​原典の勇者 第7話 -信仰の町 ヒルブデリ / ♀×6 / 嵩音ルイ

○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*

 

 

所要時間:130分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*

◆登場人物◆

オティス 23歳 ♀ 161

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。

顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。

アンドラにより生み出された人造人間。最近朝に弱くなった。

 

アニ 12歳 ♀ 135

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。

好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。既存の枠にとらわれない魔法の扱い方をする。

オティスのためになることは何かを常に考えている。オティスの寝顔を見るのが好き。

 

ヴラドニア 22歳 102

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。

元王女であり、兄の死の真相を追っている。鬼狽羅から受けた呪いの所為で持病が悪化する。

 

シザファン 28歳 ♀ 146

ヒルブデリを統括する神父。亡き師の跡を継ぎ、女神の安寧を世にもたらすために奔走している。

本当は女性だが、「教会の神父」という地位に就くために男装している。

原典の勇者の熱烈なファン。倒錯的な性癖がある。欲に忠実なタイプ。

 

ハルセル 25歳 ♀ 183

シザファンの副官として仕えている、仮面をつけている謎多き女性。

仰々しい口調で物を話し、独特な視点で物を見ている。まるで誰かを思わせるが・・・

かつて将来を誓い合った想い人が居る。だがもうその姿も名前も、その脳内には刻まれていない。

 

ステラ 19歳 ♀ 110

ヒルブデリに住まう町人。

元はフォルレの出身であったが、少し前に移り住んできた。控えめな性格。

女神の寵愛を得るため、そして病気になった弟を救うため、女神への奉仕という建前の労働に勤しむ。

――――――――

役表

 

オティス(♀)・・・

アニ(♀)・・・

ヴラドニア(♀)・・・

シザファン(♀)・・・

ハルセル(♀)・・・

ステラ(♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

〇信仰の町『ヒルブデリ』

 

シザファン 「チチカ神父・・・急に亡くなられてしまうなんて。一体、どうして」

ハルセル  「彼はよき神父だった。民を想い女神を崇め、世界の行く末を見据えていた」

シザファン 「どうして、神父様を連れて行ってしまわれたのですか、女神様!あの人が居ないと、私は!」

ハルセル  「しかし、彼の意志は死んでいないよ」

シザファン 「意志が、死んでいない?それは一体」

ハルセル  「人は、死んでしまうものだ。けどね、その人が遺した言葉、意志、叡智、慈愛。形無きものは、誰かの心に楔のように遺り続けるものだ」

シザファン 「それがある限り、平気だと?」

ハルセル  「死が全て奪ってしまうというわけではない、ということさ。けどね、形無きものとはそれ故に脆いものだ。放置しているだけでは崩れてしまう。だから、神父の遺したものもいつかは消えてしまう」

シザファン 「な!?そ、そんなのだめです!チチカ神父が消えてしまうなんて、そんなことあってはならない!」

ハルセル  「だから、受け継ぐものが必要なんだ。壊してしまわぬよう、消してしまわぬよう。そうして、次の誰かに受け渡せる形にする。そのための、継承者が必要なんだ」

シザファン 「継承者・・・?そんな人、もういないんですよ?」

ハルセル  「一つ間違えてはいけない。君は、一人じゃないよ」

シザファン 「誰もいないじゃないですか!チチカ神父の実子も、一番弟子も後を追うように亡くなってしまわれた!流行り病だなんて、そのような災厄がこのヒルブデリで起こっただけでも大問題というのに!」

ハルセル  「君が、此処にいるだろう」

シザファン 「私が?私、なんかが?」

ハルセル  「君は本来、神父にはなれない立場だったはずだ。しかしこうして椅子が空き、本来その椅子に座るはずだった者も、君を引きずり落とそうとする邪魔者も居ない。女神は信仰者に罰を与えることはない。君に与えられたのは試練さ――君が神父と成るための、ね」

シザファン 「試練?これが、試練だというんですか?」

ハルセル  「そして、此処には私がいる。言ったろう、君は一人じゃないと」

シザファン 「では――貴方は、私の力になってくれるんですか?」

ハルセル  「君がそう望むのならね。策を望めば提示しよう。力が欲しいなら振るってみせよう。私は、もう一人の君だ」

シザファン 「ハルセル・・・心強いです。神父様の侍者であった貴方が力になってくれるのなら、これほど心強いことはない!」

ハルセル  「私の意思は君とともに在ろう、シザファン。君には、その権利がある」

シザファン 「ええ、ええ!それではそうしましょう!この町を救うために。神父様の意思を、ここで潰えさせないために!」

ハルセル  「それでは、ひとまずは流行り病の鎮静化だ。お手並み拝見と行こうじゃないか、シザファン「神父」?」

シザファン 「はい!精一杯、務めさせていただきますとも!」

ハルセル  「はは。まずは、肩の力を抜くことだね」

 

シザファン 「この後、流行り病を鎮静化させることに成功し、私は町民たちに正式に神父として認められた。あの人の意思を忘れない、これが試練だというのなら乗り越えてやる」

 

 

 

ヴラドニア 「けほ、げほ!・・・ごめんなさい、オティスさん。大変な時に、こんな」

オティス  「こればっかりは私の不始末でもあるよ。とにかく今は、治す手段を探さないとね」

ヴラドニア 「ごめんなさい、操舵もやって頂いて・・・不甲斐ないわ」

オティス  「や、それくらいやるよ?ベニオットが無月剣直しに遠出してるけど、それでも今のところ目に余る脅威はない。ヴラドニア様様だよ、ありがとうね」

ヴラドニア 「・・・私にも、何かやれることがあったはずなのに」

オティス  「ヴラドニアはもっと、凛としてるほうが好きだな。早く元気になってね」

ヴラドニア 「けれど、私は・・・ロスタナではなにも、できなかったわ。キバイラに、いいように・・・」

オティス  「そんなことないよ、アニちゃんを守ってくれた。それで――いつから、この病気に?」

ヴラドニア 「私だけじゃ、ないわ。バラド兄様も、お父様も、王族は昔からこの病気に苛まれています。まるで、呪いのように」

オティス  「王族はみんな、なのか。『魔力漏洩症候群(フラウ・ロス・シンドローム)』、厄介だな」

ヴラドニア 「オティスさんもその名称は御存じだったのね」

オティス  「人間の体は、本来魔力を体内に留めておくようにできている。その器官が上手く働かず、体外に勝手に魔力が漏れ出てしまう病気・・・他ならぬ、フラウが患っていた病気だ」

ヴラドニア 「10歳のころから、身体の様子がおかしくなっていったの。息が詰まるようになって、運動するとすぐ息が切れた。そこで、私もこの病気に罹っていると知ったの」

オティス  「魔力不足で、肺に影響が?」

ヴラドニア 「魔力が漏洩すると、魔法を行使する魔力が足りなくなるだけじゃなくて、身体を動かすための魔力も足りなくなるの。私はその影響が、肺に出やすいみたい。兄は、心臓が。父は、消化器官がそれぞれ弱かったの」

オティス  「・・・治せる病気じゃ、ないんだよね」

ヴラドニア 「そもそも、生きていれば魔力は体外に漏れるものなの。魔法を行使するときには大量に放出し、使わないときには最小限に留める。この病気は、この調節機能に不具合が起こってしまう。弁が壊れるようなものね」

オティス  「軽減が精一杯、ってこと?」

ヴラドニア 「オティスさんがキバイラに盛られた薬のように、抑え込む手段がないわけではないの。けどそうしてしまうと魔力を行使できない。それじゃ・・・私は正義を成せなくなってしまう」

オティス  「自己犠牲の正義を称賛するほど、私は温和じゃないよ」

ヴラドニア 「正義の素質が、私にはないってこと?」

オティス  「いやなんでそうなる」

ヴラドニア 「わかっています。私は・・・止まりたくないの。兄を殺した犯人に、裁きを与えるまでは」

オティス  「私はただ、ヴラドニアには元気で生きててほしんだけど」

ヴラドニア 「ふふ、オティスさんにそう言ってもらえるなんて幸せ者ですね。私って」

オティス  「ヴラドニア。このまま、私の前から消えるなんて許さないから。許さないからね!」

ヴラドニア 「勿論です。何とか、しないといけませんね」

オティス  「けど、この病気は・・・回復魔法じゃ、癒せないんだよね」

ヴラドニア 「治療なら・・・ヒルブデリ、でしょうか」

オティス  「ヒルブデリ、か。女神の力を借りるってこと?」

ヴラドニア 「人の手でどうにもできないものなら、女神にどうにかしてもらうしか・・・げほ、げほげほ!」

オティス  「と、とにかく今は休んでて。今は、私たちに任せて」

アニ    「お姉ちゃん、ヴラドニアさんの様子は?ごはん、つくってきたんだけど」

オティス  「うん、そこに置いてあげて――そっか、そういう方法もあるよね」

アニ    「およよ?なんのこと?」

オティス  「アニちゃん、船進めるよ。目的地はヒルブデリだ」

 

 

 

シザファン 「これはこれは。原典の勇者に来訪していただけるとは、恐悦至極です」

オティス  「そんなに畏まらなくていいですよ。ええと、貴方が此処の神父ですか?」

シザファン 「はい。シザファンと申します。以後お見知りおきを」

アニ    「よろしくおねがいしまーす!」

シザファン 「生きているうちにお話できるとは、とても光栄です。復活してからの華々しい戦果、聞き及んでいます」

オティス  「戦果、というと」

シザファン 「悪しき勇者を何人も倒したと。最近では、首無し騎士を討伐されたそうですね。それに、キバイラも退けたと」

オティス  「あー。そ、そうですね」

シザファン 「数々の町を襲い、幾多もの無辜の民を殺してきた首無し騎士の討伐!やはり貴方は素晴らしい。感激しました」

オティス  「そんな・・・高尚なものじゃないですよ」

アニ    「神父さん!首無し騎士さんはね」

オティス  「アニちゃん」

アニ    「けど!」

オティス  「もう、いいんだ。ね?」

シザファン 「あ・・・不躾、でしたか。闘争の中にあるものに目を向けていませんでした。申し訳ありません」

オティス  「いえ、お気になさらず」

ハルセル  「シザファン、この間の少女の件だが・・・と。客が来ていたのか。すまなかったね」

シザファン 「構いませんよ。入ってきなさいハルセル」

オティス  「そちらの方は?」

シザファン 「ハルセル、です。副官として、私のサポートを担ってくれています」

アニ    「おしゃれな仮面さんだ」

ハルセル  「原典の勇者・・・それに、可愛らしい魔法使いだね。歓迎するよ」

シザファン 「それで、この度はどうなされたのですか?観光、という雰囲気ではありませんが」

オティス  「ああ、説明するよ。えっとね」

ヴラドニア 「『女神の癒し』の力を、お貸し願えないかしら」

アニ    「ヴラドニアさん!?もう、話はこっちで進めるから休んでてって言ったのに!」

ヴラドニア 「そういうわけにも行かないわ・・・げほ、げほげほ!く・・・だって、当事者ですもの」

ハルセル  「血染めのヴラドニアか。随分と波長が乱れているようだね。訳ありかな」

ヴラドニア 「自然治癒は望めない病気なの。だから・・・可能かしら」

シザファン 「そう言う事でしたか。病状にも因りますがご安心を。女神さまの力を以てすれば、確実に良くなりますとも」

オティス  「そうか・・・よかったぁ」

シザファン 「その代わり、と言っては何ですが。ええと」

ハルセル  「人間が女神さまの力を借り受けるんだ、どうしても『対価』というものが付きまとう」

オティス  「対価、ね。女神への捧げものってことかな?それなら、使えそうな聖遺物がいくつかあるけど」

シザファン 「儀式用の聖遺物は取り揃えています。そうではなく――お布施、ですね」

オティス  「あー、ふむふむ。そういうことか」

ヴラドニア 「お金なら、あるわ」

ハルセル  「難病を治すとなれば、少なく見積もっても成功のためにはざっと50,000メナは必要になる。どうだろうか」

アニ    「50,000メナ!?うええ・・・お姉ちゃん、お金足りる?」

オティス  「私、全然残ってないな。あって3,000くらい?」

ヴラドニア 「それならば、貯蓄をいくつか切り崩せば払えるわ。オティスさんたちは御心配なさらず」

シザファン 「流石、ですね。それでは、儀式の準備を進めましょうか。調整が必要です、少し付き合っていただけますか、ヴラドニアさん」

ヴラドニア 「私?え、ええ。構わないけれど」

 

 

 

シザファン 「さて、これくらいでしょうか。聖遺物の選定と術式の選択はこれでいいでしょうか」

ヴラドニア 「その聖遺物は、いったい?」

シザファン 「フラウのメイス、です。回復魔法のエキスパートと謳われた僧侶フラウの聖遺物は、病気を癒す儀式と相性がいいんです。その他にもいくつか捧げ物がありますが、何でもいいというわけではなく。だから少し手伝いをお願いしました」

ヴラドニア 「そういう・・・げほ、ごほがほ!ああ、もう」

シザファン 「儀式までには少し時間がかかります。ひとまずは、薬を渡しておきます。少しは楽になるでしょう

ヴラドニア 「ご厚意、ありがとうございます」

シザファン 「あと、ココアを淹れました。どうぞ・・・しかし、思ったよりも深刻ですね。肺がここまで弱ってしまっているとは」

ヴラドニア 「やっぱり、ひどいのかしら」

シザファン 「漏洩している魔力量を計測していますが、勇者特権により得られる魔力よりわずかに多いようですね」

ヴラドニア 「いずれ枯渇してしまうと?」

シザファン 「魔力を得る方法は多岐にわたります。それに、皮肉ながら肺の機能が弱まっていますから、魔力消費もわずかに減っている。辛うじて均衡してはいますね」

ヴラドニア 「治せる、のよね」

シザファン 「勿論。女神さまの力を以てすれば、不可能はありませんよ」

ヴラドニア 「アニさん――仲間の魔法使いが言うには、回復魔法で病気を治すことは出来ないと」

シザファン 「女神さまの癒しの力は、確かに回復魔法と同種のものです。ですが、より高位なものと考えてもらって構いませんよ」

ヴラドニア 「高位、ね。だから人で治せない病気も女神の力なら治せる、と」

シザファン 「はい。そもそも、魔法というもの自体が女神からの授かりものであると我々は考えています。人に扱えるよういくつかグレードダウンして渡された叡智、それが魔法だ。とね」

ヴラドニア 「面白い考察ね」

シザファン 「ひとまず、これで準備は進められそうなのですが・・・その」

ヴラドニア 「―-?なにかしら、妙な顔をして」

シザファン 「もう少し、病状を詳細に見たいのです。服を脱いでもらって構いませんか?」

ヴラドニア 「え、は・・・は!?」

シザファン 「肺の機能障害と言う事ですが、心臓やその他の器官への影響が出ているかもしれませんから。それによってどれだけの規模の儀式が必要なのか決めたいんです」

ヴラドニア 「いや、けど、そのっ!」

シザファン 「ああ、一人では脱げませんか?なら、私が手伝って――と、何故平手打ちを?」

ヴラドニア 「あ、あああああああ当たり前でしょう!血染めのヴラドニアなどと揶揄されていますが、これでも女なのよ!」

シザファン 「・・・はい、もちろん承知の上ですが」

ヴラドニア 「貴方、神父でしょう!?男性に易々と肌を見せるわけがないわ!」

シザファン 「ああ、すみません。そうですよね、普通そう思いますよね」

ヴラドニア 「ええ。ですから・・・って!なんで脱いでるの!?やだ変態!ちょ――っと?あれ、え?下着、着けてる?」

シザファン 「はい。私、実は女なんですよ」

ヴラドニア 「ええ・・・・・・えええええええええええええ!?!?し、神父なのに!?女なの!?」

シザファン 「はい。思想に性別は関係ありませんが、それでも疎んじるものは多い。我々女が政治や宗教に介入することをよく思わない人も沢山いますから」

ヴラドニア 「そ、そうだったのね。どうして、そんなことを?」

シザファン 「恩師の意志を絶やさないためです。教え子の中で、一番素質があるのが私でした。でも女が神父を務めるわけにはいかない。ですから、このような風に」

ヴラドニア 「その、恩師というのは」

シザファン 「4年前に亡くなりました。私が神父を継いだのも、ちょうどその頃です」

ヴラドニア 「ご、ごめんなさい」

シザファン 「構いません、もう決めたことですから。けれど・・・そうですね。この格好を貫くことに、個人的な感情がないといえば嘘になります」

ヴラドニア 「個人的、というと」

シザファン 「男装を始めたのは、このヒルブデリに来て神父見習いになったころからです。そうやって昔からずっと、男を演じてきたからでしょうか。男に対し、恋愛感情を抱くことが出来なくなってしまいまして」

ヴラドニア 「・・・ん?」

シザファン 「ですから、最近は閨を共にするのは専ら女の子なんですよ。僧侶や、町人に声をかけたりしているのですが、どの子も可愛く啼いてくれて・・・とても滾りました」

ヴラドニア 「せ、聖職者がそのような淫らな行為に溺れるのは、御法度じゃなかったかしら?」

シザファン 「突っ込んでいないからセーフですよ。しかし、許されないとなると・・・ふふ。さながら聖職者ならぬ『性』職者、ですかね?」

ヴラドニア 「笑えないのだけれど!?」

シザファン 「おっと、おしゃべりが過ぎましたね。では改めて、病状の確認をしたいのですが宜しいですか」

ヴラドニア 「いやよ」

シザファン 「え、どうして?見ての通り、私は男ではありませんよ」

ヴラドニア 「いーやーよ!貴方、女が性の対象なんでしょう!?余計に嫌よ!見せない!いや!」

シザファン 「あー・・・それもそうですね?」

ヴラドニア 「別の人を呼んでくださるかしら」

シザファン 「そうですね、では修行中の子を呼んできます。少々お待ちください」

ヴラドニア 「まったく・・・女が好きな女だなんて、変わった人もいるものね」

 

 

 

アニ    「おー、おっきな教会・・・まるでお城みたいだね」

オティス  「たしかに、大きいな。なんか私が昔来た頃より育ってないか?」

アニ    「教会って育つの!?」

オティス  「そういうこともあるかもね」

アニ    「すっごーい!女神さまの権威で、教会も育つってことなの?」

オティス  「冗談ですよ」

アニ    「冗談でした!?」

オティス  「とはいえ、女神の権威が形になっているのは確かだよね。この町、魔力が満ちてるからさ」

アニ    「魔力がたくさんあったら、すごいの?」

オティス  「魔法を扱う魔力そのものが、女神からの恵みだっていう考え方もあるみたいでね」

アニ    「ふむふむ・・・よくわかんないけどすごいや!」

オティス  「まあそれくらいでいいと思うよ、うん。ともかく、これなら納得は出来る」

アニ    「ヴラドニアさん、治るかな」

オティス  「女神の慈愛、とかで何とかなるだろうね。ただでさえ魔法が強化されるであろうこの土地で、女神の力を振るえばどうとでもなるだろう。あんまり詳細は知らないんだけど」

アニ    「近くに魔物もいなかったもんね。ゆっくり治してあげられそうだ」

オティス  「病状が病状だから、完治とは言えないかもしれないけど・・・それでも戦えるようにはしてあげたい」

アニ    「ヴラドニアさんは、戦わないといけないのかな」

オティス  「お兄さんを殺した犯人を、突き止めたいんだって言ってた。それが彼女の原動力なら、止めたくない」

アニ    「あたし、怖いんだ。血を吐いて、ぼろぼろになって、それでもヴラドニアさんは壊れた武器を離そうとしなかったんだ」

オティス  「うん、そうだったみたいだね」

アニ    「お姉ちゃんも、ヴラドニアさんも、いつかそうやって戦い続けて、死んじゃうんじゃないかって。そんなの、嫌だ」

オティス  「それは・・・」

アニ    「だから、もう辛い思いをしてほしくないの。わがまま、かな」

オティス  「けどね、立ち止まってしまうことが一番苦しいはずだ。ヴラドニアが正義を掲げるのも、覚悟があったからこそだよ」

アニ    「わかってる、けど」

オティス  「どうしたいか、決めるのはヴラドニアだからさ。どんな選択になろうと、私は味方でいてあげたいな」

アニ    「・・・あたしも、支えてあげたい」

オティス  「いいね。きっと、喜ぶと思うよ」

アニ    「うん!がんばるね!」

ステラ   「ええと、次はネクスさんの家に届け物を・・・あっちだっけ?このメモ、おおざっぱすぎてわかんないな・・・」

オティス  「しばらく時間を潰せって言われたから、ちょっと暇だよね。何してよっか」

アニ    「あそこにカフェあるよ?行ってみる?」

ステラ   「あと10分以内に3軒、か。まわり、きれるかな」

オティス  「いいね。なんか雰囲気も良くて――アニちゃん、危ないよ」

ステラ   「あ、う・・・あれ、なんで私転んで・・・」

アニ    「ほわあああ!?な、なんで!?急に人が倒れてきたよ!?」

ステラ   「あ、ご、ごめんなさい。すぐにどきますから・・・痛っ!?」

オティス  「大丈夫?と、足を怪我してるな。アニちゃん、これ治せる?」

アニ    「どれ?ええと、足首を捻っちゃったのかな?膝も擦りむいてる。これくらいならすぐだよ」

ステラ   「え!?い、いやいやいやいや!結構です!回復魔法なんて、そんな大層なもの、わたしには」

オティス  「けど、歩けないでしょ?」

ステラ   「配達品が、まだ残ってるんです!」

アニ    「配達品ってこの小包のこと?」

ステラ   「時間内に、届けないと・・・その。怒られてしまう、ので」

オティス  「ちょっと見るね。これが地図、か。なんとまあ最低限の情報しかない・・・アニちゃん、探せる?」

アニ    「任せて!サーチを広域に使って、マップつくるから!はいどーーーーーーーーーん!!!」

ステラ   「な、なにを?してるんですか」

アニ    「むむむむ・・・わかった!カフェの隣のお家と、あっちの屋根の赤いお家!」

オティス  「あんまり遠くないね。じゃあ、ぱぱっと行ってくる。アニちゃん、その人見てて」

アニ    「うん!迷子にならないでねー!」

ステラ   「え、えっ!?いや、あの」

アニ    「へーきだよ。お姉ちゃん、ちゃんと届けてくれるはずだよ!」

ステラ   「そ、そうではなく!」

アニ    「それよりも!足、痛いんでしょ。こっち向けて」

ステラ   「け、けど!私は対価を払えません!」

アニ    「そんなのいいから!ほら、いくよ!」

ステラ   「ちょ、ま・・・あ。傷が、治って・・・こ、困ります!治療費なんて、とても払えません!」

アニ    「そういう人もいるのかもしれないけど、あたしは魔法でお金なんて取らない。もう痛くない?他に傷とか無いよね?」

ステラ   「そう、なんですか?ありがとう、ござい・・・ま」

アニ    「おわっとととと!ぐったりしちゃった、どうしたんだろう」

オティス  「アニちゃん。荷物持って行ったよ――なにかあった?」

アニ    「傷を治したら、急にぐでーん!ってなっちゃったの!」

オティス  「どうしたのかな。ともかく、このまま放置は出来ないな」

ステラ   「ダメ、です・・・まだやらなきゃいけないことが」

オティス  「命より仕事のほうが大事なの?言っておくけど、死んだら元も子もないんだからね」

シザファン 「お二方。こんなところに居たんですね。儀式の準備が・・・と?どうかなさいましたか」

オティス  「ああ、倒れちゃったみたいで。どこかで休ませてあげたいんだけど」

シザファン 「倒れた、ですか?この人は――では、教会の横に休憩所があります。そこにベッドもありますから、寝かせておきましょう」

オティス  「わかった。アニちゃん、ちょっとそっち支えて」

アニ    「うん!この人、大丈夫かな?まさか、何か病気とか」

オティス  「心当たりはあるけど・・・どうかな、断言は出来ないな」

 

 

 

シザファン 「お待たせしました。それでは始めましょうか」

ヴラドニア 「ええ。よろしくお願いいたします」

シザファン 「では、この女神像の前に。聖遺物と捧げものはもう用意済みです」

アニ    「結局、幾らになったんだっけ」

オティス  「総額、64,283メナ。宝物庫にあったものをいくつか売ったんだって」

アニ    「ろくま・・・む、無茶苦茶だね?」

シザファン 「メイスを両手で持ってください、少々重たいですが、これを女神さまに向けてください」

ヴラドニア 「女神像に?それじゃ、失礼にならないかしら」

シザファン 「ええ。だから刃の部分を自分に向けて、逆に持ってください。柄を女神さまのほうに向ける形になりますね」

アニ    「刃を自分にって、危なくないの?」

オティス  「忠誠の姿勢なんだ。武器を自分に向けて持って、持ち手を相手に向ける。自分の生殺与奪を相手に任せます、ってことだね」

ヴラドニア 「たしかオティスさんの時代に編み出されたものだったかしら」

オティス  「勇者任命の時にその姿勢やったよ」

ヴラドニア 「では、オティスさんが起源と言う事?未だに王の前や、任命式じゃこの姿勢を取るわ。それ以外じゃ、古臭いって誰もやらないけれど。儀式というなら納得だわ」

オティス  「古臭い・・・ま、300年も経てばそうなるよね」

アニ    「じ、じゃあ!逆に持たなかったらどういう意味になるの?」

オティス  「宣戦布告みたいになっちゃうね、って」

シザファン 「こほん(咳払い)さて、始めましょうか」

ヴラドニア 「ええ、お願いします」

シザファン 「――女神よ、どうか聞き給え!この世を統べる主にして、古の闘争を終わらせた救世の英雄よ!」

オティス  「お。魔法陣が光り始めた」

アニ    「すごい量の魔力が動いてるよ。これが、女神さまの力ってこと?」

シザファン 「今ここに、その慈愛を見せ給え!人には許されぬその力、人々を守りし力をどうかここに!」

アニ    「メイスが、光ってる。すごい、綺麗だ」

シザファン 「ここに傅(かしず)くは救いを求めし貴方様の徒である!このシザファンの名において!この者に安寧を与え給え!」

ヴラドニア 「光が、く――収まった。これで、おわったの?」

シザファン 「はい。ゆっくり息を吸って、吐いてみてください」

ヴラドニア 「すう・・・は・・・あ、楽になった」

オティス  「ほんと?ちゃんと、改善したんだ」

アニ    「よかった!ヴラドニアさん、もう平気なの?」

ヴラドニア 「ええ、そうみたい。心配かけて、ごめんなさいね」

シザファン 「上手く儀式が運びました。ヴラドニアさんの日頃の行いの賜物でしょうか」

オティス  「日頃の?」

アニ    「行い?」

ヴラドニア 「そこでどうして2人揃って首を傾げるのかしら!?」

シザファン 「悪しき者を討つというのは、すなわち女神の意思の遂行でしょう。であれば、女神さまが何か手心を加えてくださってもおかしくはない」

アニ    「そういうものなんだね、女神さまもすごいなぁ」

シザファン 「とはいえ、油断はなさらないでください。止めどなく身体から溢れてしまう魔力を抑えるための弁を締め直したようなものです」

オティス  「身の丈の合わぬ魔力行使を続ければ、また緩むと?」

シザファン 「流石、聡明ですね」

ヴラドニア 「そう・・・やはり、完治とはいきませんでしたか」

シザファン 「肺に関してはほぼ万全の状態になってるかと思いますが、元は『魔力漏洩症候群(フラウ・ロス・シンドローム)』が原因です。考慮はしておいてください」

ヴラドニア 「ええ、気をつけます」

シザファン 「それで、一応経過確認をしておきたいです。一度診せていただいても」

ヴラドニア 「むむむ・・・」

シザファン 「へ、変なことはしませんよ?いや本当に!そんな目をなさらないで!?」

 

 

 

ステラ   「はっ!?ここは・・・私の家、じゃない?いつのまに、こんなところに」

アニ    「あ、起きた!お姉ちゃん、起きたよ!」

オティス  「ほんと?よかったよかった。」

ステラ   「あ、あの。あなた方は一体」

オティス  「オティス、です。教会の休憩所まで運んできたんだ」

ステラ   「・・・そういう、ことですか」

オティス  「倒れた理由は自分でもわかってるんじゃないかな?過労。働きすぎだね」

アニ    「じゃあ、ぐったりしてたのは疲れたからってこと?」

オティス  「それもあるけど、回復魔法って言わば治癒力の増強でしょ?傷を治すこと自体にもわずかなエネルギーを使うんだ。そのわずかなエネルギーが抜けただけでぐったりしちゃうほど、身体がぎりぎりだったってこと」

アニ    「そういうことなんだ。もう、ちゃんと寝なきゃダメなんだよ。ええと・・・」

ステラ   「あ、名前を名乗っていませんでしたね。ステラと申します。ご迷惑をおかけしました」

オティス  「いやいや、いいよこれくらい。気にしないで」

ステラ   「けれど、これくらいやらなきゃダメなんです。そうでもしないと、私は」

オティス  「・・・働き詰めにならなきゃいけないほど、厳しいの?」

ステラ   「はい。弟が、病気に罹ってしまって。女神の力なら、治せるんじゃないかと思ったんです」

アニ    「病気って、どんな?」

ステラ   「もしかしたら、呪いなのかもしれません。体が・・・蔦になっていってるんです」

オティス  「っ!?それ、って」

ステラ   「身体の末端から、捩じれて硬くなっていってるんです。どんどん広がっていって、もう手足の半分以上が変化してしまっています。どうしたらいいのか、もうわからなくて」

オティス  「ちなみに・・・君は、この町の出身なの?」

ステラ   「いえ、フォルレから来ました」

アニ    「フォルレ、って。お姉ちゃん、もしかして」

オティス  「セルナが使ってた呪いの水が?いやけど、そんなことがあり得るのか」

ステラ   「ミュラ神父が捕まって、フォルレはちょっと荒れたんです。ようやく落ち着いてきたと思ったら、今度は一部の町民でこの奇病が蔓延しだしたんです」

アニ    「弟さんだけじゃ、ないの?」

オティス  「井戸に混入したか、何かかな。いずれにせよ薄まった呪いの水を少しずつ摂取して、発現したってことかな」

アニ    「治せないの?」

ステラ   「はい。どんな手段を使っても改善しませんでした。フォルレではもう、全身が完全に蔦になってしまった人もいて」

オティス  「だから、ヒルブデリってことか」

ステラ   「もう、女神さまの力しか頼るものがなくて。けど・・・」

アニ    「けど?」

ステラ   「知っているかと思いますが、女神の力を行使していただくためには相応の捧げものがいるんです。それだけじゃない、ここに居続けるために私と弟の分、奉納金を納めないといけなくて・・・だから、お金がなくちゃいけないんです」

オティス  「捧げもの、か。ヴラドニアを治すのにも必要だったもんね」

アニ    「すごいお金だったもんね。確かに、厳しいかもだ」

ステラ   「神父様の手伝いや荷物や手紙の配達、カフェの店員、裁縫の内職、資料の整理・・・やれる仕事をいくつも掛け持ちしてやってきたんですけど・・・必要額にはまだまだ遠くて」

アニ    「じゃあ、弟さんは治せないの?」

ステラ   「あきらめたくない。けど・・・このままじゃ、いつまで経っても」

ハルセル 「これはこれは。様子を窺いに来たはいいが・・・此処にいたんだね」

ステラ   「ひぃえ!?は、ハルセル様!?」

オティス  「おや。副官様が、どうしてわざわざこんなところに?」

ハルセル 「このヒルブデリを訪れてくれた感謝と歓迎の言葉を授けに――と、いうわけではないよ。そこのベッドの上にいる者に用があるんだ。少し、いいかな」

ステラ   「な・・・なんでしょうか」

ハルセル 「いきなり本題に行ってもいいか。君は、先月分の奉納金をまだ満額納めていなかったね。それに、入信料の支払いも滞っていると聞いたよ」

ステラ   「あ、あれは。必ず納め切るといいました。そのために仕事も増やしたんです」

ハルセル 「いい心構えだね。けど、心掛けだけではいけないよステラ。この程度の労働で倒れてしまうなんて、君にはまだまだ覚悟が足りていない」

ステラ   「そう、かもしれませんけど」

ハルセル 「そろそろ期日だ、今月分の奉納金を支払ってもらおう。未納になっている分には、戒めとして利子も発生する」

ステラ   「な!?き、聞いてませんよそんなの!」

ハルセル 「聞かれなかったからね。理解していたものかと思って説明は省いたんだ」

ステラ   「そんなのずるいです!」

ハルセル 「さて、どうだろうな。確認しておかなかった君の落ち度ではないかな?」

ステラ   「貴方は、いつもそうやって・・・!」

ハルセル 「ヒルブデリにおいて、奉納金制度の運営、及び徴収を任されているのはこのハルセルだ。もう一度聞いておこう。今月分の奉納金と、先月分の未納分に利子をつけて、それから入信費の分割分も合わせて・・・君と弟の分、占めて16,500メナ。今日中に払えるかな」

ステラ   「は・・・え!?」

オティス  「・・・随分と吹っ掛けるんだね。一括で易々と出せる金額じゃないと思うんだけど」

ハルセル 「利子が付くといった。それに、前回の支払いを滞納した結果だ。あまり同じ説明を何度もさせないでほしいね」

オティス  「そりゃどうもすみません」

ステラ   「そんなに払ったら、もう生きていけないです!」

ハルセル 「病気の弟を抱えているから、かい?しかし、そのことを考慮したうえで君には相応な仕事を任せたはずだ」

ステラ   「じゃあ、せめてもっと奉納金を減らしてくれませんか?私が必死に働いて稼げるのが月に10,000メナ。そこから奉納金と利子でほとんど持っていかれて、暮らすためのお金はほとんど残らない。食べていくためのお金も、弟の治療のための50,000メナを貯める余裕もない!これじゃ、いつまで経っても弟の治療なんて出来ないじゃないですか!もう、足も腕もほとんど蔦になってしまったんですよ!?」

ハルセル 「奉納金を減らせ、か。おかしなことを言うね。君は女神に守ってほしいんだろう?ならば、そのために捧げ物をするのは当たり前のことだ」

ステラ   「けど、その所為で生活が出来なくなってしまっては、何の意味もないと思うのです!」

ハルセル 「女神への信仰心が足りないからじゃないか?女神を想い、崇拝していれば、この奉納金が高いとも思わないはずだ。そうでなくとも自身の生活を見直そうと思うはずだ。たとえ、稼ぎのない弟を抱えている分が負担になっているとしてもね」

ステラ   「そんな・・・!」

ハルセル 「それに、忘れてしまったのかな?かつての君は異教徒だったんだ。神父からの特赦でこの町にいられるという事実は、忘れてはいけないよ」

ステラ   「けど、そんなのおかしい!どうして、私だけこんな!」

アニ    「特赦、って?どういうことなの」

ハルセル 「この少女は魔龍信仰が根付いた町から此処に来た。異教から女神信仰に乗り換えるなど、早々ある話でもないからね」

アニ    「そっか、フォルレって・・・けど、ステラさんばっかりが苦しい目に合うのもおかしいよ!」

ハルセル 「女神に縋ろうとしたのはステラだ。私たちは女神の意思の下に動いている。過度な言いがかりはよしてもらおう」

オティス  「だから、無茶苦茶言って金を巻き上げていると?」

ハルセル 「女神さまは差別をしない。此処の町人は皆、相応の奉納金を収めているよ」

オティス  「そういうことね。なんとも、度し難い話だ」

ステラ   「む、無理です!今は手元に5000メナしかありません!これも全部渡したら、明日食べるものも買えない!」

ハルセル 「では――払えない、ということかい?」

ステラ   「お願いします、数日でいいから待ってください!そうすれば」

ハルセル 「そうか・・・残念だ、ステラ。私は君も君の弟くんも、幸せになってほしかったんだがね」

ステラ   「え?それは・・・きゃ!?」

アニ    「ステラさん!?ちょ、どこに連れて行くの!」

オティス  「大通りまで引っ張っていって、おい!何する気だ!」

ハルセル 「ヒルブデリに住まう皆の者、聞くがいい!此処にいるステラは、女神よりも自分のことを大切にする背信者だ!」

ステラ   「な!?ちがう、ちがうちがうちがうちがう!やめてください!」

ハルセル 「女神の寵愛と当然と思い!奉仕を渋る!その最低限の義務さえ放棄し、奉納金を納めることを拒否した!」

ステラ   「違います!私は、そんなつもりじゃありません!」

オティス  「町民が集まって・・・なんだ、何かおかしいぞ」

ハルセル 「皆に問う!女神よりも自分のことを優先するこの者の行いを許すか!許せないか!」

町人A  「女神さまへの感謝も示せないなんて!これだから元異教徒は信用ならないんだ!」

町人B  「そいつを許すな!女神の裁きを与えるべきだ!」

ステラ   「やだ、やめて!違うんです!許してください!!」

ハルセル 「だが、ヒルブデリの町民は君のことを許さないそうだ。ではどうするべきだ?」

町人A  「償いをするべきよ!奉納金を納めないなんてありえない!信者失格よ!」

町人B  「そいつを地下送りにしろ!女神さまに奉仕し、有難みを見直すべきだ!」

ハルセル 「・・・だそうだ。望むには、対価が必要だ。そのことを、よく学ぶんだね」

ステラ   「いや!いやああああああああ!!!!やだ、誰か助けて!!地下になんて行きたくない!」

オティス  「ちょ、ハルセルとやら!」

ハルセル 「・・・何かな」

オティス  「地下、っていったい何なの!?なんでその子はそんなに嫌がってる!」

ハルセル 「君は知らなくてもいいことだ。善良たる女神の徒であるなら、ね」

ステラ   「やだ、やだやだやだやだやだやだぁ!!」

オティス  「彼女を離せ!無茶苦茶言って連れて行って、何をさせる気だ!」

ハルセル 「やれやれ・・・大切な客人だ。あまり手荒な真似はしたくなかったんだが」

オティス  「何を――っ!?な、鎖!?」

ハルセル 「女神の意向に沿わない者を庇うと言う事は、それ即ち、君も同類だと言う事だ」

アニ    「お姉ちゃん!?」

オティス  「こんな鎖・・・あ、あれ。力が」

ハルセル 「君では解くことは出来ないよ。似たようなものを君は知っているはずだ」

オティス  「お前まさか・・・アニちゃん!」

ハルセル 「やめておいたほうがいい、魔法使い。これは、町民の総意で決まったことだ。それに異を唱えたいなら・・・それは、この町全てを敵に回すと言う事だ」

オティス  「な!?く、そ。そういうことか」

アニ    「お姉ちゃん!ハルセルさん!」

オティス  「ダメ、アニちゃん!」

アニ    「どうして!?」

ヴラドニア 「何の騒ぎよ、人が多くて――オティスさん!?」

シザファン 「何がありましたか、ハルセル」

ハルセル  「このステラは、女神の意向に反した。だから、地下に送る。ここの勇者はその者を庇おうとした。だから、ひとまずは大人しくしてもらおうと思ってね」

シザファン 「そうですか・・・残念です。後のことは任せます」

ハルセル  「わかった。よろしく頼むよ」

ヴラドニア 「オティスさん!」

シザファン 「いけませんよ、お二方」

ヴラドニア 「どうしてよ!オティスさんをどこに連れて行く気なの!?」

シザファン 「ひとまず、この騒動を抑えるためです。ここであなた方が事を荒立てては、連れて行く人間が増えてしまう」

アニ    「お姉ちゃんに、何する気なの」

シザファン 「ほとぼりが冷めるまで、こちらで身柄を預かります」

ヴラドニア 「手荒なことは、しないでしょうね」

シザファン 「はい。女神様の名において、約束します」

 

 

ハルセル  「さあ、手を動かすんだね。君はここで、缶詰作りの手伝いをするんだ」

ステラ   「いや・・・」

ハルセル  「肉の捌き方は教えたはずだが、何かわからないことでもあるのかな?」

ステラ   「こんなの・・・こんなのおかしい!こんなこと、女神さまがお許しになるはずが」

ハルセル  「そうだろうか?命を喰らい生き永らえる、それは生命にとっては当然の所業だ」

ステラ   「けど、出来ません。こんな残酷なこと、私には」

ハルセル  「では、君がこうなるかい?」

ステラ   「ひ!?」

ハルセル  「構わないよ。私たちは何も守銭奴なわけではない。女神の意向に沿えない君たちを、矯正するのが役目だ。けどね、見込みがない教徒は、殺してしまったほうが早い。そうだろう?町人1人減ったところで、誰も気に咎めないさ。ましてや、あれほどの騒ぎを起こした君だ。「やはり粛清されたか」としか思わないさ」

ステラ   「う・・・っ、う」

ハルセル  「そうなったら、君の弟はどうなるだろうね。不出来で女神に背いた者の家族。難病を患っているとはいえ容赦はされないだろう」

ステラ   「やめて、やめて!そんなこと聞きたくない、知りたくない!」

ハルセル  「なら、手を動かすことだ。奉納金を払えなかったが、代わりに女神への償いを惜しまなかった。そうなれば、君のことを皆は許してくれる」

ステラ   「け、どっ」

ハルセル  「忘れてしまったかな?ではもう一度やろう。まず、「これ」は前工程で全身の毛を刈り取られたものだ。缶詰をつくるにあたって食べやすいように肉をミンチ状に磨り潰すのだが、その時に邪魔になるものは出来るだけ取り除いておく。ここは、その工程だ」

ステラ   「取り除く、って・・・」

ハルセル  「ここではこうやって内臓を取り除き、器具で頭を切り落とす。空っぽの胴体だけを次の工程に回して、骨を抜かせるんだ」

ステラ   「ぃえ!?内臓が、こんなに」

ハルセル  「内臓は捨ててはいけないよ。これも使うからね。トレーに乗せて胴体とは別のラインに回して――おや」

ステラ   「うえ、おええええええ!あう、うえ。うぷ・・・」

ハルセル  「少し刺激が強かったかな。けど、君の仕事はこれになったんだ。吐いてばかりでは務まらないよ」

ステラ   「ひ、ひぃ・・・や、や!」

ハルセル  「ここで作られた缶詰はね、食料調達が困難な地域に安価で送られる支援物資なんだ。君の捌いた肉で作られた缶詰が数多の命を救うことになる。それ即ち、女神の慈愛の体現と言っても過言ではない。わかるね、ステラ」

ステラ   「だから、ここで私に手を汚せってことですか!?」

ハルセル  「誰かがやらなくてはいけないことだ。だから、君がやるんだ。もう後はないよ、いいね」

 

 

 

オティス  「く!・・・まったく、陰気な牢屋だな。息苦しいんだけど」

シザファン 「我慢なさってください。貴方の両手を拘束しているそれ、君臨勇者考案の「魔の鎖」と似たような素材でできていますから。抵抗はお勧めしません」

オティス  「道理で、身体に力が入らないわけだ。あいつ、面倒なもん広めてくれちゃってさ」

シザファン 「残念です。温厚な関係を築けるはずだったのに、あそこで余計なことをしてしまわなければ」

オティス  「で、どうする気?」

シザファン 「このまま解放してもいいですが・・・そうしたら、貴方はこの先のことを気にして調べてしまうでしょう?」

オティス  「だろうね。あれだけ嫌がるんだ、よっぽどなことやってるんだろ?」

シザファン 「であれば、口封じをさせていただく他ありません。少々、見られると面倒なんですよ」

オティス  「女神に力を授けられた勇者を殺すなんて、女神の信仰者としてどうなのさ」

シザファン 「惑わしとしては及第点ですね。しかし――人間でないものを殺すことに、何を躊躇えと?」

オティス  「っ!?・・・それ、どこで知った」

シザファン 「言うわけないですよね。女神に力を授けられて、ですか・・・くくく、戯言です。女神の徒でないどころか、人間ですらない!そのようなものを殺したところで、私にどのような罰が下るのでしょうね?」

オティス  「はは・・・聖職者の言葉とは思えないな」

シザファン 「なら聖職者らしく、救いの手を差し伸べましょうか。助けて差し上げても構いませんよ。我が協会では免罪符というものを発行しております。これを買っていただければ、その罪は洗い流されます。一律100,000メナ。どうですか?」

オティス  「免罪符?御冗談を、お前にくれてやる金なんて1メナもないよ」

シザファン 「―-ほう?では、慈悲は要らないということでいいんですね?」

オティス  「なんだ、拷問でもするのか?悪いけど、私には」

シザファン 「痛覚がないから痛めつけるのは効かない――知っていますとも。だから、こうしましょうか」

オティス  「何を、っ!?」

シザファン 「傷がたくさんあるけど、綺麗な肌ですね。艶やかで、柔らかい太もも――脚線美って、こういうものを言うんでしょうか」

オティス  「な、ななななななななになになに!?変な手つきで触るな!」

シザファン 「とても綺麗な目です。金色で、まるで人間じゃないみたい。人形のようで・・・興奮する」

オティス  「いや何が――っひあぅ!?」

シザファン 「ぺろ・・・ああ、いいですね。その顔」

オティス  「な、なんで舐めた!?目だよ!?目!」

シザファン 「私、女の子が好きなんですが、中でも目が一番好きなんですよ。綺麗な目を見ると滾って、堪らなくなるんです」

オティス  「は、はえ?そん、あ、は?」

シザファン 「金色の瞳を持つ人なんて、生まれて初めて見ました。貴方を一目見た時から、その目をもっと近くで見たくて、舐めてみたくて・・・欲しくてたまらなくなったんです」

オティス  「・・・ちょっと、何言ってるかわからないんですけど?」

シザファン 「ちゃんと目を開いて、ねえ。堪能させてください(舐める音)」

オティス  「ひ!?いう、あ、あうあ!ふ、うぅ、ぎ!っや、だ!舐め、るな・・・きもち、わるい!」

シザファン 「あーあ、目を背けちゃいけませんよ。ほら、私に体を委ねて?今度は、右目を」

オティス  「っあ、ひゃ、あっ!うえ、にゃ・・・ひ、やぁ!んん、く、う!うぅあ?!や、やめろっていっただろ!」

シザファン 「ぅえ!いった・・・ふふ、足癖が悪いですね、お腹を蹴り飛ばすなんて」

オティス  「うう、ああもう!まじで不快なんだけど!なんなの、見たくないもの見せつけやがって!」

シザファン 「(舌なめずり)――ああ、美味しいですね。泣いてください。涙を流してください!たまらない、稀有な目を持つあなたの目から零れ落ちる涙は、どのような味なのでしょうか?気になります」

オティス  「この、変態が!」

シザファン 「知っています。ああ、泣いていただくためにはまだ足りませんか。もっと、貴方を感じたい」

オティス  「っは・・・や、め!あ、ふああああ!?」

シザファン 「首筋からの、耳。やはり普通の人間と相違ない。此処まで精巧につくるなんて、アンドラは相当の変態ですねぇ・・・はむ」

オティス  「ひぃう!?耳、舐め・・・あぐぅ!やめ、ろ!私はお前の玩具じゃない!」

シザファン 「何を言いますか。玩具ですとも」

オティス  「な、何を言って?」

シザファン 「人のためにつくられたのが、貴方なんでしょう?それに、此処は私の町です。誰を生かすも殺すも、全てが私の掌の上!原典の勇者、なるほど高尚なお方だ。けれど、このヒルブデリでは有象無象と変わりがない――慈悲を拒んだのは貴方です」

オティス  「待っ・・・あ、うあ?え、ちょ・・・え」

シザファン 「いい顔ですね。あと一押し、でしょうか・・・あはぁ。もしかして性感帯も、人間と同じなんですか?」

オティス  「はぁ!?ちょ、洒落にならん洒落にならん!や、待って!」

ハルセル 「・・・シザファン。君の性癖にとやかく言う気はないが、弁えてくれと何度言えばいいのかな」

シザファン 「ハルセル?あのー、見ての通り今いいところなんですよ。邪魔しないでください」

ハルセル 「そういうわけにもいかないよ。そろそろ祈りの時間だ、神父が席を外していては示しがつかないだろう」

シザファン 「え、もうそんな時間になりますか?やれやれ・・・これからだったのに」

オティス  「わ、わけわからん」

シザファン 「また後で、オティスさん。後で貴方の全部、堪能させてくださいね」

ハルセル 「まったく、相変わらず趣味が悪いな。信者や囚人に手を出すなと、言っても聞いてはくれなくてね」

オティス  「助けてくれた、とかじゃないよな。副官様が、なんのつもりだ?」

ハルセル 「私は君に興味はないよ。シザファンが欲に溺れ、堕落するのを止めるのが役目だ」

オティス  「ああ、そうかい。あれもう手遅れじゃないの?」

ハルセル 「しかし・・・君にそこまでの性的魅力があるとは思えないのだがね」

オティス  「それを面と向かって言う??」

ハルセル 「本題に入ろうか。私の計画に君を利用させてもらおうと画策している。私がシザファンに付き従うのも、君を此処に誘導したのもそのためなんだ」

オティス  「目的はなんだ、魔龍に奪われた女神の権威を取り戻したい、とかそんななのか?」

ハルセル 「発想は素晴らしいが、逆だ」

オティス  「・・・ん?逆って何?」

ハルセル 「人々を女神の支配から解放する。私たちが得るべきなのは信仰による依存ではなく、人間の自立と共存だ」

オティス  「女神からの解放!?って・・・まるでどこぞの勇者のような、壮大な絵空事だな」

ハルセル 「いったい誰のことを言っているのか、興味深いね。ともかく、私はその絵空事のために動いている。どうか力を貸してはくれないかな。君を此処で喪失するのは惜しいからね。君も、女神には辛酸を嘗めさせられた立場だろう?」

オティス  「嫌だ、って言ったら?」

ハルセル 「言うまでもないよ、背信者として此処に置いたままにしておく。日の目を見れないまま骨と皮だけになって、いつか誰からも忘れ去られてしまうだろう。もしくは、シザファンに「食べられて」しまうかもしれないね」

オティス  「この町、悪趣味なやつしかいないの?」

ハルセル 「しばらく、食事は持ってきてあげよう。考える余地は欲しいだろうからね、回答はいくらでも待とう」

オティス  「気が変わることはないよ」

ハルセル 「わからないよ。人は、どのようにも成れるものだ」

オティス  「・・・身体と目、拭きたいんだけど」

ハルセル 「後で使いを寄越すよ。それくらいの慈悲は、あるからね」

 

 

 

ヴラドニア 「オティスさん・・・ほとぼりが冷めるまでって、いつなのかしら」

アニ    「もう、騒いでる町民さんもいない。やっぱりおかしいよね」

ヴラドニア 「ゴールデン・ヴェニソン号で待つだけというのも、もやもやするわね。探せそうにないの?サーチとか、使えるかしら」

アニ    「それが、全く引っかからないんだ。お姉ちゃんの波長、微弱には感じるんだけどはっきりしなくて」

ヴラドニア 「サーチにも引っかからないなんてこと、有り得るの?」

アニ    「もしかしたら、波長を乱すものとかがあるのかもしれない。そもそも、空気の中の魔力が濃くて。上手く探せないんだ」

ヴラドニア 「・・・ゆっくりしている暇はないのかもしれないわ」

アニ    「あの神父さん、信頼していいのかわかんないし」

ヴラドニア 「むしろ、引っかかるのはハルセルという副官の方ね。荒事は専ら彼女の仕事のようだったから」

アニ    「魔法も使えるみたいだよ。お姉ちゃんでも振りほどけない、強い鎖」

ヴラドニア 「そう、そういうことね。少し見えてきたわ」

アニ    「ヴラドニアさん・・・?」

ヴラドニア 「オティスさんを返すなんて守られるはずもない約束を、私たちが黙って待つ道理もないと言う事よ」

アニ    「じゃあ、やっぱり」

ヴラドニア 「そうでなくちゃ、わざわざ二人の前で罪のない町人を裁いたりしないでしょう」

アニ    「お姉ちゃんを連れていくために、わざとやったってこと!?」

ヴラドニア 「何を企んでいるかは知らないけれどね。アニさんは、引き続きサーチで辺りの捜索を。私は・・・神父の下に」

アニ    「危ないこと、しちゃだめだよ。病み上がりなんだから」

ヴラドニア 「もう万全よ。アニさんこそ、気をつけて」

 

 

 

ステラ   「・・・終わりましたよ」

オティス  「ありがとう。拭いて貰っといてなんだけど、気持ち悪・・・あいつ、何考えてるんだか」

ステラ   「まだ牢にいるなんて。貴方も、女神の意向に反したんですか?」

オティス  「どう、だろうね。ただ、何かがあるんじゃないかと知りたくなった。君も、気掛かりだったから」

ステラ   「私を?」

オティス  「うん。地下、って多分ここのことだよね。まだ、何かあるんじゃないかな」

ステラ   「じゃあ・・・知らないほうが、いいと思いますよ」

オティス  「どうして?」

ステラ   「ここは、女神に愛される民の町です。そこからはみ出した人に、未来はないんです」

オティス  「早々、反する人はいないだろうに」

ステラ   「そういうものでもありません。私は・・・反するつもりなどなかった。ここでは、お金を払えない者に権利なんてありません」

オティス  「奉納金、とか言ってたね。税金のようなものかと思ってたんだけど」

ステラ   「女神さまのために捧げるお金のことです。初めは住民から少しずつお金を募り、教会の修復や町の運営に充てるお金でした。先代神父、チチカ様が考案した制度で、最初は奉納金という名前ですらなかったそうなんです」

オティス  「・・・シザファン神父か」

ステラ   「正しくは、シザファン神父の副官であるハルセルです。彼女がこの制度を拡大解釈し、町民から金銭を巻き上げ始めました」

オティス  「逆らおうにも、相手の背後には女神の意思ともいえる神父・・・なるほどね、地獄だ」

ステラ   「日に日に請求するお金は増していきました。私がここに来た頃には、町民たちは奉納金を払うことで精一杯になっていました」

オティス  「安寧ばかりじゃない・・・だから、変な雰囲気だったのか」

ステラ   「弟を救うために、此処に来ました。何を間違えてしまったのでしょうか。毎日毎日身を粉にして働いたのに。状況は良くならないどころかどんどん悪化して、とうとう堕ちるところまで堕ちた。何のために私は頑張ったんです?」

オティス  「君は何も間違えちゃいないさ。きっと、この世界が――」

ステラ   「今すぐにでも逃げ出したい。けど、そんな勇気もない。この町全てを敵に回す覚悟もない」

オティス  「そうだったね、まるで君は町民に貶められたように見えた」

ステラ   「悪を見逃すべからず、見ぬふりは悪も同義である・・・だから、この町で安寧を得るにはルールを破った町人の味方をしてはいけない」

オティス  「なんとも・・・効率化されていて気持ちが悪い。この制度考えたやつ絶対性格悪いな」

ステラ   「お互いを見張り合い、監視し合い、足を引っ張り合い、「私が一番女神に尽くしている」ことを示せば、生きるに困らない。時には褒賞が出ることもありますから」

オティス  「逃げられない、というのはそういうこと?」

ステラ   「女神への奉仕を棄てて町から逃げ出せば、それを許してしまった町の者たちが裁かれます。背信者に人としての権利はない、だから逃げる素振りを見せようとした時点で捕まえられ、寄ってたかってなぶり殺しにされるでしょう」

オティス  「・・・そうか。二人が心配だな、変なことをしてなきゃいいけど」

ステラ   「血染めのヴラドニアさん、でしたっけ。彼女なら平気なんじゃないですかね。元王族のお金持ちさんなら、お金も沢山持っている。いざとなったら免罪符も買えるでしょう」

オティス  「ヴラドニアは、どうかな?そんなもの買うか―!って大暴れしそうなところだけど」

ステラ   「・・・いいですね、選ばない自由があって。私は、もう選ぶことも出来なくなったのに」

オティス  「もう、君はどうにもならないの?」

ステラ   「背信者に無駄な資金をかけるほど彼らも愚かではない。もう手遅れです、なにもかも。私の両手はもう汚れてしまった。だから、もういいんです」

オティス  「なにを、させられてるのさ」 

ステラ   「あはは。ヒルブデリ印の缶詰、聞いたことありませんか?材料の解体をやらされています。ふふふふ、刃物で肉を捌いて、不要なものを取り除いて。そうして全部を細かく砕いて、

オティス  「缶詰?そういえば、ロスタナに届いてた缶詰は、ヒルブデリの印がついてたって言ってたな」

ステラ   「食べたこと、あるんですか?」

オティス  「え?いや、私たちは食べてないよ。食料の備蓄は十分だったから」

ステラ   「そう・・・恵まれてるんですね。ではせっかくですから、食べてみますか?」

オティス  「え、でも。支援物資なんじゃないの」

ステラ   「心配ありませんよ。これ、私が捌いた肉が使われてる缶詰1号なんですけど、蓋閉めに失敗したみたいで。捨てるしかないんですけど、勿体ないから食べてくださいな。ほら、ねえ。お腹減ってるでしょう?」

オティス  「強引!?ちょ、待ってってば!今、縛られてるんだから!」

ステラ   「なら食べさせてあげます。ほら、私の頑張りを無駄にしないでください。肉の感触を、香りを、ほら。飲み込んで貴方の命の糧にするんです。ほら、全ての命に感謝しないと。命を頂いてるんですよ?勇者さま!」

オティス  「あぐ、むぐ!ん、むぇ。ごく・・・あんまり、おいしくないような」

ステラ   「大量生産品ですから、味はあんまりよくないんですよ。けど、添加剤がたくさん含まれてますから栄養補給には万全です。元気出ましたか?」

オティス  「今、出た傍から吸われてるからな・・・けど、やっぱり味がいいほうがいいよ。アニちゃんに言えば、美味しくできるかな」

ステラ   「ふふ、ふふふふふふ!いいんじゃないですか?アレンジも時には大事です!お仲間と、たくさん味わってください。なんならあとで在庫を横流ししましょうか?オティスさんに食べていただけるなら、きっと皆本望ですよ!」

オティス  「いや、別に要らないかな・・・それよりも、貧しい人のためのものなら、そうするべきかなって」

ステラ   「・・・薄情な人」

町民A  「おい!さぼってるんじゃないよステラ!作業ほっぽって何してるんだ!?」

ステラ   「ああ、ごめんなさい。今すぐ戻りますね?」

町民A  「さっさとしろ!最悪だよ、なんだって私がこんなところで・・・奉納金はちゃんと納めていたのに、どうして」

ステラ   「うふふふふ。肉を、ざくざく。次の内臓は素直な子がいいですね。散らかるのは、困ります」

 

 

 

シザファン 「ああ、綺麗ですね。これはたしか医者の目でしたか・・・数多の患者を診察し、救ってきた目。堪りませんね」

ハルセル  「こればかりは、何度見ても慣れるものではないね。なんとも悪趣味な部屋だ。どこもかしこも目玉ばかりだね」

シザファン 「ハルセル?このような所まで来るなんて珍しいですね、どうかなさいましたか」

ハルセル  「いいや、大したことじゃない。君のこのコレクションを、しっかり見たことがないと思ってね」

シザファン 「き、興味がおありでしたか!?ではどうぞ!まじまじと!好きなものを好きなだけ見て行ってください!」

ハルセル  「そこまで旺盛ではなかったのだが・・・こうして見ると、なんとも著名な名前が並んでいるな」

シザファン 「そちらはさっきまで私が愛でていたものです!有名な医者でした。腕は確かでした、が効果があるはずもない薬を患者に売り続け、多額の資産を得たことを懺悔してきました」

ハルセル  「これは・・・踊り子のようだが」

シザファン 「彼女はかつて名を馳せた踊り子です。しかし裏では権力者に体を売り、その立ち位置を確立していたそうです」

ハルセル  「これはここで生活していた僧侶のようだが」

シザファン 「よくご存じでしたね。親に連れられてこのヒルブデリを訪れましたが、彼女自身は魔龍を崇めていたんです。加えて見栄もよく、処女でしたから。つい舞い上がりました。そこまでする気はなかったんですが」

ハルセル  「すべて揃えているのかな、これは」

シザファン 「あくまで気に入ったものだけです。世界に素晴らしい目は溢れていますが、キリがないので」

ハルセル  「ここに、今度は誰を加える気なのかな」

シザファン 「無論、原典の勇者です!人造人間の目、気になりませんか?どのような構造になっているのか、どこまで再現されているのか!あの作り物のような美しい黄金の瞳の全貌を、私は見たい」

ハルセル  「原典の勇者を殺してはいけないと、私は言ったはずだが?」

シザファン 「目を刳り貫くだけです。殺しはしませんよ」

ハルセル  「傷つけるのも御法度だ。相変わらず我慢が効かないようだね」

シザファン 「だって、ハルセルは私に体を許してくれない。それに、目も見せてくれないでしょう?」

ハルセル  「だから、他人に手を出し続けていると?」

シザファン 「私は、貴方が欲しいんです。そう思うと、疼いて疼いて仕方がない。収まらないのだから、発散するしかないでしょう」

ハルセル  「そういう協定だったはずだ。君に抱かれることが嫌なわけではないが、神父という立場である以上、あまり欲に溺れさせるわけにも行かない」

シザファン 「・・・この気持ちは、許されないのでしょうか」

ハルセル  「人類とは、多様なものだ。君のようなものが生まれてしまっても、何も不思議じゃあないとは思うよ」

シザファン 「私の歪んだ性癖を知っても、それを向けられても、貴方は「気持ち悪い」と言わなかった・・・それがとても嬉しい」

ハルセル  「だが、まだ応えられない。目的を成すことだね。君が完璧な神父となれば、君のことを揶揄する人もいなくなる」

シザファン 「はい・・・チチカ神父を超える、完璧な神父となってみせます」

ハルセル  「それまで私はお預けだ。人に手をかけるのも程々にしなさい。隠蔽工作も大変なんだ」

シザファン 「善処は、します」

ハルセル  「・・・それで?一番目立つところに置いてあるこれは、誰かな

シザファン 「――チチカ神父です。一番お気に入りなんです」

ハルセル  「緑青色の瞳、か。彼は糸目だったからね、たしかに私も彼の瞳をはっきり見たことはないな」

シザファン 「私も、生きている神父の瞳を直に見たことは実はほとんどありません。ある日、私を褒めてくださるときにその目がちらりと見えました。その瞬間、その瞳の鋭さに私は胸を貫かれました」

ハルセル  「だから、殺して刳り貫いたたと?」

シザファン 「まさか。聖職者である私が殺人に手を染めるなんて、とても出来やしません。何を言うんですか」

ハルセル  「世界には偶然が起こりうるものだ。だから――流行り病で、たまたま神父が死んでも不思議じゃあない」

シザファン 「・・・ハルセル?何を言うのですか。あなたは私の大切な右腕だ。そのようなことを口にすれば」

ハルセル  「私を、裁かなければいけない。そう言いたいのかな」

シザファン 「それに、女神さまは」

ハルセル  「知っているとも。『世に偶然はない、全ては女神が決めた必然である』、そんな標語があったかな・・・悪いが私は無神論者でね」

シザファン 「っ!?ダメです、ハルセル!今すぐ訂正なさい、女神を信仰していないという世迷言を、神父を殺したとも思える妄言を、一刻も早く!」

ハルセル  「余地をくれるのか、優しいね。君が私の命を惜しむのは愛ゆえか・・・それとも、私の目が気になるのかな?」

シザファン 「そ、それは」

ハルセル  「これを外すのはハルセルへの辱めに他ならないのだが。けれど、君がそう望むなら仕方あるまい。見せてあげよう」

シザファン 「ついに、貴方の目を拝む時が・・・・・・は?え、ん?いや。なんで、え?ハルセル――目を、どこへやったのですか?」

ハルセル  「少し訳ありでね。私の目は、かつて「飼い主」に娯楽の一環として抉り取られた。だから目はないんだ。周囲から発せられる目に見えないはずの光を受信し、像を結んでいるんだ。おかげで本来見えない物も見えるようになった。あとは」

シザファン 「そんなことはどうでもいい!ハルセル、私に嘘を吐いたのですか?」

ハルセル  「嘘、とは?」

シザファン 「いつか、貴方の目を拝ませてくれると!私と共に在ってくれると!まるで、これじゃまるで貴方は!」

ハルセル  「察しがいいね。初めから『僕』は、君の味方ではなかったさ――創剣」

シザファン 「っ!?げ、ふ・・・あ、あれ?なんで、刺され?」

ヴラドニア 「ここにいたのね。シザファン神父、オティスさんは・・・神父!?え、どういう状況!?」

ハルセル  「もう、君は必要ない。あくまで私がここに居たのは、研究の為さ。目が無くとも外界で生きる魔法の設計、いずれ起こりうる食糧難に備える為の新食糧の開発、人間が自立して行くために余計なものを棄てさせる策。全て・・・『計画』の為さ」

シザファン 「どう、してっ・・・なんで、なんで!なら、どうして私の補佐になった!私の愛を、愛を!チチカ神父は、まさか本当に」

ハルセル  「ああ、井戸にいれたものと同じ毒を盛らせてもらったよ。信頼している私からのコーヒーを、拒む理由は神父にはなかった。次は実子、次は一番弟子。流行り病という隠れ蓑があったとはいえ、これほどあっさり事が運ぶとは予想外だったがね」

シザファン 「流行り病すら、貴方の茶番だったと?何故、そんなことをした!」

ハルセル  「聞くまでもないだろう、既に完成された指導者よりも、私の言う事を聞いてくれる傀儡の方が都合がいい」

シザファン 「あ・・・っ、あ・・・」

ハルセル  「少々、歪んだ性癖のせいで難儀ではあったがね。それでも想定内だった、君は私が提言するように動いてくれた」

シザファン 「いやだ・・・貴方の口からそんな言葉を聞きたくない!」

ハルセル  「必要なものは全て揃った。さようならだ、シザファン」

シザファン 「ハルセル!待ってくださいハルセル!貴方がいないなんて耐えられない!ハルセルーーー!」

ヴラドニア 「・・・茶番は、終わりということでいいのかしら」

シザファン 「は、はははははは。そんな、そんなことが」

ヴラドニア 「私の病気をひとまず『改善』していただけたことは感謝するわ。けれど・・・こんなこと、許されるわけがないわ」

シザファン 「貴方は、最初から私を見ていなかったんですね。はは、あはははははははは!」

ヴラドニア 「って、嘘!?この状況で逃げるの!?」

シザファン 「ダメです。私には、貴方がいないと!」

ヴラドニア 「く、刺されたのになんであんなに元気なのかしら!鬱陶しいわね、もう!」

 

 

 

アニ     「ハルセルさん、だったよね」

ハルセル  「これはこれは、原典の勇者の随伴者か。名前は・・・アニだったね」

アニ     「探したよ。お姉ちゃんはどこにいるの?」

ハルセル  「教会の裏の地下牢だよ。大人しくしていてもらってる」

アニ     「地下?だからサーチに引っかからなかったのかな・・・行かせては、くれないよね」

ハルセル  「そうだね。かつてオティスは君の為に選択をした。君も、選ぶといい」

アニ     「何を、選ばせるの」

ハルセル  「君は、オティスの為にその手を血で穢す覚悟はあるか?」

アニ     「っな!?」

ハルセル  「ここを通す訳には行かない。私は彼女を籠絡したいからね、どんな手段を使っても必ず落として私のモノにする」

アニ     「止めたければ、貴方を倒せって事?」

ハルセル  「ああ、一ついいことを教えてあげよう。私は人間ではない、とある少女の情報をもとにつくられた人形でね。今のこの私は、虚の器だ」

アニ     「お姉ちゃんと・・・同じってこと?」

ハルセル  「そういうことだ。造りものとはいえ傷付けば血が出るし、行き過ぎれば死ぬ。君は・・・オティスと同じものを殺せるか?」

アニ     「何を・・・企んでいるのかな、ヴァンハーフ」

ハルセル  「ほう――これはこれは。何も考えていないのだと思っていたが、よく見えている。良い目だ」

アニ     「だって、貴方怪しすぎるもの。それに、本当は誤魔化す気なかったんじゃない?」

ハルセル  「シザファンは知らなかったようだがね。あくまで実験の一環だ、やれるかを確かめたくて、やれてしまったのがこれだ」

アニ     「ヒルブデリで、何を企んでるの?」

ハルセル  「参ったね、これは。まだハルセルは『完成』に至っていないんだが」

アニ     「何を企んでいるのか聞いてるんだけど!」

ハルセル  「初めから、「僕」の行動原理は変わらないとも。ひとまず言うとすれば――ここにはいないようだが、ネリネは無事かな」

アニ     「ネリネを?どうして」

ハルセル  「血の繋がりが無いとはいえ、ネリネはヴァンハーフの子供だ。親が娘の無事を願うのは、おかしいことだろうか?」

アニ     「貴方は、ネリネにひどいことをしたよね。竜を植え付けたんでしょ」

ハルセル  「そうだったかな。悪いが、私は独立式端末とでもいうべき存在だ。自我はほとんどヴァンハーフの模倣品だが、記憶は完全ではない。何せ記憶を同期させていない、私の記憶は数年前から分岐しているんだ」

アニ     「じゃあ狙う理由もないじゃない!お姉ちゃんだって、ヴラドニアさんだって!」

ハルセル  「計画に邪魔な要因を排除することに、おかしなところがあるかい?それが本懐だ」

アニ     「そうだね・・・だったら、あたしもそうする。あたしとお姉ちゃんの邪魔をするなら、許さないもん!」

ハルセル  「では――授業の時間だ、未熟な魔法使い。君に、魔法が何たるかを指南してあげよう」

アニ     「お姉ちゃんは返してもらうよ!魔法弾、行け!」

ハルセル  「取り返せるのならそうするといい。穿て、氷の槍」

アニ     「っ!思ってたより硬い・・・このっ!」

ハルセル  「ここは信仰という名の魔力に満ちている。であれば、扱える魔力も増えるという訳だ」

アニ     「当たったら固められちゃう。だったら、炎で融かす!」

ハルセル  「溶かしに来たか。悪いが、邪魔されては困る。融かせぬ氷もあると知れ」

アニ     「負けない!あたしは、お姉ちゃんを助ける!いつまでも守られてばっかりなんて嫌だもん!」

ハルセル  「では、捌いてみせるといい。神を翳らせる666の魔獣よ、吠えろ。『不完全な創生(セブン・ノースターター)』!」

アニ     「っ!氷の雨!?やば、防御が・・・きゃああああああああ!?」

ハルセル  「さて、学んだかな?君如きでは私には届かないよ」

アニ     「ぐ・・・だとしても、勝負に絶対なんてない!」

ハルセル  「左肩と、髪の一部が凍っているようだが。その体で、まだ私に向かってくるか」

アニ     「当たり前だよ!だって私は、お姉ちゃんの仲間だ!」

ハルセル  「ならば、これ以上の御託は要らないだろう。次の一撃で決めてあげよう」

アニ     「まだだよ!こっちも、魔法弾の雨を!数撃てば当たる戦法―!」

ハルセル  「いい攻撃だ。だが、直線的すぎるね。『生を掴む竪琴(ドルフィン・ハープーン)』!」

アニ     「攻撃反射!?そんな、うそでしょ!?」

ハルセル  「最強の矛を迎え撃つのは最強の盾でなくてもいい・・・強奪。矛を奪い、刺し返せば最強だ」

アニ     「うわわわわ!防御、間に合わない!」

ハルセル  「おまけを足しておこうか。不躾故の歪んだ逢瀬、白き河を越えるはただ一度だけ。『轟雷を運搬せし使者(アルタイル・アローボルト)』!」

アニ     「きゃああ!!雷の刃、まるでお姉ちゃんの『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』みたいだ・・・って、杖折れちゃったー!?」

ハルセル  「これで仕舞いだ。女神に見初められし英雄を殺す一射がこれだ。欺瞞に狂え、『盲目故の恋人殺し(デッド・オブ・オライオン)』!」

アニ    (やばい、これ・・・避けられない!考えろ、考えろ!回避はもうだめ。防御も、杖がないから・・・杖がないから、なんだ!お姉ちゃんだって、ヴァンハーフだって杖なしで魔法使ってる。だったら、私だって出来なきゃだめだ!これからお姉ちゃんの背中を追いかけるのに、お姉ちゃんを護るために!出来ることはなんだってやってやる!)

オティス  (いいかいアニちゃん、魔法は何も特別なことじゃない。大切なのはいつだって――イメージだ)

アニ    (考えろ、集中しろ!杖じゃない。手から、指から!魔法をはじき出すイメージを!やらなきゃ死ぬぞ、お姉ちゃんにはもう会えなくなるんだよ!そんなの、絶対に嫌でしょアニ!)

ハルセル  「チェックメイトだ。君は、その程度の魔法使いなんだから」

アニ     「貴方なんかに、負けてたまるかああああああ!防御魔法、最大展開!!!」

ハルセル  「ほう。火事場の馬鹿力か。杖を使わずに、魔法を展開する感覚を咄嗟に掴むとはね」

アニ     「っぐ、ぐううううう!出力が、足りな・・・押し、負ける!」

ハルセル  「慣れぬことをするからそうなる。さあ、そのまま潰れてしまうがいい」

アニ     「しんで、たまるか・・・足りないなら、もっと注げばいいもん!弱いなら、重ねればいいだけだもん!もっと魔力を、もっともっと!アニ式!超防御バリアーーーーーーーー!!!!」

ハルセル  「な・・・防御魔法を強化しただと?私の一撃を防ぎきるとは、やるじゃないか」

アニ     「え、へへへへ。うまく、いった。破れたりだよ!ヴァンハーフ!」

ハルセル  「完全でないとはいえ、力だけでは押し切れないか――やはり紋章1つでは不十分だったか。才のない身体なら少なくとも10は欲しいところだな」

アニ     「防御を抜くには、魔法弾みたいな攻撃じゃだめだ。あの防御を破る・・・貫く一撃を!」

ハルセル  「破れるものなら、破ってみるがいい。編み出したのはバリアーだけかい?守るだけで、何が為せるのか!」

アニ     「魔法弾を圧縮して、尖らせて、針みたいにすれば!アニ式、圧縮ニードル!いっけええええ!」

ハルセル  「何をしようが無駄だよ。幾重に張った防御は――ぐ!?貫かれただと!?」

アニ     「やっぱり!こうすれば貫けるよね!」

ハルセル  「防御と攻撃は、言わば面当たりの魔力の総和が多いほうが勝つ・・・針状に魔法弾を研ぎ澄ませて放てば、面当たりの魔力量は防御壁を上回る。素晴らしいな。片足をやられた」

アニ     「貴方に褒められても、あんまり嬉しくないね」

ハルセル  「これはこれは――とても興味深い。窮地こそ人を成長させる。やはり、計画は間違っていなかった!有難うアニ、君は人類の可能性を示してくれた!そうだ、もっと魅せてくれ!」

アニ     「そこを、通して!ニードルショット!」

ハルセル  「ただ、防御を貫くだけでは及第点も挙げられないよ。手の内を明かしてしまうなら、最初で決めておくべきだった」

アニ     「な・・・打ち消された!?」

ハルセル  「圧縮された攻撃魔法に負けてしまうなら、防御も圧縮すればいい。狭い範囲に防御を集中すれば、相殺は可能だ」

アニ     「そういうこと。あっさりとは、いかないんだね」

ハルセル  「では、今度こそ決めさせてもらおうか。『巨人殺し』なぞ早々起こるものじゃない」

アニ     「それはこっちのセリフだよ!圧縮して、もっと尖らせる!行けえええ!アニ式突破ランス!」

ハルセル  「無駄だと言った。圧縮度合いを変えたところで、防御で相殺すれば・・・な!?」

アニ     「知ってるよ。だから、後ろにもう一発隠してたんだ」

ハルセル  「相殺させて防御を壊し、その隙を狙ったのか。これは、興味深い・・・やられた、か」

アニ     「倒した、の?・・・仮面、壊したら止まるんじゃないかって思ったけど。どうなのかな」

ハルセル  「私の自我は、この頭の中に刻み込まれている。だが、そうだね。感覚補助や魔法制御は、この仮面の役割だった。壊されてしまっては、どうにもならないな」

アニ     「お姉ちゃんは、返してもらうよ」

ハルセル  「もう・・・止める術を私は持たない。君の姿も、意志も、何もわからない。好きにすると良いさ、敗者には何の権利も無いものだ」

アニ     「別の形で会いたかったよ、ハルセルさん。きっと、優しい人だったんだよね」

ハルセル  「どうだろうね。本来のハルセルはもう死んでいる。肉体は、まだ保存してあるが」

アニ     「どうして――その身体をつくったの」

ハルセル  「契約を交わしたんだ。この少女、ハルセルを「生き返らせる」という約束を。これはほんの前段階だったんだ。ヒルブデリならば或いは、と思ったのだが」

アニ     「蘇生魔法を、探しに?・・・っ!?魔力量が下がってる!な、なんで!?体に大きな傷はついてないのに」

ハルセル  「私の魔法の起点がこの仮面であるところまで想像できたこと、それは素晴らしい。だがね、この体自体も魔法で動いていたことは想像できなかったかな?」

アニ     「あ・・・そ、そんな!」

ハルセル  「『全天を統べる器(メアリー・スー・サイド)』、ヴァンハーフの仮面のプロトタイプとなったものだ。身体の機能は、この仮面を喪ったせいで次々停止している。そろそろ、心臓と肺も停止するだろうか。すまないね、イフォニ。叶えられそうに・・・なかった、よ」

アニ     「っ、魔力が消えた・・・イフォニ、さん?って言ってたよね。何の、関係があるのかな」

 

 

 

シザファン 「ハルセル、ハルセル・・・どこですか、どこにいるんですか?貴方がいないと、私は!」

ステラ   「神父?こんなところで何をしているんですか?」

シザファン 「貴方は・・・誰だ?ああ、誰でもいい。少し手を貸しなさい」

ステラ   「普段は此処に近寄りもしないのに。貴方も粛清されたんですか?」

シザファン 「黙りなさい!ハルセルを止めなくてはいけません。どこに行ったのか知っていますか!?」

ステラ   「・・・逃げられたんですか?」

シザファン 「まだ止められるはずです!いいや、止めなくてはいけない!」

ステラ   「ふふふ、まだ分かり合えると思っているんですね」

シザファン 「・・・なんですか、その顔は」

ステラ   「ハルセルがいない。ハルセルが・・・あは、あはははははははは!!!だったら、もう怯えなくていいってことですか!?」

シザファン 「ぐ、あ!?何を・・・ぎあ!」

ステラ   「貴方のことを信頼していました。けど、しきたりを取り仕切るのはいーっつもハルセル!私たちはずーっとハルセルさんに怯えてきました!」

シザファン 「やめなさい!その包丁を、下ろして」

ステラ   「虎の威を借る狐が!私が、どれだけ苦しかったか。どれだけ必死に頑張っても!貴方たちは笑いながら全てを奪っていく!そんなに偉いんですか、人間って!」

シザファン 「が、は!?あ、ぐ!やめ、やめなさい!女神の徒が、こんなことをしている場合じゃ――!」

ステラ   「女神の下でうつつを抜かして、神にでもなったつもりですか?なら思い出させてあげますよ。貴方も、人間なんです」

シザファン 「何を――うわっ!?こ、ここは?」

ステラ   「今の私がいるところが、何かも忘れましたか??ヒルブデリ印の缶詰製造所、そのラインの一つです」

シザファン 「・・・まさか」

ステラ   「ここでー、骨も血も抜いた肉の塊をー、ミンチにしちゃうんですね。うっかり抜けてない小骨があっても止まらないように、結構強めに作られてるらしいですよ?スイッチは――今入れました」

シザファン 「やめ、待って!止め、止めて!貴方には恩赦を与えます!そ、そうだ!家族がいますか!?病気や貧困に困っていますか!?もしそうなら、貴方の家族も救済しましょう!だから、助けて!」

ステラ   「いいですよ、もう。手遅れですし」

シザファン 「いあ、身体が!崩される!やだ、こんなの嫌だ!缶詰になんてなりたくない!誰かの糧になるなんて、いやだ!」

ステラ   「さようなら、神父」

シザファン 「うご、あ!?あしが、からだがくだける!いや、やだ!いたいいたいいたいいたい!こんな、止めて!あ、ごっぎぎっげぐごがぐがえぐおぐあああああああああ!!!!!!?」

ステラ   「あー、汚い。何の処理もしていないお肉なんて、客先に出せませんよね。勿体ない勿体ない」

ヴラドニア 「・・・あなた」

ステラ   「んんー?ああ、血染めのヴラドニアさんじゃないですかぁ。病気治ったんですって?よかったですねえ。羨ましいですねえ。弟は、結局治す機会にたどり着くことさえできなかったのに」

ヴラドニア 「なんてことを、したの?」

ステラ   「さあ?だって死んで当然じゃないですか。ハルセルに盲目になって、民の幸せより女神様ばかりを優先した。神父失格ですよ」

ヴラドニア 「だからといって、このようなこと!」

ステラ   「いいんじゃないですか?だって、ヒルブデリ周辺で死んだ人はみんな同じ仕打ちを受けてきたんです。だったらあの神父もそうやって死ぬべきでしょう」

ヴラドニア 「―-同じ、仕打ち?」

ステラ   「ヒルブデリ印の支援缶詰って知ってますよね?中身はお肉なんですけどね。ヒルブデリの周辺には牧場はおろか、食用の動物が群生している場所もない。あれって、何のお肉なんですかね?」

ヴラドニア 「食用でない動物、ということ?そうね・・・魔物かしら」

ステラ   「あはははははは!模範解答ありがとうございます!たしかに魔物も混ぜますよ?けどね、この地域に――この世界に掃いて捨てるほど多く生息してる生物って、なんですかね?」

ヴラドニア 「・・・まさか」

ステラ   「ヒルブデリって、死者の埋葬も行っているんですよ。効率良いですよね、私も知った時は笑いました」

ヴラドニア 「何を考えているの!?そんな・・・そんなことを!」

ステラ   「口に出すのも憚られますか?そうですよね、そうですよね!知りませんよばーか!私は片棒を担がされただけ!これはヒルブデリが何年も前から行ってたビジネス、資源の有効活用法ですよ!」

ヴラドニア 「なんてことを!それこそ、女神の教えに反するようなものじゃない!」

ステラ   「いや、これが誰かを救ってるんですよ。面白いですよね、これ糾弾して停止させたら、各地の被支援者が大量に餓死するんですよ。それに、オティスさんも美味しく食べていただいて・・・美味しいとは言ってなかったような気がしますね。どうだっけ」

ヴラドニア 「っ!な、あ!?オティスさんに、食べさせたの!?」

ステラ   「おなかが空いているようでしたから。ええ、私が製造に加担した缶詰は今やそこらの有象無象と、オティスさんの血肉になっている。ああ、そう思うと私の行いにも意味はあったんですかね。うれしいなあ、うれしいなあ」

ヴラドニア 「ふざけないで!貴方、わかっていてやったんでしょう?オティスさんに、咎を背負わせるようなことを!」

ステラ   「・・・?命を食らい、生き延びるのが生き物の宿命でしょう?人だけじゃない、この世に生きる生物は誰かの命を奪い生きている。物言わぬ生物はよくて、同類はダメだなんて、それこそ生命に対する冒涜ですよ」

ヴラドニア 「そう。気に食わなかったのね?妬ましかったのね?そんな感情で・・・オティスさんを貶めるなど、赦すわけにはいかないわ」

ステラ   「あはははは!そうしなければ、生きられない人だっているんですよ。どうしようもなくないですか?こんな世界、救う価値あるんですか?私はただ、弟と幸せに暮らせたらそれでよかったんですけど」

ヴラドニア 「そうね、仕方のなかったことかもしれないわ。けれど・・・貴方は、自身の感情だけで神父を惨たらしく殺した。もう、貴方は救えません」

ステラ   「あ、そこですか?ええ。躊躇う理由もありません。血染めのヴラドニアに殺されるなら、それもありかなーとか思ったり?」

ヴラドニア 「つくづく、度し難いわね」

ステラ   「けど、忘れないでくださいな。持たない民の悲しみを。貴方が自分の力で得ていないお金で病気を治す一方で、どれだけ藻掻いても足掻いても、明日を生きたい・・・そんな些末な願いすら叶えられず死ぬ人が居るんです」

ヴラドニア 「知っています」

ステラ   「本当に?知っていて何もしないんですか、立派ですね。貴方も民を顧みるつもりがないと。いいと思いますよ?いつか、足元を掬われなければいいですね」

ヴラドニア 「忠告、感謝します。遺す言葉はもうないかしら」

ステラ   「あーあ、持ってる人って羨ましいな!何でも叶えられて、本当に幸せだな!私はこうやって、袋小路になって死ぬしかなくなったのに!いいないいなぁ!羨ましいなぁ!」

ヴラドニア 「必要悪、などという気はありません。さようなら――フレック」

ステラ   「ああ、これが私がようやく得られたものか!貴方に殺された有象無象の一つに成れる!こんな無常がありますか?あは、あはははははははははは、はぅ!?・・・あ、は。ありがとう・・・ございました」

ヴラドニア 「わかって、いるわよ。だから私も、ここまで足掻いてきたんだから」

 

 

 

オティス  「二人とも、ごめん。迷惑かけたね」

アニ    「ううん、平気だよ。無事でよかった、お姉ちゃん」

ヴラドニア 「アニさん、あれに勝ったんですか?怪我はありませんか?」

アニ    「そこも平気かな。うん、ちょっと肩痛いし、指先も痺れててちょっと違和感あるけど」

オティス  「内出血、起こしてるね。当たり前だよ、まだ体が過度の魔力放出に対応できてないんだから」

アニ    「これくらいなら・・・回復魔法で、治るよ」

オティス  「杖なしで魔法を使うなんて、無茶したね全く。下手すれば指の筋肉や神経が壊れて、後遺症残ったかもしれないんだからね」

アニ    「そんなに危ないことだったの!?」

オティス  「だったよ!?指って繊細な器官だからね?放出される魔力の余波を舐めちゃいけない。出来れば、ちゃんとできるようになるまでは控えること。いいね」

アニ    「はーい。それにしても、ハルセルさんか・・・」

ヴラドニア 「ヴァンハーフの人形、だったと言う事よね。ヒルブデリで何を企んでいたのか」

オティス  「女神信仰を揺らがすことが目的、と言っていた。勇者特権すらあいつの計画の範疇なら、いろいろ繋がるな」

ヴラドニア 「勇者特権という制度を悪用し、勇者という肩書を貶める――ということ?」

オティス  「うん、そうなれば必然的に女神への不信にも繋がる。さらに今回、ヒルブデリなんていう女神信仰の核にも等しい町で神父がこれだけの失態をやらかしてた。確実に揺らぐよね。それこそどこかで戦火が上がってもおかしくない」

アニ    「女神さまを信じないってこと?」

オティス  「救いをもたらさない女神を崇める価値なんてない・・・言うは易し、なんだけどね」

ヴラドニア 「いずれにせよ、これ以上放置することは出来ません。ヴァンハーフ、そろそろ潰さないと」

オティス  「そうだね。それで、ステラさんの家はこのあたりだっけ」

アニ    「うん。弟さんを、どうするつもりなの?」

オティス  「どうするかは・・・ごめん。まだわからない。けど、黙って見過ごすわけにもいかないから」

ヴラドニア 「オティスさん、あまり首を突っ込みすぎるのもよくないわ」

アニ    「お姉ちゃんの気持ちもわかるよ。けど・・・け、ど?」

オティス  「・・・これ、って」

ヴラドニア 「子供が、地面に転がって?まさか」

オティス  「手足が、蔦になるって言ってた・・・間違いない。それに、顔もよく似てる」

アニ    「なんで?ステラさんは諦めてなかった。まだ、死ぬはずじゃないんでしょ?」

ヴラドニア 「間に合わなかった、と言う事?」

オティス  「背信者の烙印を押された人の家族、となれば・・・こうなるかもしれない可能性は考えてた」

アニ    「町民さんに、殺されたってことなの?」

オティス  「ごめん・・・私が、もっと早く・・・」

アニ    「なんで、なんで!おかしい、こんなのおかしいよ!」

ヴラドニア 「アニさん」

アニ    「ひどいよ、まだこんな子供なのに。病気で苦しんできたのに!何で殺されなくちゃいけないの!?」

オティス  「抑えて、アニちゃん」

アニ    「お姉ちゃんは悔しくないの?ロスタナだってそうだった、こんなこと、平気でやる人たちなんて」

オティス  「悔しくないわけないだろ!」

アニ    「っ!?」

オティス  「けど、それだけじゃだめだ。目先ばかりじゃ、ダメだったんだ。流れる血を憂うんじゃなくて、傷口を塞がなくちゃいけないんだ」

アニ    「見ないふりなんて、したくない」

ヴラドニア 「そうではないわ。けどね、人は簡単には変われないの。だから・・・」

オティス  「もう、この町からは出たほうがいいかもね」

ヴラドニア 「では、船の準備をします。アニさんは・・・アニさん?」

アニ    「・・・忘れない、忘れちゃ、いけない。あたしは――私は、人を救う魔法使いになるんだ。もうこんなこと、起こさせちゃいけないんだから」

オティス  「アニちゃん、行くよ」

アニ    「うん、わかった・・・お姉ちゃん」

オティス  「何かな」

アニ    「倒そうね、君臨勇者。絶対に、止めようね」

オティス  「・・・うん、そうだね」