちに出来る限りの協力はしましょうとも」

ベニオット  「そうだな――うちの魔法使いの杖が壊れてしまってな。直せるか?」

フォラス   「修復ですか、それくらいならば難なく」

ベニオット  「ずいぶんと安請け合いするな・・・そうだな、はっきり言おう。俺はまだお前を信用出来ていない」

フォラス   「なんという!この天才を前にしてそのようなことを仰られますか!」

ベニオット  「そういう物言いのせいもあるが――ロスタナを、見た」

フォラス   「・・・ほう?」

ベニオット  「研究所があった、どうやらお前が関与していたらしいな。無論、研究所を暴いたキバイラの言葉だ。全てを信用しちゃいないが、全てが偽りとも思っていない」

フォラス   「私の口からは、「ロスタナの悲劇に私は関与していない」としか申し上げられません。そも、ロスタナはああなる前に破棄していました。証拠はありませんが、其処は信用していただきたい」

ベニオット  「そうか、まあ素直には言わんわな普通・・・ならもう一つ、信頼を得たいなら金とは別に持ってきてほしいものがある」

フォラス   「ほう、なんでしょうか」

ベニオット  「勇者特権者の一覧表だ。誰が特権を得ているか、どのような紋章なのか、王都で一括管理されているんだろう?写しを寄越せ」

フォラス   「これはこれは・・・勇者特権はシステムの構築に関与はしましたが、運用は私の管轄外です」

ベニオット  「だからこそだ。こちらも色々リスクがある。金を積むのも信頼の証だろうが、正直お前の懐事情を見るに、そこまで痛いとは思えんからな」

フォラス   「意地悪なお方だ・・・承知いたしました、それで私めを信頼していただけるというのであれば!このフォラス、修羅となりましょう」

ベニオット  「そこまでしなきゃならん代物なのか?」

フォラス   「管理しているのは第七席なのですが・・・何せ、とても仲が悪く。一筋縄ではいきそうにありませんね」

ベニオット  「ああ、なるほどな・・・気張ってくれ、フォラス」

 

 

 

メイカ    「師匠!師匠!出来ました!出来ましたよ!新作の魔法銃です!」

フォラス   「これは・・・見事ですね。黒鉄をこうも丁寧に仕上げたとは。『フレック』から随分と腕を上げましたね、メイカ」

メイカ    「でしょう!?何と言っても今回は弾丸の構造から見直しましたから!弾の改良は外注していたのですが、一ついい案が届いたんですよ。それに合わせて発砲の機構をより迅速かつ効率的に動くようにしてですね」

フォラス   「過程は後で報告書にまとめなさい。結果だけ簡潔に。基本です」

メイカ    「既存のものと比較して、射程は2.5倍になりました。それと、威力も3割増しです」

フォラス   「素晴らしい。強度の問題は?」

メイカ    「織り交ぜる炭素の割合を増やしました。このまま棍棒のようにぶん回しても遜色ない程度ですよ!」

フォラス   「銃の扱いとしては些か乱暴ですが・・・そこまでの強度が出せましたか。申し分はないでしょう」

メイカ    「けど、どうして弾の改良をロスタナの勇者なんかに外注したんです?それくらい私だってやれるし、師匠のほうがもっと早いでしょうに。不思議ですね」

フォラス   「適材適所、という言葉があります。言わせてもらえばこの天才が、その程度の些事で油を売っている場合ではないということです」

メイカ    「あー!魔法銃を馬鹿にするんすか!?師匠といえどそれはちょっと物申しモード発動ですよ!許さないです!!」

フォラス   「言葉を噛み砕くことを覚えなさい。私、そういう細かい作業は苦手なんですよ」

メイカ    「は、魔法使いなのに?」

フォラス   「ええ、勿論私は天才の魔法使いですよ。しかしねメイカ、今や魔道具の作成は君のほうが上手い。天才とて才能は正しく評価しますとも」

メイカ    「え・・・え、えへへへ。そ、そうです?照れるなあ」

フォラス   「私はそろそろ後進育成に力を入れたい。いくらこの天才であるフォラスが宮廷魔術師第一席といえど、この技術が後に続かなければ宝の持ち腐れ、元の木阿弥です。わかりますね」

メイカ    「つまりサボりってことですね?」

フォラス   「君はいつも私の話を6割も理解しませんよね。魔法の飲み込みは弟子の中で一番早かったというのに、通常会話がダメダメすぎるのはどうしたものか」

メイカ    「じゃあもっとわかりやすく言ってください!誰でもわかるように話すのは知識人の責務ですよ!馬鹿なんですか!」

フォラス   「天才です。つまり、得意を伸ばすのが一番いい、そのためには使えるものは魔物でも使え、ということです。これでいいですか?」

メイカ    「つまり――原典の勇者のように気高く、しかして勝ちには狡猾に、悪には徹底的にあれと言う事ですね!」

フォラス   「あれ?私そんなこと言いましたっけ?」

メイカ    「わかりました!それでは引き続き、性能実験に入ります!よーっしゃテンションあがってきたー!」

フォラス   「はあ・・・やれやれ、二番弟子はどこをほっつき歩いているのやら。そろそろ成果を見せていただかないと困るんですが」

アニ     「成果、って。なにかあるの?」

フォラス   「ええ、もうじき自らがいかに優秀かを人に知らしめねばならぬ時なのです!しかし、一番弟子は魔法銃に没頭し、二番弟子は旅から帰らない。三番以下は凡庸。船頭多くして船山に上る――ええ、要はとても厄介なことになっています」

アニ     「宮廷魔術師、ってのも、大変なんだね?」

フォラス   「地位を保つと言う事は相応の努力が必要なのです。私も初めは有象無象、しかし研鑽と才能を積み重ね、世界最高峰の魔法使いと謳われるようになりました」

アニ     「なるほど・・・フォラスさんは、魔法、好き?」

フォラス   「・・・ええ。これほど心躍るものがありますか?女神より授けられし叡智!人々がつかみ取った栄光の力!その先にある新しき世界!ああ、私はこのために生きてきたのでしょう。全てを知ったその先にあるものをそれが見たいのです!」

アニ     「急に大きい声出さないで、びっくりするよ」

フォラス   「申し訳ありません。しかして、面白きことです。原典の勇者の新たな仲間が、貴方のような幼き魔法使いとは」

アニ     「むー、子供だからって馬鹿にしないでよ」

フォラス   「いえいえ、そのような感情は微塵もありませんよ?むしろ、尊敬すら抱くほどです。かの英雄に見初められる才能、そして何よりも神系魔法への高い適正。私も斯くありたいものですな」

アニ     「えへへへ・・・そう、かな。なんか照れる」

フォラス   「まさに人生は合縁奇縁!何があるかわからないものです。そのようなお方から杖の修復を任されるなど」

アニ     「直せる、かな?」

フォラス   「私ほどの天才になればこれくらい赤子の手を捻るようなもの!容易きものです。さて、木製となれば・・・神樹の葉に、ゴーレムの潤滑油、ウルフの牙、それからエルフの耳飾り、あとは――これくらいあれば足りるでしょうか」

アニ     「わ、素材がいっぱい。どうやって直すの?」

フォラス   「要は、折れたものを引っ付ける必要がありますから。まずは馴染ませ、折れにくくなるよう芯を通し、癒着させる接着剤をつくり、それから表面を整える。この工程を踏めばほとんど目立たずに直せます。強度はむしろ折れる前より上がります」

アニ     「なんかこう、ぶわー!って、魔法で勝手に直らないんだね」

フォラス   「魔力を物質に変換させ、繋ぎ直す手法もありますよ?しかし些か効率性に欠ける。出来るものなら、用意できるもので何とかしてしまうのが一番いいんです」

アニ     「そうなんだ。いろいろ勉強しないとだね」

フォラス   「いくつか魔導書をまとめてあります。よければ、目を通していただいても構いませんよ?」

アニ     「え、いいの!?」

フォラス   「構いません。新たなる魔法使いの発展が何よりの喜びですから。全て盗むくらいの心意気で読んでください」

アニ     「わーい!読む読むー!」

オティス   「あはは、あまり散らかさないようにね、アニちゃん」

フォラス   「複製品ですからお好きなように扱っていただいて構いませんよ?オティス様もお読みになりますか」

オティス   「や、私は遠慮するよ。しかし・・・綺麗な書斎だ」

フォラス   「整頓しないと気が済まない性質なのですよ。あれこれ散らかってるのはどうも苦手で」

オティス   「ふむ、そういうこと。本棚に綺麗に巻数順に並べて。手書きのメモもまとめてるの?」

フォラス   「後々見返しても理解できるように、清書してファイリングしています」

オティス   「書き直し、って・・・面倒くさくない?」

フォラス   「いえいえ、それがそうでもないのです。まとめ直すことで考えも整理できます。片付けにもなる。ええ、要は一石二鳥ですね」

オティス   「几帳面だこと。アンドラはとりあえず書き出すだけ書き出してそのままにするから、書斎なんて足の踏み場もなかったのに」

フォラス   「そうだったのですね。どうやら、私とは対極の魔法使いのようです」

オティス   「それよりも――私に話したいことがあるんだろ、何かな?」

フォラス   「一度、お会いしたかった。貴方に渡さねばならぬものがあります」

オティス   「渡したいもの?なにかな・・・・・・これ、って」

フォラス   「ええ、『アンドラの魔導書』の原典でございます」

オティス   「どうして、こんなもの持ってるの?」

フォラス   「このフォラス、貴方様のかつての仲間、アンドラの末裔でございます」

オティス   「・・・っはあ!?フォラスが、アンドラの子孫!?」

フォラス   「左様でございます。アンドラ様の正妻から続く家系です。必要であれば家系図でもお持ちしましょうか?」

オティス   「いや、証明には十分だよ。この魔導書・・・間違いなく、本物だ」

フォラス   「基礎魔法概論を説き、魔法の在り方を示したアンドラの偉業を納めた一冊です。まあ・・・彼の最大の功績ともいえる、人の作り方の項目は省いたようですが」

オティス   「そりゃあそんなもの書いたら倫理的にやばいだろ、って・・・そうだよな。子孫なら、知っていたっておかしくはない」

フォラス   「然り、です。隠されし真実は王族だけではなく、直系の子孫――つまり私には伝えられております。無論、口頭で」

オティス   「そうか。なんだかんだあいつの血は後世まで続いたわけね。小憎たらしいこって。ウォースロットはともかく、フラウはどうなったんだろう」

フォラス   「はて・・・ご存じ、ありませんでしたか」

オティス   「え、何が」

フォラス   「私どもには、こうも伝えられております。『フォルレに軟禁されたフラウは子を孕んでいた』と」

オティス   「は?」

フォラス   「その子供がどうなったかはわかりません。が、もしも現世までその血が続いていたらと思うと、浪漫があるとは思いませぬか?」

オティス   「そう、なんだ。フラウが、ね・・・あいつの子供だなんて、もう嫌な予感しかしないんだけど」

フォラス   「父親は――もしや、と言う事はありますか?」

オティス   「うん、君の予想通りだよ。多分ね」

フォラス   「それはそれは。さぞ、才溢れる子供になっていたでしょうな」

オティス   「どうだろうね。私は、巡り合わないことを願いたいけど。もう、巻き込みたくない」

フォラス   「と、そうでしたそうでした。もう一つ用事があったのです」

オティス   「用事?何が――って、えぇ!?なんで深々と頭を下げるの!?」

フォラス   「お詫びの気持ち、です。私の祖先であるアンドラ様が、オティス様をどのように扱い、どのように使い捨てたのか。その全てを聞き及んでいます」

オティス   「それが、なにさ」

フォラス   「アンドラ様の所業で、貴方様がどれだけ苦しんだのか!このフォラス、想像しただけで背筋が凍る思いです!ですから、今は亡きアンドラ様に代わり、この私が謝罪を」

オティス   「やめて」

フォラス   「はて・・・理由を、聞いても宜しいでしょうか」

オティス   「そういうの、嫌いなんだ。親や先祖の過ちを子供や末裔に償わせるとか吐き気がする。二度と口にしないで」

フォラス   「しかし」

オティス   「気持ちは受け取る。だから、『君』が間違えるな。同じ過ちを繰り返すな。私は、それでいいよ」

フォラス   「許して、いただけると?」

オティス   「君の所為で死んだわけじゃないし。許すも許さないもない。勿論アンドラは一生許さないよ。もしあの世なんてものがあったとして、あいつとまた会えたら――うん、容赦なくボコボコにするね」

フォラス   「そう、でしたか。ありがとうございます!このフォラス、感無量です!」

オティス   「鬱陶しいからあんまり大声上げないで?」

フォラス   「これは失敬。気が昂っておりました」

 

 

 

ベニオット  「ヴラドニア、準備はしたのか」

ヴラドニア  「・・・・・・」

ベニオット  「おい、聞いてるか?」

ヴラドニア  「・・・つーん」

ベニオット  「い、意味が分からん」

ヴラドニア  「何でもありませんよーだ。準備はもう済ませましたとも」

ベニオット  「何もないことはないだろ」

ヴラドニア  「ベニオットなんて知りません」

ベニオット  「どうしてだ」

ヴラドニア  「べっつにー」

ベニオット  「俺なんかしたか?心当たりがないんだが」

ヴラドニア  「いーえ、何も?だってあなた、何もしてませんもの。私が大変な時期に限って居なくなるし?」

ベニオット  「無月剣を直しに行っていた、済まなかったとは思っている」

ヴラドニア  「帰ってきたらきたでずっとネリネさんの相手をしていましたし?」

ベニオット  「なぜか懐かれたんだ。剣の修理にもついて来たし、どうにかしようとはしていた」

ヴラドニア  「ずっとネリネさんを世話してあげればいいのではなくて?いいと思うわよ、ええ」

ベニオット  「そういうわけにも行かんだろう。ヴァンハーフの下に返すわけにも行かんし・・・どうするか」

ヴラドニア  「オティスさんとアニさんはずっと一緒にいますし?ええ、別に何とも思ってません。何でもありませんことよ」

ベニオット  「・・・ああ、そうか」

ヴラドニア  「む、何ですか。色々悟ったような顔をして」

ベニオット  「おまえ、独りで寂しかったんだな」

ヴラドニア  「・・・・・・はぁあ!?」

ベニオット  「すまなかった。病床で一人というのは確かに精神的に堪える。いざ全快して周りに誰も居なかったらそれも辛いよな」

ヴラドニア  「あ、え。いや、そのぅ!」

ベニオット  「いかんな、黒騎士の武器を任されて少し舞い上がっていた。同盟関係とはいえ、蔑ろにしちゃならんものもある。まずは、そうだな・・・」

ヴラドニア  「寂しかったなんて一言も言ってないのだけれど!?」

ベニオット  「ん、違ったか?」

ヴラドニア  「違います!私はそこまで弱くありませんわ!よろしくて?」

ベニオット  「そうか、すまんな。オティスとアニがああも仲睦まじくしていると、俺としても割って入るのは少し申し訳なくてな。おかげで煙草の消費が増えた」

ヴラドニア  「ああ、そう。では最近ここにずっといるのは否応なしの暇つぶしと言う事かしら。ふーん?」

ベニオット  「ん?望んで来てるぞ?なかなかどうして居心地良いからな」

ヴラドニア  「ふ・・・ふふ、そうでしょうとも!あの管制室は改造に改造を重ねて過ごしやすくしたもの!」

ベニオット  「やっぱりか。普通は置かないものが色々あるからな、アロマまで完備とは」

ヴラドニア  「戦いに用いるものだとしても、移住性は高いほうがいいわ。粗末な椅子に潰れたクッションでは、十全な力も出せないものでしょう?」

ベニオット  「武器でも人でもなくまずは環境からか。なるほど、面白い」

ヴラドニア  「私なりのケジメでもあるの。お父様と同じ轍は踏まない、先人の失敗から学ばねばまた繰り返してしまうわ」

ベニオット  「ロスタナの悲劇、か」

ヴラドニア  「過去は変えられない。けれど、これからは変えられるのよ」

ベニオット  「そうだな。しかし・・・フォラスか」

ヴラドニア  「まさか、向こうからくるとは思わなかったわね」

ベニオット  「すまん。むしろこちらとしては恩義がある身だ、断れんかった」

ヴラドニア  「出先で遭遇するなんて貴方も運がないわね、日頃の行いではなくて?」

ベニオット  「心当たりはないがな」

イフォニ   「あはは、改めなきゃ駄目だぜベニオット。女神は全部を見てるらしいから」

ヴラドニア  「ベニオット、つまみ出して」

イフォニ   「相変わらずの塩対応。かけすぎて塩辛いったらありゃしない、なんでも濃くすりゃいいってもんじゃないぜ?」

ベニオット  「それで、調べていた案件はどうなった」

イフォニ   「いやーこれがてんで抜け目がない。フォラスはどうにも慎重な男のようだね」

ベニオット  「何も出てこなかったのか」

イフォニ   「そうだね、証拠と呼べそうなものは軒並み破棄されている。ロスタナとの連絡文書もフォラスの手元にはない、研究成果のメモもまとめ直してるから抜け目がない」

ヴラドニア  「そう。何企んでいるのかと思えば、フォラスの不正の証拠を探っていたのね」

イフォニ   「疑惑だけじゃだめだ。逃がすことなく糾弾するなら確実な証拠がいる。けどね、ロスタナの件もフォラスが関わった明確な証拠はないし、研究自体も定期的に出している。何かあるのは間違いないんだけど、何をしたかわからない。もやもやするな」

ヴラドニア  「ロスタナにも、何もなかったそうですし。ただ・・・リヴェが隠していた機密文書がごっそり盗まれていたらしいわね」

イフォニ   「ん。え、なに?まさか僕を疑ってるの?」

ヴラドニア  「ええ。貴方、手癖悪そうだし」

イフォニ   「あは、ないないない。わざわざ僕が盗むなんて、目的がないだろ」

ヴラドニア  「情報屋にとって、機密文書なんて喉から手が出るほど欲しいものではなくて?さぞ高値で売れるでしょうね」

イフォニ   「ともかく、ロスタナの件はほとんど掴めてない。口伝だけならいくつもあるけど今はどうしようもないね」

ベニオット  「なら・・・ひとまず協力体制を取り、尻尾を掴むのが得策か」

ヴラドニア  「放置は出来ないもの。第二のロスタナを生む前にフォラスをどうにかしないと」

ベニオット  「そうだな・・・そろそろ研究発表会も控えているところだ。大人しく終わるとは思えん」

イフォニ   「ああ、もうそんな時期か。その研究発表会で宮廷魔術師の階級が決まる、陰謀策略足の引っ張り合い、これがきっかけで席を追われた魔法使いも大勢いるし」

ベニオット  「研究成果の共有会じゃないと?」

イフォニ   「自分の権威を見せ合う場さ。己の優位を見せ合うために、他人の研究成果を潰すこともあるとか」

ベニオット  「滅茶苦茶だな」

イフォニ   「だからこそ、警護として原典の勇者を欲しがったんだろうね。有り体に言えば抑止力、潰し合いの牽制をしたいんだろうけどさ」

ヴラドニア  「くだらないわね」

イフォニ   「いやいや、彼らにとっては死活問題だから。ひいてはこの国の命運を分けかねない事象でもあるし?かつて席を追われた宮廷魔術師が『死の花嫁事件』なんてことを引き起こしたりするくらいだ。第一席にのさばり続けるフォラスがこの国に齎した恩恵も計り知れないからね」

ベニオット  「何か、仕掛けてくるだろうか」

イフォニ   「良からぬことを考えてるやつはいるだろうね。それを何とかするのが君たちの今回の仕事ってわけだ」

 

 

 

オティス   「アニちゃーん」

アニ     「そっか、消えない炎ってそう言う事なんだ。単純な火力じゃなくて、炎そのものの種類を変えるんだね。油加熱しすぎて燃えた時の火が水で消えないようなものなのかな。およよ、融けない氷もあるぞ?これは・・・」

オティス   「アニちゃん?おーい、アニちゃーん!」

アニ     「ふぁ!?え、あ、なに?」

オティス   「すごい集中してたね?かれこれ3時間は経つのに、ずっと読み耽ってたよ」

アニ     「え、そんなに経つの!?ごめん、今からご飯つくるから」

オティス   「いいよいいよ。たまには、私もなんか作りたくなっちゃって。サンドイッチ作ったんだ」

アニ     「・・・なるほど、何挟んだの?」

オティス   「や、たまごとハムだよ。ちゃんとレシピ見ながらつくったから。怪訝そうな顔しないで?」

アニ     「いや、お姉ちゃんのことだから良からぬものを挟んでないかなって」

オティス   「挟まないよ!?」

アニ     「ありがとうね、お姉ちゃん!はむ、はむ・・・美味しい!ちゃんとしてる!」

オティス   「やった!褒められたー!」

アニ     「うん。正直お姉ちゃんの料理してるところ、たまに心配になることあるから。今回は大丈・・・ん」

オティス   「・・・あれ?」

アニ     「お姉ちゃん」

オティス   「はい」

アニ     「砂糖と塩、ちゃんと確かめた?」

オティス   「え」

アニ     「見てない?」

オティス   「はい」

アニ     「・・・おしかった、ね?」

オティス   「やめて!そんな目でみないで!」

アニ     「うんん、最初は結構良かったのに・・・すごい味になってる」

オティス   「おおう、まさに傷口に塩・・・あ、そうだそうだ。コンソメスープ置いてあったよな。御口直しとして持ってくる!」

アニ     「ええ!?それ平気なの?」

オティス   「フォラスが作ったらしくて。杖の修理終わったけど、熱中してたから声かけられなかったみたい。わりと美味しかったよ」

アニ     「あれ、ここってキッチンとかあるの?」

オティス   「隣の部屋が調理場らしくて。そっち使わせてもらってるんだ。ちょっと行ってくるねー!」

アニ     「そうなんだ。気をつけてねー!フォラスさん、料理とかするんだ――え、何今の音?」

オティス   「うわあああああ!!爆発したー!!!」

アニ     「え、スープが!?」

オティス   「違うよ!?隣の工房が突然爆発したの!」

メイカ    「げほ、げほごほ!あー・・・配合間違えましたかね?おっかしいな・・・」

オティス   「フォラスの弟子?どうしたの」

メイカ    「ん?どなたかは存じ上げませんが――まあいいや!聞いてくださいよ、魔法銃の性能実験のために弾丸をつくっていたんですけどね?それがなんと爆発しまして」

アニ     「へ、平気?怪我とかない?」

メイカ    「はい、なんとか?防護服は着ていましたから。しかしどうしてでしょう、おかしいですね。渡されたレシピ通りにつくったはずなのに」

オティス   「レシピ、か・・・砂糖と塩を間違えた、みたいな?」

アニ     「いや、まさかそんな」

メイカ    「・・・・・・あ」

アニ     「あるんだ」

メイカ    「もしかして、もしかして!調合した材料は、これとこれと――ああああ!やっぱりだ!これ金じゃない!パイライトだ!」

アニ     「なあに、それ」

メイカ    「金とよく似ているんですが、はるかに硬いんです。それに強くたたくと火花が散ることがあって・・・ああそっか、当たり前じゃないですか。あの工房、火気厳禁ですし」

オティス   「はは、怪我がなくてよかったね」

メイカ    「いやあ、ありがとうございます。全く気付きませんでした。貴方は・・・えっと、どこかで会いました?」

オティス   「え、君がフォラスの書斎に来た時、既に私たち居たよ」

メイカ    「へ?」

オティス   「気付いてなかったの!?」

メイカ    「いやあごめんなさい!研究のこととなると他に目がいかなくてですね、って・・・ふぉ?」

オティス   「えーと、な、なに?そんなにじろじろ見て――ほわああああ!?な、なになになに!いきなり人の上着捲って!」

メイカ    「竜の紋章。七星剣。金の目。あれ、これって・・・は、はわァーーーーーーーーーー!?!?!?!?」

オティス   「うっわびっくりした!?なに、急に大声出して」

メイカ    「もしやそこにお見受けするは、ままままままさか原典の勇者さまではありませんか!?」

オティス   「え、ああ、うんそこからか。私、オティスだけど」

メイカ    「ぎゃああああ!?本人!まさかのご本人登場!このメイカ感激で死にそう!生きているうちに勇者さまにお会いする機会に恵まれるなんて!死ぬ!いや死んでどうするメイカ!この幸福を噛み締めろおおおうわあああああやったあああああ!」

オティス   「・・・ファン、なのかな?」

アニ     「多分」

メイカ    「ここここここ、こんにちは!私、宮廷魔術師第一席フォラスが一番弟子!メイカと申します!趣味は魔法銃いじり、好きな食べ物は魚!愛読書は勇者冒険譚です!」

オティス   「よ、よろしく。握手とか、する?」

メイカ    「握手ゥ!?いやいやいやいや!畏れ多い!オティス様に触れるなんて!私如きの手垢がオティス様につくなんて耐えられない!そういうのじゃないんです!関わらずに生きていたい!遠くから眺めてるだけでいいですから!オティス様の部屋の天井の染みになりたい!」

オティス   「あ、う、うん。そういう感じなんだ。そっか」

メイカ    「ああでも、オティス様との出会いを身体に刻み付けたいです!けど・・・そ、そうだ!今開発している魔法銃があるんですよ!名前を考えているんですが、どんなものがいいか是非決めていただけませんか!」

オティス   「え、そういうの私が決めていいの?」

メイカ    「構いません!師匠と共同でやってはいますが、名は全て私がつけています!この子は『グリムゲルデ』という名前なんですが、こっち!こっちの新しい銃の名付け親になってはいただけませんか!?」

アニ     「え、お姉ちゃんが決めるの?」

オティス   「銃、か。うーん・・・『ツラヌキ1.7』とかどう?」

アニ     「それどういうセンス!?ツラヌキもよくわかんないし1.7って何!?」

オティス    「こう、ずばーんって敵を貫くじゃん?だからツラヌキ」

メイカ     「さ、さすがオティス様!私では到底思いつかないような素晴らしい名前!このメイカ感動しました!その名前で行きますね!ツラヌキ1.7・・・ツラヌキ1.7!ああ素晴らしい!私の銃にオティス様が名前を!ひぃえー!!」

オティス   「思ったより気に入られた」

アニ     「初めてヴラドニアさんに会った時のこと思い出すよ」

オティス   「あーそうだったそうだった。すごい舞い上がってたよね」

メイカ    「んん?・・・血染めの、ヴラドニア?」

オティス   「うん。今一緒に旅してるんだけどね、初めて会った時も君みたいに舞い上がっててさ」

メイカ    「一緒に、旅を?」

オティス   「うん。このアニちゃんと、ヴラドニアと、あとベニオット。こうしてみると結構戦力偏ってるな」

アニ     「支援があたしだけなの、あまりにも脳筋すぎる」

メイカ    「はああああああああああ!?仲間!?一緒に!?何言ってるんですか!?」

アニ     「・・・っ?えっ、なんで怒ってるの」

メイカ    「あり得ません!原典の勇者のパーティは鮮烈のフラウ、稀代の魔法使いアンドラ、黒騎士ウォースロットの3人だけなんです!他の仲間なんて認めない!信じられない!」

オティス   「・・・ん、え?どゆこと?」

メイカ    「地雷です!そんなオティス様なんてあり得ない!かつての仲間はどうでもいいんですか!?」

オティス   「いや、どうでもいいことはないけど」

アニ     「そんな言い方しなくてもいいんじゃないの?お姉ちゃんの仲間は、お姉ちゃんが決めたっていいじゃない」

メイカ    「何がって貴方ですよ!何もできない子供のくせして原典の勇者の仲間!?しかもお姉ちゃんって言いましたね!?お姉ちゃん!?オティス様に向かって馴れ馴れしいとは思わないんですか!」

アニ     「そんなことないもん!」

メイカ    「どうせ何もできずに足を引っ張ってばかりなんでしょう!?貴方なんかお呼びじゃありません!相応しくないくせに仲間面なんかして!」

オティス   「・・・アニちゃん、行くよ」

メイカ    「オティス様!自分の立場をお考えになってくださいよ!貴方の格が落ちるような人を仲間にするなんて!」

オティス   「君が私のことをどう考えてるかなんて知らないけどね、みんな私の大切な『仲間』だ。それ以上は許さない」

メイカ    「そんな・・・オティス様!聞いてくださいオティス様!・・・なんでわからないんですか。他ならぬ貴方が」

ヴァンハーフ「メイカ」

メイカ   「はわぁ!?と、びっくりしたー。お久しぶりです、ヴァンハーフ先輩。私に女神と魔龍の全てを教えてくださった偉大なるお方」

ヴァンハーフ「久しぶりだね。研究発表会の準備は順調かな?」

メイカ   「ほとんど師匠が喋るだけなんですけど・・・今は最後の仕上げ中です。そちらこそ、上手くいったようでよかったです」

ヴァンハーフ「いつもすまないね、可能とは言え、僕が動くと些か騒がしくなる」

メイカ   「貴方には返しても返しきれない大恩がありますから!私に魔法を教えてくださったあの感動は忘れません!」

ヴァンハーフ「君と初めて出会った時から確信はあったよ。君は書面と向き合うより、既存品を弄らせたほうが向いている」

メイカ   「おかげで腕を上げましたよ。これ、今回の奴です。よろしくお願いします」

ヴァンハーフ「ふむ・・・これはいいね。部品を単純化しながらも全体の性能は向上している。これならば、前のものより量産体制を組みやすそうだ。本番までにいくつか複製しておこう」

メイカ   「前回お渡ししたものよりは作りやすいかと思いますよ!ええと・・・それで、そのですね」

ヴァンハーフ「ああ、わかっているよ。君の税金の半分を肩代わりしよう。その代わりに技術提供をしてもらう、そういう協定だからね」

メイカ   「感謝します!宮廷魔術師の弟子という肩書はあれど、私には資金援助の後ろ盾がありませんから」

ヴァンハーフ「君の功績はそのまま師匠の功績となる。まともな人間であれば弟子の面倒くらい見るとは思うが・・・君の上司は第一席フォラスだったか、そう上手くはいっていないようだね」

メイカ   「開発環境が与えられただけでも栄誉と思え・・・そんなこというなら金寄越せって話ですよね!?自己研鑽だの学習だの、名目ばかりの経費削減の所為でこちとら資金繰りに必死!その所為でおちおち研究にも手がつかない!王は何にもわかってない、叡智が井戸水みたいに勝手に溢れるわけないでしょうに!」

ヴァンハーフ「井戸は掘り当ててこそだ。勝手に生まれるものではない」

メイカ    「そう!そうなんですよ!肥沃な土地こそ耕さないと!適当な種まいてハイ終わりで農業やってる気になってるのおかしいですから!」

ヴァンハーフ「そうだね、だからこそ僕は君の実力を正当に評価しようとも。魔法銃が安易に量産できるようになれば、戦闘という概念がひっくり返る。訓練を積んだことのない子供でさえ、兵士になることが出来るんだ」

メイカ   「ええ、夢のような話です。誰しもが戦うことが出来る。力なきものが淘汰される時代はそろそろ終わりますね!ええ!」

ヴァンハーフ「そういうことだ・・・銃のお礼に、君に知らせたいことがある。そうだね、良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい?」

メイカ   「そういうのは、良い知らせからと相場が決まっています。ケーキのイチゴは先に食べたいんですよ」

ヴァンハーフ「じゃあ、良い知らせからだ。黒騎士ウォースロットが復活したよ」

メイカ   「え」

ヴァンハーフ「霧の町の亡霊、デュラハンに意識が融合したんだ。あれは死者の怨念の集合体、そこに黒騎士の意識が混じっていることが見出され、表面化したんだ」

メイカ   「では・・・黒騎士様の精神が蘇ったと!?ああ、やはりオティス様は現世に奇跡をもたらすお方なのですね!」

ヴァンハーフ「とても喜ばしいことだ。死念の存在、聖遺物の応用、そして人の意思の力。彼という存在はあらゆる仮説の裏付けになった」

メイカ   「早速、ネットワーク内に情報共有をしなければ!ああ、伝書鳶も飛ばさないと!原典の勇者様に続いて黒騎士様までもが復活したとは!これが奇跡、悪しき勇者を淘汰するための思し召しなのですね!」

ヴァンハーフ「デュラハンの姿を借りて具現化したから、首はないよ?」

メイカ   「いや、そんなこと関係ありますか?黒騎士様が成した功績は、首があるかないかは関係ないでしょう。それが黒騎士様の思想を為す者かそうでないのか!ええ、重要なのはそこです」

ヴァンハーフ「成程、そういう解釈なのか。では、次に悪い知らせだね」

メイカ   「あ、何か嫌な予感しかしない。峰打ち程度で済みますかね?」

ヴァンハーフ「切り捨て御免、だ。復活した黒騎士は討伐されたよ」

メイカ   「おう!おおう!おおおおう!そうなりますよね!やっぱりそうなっちゃう!?本当に悪い知らせ!なんでですか!なんでそんなことに!?」

ヴァンハーフ「僕は情報でしか知り得ないが、壮絶な戦いだったそうだ。君も小耳に挟んだだろう?ガープ大橋での戦闘」

メイカ   「ああ、あれってそういうことだったんですね。オティス様が橋を崩落させたほどの戦いとは聞いていましたが・・・・・・あれ、オティス様?あれれ?」

ヴァンハーフ「そう。デュラハンを――否、黒騎士を殺したのは原典の勇者だ」

メイカ   「は・・・あ、うん?なんでオティス様が黒騎士様を殺すんですか!」

ヴァンハーフ「君と同様に、僕も詳細を知っているわけじゃない。彼らの間にどのようなやり取りがあったのか、今では闇の中だ」

メイカ   「一体どうして!?黒騎士は原典の勇者の右腕、比類なき信頼で結ばれていたはず!なのに、何故!」

ヴァンハーフ「これは僕の予測だが・・・今の仲間が、関係しているんじゃないかな」

メイカ   「は?」

ヴァンハーフ「過去の仲間と今の仲間。天秤にかけて、きっと彼女は後者を選んだんだ」

メイカ   「え・・・なんですか、それ。普通に有り得なくないです?は、ん?ちょ、それはないでしょう。だってオティス様は」

ヴァンハーフ「彼女とて人間だ。変化があっても不思議じゃない」

メイカ   「いや、いやいや。原典の勇者は人を救う者であるはずです。それが仲間殺し?いやいやいや。ないない。そんなことを行ってしまうオティス様なんて、有り得ないです。解釈違いなんですけど」

ヴァンハーフ「では・・・君はどうするのかな」

メイカ   「許せない、許せないです!図々しくも隣に居座り仲間だと妄言を吐くに飽き足らず!オティス様に仲間殺しをさせた?有り得ない有り得ない!血染めのヴラドニア、魔断のベニオット・・・あとはなんか、子供!あの三人は生かしては置けませんね」

ヴァンハーフ「そうか」

メイカ   「そして・・・そのような妄言に囚われ、道を踏み外してしまったオティス様をお救いせねば。そう、救いの存在が人の身体の器に囚われているからこのようなことになるんです。肉体からオティス様を解放すれば・・・あの人は永遠となる」

ヴァンハーフ「殺すのかい?」

メイカ   「人聞きの悪いことを。黒騎士様もその意識のみが復活なされたのでしょう?であれば、肉体が無くなろうとその意識は世界を包み、我々に救いを齎すはずです。むしろ肉体は、あの方を現世に括り付けてしまう枷なのかもしれません」

ヴァンハーフ「それはなんとも、興味深いね」

メイカ   「我々も、行動を起こす時でしょう。見届けてくれますか、先輩」

ヴァンハーフ「構わないよ。君たちの行く末に、幸あらんことを願っている」

メイカ   「では、のろしを上げましょう!ふふ、ははははははははは!さて・・・パンドラの匣を、つくらなくてはですねぇ?」

 

 

 

ヴラドニア  「オティスさん、それは?」

オティス   「ん、紋章の写し。今まで勇者特権者として登録された人が全部記録されてる」

ヴラドニア  「勇者の!?どうして、そんなものが」

ベニオット  「フォラスに持ってこさせた。あいつの覚悟を見たくてな」

ヴラドニア  「こんなことでフォラスの覚悟を計ろうだなんて。意味がないのではなくて?」

ベニオット  「他の宮廷魔術師との諍いよりも、俺らのご機嫌取りを優先している。やはり、腹に何か隠していると見ていいだろう」

ヴラドニア  「そう、何にせよ好都合ね。オティスさんは以前、勇者特権を偽装する者に会ったのよね?」

オティス   「リヴェは特権を売りさばいていた。これ、使いようによっちゃそういう企み全部潰せるな」

ベニオット  「しかし、あるべき名前が漏れたりはせんのか?」

ヴラドニア  「死んでも名前が消されないような管理だけれど・・・仮にも公共事業よね、これ」

オティス   「さすがにそこまでじゃないでしょうよ。さて、中身はどうなのかなっと」

アニ     「この数字、なあに?263って」

オティス   「勇者特権持ちの人数じゃないかな」

アニ     「多いね!?」

ヴラドニア  「私も確認します。どれどれ――ケルディ、オリオート、リヴェ、それから私。炎帝勇者に・・・改めて見ると早々たる顔ぶれね。誰も彼も悪名轟く者ばかり」

ベニオット  「自分で悪名って言うのかよ」

ヴラドニア  「ちょっと静かにして」

アニ     「見たことあるのも、ないのもあるね・・・あれ?」

ヴラドニア  「どうかしたの?」

アニ     「むむ、見落としたのかな?だって、この名前がなかったら・・・・・・あれれれ?」

オティス   「・・・君臨勇者ヴァンハーフ、登録一覧に名前がないぞ」

ヴラドニア  「は?え、そんな。あり得ないわ」

アニ     「ない、ないよ。此処に載ってなかったら、おかしいんだよね?」

ヴラドニア  「・・・本当にないわね。ページを破った形跡もない、つまり「ヴァンハーフ」という勇者は存在しないということ?」

オティス   「ヴァンハーフはあくまで名乗り名で、別の名前で登録してるってことはあり得るかな」

ヴラドニア  「ない話ではないわね。けれど、そんな回りくどい真似をして何になるのかしら」

オティス   「仮面の下がばれるとまずい、みたいな」

ヴァンハーフ「興味深い話をしているね。僕にも聞かせてはくれないかな」

アニ     「うわー!?出たーー!?!?」

オティス   「っ!おま、どうやって入った!」

ヴァンハーフ「剣を収めてもらおう。僕は君と殺し合いに来たわけじゃない。知的好奇心を満たすための行脚、ただ今の僕は傍観者だ」

ヴラドニア  「まさか・・・研究会を見学に来た、というの?貴方が?」

ヴァンハーフ「そうだとも。何かおかしなことが?」

オティス   「潰し合いが定石だと聞いた。誰かの差し金だったりしないか?」

ヴァンハーフ「信用されていないね」

オティス   「今までの行い見返して来いよ、唐変木」

ヴァンハーフ「やれやれ・・・これで、攻撃の意思がないことは示しているんだがね」

アニ     「およ、手錠付けてる」

オティス   「は?拘束フェチ?」

ヴァンハーフ「魔の鎖を疑似的に再現したものだ。これをつけている間は僕も魔法を使えない。そして君にはこれを渡そう」

オティス   「・・・鍵?」

ヴァンハーフ「この手錠の鍵だ、君が持っておくと良い。これで、信頼には足るかな?」

オティス   「信頼を得たいなら、猿轡でもつけてほしいな。お前、弁舌も武器だろ」

ヴァンハーフ「心配いらないよ。無益な闘争は好まないんだ」

オティス   「知らないよ、どっか行け。ちゃんとお前のことは警戒してやる、いざとなったら・・・わかるよな」

ヴァンハーフ「この体を失うのは惜しい、大人しくしているとも」

 

 

 

フォラス   「さて、皆々様。ついに今日がやってきました!世界は常に変革していきます。その世界をけん引するべくして此処に椅子を並べる13名の宮廷魔術師の諸君!我々は世界に示さなくてはなりません、我らの叡智が世界を変えると!この世を善きものにしていくと!」

アニ     「はじまったよ、みんな」

ベニオット  「配置につく。やれやれ・・・来るかもわからぬものを待て、というのもな」

フォラス   「この二年、さぞ研鑽されたことでしょう。全てはこの先の未来のため!では、始めましょうか。如何様に己の叡智が世を変革させるのか、皆々様には示していただかねば!」

ヴラドニア  「なんともまあ、仰々しいものね。王都だけでなく、主要な町に念波サザエで中継しているんでしょう?自己顕示欲が見え見えね」

オティス   「魔法使いなんてどいつもこいつも自己顕示欲ばかりだよ。こんなことが出来るんだと見せつけたい奴ばっかだし。あ、アニちゃんは違うよ?」

アニ     「ちゃんとわかってるよ?」

フォラス   「では、さっそく第十三席ミトから発表していただきましょう。『聖遺物の級数と経過年数の関係性の再定義』、よろしくお願いします」

 

 

 

ヴラドニア 「計器に反応なし・・・静かなものね。このまま何もなく終わってくれたらいいのだけれど」

メイカ   「・・・さ、ん・・・ラ・・・ヴラドニアさん!」

ヴラドニア 「ん、サザエが鳴ってるわね・・・聞こえているわ、何かあったの?」

メイカ   「フォラスの助手のメイカです!ヴラドニアさん!少し見てきてほしいものがあるんですけど」

ヴラドニア 「え、どうかしたの?」

メイカ   「こちらにいくつか搬入されていない荷物があるんです。先ほど、船の補給物資を搬入されていましたよね?そちらに紛れていないか見てほしいんです。次は第十席の発表なんですが、それがないと発表には困るそうで」

ヴラドニア 「え、ええ。わかったわ、すぐ確認するわ」

メイカ   「有難うございます。しかし、素晴らしいですよね。ゴールデン・ヴェニソン号」

ヴラドニア 「そうね、よくこんなものを建造できたものだわ」

メイカ   「師匠は素晴らしいですよね。やはり、アンドラ様の血なのでしょうか」

ヴラドニア 「人間は血統で決まるわけじゃないわ」

メイカ   「そうですね。王族の血統を投げ捨てて、オティス様に擦り寄った貴方がいうと説得力ありますね」

ヴラドニア 「・・・随分な物言いね」

メイカ   「気を悪くしたなら謝ります。ちなみにそのゴールデン・ヴェニソン号ですが、私も設計に携わっているんですよ。というか、6割くらいは私の力でできてるんです」

ヴラドニア 「そうなの?」

メイカ   「ええ。おかげさまで、いい宣伝になりました」

ヴラドニア 「フォラスだけではなかった、というの?」

メイカ   「というより――師匠はここ数年、ほとんど研究らしい研究なんてしていませんよ」

ヴラドニア 「え?それは、どういう」

メイカ   「師匠は名料理人です。どんなに難しい料理でも、レシピがあれば完璧に仕上げてしまう」

ヴラドニア 「それは・・・すごいわね」

メイカ   「けれど、レシピをつくれないんですよ」

ヴラドニア 「もう少し端的に述べていただけるかしら」

メイカ   「おっと、おしゃべりが過ぎましたね。そろそろ倉庫につきましたか?」

ヴラドニア 「ええ。それで、特徴はわかる?色とか、大きさとか」

メイカ   「黒い箱です。両手で持てるくらいの大きさなんですけど、どうですか?」

ヴラドニア 「ああ、あったわ」

メイカ   「ありましたか。よかった・・・ちゃんと、そこにあったんですね」

ヴラドニア 「ねえ、これって中身は何なのかしら」

メイカ   「ええ、爆弾です」

ヴラドニア 「は・・・なっ!?」

メイカ    「私からのプレゼントです。死んでください、血染めのヴラドニア」

 

 

オティス  「ベニオット!ゴールデン・ヴェニソン号に戻って!ヴラドニアからの応答がない!」

ベニオット 「わかってる!くそ、爆発など・・・いったい誰が!」

オティス  「わかんない!砲撃や魔法由来じゃないことは確かだ。とすると・・・」

ベニオット 「中に持ち込まれた、か。アニもこちらに来てくれ!返事がないことを考えると、おそらく――」

アニ    「わ、わかった!すぐに行くよ!」

ベニオット 「くそ、倉庫がまるまる吹き飛んでいるな。それでも飛べるのか、この船は・・・おい、ヴラドニア!どこだ!ヴラドニア!」

ヴラドニア 「う・・・あ」

ベニオット 「ヴラドニア!?く・・・これは」

ヴラドニア 「いた、い・・・だれ、か」

オティス  「ベニオット!ヴラドニアは!?」

ベニオット 「ひとまず無事だ!しかし、怪我がひどい!顔が血塗れになっている!アニ!今すぐこっちに来れるか!」

アニ    「わ、わかった!すぐに行くから!ひとまず傷を消毒して、安静にさせておいて!」

 

 

 

ベニオット 「・・・治療、終わったか?」

アニ    「うん・・・やれることは、やったよ」

ベニオット 「顔色が、よくないな――どうなった」

アニ    「火傷や裂傷は、なんとか治せた。顔に大きな傷は残らないようにした、けど・・・その」

ベニオット 「言い辛いことか?」

アニ     「おでこの傷は、消せなかった。小さいけど、残っちゃうと思う。それから、あとは・・・」

べニオット 「あと、は?」

アニ    「え、と。んん・・・目が、潰されちゃったみたいで」

ベニオット 「っ!?な――なんだと!?」

アニ    「爆弾が、顔の近くで爆発しちゃったみたいで。飛んだ破片が、目を・・・多分、もう何も見えないと思う」

ベニオット 「何故だ!?治せないのか?回復魔法、どんどん洗練していってるんだろう?」

アニ    「目って、すごく難しいんだよ?大事な部分も壊れちゃってるから、回復じゃ何ともならない!」

ベニオット 「お前は回復役なんだろう!?だったら!」

アニ    「魔法は便利な道具じゃないよ!あたしは何でも屋じゃない!治せないものは治せないんだってば!!」

ベニオット 「っ・・・畜生!!」

アニ     「きゃ!?びっくしり、した」

べニオット 「なぜ、何故だ!誰がこんなことを・・・俺は、呑気に何をしていた!」

アニ     「お、落ち着いてべニオットさん!こんなの、予想出来るわけないよ!」

べニオット 「何が、全ての人を守るだ!仲間1人、女1人守れないで!何が魔断のべニオットだ!俺は・・・俺は!」

アニ     「べニオット、さん!?ちょ、アホ毛呼んでどこに行くの!?」

べニオット 「決まっている!こんなことをしでかしたやつを探す!」

アニ     「闇雲に探したって、見つかるわけないでしょ!落ち着いてよ!」

べニオット 「お前は悔しくないのか?こんな風に、一方的に!ヴラドニアが潰されて良いはずがない!」

アニ    「悔しいに決まってるよ!!もっと、あたしに技術があったら治してあげられたかもしれない!こうなる前に気付けたら、ヴラドニアさんを守れたかもしれない!!あのとき一緒にいたら、防御でも張って庇えたかもしれない!」

べニオット 「俺は、何もできなかった!ならせめて、あいつの無念を晴らしてやるしか俺には出来ない!」

アニ     「熱くならないでよ!べニオットさんには、べニオットさんにしか出来ないことがあるよ!」

べニオット 「悔やんでも、悔やみきれん。せめて、俺だったら」

アニ     「あたしは、ヴラドニアさんだから悔しがってるわけじゃないよ。べニオットさんがこうなってたとしても・・・嫌だよ」

べニオット 「・・・すまん。いらぬ心労をかけた」

アニ     「ううん。大丈夫」

ベニオット 「意識は、戻ってないのか?」

アニ    「うん・・・怖いね。起きたら、どうなっちゃうんだろう」

ベニオット 「支えてやるのが、仲間だ。あいつが何を選ぼうと、守ってやるのが俺たちの役目だ」

アニ    「そう、だね」

べニオット 「俺に、出来ることか・・・すまない、少し席を外す」

アニ     「うぇ?だ、だめ!目的はヴラドニアさんだけじゃないかもしれないよ!?」

べニオット 「このまま後手後手に回るのも癪に触る。それに・・・希望は、欲しいだろうからな」

アニ     「希望、って?なんの・・・あ、ちょ!行っちゃった・・・もう!勝手なんだから!」

 

 

 

ヴラドニア 「・・・・・・そこには、誰がいるの?」

オティス  「起きたんだね、ヴラドニア。調子は――良くは、ないよね」

ヴラドニア 「オティスさん。私、起きてるのよね?」

オティス   「うん、起きてるよ」

ヴラドニア 「どうして・・・真っ暗なの?夜なのよね。ランプを、付けてもらってもよろしくて?」

オティス   「・・・今は、昼時だよ。ランプも、付けてる」

ヴラドニア 「意地悪を言わないで」

オティス   「嘘は、ついてない」

ヴラドニア 「じゃあ、なんで?なんで何も見えないのよ!」

オティス   「っ・・・」

ヴラドニア 「何処に、誰がいるかもわからない!ねえ、みんないるの?」

オティス  「私はここにいるよ、ヴラドニア」

ヴラドニア 「誰か、触れた。手の感触が、ある。けど、姿が見えないの。どこ?何も・・・見えないの」

オティス  「ヴラドニア・・・っ、大丈夫。今は魔法もどんどん発展してる。きっと、何か方法が」

ヴラドニア 「どうにも、ならないんじゃないかしら」

オティス  「そんな、ことは」

ヴラドニア 「きっと、ひどい爆発だったのよね。それなのに、どこも痛くない」

オティス  「それは」

ヴラドニア 「アニさんが治してくれたんでしょう?それなのに・・・何も見えない。回復じゃ、魔法じゃ治せなかったんでしょう!?」

オティス  「回復では、治せなかった。けどね、何も回復だけが魔法じゃ」

ヴラドニア 「いや、いやよ。こんなの嫌!!いやああああああああああ!」

オティス  「ヴラドニア !大丈夫、だから!」

ヴラドニア 「気休めはよして!!こんなの、こんなのもうどうしようもないじゃない!目が見えなければ何もできない!銃を撃つことも!船を動かすことも!オティスさんに紅茶を淹れることも!何も・・・何も、出来ない!」

オティス  「っ・・・」

ヴラドニア 「なんで、どうして!どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?いや!もう何も見えないなんて!こんなの嫌!これじゃ、私は――血染めのヴラドニアになれない!」

オティス  「方法を、探すから。大丈夫だから、ね。ヴラドニア、君は・・・」

ヴラドニア 「言うだけなら誰にでも出来るわ!大丈夫だって言うなら、今すぐ私の目を治してよ!

オティス   「それ、は・・・」

ヴラドニア 「ほら、出来ないんじゃない!なのに希望的観測で励ましてるつもり?勝手なこと言わないで!私が!どれだけ惨めか、どれだけ苦しいか!オティスさんにはわかるはずもないでしょう!?」

オティス  「わからないよ。けど、寄り添うことは出来る!これから、方法を探すことはできる!」

ヴラドニア 「五月蝿い、五月蝿いのよ!もう、治らないというのなら!」

オティス  「フレック!?やめ、ヴラドニア!」

ヴラドニア 「っ・・・・・・弾切れ?なんで、なんでなんでなんでなんで!!」

オティス  「銃は、離してもらうよ!」

ヴラドニア 「きゃ!?いや、返して!返してよ!私のフレック!」

オティス  「見えてもないのに、どうやって取り返そうとしてるの」

ヴラドニア 「オティスさん、お願い死なせて!もう、正義を成せない私に価値などないの!このまま暗闇を抱えて生きていくなんて御免だわ!」

オティス  「自死なんて、させない。私の前で、死を選ばせるなんて絶対にしない!」

ヴラドニア 「オティスさんは何もわからないくせに!もう何も見えないのよ!?苦しいの、辛いの!こんな私じゃもうオティスさんの役になんて立てない!もう、死なせて。楽になりたいの。何が何かもわからない世界に独りだなんて耐えられない。もう死なせてよ・・・オティスさん、お願い」

オティス  「だったら、ヴラドニアの命を私に頂戴!」

ヴラドニア 「っ!?」

オティス  「ヴラドニアが捨てようって言うなら、その命は私がもらう。勝手に殺させないし、これ以上傷つけさせない!」

ヴラドニア 「どうして、そんなこと」

オティス  「直す術を、絶対に見つける。そうでなくても、ヴラドニアの目に代わるものを絶対に見つける。このままヴラドニアが、血染めのヴラドニアがこんなところで終わるなんて、私が許せないから」

ヴラドニア 「見つかる保証なんてない!ただ暗闇の中で、苦しくて終わるかもしれないじゃない!オティスさんは、私を苦しめたいの!?」

オティス  「そうなったら、私を殺せばいい」

ヴラドニア 「え」

オティス  「ヴラドニアを苦しめたくないのが本音だ。けどもし何も出来なかったとしたら、私を鬼だと罵ればいい。生き永らえさせて無駄な苦しみを与えた悪魔だと侮蔑して、君の正義で私を殺せ。フレック、返すね。弾はないけど、後で作っとく」

ヴラドニア 「そこまでして、どうして?わからないわ、私に、そこまでのことを?」

オティス  「誰が何と言おうとね、君は私の大切な仲間なんだ」

ヴラドニア 「あ・・・え?」

オティス  「ヴラドニアと出会ってから、楽しかったよ。色々なことがあった、苦しいこともたくさんあったけどさ・・・それでも、私はこの4人の旅の思い出が何よりの宝なんだ。だから、ヴラドニアを治すためなら私はなんでもやるよ。あげられるのなら、この目をヴラドニアにあげてもいい」

ヴラドニア 「そんなこと・・・だって、オティスさんは」

オティス  「これ・・・わかるかな?」

ヴラドニア 「手、オティスさんの顔に触れてるの?ここが顎で、唇、頬・・・水の、感触?オティスさん、貴方・・・泣いて?」

オティス  「いなく、ならないでヴラドニア。もう、仲間を喪うなんて嫌なんだ」

ヴラドニア 「役に、立てないのよ。目を潰されたのよ?」

オティス  「それでも、それでもだよ。ごめんね、守れなくてごめん。ヴラドニア、ヴラドニア・・・」

ヴラドニア 「っ・・・けど、これからどうすればいいの?目がなくては、私は」

オティス  「目に代わる感覚はある。アニちゃんがね、ハルセルは目がなかったって言ってた。だから――何とかなる、私がなんとかする。だから・・・」

ヴラドニア 「っう、ぐ・・・ありがとう、ありがとう・・・オティスさん・・・」

 

 

(平手打ち)

 

フォラス   「―-やってくれましたね、メイカ」

メイカ    「っ・・・どうして、私が殴られなくてはいけないんでしょうか」

フォラス   「血染めのヴラドニアを潰したそうですね」

メイカ    「ええ。あの女はオティス様を狂わせました。当然の報いです」

フォラス   「一命は取り止めたそうです。貴方は!何を考えているのですか!?」

メイカ    「師匠には、何の影響もないでしょう」

フォラス   「そんなことも判断できませんか!?宮廷魔術師を代表し、原典の勇者を此処に呼んだのは私です!その仲間に私の弟子が危害を加えたとあっては、私の沽券に関わる!原典様にも他の宮廷魔術師にも顔向けが出来ない!己の立場を理解していないのですか!?」

メイカ    「そんな体裁のことばかり!師匠は銃と戦艦を奪い返したいだけでしょう?そもそも、『フレック』も『アルヴィド』も原型は私が作ったものですし!『ゴールデン・ヴェニソン号』だって!」

フォラス   「私の教えがあってこそ建造できたものです!それに、その3つは調整や最終設計で私の手も入っています!貴方だけのものではありません!」

メイカ    「ふざけないでくださいよ!私の頑張り、全部そうやって師匠が持って行ってばかりじゃないですか!」

フォラス   「事実でしょう!それに、私が失墜すれば貴方も居場所を喪う!そんなこともわかりませんか!?」

メイカ    「自分の不手際を弟子に回しているくせに開き直りですか?挙句奪われて取り返したいだなんて、どれだけ私のこと虚仮にしたら済むんですか!」

フォラス   「私が求めているのはプロパガンダです!いつ、ヴラドニア様に渡した武器を取り返せと言いましたか?彼女が正義の名のもとに私が生み出した力を振るう。それこそがこのフォラスの示威となると何度も言いました!聞いていなかったのですか!?」

メイカ    「そうやって私のことを愚図だとずっと馬鹿にして!血染めのヴラドニア?それがなんですか!シンボルなど、正義の執行人などオティス様さえいればいい!むしろオティス様を狂わせた女をプロパガンダにする?吐き気がします!」

フォラス   「・・・そうですか、わかりました。この天才が、見誤るなど認めたくありませんが・・・アンドラも、時にペンを誤ったもの。彼ですらミスを犯す。人である以上は越えられぬ宿痾ということですね。この世に、絶対はありません」

メイカ    「師匠?聞いてますか?ですから、ゴールデン・ヴェニソン号も修復可能な範囲でしか破壊していません。ヴラドニアを討ち損ねたのは惜しいですが、それでももう戦えはしないでしょうとも。次はあの竜騎士を殺します。そうすれば・・・」

フォラス   「破門です、メイカ。今この時この瞬間を以て、貴方と私は他人です」

メイカ    「・・・・・・・・・は?」

フォラス   「貴方が原典に陶酔していたことも、話を聞かないことも、自分本位であることも理解していました。ああ、私と貴方は似た者同士だったのでしょう。しかし、それを制御できなかったのは私の落ち度です、ええ。天才たる私が、このようなことを・・・」

メイカ    「ま。待ってくださいよ、師匠。破門?え、なんで、そこまでする必要は」

フォラス   「己の行いの重さも理解出来ませんか。他の手段もあったでしょう。しかし、私が選べるのはこの手段だけです」

メイカ    「いや、いや!師匠!考え直してください!私、ちゃんとしますから!ねえ!」

フォラス   「おかしなことを仰る。師匠とは、誰のことですか」

メイカ    「ぅあ・・・・・・お願い!お願いします!ここのほかに、私を置いてくれる人なんていない!師匠!師匠――!!」

 

 

フォラス   「ロノウェ、身体はどうだ?」

ロノウェ   「・・・ダメです。やっぱり、魔力が放出できません」

フォラス   「お前ほどの才があるものが、魔法を使えないとは・・・女神は、なんと残酷な」

ロノウェ   「義兄さんは、どうでしたか?」

フォラス   「はは、お父様には「才がない」と一蹴されてしまったよ」

ロノウェ   「どうして?義兄さんはだれよりも魔法を扱うのが上手なのに」

フォラス   「アンドラの子たる私たちに望まれているのは、魔法の発展と解明だ。ただ使えるだけではいけない、その先を見出さなくては――私は、その資格がない」

ロノウェ   「そんな、こと」

フォラス   「どうして、才能が分かれてしまったのか。せめて一つであれば・・・一つで、あれば?」

ロノウェ   「義兄さん?どうか、したんですか」

フォラス   「そうだ・・・それだ!ロノウェ、お前はそのまま、思いつくだけの魔法理論を書き続けろ!」

ロノウェ   「ええ!?け、けど。使うことが出来ないから、理論のつくりようがありません」

フォラス   「そこは、このフォラスの出番だ!お前が練り上げた魔法を、私が完璧に使いこなしてやろう!そうすればいい!」

ロノウェ   「二人で、魔法を?」

フォラス   「そう!術式はお前が、使うのは私が!そうすれば無敵だ!」

ロノウェ   「それは・・・とても、心が躍りますね」

フォラス   「一人ではだめでも、二人ならば!」

ロノウェ   「はい!変えてやりましょう、この世界を!」

 

 

フォラス   「ロノウェも、メイカも・・・切り捨てて、ばかりですね。私の人生は・・・蹴落として、見捨てて、そして・・・ふふふ、極楽、極楽」

 

 

 

イフォニ   「はは、ナイスパフォーマンス。こうなるとは思ってたけどね」

メイカ    「イフォニさん・・・どうして、私がこんなことに?何がいけないんですか?私が、何を間違っていたって言うんですか?」

イフォニ   「どうだろうね、君の信念は誰にも否定できないさ。けど、場所と行動が悪かったね。逸りすぎだ」

メイカ    「許せない、許せません!師匠ならわかってくれると信じていたのに。これじゃ、私は・・・」

イフォニ   「じゃあ、わからせてやりなよ。君は一人じゃないんだろう?」

メイカ    「どういう、ことですか」

イフォニ   「君の覚悟を見せなよ。君は勇者を想うあまり、ヴラドニアへ攻撃した。君は気付いてないかもしれないけどね、自分の信念のために誰かを攻撃する覚悟なんて、普通はそうあっさり出来ないもんさ」

メイカ    「よくわかりませんが、覚悟も無しに研究者はやれません!思う事を思うようにやる!目的のものを作り上げるためならばなんでもやりますとも!ええ!」

イフォニ   「研究者故の気質、ってわけじゃなさそうだけど・・・だからさ、君と志を同じにしても、動く勇気がないって人もいる」

メイカ    「つまり?」

イフォニ   「君は旗頭になれる。ヴラドニアに一矢報いた者。時代を憂う英雄。とまあ、そんなところかな?」

メイカ    「私は目立ちたいわけではないんですけど」

イフォニ   「君も研究者だろう?研究成果をフォラスに取られて憤慨していたのに?」

メイカ    「あれは、私の研究が私の思うように世に広まらないのが不満なだけです!師匠はただの武器としか見ていない、私は使う目線にも立って作っているのに、師匠はただ威力と射程にしか興味がないんです」

イフォニ   「・・・君臨勇者から聞いた?君の『ツラヌキ1.7』の量産、かなりいいペースで準備が進んでてさ。試験用に10挺ばかり、届いてるよ」

メイカ    「え、早くないです?」

イフォニ   「簡易性に重きを置いた君の頑張りのおかげだよ。ま、君臨勇者の伝手のおかげでもあるだろうけど」

メイカ    「それで、此れで何を?」

イフォニ   「今は、研究発表会だ。君の研究の成果を見せに行けばいい。君と同じく、原典を至上とする者たちに銃を配り、君が率いて会場を襲うんだ」

メイカ    「なっ!?」

イフォニ   「名だたる宮廷魔術師を、原典の仲間を、戦闘経験のない君たちが一方的に攻撃する様を民衆に見せつけるんだ。『巨人殺し(ジャイアント・キラー)』を起こせ。そうすれば・・・その銃をつくった「メイカ」の名前は世界に轟く。誰でも使える魔法銃をつくった偉大なる発明家として、ね」

メイカ    「なんですか、それ・・・最高じゃないですか」

イフォニ   「だろう?驕り高ぶったやつらを叩き落す。それこそ情報屋の本懐だからさ」

 

 

 

フォラス   「・・・血染め様」

ヴラドニア  「その声は――フォラス、かしら。何の用?」

フォラス   「お時間、少々宜しいでしょうか」

ヴラドニア  「帰って」

フォラス   「お断りいたします」

ヴラドニア  「何よ!哀れみに来たんでしょう?スルーズを渡してきたときは高嶺の花すぎて会えないとか言ってた癖に!地に堕ちた血染めのヴラドニアを笑いに来たんでしょう!?」

フォラス   「私は、手折られた花を踏みにじるような卑しい性質ではありません」

ヴラドニア  「だったら何よ!帰りなさいと言ったわ!」

フォラス   「魔断様から頼まれて、此処に来ました」

ヴラドニア  「・・・ベニオット、が?」

フォラス   「使命感の御強い方です。会場を世話しなく飛び回り、妙な動きがないか調べておられます」

ヴラドニア  「私の、代わりということ?哀れみなんて、要らないわ」

フォラス   「ただ哀れむだけなら、そこまでは出来ないでしょう。今は一時的に研究会を中断しています。しかし中止となれば我々の沽券にも関わる、じきに再開されるでしょう」

ヴラドニア  「愚かね。自分の椅子がそんなに大事?」

フォラス   「世を変えるためには、覚悟が必要です。犠牲を出すこともあるでしょう、しかし私は」

ヴラドニア  「勝手なことを!誰かの大義のために、使い潰されるのなんかまっぴらよ!」

フォラス   「バラド様の背ばかり追っていたというのに・・・成長、なされましたなヴラドニア様。4年前、まだ王女だった頃の貴方は、まるで白百合のように嫋やかなお方でした。勇者と成ってからの貴方は、紅き薔薇のように凛としておられます」

ヴラドニア  「花は、咲いているうちが全てよ。手折られて地面に落ちてしまえば、いずれ踏みにじられて潰れるか、枯れて土になるのを待つだけだもの」

フォラス   「私は、耐えられないのです!貴方を潰したのが、私の弟子であったものだと言う事。私が教えた技術で、貴方の目を壊したこと!胸が、張り裂ける思いなのです!」

ヴラドニア  「ゴールデン・ヴェニソン号の強奪に、手を貸していただいたことは忘れないわ。けれど・・・もう、私は」

フォラス   「まだあなたは、堕ちてはいない!血染めの薔薇が、このようなところで折れるなどこの私が許さない!」

ヴラドニア  「気休めはよしてもらえるかしら?目をやられたのよ。こんな無様を曝して、今更何が出来るというのかしら!」

フォラス   「お忘れですか?私は、天才ですよ」

ヴラドニア  「・・・まさか。治せる、というの?」

フォラス   「いいえ。目は精密な器官です。この天才といえど回復魔法は使えず、修復するにも限度がある・・・しかし、見えなくとも、『視える』ようにすることは可能です。気配探知、御存じでしょうか」

ヴラドニア  「サーチの、事?けれど私は、魔法を使えないわ。だから私は銃を握ったのよ」

フォラス   「ええ、あくまで一時的な策となります。これを現実的な手とするために――ゴールデン・ヴェニソン号とのリンクを、切っていただけますか」

ヴラドニア  「なに、を・・・考えているの?」

フォラス   「私は、高嶺の花が凛と咲いている姿が好きなのです。稀代の天才アンドラがそうであったように。血染めのヴラドニア様。貴方は堕ちた花ではありません。この騒動を収束させ、それを示してください」

ヴラドニア  「簡単に、言うわね」

フォラス   「突貫工事ですから、ひとまずの出来であること、お許しください。勇者特権によりもたらされる魔力を全て回せば、高精度な魔力解析が可能になります――これを、貴方に捧げます。『不死孵しの盾(キュベレイ・クラシュ)』」

 

 

 

フォラス   「はて、次は第七席の発表ではなかったでしょうか?」

オティス   「出てこないね・・・また、なにかあったのだろうか」

ヴァンハーフ「心配はいらないよ。全ては手筈通りだ」

オティス   「っ!?お前・・・」

ヴァンハーフ「皆々様方、大変お待たせいたしました。第七席に代わり、この君臨勇者がこの場を仕切らせていただこう」

フォラス   「何故、君臨勇者がここに!」

ヴァンハーフ「さて、此度僕が発表するのは――勇者特権の真実について。女神から与えられし力とされている勇者特権だが、実のところこれは真っ赤なウソだ」

オティス   「藪から棒に・・・偽りだって?」

フォラス   「オティス様、何をしておられるのですか!早く、彼奴に攻撃を!」

オティス   「はぁ?いや、いきなり言われても」

フォラス   「それじゃあなんのための護衛ですか!?」

ヴァンハーフ「魔力炉、皆さまは御存じのはずだ。無限の魔力を生み出し、富を与える叡智の装置。この出力は、中身の聖遺物の『強さ』に比例する。ここでいう強さとは、信仰度、認知度―-要は逸話的な強度だ。如何に人々の記憶に深く根付いているか、いかに人と密接にかかわりあっているか。一般的には、旧ければ旧いほどこの強さは増すと言われている」

オティス   「キバイラが、似たようなことを言ってたような」

ヴァンハーフ「事の発端は、些細な盗難事件だ。『原典消失事件』・・・国の宝物庫から、勇者冒険譚の原典が盗み出された事件だ。未だ失われた原典は発見されていないが・・・どこにあるのだろうね」

オティス   「私の本、無くなってたんだ」

ヴァンハーフ「あれは現在、王都の地下にある魔力炉の中に格納されている。王都すべてを賄う膨大な魔力を、たった一つの聖遺物が生み出しているんだ」

オティス   「私の本が・・・王都全てを賄う魔力を?」

フォラス   「何故ちょっとうれしそうなのでございますか!?」

オティス   「で、それが何か関係あるのか」

ヴァンハーフ「魔力が足りないんだ。正確には計算が合わない。王都で使われている魔力と、余剰として蓄えられる魔力と、魔力炉が生み出す魔力―-等式が成り立たない。供給過多のはずなのに、均衡が生まれている。要はどこかに消えている魔力があるんだ」

オティス   「どこかに消える、魔力?意図しない使われ方をしているってことか」

ヴァンハーフ「そう、思い起こしてほしい。フォラスが6年前に発表した研究の一つを。『遠隔魔力供給』、記憶に新しい者もいるだろう。特定の紋章同士であれば、遠距離で魔力の送受信が出来るという画期的なものだ。これは自動馬車に刻印され現在実機実験中の案件だが・・・魔力。遠隔供給。紋章。どこかで聞いたことはないかな」

オティス   「・・・勇者、特権?」

ヴァンハーフ「その通り。各個人に適合する紋章をつくり、魔力炉から生み出された魔力を送り込む。それが勇者特権の真実だ。勇者の力に信仰は関係ない。ただ紋章が身体に馴染み、魔力を受け取れる者を勇者と呼称しているだけさ」

オティス   「胡散臭いとは思ってたけど・・・本当に女神になぞらえたものじゃなかったのか」

ヴァンハーフ「さて、どうしてこのようなことが今まで明るみにならなかったか。それは彼が研究成果を選別し、公表しなかったからだ。勿論物証はある、こちらをご覧あれ。これは研究のメモだ。魔力炉の基礎概論が纏められたこのメモに、魔力遠隔供給についての記述もある。しかし、まとめ直されたメモではこれらは分割されている。本来ならば同じ研究として世に出すべきものが分割されている」

フォラス   「自分の研究をどのように使ったとて、私の勝手でしょう?」

ヴァンハーフ「つまり、意図的に分割したということだ。まるで違う研究成果であるようにね。ところで、わかるだろうか。まとめ直す前のメモと、まとめ直されたメモ。明らかに差異がある」

オティス   「差異ったって・・・あ。筆跡が、違うような?」

ヴァンハーフ「正解だ。加えるならば、まとめ直す前のメモには文字が擦れたような跡が幾つもある。これは左手で文字を書いた際、乾いていないインクを手で引き延ばしてしまう時に出来る跡だ。フォラスは、右利きだね。ペンだこが右手にできている。つまり、これはフォラスではない者が考えたメモと言う事だ。フォラスはただ、清書しただけだ」

フォラス   「黙って聞いていれば、イカサマもいいところです!そもそもそのメモはどこから持ってきたものですか?それを基に私が書いたという証拠もありません。言いがかりはよしていただきましょう!」

ヴァンハーフ「これは、僕が持っていたものです」

フォラス   「は?」

ヴァンハーフ「僕が考え、僕が練り上げ、僕が理論を書いた。これは、貴方の研究ではなく僕の成果です」

フォラス   「馬鹿も休み休み言いなさい!それはこのフォラスが――まさか」

ヴァンハーフ「皆さま、御存じだろうか。フォラスには弟がいたんだ。名をロノウェ、と言う」

フォラス   「やめなさい、ヴァンハーフ」

ヴァンハーフ「かつて共に研鑽し合った兄弟。しかし、存在だけは耳にしていても姿を目にしたお方はいないはず」

フォラス   「やめろ!」

ヴァンハーフ「姿のない弟。魔法の才能がないから遠方に婿入りしたと言うが、果たして本当にそうなのだろうか」

フォラス   「それ以上喋るな!」

ヴァンハーフ「僕が研究成果の原本を持っていたのは、これがフォラスに代わって僕が書いたものだからです――ええ。この僕が、ロノウェです。生きていた頃はフォラスの影として、叡智を生み出していた装置です」

オティス   「・・・え、ん?つまり?」

ヴァンハーフ「基礎魔法理論の再構築から始まり、魔力炉まで至るその栄華まで。そのほとんどは僕が書いたものです」

フォラス   「馬鹿を言え!ロノウェは、ロノウェは!」

ヴァンハーフ「死んだはず、と?そうですね、貴方が殺したはず」

フォラス   「っ!?」

ヴァンハーフ「しかし、こうして僕は生きています。生き延びました・・・このような姿に成り果てましたが」

フォラス   「ひ!?か、顔がない・・・」

ヴァンハーフ「ええ、全て焼かれてしまいましたから。目も鼻も、爛れて元の形を保ってはいません。加えて口も喉も潰れているから、本来ならばこの体では喋ることもできない。魔力を通し、周囲の空気を振動させて声にしています」

フォラス   「お前が、どうして?」

ヴァンハーフ「真実はいつか明るみになるもの。嘘はいつか暴かれるもの。それだけですよ、義兄さん」

フォラス   「あ・・・あっ、あ・・・」

ヴァンハーフ「貴方が何よりも大切にしているものは、地位と名誉。魔法を尊んでもいなければ、自分の命を重んじているわけでもない。であれば、貴方は殺してしまうよりも、椅子から蹴落とすほうがずっといい」

オティス   「っ、ヴァンハーフ!」

ヴァンハーフ「お呼びかな?原典の勇者。君には感謝しているよ。おかげで風穴を開けることが出来た」

オティス   「お前、全部台本通りか?」

ヴァンハーフ「いくつか想定外はあったがね。これだけ示せればもう十分だろう、それに君もこれを望んだはずだ」

オティス   「ああ、フォラスの闇を暴く準備はしていたよ。けれど、お前に利用させるつもりはなかった!」

ベニオット  「オティス!!」

オティス   「念波サザエ?ベニオット、なんだ。何があった!」

ベニオット  「くそ、ヴラドニアを潰したことすら計画だったか?武装した一団が会場に乗り込んだ!」

オティス   「は!?お前、外みてなかったのか!?」

ベニオット  「違う!もともと中に居たようだ!」

オティス   「それって・・・宮廷魔術師の一派ってことか!?」

ヴァンハーフ「気を取られすぎたね、獲物を見誤るとは失態だ・・・さて、僕の発表はもう一つある。メイカ」

メイカ    「御機嫌よう皆々様!示威の見せつけ合いご苦労様です!突然ですが死んでいただきます!」

ヴァンハーフ「昨今、原典の勇者こそが救世主であるべきだという流派があるのは御存じかな?そこのメイカ率いる人民は、皆がその思想に傾倒している」

オティス   「っ!?魔法銃!?あんなに、たくさん」

ヴァンハーフ「彼女の研究結果だよ。一般市民や徴兵向きの扱いやすさと威力、量産性を兼ね備えた魔法銃、『ツラヌキ1.7』だ。御託を並べるよりは、威力を見てもらったほうがいいね」

メイカ    「それでは、デモンストレーションといきましょうか!全員、撃ち方よーい!」

フォラス   「メイカ、やめなさい!貴方はどこまで私を貶めるつもりですか!」

メイカ    「はぁ?何を言っているんですか?貴方のような薄情な男の体裁など知りませんよ!むしろどこまでも堕ちてしまえ!私がとどめを刺してあげましょうか!全員、放て!」

オティス   「っち!この際効率は無視だ!『七重留めし友殉の盾(セブンレザーズ・ランサーブレイカ)』!」

メイカ    「あは?原典様の魔法ですか!あははは!この目で見られるなんて!魔法銃の銃弾を通さない防御壁!流石です!」

オティス   「何企んでるかは・・・大体予想は出来るけど。やらせないよ」

メイカ    「流石です、自己保身よりも他人を守ることを優先するんですね!それでこそ原典の勇者様!ああ、貴方を永遠にしたい!300年眠り続けた貴方を!今度こそ!『英雄』として!」

オティス   「頭・・・おかしいのか?」

ヴァンハーフ「いけないよ、警護が発表の邪魔をしては」

オティス   「っ!お前・・・手錠は?いつ外した」

ヴァンハーフ「君は案外、口車に乗せられやすいようだね。合鍵くらいつくってあるとも」

オティス   「こんの、邪魔するなよお前!」

ヴァンハーフ「黎明の時だ。革新は犠牲を伴うもの、そちらこそ邪魔立てしないでもらいたいね」

オティス   「鎖に捕まるわけにはいかない。けど、まだ避難も迎撃準備も出来てない・・・ああもう、鬱陶しい!」

フォラス   「ぅあ・・・く」

オティス   「ぼさっとしてんな!他の宮廷魔術師と連携取って、君の弟子たちを何とかしろ!」

メイカ    「元師匠!引導を渡してあげますよ!一同、防盾で身を隠しつつ前進!相手の杖と自分の体を遮るように盾を構えることを意識してください!攻撃が途切れたら装填、発射です!」

イフォニ   「絶景絶景。オティス、腕は二本しかないんだぜ。抱えられない命を多く抱えようとしても、溢して落としちゃうぜ。メイカ一人を焚きつけただけでこの騒動、笑えるくらい上手くいった」

アニ     「―-どういう、ことなの」

イフォニ   「あらあら、君も来たんだね」

アニ     「貴方が、この騒ぎを起こしたの?なんで、そんなことを!」

イフォニ   「どうしてだと思う?僕は情報屋、ただでなんでも教えるわけないだろ?」

アニ     「っ・・・お姉ちゃんを、みんなを助けないと!」

イフォニ   「行かせないよ。あれにはあれの末路がある。君には君の――終わりがある」

オティス   「アニちゃん?ヴラドニアの治療をしてるはずじゃ・・・まずい、そっちにはあいつらが!」

ヴァンハーフ「行かせないとも。僕を止められるのは君だけだ。そして、君を止められるのも僕だけだ。『流星貫矢(ケイローン・ショット)』」

オティス   「おわぁ!?こん、の!いきなりぶちかますなよな!」

ヴァンハーフ「彼にだって道理はある。悪いね、君はともかく、他の仲間は正直そこまで関心がないんだ」

オティス   「お前・・・やっぱり根回ししてたな?」

ヴァンハーフ「勇者同盟から引き抜かれたのは、正直痛手だったよ。飼い犬だったものに手を噛まれる前に、牙を抜いておきたいと思うのは自然だ」

オティス   「はは、殺すね」

ヴァンハーフ「それは困る。この体は壊さないでほしいな」

アニ     「どいてよ!あの人の所為でヴラドニアさんが!」

イフォニ   「違うよ?彼女の失明はただの事故だ。積み荷が爆発したんだって?ご愁傷さまだ」

アニ     「一緒だよ!」

イフォニ   「あはは!この世の全ては人間が手を引いてますって?そんなわけないだろ!」

アニ     「ならどうして、こんなことにならなくちゃいけないの?誰も傷ついてほしくない、死んでほしくない!」

イフォニ   「死んでほしくない、ねぇ・・・君が、他人の死に時を勝手に決めるなよ。生かすことだけが救いじゃあない」

アニ     「そんなはずない!」

イフォニ   「君の町さ、プリメロだっけ。何に襲われたんだ?魔物?否、勇者だよね」

アニ     「え?なんで、知って」

イフォニ   「自惚れんなよアニ。君は恵まれた人間だってこと、自覚してる?」

アニ     「・・・何がよ」

イフォニ   「オティスに救われて、導いてもらって、愛してもらって。いいね、素晴らしいよ。君はさぞ幸福だよ。その幸せを掴もうとして何人死んでいったのかも知らないでさ。プリメロも結局、壊滅したわけじゃないんでしょ?」

アニ     「お父さんの知り合いのおじさんが、町長になって頑張って立て直したんだよ。それがなに!」

イフォニ   「僕の故郷は小さな町だったんだけどね、もうないんだ。滅びてる」

アニ     「え。なん、で」

イフォニ   「襲わせた。娼館だのヒューマンショップが乱立する町で、金を稼ぐならおあつらえ向きだぞ、ってね」

アニ     「なっ!?自分の町を売ったっていうの!?」

イフォニ   「よく燃えたよ、何も残らないくらいにはね。たくさんの人が死んだ。町のクソ野郎たちが抱えてたお金は軒並み襲撃犯の懐に入った。はは、その一部を情報料として受け取った時は笑いが止まらなかったよ。明日を迎えるも手一杯だった僕が、たった一瞬でこれだけのお金をあいつらから奪ってやったのかと!」

アニ     「どうしてそんなひどいことをしたの!」

イフォニ   「いいお金になるから。それに、あんな町残してたって何の価値もないし。しかし・・・ケルディがまだ生きていればもっと町を襲わせて稼げたのに。残念だなあ」

アニ     「え・・・・・ケルディに、町を・・・襲わせる?」

イフォニ   「あは、何か思い当たるって顔だね。どうしたのかな、辛いことでも思い出したのかな?」

アニ     「ま、さか・・・まさか!」

イフォニ   「いいこと、教えてあげよか。どうしてあんな目立たない町に、ケルディが遠路はるばる訪れたと思う?」

アニ     「いや、そんな。けど―-あなた、が?」

イフォニ   「そう、僕が教えた。最近魔物が増えてきて困ってるらしいよってさ。だから、ケルディはプリメロに現れた」

アニ     「あ、あ・・・え?なん、で」

イフォニ   「なんで、って。そりゃあそれが情報屋としての僕の役目だからさ。困ってる町のことを勇者に教えるのは当然さ。それ・・・にっ!?」

アニ     「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで!?どうして、どうしてどうして!どうしてよ!なんで!」

イフォニ   「は、は。口は出せど手は絶対に出さなかった君が僕を押し倒して、襟首を掴むなんて。そんなに気に障ったかい?」

アニ     「お父さんが、みんなが、なにをしたっていうの!!」

イフォニ   「他人に害されるのには必ず理由があるって?は、馬鹿言えよ。そんな上手く世界が回ってるものか」

アニ     「幸せに暮らしてたんだ。ケルディが来なかったら!みんな、あんな思いしなかったのに!貴方が、貴方の所為で!」

イフォニ   「そりゃあご愁傷様。けどね、本当に困ってる町の情報を求めて僕の下に来る優しい勇者だっているんだ。そいつにだって情報を売るよ?それと何が違うのさ!」

アニ     「言い訳だ!そんなの!」

イフォニ   「世間知らずのお飾り娘があまりでかい口を利くんじゃないよ!残念だったね、たまたまケルディだっただけだ。僕はなーんにも悪くない!僕の知ったことじゃないよ!売った情報がどう使われるかなんて埒外だ!」

アニ     「かえしてよ、みんなを!平和だったプリメロを返してよ!」

イフォニ   「良かったじゃないか。君が全部失ったからオティスは同情して、君を仲間として外に連れだしてくれたんだろ?」

アニ     「っな・・・!?」

イフォニ   「君には魔法の才能が「たまたま」あった。けどあそこにいたのが君じゃなくても、オティスは仲間にしたんじゃないかな」

アニ     「そんなこと、ない!」

イフォニ   「どもったね?考えたこともなかったか、考えようともしなかったのか。全否定できないんだろ?図星かい?」

アニ     「うるさい!そんなことないもん!お姉ちゃんは、お姉ちゃんは!」

イフォニ   「かの原典の勇者に見初められて、優しく愛されて気分良かったろ?父親を喪ったことで母親に、姉に、仲間になってくれる存在が代わりに手に入ったんだから!見初められもせず、ただ死んでいくだけの奴らばかりの世界で!まったく君は幸福だったね!」

アニ     「お姉ちゃんはそんなんじゃない!」

イフォニ   「それだって君の理想の「お姉ちゃん」の押し付けじゃないのか?当人がそう言った?ソースは?確証は?嘘偽り誤魔化し改竄はないか?人の善性しか見てないんだね君は!」

アニ     「悪いところしか見ようとしない貴方に言われたくない!」

イフォニ   「それこそが人の本性だろ!腹に一物二物隠して生きてるのが人間さ。本性と向き合わないで甘い言葉だけで生きてりゃあ世話ないね全く!好き好き言って乳繰り合ってりゃあ幸せだろうけど、向き合ってないならそれこそ盲目的じゃないか、本当の意味で分かりあえてるの?君とオティスはさぁ!」

アニ     「知ってるよちゃんと!料理も出来ない、字を読むのも嫌い、ガサツだしセンスおかしいし危険なことも平気でやるし!こっちの心配も知らないで、どうしようもないお姉ちゃんだよ!けど優しくて、必要なことはちゃんと厳しくて、かっこよくて強くて、何よりもあたしのこと大事にしてくれて、誰かのために動くことが出来る!そんなお姉ちゃんがいいんだ!」

イフォニ   「外面ばっかりじゃないか」

アニ     「言葉だけじゃない!目で分かる、仕草で分かる、態度で分かる!聞いただけの情報でお姉ちゃんを理解した気にならないで!」

イフォニ   「そうは言われても、聞いたことで何とかするのが情報屋だからね」

アニ     「だから貴方は絶対に許さない!お姉ちゃんを、お父さんを、プリメロのみんなを馬鹿にした!」

イフォニ   「許さない、か。そりゃあいい!それでどうするの?僕を殺してみる?仇討ちだ何だといって、大義名分を振りかざしてみるのかい?やってみなよ!結局君も僕と同じで、ただ自分のエゴのために気取った看板振りかざすだけの愚かな生命だと示してみるがいいさ!どれだけ着飾ったところで、中身は変わらないんだ!」

アニ     「うるさい!うるさい、うるさい!もう、黙ってよ!」

イフォニ   「そら、ナイフならくれてやるよ。奪ってみるか?刺してみるか!?ねえ、教えてよ!君は人間なのかい?それとも妄執に囚われた獣なのかい!?示してくれよ!さあ!」

アニ     「あなたのせいで――あなたの、せいで!」

オティス   「アニちゃん!!!」

イフォニ   「あははは!結局君も・・・きみ、も?」

オティス   「か、ふ・・・・・・なに、してんの」

アニ     「え、お姉ちゃん?あ、う・・・あ、ああああ・・・」

オティス   「大丈夫、内臓は外したから。急所じゃないし、すぐ治るよ」

イフォニ   「な!?なん、で。邪魔するなよ!」

オティス   「ベニオット、そっち任せた」

ベニオット  「ああまったく、それどころじゃないんだがな!」

ヴァンハーフ「これは、やられたね。退きどころか」

べニオット  「逃すと思うか?」

アニ     「あ。っう・・・」

オティス   「魔法専門だったからね、知らなかったでしょ?それが、人を刃物で刺す感覚だ。動物を捌くのとは訳が違うよ」

アニ     「お姉ちゃ、血が・・・たくさん、出て」

オティス   「大した傷じゃないってば。けどそうだね、よく見て。これはアニちゃんがつけた傷だよ。アニちゃんの力でも簡単に刺さる。こんなものが心臓に刺されば、間違いなく死ぬよね」

アニ     「そんなの、わかって」

オティス   「殺意のままに、アニちゃんが武器を振るってどうするの!人を救う魔法使いになるんでしょ?」

アニ     「っ!?」

オティス   「そんな風にイフォニを殺して、ハントさんが喜ぶと思う?」

アニ     「だって・・・だって!お父さんも、みんなも!死ななきゃいけなかった理由なんてない!」

オティス   「アニちゃんがここでイフォニを殺さなきゃいけない理由もない!」

アニ     「悔しいよっ、あたし・・・あたしは!こんなふうに死んだなんて知りたくなかった!なんで!?なんでダメなの!?みんな、自分勝手に殺されたのに!なんで!」

オティス   「繰り返すことだけが、やり返すことだけが方法じゃない。だから、ヴァンハーフを止めるんだよ?」

アニ     「やだよ、こんなの。どうして?なんでダメなの?この気持ちはどこにやればいいの!」

オティス   「私が、いるからね」

アニ     「あう、う・・・うわあああああああああん!お父さん、お父さん!!うわああああああああああああ!!」

オティス   「私が・・・アニちゃんの、剣になるから」

 

 

 

メイカ    「第六席、討ち取ったり!宝石使いもたいしたことはありませんね?ヴラドニアも落とした、宮廷魔術師もこれで3人殺した!なーんだ、私の研究は間違っていなかった!そう、この世界を変革させる!オティス様の救いを、オティス様の慈愛を世界にぶちまける!女神に呪いあれ、魔龍に破滅あれ!あははははは!」

ヴラドニア  「そう、それが貴方の望む世界なのね。なんて愉快で――つまらない」

メイカ    「おやおやおや?誰かと思えば翼を折られた天使じゃないですか!死にに来たんですか?」

ヴラドニア  「そうね、私はまだ死んでいないわ。貴方が正当性を謳うなら、完膚なきまでに手折ってみせなさい!」

メイカ    「へえ、死なないつもりでいるんですか?ガンナーが視界を奪われて!どうやって勝つんですか?」

ヴラドニア  「一度口にした言葉は二度と覆らない。ええ、だからあなたは私が倒すべきね」

メイカ    「ああ、馬鹿にされたものですね!私なんかにしてやられた時点で己の実力不足を呪ってとっとと隠居でもしてくださいよ!私の前で、勇者の仲間を騙る!その意味をお分かりでないようだ!」

ヴラドニア 「貴方こそ。オティスさんの感情は、貴方のものではないわ。神格化は好きにしたらいい。けれど、オティスさんの涙は、言葉は、愛は、嘘ではないわ。だから!オティスさんのためにも、私は貴方をここで斃さなくてはいけない!」

メイカ    「わざわざこんなところまできて、御高説どうも!では、ツラヌキ1.7の最終性能実験と行きましょうか!」

ヴラドニア 「落ち着きなさい、ヴラドニア。目がなくても、感覚はある。気配を、探る。相手の位置を感じて、射線を読む!そこ!」

メイカ    「初撃を躱した?魔力の波長を読まれましたか、やりますね。では!魔力に関係のない攻撃はどうでしょうか!?」

ヴラドニア 「的外れなところを撃っている?何をして――っ!」

メイカ    「意志を、意識を読まれるのは詮無きことです。しかし!自然に任せたものならそううまくはいかないでしょう!例えば、支えが壊れて落下する積み荷なんてどうですか!」

ヴラドニア 「・・・拡散焼夷弾、装填。フレック!」

メイカ    「な、全部打ち壊した!?」

ヴラドニア 「馬鹿ね、木箱ごときで死ぬわけないじゃない」

メイカ    「いいえ、足を止めたでしょう?屈んだ姿勢から、銃弾を躱す余裕がありますか!?そーれ躱してくださいな!」

ヴラドニア 「っ!ぐ・・・まだよ!」

メイカ    「掠っただけ?見えてもいないくせに!」

ヴラドニア  「音を聞けば、いつ弾が出るかわかる。貴方の弾道、素直すぎよ。愚直に頭を狙うのはいいけれど、的が小さいから戦闘中に狙うのはやめたほうがいいわ」

メイカ    「はぁ?馬鹿にして・・・なら、躱せない弾ならどうでしょう拡散追尾弾!」

ヴラドニア 「全て撃ち落とすまでのこと!アルヴィド!」

メイカ    「っなぁ!?うそ、衝撃波で相殺した?そんな、芸当が出来るなんて」

ヴラドニア 「音がよく聞こえる。指の感覚も、風も、いつもより鋭い。ええ、今日は・・・良く「視える」わ!フレック!」

メイカ    「ぐ!?しま、肩が!なんで、なんで!目を無くしたならガンナーなんてやれないはずなのに!どんなインチキを使ってるんですか!」

ヴラドニア 「からくりなんてないわよ。ただ・・・負けるわけにはいかない。オティスさんを神か何かだと思っているようだけれど、貴方は『原典の勇者』しか見えていない!」

メイカ    「あのお方は!世界を救わねばならない!そうあるべきなんですよ!」

ヴラドニア 「それを決めるのは貴方ではないわ!救われないことも、壊れたものも、失われた命も!全てオティスさんに抱えさせるわけにはいかない!あの人は神ではないのだから!」

メイカ    「知ったような口を!そうやってあの人を人間に貶めた屑が、何を言うんですか!」

ヴラドニア 「英雄だ神の成り代わりだなんだと言って、オティスさんを道具のように呼んで!あの人はもう世界に利用されるわけにはいかないの!」

メイカ    「貴方が誑かしたくせに!」

ヴラドニア 「私は戦うわ!オティスさんを世界の楔から解き放つために!目を喪った私をなおも必要としてくれた、あの人のために!」

メイカ    「五月蠅い!死ね、死んでくださいよ!貴方たちがいるから、世界が良くならないんだ!」

ヴラドニア 「そうね、そのために立ち上がったことだけは称賛に値します。けれど・・・矛先を間違った」

メイカ    「正面から!舐めてくれますね、この・・・な、弾が出ない!?」

ヴラドニア 「その魔法銃、装填数は何発かしら?ずいぶんと色々な弾を振舞ってくれたけれど、確認はした?」

メイカ    「弾切れ!?そんな、初歩的なミスを!くそ!」

ヴラドニア 「私より、見えていないのね!」

メイカ    「は!貴方こそ不用意に近付いて!スルーズを構えましたね?長い銃は、取り回しが疎かになる!」

ヴラドニア 「ええ、そうね。だから――こうするッ!」

メイカ    「ぶべら!?じ、銃で殴るなんて!」

ヴラドニア  「良い硬さね!銃にはこういう使い方もあるの、よ!」

メイカ    「ぎえっ!?ご、は・・・脳が、揺れ・・・ぐ!?」

ヴラドニア 「麻痺弾もあげるわ。貴方はここで殺さない。けれど・・・こんなところで過激派のリーダー格が転がっていたらどうなるかしらね」

メイカ    「ま、さか」

ヴラドニア 「お仲間に見つけてもらえるといいわね。もしも勇者派に恨みがある人たちに見つかったら、どうなるのかしら」

メイカ    「待って、待ってください!いや、行かないでください!」

ヴラドニア 「そうしたいのだけれど・・・爆発の所為で耳が痛くて。おまけに魔力が切れたみたい、貴方の位置が上手くサーチできないの。ごめんなさいね」

メイカ    「ぐ、身体が・・・や、本当に置いて行くんですか!?待って!」

ヴラドニア 「よくわからないのだけれど、貴方が信じるものが救ってくれるのではなくて?」

メイカ    「なら・・・貴方も、同じようにしてあげます!」

ヴラドニア 「フレック」

メイカ    「う、ぎぇあ!?なん、で・・・こっちを見ずに、撃てる・・・なん、て」

ヴラドニア 「気配探知に、前も後ろもないのよ――貴方にとっての救国の英雄が現れるといいわね」

 

 

 

フォラス   「ま、待ちなさいロノウェ!」

ヴァンハーフ「残念ですが、待てません。僕には僕の、成すべきことがある」

フォラス   「どうして、こんなことを・・・恨んでいるのか?この私を、憎んでいるのか?」

ヴァンハーフ「いいえ。そのような感情はもう、とうに手から零れ落ちている。むしろ、貴方は今まで私を気にかけ、研鑽の場所すらくださった。感謝しているんです、これでもね」

フォラス   「そう、なのか?」

ヴァンハーフ「はい。ですから、己の感情に任せて貴方を縊り殺すような真似はしません」

フォラス   「そうか。すまなかった、我が弟よ。私に、手伝えることがあるならばなんでもやろう」

ヴァンハーフ「そうですね、では――今から貴方の手を潰します」

フォラス   「は?」

ヴァンハーフ「いきますよ」

フォラス   「ちょ、ちょっと待って!おかしい!おかしいぞロノウェ!どうして、私に恨みはないのではなかったのか!」

ヴァンハーフ「ありません」

フォラス   「だったら!」

ヴァンハーフ「貴方は、私の義兄さんです。だから何ですか?その程度の関係性で、この手を止めるほど僕は愚かではない」

フォラス   「なんと、お前、正気・・・ぐおおおおおおおおおおお!?」

ヴァンハーフ「覚えていますか?僕が初めて考えた魔法は、炎属性のもの。そして義兄さんが僕を殺そうとしたときに使ったのも、炎でしたね。僕らは、炎でつながり合っている」

フォラス   「腕がッ、あ、ぎゃあああああ!ぐううう、あああああああ!!」

ヴァンハーフ「魔法は一般的に、両腕から放つのが通例です。ペンフィールドのホムンクルス、ご存知でしょうか。人の触覚の鋭敏さを示したものです。人の手とは、繊細で敏感だ」

フォラス   「やめろ、やめろぉ!ああああああああ!!!!!」

ヴァンハーフ「だからこそ、繊細な魔法コントロールも可能になる。世界最強の魔法使いの両腕が不能になる・・・この困難を乗り越えた先に、貴方の新たな叡智が待っていると僕は信じています」

フォラス   「ぐぇお・・・う、うでが・・・あ、あぎぃううううう!ロノウェ、ロノウェえええええええ!!!」

ヴァンハーフ「僕は死の淵から様々な苦難を越え、そうしてヴァンハーフと成りました。ですから義兄さんも、どうかこの試練を越えてください。かつて二人で目指した天上に、ともに参りましょう」

フォラス   「てん、じょう?なん、だ・・・それ」

ヴァンハーフ「人ならざるモノの誕生を見届けに、です。これまでの布石は、そのために打ちました」

フォラス   「まさか、本気で魔龍の復活を!?不可能だ、そんなことが出来るはずがない!」

ヴァンハーフ「不可能と抑えつけてしまうのは、可能性を狭めてしまう行為だ。では、義兄さんにも見せてあげないといけませんね。共に参りましょう――グニタヘイズへ」

 

 

 

イフォニ   「あーあ、止められちゃったな。もうちょっとだったのに」

ベニオット  「どういうつもりなんだ、イフォニ」

イフォニ   「どうもこうもないよ。ただ、どうなるか興味があっただけ。肉親が死んだ原因が目の前にいたら、さぞ怒り狂うだろうって」

ベニオット  「愉快犯というわけではあるまい」

イフォニ   「どうかな。けど、人は己のことしか考えない醜い生き物だって示してみるのも面白いかなって。誰かを救うのも結局は自己満足だろう?そのくせ自分は潔白ですみたいな顔して・・・はは、馬鹿らしいだろ?」

ベニオット  「そりゃ・・・当たり前だ。人は皆自分が生きるために生きている。自己欺瞞と自己満足ばかりかもしれん。だがな、人は自分が生きたいからこそ支え合うんだ」

イフォニ   「自分勝手なのに、群れなきゃなんにもできないなんて」

ベニオット  「お前もだろう」

イフォニ   「どこが。僕は確かにヴァンハーフの端末だよ。だからといって」

ベニオット  「俺が何回、お前に飯を奢ったと思っている」

イフォニ   「・・・そこなの?」

ベニオット  「ああ。俺がいなけりゃ飯も食えんかったことの証明じゃないか。孤独を気取るなよ」

イフォニ   「僕、ベニオットのそういうところ嫌いだ。すぐそうやって――いった!?」

ベニオット  「俺も嫌いだ。だから、今はお前にとっては嫌いであろう俺でいてやる」

イフォニ   「叩いたな!?」

ベニオット  「戦術の一つだぞ、剣の鞘での殴打。たしかにお前のやったことは許されないことだ。だが、お前を殺してなんぞやらん」

イフォニ   「じゃあ、何をする気だよ」

ベニオット  「ん?生かす。お前がこの先何をしようが、どれだけ終わりがほしくなろうが、俺はお前を殺さないし殺させない。何があってもお前を生かしてやる」

イフォニ   「・・・なんで?」

ベニオット  「それが一番お前への嫌がらせになるかと思ってな。俺もお前のやることに一枚噛んでる。一緒に償ってやるさ」

イフォニ   「理由になってない」

ベニオット  「お前、死にたがってたろ」

イフォニ   「は?なんでだよ。言ったろ、僕はただ」

ベニオット  「だったらお前が前に出なくてもよかったはずだ。お前が危険を晒さない方法はいくつもあっただろうに、あえてアニに刺されることを選んだ。最後に忌み言を残して、死ぬのが望みだっただろ」

イフォ二   「じゃあ、その予測があってるとしよう。なんでベニオットは僕を助けた。そこまでする義理、ないだろ」

ベニオット  「あるとも。俺とお前は――友達だからな」

イフォニ   「とも、だち?」

ベニオット  「ん?・・・・・・違ったのか?」

イフォニ   「いや、うん。そうじゃなくてね。何?お前、そんな理由で命張ろうとしたのか」

ベニオット  「ああ。俺はお人よしだからな」

イフォニ   「はぁ・・・お前ってホント馬鹿だよ」

ベニオット  「はははは、誉め言葉だ。ありがとうな」

イフォニ   「もう、いいよ。好きにすれば?・・・最後に一つ、いいかな」

ベニオット 「最後と言わず何度でも言え。お前の我儘は今に始まったことじゃない、もう慣れたもんだ」

イフォニ   「ううん。もう、君に頼るのはやめるよ――よいしょっと」

ベニオット 「おい、何故服を脱ぐ・・・傷だらけだな。お前、これ・・・」

イフォニ   「それは、言いたくないかな。背中、見てほしいんだ。わかる?」

ベニオット 「これは・・・紋章、か。勇者の奴か?」

イフォニ   「魔法陣、だよ。僕がヴァンハーフの端末に成り下がった証。彼に情報を売って、情報を買ってる・・・これ、焼いてくれ」

ベニオット 「は?」

イフォニ   「大した紋章じゃない。ヴァンハーフが初期に作り上げたものだから、消そうと思えば簡単に消せる。焼いたりして術式を潰せば、ね」

ベニオット 「俺に、やれっていうのか」

イフォニ   「嫌な思い、させるね」

べニオット 「どういう、心変わりだと聞いている」

イフォニ    「色々、憎かったんだよ。真っ当に生きられない人もいるってのに、恵まれながら不幸面するやつが嫌いだ」

べニオット  「世界は、お前だけのものじゃないぞ」

イフォニ    「知ってるよ、それくらいーーハルセルを救いたかった。けど、もう届かない。彼女はもう・・・死んだまま戻らない」

べニオット  「それは、どういう意味だ」

イフォニ    「だってもう、ヴァンハーフは研究を続けない」

べニオット   「・・・必要が、なくなったと?」

イフォニ    「飲み込み早いね。そう、もうヴァンハーフは計画を最終段階に移した。ヴァンハーフの研究はそこに辿り着くための手段模索だった。だからもう、あいつはハルセルを蘇らせてくれない」

べニオット  「イフォニ」

イフォニ    「皆まで言わなくていい。だからさ、僕なりの反逆なんだよ。記憶の共有と言ったって、僕の情報は僕が持ってる。あいつはただ見にこれるだけ。だからーーパスを切れば、ヴァンハーフはいくつもの情報を喪う。別にどちらの味方になる気もないけど、これでイーブンにできるだろうってね」

べニオット   「お前は・・・赦せないか?」

イフォニ    「赦せないね。だって僕は人間嫌いだし。でも、あいつの計画が順調に進んだらそれこそ僕は嫌うものも望むものもなくなっちゃうから。だから、君が君臨勇者を止めてくれ。まずはその足がかりに、僕を焼け」

ベニオット  「・・・アホ毛、いいか」

イフォニ   「ベニオットってば、優しいんだからさ」

ベニオット  「・・・・・・やって、くれ」

イフォニ   「あ!?ぐ、うううう!うがあああああああああ!?あ、ああああああああああ!!!」

ベニオット  「っ、もういい!やめろアホ毛!」

イフォニ   「がっ、うぐ・・・あ、ははは。いたい、いたいなぁ・・・そっか、僕にもまだ、痛いと思えるものがあるんだ」

ベニオット  「当たり前だろう。お前は――生きているんだ」

イフォニ   「そっか。僕は、生きてていいのかな・・・あは。ねえベニオット。いい、のかな?」

ベニオット  「お前の生きる意味は、お前が探すものだ。けれど、そうだな。生きちゃいけない命なんて、実のところいないんじゃないのか」

イフォニ   「悪でも、命はあるって?」

ベニオット  「それはそれだ。罪は罪であることに変わりはない。償いを以て、命と罪を切り離すものだ」

イフォニ   「・・・そういう、ことね。ねえ、ベニオット」

ベニオット  「なんだ」

イフォニ   「命と使命も、別物だよ。君ももっとさ、自分の大切なもののために生きてもいいんだ」

ベニオット  「そう、か。そうともいうな」

イフォニ   「ぼくはもう、動けないから。後は頼むね。此処で、君に計画の全容を託す」

ベニオット  「計画、か」

イフォニ   「ヴァンハーフの狂気の源流。とはいっても、彼がやることは始めからはっきりしてる。海路掌握も、数多の実験も、女神信仰へ楔を打ったことも・・・この王都での騒動も、全ては前座だよ」

ベニオット  「あいつは、いったい何を」

イフォニ   「言っただろう?彼が成そうとしているのは、魔龍の復活だ」

ベニオット  「・・・聞かせろ。あいつは、何を企んでいる」

イフォニ   「いいの?魔龍討伐への旅だなんて、それこそ原典の再現になっちゃうけど」

ベニオット  「なればこそ、竜騎士は必要だろう。原典の勇者の剣として、な」

イフォニ   「うん、そういうやつだよな、お前は」

 

 

 

ヴラドニア  「さて、戻らないと・・・ここ、どこかしら。朧気で、霞んで・・・魔力が、足りていないのかしら。気配、が」

ヴァンハーフ「これはこれは、興味深い。ヴラドニアが魔法を行使するとは」

ヴラドニア  「貴方・・・何の用かしら」

ヴァンハーフ「メイカが斃されたと聞いてね。僕としては、彼女を動かして宮廷魔術師を殺害できた時点でもう目的を果たしているんだ。だから、ここは撤退を選ぼうかと思ってね」

ヴラドニア  「相変わらず、悪趣味だこと。何を企んでいるのかしら」

ヴァンハーフ「女神信仰に楔を打つ。今の世界を変えられるのは、今を生きる人間だけだからね。僕はそう思うように駒を動かした」

ヴラドニア  「フォラスを貶め、女神を翳らせ・・・何が狙いなの?」

ヴァンハーフ「僕の目的は、当初話した通りだよ。そのためには、少し世界には荒れてもらう必要がある」

ヴラドニア  「相変わらず、的を得ない言い方ね」

ヴァンハーフ「君の負傷、フォラスの失墜、宮廷魔術師の没落。行動すれば世界を変えられることに、人々はこれから気付くだろう。後は、力だけだ。僕が何のためにメイカの支援をしていたと思う?民衆に安価でばら撒ける『武力』をつくるためだ」

ヴラドニア  「な!?まさ、か」

ヴァンハーフ「溜め込んだ不満は、攻撃的に爆発する。人々は己の不満を解消するために、自分でない他人と力を以て殺し合う」

ヴラドニア  「なんて、ことを!」

ヴァンハーフ「君に、「見せられない」のが残念だ。この蠱毒の殺し合いの果てに、人間は何を掴むだろうね」

ヴラドニア  「待ちなさい、ヴァンハーフ!」

ヴァンハーフ「もう止まらないよ。僕の計画は、あと一歩で完了する。追ってくるならそれでもいい――そうなれば、僕はまだ資格がなかったと言う事だけだ」

ヴラドニア  「させないわ、そんなこと!止めて見せるわ、あなたという悪を討ち果たすのが、私の正義です!」

ヴァンハーフ「それは、興味深いね」

ベニオット  「ヴラドニア!?おまえ、こんなところで一人で何している」

ヴラドニア  「え、一人で?っ、逃げ足の速い男ね」

ベニオット  「気配探知、上手く言ったか?」

ヴラドニア  「フォラスへの根回しなんて、余計な心配を・・・と、言おうと思ったけれど、やめるわ。今回ばかりは助けられたもの」

ベニオット  「なら、いい。行く先はつかめたか?」

ヴラドニア  「ええ。ここで止まってはいられない、そう思っただけよ」

ベニオット  「だが、その魔法は些か魔力消費が大きいようだな。勇者特権で支援しても尚、目に見えて疲弊している。長くは持たないんじゃないか?」

ヴラドニア  「平気よ、まだ視えているもの。ひとまず船に・・・きゃ!?」

ベニオット  「おっとと。平気だなんだとよく言えたな。足元がおぼつかない、転ぶところだったぞ」

ヴラドニア  「っ、歩けるわ。これから、付き合っていかなきゃいけないものよ。いざとなったら、魔力を補給する手だってあるわ」

ベニオット  「全く・・・意固地だな」

ヴラドニア  「へ?ちょ、わわわ!?は?なんで!?なんで!?」

ベニオット  「なんだ、お姫様抱っこの姿勢は不満か?おぶさったほうがいいならそうするぞ」

ヴラドニア  「そうじゃなくて!」

ベニオット  「あのな、お前は一人じゃないんだ。辛い時くらい頼れ。お前くらいなら、このまま船に連れて帰る」

ヴラドニア  「そう、ね・・・なら、お言葉に甘えます。このまま運んでくださいな。よろしくて?」

ベニオット  「ああ。後で紅茶を淹れてやろう。ヴラドニア、どの茶葉が好きだ?」

ヴラドニア  「そうね、アールグレイが飲みたいわ。用意してくださる?」

ベニオット  「ああ、任された」

 

 

 

イフォニ   「人民にとっては希望となるはずの研究発表会は、最悪の形で幕を閉じた。4人の宮廷魔術師、13人の魔法使い見習いが勇者信仰過激派に命を奪われた。血染めのヴラドニアは視力を失い、第一席フォラスは腕を壊されて表舞台から姿を消した。この事件を機に、各地で燻っていた民衆の不満は一気に爆発した。君臨勇者によってばら撒かれた魔法銃が、各地で猛威を振るう事となる。進撃は、止まらない。次に辿り着く場所が原典の勇者一行最後の旅になることを、今は誰も知らない」