​原典の勇者 第6話 -滅びた町 ロスタナ- /♂×3 ♀×5 / 嵩音ルイ

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所要時間:160分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス 23歳 ♀

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。

顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。

アンドラにより生み出された人造人間。このことを打ち明けてからも周りからの反応が変わらないことに実は安堵している。

 

アニ 12歳 ♀

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。

好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。

オティスのためになることは何かを常に考えている。現在は鬼狽羅に呪いをかけられ、回復魔法が使えない。

 

ベニオット 26歳 ♂

王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。文句なしに優秀なのだが、周りからそう思われないことに少しだけ不満がある。

真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。

パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

ヴラドニア 22歳 ♀

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。

元王女であり、兄の死の真相を追っている。勇者として頼られることに少しだけ高揚している。

 

キバイラ(鬼狽羅) ??歳 ♀

鬼の首魁。原典の時代の人物。

君臨勇者との契約により右腕『国堕とし』を取り戻す。本人さえ知らない術を扱えるようになり、アニに呪いの刻印を植え付けた。

ロスタナまでの道中を「クタン」という少女に化けてやり過ごす。かつて虐殺された仲間の復讐を企む。

 

イフォニ 年齢不詳 ♂

その筋では有名な情報屋。対価さえ積めば有用な情報を明かしてくれる。

童顔で小柄であるうえ、身分を全く明かしておらず謎が多い人物。ヴァンハーフに与している自立型端末。

背が小さいことをかなり気にしており、馬鹿にすると怒る。

 

ネリネ 11歳 ♀

半竜半人の謎の少女。未来の探検家を志しており、隙あらば世界を回ろうと企んでいる。

非常に活発で、年齢にそぐわない力と知識を持ち合わせている。

君臨勇者ヴァンハーフの娘。血のつながりは一切なく、もとは何の変哲もない捨て子だった。

 

リヴェ 19歳 ♂

復興中の集落「ロスタナ」の町長。「ロスタナの悲劇」で唯一生き残ってしまった青年。

温和な性格で、誰に対しても物腰柔らかに接する。魔法の心得もあり、いくつか研究も行っている。

ベニオットの元教え子で、勇者特権を有している。ロスタナ運営のため、資金を求めている。

――――――――

役表

 

オティス(♀)・・・

アニ(♀)・・・

ヴラドニア(♀)・・・

ベニオット(♂)・・・

キバイラ(♀)・・・

イフォニ(♂)・・・

ネリネ(♀)・・・

リヴェ(♂)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

ベニオット 「・・・そうか。わかった」

リヴェ   「ごめんなさい、ベニオットさん。何を為すべきかわからなくなりました」

ベニオット 「お前が気に病むことではない。よく、今まで堪えてきたな」

リヴェ   「正義って何でしょうか。悪って何でしょうか。決めるのは・・・誰なんでしょうか。何を信じればいいか、もう曖昧です」

ベニオット 「自分すら、か?」

リヴェ   「わかっています、止めようがなかったと。どうせ何もできなかったと。けど、だからこそ恨めしい。無力な自分が、諦観した自分が、何より憎くて仕方ないんですよ」

ベニオット 「俺だって、何もできなかったさ」

リヴェ   「あれだけのことが起こってなお、王は何も変えようとしない。部隊の責任者を罷免して責任逃れをし、それで終わったつもりでいます。なんとも、腹立たしい」

ベニオット 「ここが、俺の部屋でよかったな。外かあるいは訓練場ならば今頃、反逆罪でお前の首は縄にくくられるか、剣で切り離されるかだ」

リヴェ   「そうなってもいいとすら思っています」

ベニオット 「・・・死ぬつもりか?」

リヴェ   「死ぬわけにはいきません。生かされた以上、報いるために生きなければなりませんから」

ベニオット 「お前だけが背負うべき咎ではないぞ」

リヴェ   「他の誰かに任せられるものでもありませんよ」

ベニオット 「一度―-広く見渡せ。お前が兵士を辞めることを俺は止めない。色んな世界を見て、知って、それから先を探せばいい」

リヴェ   「ありがとうございます」

ベニオット 「いいか、絶対に間違えるなよ。恨みに身を焦がすのも、疎ましさに溺れるのも絶対に避けろ。そうなったら、もう取り返しがつかない」

リヴェ   「どう、でしょうか。難しいかもしれません」

ベニオット 「迷ったらまた来い。その時は一緒に考えてやる、お前は・・・一人じゃないんだぞ」

リヴェ   「優しいですね。割り切れるでしょうか、僕にも」

ベニオット 「決めるのはお前だ。答えが見つかる事を願っている」

リヴェ   「今まで、ありがとうございました。この御恩は、きっと一生忘れません」

ベニオット 「大袈裟だな。ただの教育係だぞ、俺は」

リヴェ   「それでも、気にかけていただいたことに変わりはありませんから・・・それでは、また」

ベニオット 「お前は優秀だからな。もしまた此処に戻る気になったら、配属先は選び放題だと思うぞ」

リヴェ   「そのときは――ベニオットさんのところにお世話になりたいですね」

ベニオット 「はは、そうか。それは嬉しいな」

 

リヴェ   「一人にとっては悲劇でも、他の誰かにとってはただの紙面上の事象に過ぎない。当事者でない以上は、他人事でしかない。だから、間違えたのは他でもなく自分だったのでしょう」

 

 

 

イフォニ  「さて、この後はヒルブデリだったか。勇者の相手はお金になるからいいんだけど、こうも僻地に来なきゃいけないとなると面倒というか・・・ん?」

ネリネ   「町長さん、この文なのだけれど。「怨恨の炎」じゃなくて「嫉妬の氷」にしたほうが・・・あらら?」

イフォニ  「おっと・・・まさかロスタナなんかで、君と遭遇することになるとはね」

ネリネ   「あらあら!情報屋さんだわ!こんなところで会えるなんて、嬉しいのだわ!」

イフォニ  「ヴァンハーフの子供が、滅びた町でちまちま魔法の手伝いに勤しんでるだなんて。「お父様」が聞いたらどう思うか」

ネリネ   「人は経験からしか学べない、お父様はいつも口癖のように言っていたわ。だからこれも知識として飲み込めばいいの!」

イフォニ  「彼らしい持論だね。まあ、ただの便利屋扱いじゃないからいいんじゃないの。労働は尊いもんだし」

ネリネ   「そういうイフォニさんは何をしに此処に来たのかしら。何か企んでいることでもあるの?」

イフォニ  「ここの町長に情報を売ってただけだよ。僕だけが策を弄したところで、どうにかなるものじゃないし」

ネリネ   「そうなのね、ネリネ勘違いしていたわ。じゃあ、作業に戻ろうかしら。ノルマまであと少しなのだわ」

イフォニ  「何をして・・・ああ、魔法銃の弾丸作成か。また大変なことしてるね」

ネリネ   「そうかしら、簡単だと思うけど」

イフォニ  「魔法的な知識がなければ作れないよ、それ。魔力を宝石に刻み込むって、結構繊細な技術が必要でね」

ネリネ   「魔法が苦手な人でも使えるように、というのが魔道具じゃなかったかしら。魔法銃もその一種だと思ったのだけど」

イフォニ  「火が欲しい時に火を起こせて、暗いところで光を灯せる。それらを魔法を使わず簡単にやれるのが魔道具だよ。使うのは馬鹿でもできるけど、つくるのには勿論魔法の知識がいるんだよね」

ネリネ   「そういうことなの?」

イフォニ  「そういうものだよ。そも、つくるための道具がまだ不十分だ。クズ石から使えるものを選び出して、ヤスリだけで綺麗に成形しろってのがまず難しいよね」

ネリネ   「けど、ネリネはこういう作業も好きなのだわ!それに、そこまで辛くないもの」

イフォニ  「好きこそものの上手なれ、ってやつか。そりゃここまで技術が伸びるわけだ・・・刻む魔法は何か聞いてるの?」

ネリネ   「どんなものを刻めるかを見たいらしいの。だから、ほら。一覧で渡されてるわ」

イフォニ  「どれどれー?10種類をそれぞれ3つ、か。結構骨が折れる作業だね。時間かかったでしょ」

ネリネ   「けど、それで缶詰が追加でもらえるのだわ。だからネリネだけじゃなくて、他の人もやってるわ」

イフォニ  「缶詰?・・・ああ、労働の対価ってことか。上手く考えてるな」

ネリネ   「全ての人に十分な施しを、なんて余裕はロスタナにはないの。かといって見捨てるなんて選択肢も選べない。だから、町の復興に手を貸してくれる人を優先する。それが町長の方針なのだわ」

イフォニ  「働かざるもの食うべからず、か。そんな余裕もないなんて、悪意に殺された町も大変だね」

リヴェ    「さて、今日はここまででしょうか。ネリネさん、そちらは・・・イフォニさん。ここにいたんですか」

イフォニ  「ああ、誰かと思えばリヴェか。研究ご苦労だね、町長様」

ネリネ   「町長さん!この構文だけれど、一部変えたほうがいいんじゃないかと思うの!」

リヴェ    「どれですか?見せてください――ふむ、そうですね。ネリネさんならここを変えますか?」

ネリネ   「そうね、ネリネならこの魔法詠唱なら炎ではなく氷のほうが適しているのだわ」

イフォニ  「『全てを貫く、忘れがたき怨恨の炎をここに』ね・・・これなら炎魔法のままでいいでしょ。むしろ変えるなら『全てを貫く』のほうが・・・」

リヴェ   「イフォニさん、魔法の心得が?」

イフォニ  「え?あ、うーん、ちょっとだけ?周りに使えるやつが多いからさ。知識ついちゃった」

リヴェ   「では、両方試してみましょうか。「怨恨の炎」を変えたものと「全てを貫く」を変えたもの。2種類つくって効果が高い方を突き詰めるのがいいですね」

ネリネ   「はーい!他のものはネリネがこれ全部終わらせたのだわ!褒めてほしいのだわ!えっへん!」

リヴェ    「これは――見事ですね。偏りもなく、刻印も精確。手伝ってくれてありがとうございます。おかげで早く片付きました」

ネリネ   「構わないのだわ!いい経験になったし、とても楽しかったもの。こちらこそありがとうなのだわ」

リヴェ    「弾丸の加工・・・素人には難しいものだとばかり思っていましたが、心得があるとは」

ネリネ   「ネリネのお父様は魔法の研究をしているもの!ネリネも手伝いたいー!って言うんだけれど、簡単な作業しかやらせてもらえないの!これも、そのうちの一つだったのだわ」

リヴェ    「簡単な作業ばかり割り振られた結果、弾丸加工が得意になったと・・・人生は何があるかわかりませんね」

ネリネ   「ひどいと思わないかしら?ネリネはもっと、新魔法の開発とか術式の最適化とか、魔法そのものの研究をしたいのに」

リヴェ    「親心としては、危険なことをしてほしくないのでしょう」

ネリネ   「危険に身を晒さずして得られる学びだなんて矮小なものだわ!人は、経験しなければ学べないのよ!」

リヴェ    「なんにせよ、助かりました。改良の研究が円滑に進められそうです」

ネリネ   「こんなに弾ばかり作って、どうするの?撃つのかしら」

リヴェ    「勿論使うためにつくるんですよ。魔法銃は魔法の心得がないものでも簡単に魔法を使えるように開発されたものです。なので、より高い性能が求められています」

ネリネ   「ふむふむ、そうなのね!」

リヴェ    「破壊を目的とした衝撃弾でも、属性魔法を込めた属性弾でも、同じです。ですから銃そのものよりも、弾丸を良くしたほうが効用が大きい。ひとまずはそれが当面の目標です」

ネリネ   「じゃあ、文字を刻んでしまったネリネに手伝えることはもうないのかしら」

リヴェ    「そうですね。ここから先はこちらがやることが主ですから」

ネリネ   「ネリネ、仕事した?ネリネ、町長さんの役に立ったかしら?」

リヴェ    「ええ、ありがとうございました。それでは報酬を差し上げましょう」

ネリネ   「やったー!缶詰なのだわ!どれ?どれを頂いてもいいのかしら!」

リヴェ    「フルーツであれば一缶、それ以外であれば二缶です。あるものをお好きなようにどうぞ」

ネリネ   「じゃあ、これと・・・もう一つこれ!いいかしら?」

リヴェ    「加工肉の缶詰二つ、ですか。構いませんが、それでいいんですか?一番安価なものですよ」

イフォニ  「安価なんだ。これ一個でいくらくらい?」

リヴェ    「10メナです」

イフォニ  「え!?やっっっっすいね!?え、逆に大丈夫なの?変なもの入ってたりしないよね?」

リヴェ    「栄養に関しては必要な成分を配合して作ってるそうなので、問題ありませんよ。一日一個で万事解決です」

イフォニ  「僕が心配してるのそこじゃない」

リヴェ    「素材も心配はいらないと思いますよ、ヒルブデリから送られてきたものですから」

イフォニ  「ヒルブデリから・・・なら、いいか。でも味って重要じゃないかな?けっこうマズそうだけど」

ネリネ   「ネリネはこれが好きなの!いろんなものを食べるのが好きだけど、ネリネ的にはお肉が一番なの!」

イフォニ  「これが、僕の町にもあればなあ。時代は変わってくもんだな」

ネリネ   「世界は革新とともにあるものだわ。それでは、いただきまーす!」

イフォニ  「あれ?缶切りとかいらないの・・・ってぇ!?あ、あえええええ!?ちょ、ほんとに言ってんの!?はぁ!?」

リヴェ    「ははは、一ヶ月前が懐かしいですね。ロスタナに流れ着いた貴方に初めて缶詰を渡した時のことを」

ネリネ   「むしゃむしゃ!ばりばり!むむむ?どうかしたの、町長さん」

リヴェ    「いいえ。缶詰を開けずにそのまま食べる人もいるんだなと再認識しているだけです。変わりませんね貴方は。どういう顎と歯なら缶詰ごと中身を咀嚼できるのか」

イフォニ  「う、うそでしょ!?缶詰って金属で出来てるんだよ?それを噛み砕くなんて・・・うええええ、い、痛くないの?想像したくないんだけど」

リヴェ    「顎が強靭らしいんですよ。パイナップルをそのまま丸かじりしたこともあるらしいです」

イフォニ  「万力かなにかなの?口の中血まみれにならないんだ、人間なのによくやれるね」

ネリネ   「町長さんも、今日はもうお仕事は終わりなの?」

リヴェ    「そうですね、もう消灯時間です。やれることもありませんから、テントに帰ってお休みになってください」

ネリネ   「はーい!それじゃ、ネリネはもう寝るのだわ!」

リヴェ    「イフォニさんは、どのように?」

イフォニ  「んー、僕も寝るよ。集会場の寝床借りていいんだよね?じゃあ、またね」

リヴェ    「はい、それでは・・・ふう、月日が経つのは早いですね。明日には、『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』が、護衛として血染めのヴラドニアを引き連れてやってくる。ミスは出来ない。ええ、間違えてはいけませんよ、リヴェ」

 

 

 

アニ    「あ。お姉ちゃん起きてきた。おはよう」

オティス  「んー、おはようアニちゃん。よく眠れた?」

アニ    「うん!朝ごはんつくったよ。サンドイッチと、ヴラドニアさんがくれたコーヒー」

オティス  「わあ、頂くね!もぐ・・・うんうん、やっぱりおいしいなぁ。早起きして作ってくれたの?ありがとう」

アニ    「あたし、起きたのいつもの時間だよ。お姉ちゃんがゆっくり寝てただけ」

オティス  「あえ、ほんとに?・・・ほんとだ」

アニ    「あとクタンさんからお薬いくつか預かってるよ。飲んどいてね」

オティス  「はーい。薬って苦手なんだよね、変な味するし」

アニ    「けど、良薬は口に苦しっていうよ」

オティス  「効くとわかってても、苦いのムカつくんだよね。ていうか私、この時間まで一回も起きなかったの?」

アニ    「起きなかったよ。お姉ちゃん、ガープ大橋以来ゆっくり寝ること多くなったね」

オティス  「うーん、なんだろう。なんかつい寝すぎちゃうや。起こしてくれてよかったんだよ」

アニ    「怪我まだ治ってないんだからゆっくり休んでてよ。それに、お姉ちゃんの心地よさそうな寝顔見てると起こせなくてさ」

オティス  「え、ええ!?なんか堪能されてた!?見ててそんなに面白いものでもないでしょうに」

アニ    「ううん。こういうの、なんかいいな。前は、あたしが起きるころにはもうお姉ちゃん起きてたからさ」

オティス  「そうだったね――寂しかった?」

アニ    「ちょっとだけ寂しかったかな。けど、お姉ちゃんもそうだったんだよね」

オティス  「え?あー、その。なんだ。あれ蒸し返されるの結構恥ずかしいんだけど」

アニ    「あたしは嬉しかったよ?失いたくないとか、一人にしないで、とか。いろいろ言ってくれたから」

オティス  「そ、そんなこと言ってたの私?」

アニ    「言ってた。お姉ちゃんもちゃんと人間なんだって安心した。あたしのこと大切にしてくれてるんだって感じた。嬉しかったよ」

オティス  「わ?わ、わー!わー!やめてってば!もう!アニちゃんの意地悪!」

アニ    「ふふ、わたわたしてるお姉ちゃんってなんか新鮮」

オティス  「もしかしなくてもアニちゃんって結構サドだな?サドなんだな??」

アニ    「そうかな?あたしそういうのわかんな~い」

オティス  「惚けちゃって、まったく・・・けど、気が楽なのは確かだね。ヴラドニアがいるからかな」

アニ    「え?あーそっか。見張りやらなくてもいいからってこと?」

オティス  「道理でみんな、宿屋に泊まりたがるわけだよ。神経張りつめてなくていいから、安心して休めるんだね」

アニ    「こういう時はゆっくりしたいもん。休めるときにしっかり休む!それが大事だって、お父さんも言ってた」

オティス  「今まではそれが当たり前だったから気にもしてなかったけど・・・野宿に戻れるかな、私」

アニ    「戻らなくていいんじゃない?あっそうだ、髪の毛やってあげ――あ。切っちゃったから、結ばなくていいんだっけ」

オティス  「んえ?うん、伸びては来てるけど結んだりするのはまだダメかな。まだ慣れないよね、わかるわかる」

アニ    「・・・ごめんね。あたしを助けに来たから、だよね」

オティス  「アニちゃんが攫われてなくても、戦うことにはなったよ。人生にもしもはないし、結果はきっと同じなんだと思う。あれは、私が倒さなくちゃいけなかったんだ」

アニ    「けど、綺麗な髪だったし」

オティス  「それに短いのも結構楽でさ。洗うの簡単だし、頭も軽いし。だから、そんな顔しないで」

アニ    「んん、わかった」

オティス  「ていうか、そんなこと言うならアニちゃんもそうでしょ。お腹の傷はもういいの?」

アニ    「あ・・・そうだった。もう痛みも大分引いてきたし、昨日糸も抜いたから意識してなかった」

オティス  「もう引っ付いたの?早いね。跡は、残るのかな」

アニ    「周りを焼かれちゃったし、傷の処置も遅れたから。残っちゃうだろうって言われた」

オティス  「残る、のか・・・もうちょっと、私が早く駆け付けられたらな」

アニ    「謝らないでよお姉ちゃん。一緒に旅をするって決めてから、あたしはこうなることも覚悟してたよ」

オティス  「うん。次は、絶対に守る。もうアニちゃんに、苦しい思いはさせないから」

アニ    「有難うお姉ちゃん。じゃあ、約束。このミサンガに誓ってほしいな」

オティス  「ミサンガ、って?ああ、完成してたんだ!有難うアニちゃん、大変だったでしょ?」

アニ    「編むのは、そんなに。むしろ材料を用意するのが大変だったかな。丈夫な糸にしたくて、ベニオットさんとかヴラドニアさんに色々聞いて、集めるの手伝ってもらったりしたんだ」

オティス  「うん、大切にするよ。巻いて巻いて。右手がいいな」

アニ    「いいよ~。へへん、おまじないもかけたんだ。だから、これはあたしとお姉ちゃんだけのものなの!」

オティス  「おまじない?どんなの?」

アニ    「な、い、しょ!」

オティス  「え、ええ!?教えてくれないの!?」

アニ    「あたしだけの秘密だも~ん!ほらお姉ちゃん、ロスタナ着いたみたいだよ。行こう」

オティス  「はぐらかされた!ええすごい気になるんだけど・・・あ、歩行用の補助器具付けないと。こうして板を当てて、ベルトで脛を固定して、っと。よし、これで歩ける」

アニ    「足の骨まだ完全に引っ付いてないんだから。無理しないでね」

オティス  「過激なことはしないよ。全身の傷も、大きなものはまだ糸抜けてないし」

アニ    「およ、もうみんな荷物おろしてる。救援に来てるっていったけど、ここで暮らしてる人がいるってことだよね」

オティス  「そうだよね。かなり時間は経つけど、回復してきてるのかな」

リヴェ   「町としての機能は、まだ回復しきっていません。当事者にとって、時間の流れというものはとても緩やかなものですから」

オティス  「うわ!?っと、びっくりした・・・貴方がここの町長、ってところでいいのかな」

リヴェ   「はい。ロスタナの町長を務めております、リヴェと申します。よろしくお願いいたします」

オティス  「よろしく。それにしても、随分とお若い」

リヴェ   「歳は関係ありません。やるべきと思ったから此処にいる、それだけのことです」

オティス  「そう、ですか。それで、『(「)境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』からの支援物資だけど、どこに置けば?」

リヴェ   「倉庫がいくつかありますので、そこに運んでいただければ。それで、その・・・」

オティス  「ん?どうかしましたか?」

リヴェ   「貴方が血染めのヴラドニア、ということでよろしいんでしょうか」

オティス  「は・・・そう見える、のかな?私だよ?」

アニ    「わかんない人はわかんないと思うよ、そりゃ」

リヴェ   「あれ?違ったんですか」

オティス  「オティスです。こっちの可愛いのがアニ。ヴラドニアはまだ、船から降りてきてないみたいで」

アニ    「その紹介のされ方久し振りだ」

リヴェ   「オティス――ああ!原典の勇者でしたか。それならば納得です。綺麗な方でしたから、てっきり貴方がそうなのかと」

オティス  「あ、え、そうです?あはは・・・褒められちゃったよアニちゃん」

アニ    「およ?お姉ちゃんは綺麗だよ」

オティス  「連続攻撃やめて」

リヴェ   「しかし、かの原典でもそれほどの傷を負うことがあるのですね」

オティス  「ちょっと強敵にぶち当たりまして。何とか命は拾ったけどこのザマです」

リヴェ   「そうですか・・・勇者といえど、人間なのですね」

オティス  「諸々の事情はありますけど、ちゃんと人間ですとも。そーんなこと言うなら、君もそうだろうに。ねえ、勇者特権者さん?」

リヴェ   「――見抜かれていましたか。流石の慧眼です」

アニ    「ふぇ?え、あ!ほんとだ!紋章の波長!町長さんも勇者さまだったの!?」

リヴェ   「良くも悪くも、不穏な時代ですから。抑止力がなくては、大切なものも守れません」

オティス  「・・・それ、本物?」

リヴェ   「当然です。何なら、特権を得た時の証書でも持ってきましょうか」

オティス  「や、それならいいんだ。最近は紋章の横流しも横行してるだろ。だから気になって」

リヴェ   「横流し、ですか。そういうこともありますね。ともかく、これは無関係です」

アニ    「勇者なのに、町長になったの?」

リヴェ   「逆ですよ。町長としての責務を全うするため、勇者になりました」

オティス  「ロスタナに、そこまでの思い入れがあると」

リヴェ   「ええ。ロスタナの悲劇は、御存じでしょうか。あれで生き残ってしまった人間なんです。両親も姉も友も、皆死にました」

アニ    「ロスタナの・・・悲劇?」

リヴェ   「この町をかつてのように繁栄させる。それが、死んでしまった人たちへの報いになるんじゃないかと」

オティス  「君は、そっか。あの悲劇で生き残ったのか」

リヴェ   「その場に、いなかっただけです。と、申し訳ありません、暗い話になりました」

オティス  「あ、いえいえ!こちらこそ、配慮が足りなかった」

リヴェ   「このままヴラドニアさんを待つのも手持ち無沙汰ですから、先に荷卸しを始めておきましょう。協力していただけますか?」

アニ    「はーい!がんばるぞー!」

リヴェ   「クタンが積み荷のリストを持ってくると思うので、積み荷の確認をしてください。それと馬車ですが」

アニ    「あ、クタンさんがこっちに来てる。おーいクタンさん!こっちだよこっちー!」

キバイラ  「ああ、わかっとうよ?今、行くさかいな」

オティス  「ん、何だ?クタンの輪郭がぼやけて・・・っ!?な、お前――!」

 

 

 

ベニオット  「起きてるか。もう着いたぞ、おい。舵取りを人に遣らせといてお前はまだ寝てるのか?いいご身分だなヴラドニア。おーい!ヴ~ラ~ド~ニ~ア~!はぁ、ぐっすり寝てやがるな・・・ったく、入るぞ」

ヴラドニア 「んん、すや・・・あ、う・・・」

ベニオット  「めちゃめちゃ寝てる。まったく――って、ん?」

ヴラドニア 「う、うう・・・ちがう、ちがう、の・・・わたしは、正義で。あなたたちを、ころしたのは――ちがう。わたし、じゃ」

ベニオット  「魘されてるのか?おい、起きろヴラドニア。ヴラドニア!おい!」

ヴラドニア 「ううん?ん・・・うぅ?ベニオット・・・ベニオット!?や、やあああああ!ヘンタ―イ!!」

ベニオット  「ぼふ!?う、お。お前な、枕投げつけることはないだろう!うわもう一個飛んできた!なんだ、せっかく起しに来てやったのに」

ヴラドニア 「あああああ、貴方ね!レディの寝室に許可なく入ってくるだなんて!この野蛮人!痴漢!何考えてるのよ!」

ベニオット  「いやどうしてそんな言い草になる。お前もこの間勝手に入ってきただろう。文句あるのか」

ヴラドニア 「普通に考えて逆はダメでしょう!?」

ベニオット  「いやそもそもどっちの場合でもダメだろ。オティスもアニも下の馬車に居るから、俺が来るしかなかったんだ」

ヴラドニア 「むむむ、そう、だけれど。けれど!」

ベニオット  「まったく、起こしに来て損した・・・お前、魘されていたぞ」

ヴラドニア 「え。魘されて、ましたか?私が?」

ベニオット  「お前もオティスも抱え込んでばかりだな。人に「背負い込むな」とは言えるのに、不器用なことこの上ない・・・堪えるよな。たとえ相手が明確な悪だとしても、人を手にかけるというのは」

ヴラドニア 「五月蠅いわね。私は血染めのヴラドニア、そのようなことで心を乱されるほど弱くはありませんわ」

ベニオット  「その宣言が既に、はいそうですって返事みたいなもんだが?」

ヴラドニア 「うぐ。なんというか、貴方も貴方で遠慮がないわよね」

ベニオット  「言い回しに気を遣ったら、それに甘えてそのままにするだろ。是正してやろうという強情さはないが、かといってそのままにするほどお人好しでもないだけだ」

ヴラドニア 「あら、そう・・・それで?何の用かしら。早く出て行ってほしいのだけれど」

ベニオット  「用も何も、ロスタナに着いたから呼びに来た。ちゃんと起きろと言ったお前が寝てるって何だ」

ヴラドニア 「え?あれ、もう着いたの?ごめんなさい、今準備するから――」

アニ     「きゃああああああああああああ!?」

ベニオット  「っ!?今の・・・なんだ」

ヴラドニア 「アニさんの声、よね?下から聞こえてきたけれど・・・な、何かあったのかしら!行かないと!」

ベニオット  「いやお前、着替えてからにしろよ!?その寝巻で外に出るつもりか?」

ヴラドニア 「あ・・・・・・で、でてけー!ベニオットのばかー!」

ベニオット  「うわっ! ちょ枕・・・っ! 何個あるんだ!おい・・・と、ちっ、何があったんだ?」

ヴラドニア 「先に向かってください!着替えてから行くわ!」

ベニオット  「わかった! まったく!次から次へとトラブルを持ってくるよな!疫病神は誰なんだか!」

 

 

 

キバイラ  「あらあら、そんなに慌ててしもうてかわええな?そないに驚いてもらえたんなら、やった甲斐あったなあ」

アニ    「キバ、イラ・・・いっ!?傷、が。いたい」

オティス  「くそ、ここで奇襲をかけてくるとはね!」

キバイラ  「やる気は十分みたいやけど、ちいとは考えや?全快しとらんあんさんなんぞ脅威やあらへんわ」

オティス  「うるさいな!わざわざ顔見せにきやがって、この悪趣味野郎が!いつからだ、いつからお前がクタンだったんだ!」

キバイラ  「そんなもん最初からや。あんさんらが非営利医療団体のトップやと思うてたクタンちゃんは、うちが成りすました偽物やったわけや!」

オティス  「ああそうかい、本当にしてやられたよ。まさかここまで大事に護衛してきたものがお前だったなんてな!まったく、悪夢もいいところだ!」

キバイラ  「ここまでだーいじに護ってくれておおきに。楽して此処まで来れた、おかげで絶好調やわ」

アニ    「クタンさんがキバイラで、キバイラがクタンさん!?え、なに、どういうこと?」

キバイラ  「人間が生きていくにあたって、感覚に頼るもんは多い。特に視力は感覚の8割を占めると言われるほど大事なもんや。故に不具合もよく起こる。見間違いなん、よくある話やろ?もし仮にうっかりうちのことをクタンちゃんやと見間違うても、気付く術なんあらへんわな」

オティス  「認識阻害――あるいは誤認か。目ではお前だとわかってたのに、頭ではクタンだと認識して処理された・・・道理で記憶の中にあったはずのクタンの姿が思い出せないわけだ」

アニ    「そんな、とんでもない呪いを簡単に使うなんて」

キバイラ  「黒騎士に落とされ、現世にて解き放たれたうちん右腕は、もはや一つの兵器と化した!呪腕『国堕とし』、どや?まだまだ味わってみたいやろ?」

オティス  「お遊びも大概にしろよ、1秒でも長く生きたいんならな!」

キバイラ  「おお、こわいこわい。クタンとしての役目を果たしすぎたかもな」

オティス  「デュラハンけしかけて楽しかったか?お前はいつも命を弄ぶ、それが許せないんだよ!」

キバイラ  「嬉しかったやろ?愛しい愛しい仲間に会えて!打ち合えて楽しかったやろ、白星を勝ち取れて!ほら、感謝してや」

オティス  「それに、アニちゃんのことも!」

キバイラ  「『反転(はんてん)・神毒鬼便(しんどくきべん)』のことか?健気な顔が可愛らしかったで?大事にされてきたんやなあ、傷一つない絹のような綺麗な肌やったよ。そないな肢体に刃突き立てて血を啜って――滾ってしゃあなかったわ。アニちゃんの血、美味しかったよ?」

オティス  「はははは・・・殺す」

キバイラ  「そりゃお門違いとちゃうか?あんさんがちゃんと守らんかったんやろうが。うちはただ、デュラハンが攫ってきたところに居合わせただけどすえ?」

オティス  「だからこそ腹立ててんだよ!自分が不甲斐なくて仕方ない!けどそれ以上に・・・私はお前が憎くて仕方ないんだよ!」

キバイラ  「はははは、あひゃひゃひゃひゃ!そらお互いさまやなあ!うちはあんさんに全部奪われた!あんさんによって鬼は滅んだ!なんの呵責もなかったんか?」

オティス  「そうでもしなきゃ、お前たちは人を傷つけ続けただろう!」

キバイラ  「ああ、それや。その浅ましさや。うちはその何もかも理解したような金色の目が大嫌いや!」

オティス  「知ってるとも、だって私は原典の勇者だったんだからな!人々を護り、脅威を打ち払う!そういうものだ、私は!」

キバイラ  「なら、うちもうちのままで居ようかいな!あんさんを殺した後は、アニちゃんをうちの物にする。『反転』なんぞ生温い。凌辱して、弄繰り回して、散々利用した後はぼろ雑巾のように捨てたげようやないの」

オティス  「おン前・・・ああそうだよ、クタンなんぞ生易しい皮着ようが変わらないな!」

キバイラ  「あんさんみたいな人種は、自分壊されるよりも自分やない大切なもの壊されるほうが嫌やろ?は、はははは!壊してやるわ原典の勇者!」

オティス  「お前は私が止める!そのために私はここに来たんだ!」

キバイラ  「なら、その信念ごと砕こうかいな!もうあんさんは、うちの術の中にいるんや!」

オティス  「何を・・・っ!?あ、れ?」

キバイラ  「漸く効いてきたみたいやな、飲むんが遅かったんか消化が遅れたか・・・体質の所為かな」

アニ    「お姉ちゃん、どうしたの?何か、変?」

キバイラ  「あらららぁ?どないしたんや原典。いつもみたいに馬鹿力で七星剣振り回して、魔法を撃ちまくって戦わんのか?」

オティス  「か、く。力が、入らない・・・お前、何をした!」

キバイラ  「おかしいなあおかしいなあ。魔力は有り余っとるのに力が入らん、魔法が撃てへん。そないなところか?」

アニ    「ま、魔法封じ!?そんな、どうやって!」

キバイラ  「今日ロスタナにつくことはわかっとった。加えて、うちはクタンちゃんとしてあんさんの傍に居った。なにもせんまま黙って去るほどお人よしになったつもりはあらへんよ!」

オティス  「く、そ。腑抜けてどうするんだよ。こんな罠、むざむざ嵌まっちゃうなんて」

キバイラ  「身体から魔力がとめどなく溢れる言う病気があってな?ほっとくと生命維持のための魔力も抜けて死んでまう。だから、身体から魔力が漏れ出んようにする薬を飲むんよ」

アニ    「まさか・・・朝のお薬?いつもよりちょっと多いなって思ったけど、そういうことなの?」

キバイラ  「医者が大丈夫といえば、たとえ毒でも有難く飲み下すもんや。魔法の使えん原典なんぞ、ただの小娘同然!殺すなん赤子の手をひねるかのように――」

ベニオット  「半歩引けオティス! 食らいつけアホ毛!」

キバイラ  「とと、ちょっと掠ってしもた。竜騎士も居たんやった・・・もうあんさんらの役目は終わりや。尻尾巻いてどうぞ、居んでおくれやす?」

オティス   「ベニオット!ヴラドニアはまだ?」

ベニオット  「さっき叩き起こした!そんなことよりも、何故キバイラがここにいる!何があったんだオティス!クタンはどこだ!」

アニ     「ク、クタンさんが偽物だったの!ずっと、キバイラが化けてたんだ!」

ベニオット  「なんだと!?ばけ、人に化けるだと!?鬼がか!幻惑魔法も使えるのか?」

キバイラ  「狐につままれたような顔して、面白いやないの。うちを誰と心得る!鬼灯島の鬼を束ねし首魁、鬼狽羅(キバイラ)であるぞ!そないな些事、朝飯前よ」

ベニオット 「俄かには信じがたい話だな・・・じゃあ、本物のクタンはどこだ!」

キバイラ  「この術を使うには本人の血が必要なんよ。あと、化ける本人が生きとる必要がある――今ここでうちがこの姿を見せた。その意味がわからんか?」

ベニオット  「全くもって、度し難い怪物だな。だが関係ない、今ここで終わらせてやればいいだけだ」

キバイラ  「へえ、うちを殺すん?そうしたら、アニちゃんの呪いの解き方がわからんままやなあ。困った困った」

ベニオット  「呪いというものは総じて、術者を殺せば解けるものだろ」

キバイラ  「さあ、どうやろ。知りたいんなら今はうちを殺すなん出来へんやろ。仲よくしようやないの。一緒に酒でもどや?」

オティス  「やなこった。最悪、お前の角でも磨り潰して飲ませるよ。それ、万病の薬になるんだろ」

キバイラ  「あらあら人間は野蛮やこと。脳の端まで略奪欲で埋まっとるんちゃうか?」

オティス  「浅ましく人から奪い続けたお前が言うのか」

キバイラ  「人間なんぞ、鬼に使役されるべき生き物や。何せ、「歴史がそう言っとる」からなあ」

ベニオット  「歴史だと?害を為し続ける鬼は人に滅ぼされただろう。勝手に逆転するな」

キバイラ  「あはははは!浅ましいなあ竜騎士!見たもんしか語れん思慮の狭さ!ああ、語るに落ちる言うんはこのことか」

ベニオット  「知ったことか。見えないものに気を取られている暇はないからな。それに」

ヴラドニア 「そうね。けれど一応、射線だけは見ておいてくれるかしら――チャージ完了。主砲、拡散モード。斉射!」

オティス  「ちょちょちょ!?いきなり撃つの!?」

キバイラ  「な!?あぶなぁ、ぎりぎり躱せたわ。仲間囮にして撃つか普通。いっそ、原典や竜騎士ごと撃ったら仕留められたかもしれんのになぁ?血染めのヴラドニアもそんなもんか」

ヴラドニア 「仲間を喪う勝ちに名誉などあって?無価値よ、そんなもの」

キバイラ  「ほうか。気高い勇者言うんも大変やなあ。けんど、うちは果たし合いしに来たんやないんよ!振るえ、右腕!」

ヴラドニア 「煙!?まさか、毒・・・って、普通の煙じゃないのよ!また面倒なことを!」

キバイラ  「ほなまた後で!今はまだ、時やあらへんのよ!」

オティス   「アニちゃん!サーチいける!?」

アニ    「だ、ダメ!この煙、魔法が乱される!ぼやぼやして何も読めない!」

ヴラドニア 「私の煙幕と同じものね。ああもう!だから一撃で仕留めたかったのに!」

ベニオット  「アホ毛、風を起こせ!」

オティス  「よし晴れた!キバイラは――ああ、やっぱりいないか」

リヴェ    「っ・・・その、どういうことですか?キバイラはどうしてここに?それに、クタンさんは」

ベニオット  「わからん。俺もなにがあったのか知りたいくらいだが・・・あ?お前、リヴェか?」

リヴェ    「え、どうして名前を・・・ベ、ベニオットさん!?」

ヴラドニア 「ん、もしかして知り合い、なの?」

ベニオット  「ああ。リヴェは元王国軍兵士なんだ。俺が教育をしていた」

ヴラドニア 「王国軍・・・そう。そういうことね」

リヴェ    「あの、事情を聞いてもいいでしょうか。何が何だか、こちらとしてはさっぱりなので」

ベニオット  「構わないが――オティス、細かい顛末を話してくれ」

オティス  「どこから話したものかな。うーん、ちょっと長くなるけどいいかな」

 

 

 

イフォニ  「とんだ闖入者だよねー。勇者一行に鬼の首魁、こんな何もない廃れた町にこぞって押し掛けるなんてね」

ネリネ   「そうね、ここにはまともな生活なんてないもの。町長さんの抑止力で辛うじて平穏を保っているだけ。配られる食料と最低限の屋根の下で泥のように眠るだけ。ふふふ、これって人間の生活なのかしら」

イフォニ  「与えられて生かされるだけの生活か・・・まるで、ペットのようだな」

ネリネ   「親は子に万物を与えるものよ。それは飼い飼われの関係とは違うと思うわ」

イフォニ  「どっちにせよ、与えられなきゃどうしようもないのは変わらない。生きているだけで幸せ、とは言ったもんだけどね」

ネリネ   「全ての命は消費されるために存在する――とはいったものだけれど、これじゃ持ち腐れだわ」

イフォニ  「面白い理論だね。それもお父様から教わったものかい?」

ネリネ   「いいえ、ネリネの結論なのだわ。お父様にとっては、命は慈しむものだもの」

イフォニ  「慈しむ、ねぇ・・・あれが?」

ネリネ   「そうよ。他ならぬ情報屋さんなら、わかってくれると思ったのだけど」

イフォニ  「全てを理解してるわけじゃないさ。そもそも、誰かの完全な理解者になんて成れはしないものだ。それでも尚、相手のことをどれだけ許せるかだと思うね」

ネリネ   「お父様のこと、どれくらい許せるの?」

イフォニ  「言うまでもないね。文字通り身体を差し出したくらいだ、共犯者とも言ってもいい。けど・・・ちょっと、気に食わないくらいかな」

ネリネ   「あら、仲がいいのね」

イフォニ  「そういう君はどうなんだい。随分と放任されてるみたいだけど」

ネリネ   「ネリネなんかじゃお父様の全てを理解することなんて出来ないわ。だから、そこまで上り詰めたいの。世界をめぐるのも魔法の勉強をするのもそのため。いつかはお父様のような勇者になるのもいいかもしれないわね」

イフォニ  「・・・ロスタナに来たのは、そのためってことかな」

ネリネ   「ええ。だって人間はみんな、悲劇が大好きでしょう?」

イフォニ  「人は、自分だけが不幸だとは思いたくないものさ。だから誰かの不幸で溜飲を下げて、そうして自身のささやかな幸福を噛み締めるんだ」

ネリネ   「不便なのね」

イフォニ  「ロスタナなんて町は、さぞ憐憫の対象としては優秀だったろうね。何の罪もないのに殺されて可哀想、ってね」

ネリネ   「果たして本当にそうなのかしら――と、お父様は言っていたけれど」

イフォニ  「ふうん?それは聞いてないな」

ネリネ   「お父様は、この町に興味があったみたいなの。だから手が足りないお父様の代わりに、ネリネが確かめに来たのだわ」

イフォニ  「だからこんなところにいたわけね、納得だ」

ネリネ   「ネリネもお父様も、ここが無辜の町だなんて思ってはいないわ。だから、ほら。こんなものが存在している」

イフォニ  「へえ・・・成程ね。話に聞いてはいたけど、そうなるよね」

ネリネ   「ここがただの惨劇の町じゃないって、情報屋さんは知っていたの?」

イフォニ  「そりゃ、そうさ。物事には必ず理由がある。此処だってそうさ」

ネリネ   「もし何か聞いていたら教えてほしいのだわ」

イフォニ  「お生憎様、目ぼしい情報は何もないね」

ネリネ   「ただでは教えられない、と言う事?」

イフォニ  「子供から何を取ろうってのさ。いらないよ」

ネリネ   「ネリネの唾液には傷の治りを早くする効能があるのだけれど・・・要る?」

イフォニ  「いや・・・さすがに遠慮しとこうかな」

キバイラ  「なんよそれ、面白そうやなあ。あんさんの唾は傷薬になるんか」

イフォニ  「おお。これはこれは、鬼の首魁のお出ましだ」

ネリネ   「キバイラさん!お久しぶりなのだわ!」

キバイラ  「情報屋に、ネリネちゃんか。原典といい、ずいぶんとまぁ人が集まったもんやな」

イフォニ  「君が引っ張ってきたくせにぃ」

キバイラ  「完全に埒外な駒もあるけどな」

ネリネ   「不安かしら?けれど、安心してキバイラさん。ネリネはお父様以外の味方はしないの。だから、キバイラさんの邪魔はしないわ」

キバイラ  「ああ、そう・・・ならネリネちゃん。『これ』のこと、原典らに教えてきたらどうや」

イフォニ   「え」

ネリネ   「ん?いいのかしら。これは、キバイラさんにとっての切り札なんじゃないの?」

キバイラ  「これだけを知られたところで不都合なんあらへんよ。それに――そのほうが面白い」

ネリネ   「っ!そうね、それもそうだわ。掻き乱すのがお好きなんて・・・キバイラさんも悪い人だわ」

キバイラ  「ま、うちは鬼やからな」

ネリネ   「こうしちゃいられないわ!原典さーん!ネリネが今から行くのだわー!」

イフォニ   「あーあ、可哀想に。せっかく復興が進んできた悲劇の町で、君は一体何を企んでるんだか」

キバイラ  「うちの目的は最初から変わってへんよ。それに――ここがただの悲劇の町やなんて、誰が言うたって話よ」

イフォニ  「仕方ないよ、人ってのは見たいものしか見えないものさ。見向きもされなかったものはそのまま消えるしかないんだから」

キバイラ  「デュラハンがそうであったように、か。愚かしいもんやな、まるで背負った薪が燃え盛るんに気付かん狸のようや」

イフォニ  「視たものしか信じることができない、ってのはよくある話さ。かつて魔法というものが迫害されていたなんて、今の価値観じゃピンと来ないだろ?」

キバイラ  「思わず目をそらしたくなるような惨劇があった町なら、「誰も見ようともせん」・・・成程なぁ、考えたもんや」

イフォニ  「進んで汚れたがる人間なんていないものさ。快適に生きたいなら、まずタブーには触れないよね」

キバイラ  「なにもかも杜撰やったのに、明るみにならんかったんはそういうことかいな」

イフォニ  「火のないところに煙は立たない。最近は火がないところで煙を焚いて火をでっちあげたりもするらしいけど。逆に言ってしまえば、煙さえ隠せれば火は見つからないもんさ。何せ人々は火を探す時に火を見ていない、煙を見ているからね」

キバイラ 「煙を隠す、ね――簡単に言わはるけど、隠すんは簡単やあらへんやろ。見つかってまうからこその、『火のない所に煙は立たぬ』のはずや。どうやったんやろうな」

イフォニ  「そりゃあ、別の大きな火を近くで焚くのさ。そうすれば近くにあった火種なんて誰も見えなくなる」

キバイラ 「ああ、『木の葉を隠すなら森の中』ちゅう事か。大きな火が「ロスタナの悲劇」やね・・・ふうん、考えたもんやな」

イフォニ  「まさに地獄だよね。不都合を不都合で塗り重ねる。いつ剥がれるかもわからないのにさ」

キバイラ 「地獄なん、とうに見慣れたやろ?叫喚、焦熱、阿鼻・無間――八大も慄く人間の業こそが現世に遍く地獄っちゅうもんや。ここにあるんは些細なもんやけど、業は深いなあ。堪らんわ」

イフォニ  「あはは、ロスタナは君で言う地獄には値しないってことかい?いやはや、参るなあ」

キバイラ 「当然や。ただ弱きは消費され、強きが喰らう。それだけのことやろ?自然の摂理そのものやないか」

イフォニ  「成程。鬼にとってはこれくらい些事か。怖ろしいね」

キバイラ 「叡智はただ湧くだけのものやない、要は種子のようなもんや。植えて水を与えて育てな、枯れて朽ちてまう。そのためには、周りから栄養を奪ってでも育てなあきまへん。その実の価値が、そこらの雑草より遥かに高いなら猶更や」

イフォニ  「まったく、罪深い存在だこと。彼のためにどれだけの「投資」が行われたのか。考えるとゾッとするね」

キバイラ 「その忘れ形見は今もなおこのロスタナに残っとる。無かったことに何ぞ、出来やせんのや」

イフォニ  「君は『扉』を開けてしまうのかい?取り返しはつかないよ」

キバイラ 「うちがなんのためにクタンになった思うんや」

イフォニ  「そのための生き恥だった、と」

キバイラ 「ここでうちが成さんで誰がやるんや。鬼の無念を誰が晴らすんや。こんなもんに頼らなあかんのも癪やけど、それでも為すんがうちの使命や」

イフォニ  「そうか、なら僕は止めないでおこうかな」

キバイラ 「聞くべきは聞いた、とっとと消えてくれはります?うちは人間なんぞと馴れ合わん」

イフォニ  「話しかけてきたのそっちなのに」

キバイラ 「あんさんは「もどき」やから、多少は口も利けるけどな。なんやろ、なんか鬱陶しいんよな」

イフォニ  「ひどいひどい、僕も望んでこうなった訳じゃないのに」

キバイラ 「・・・あんさんは、人が憎くあらへんのか」

イフォニ  「何言ってんのさ、憎いに決まってるだろ?僕から大切なものを奪ったのは魔物でも魔龍でもなく――人間なんだから」

キバイラ 「やのに、檻の外から日和見か」

イフォニ  「その憎さを理由に人を殺す気はないだけさ。ほら、僕は臆病者だからさ。自分の手で誰かを殺すなんてこと、とても怖ろしくて出来やしない」

キバイラ 「臆病者が情報屋なんぞやるかいな。憎まれてなんぼの世界やろうに」

イフォニ  「そうだね、人の弱みを売って恨みを買う仕事だ。けれど何に対しても他人事でいられる。直接手を下すのは僕じゃなくて、僕から買った情報を使う客なんだ。僕の手は汚れない、それが心の安寧につながるのさ」

キバイラ 「その信条をもとに、世界を滅ぼしかねない者にも平気で情報を売る・・・怖ろしいなあ、あんさんにとってはそれが些事か」

イフォニ  「そうだとも。だから思うようにやればいいさ。そのために君は大切な仲間の聖遺物に手を出したくらいだもんね」

キバイラ 「二度は言わん。それ以上喋るようならあんさんのよく回るその舌、引き抜いてまうで」

イフォニ  「それは困る。一応商売道具なんだけど?」

キバイラ 「もう一枚あるからええやろ」

イフォニ  「だ、誰が二枚舌だ!」

 

 

 

ベニオット  「さて、話しておくのはこれくらいか。お前な、まんまと嵌められてどうするんだ」

オティス  「ごめん、完全に埒外だった。七星剣がこんなに重たく感じるなんて、久しぶりだ」

ベニオット  「フォローくらいはしてやる。その薬が身体から抜けるのはどれくらいかかるかわかるか」

オティス  「調べてみないとわからないけど・・・1日はかかると思う。まだ、全然感覚がない」

ベニオット  「そうか。くそ、厄介だな・・・リヴェ、ひとまず理解は出来たか?」

リヴェ    「大体事情は飲み込めました。キバイラが、この町で何かを企んでいるかもしれないと」

オティス   「何を考えているのかはさっぱりだけど。それさえわかれば、なんとかなったのかもね」

リヴェ    「それは仕方ないでしょう。全てをわかっているならロスタナにたどり着く前に処理することも可能だったはずから」

オティス   「今は姿を隠してるだろうな。さっきの見たろ?あいつ、別人に成りすますことが出来るみたいだから」

リヴェ    「な・・・難儀ですね、それ。見た目だけでは判別がつけられないと言う事ですか」

ベニオット  「うちの魔法使いのアニはサーチ――気配を探る魔法を使える。おそらくそれで判別はつくと思うがな」

オティス   「思い込みが重要って言ってたから、疑念を以て人を見れば騙されることもないだろうね。油断は出来ないけど」

リヴェ    「なるべく早く片づけたいものですね。ロスタナとしても、まだまだ問題は山積しています」

ベニオット  「そのようだな。ロスタナ、か・・・まだ傷跡が色濃いな」

リヴェ    「これでもましになったほうですよ。最初は寝る場所すらありませんでしたから」

ベニオット  「家を応急修繕し、寝具と服を人数分、食料の確保に町民の支援か。大変だな」

オティス   「これ、全部ひとりでやってるの?」

リヴェ    「ロスタナ復興の噂を聞きつけ、支援してくださる人や団体は多くいます。此度の『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』などまさにそうです。応急キットや消耗品、さらに診察や治療の支援までして頂きました」

ベニオット  「そうか・・・今回の件を片づけたら、一度王都に此処のことを伝えておこう。多分だが、復興を進めていることは上まで伝わってない。支援金なり物資なり、あるいは人手を出してやるくらいは出来るかもしれん」

リヴェ    「え?いいん、ですか」

ベニオット  「大変だろう、町長というものも。一歩ずつでいい、ゆっくりやっていけ」

リヴェ    「ありがとう、ございます・・・話を戻しましょうか。こちらで、なにかやれることはありますか」

ベニオット  「そうだな、まずは目的を洗い出したい。支援物資として貴重な聖遺物を仕入れたとか、重要な人物がこっそりロスタナに来たとか・・・そういうのはないか?」

リヴェ    「心当たり、ですか。知っての通りですが、何もかもが消えた町です。怪しいものといわれましても――」

ネリネ   「それ、ネリネ知ってる!怪しいもの、心当たりがあるのだわ!」

リヴェ    「っ!?と・・・おや、ネリネさん。もう作業は終わったんですか?」

ネリネ   「血染めさんが船で全部持って行っちゃったのだわ。だから、もうやることがないの」

オティス   「あー、リヴェさん。この子は一体?」

リヴェ    「流れ着いてきた子供です。ネリネと言う名で、探検家を志しているらしいです」

ネリネ   「あらあら?知らない人たちがいる!けれども人生は一期一会!そういう巡り合わせも悪くないのだわ!」

ベニオット  「ただの子供、ではなさそうだが。変わった見かけだな・・・竜人族(ドラゴニュート)か?」

ネリネ   「なあにそれ、ネリネはネリネなのだわ!変なもの扱いしちゃいけないのだわ!むきー!」

オティス  「そうだぞベニオット、どんな見た目であろうと人は人なんだぞー!」

ベニオット  「乗るなオティス。別に貶す目的じゃなかったんだが」

ネリネ   「オティス・・・オティス!?って、もしかして原典の勇者さまなの!?」

オティス  「あぇ?うん。そうだけど」

ネリネ   「それにそれに!ベニオットって言ったわ!ベニオット!あなたが魔断のベニオットさんなのね!」

ベニオット  「いかにもそうだが、俺のことを知ってるのか?」

ネリネ   「知ってるわ!竜騎士様よね、世界に今は3人だけの竜騎士!とてもかっこいいのだわ!半竜半人のネリネ的にも、竜さんにはシンパシーを感じるもの!」

ベニオット  「おお・・・なんかむず痒いな。お前、いつもこんな感覚なのか?」

オティス  「プライベートが全部本にされて世界中にばら撒かれてベストセラーになってから話してくれるかな」

ベニオット  「ほんと数奇な人生だな」

オティス  「それはそれとして、ネリネちゃんだっけ。詳しく聞いてもいいかな。何があったの?」

ネリネ   「隠し扉!壁紙の裏にね、とても頑丈な扉が隠されていたの!」

オティス  「隠し扉?なんというか・・・いかにもすぎない?」

ネリネ   「押しても引いてもびくともしなかったわ。ロックか、あるいは魔法による封印でもかけられているのかも!怪しいのだわ!きっと奥には財宝があるわ!」

ベニオット  「よく見つけたなそんなもの、場所は覚えてるか?」

ネリネ   「集会場!集会場にあったのだわ!奥の物置にある棚の裏!」

リヴェ   「ネリネさん・・・あそこは荷物が山積していて危ないから入らないように言ったはずですが。程々にしてくださいね」

ネリネ   「はーい、ごめんなさいなのだわ」

オティス  「集会場だっけ、どこにあったの?」

リヴェ    「町の中心にある集会場でしょうか。それなら此処からそう遠くありません、案内します」

 

 

 

アニ    「よしっと!これでいいんだっけ?」

ヴラドニア 「ええ、これで全部ね。アニさん、リストに間違いはなくて?」

アニ    「ないよ!えーと、缶詰が5箱に、生活用品が3箱。魔法銃用の宝石が3箱に、寝具50組。あとはあとは・・・うん、全部揃ってるよ!」

ヴラドニア 「これで5か所全部終わりね。思ったよりも早く終わって助かったわ」

イフォニ  「これはこれは。ゴールデン・ヴェニソン号が貨物船代わりに使われているだなんて。これ記録しておきたいなぁ」

ヴラドニア 「は?・・・はぁ。あなた、本当にどこでも現れるのね」

イフォニ  「久しぶり~。それにしてもこんなところで会うなんて、やっぱり君と僕は運命の赤い糸で結ばれているのか・・・ややややや冗談だから!フレック向けるのやめてくれない?」

ヴラドニア 「その軽口だけは本当に気に要らないわね。それで?一体何の用かしら」

イフォニ  「いやー、別にヴラドニアに用があった訳じゃないんだ。黙って去ろうかと思ったんだけど、変わったものが見えたから見に来たんだよ」

ヴラドニア 「空飛ぶ船だもの。そりゃ、目立つわよね。やっぱり馬車のほうが良かったかしら」

イフォニ  「馬車引いて行くよりは、船のほうが早かったと思うよ。しかしまぁ、どういう心変わりなのさ」

アニ    「ただ見てるだけ、っていうのももやもやするから。あたしがヴラドニアさんに頼んだの」

ヴラドニア 「・・・そういう目で見られたら、断り辛いじゃない?」

アニ    「あたしの我儘、聞いてくれてありがとう。迷惑だったかな」

ヴラドニア 「悪を挫くばかりが勇者の役目ではないわ。たまには、こういうことをするのもいいでしょう」

イフォニ  「ただの慈善事業なのに、ヴラドニアがやると違って見えるのはなんでだろうね」

アニ    「ヴラドニアさんは優しいよ?」

イフォニ  「身内には、ね。不良と捨て猫理論ってやつかな――ところでベニオットやオティスは来てないの?」

ヴラドニア 「この場にはいないわ。色々あってね、ここの町長と話しているところよ」

イフォニ  「ほほう・・・つまり、話についていけないから暇つぶししてるってこと?」

ヴラドニア 「・・・・・・あそこに4人全員いても無駄だと判断しただけよ。貴方のようにただ気ままに適当に行けばいいというものではありませんから。よろしくて?」

イフォニ  「そういうこと。これ以上の軽口はアルヴィドを抜かれかねないからやめておこうかな。しかし、支援物資とはいえここまで集まるものなんだね。人の善意も馬鹿にできないな」

ヴラドニア 「良くも悪くも目立つもの、ロスタナは。私も実際に訪れるまで実態は知らなかったけれど」

アニ    「目立つ・・・ねえねえ、「ロスタナの悲劇」って、一体なにがあったの?」

ヴラドニア 「ロスタナの?そういえば、あれが起こったのは5年前のことでしたね。知らなくても無理はないわね」

アニ    「なにかで聞いたことはあると思うんだけど、詳しく知らないんだ。お姉ちゃんは知ってたみたいだけど、教えてくれなくて」

イフォニ  「知りたいなら教えてあげてもいいよ。要は、憂さ晴らしだったんだよね」

アニ    「・・・憂さ晴らし?」

イフォニ  「或る日、王都アスカロンに向けて匿名で通報が入ったんだ。「ロスタナにて謀反の兆し在り」、ってね」

アニ    「む、謀反って?」

イフォニ  「ロスタナで王都に良からぬことを企むものがいる、と言ってきた人が居たということさ」

アニ    「なるほど?そういうことなんだ」

イフォニ  「けど、当時は誰も耳にしたことがないような田舎町だったうえに、通報者の素性もわからない。とはいえ謀反の報せだ、見ないふりも出来ないからと、調査隊が派遣された」

アニ    「調査隊・・・フォルレの時にも聞いた気がする。そういう人たちがいたんだね」

イフォニ  「そうそう。あらゆる事象に対して調査を行う人たちのことさ。その調査隊が、まもなくロスタナに到着するという報告を最後に、隊員の全員が音信不通になった」

アニ    「え?それって」

イフォニ  「正直、フォルレの時のように調査隊が帰ってこないのは珍しいことじゃないよ。けど、今回は謀反の調査だった。現地で何かがあったのではないかと王は焦った。そして、今度は軍隊を派遣したんだ」

アニ    「っ!?そ、それって」

イフォニ  「ベニオットのように騎士となる家系の人はともかく、一般兵の多くは田舎町から出稼ぎに来た、家業を継げない末弟だった。もはや帰る家もなく、兵役で得られる給料も少ない。さぞ、不満が溜まっていただろうね」

アニ    「え、家に帰れないの?どうして?」

ヴラドニア 「・・・ふつう、家業を継ぐのは長男長女の役目だからよ。次男次女、それ以降の子供はたとえ優秀であっても家を継ぐことは早々ないわ。だから女は他家に嫁ぎに出され、男は他所に稼ぎに出されるものよ・・・ああ、そういえばアニさんは一人っ子だったかしら」

アニ    「うん、お父さんの子供は私だけだったよ」

ヴラドニア 「時代がそうなってしまったとはいえ、生まれですべて決まってしまう。運が良ければ子のいない他家の養子となったり、跡継ぎが亡くなり還俗されて家に帰ることもあるけれど・・・多くはそのまま、別れたっきりとなることが多いわね」

アニ    「家族なのに会えなくなることもあるんだね。そういうの、悲しいな」

ヴラドニア 「家の財力にも因るとは思うけれどね。そういう者たちが多く宛がわれたのが兵士、もしくは修道士なの。何せ、数がいても困らないもの」

イフォニ  「話を戻そうか。軍隊を送った、とはいってもあくまで有事の際に備えただけだったんだ。本当の目的は調査のはず。けど、噛み合わなかったんだよね」

アニ    「噛み合わなかった、って?」

イフォニ  「謀反者を探しに来たのに、町を調べても、人を調べても何も出てこなかった。謀反を起こそうなんて考える者もいないし、隠している様子もない。ましてや、通報なんて知らないと皆が言い始める始末だ」

アニ    「じゃあ、通報が嘘だったのかな」

イフォニ  「どうだろうね。ともかく、兵士たちは納得できなかった。何の成果もなしにおめおめと帰るわけにはいかない。そうして彼らが至った結論は、「町ぐるみで謀反を画策しているのではないか」というものだ」

アニ    「そんなの、言いがかりじゃない!」

イフォニ  「けど、その結論を否定できる材料もなかった。ま、当然だけどね。「やってないことの証拠を出せ」だなんて、それこそ悪魔の証明だよ」

アニ    「っ・・・ひどい」

イフォニ  「色々な説が考えられるけれど、全て予測の範囲でしかない。そうして反論するロスタナ側と糾弾する兵士側、両者の軋轢は次第に膨らみ――とうとう兵士たちは、武力による弾圧に踏み切った」

アニ    「それが、ロスタナの悲劇なの?」

イフォニ  「そういうことだ。悉くを破壊され、住人のほとんどは兵士により殺された。残った者たちも取り調べと言う名の凌辱を受け、連れ去られるか、人買いに売られてしまった。結果として、ロスタナは町としての機能を完全に奪われてしまった」

アニ    「なんで、そんなことに」

イフォニ  「これだけのことが起きてなお、王は派遣部隊の隊長を罷免しただけでこの件を終わらせたけどね。復興の策を練るでもなく、謀反の真実を追求するでもなく。結果としてこの事件自体が、虐殺という形で闇に葬られた」

ヴラドニア 「全ては、王族の不甲斐なさが招いたことよ。私は・・・何もできなかった」

アニ    「そんな、ヴラドニアさんが悪いわけじゃない!」

ヴラドニア 「王は――お父様は、兵士の扱いが悪かったの。宿舎は老朽化したまま、賃金も食事も粗末なものだったと。『兵士なんぞ大して役にも立たない穀潰しなのに金なんかかけていられるか』と呟いていたのを覚えています。私が、何か出来たはずなのに」

アニ    「けど、ヴラドニアさんが原因じゃないんでしょ?」

ヴラドニア 「これほどのことをしでかすほどの不満を、王政が兵士たちに溜め込ませていたのは事実です」

アニ    「だから人を殺していいなんてことにはならないよ!そんなことを、兵士だからってやった人たちが悪い!」

ヴラドニア 「けれど・・・」

アニ    「ヴラドニアさんが思いつめることないよ。それにね、今ここにヴラドニアさんが来たことも、何か意味があるのかも!」

ヴラドニア 「何か意味が、あると?」

アニ    「うん!だって、今はロスタナの人たちのためになってることをしてるよ!」

ヴラドニア 「そう、ね。そうだわ。立ち止まっていても仕方ないもの、前を見ましょう。アニさん有難う、頑張るわ」

アニ    「頑張ろう!えいえいおー!」

ヴラドニア 「おー!!さて、そろそろ向こうもひと段落はしているでしょう。戻りましょうか」

アニ    「うん・・・あ、イフォニさん。そういえばさっきの話って」

イフォニ  「ん?ああ、もしかして情報料の話?」

アニ    「い、いくら出せばいいの?」

イフォニ  「流石にこの程度の話で、ましてや子供からお金は取らないよ」

ヴラドニア 「あら、良いことを聞いたわ。じゃあこれからはアニさん経由で話を聞けばお金がかからなくて済むのね」

イフォニ  「ちょっとした歴史のこと、雑談程度の話だから、ただでいいって言ったの。君が欲しそうな情報なら、アニちゃん経由でも容赦なく金取るよ?」

ヴラドニア 「そう、無駄な損失は避けたかったのだけれどそれなら仕方ないわね」

イフォニ  「必要経費だと思うよ??」

ヴラドニア 「貴方に払うくらいなら、そのお金でオティスさんに美味しいものを食べてもらいたいわ」

イフォニ  「・・・ああ、そういう?そんなこというならもう情報教えてあげないよ」

ヴラドニア 「冗談よ。それで――しれっと船に乗ってきてるのはどうしてなのかしら。送らないわ、歩いて帰りなさいよ」

イフォニ  「いいじゃんか、ついでだよついで。ベニオットに顔も見せたかったし」

ヴラドニア 「ベニオットに・・・貴方まさか、その気があるんじゃないでしょうね?」

イフォニ  「あの、想像したくないからそういうのやめてくんないかな」

アニ    「ほえ?友達に会っておきたいって言うのは当たり前のことなんじゃないかな?」

イフォニ  「うんうん、君はそのままでいてね」

ヴラドニア 「ただの皮肉です、お気になさらないでアニさん」

イフォニ  「ところで荷物ってあれで全部なの?ずいぶんと収まりがいいみたいだけど、足りるのかな」

アニ    「町の中に、5つ倉庫があったんだ。ほら、あそことあそこと・・・あとそっちとこっち。だから、荷物は5つに分けて運んだんだよ!」

ヴラドニア 「合理的ではあるわ。想像よりも広いから、この町。1箇所だけでは色々不便でしょう。負担を減らす意味でもね」

イフォニ  「じゃああれは全体の2割の量ってことね・・・そういうことか」

アニ    「なんか面白いね。上から見ると、倉庫が綺麗な五角形を描いてるみたいだよ」

ヴラドニア 「そうなの?此処の町長はそういうの気にする人なのかしら」

アニ    「あ、お姉ちゃんたちいたよ!町の真ん中!おっきな建物のところ!」

ヴラドニア 「どれ?ああ、本当ね。あんなところで何してるのかしら」

 

 

オティス  「だーー!だめだ!まったくわからない!なにこれ、全然わからないぞ?」

ベニオット  「色々試したはいいが、いよいよ以て手詰まりだな。どうしたものか」

アニ    「お姉ちゃん・・・なにしてたの?」

オティス  「アニちゃん。それにヴラドニアも。積み荷運び終わったの?」

ヴラドニア 「ええ、つい先ほど。このようなところで何をしているのかしら」

ベニオット  「怪しげな扉があったんだ。開けられないかとあれこれやっていたんだが、何をやってもびくともしなくてな」

ヴラドニア 「壊せないのかしら?見たところただの鉄扉でしょう、どうにかなりそうなものだけれど」

リヴェ    「魔法で守られています。物理的なものも当然として魔法的な干渉も難しいかと思います」

ヴラドニア 「オティスさんの技をぶつけてみたら・・・今は出来ないんでしたね、ごめんなさい」

オティス  「ああ、現状が憎らしい。眺めるだけで干渉できないなんて、もっと警戒しとくべきだった」

アニ    「魔法防御・・・見てみてもいいよね?」

オティス  「いいけど、フィードバックに気を付けてね」

アニ    「うん、じゃあ逆流防止の処置をかけてから、サーチを一点に集中して――っわわわわ!?なに、これ!」

ブラドニア 「視えませんか?」

アニ    「む、無理!読むとかそんな次元じゃないよこれ!情報が多すぎて、まるで塗りつぶされてるみたいになってる!」

オティス  「そんなイカれた魔法強度で守られてるなんて、怪しいものですって宣言してるようなもんだよね」

アニ    「こんなもので守られてるなんて・・・不気味だね。何があるんだろう」

ヴラドニア 「よく、見つけましたわね。オティスさんが?それとも、貴方が?」

リヴェ   「いえ、此処を見つけたのは私ではなく」

ネリネ   「はーい!ネリネなのだわー!」

ヴラドニア 「っ!?ネリネさん!?貴方がどうしてこんなところに?」

ネリネ   「冒険なのだわ!研究なのだわ!お父様ったらひどいのよ、やりたいことがあるからってネリネを除け者にしてどこか行っちゃったの!だからネリネもやりたいことをやっちゃうんだ!と一念発起してロスタナにきたのだわ!」

ヴラドニア 「はぁ・・・まったく、どうしてこんな」

アニ    「知り合いさん?」

ヴラドニア 「何度か話しただけよ。むしろ、厄介になったのはネリネさんの言う「お父様」の方ね」

オティス  「え?誰誰。気になる」

ヴラドニア 「ネリネさんの父親は――君臨勇者ヴァンハーフよ」

アニ    「え・・・・・・ええええええええええええ!?!?」

リヴェ   「そ、そうなんですか!?ネリネさんが?」

ネリネ   「そうなのだわ!至高にして至上!慈愛の戦士こと君臨勇者ヴァンハーフ!それがネリネのお父様なの!ふふん!」

ベニオット  「ヴァンハーフに、子供か。仰天しすぎて言葉が出ないな。そういう感情があったとはな。リヴェ、ちょっと水取ってくれ」

オティス  「半竜半人か・・・え、じゃあなに?もしかしてヴァンハーフは竜とヤったってこと?」

ベニオット  「ぶふうっ!?げほ、げほごほがほ!ぶぅえ、変なとこ入った!」

オティス  「え、だってそうならない?竜と人間でしょ、他に方法っていったらさ」

ヴラドニア 「おおおおおおおオティスさん!?アニさんもいるんですよ!?」

アニ    「あれ?ヴラドニアさん、なんで耳塞いだの?ちょ、何も聞こえないんだけど?」

ベニオット  「お前な、幾らなんでもそれはないぞ。そもそも竜はな・・・」

ネリネ   「それは違うわ。だってお父様は、本当のお父様じゃないもの」

ヴラドニア 「へ?」

アニ    「およ、やっと放してくれた。何の話してるの?」

ネリネ   「ネリネは物心ついたころには一人だったわ。どこかもわからない町で、ゴミを漁って生きていた。そうしたら或る日、お父様がネリネにこう言ってくれたの。「僕には君のような子供が必要だ。一緒に来てくれないか」って」

オティス  「拾われたんだね」

ネリネ   「それに、多分ネリネの本当のお父様とお母様は人間よ。だってネリネ、その時は尻尾や角なんてなかったもの」

オティス  「え?じゃあ、何?君はもしかして、ただの人間だったの?」

ネリネ   「今も普通の人間よ、何もおかしくはないわ。だって、今も半分はたしかに人間だもの。この体も不便じゃないわ」

ヴラドニア 「なんてこと・・・度し難い、全く以て度し難い!ヴァンハーフ、やはり放置していいものではなかったわね。こんな非道なことをしていたなんて!」

アニ    「ヴラドニアさん?なんで、そんなに怒ってるの」

ベニオット  「わからんか。ただの少女だったネリネが、君臨勇者に拾われてから半竜半人になったんだ」

アニ    「・・・じゃあ、それってつまり」

ベニオット  「あの外道、ネリネを実験台にしたな。目的がわからんがそれだけは確かだ。たしかに、捨て子ならば躊躇することもないだろうな」

ネリネ   「なあに、皆してお父様のこと揶揄して。ネリネはとても大切にされてきたわ。他の子たちとは違って、ネリネを娘と呼んで、たっくさん愛してくれていたのだわ!なのに非道とか外道とか勝手なことばかり言って!ひどいのだわ!」

ヴラドニア 「けど、けどね。貴方のお父さんは、ネリネさんのことを利用して」

ネリネ   「お父様のことなんにも知らないのに、勝手なことを言わないでほしいのだわ!もう、知らない!みんなタンスの角に小指をぶつけて悶絶すればいいのだわ!ふーんだ!」

リヴェ   「ちょちょ、ネリネさん!一人で出て行ったら危ないですよ!」

ベニオット  「お、おいおいおい!ああもう、怒らせてしまったぞ」

ヴラドニア 「ごめんなさい――けれど、こんなことって」

ベニオット  「俺たちから見ると冷酷な魔法使いだとしても、ネリネからすれば最高の父親だったのかもしれん。後でちゃんと謝ろう、リヴェがついていったからひとまずはいいだろうがな」

ヴラドニア 「ヴァンハーフは間違っています。それを否定するの?」

ベニオット  「正論で子供が納得するものか。言い方ってものがある、お前も王や兄弟の悪口を面と向かって言われて、平静でいられるか?」

ヴラドニア 「う、あ・・・そう、だけど」

オティス  「そこも大事だけど、今はこの扉だ。どうしたものかな」

ベニオット  「魔法的な解析も物理的な破壊も出来ないとなるとなぁ、突破口がまるで見えんぞ」

ヴラドニア 「うーん、どうすれば・・・ああもうわからないわ!オティスさん、主砲撃ちこんでもいいかしら!」

オティス  「何もかも吹っ飛ぶ可能性あるからやめてもらっていいかな」

アニ    「もしかして、キバイラはこれを探してたのかな」

オティス  「その可能性は高いね、警戒しておかないと。リヴェにも後で話を通しておこうか」

ベニオット  「オティス、逸る気持ちはわかるが無理はするな。己の身体を鑑みろよ」

オティス  「わかってるよ。心配しなくても無理はしない」

ベニオット  「・・・アニがいるからか?」

オティス  「うんん?んー、ええと。そういうことになるかなーあはははは」

ベニオット  「どうしたお前」

オティス  「なんっか、ちょっと恥ずかしくなってきた」

ベニオット  「気にするなよ。仲間のために戦う事の何が悪い」

 

 

 

イフォニ  「うーん、やっぱりか。支援物資のリストと実際の積み荷の数が違う、収支の計算も合わないな。積み荷はキバイラが細工していたから当然として、明らかに収入の桁が合わないな。支援金が主な収入源とはいえ、パトロンがここまで太っ腹だとは思えない。内職でいくらか稼いではいたみたいだけど、魔法銃の弾丸の出荷だけでここまで儲かるはずがない・・・やっぱり、調べに来て正解だったな。まったく、目的のためには手段を選ばない男だよね、ヴァンハーフってさ」

 

 

 

ベニオット  「なあ。ふと思ったんだがな、トラブルを持ち込む疫病神って、お前なんじゃないか?」

イフォニ  「開口一番にそれ?誰も彼も僕の扱いぞんざいだぞ、悲しくてイフォニちゃん泣いちゃう」

ベニオット  「普通に気持ち悪いからやめろそれ。ふう(煙を吐く)ま、お前だけじゃないんだろうがな」

イフォニ  「確かに、ベニオットに会いに来るといつも緊急事態の押収だよね」

ベニオット  「デュラハンにクラーケンに、王都でのひと悶着もあったな・・・そしてキバイラか。まったく、退屈しないな」

イフォニ  「それで、キバイラが来るまで交代で見張りをしようだなんて」

ベニオット  「古典的なものが効果的な例はいくつもある。張り込みもわりと有用だぞ?」

イフォニ  「でも、扉をどうにかしないと意味ないんじゃないの」

ベニオット  「そこなんだよな。あれほどの密度の魔法は見たことがない。あれを開けるとなれば・・・正攻法では上手く行かんだろう」

イフォニ  「あの奥に、何があると思う?」

ベニオット  「パンドラの匣でなければいいが。無視は出来ん、羅刹なら叩ききるまでだ」

イフォニ  「脳筋だね」

ベニオット  「喧しい。お前のことだ、どうせ知っているんだろう?」

イフォニ  「そうだね、実は知ってる。何せ僕は情報屋だからさ、それくらいはお手の物だ」

ベニオット  「やはり目敏いな。どうせただでは聞けんのだろうがな。お前今、何が欲しい」

イフォニ  「勿論。けど今はお金もごはんも気分じゃないから――原典の勇者との同盟を切れっていったら、どうする?」

ベニオット  「・・・大きく出たな」

イフォニ  「僕の我儘だよ、もう君臨勇者の一件には関わらないでくれないか」

ベニオット  「一応、理由を聞いておこうか」

イフォニ  「君じゃどうにもならないからだよ。君の命は騎士となった時点でその手を離れている、だったか――それなら猶更さ。その命を使うのは何のためだい」

ベニオット  「決まっている、民を護るためだ」

イフォニ  「・・・本当に?君が守ろうとしてるのは、なんだ?」

ベニオット  「なんだ、性悪説でも唱えたいのか。そういうお堅いのは御免なんだが」

イフォニ  「そういうわけじゃないさ。けど、僕も一応人間でね。いろいろ知ってる身としては、茶々もいれたくなるもんさ。それがベニオットなら、余計なことも言ってしまうかもね」

ベニオット  「なら条件の付け方が拙い。俺がお前から全てを聞いて、はいそうですかと黙って引き下がる性分だと思ったか?」

イフォニ  「だよね。はは、それでこそベニオットだ。この話に乗ってきたら、それこそ僕は君と縁を切ったよ」

ベニオット  「教えたくないなら素直にそう言えばいいだけだろう。全く、面倒な言い回しをするな。紛らわしい」

イフォニ  「そうだね、でも――同盟を切ってほしいのは本気だよ」

ベニオット  「は?お前、何を言って」

アニ    「ベニオットさーん!そろそろ見張り交代の時間だよ」

ベニオット  「アニか。お前、わざわざ降りてきたのか?交代の連絡なら、サザエで言えばよかっただろうに」

アニ    「もう一回、扉の情報を読んでみたくて。ちょっと引っかかるんだよ」

ベニオット  「そうか、無理はするなよ・・・次の見張りはリヴェだったか。実力の心配はしなくていいだろうが、相手はあのキバイラだよな。少し不安だ」

アニ    「教え子なんだよね。だったら、信頼してあげてもいいんじゃないかな」

ベニオット  「それもそうか・・・軽く手合わせでもすればよかったな。実力を見たいところだが」

アニ    「心配性だね、ベニオットさん。まだリヴェさん来てないけど、あたしが見てるから平気だよ。もう戻っていいよ」

ベニオット  「ふむ、そうだな。俺は船に戻る、何かあったらサザエで呼べ。付近の監視はしておく」

アニ    「うん、わかった!気をつけてね――はは、竜騎士も案外ちょろいもんやな。全く気付いとらんかった」

イフォニ  「意地悪言ってやるなよ。気付くことが出来なかったら、一生気付けないのがその術なんだからさ」

アニ    「あはは、それもそうか。伏線張ってたのにこの可能性を考えもせんとは、間抜けやなあ。ああせや、もう化けんの解いてもええな」

ネリネ   「人のことを悪く言ってはいけないのよキバイラさん。お父様がいつも口硬く言っていたのだわ」

キバイラ  「知らん。人間の道理を、鬼に当てはめてどないするんや。面倒なこと言わんといてくれはります?」

ネリネ   「あら、鬼も怠惰な気持ちになることがあるのね」

キバイラ  「うちを何やと思うとるんや。ちゃんと感情くらいあるよ?」

ネリネ   「ごめんなさい。けれど、だからこそ興味深いのだわ。鬼と人間の違いって、一体何かしらね」

キバイラ  「この世に境界線なんあらしまへん。人間が勝手に引いた線で、何故鬼が割り食わなあかんのやって話や」

ネリネ   「キバイラさんは、鬼と人に違いはないと思うの?」

キバイラ  「鬼のほうが上や、論じても進展なんあらへんよ。この世の序列を明確に示すほど、女神言うんも優しくあらへんわ」

ネリネ   「それで、今からここで何をするの?ネリネ、とてもわくわくしてるのだわ!」

キバイラ  「何のために、わざわざ積み荷運ばせてまで此処に来たと思うとるんや。手段がなけりゃここまでせんわ」

リヴェ    「この扉を、開けられるのですか?」

キバイラ  「誰かと思えば町長さんか。勿論、今から開けるんよ」

リヴェ    「漸くですか。この時をずっと待っていた・・・ありがとうございます、キバイラ」

キバイラ  「喜びは後に取っときや?あんさんの足元に何があったのか、何のためにロスタナが滅んだのかが、ここにある。あんさんがどうなろうがうちは構へんのやけど――ええんか?知ってもうて」

リヴェ    「余計な心配です。そのために今まで、あらゆる手を尽くしてきたんです。悪に堕ちるを辞さないほどに」

キバイラ  「知らんでええこともこの世にはごまんとある。ちんまりした魔法研究と裏家業で細々と支援を受けて生きていく・・・そういう選択肢もある思うけど」

リヴェ    「知らないままではいられない。滅びたロスタナに住まうものとして、知る義務があります!」

キバイラ  「あ、そ。さあ、通してもらうで。ここを壊さんかったあんさんの不始末を、あの世で呪っといたらええわ」

 

 

 

ベニオット  「戻ったぞ。オティス、ひとまずこっちは・・・あれ?」

アニ    「おかえりなさいベニオットさん!お腹減ってるよね。シチューつくったけど食べる?」

ベニオット  「アニ?お前、随分と早い帰りだな。もう解析はいいのか」

アニ    「解析?え、なんのこと?」

ベニオット  「扉を調べたいからと、ついさっき俺のところに来ただろう」

オティス  「え、アニちゃんはさっきまで私とご飯食べてたけど。扉を調べになんて行かせてないよ」

アニ    「うん。行ってない。あたし、ずっと船の中にいたよ」

ベニオット  「本当か?」

オティス  「なんで嘘つく必要があるの」

ベニオット  「・・・・・・すまんオティス、してやられたかもしれん」

オティス  「いやあの、全く何言ってるかわからないんだけど」

ベニオット  「下で、アニと会った」

オティス  「いやだからさ、アニちゃんはここで私と・・・は?お前、まさか」

ベニオット  「術の条件は、本人の血と本人の生存だといっていたはずだよな?条件は、一致する」

アニ    「え、なに。どういうこと?」

オティス  「あいつ、まさかアニちゃんに化けたのか!?おン前、何騙されてんの!?」

ベニオット  「すまん、本人そのものだったんだ!まるで見分けがつかんかった!」

アニ    「あたしに化けてたの?キバイラが?」

ベニオット  「こうしちゃおれん、すぐ引き返す!今ならまだ間に合うだろう!」

オティス  「キバイラとて、あれを解析できるとは思わないけど・・・でも、ここまで策を弄したんだ。開ける手段を知っててもおかしくない」

ネリネ   「その通りよ、勇者さま。あの鉄扉は、キバイラさんがあっさり解いちゃったのだわ」

オティス  「ネリネちゃん!?え、なんでここに?」

ネリネ   「ネリネは空を飛べるの!だから、この船にもすとーん!と、乗り込めちゃうの」

アニ    「翼もないのに・・・どうやってるんだろう」

オティス  「やっぱり開けられたのか。何を使ったか見てた?」

ネリネ   「鍵は、無月剣よ。首無し騎士さんが生きていたら、きっと彼に扉を開けさせたのでしょうね」

オティス  「無月剣!?」

アニ    「お姉ちゃん、ガープ大橋で黒騎士さんの剣、どうしたの?」

オティス  「覚えてない。けど多分放置してたから・・・キバイラが回収してたんだな。折っちゃったけど、いいのかな」

ネリネ   「ふふ、この下に待つのは天国か煉獄か。まさに東奔西走五里霧中。興味深いのだわ」

ヴラドニア 「オティスさん、状況はベニオットから聞きました!どうしますか?」

オティス  「何があるかわからないけど、突入するしかないでしょ。ロスタナに何が隠されていたのか確かめなくちゃいけない」

ヴラドニア 「そうね、そうしましょう。けれど、オティスさんは回復するまでここにいてください」

オティス  「うん・・・え、待機!?なんで!?」

ヴラドニア 「だって、魔法が使えないんでしょう?予備の武器も今はないわ、そんな状態でキバイラと立ち会うのは危険です」

ベニオット  「もっとはっきり言えばいいだろう、足手まといだってな」

ヴラドニア 「ベニオット、あなた歯に衣着せること覚えたほうがいいわ」

ベニオット  「こんな局面で気を使えってか?」

オティス  「けど、キバイラだ。私が行かなきゃ」

ヴラドニア 「無茶をさせて、死なせてしまうよりましです」

オティス  「皆にも死んでほしくないんだよ!」

アニ    「お姉ちゃん、任せて。ヴラドニアさんも、ベニオットさんもいるよ」

ヴラドニア 「それに、オティスさんにはこの船を任せたいの。舵取りと砲撃、使い魔に周辺調査。私たちを、後ろから支えてください」

オティス  「あ、う・・・わかった。ごめん、よろしくね」

ヴラドニア 「しかし・・・あんな頑丈な扉で守らなくてはいけなかったものとは、なんなのでしょうか」

 

 

 

イフォニ  「これは、すごいな。僕も現物を見たのは初めてだけど・・・そうか、そういうことね」

リヴェ    「何故・・・このようなものがロスタナに?」

イフォニ  「魔法の心得があるなら、これが何かもわかっちゃうよね。いっそ無知で居られたら幸せだったろうに」

キバイラ  「不都合な真実は隠さなあきまへん。そのためには上から嘘で塗り固めなあかん。そんで、その嘘を隠すためにさらに上から嘘を塗る。そうして膨れ上がった『疑念』は、ある日突然外に漏れ出る。それを漏らさんようにするには二つや――また上から嘘を塗るか、全部剥がして別の不都合で書き換えてまうか」

リヴェ   「そんな、そんなの。これって。これだけじゃない。此処にあるのは、どれもこれも・・・」

キバイラ  「知っとうか?この町は地下深くを走る龍脈の上にある。魔法を扱うにあたって、立地的には申し分なさすぎるんよね」

リヴェ   「ここは・・・魔法使いの、工房だったんですか?」

キバイラ  「その通り。ま、見たら誰だってわかるけどな」

リヴェ   「なんで、こんなものがロスタナに?魔法研究を必要としていた人なんて、当時はいなかったはず」

イフォニ  「リヴェ。君はさ、考えたことはない?」

リヴェ   「何を、ですか」

イフォニ  「そりゃ、「ロスタナの悲劇」の顛末だよ。軍隊が派遣されたのは調査隊が全滅したから。どうして全滅したんだと思う?」

リヴェ   「っ!?どうして・・・とは」

イフォニ  「それにさ、そもそもの始まりは匿名の通報だよ?こんな平和そうな町をつかまえて、誰が王都に通報したのかな」

リヴェ   「誰が、って。本当に、ロスタナには謀反者がいたんですか?」

キバイラ  「本当に居ったら悲劇なんぞ呼ばれへんわ。ロスタナに巣食ってた愚か者は、『疑念』を隠すために「別の不都合で書き換える」ことを選んだ。誰が、何を見られたくなかったんやろうな」

リヴェ   「工房を・・・見られたくない?のは、工房主しかいないでしょう」

キバイラ  「正解正解!おめでとさん、あんさんは真実に気が付けたみたいやなあ。全ては魔法使いの自作自演!自分の不始末を隠すための、証拠隠滅の虐殺やった訳や」

リヴェ   「そのために、ロスタナは滅ぼされたんですか?」

キバイラ  「どないな気分や?大人の汚い駆け引きに自分の町が巻き込まれたっちゅうんは」

リヴェ   「なんですか、なんですかこれは!虐殺だけじゃない、工房の上にある町だなんて!これじゃまるで皆!モルモットみたいじゃないですか!」

キバイラ  「哀れやなあ、いっそあそこで皆消えてしまうべきやった。遺された者に、去ったものの遺志なんわかりやしまへんのや」

リヴェ   「消費されるために・・・生きたんですか?そんなの、こんなの人の生き方じゃない。こんなの間違っているでしょう!」

イフォニ  「魔法使いの工房なら、実験台は多いほうがいいよね。初めから使われるために生きていた者たちによる、実験台の養殖場。それが――ロスタナだった」

リヴェ   「あは、は?は、あははははは!そういうことですか、そういうことですか!父さんも、母さんも!セルナ姉さんも!みんなみぃーんな実験道具!ロスタナの悲劇は、ただのゴミ処理だったわけですか!あーっはははははは!なーんだ、そういうことですか!」

キバイラ  「で、どないするんや?また町長として、皆のことを助けながら生きていくんか?」

リヴェ   「戻れませんよ!こんなものを見た後で、正気でなどいられない!・・・けど、初めから棄てられたものならば、どう使おうと勝手ですよね」

キバイラ  「ならそうするとええよ。あんさんにはその権利がある。虐げられ、見捨てられて辛かったやろ?苦しかったやろ?もう、我慢せんでええよ」

リヴェ   「ああ、だったら――世界を棄ててやりましょう。未来を棄ててやりましょう!ロスタナを見捨てた世界など、もう必要ないでしょう!はは、ははははははは!」

キバイラ  「さあ、この酒を飲みや。あんさんの身体を、毒と呪いで強化する。そうすれば、原典や竜騎士にも劣らん戦士になれる」

リヴェ   「ええ、ええ!まずはこのロスタナから始めましょうか!ふふふふ、ふはははははは!!!」

キバイラ  「はて、新たな劒は出来た。あんさんはどうするんや?」

イフォニ   「言ったろ、僕は臆病者なんだ。黙って傍観がお似合いさ」

キバイラ  「ほうか、なら邪魔だけはするんやないで」

イフォニ   「いってらっしゃーい・・・さて、どうしたものかな。このまま完成を見届けてもいいんだけど、それじゃ面白くないよな」

 

 

 

ベニオット  「まったく、自分で自分が情けない!こんな無様を許すとはな!」

ヴラドニア 「過ぎたことを悔やんでも仕方ありません、今は止めることを考えないと」

アニ    「町の中心から、変な気を感じるよ!これ、キバイラなのかな。それとも・・・」

リヴェ    「ベニオットさん!それに、皆さんも。降りてきたんですね」

ベニオット  「リヴェ!よかった、無事だったんだな」

リヴェ    「はい。すみません、いつのまにか突破されていたようで・・・」

ベニオット  「お前も化かされていたか・・・ちょうどいい、着いてきてくれ。お前がいてくれれば心強い」

リヴェ    「ええ、ありがとうございます――油断してくれて!」

ベニオット  「っな!お前、不意打ちとは。度し難いことをする」

リヴェ    「流石ですね、これを受け止めるとは」

ヴラドニア 「な!?貴方、いったい何を!」

リヴェ    「剣を向けられてなお、よくそのようなセリフが吐けますね」

ベニオット  「お前ら先に行け!リヴェに構っている暇はない、ここは俺だけでいい!」

リヴェ    「強気ですね、今までのリヴェと同じと考えてはいけませんよ」

アニ    「ベニオットさん!その人からデュラハンと同じ気を感じる!多分、同じ呪いをかけられてるよ!」

ベニオット  「例の『蹂躙の加護』というやつか。たしかに・・・っと!些か面倒だな」

ヴラドニア 「ベニオット!」

ベニオット  「先に行けというのが聞こえんかったのか?こんなところに戦力を割いていられるか!」

ヴラドニア 「っ・・・急ぎましょう!」

リヴェ    「かっこいいですね。そうなれたらよかったのに。そうやって、誰かを護ることが出来たらよかったのに!」

ベニオット  「何を企んでいる!キバイラが何をしでかそうとしているかわかったものではないんだぞ、今は」

リヴェ    「それを待っています。何故かって?自分の命に初めから価値がなかったと、知ってしまったからですよ」

ベニオット  「馬鹿を言うな!人間が魔物に味方するなど――」

リヴェ    「クソったれな4年間でした。滅ぼされた故郷をどうにかしたくて、足元を見られながらも縋りついて、やれることは何でもやりました。危険薬物の売買、勇者の紋章の横流し。生きていくためには、お金が必要でしたから」

ベニオット  「・・・そうか、ここが出処のひとつだったんだな。資格を得られなかった勇者への紋章の横流し、どこで行われてるのかと思ったら」

リヴェ    「難民の町はいい隠れ蓑になりますから。結構いいお金になるんですよ。皆が皆、浅ましい考えで紋章を買いに来る。だから足元を見てやれば、皆高額だと文句を言いながらでも払います」

ベニオット  「ロスタナの運営費はどこから出ているのかと思ったが、納得だ」

リヴェ    「ああもちろん、パトロンが善意で出してくれるお金もありますよ?悲劇の町という看板は、お人好しのお金持ちが良く食らいついてくれましたから。けれど足りない。その分は補填するしかないんです」

ベニオット  「度し難い。とんだ儲け口だな」

リヴェ    「勇者だって、奪い殺し騙しで稼いでいるでしょう?人の弱みに付け込んで金を得る。汚い商売はお互い様です」

ベニオット  「かもしれんな。だがお前の行動には、決定的に誇りが欠けている!」

リヴェ    「何を。大義の前にはすべてが許されるのが正義なんでしょう?盗みも、凌辱も、破壊も、殺しも!敗者が搾り取られ、勝者が吸い尽くすのが正義でしょう!」

ベニオット  「それでもだ!俺はそれでもなお、零れ落ちてしまう人を救うために騎士になった!」

リヴェ    「じゃあ、ロスタナの悲劇が起こった時何をしていたんですか?罪のない人が殺され、人としての尊厳を奪われている間、何をしていた!」

ベニオット  「何もできなかったさ。人一人で全ての人を救うことなど不可能だ!オティスが挑もうとして叶わなかった命題だ、俺ごときでどうにかできると思っちゃいない!」

リヴェ    「開き直りですか!自分の実力不足を、非情さを!そうやって「仕方ない」と飲み込むつもりですか!」

ベニオット  「だからこその勇者特権だったはずだ!一人でダメなら二人で。二人でダメならたくさんで。そうやって救いを求める人と救いを与えたいと願う人が、平和を願って生みだされたものだったはずだ!」

リヴェ    「その結果、勇者が何人殺しましたか?救いのための仕組みが人を殺すという矛盾に、何人泣いたんですか!」

ベニオット  「それでもだ!俺は正義とやらに興味はない。そんな自己欺瞞のために戦っているわけじゃないからな。助けてほしいと願い伸ばされた誰かの手を!取りこぼさないのが俺の使命だ!」

リヴェ    「綺麗事ばかり!こっちも勇者なんですよ。その権利を行使して、貴方たちを利用して使い捨てさせていただきます!」

ベニオット  「そんな感情で振るう剣で、俺に勝てると思わないことだ!それに、俺は一人じゃないんでな」

リヴェ    「何を、仲間を先に行かせたのは他ならぬ・・・な!?」

ベニオット  「忘れていたか?俺は竜騎士だ。だったら俺のそばに、アホ毛がいてもおかしくないだろ。ようやく起きたか、すまんな」

リヴェ    「炎を吐くなど――しま、間合いに!」

ベニオット  「視野を広く持て。俺は、何度も言ったはずだ」

リヴェ    「ぐっ!しま、加護が・・・あ、があああああ!?」

ベニオット  「よし、剥がれたか。お前が使われたのはギアスだよな。魂に結び付けた呪い、決して破ってはならない約定がそれだ」

リヴェ    「い、ぐうううう!身体、が痛い・・・どう、して」

ベニオット  「ただの便利な口約束だと思っていたか?ギアスは裏切り防止のためにお互いに嵌め合う呪いの枷だぞ。条件に反すればその身を蝕むのは祝福ではなく、決して解けぬ呪いだ」

リヴェ    「は、ははは。破られるとは、思いませんでした」

ベニオット  「そんな実力でか。お膳立てされて驕ったな?その隙がお前の敗因だ」

リヴェ    「く、そ・・・自分の身体じゃなくなったように、重い。これは・・・内臓でも壊れましたかね」

ベニオット  「何故、俺に剣を向けた。お前の境遇は知っているが、だからといってキバイラに与するなど」

リヴェ    「何もかもが憎いんです。結局人に価値なんてなくて、ロスタナに意味なんてなかった。そう思い知らされてしまった」

ベニオット  「価値のない人など・・・いや、それは違うな。価値は人に決められるものではないぞ。自分で決めるものであり、尊ぶものが与えるものだ。くすんだ銅貨に夢をはせる夢想家も、高い肉を塩で焼いて焦がして台無しにする馬鹿もいる。そういうものだ」

リヴェ    「さながら、くすんだ銅貨ですね。真新しくもなければ価値もない、珍しいものでもない」

ベニオット  「町民のためにとあらゆる手を尽くし、町というものを成り立たせようとした。普遍的にあるように思えるが無くてはならないもので、生きていくうえで必要なものだな。たしかに、町長としてのお前の在り方は銅貨のようだ」

リヴェ    「・・・物は、見方だということですか」

ベニオット  「価値を自ずから狭めてしまうほど、愚かなこともあるまいよ。お前は、何のために勇者になったんだ?」

リヴェ    「なんの、ために」

ベニオット  「一緒に、考えてやるといった。お前はもう一人じゃないんだぞ」

リヴェ    「けど」

ベニオット  「奪われたことを憎むなとは言わない。思い悩むのが人間だからな。だが・・・また立ち上がれるのも、人間だ」

リヴェ    「何も、出来なかったんです」

ベニオット  「これから、成せばいい。今までは変えられんが、これからは変えられる」

リヴェ    「これからは、かえられる・・・救うことが、護ることが出来るんですか?」

ベニオット  「ああ。まずは、このロスタナからだ。キバイラが何を考えているかわかるか」

リヴェ    「キバイラは、復讐を遂げようとしています

ベニオット  「復讐だと?オティスへのか」

リヴェ    「いいえ、自分たちを迫害し、絶滅させた人間に対してです。魔性の楽園を――築くのだと」

 

 

 

オティス  「ああくそ、歯がゆい!何もできないことがこんなにもどかしいなんて!けど、今降りたって七星剣も振れないんじゃ役に立てない・・・ううううううう!獄潰しになんて、一番なりたくないってのに!」

イフォニ  「これはこれは、珍しい原典が見れた」

オティス  「おま・・・冷やかしにでも来たのか」

イフォニ  「商談に来たんだ。いいこと、教えてあげようかと思って」

オティス  「いらないよ。やることは変わらないんだし」

イフォニ  「キバイラへの対抗策、欲しいんだろ?」

オティス  「私は今、魔法が使えない」

イフォニ  「ヴラドニアは、フレックもアルヴィドも置いて行ってるみたいだぜ?別の魔法銃を持って行ったんだろうな」

オティス  「銃で戦えって?」

イフォニ  「まさか。使ったことないだろ?やったことのない戦術をぶっつけ本番で試すなんて、愚か者のやることだ」

オティス  「じゃあ、なんだよ。やっぱり冷やかしじゃないか」

イフォニ  「キバイラの出鼻をくじいて、なおかつ有効な剣を手にできるとしたら?」

オティス  「・・・美味しすぎる。怪しいな」

イフォニ  「じゃあ聞くけど、ヴラドニアたちが運び込んだ支援物資。あれ、どういう意味があると思う?」

オティス  「支援物資、ったってさ」

イフォニ  「5か所ある倉庫に、キバイラは魔力源である宝石、贄である缶詰、楔である聖遺物を格納させたんだ」

オティス  「っ!?そんなもの、なんのために」

イフォニ  「キバイラが行う術のためさ。上から見ると、綺麗な五角形を描ける。これを別の結び方をすると・・・こうなるのさ」

オティス  「五芒星・・・まさか、これ魔法陣になってるの?」

イフォニ  「そう、町全体を利用した陣ってわけさ。こんな大掛かりなものを用意するなんて、キバイラも大胆だよね」

オティス  「ヴラドニアたちも、このままじゃまずいよな。どうしたものか・・・」

イフォニ  「言っただろ、聖遺物があるって」

オティス  「聖遺物ったって・・・何がある?」

イフォニ  「ちゃんと教えてあげるよ?黄金の盃に、神樹の枝に、神秘の水晶玉。原初の真珠に、それから――」

オティス  「・・・っ!なるほど、それは・・・あいつにはよく効きそうだな。けどなんで、そんなことを私に教えるんだ」

イフォニ  「需要と供給だよ。僕もこのまま、傍観するのは退屈でね。それに」

オティス  「それに?」

イフォニ  「世紀の対決に、一枚噛んでみたくなったんだ」

オティス  「物好きだな、私は何も払ってないのに」

イフォニ  「じゃあ、キバイラの首を獲ってほしいな。僕はそれでいい――冒険譚のころから、嫌いなんだよね」

 

 

 

キバイラ  「なんよ、原典は逃げたんか。魔法が使えんくなったくらいで腑抜けたこと。昔なら何があっても食らいついて来たやろうにな」

アニ    「お姉ちゃんは逃げてないよ!いつだって、あたしたちと一緒にいるもん!」

ヴラドニア 「リヴェに何をしたのかしら。あれほど豹変するなんて」

キバイラ  「真実を見せてあげただけやで?あの扉の向こうに何があったか・・・ふふ、真実言うんは一番の『毒』ってもんや。あそこには何があった思う?魔法使いの隠し工房や」

アニ    「ま、魔法使いの!?工房、って」

ヴラドニア 「魔法の研究を行うために、魔力供給が安定したところに構える拠点のことね」

キバイラ  「そう、其処は立地的にも適しとる。そのうえ、魔力炉があったんよ。実験のために町全体に魔力を回すためのパイプラインも残ったまんまや」

ヴラドニア 「魔力炉!?そんなものをつくることが出来た魔法使いなんて。心当たりは多くないけれど――まさか」

キバイラ  「君臨勇者やないで?ここは『アンドラの再来』とやらによってつくられた、巨大な実験場やった訳や!非道な実験を隠し通すため、王政の不都合で塗りつぶした。それが、悲劇の真実っちゅうわけや」

アニ    「フォラスさんの、実験場・・・じゃあ、ここが攻撃されたのって」

キバイラ  「証拠隠滅やろうなぁ。消しきれとらんところが、如何にも彼奴らしいけど」

ヴラドニア 「そんなことのためにロスタナを?」

キバイラ  「うちに言いなや。負の感情を集めるんに、これほど適した町はあらへん。うちも君臨勇者から聞いたときは仰天したもんや、人の業に滅ぼされた町。世界の摂理に殺された人々!そないなところに、残したままにされとる魔道具。ああ、完璧なお膳立てやこと。ここに蔓延する絶望をすべて飲み込めば、うちの術も完成するやろうな!」

ヴラドニア 「それで?ここで何をしようというのかしら」

キバイラ  「人が人を呪う。怪物が人を憎む。魔性が人を妬む。いつだって人は何かに恨ませ、恨みつらみ妬み嫉みを抱かれてきたもんや。だからうちは、それらを回収し続けた。全てに裏切られた少女。人として生きるを許されぬ女たち。正義を嫌った怪物。世界に見捨てられた青年。天上を望む傑物――人に食い物にされた鬼の妄執!その全ては同じ結末を望む。「人の世に終焉たれ」とな!」

ヴラドニア 「集め続けた・・・人への怨念を、呪いの材料にしたというの?」

キバイラ  「あとはこのロスタナと、あんさんらを飲み込んで全部終わらせる」

ヴラドニア 「そんなこと、させないわ!」

キバイラ  「ああ、嘗められたもんや。原典は留守番、竜騎士はリヴェと戯れとる。そないな状況で勘違い王女と欠陥魔法使いだけでうちと太刀打ちできると思われるなんぞ――屈辱でしかあらへんわ!」

ヴラドニア 「その魔法使いに、前回してやられたのは誰かしらね!貴方相手に出し惜しみはしないわ。レギンレイズを抜きます」

キバイラ  「なるほどなぁ。原典の穴を補うために、近接用の銃を持ってきたんか」

ヴラドニア 「アニさん!支援は任せます!」

アニ    「うん!任せて!」

キバイラ  「そないなもん持ち出したところで、当たらな意味が・・・な!」

ヴラドニア 「弾も変えてるわよ!拡散弾、御存じかしら!」

キバイラ  「射程を犠牲にして、着弾範囲を広げとるんか。後ろからは船とアニちゃんからの支援攻撃・・・鬱陶しいな」

ヴラドニア 「私にもこれくらい出来るのよ!嘗めないでよね!」

キバイラ  「阿呆か。接近戦言うんはな、徒手格闘ができてこそや!」

ヴラドニア 「しま、っ!?がぁ!っ・・・蹴り、飛ばされた。骨、が・・・」

アニ    「ヴラドニアさん!?ぼ、防御間に合わなかったー!」

ヴラドニア 「平気です。この程度、オティスさんなら!」

キバイラ  「くだらん、くだらんわ。原典への憧れだけで、忠誠だけで、小手先の芸だけで!うちを殺せると思ったその思い上がり!万死に値するわ!」

ヴラドニア 「ベニオット、手こずってるのかしら。早く来てほしいのだけれど」

キバイラ  「決めた。アニちゃんだけでええかと思うたけど――あんさんも壊す」

ヴラドニア 「負ける、ものですか!剣はレギンレイズの刃で受けて・・・っえ!?」

キバイラ  「あっさり折れたやん。基礎の基礎もなっとらんのに、勇者になんぞなるからや」

ヴラドニア 「まだよ!拡散弾を、きゃ!?」

キバイラ  「銃口を壊せば、弾は撃てんよなぁ?これで手詰まりや、勇者!」

ヴラドニア 「あ、う・・・」

キバイラ  「武器が無くなったら何もできんくせに、こないなところにのこのこ来るかやら。竜騎士のほうが、まだ可能性はあったで」

アニ    「ヴラドニアさん、一旦退いて!」

キバイラ  「逃がさんわ!煙幕!」

アニ    「っ!やられた、これじゃどこに二人がいるかわかんないよ!」

キバイラ  「これで、邪魔は入らん――血染めのヴラドニア、覚悟はええか?」

ヴラドニア 「まだ、負けたわけじゃないわ!」

キバイラ  「ならあんさんには、これをくれてやろうかいな。『穿刺蛮行(せんしばんこう)・応報帰属(おうほうきぞく)』」

ヴラドニア 「な・・・ぐふっ!?が、は!げほ、げほ!これ、は・・・」

キバイラ  「あらあら、血なんか吐いてしもうて。苦しそうやな、辛そうやな」

アニ    「煙幕には、風魔法!全部飛ばした・・・ヴラドニアさん!?そんな、何が!」

キバイラ  「人が人である以上、因果に縛られ続けるのは世の常。罪のない人間など居まへん・・・誰しもが抱える因果を増幅し、命を蝕む。これがうちの最終兵器、人間にしか効かん応報の呪いや!」

ヴラドニア 「力が、入らない・・・息、が。詰まる・・・く、ぁ」

アニ    「あらゆる異常の悪化ってこと?そんな、ものが」

ヴラドニア 「悪化、ですって?げふ、ごほごほ!なに、が」

キバイラ  「へえ、思ったより効いてるみたいや。随分と身体に無理させてたんやな?当たり前か、何せあんな豪勢な船を一人で動かしてるんやもんなあ?勇者特権とて、その負荷までは拭えへん。心臓も肺も、消化器官も弱ってる。魔力も綻びてるなあ」

アニ    「増幅、だなんて・・・ヴラドニアさん、そんなに無理してたの?」

ヴラドニア 「く、あなたは・・・なにをっ、したの?震えが、止まらない」

キバイラ  「言うたやろ?因果の増幅や。あんさんの持病は勿論のこと、この呪いは精神的なところにも作用する」

ヴラドニア 「精神、ですって?」

キバイラ  「数多の命を奪ったことがそんなにも堪えてるんかいな?今まで殺した者のことが頭から離れへんのか?」

ヴラドニア 「黙りなさい!貴方なんかに、理解されたくないわ!」

キバイラ  「繊細やねえ。自身を『血染めのヴラドニア』と定義せな銃を握ることも出来へんのかいな」

ヴラドニア 「黙れ・・・黙れ!五月蠅いのよ!」

キバイラ  「いくら強くあろうとしたところで、道具だけ揃えて粋がったところで!中身が少女じゃあ英雄にはなれへんわなあ!」

ヴラドニア 「私は、血染めのヴラドニア!正義を執行し、悪を討つのが私の宿命です!」

キバイラ  「宿命で、命は奪えんよ?人を殺すのはいつだって悪意や」

ヴラドニア 「そんなこと・・・げふ、げほ!

キバイラ  「ああ、苦しそうやなぁ。元々肺が弱かったんやね、激しい運動が出来へんから、戦艦と魔法銃を手にしたわけか」

アニ    「え?肺が、弱いって・・・そうだったの」

ヴラドニア 「理解した気になど!」

キバイラ  「なっとらんよ。しかし――ふふ、持病の悪化、か。ほうかほうか」

ヴラドニア 「何が可笑しいの!私は、この程度枷とすら思っていないわ!」

キバイラ  「まるで、お兄さんみたいやねぇ」

ヴラドニア 「・・・え」

キバイラ  「んー?第一王位継承者バラド。彼が身罷られたんは心臓病の悪化、やったよね。回復に向かっていたはずの心臓病が突如悪化し、この世を去った。はてさて、なんでやろうなぁ」

ヴラドニア 「まさ、か・・・」

キバイラ  「うちは、人に毒や呪具を売ることもある――あんさんに打ち込んだんと同じ呪具、高く売れたで?」

ヴラドニア 「あ、あう、あ・・・うあああああああああああああ!!」

キバイラ  「愚かやな、愚かやなぁ!己の欲を満たすために、時には長さえ喰ろうてしまう!良かったなあ血染めの!あんさんのお兄さんは、本当に殺されてたわけや!人の欲という獣に、食われてしもうたなぁ!」

ヴラドニア 「お前、お前!お前ぇぇぇぇぇぇえええ!!」

キバイラ  「うちが直接殺したわけやあらへんよ?人が包丁で刺し殺されたとして、包丁をつくった刀匠を責めるんはお門違いや!」

ヴラドニア 「どうしてバラド兄様を殺した!お兄様を殺す理由がどこに在った!」

キバイラ  「そう望む者がいたからや!それ以上の理由なんぞあらへんわ、動機と手段さえ揃ってしまえば、簡単に人は死ぬんやからな!」

ヴラドニア 「許さない・・・あなただけは、絶対に許さない!殺す!」

キバイラ  「怒りに任せて引き金を引く、か。正義の執行人も堕ちたもんやな」

ヴラドニア 「かひゅ――あ!?しま、銃を!」

キバイラ  「引き金引く力も入らんか?銃、簡単に奪えてしもうたよ――人は息できんくなったら死んでまう。けど、息をすればうちん霧を吸い込んでまう。坩堝やなあ?抵抗諦めて、大人しゅうしてるんが楽よ?」

ヴラドニア 「私は・・・わたしはヴラドニアだ!」

キバイラ  「かっこええなあ。けどな、実力と大義を弁えん勇猛は「蛮勇」言うんやで?さて、と。こうやればええんかな。ばーん」

ヴラドニア 「っが!?あ、う、うううううう!いや、ああああああ!」

キバイラ  「魔法銃か・・・ええな、簡単に貫けるんやね。あと3発・・・どれ」

ヴラドニア 「ぐ!?やめ、あうっ!いや、があああああああ!?」

キバイラ  「ええ悲鳴やこと。ああ、ああ。人の文明も馬鹿には出来んな!血染めのヴラドニア、悪と言う名の返り血で染まる予定のその装束を!己の血で染める気分はどうや!」

ヴラドニア 「あう、ぐ・・・わた、しは――が、ふ!げほ、げほ!」

キバイラ  「さて、そろそろとどめを・・・っな、誰や!?」

オティス  「させないよ」

キバイラ  「なんや、原典やないの」

オティス  「ヴラドニア・・・ごめん、無茶させたね」

ヴラドニア 「そんなこと、ないわ・・・私が、何もできなかっただけ」

オティス  「もう心配いらないよ。此処から先には、行かせない」

ベニオット  「っ・・・間に合わなかったか」

オティス  「ここはいい、ヴラドニアを連れて撤退してくれ。呪いの所為で持病が悪化してるみたい」

ベニオット  「加勢はいいのか?」

オティス  「構わない。アニちゃんも、退いて」

キバイラ  「力の入らん身体で、一体何しに来たんや」

オティス  「お前を倒しに来たんだよ。色々考えてたみたいだけど、わかってしまえば対策も出来る」

キバイラ  「対策やと?・・・貴様」

オティス  「見覚えあるだろ?世間的には聖遺物に数えられるもの――なんて、お前なら知ってるよな?」

キバイラ  「その刀を、なんでお前が!」

オティス  「大切なもんなら、利用しなけりゃいいのに――名刀『時雨』。先代鬼の首魁にしてお前の好敵手、珠酊院が持っていた刀だ。うん、これなら七星剣よりも軽い。切れ味も申し分ないし、お前相手にはこれくらいの銘品じゃないとな」

キバイラ  「利用?って、まさか」

オティス  「本当に知らなかったのか?お前が陣を結ぶために使おうとしていた聖遺物、そのうちの一つがこれだったぞ」

キバイラ  「は、はははは・・・時雨を、うちに向ける。その意味が分かっとるんやろうなぁ!」

オティス  「お前が言えた口か?意匠返しだよこの野郎が!」

キバイラ  「く、あ・・・くそ、くそくそくそくそが!隙があらへん、筋力も強化しとらんあんさんに苦戦するなんぞ」

オティス  「悪いね、基礎的な剣術もしっかり叩き込まれてるんだよ。流して、斬る!魔法なんてなくてもやれんだよ、私は!」

キバイラ  「易々と首は取らせてくれんよな・・・く、ああ鬱陶しい!よりにもよってあんさんが!時雨を使いおってからに!」

オティス  「存外に怯むじゃないかキバイラ。仲間を利用される気分はどう?ガープ大橋で、お前が私に仕掛けたのと同じだぜ?」

キバイラ  「君臨勇者め・・・楔とする聖遺物を渡してきたとき、中身を明かさんかったんはそういうことか・・・あの野郎」

オティス  「ふーん。なんだ、お前も騙された側か。同情するよ」

キバイラ  「は!勇者が魔性に同情なん、名が泣くんとちゃう?」

オティス  「勝手に泣かせておけばいい。私は、オティスだ」

キバイラ  「じゃあ、なんでここにおる。勇者やあらへんのなら、うちを倒す道理はないやろ」

オティス  「勇者かどうかは関係なく、これは私がつけなきゃいけないケジメだ!」

キバイラ  「アニちゃんの呪いもあるし、かいな」

オティス  「そうだね。改めて聞こうか・・・お前を殺せば解けるか?あるいは、何か必要だったりするのかな」

キバイラ  「残念やけど、あれは魂に刻み込まれとる。聖遺物を転用したもんやしな、生半可なものじゃ解けまへん。うちが死んだ程度で治りゃせんよ」

オティス  「ほんと、厄介だよお前!」

キバイラ  「けんど、同じ聖遺物なら削ぎ落せるんとちゃうかな?例えば、魔を殺す酒とか」

オティス  「そんな聖遺物があるもんなのか?」

キバイラ  「あるんよなあ、これが。なあオティス、取引せんか」

オティス  「取引だって?お前と?何考えてるんだ」

キバイラ  「万全を期さんほど、うちは愚かやないよ――神便鬼毒酒を持ってる」

オティス  「っ!?神便鬼毒酒、って・・・お前が持ってたのか」

キバイラ  「鬼にとっては猛毒、人にとっては滋養の酒。うちらが辛酸を嘗めさせられた酒は、今うちの手元にある」

オティス  「たしかにあれほどの御神酒ならば、解呪くらいやってやれないことはない。けど」

キバイラ  「勿論、ただでとは言わんよ。相応の対価は頂かなあきまへんな」

オティス  「で、見返りはなんだ。私に・・・何をさせる気だ」

キバイラ  「簡単よ?時雨返せ。それから・・・うちを見逃せ。ロスタナは諦めたげる。せやから、此処から消えるまでうちには何もせんどくれやす」

オティス  「っ!?な、ば、ばかいえ!ここでお前を見逃すなんてこと!」

キバイラ  「はは、そうそう。その反応や。うちがこれから奪うであろう命を、見捨てろ言うんやからな」

オティス  「これから・・・アニちゃんが救う命と、お前が奪う命。天秤にかけろっていうのか!?」

キバイラ  「あんさんはもう引き返せへんよ?あの時――デュラハンと邂逅したその時から、あんさんはもう堕ちるところまで堕ちるしかなくなった!大切なもんを守るためには、棄てなあかんものが多いなぁ?」

オティス  「ここで・・・お前を殺して!奪ってやったっていいんだぞ!」

キバイラ  「うちが神便鬼毒酒をどこに隠しとるかも知らんのにか。他ならぬ自分が、それを悪手やと理解しとるくせに」

オティス  「っ、ほんと。嫌な奴だよお前は!」

キバイラ  「ちなみに、うちは他の解呪方法はまるで見当がつかん。御神酒もそうそう数があるわけやあらへんよ。女神の祈りでも濯げるかいなぁ?はは、現状ある可能性は一つだけや」

オティス  「・・・いいだろう。ならせめて、その御神酒先に寄越せ。偽物だったら今すぐお前を殺さなくちゃならない」

キバイラ  「そないなこと言うなら、うちも本物渡しといてあんさんに殺されちゃ敵わんわ。はは、信用問題やな」

オティス  「だったらお互い信用皆無だろ」

キバイラ  「なら逆に大丈夫やろ。お互い自分のことしか考えとらんのや、出し抜こうとしたら痛い目見るんは自明の理やろ?」

オティス  「――そうまでして、生きたいのか」

キバイラ  「奪ったんは、勇者や」

オティス  「だからこそ、だ。お前が生きる理由を知りたい。恩讐の炎に囚われてるのなら、例え全てを捨ててでも私はお前を止めなくちゃいけない」

キバイラ  「恩讐ね・・・せやな、全部殺したかった。珠酊院(しゅていいん)を騙した人間が憎い。鈴華(すずか)たちを殺した人間が憎い。うちの腕を、誇りを奪った人間たちが憎い!!けんど、そないな感情を正当化するために仲間を大義名分にしてた。首魁失格やもしれんな」

オティス  「そんなの知ったこっちゃないよ。なんにせよ、もう」

キバイラ  「あーあ。人間どもに一杯食わせて、築かれた鬼の世界見るんが夢やったんに。全部台無しや。恨むで、オティス」

オティス  「だったら、最初から間違ってたんだろうさ。皆で話し合って、人と手を取り合う未来も、あったかもしれないのに」

キバイラ  「――なあ、知っとるか?オティス。うちらが拠点にしとった鬼灯島はな、元々は人が棲んどった島なんどす」

オティス  「え、なにそれ。知らないんだけど私」

キバイラ  「鬼灯島は他の町とは違うて、独特な文化が芽生えとった。独立した国やったとも言われとったかな?それを羨んだ鬼が、鬼灯島を乗っ取った。棲んでた人間は、殺されたか、奴隷として鬼に使われた。そうして、そこに芽生えてた人間の文化を真似ていったんよ。刀とか、着物とか、口調や振る舞い、食事とかな。それがいまの、うちらまで受け継がれた」

オティス  「それ、お前らの文化じゃなかったのか?」

キバイラ  「そうやで?元はうちの祖先が、人を害し、人を真似た結果生まれたんが鬼の文化や。うちもあんさんもまだ生まれとらん、はるか大昔のことや」

オティス   「そうか・・・じゃあ、始まりからダメじゃないか」

キバイラ 「人に仇なして文化を得た鬼が、人と仲良く出来るなん、最初から有り得んかったっちゅうことや。うちもこのことを知ったんは偶々やった。多分、知っとったんは鬼の中でもうちだけや」

オティス  「だから、それを知らしめるために人を殺してたのか?」

キバイラ  「はぁ?誰がそない殊勝なことするかいな。殺したいから殺したに決まっとるやろ。人間なん鬼に使われるだけの存在やと、歴史が言うとるんや。鬼のほうが優れとる。現に、あんさんは最期までうちに勝てんかったやろ」

オティス  「そうか、それならいい。私も変な同情をしなくて済む。またいつかあった時は、ちゃんと殺してやるよ鬼の首魁」

キバイラ  「そうやねぇ――魔力炉使いたかったからなぁ、中身を神便鬼毒酒に変えてある。取り出すんに時間はかかるやろうけど停止しとるんなら手間やあらへん」

オティス  「出力が高かったのはそういうことか。切り離す作業の間・・・私はお前に手出しが出来ないな」

キバイラ  「ほら、時雨寄越しや。お互い、血塗られた道の上を歩いとる。飲み込まれんよう、お互い頑張ろうや」

オティス  「っくそ・・・くそ、くそ!またまんまとあいつの掌の上で踊らされた!こんなこと――アニちゃんには言えないな。顔も知らない誰かを救うはずの存在が、自分のためにそれを見捨てただなんて。そんなこと・・・言えるはず、ないよな」

 

 

 

リヴェ   「魔力炉からの御神酒の取り出しに成功しました。小さなボトルに少しだけ入っているだけでしたから、おそらくは1人分ですね」

アニ    「おお!・・・これで、あたしの呪いが治せるの?」

オティス  「うん、そうだよ。良かったねアニちゃん。本当に・・・良かった」

アニ    「うん、うん!本当に、よかった・・・よかったああああああ!うええええええええん!」

オティス  「よしよし、不安だったよね。苦しかったよね。もう大丈夫だからね、アニちゃん」

アニ    「ぐす・・・うん!これからは、ちゃんと皆の傷を治してあげられる!ふへへ、嬉しいなあ」

リヴェ   「しかし、一人分です。ヴラドニアさんの滋養には使えないでしょうね」

ベニオット  「ヴラドニアは今どうしてる」

オティス  「今は寝てるよ。呪具のせいで相当やられてたみたいでね」

リヴェ   「回復は望めそうですか?」

アニ    「うーん、どうかな。キバイラの呪いで病状が悪化しちゃってるんだ。今から回復魔法を取り戻して呪いを消したとしても、病気そのものは治せないと思う。ヴラドニアさんの持病ってことなら、回復魔法でも治せないんだ」

ベニオット  「だよな・・・しばらく様子を見るしかないな。現状として、オティスも完治しているわけじゃない」

オティス  「私は心配いらないよ?もう薬の効能は消えたから、魔法はちゃんと使えるようになった」

ベニオット  「とはいえ、しばらく大きな動きは出来んな。ちょうど『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』も駐留している、治療を頼んでみよう」

リヴェ   「何事もなくて、よかったです」

ベニオット  「お前は、これからどうするんだ」

リヴェ   「ロスタナの実験場を封印します。ここがまた悪意に晒されないよう、守っていくのが償いであると思います」

ベニオット  「無月剣がなければ、早々開けられるものでもないと思うがな。とはいえ、そうだな。あれはなるべく秘匿しておくものだ」

アニ    「キバイラ、無月剣置いて行ったもんね。これ、どうしよう」

オティス  「・・・ベニオット。これ、打ち直したら欲しいか?」

ベニオット  「無論、使えるものならば有難く使うが・・・いいのか?黒騎士のモノだろう?」

オティス  「宝物庫で腐らせるよりは、腕の立つやつに使ってもらったほうが剣も黒騎士も喜ぶだろ。何より、お前が持っておけば抑止力になるだろ?」

ベニオット  「打ち直しと簡単に言うが、直せるのか?折れた剣を元通りにするのは困難だ、ましてや聖遺物級の剣となればさらに困難だ」

オティス  「知り合いにいい鍛冶屋がいる。そこは心配ないよ」

ベニオット  「そうか・・・それで、リヴェ。これからも勇者は続けていくのか?」

リヴェ   「特権は――棄てます。権利で町民を抑えつけ、悪事で儲けるのもやめにします。正しき町長として、町民と同じ立場でロスタナを復興に導きます。どうせ、誰かのために消費すると決めた命です。ロスタナのために費やすのが、『僕』なりの償いです」

オティス  「そう・・・そういうのもあるか。紋章を取り除くのは大変だよ、がんばりな」

アニ    「お姉ちゃん、また焼いて消したりする気じゃないよね?」

オティス  「あれはしっかり癒着してない紋章だからやれたんだよ。適合してる紋章は皮膚を焼いた程度じゃ消えやしない。それこそ切り落とすくらいの気概は必要だよ」

リヴェ   「・・・そうだ、裏稼業の記録を渡しておきましょう」

オティス  「裏稼業・・・って、なにやってたんだっけ」

リヴェ   「違法なものを売っていました。誰かに見られてはまずいものですから、これは床下の収納に隠してあります。何を、誰に売ったかをまとめてあり・・・ん?あ、あれ?」

ベニオット  「なんだ、どうした?」

リヴェ   「ない、ないぞ・・・リストが、丸ごと消えてます」

オティス  「それって・・・誰かが、持ち出したってこと?」

 

 

 

ネリネ    「情報屋さん、その紙の束はなあに?」

イフォニ   「これはね、原典の勇者にまつわる記録だよ。彼女がどのように作られて、どうやって運用したかが細かく記されてる」

ネリネ    「え、気になる!見たい見たい!読ませてほしいのだわ!」

イフォニ   「あとでね。汚さないようにしてくれるなら読んでもいいよ」

ネリネ    「わーい!じゃあ、こっちの束は?」

イフォニ   「ロスタナの町長リヴェが、裏でどのような悪事を働いていたかの証拠となるリストだよ」

ネリネ    「黙って持ってきたの?悪い人ね」

イフォニ   「リヴェに言ったって渡してくれるわけないだろう?それに、僕はこれが欲しくてロスタナまで来たんだから」

ネリネ    「物好きなのね。そんなもの集めてどうするの?」

イフォニ   「いかに王政が杜撰なのか。実感として感じていたとしても、物的証拠で示せるものってほとんどないんだ」

ネリネ    「そういうものなの?増えていく税金は、不満の素としては十分だと思うのだけど」

イフォニ   「勿論不満ではあるだろう。けど、増やした税金が役に立っていないという明確な証拠があったかい?」

ネリネ    「・・・ない、と思う」

イフォニ   「不満をぶつけるだけじゃ、それはクーデターになってしまう。暴力じゃ世界は変えられない、大義名分のない騒乱に意味はないのさ」

ネリネ    「だから、証拠を集めているの?

イフォニ   「僕たちは悪しき王政を撃ち滅ぼす正義の徒にならないとね。だから間違っているのが王政で、正しいのが僕たちだと民衆に分からせるには、疑念だけじゃなくて明確な証拠があったほうがいい」

ネリネ    「情報屋さんも――悪い人ね」

イフォニ   「さて、ロスタナの真実をようやく暴けた。非道な実験、理不尽な虐殺。勇者が先導して紋章を横流ししていた証拠も掴めた。今までかき集めた分も合わせて、これだけ情報が集まれば大義名分としては十分すぎる。さあ、始めようぜ君臨勇者。いよいよ決行の時だ・・・この世界全部をひっくり返す、革命の狼煙を上げようじゃないか」