​原典の勇者 第5話 -湖にかかる橋 ガープ大橋- /♂×2 ♀×4 / 嵩音ルイ

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所要時間:160分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス 23歳 ♀

 

どこからか来た旅人。

飄々としており温厚。悪しき勇者を駆逐する旅をしている。実は甘えたい願望が密かに強い。

「原典の勇者」と呼ばれる、魔龍を封印したかつての勇者。少なくとも、世間的にはそうである。

 

アニ 12歳 ♀

オティスの仲間。魔法使い見習い。魔法も料理も邁進中。

好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。強い女性へのあこがれがある。

オティスのためになることは何かを常に考えている。

 

ヴラドニア 22歳 ♀

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。

元王女であり、兄の死の真相を追っている。金銭感覚がぶっ壊れている。

 

ベニオット 26歳 ♂

王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。ツッコミ役に回されがちなことに少し不満がある。

真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。

パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

キバイラ(鬼狽羅) ??歳 ♀

鬼の首魁。原典の時代の人物。

君臨勇者との契約により右腕『国堕とし』を取り戻す。本人さえ知らない術を扱えるようになった。

デュラハンの強化など、ガープ大橋(おおはし)では暗躍に走る。ロスタナへ向かうことを目的としている。何かを企んでいるようだが・・・

 

デュラハン ??歳 ♂

死者の憎念、生を食い散らす怪物。伝承『霧の町デュラハンの首無し騎士』より、広く世界に知られている。

ヴァンハーフの策略とキバイラの強化により姿が変貌し、会話能力と個としての外殻を得た。声がどこから出るかは謎。

今の彼はもはや個性無き何かではなく、世界が置き去りにした黒騎士の残滓そのものである。

 

ウォースロット(兼ね役推奨) 27歳 ♂

かつてのオティスの仲間。黒騎士と呼ばれる、当時世界最強の竜騎士。

人と会話する際に一切言葉を選ばないため、相手に誤解されがち。根は素直。料理の腕は一流。

彼がオティスの仲間となり手にした剣は無月剣と呼ばれてる。七星剣には劣るが、こちらも聖遺物級の聖剣である。

 

クタン (兼ね役推奨) 25歳 ♀

非営利支援団体『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』医師長兼団長。各地を回り、治療や物資支援を行っている。

根は真面目で、部下からの信頼も厚い。時には大胆な行動を見せることもあるが、普段は大人しい。

支援活動の一時的な護衛として、ヴラドニアに声をかける。

――――――――

役表

 

オティス(♀)・・・

アニ(♀)・・・

ヴラドニア+子供B+女1(♀)・・・

ベニオット+男1(♂)・・・

キバイラ+クタン(♀)・・・

ウォースロット+デュラハン(♂)・・・

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オティス  「せい!や、この!ああもう鬱陶しいな、蛇のようにスルスルと!」

ウォースロット「受けるばかりでは立ち行かないぞ、それ一閃。こうすれば、お前は後ろに半歩下がる。そこをこう、だ」

オティス  「っげ!うわ足払われた!?あー、くそ!またかもう!」

ウォースロット「終わり、だ。これが本物の剣ならばお前の首は飛んでいた。今回も俺の勝ちだな」

オティス  「また勝てなかった、か。これで370敗目かな?」

ウォースロット「数えてはいない。未だ一度も負けていないことは覚えてはいるがな」

オティス  「うーわ、嫌味なこって。どうやったら勝てるもんかな」

ウォースロット「戦いとは如何に自分の得意技を押し付けるかだ。とはいえ、お前も腕を上げている」

オティス  「負けっぱなしだと全然実感ないんだけどな」

ウォースロット「そんなことはない。途中、俺のフェイントに引っかかっていたろう?」

オティス  「・・・ん?え、何言ってんの?」

ウォースロット「アンドラから聞いたのだが、俺のフェイントはフェイントになっていないそうだ。相手が反応する前に攻撃が出ていると。

      要は、早すぎて相応の実力がないと反応すらできないそうだ。よかったなオティス」

オティス  「こんな癪に障る褒め方されたのはじめてなんだけど!」

ウォースロット「ともかく、お前は強くなった。まだ単純な剣術では俺には敵わないがな。もっと磨き上げる必要がある」

オティス  「こいつ腹立つわー・・・磨くって?二本使うとか?」

ウォースロット「いいや、お前に二刀流は合わないだろう。だが発想はいいな、片手で剣を持ってみろ」

オティス  「片手ェ!?あの、私が使ってるの一応両手剣だよ?レプリカとはいえ、七星剣と同じ重さにされてるし・・・」

ウォースロット「いいや、それでいい。魔力強化を腕に回せ。そうすれば剣を持ったまま左手が空くだろう」

オティス  「空くね。え、何させる気?爆弾とか投げる?」

ウォースロット「お前は魔法が使えるだろう、放て。防御でも攻撃でも妨害でもなんでも構わない。俺にはないお前の強みを生かせ」

オティス  「戦闘に魔法を織り交ぜろってこと?どうなのそれ」

ウォースロット「魔物相手に正当な戦いができると思うな。使える手は多いほうがいい」

オティス  「・・・じゃあお前相手に討ち合ってないで実戦でやったほうがよかったんじゃない?」

ウォースロット「基礎もなしに発展は出来ないだろう。四則演算もなしに方程式は解けない」

オティス  「んー。まあわからなくはないけどさ」

ウォースロット「だからこその3か月のこの訓練だった。戦闘の基礎と、相手の見方は叩き込んだはずだ。地固めは済んだ」

オティス  「じゃー、いろいろやってもいいの?加減は?」

ウォースロット「必要ない、その構えでもう一度やるぞ。相手の動きをよく見ろ、常に相手がやりたいことを考え、嫌がることをやれ」

オティス  「あんまり釈然としないけど、ま!やってみればわかるぞっと!」

ウォースロット「おっと。威力が増したな。いい突進だ、魔力強化が上手く働いている」

オティス  「ああ、結構振りやすいかもだ!突き、払いからの!っと、ここだ!」

ウォースロット「狙いが甘い。慣れていないな、隙が出来たぞ」

オティス  「わざとだよ!閃光魔法!」

ウォースロット「な、目くらまし!?どこに・・・っ!成程、死角に回り込んだわけか」

オティス  「はい、こうすれば後ろから首を刎ねられる。はは、は。やったー!ようやく1勝だー!」

ウォースロット「成程、やはり魔法を織り交ぜたほうが動きがいい。少し剣術から型を崩したほうが振るい易いか?」

オティス  「かもね?選択肢が多いほうが戦いに幅が出るし、かっちりしたのは性に合わないみたい」

ウォースロット「ならその方向性を詰めていこう。俺に勝ち越すことが出来たら、もう十分に戦士としてやっていけるだろう」

オティス  「・・・貯金が370もあるよ?果てしなくない?」

ウォースロット「普通の人間なら3年かけてここに到達できるかどうか、という基準だ。短期間でここまで来た己の性能を誇れ」

オティス  「じゃあもう一度だ、いくぞ!」

ウォースロット「来るといい。俺に対し、同じ絡め手が二度も通じると思わないことだ」

 

オティス  「おっ・・・と?うぅん、なんだ夢か。昔の夢見たの久々だな、ベッドでゆったり寝たからかな?」

アニ    「んん、お姉ちゃん。もう朝なの?」

オティス  「陽は上がってるけど・・・この辺りの海域は安定してるな。二度寝決め込もう、休めるときに休んどかないとね」

アニ    「わかったぁ・・・むにゃ、おねーちゃん、こっちきて」

オティス  「はいはい、私はここだぞーっと。まったく、かわいいなあアニちゃんは」

アニ    「んぬぬう、なんでよぅ」

 

 

 

デュラハン 「他愛なし・・・やはり、身体自体に鈍りはないな。死す前の全盛の俺が、そのまま再現されていると見える」

キバイラ  「なんや、全部殺してしもたんか。せっかちやねえ?ここに来い言うたのはあんさんやのに、待てへんかったん?」

デュラハン 「ようやく来たか。予定よりもはるかに遅いが何をしていた。この辺りの殲滅はすっかり終わってしまったぞ」

キバイラ  「しかしまあ、誰も彼も首を刎ねて。うちも試したいもんがあってわざわざ用意したのに、どうしようもあらへんやんか」

デュラハン 「道草を食うとは心に余裕があっていいな。俺も見習うべきだろうか?どうも思考が凝り固まっている」

キバイラ  「おお、なんとも嫌味な人やこと。いいや、もう人間ですらないか。死者の怨念、幸福を妬む怪物デュラハン。

見れば見るほど不思議やなあ、首がないのにどうやって喋っとるん?」

デュラハン 「俺たちの真相の是非はどうでもいい。肝要なのはそこではあるまい・・・貴様の右腕、そのような代物だったか?」

キバイラ  「うちは人間嫌いやけど、人の思い言うもんも案外馬鹿に出来へんなあ思うんよね」

デュラハン 「それを人の思念の負の象徴たる俺たちに説くか?面白いな」

キバイラ  「うちの右腕、どこぞの黒騎士に落とされたんやけどな?うちが回収出来へんように、丁寧に封印かけられたんよ。

       そのおかげでずっと手出し出来へんくて、回収出来へんまま現世までそのまんまやった。

人間はどうも目敏くてなぁ。そういう代物って、なんか隠された秘密があるんちゃうか?思うわけや。

『あの黒騎士たちがわざわざ封印するなんて、鬼狽羅(キバイラ)の腕はよっぽど危なっかしいものに違いない』、とな。

       そう民衆に噂が広がり、その仮説を基にした御伽噺なんかも出来たそうや。えらい流行ったらしいけど?」

デュラハン 「ああ、そのような絵巻があったか。耳にしたことはあるな。お前を主役に据えるなど正気とは思えないがな。

そうはいっても所詮はただの作り話――だったはず、だがな」

キバイラ  「月日が経ってしまえば作り話でないなんて証明出来まへん。噂は物語に。物語は歴史に。そうして虚妄は現実に。

       人の祈りっちゅう力は、時に現実にさえ力を与えるもんや」

デュラハン 「原典の勇者も然り、この俺たちも然りか。わからないものだな、人間というのは」

キバイラ  「そうして、ただ普通の腕やったはずのうちの右腕は聖遺物級まで力を蓄えた――呪いの腕と化したわけや」

デュラハン 「ふむ、禍々しい気を感じる。なるほど、まるで皮肉だな。人を何より嫌うお前が、人の力で強化されるとはな」

キバイラ  「忌々しいけど、うちは鬼や。人の宝なら、奪えるもんはきっちり奪わせてもらわんとな。これでうちは、今度こそ」

デュラハン 「お前の矜持は構わないが、『俺』には関係ないことだ。こちらにも目的があることを承知してもらおう」

キバイラ  「なぁんよ、気ィ削がんといてえな。ちゃんとわかっとうで?お互い狙うもんは一緒なんやから」

デュラハン 「ならばお前は契約の通り、俺を武器として使うがいい。そのための魔轟同盟(まごうどうめい)だろう?」

キバイラ  「そうやね、怪物には怪物の矜持がある。あんさんはそうなってでも、払わなあかん汚名があるもんなぁ」

デュラハン 「腕を取り戻したのなら、かつてのような高位の術も可能だろう。絶対遵守の呪い――ギアスを以て俺を強化しろ」

キバイラ  「せやねえ。存在そのものに働きかけるギアスなら、あんさんを強化することも十分できるわな。

単純な強化でええと思うけど、はて。どんな制約をかけようか・・・ふむ、これでええかな?

       汝、一切の攻撃を受けてはならぬ。黒き刃と虚ろの盾は、その限りは嵐の如く猛り狂うだろう。

       然らば、汝に厄災の咎を与えよう。その力を以てして、光を堕とす闇と成れ!」

デュラハン 「相変わらず粗削りだな・・・ふむ、とはいえ効果は絶大だ。力が満ちている。俺の無月剣も、黒き魔剣へと墜ちた。

これで俺という器は完全となった。今ならば、女神さえも殺してみせよう」

キバイラ  「これが、今のうちが用意できる最強の矛や。こっちの準備は万全やけど・・・はて、勇者一行はどう動くかなぁ?

お膳立てはここまでにしたいんやけど、これで乗ってくる思う?」

デュラハン 「今までの情報を揃えているなら勘付くだろう。そもそも、ここ周辺の被害の多さに気づかぬ勇者ではあるまい」

キバイラ  「せやろな。これでなんも思わんならいよいよ勇者もおしまいや。ガープ大橋(おおはし)は陸路の要の一つ。

       このまま無下に壊されていくんは大きな打撃になる。見過ごせるはずもあらへんな」

デュラハン 「君臨勇者が高名な船乗りをほとんど取り込み、海路を掌握しただけでは飽き足らず、か。

そして今度は陸路ときた。まったく、次は空でも取るつもりなのだろうか」

キバイラ  「彼奴とて空は飛べへんやろ。まぁ、絶対にそうやと断言出来へんのが怖いんやけどな?」

デュラハン 「奴は可能性の獣、しかして未来を掴もうと足掻く道化だ。奴の芸ならば、空を舞うものだってあるだろうさ。

       とはいえそんなもの序の口だ。奴の真なる大道芸は、世界平和の成就ときた」

キバイラ  「とんだ大口よなあ。本当に為せるなん思わんけど。そないな虚言吐いて、何考えてはるんやろ」

デュラハン 「夢を見て、愛を語るのは人間の特権だ。笑うはいいが、鬼とて同じ穴の狢だ。俺は貴様の野望を知っている」

キバイラ  「っち(舌打ち)・・・耳聡いなあ。って、あんさんに耳はあらへんか。首無し騎士やもんな?」

デュラハン 「なら貴様に奴を笑う資格はあるまい。かといって俺も笑うつもりはないがな。俺はもう夢を持つことが出来ない。

       ただ眼前を埋めるのは殺意と怨恨だ。そこに愛などない。夢想し、明日を追う姿は俺にとって眩しすぎる」

キバイラ  「あんさん、忌み言ぶつけるか誉め言葉投げるかどっちかにしてくれへん?」

デュラハン 「君臨勇者の実験の果てに『俺』は生み出された。俺も彼奴と同種、妄執により生まれた怪物になったわけだ。

       それによって結論が変わることはなかったがな。これは俺たちの因果であり、しかして俺の使命である」

キバイラ  「しかしわからんなあ。あんさんが抱いてる感情は真逆やと思てたんやけど」

デュラハン 「そうだろうな。かつての俺も、こうも堕ちた俺を許容することは出来ないだろう。しかし、納得は出来るはずだ。

       感情は確かに変化した。しかし抱いていた心情は変化していない――だから、この俺の末路は必然だ」

キバイラ  「ほう、人間はやっぱりわからんな。そないなもんに振り回されて。厄介なもんやなあ」

デュラハン 「俺の強化は終わったのだろう?ならばもう用はないはずだ。こんなところで何をしている」

キバイラ  「うちは自分でつくった呪具や毒を人に売ることがあるんやけどな?大抵の場合、こっそり顛末を見守るんよ。自分の造ったものがどないな風に使われとるか見るんが好きでなあ。あんさんもどういう末路を辿るか見たい言うんが本音や」

デュラハン 「趣味が悪いな。ともかく邪魔立てしないならそれでいい。俺はお前のやることに興味がないからな」

キバイラ  「君臨勇者かて見たい言うたと思うよ?何せ誰もが一度は思い浮かべた、世紀の決戦やもんなあ」

デュラハン 「どうだか、所詮俺は脇役だったからな。だからこその憎悪だ。俺はこんな世界を見たかった訳じゃない。

       だから、俺はこの身に変えてでも原典の勇者を殺す。今の俺にあるのは、その殺意だけだからな」

キバイラ  「あらあら、怖い怖い。野蛮な狼には、きっちり首輪を付けんとあきまへんなあ」

デュラハン 「ところで貴様の剣、そのような小さなものだったか?もう少し、倍は長かっただろう」

キバイラ  「ああ、折れてしもうたから打ち直したんよ。脇差くらいになってしもうたけど、まあしゃーないわな」

 

 

ヴラドニア 「オティスさん、紅茶はいかがかしら。良い茶葉が手に入ったんです」

オティス  「あー、ごめん。私コーヒー派なんだよ」

ヴラドニア 「そうなのですか?コーヒーは新たに買い足したので用意があります、今から淹れますね」

アニ    「コーヒーならできるよ。あたしがやろっか?」

ヴラドニア 「本当?ではよろしく頼むわ。コーヒーを淹れるのはあまり慣れていないの」

オティス  「うん、ありがとう二人とも」

ヴラドニア 「この部屋には温度調整機能も備えられています。外は寒いでしょうから、暖めますね」

オティス  「ならちょっとだけお願い。肌寒いかも」

ヴラドニア 「ではそのように。魔力に不調はないかしら?魔力回復によく効く素材を練ったクッキーがあります」

オティス  「へえ、お菓子作れるんだ。後で貰うね」

ヴラドニア 「それと、いいお香を仕入れましたの。焚いておきます。あと、それからそれから!」

オティス  「あの・・・ヴラドニアさん。少し落ち着いてもらっていいかな?」

ヴラドニア 「落ち着けませんわ!オティスさんが、あのオティスさんが私の船にいるんですもの!ここで寝てたんですもの!」

オティス  「こっちも落ち着けないというか、ていうかなんでそんなにいろいろ積んであるの?宝物庫なのか?」

ヴラドニア 「ここの広間で商談や持て成しをすることもありましたから。憂いがないよう、揃えられるものは揃えているの」

アニ    「って、うええええええ!?カラドインコーヒー!?嘘、こんなものまであるの!?これってすごい高いはずなんだけど!」

ヴラドニア 「コーヒーはいつもそれを常備していたのだけれど・・・もしかして、普通のものではないのですか?」

アニ    「違うよ!?天然コーヒーの中でも渋みが少なくて味がいいって、普通のコーヒーの10倍はするんだよ!」

オティス  「なえ、10倍!?うそでしょカラドインコーヒーってそんな価格になんの?びっくりなんだけど」

ヴラドニア 「けど、天然コーヒーは貴重なものなのよね?てっきり、それくらいの値段が普通なのだと」

オティス  「違うよ!?ああもう、これだから金持ちの言う普通って信用できないんだ!ステーキに5,000メナ払ったりするだろ?」

ヴラドニア 「え、それくらいなら安いものじゃないの?ステーキでしょう?」

オティス  「ないよ!?5,000だよ!?5,000!わかってる!?結構いいアイテムをたくさん買えちゃいますよ!?」

ヴラドニア 「そうなのね、覚えておきます。今のところお金が足りなくなったことはないのだけれど」

オティス  「・・・ちなみにいつも補給はどうやってたの?」

ヴラドニア 「シパオでまとめて買ってるわ。必要なものはいつもリストで渡しているから、宝石とかいろいろ樽単位で来るのよ。お金もその時に払ってるけど、そんなに高くないわよ」

オティス  「樽で!?」

アニ    「アイテムって樽単位で買えるんだ?」

オティス  「き、聞いたことないんだけど。王族こわい」

ヴラドニア 「第二王位継承者、ヴラドニア・リ・シャーロット――その名前は捨てました。

今の私は勇者特権者の一角、血染めのヴラドニアです。そう思っておいてくださいな」

オティス  「ああうん、そうだね。君は血染めのヴラドニアだ。王女ヴラドニアじゃあない」

アニ    「はー、久々にこんないい豆使ったよ。道具もいいもの揃ってたし、緊張したなぁ・・・コーヒーおまたせ!」

ヴラドニア 「有難うございます。使う機会もあまりありませんし、道具一式差し上げましょうか?」

アニ    「ふぇ!?い、いいの?これも結構高いと思うんだけど。ミルとかもかなり良いやつだよこれ」

ヴラドニア 「構いません。アニさんに使ってもらえるのなら、その道具も喜ぶでしょう。たしか『魔の海域』で、料理用の道具を全て沈めてしまったんですよね。あの船に攻撃を仕掛けたのは私ですから、その償いだと思ってください」

アニ    「うん、じゃあもらう!ありがとう!おいしいコーヒーたくさん淹れるね!」

オティス  「はてさて、お高いコーヒーのお味はっと・・・んん!めちゃめちゃいいなこれ!スッと飲めるし全然苦くない!」

ヴラドニア 「お気に召してもらえたのなら良かったわ。はあ、コーヒー飲まないのに買っておいて正解だった!」

オティス  「今後、普通のコーヒー飲めるか不安になるよ。クッキーも頂くね。おお、これも良いな。程よく甘いしコーヒーに合うぞ」

ベニオット  「なんだ、随分と騒がしいな。いつも賑やかだなお前らは」

ヴラドニア 「あら、もう定期連絡は終わったの?わざわざ通信機材を使わせたのだから、多少はいい情報を持ってきてくれないと困るのだけれど」

ベニオット  「当然だ。デュラハンの動向についての報告があがっていた。どうもガープ大橋(おおはし)周辺を荒らしているようだな」

ヴラドニア  「ガープ大橋(おおはし)周辺を?あそこ、陸路での荷運びには欠かせない拠点よね」

ベニオット  「でかい街道が近くにいくつもあるからな。ガープ湖にかけられた大橋(おおはし)で、たしか20㎞くらいあったよな?」

アニ     「20!?そ、そんなに長いの?橋なんだよね?」

ベニオット  「何せ、ガープ湖自体がバカでかい湖だからな、外周を周るには遠すぎる。あの橋を使わねば時間がかかりすぎるんだ」

ヴラドニア  「ずいぶん昔からあったとは思うけれど。意外と壊れないものなのね」

ベニオット  「何回か補修はされてるはずだぞ。とはいえ、崩落するような大きな破損は今のところないな」

オティス   「わらしは一回壊したほとあるけろ?(クッキーを頬張っている)」

ベニオット  「お前が補修の原因になってどうする。というか一気にそんなに食うな、リスかお前は」

ヴラドニア  「けれど、妙にガープ湖周辺にこだわっているわね。今まで、一箇所に留まることはしていなかったと思うのだけれど」

アニ     「どこに出たか、地図に書いてみる?わかりやすいと思うんだけど」

ヴラドニア  「それがいいわね。ベニオット、今までのデュラハンの足取り、全部マークしてもらえるかしら」

ベニオット  「わかった。えーと、こことここ、あとはここに、それからさっきの報告を合わせて・・・ふむ、できたぞ」

アニ     「わお、見事に大橋(おおはし)周辺ばっかりだね?」

ヴラドニア 「最近の情報とはいえ、露骨すぎるくらいに真っ黒ね。この周辺、こんなにも拠点があるなんて。知らなかったわ」

ベニオット  「交通の盛んなところだ、倉庫やら町やらで人が集うところは多い。狙われるのも納得は出来る」

ヴラドニア  「人への被害はどうなのかしら?或いは何か積み荷を取られたりとか、消えたりとかは?」

ベニオット  「そこは言うまでもないだろう、いくつか町が消えてるくらいなんだからな」

アニ     「町が、消えた・・・そんな、ことが」

ベニオット  「物的被害は、幾つか積み荷が盗まれたくらいか。聖遺物級のものもいくつかあったそうだが、詳細は来ていなかった」

アニ     「聖遺物級、って?すごいものなんだっけ?」

ベニオット  「旧いもの、かつ高貴なものとでもいえばいいか。わかりやすいものはオティス関連のものかな。

       オティスの七星剣だとか、アンドラの魔導書だとか、黒騎士の無月剣だとか。勇者冒険譚の原本もこれにあたるか。

要は時間が経っていて有名で貴重なものだ。それらをまとめて聖遺物と呼称されている」

アニ     「なるほど?わかるような、わからないような」

ヴラドニア  「それが数点盗まれた・・・何が消えたのかはともかく、気にかかるわ。魔力炉のこともあるから不安ね」

ベニオット  「それ抜きにしても、やけに固執してるな。よっぽど恨みがあるのか、あるいは誘いこまれてるか?」

ヴラドニア  「デュラハンにそこまでの知能があるのかしら」

オティス   「あるだろ。フォルレでは的確に状況を整理し、セルナを殺した。あんな行動、知能なくしてどうやるんだって話でしょ?」

アニ     「呪いの水を奪い取って、飲ませたんだよね。たしかに、全部わかってなきゃ無理だよね」

ヴラドニア  「えっと、そんな怪物本当にいるの?話には聞いていたけれど、俄かには信じ難いわ」

オティス   「目にしちゃったからなあ。ほんとは信じたくないんだけど」

ヴラドニア  「ほ、本当にいるんですね・・・では、ガープ大橋(おおはし)に向けて舵を切ることにしましょう。よろしいわね?」

オティス   「うん、構わないよ。とりあえずは――ん、何この変な音。低くて響くみたいな、鳴き声か?」

ベニオット  「ん?ああ、念波サザエだな。相手を指定せずに不特定多数に呼びかける機能があってな。

        その信号を受け取るとこの音が鳴る。多くの場合は救難信号だが・・・出たほうがいいか?」

ヴラドニア  「そうね、一応頼めるかしら」

アニ     「そ、それって出て平気な奴なの?出てみたら実はわるい勇者で、こっちを襲いに来る~みたいなのないよね?」

ベニオット  「どういう心配だ。そんなことするような勇者なんぞ、敵になるか?」

アニ     「たしかに!お姉ちゃんもヴラドニアさんもいるもんね!」

ベニオット  「俺は?」

オティス   「ともかく出てみたらいいか。このボタンを押せばいいのかな?はいはーい。どちら様でしょうか」

クタン    「ああ、よかった!ようやくつながりました!そちら。血染めのヴラドニアさんの戦艦、ゴールデン・ヴェニソン号とお見受けします!」

オティス   「ん?うーん、ヴラドニア宛てっぽいけど。どうしよっか、私が聞いてていいの?」

ヴラドニア  「私に?わかりました、代わりましょう――こちらヴラドニア。何用でしょうか」

クタン    「ここで強い勇者に出会えるとは、幸運でした・・・こちら、『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』です!

私は、医師長兼団長のクタンと申します!どうか、護衛を引き受けてくださいませんか?」

ヴラドニア  「・・・護衛ですって?」

クタン    「話だけでも聞いていただけませんか。ええと、そちらからこちらのサザエを探知できますか?」

ヴラドニア  「サザエの探知ですか・・・アニさん、この近辺で魔力反応はあるかしら?サーチで探してみてほしいの」

アニ     「やってみるね!ええと・・・あるよ。ここから10時の方向、そう遠くないと思う」

ヴラドニア  「では、そちらで一度話を聞きましょう。そこで少し待っていてくださるかしら」

クタン    「承知しました。では、お待ちしています」

ヴラドニア  「はい。それでは・・・私に対して護衛依頼、だなんて。なんとも勇者らしい依頼を出してきたわね」

アニ     「ヴラドニアさんも勇者でしょ?」

ヴラドニア  「そうでした。しかし初めてのことですわ。今までこのような頼み事をされたことはありませんでしたから」

ベニオット  「話を聞いてみるしかあるまいよ。それから決めてみるといい」

ヴラドニア  「怪しくはないと思うわ。『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』と名乗っていましたから」

ベニオット  「・・・あぁ!?なんだと!?」

 

 

キバイラ   「ゴールデン・ヴェニソン号・・・遠くからやとよう目立つ船やこと。あないなもん、見つけてください言うてるようなもんやなあ?

        とはいえ、今はその時やあれへん。うちにもやることがあるし、まずはそっちを優先しよか。

        うちにもう徒党組む仲間はおらん。なら、利用できるものは敵でも利用する。なりふり構ってる暇なんあらへんのや」

 

 

 

ベニオット  「着いたな。目と鼻の先だったが、ここで間違いないか?」

アニ     「うん!ここからサザエの信号出てたよ!」

ヴラドニア  「此処もデュラハンの襲撃を受けた町でしょうか。悉(ことごと)くが破壊しつくされているわね」

ベニオット  「ああ・・・止めなきゃならんな」

クタン    「初めまして。来ていただけたんですね」

ヴラドニア  「ええ、初めまして。貴方がクタンさんでよろしかったですね?」

クタン    「はい、改めてこんにちは。クタンと申します」

ヴラドニア  「護衛依頼、という話でよかったのかしら」

クタン    「間違いありません。かの『血染めのヴラドニア』が、このような組織の依頼を受けてくれるものかと不安でした」

ヴラドニア  「まだ決めたわけではないわ。しかし・・・『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』、ね」

ベニオット   「因果なものだな、少し前にキャリコと会ったばかりだぞ」

クタン    「え、キャリコって・・・会ったんですか!?その、元気にしていましたか?最近、連絡が全く取れてないんです」

ベニオット   「あ、ああ。元気に海運を営んでいたぞ。この間は船に乗せてもらってな」

ヴラドニア  「ええ、とても立派な方でした。しかし、君臨勇者ヴァンハーフの実験に巻き込まれて亡くなりました」

クタン    「え?なくな、ったって・・・九代目キャリコが、死んだんですか?」

ベニオット   「っ、おい。お前な・・・」

ヴラドニア  「言わなければいけないことよ。隠したとて、いずれ知ることになったはず」

ベニオット   「伝え方の話をしているんだ」

クタン    「ど、どうして!実験って、いったい何があったんですか!」

ヴラドニア  「クラーケンに知性を与えるための贄とされました。身体のほとんどをクラーケンと同化させられてしまい・・・そして」

クタン    「キャリコさん・・・ああ、なんてこと。前会った時は、あんなに元気にしていたのに!」

ヴラドニア  「私がもっと強ければ、救えたかもしれません。申し訳ありません、貴方の血縁者を・・・」

クタン    「ん?いえ、その。私と九代目キャリコさんに、血の繋がりはありませんよ」

ヴラドニア  「ほえ?そ、そうなの?三代目キャリコがつくった組織だから、てっきり貴方もそうなのだと」

クタン    「この組織は大昔にキャリコの手を離れていますから。医師長及び団長は毎度所属員の中から選んでいます。

今はどちらも私が兼任していますが、いたって普通の家の出です。キャリコとの繋がりもないただの構成員でしたよ」

ヴラドニア  「そう、なのですか・・・こほん、話を戻しましょう。護衛を引き受けてほしいとのことだけれど、詳細は?」

クタン    「私たちは医療的支援が行き届いてない町を巡っています。今回の最終目的地はロスタナです」

ベニオット   「ロスタナだと?あそこに町の機能があるのか?」

クタン    「町、というほど復興は追いついていませんけど。それでも、今も人はいるんですよ。

恵まれない町に、治療と医療器具を届ける。それが私たちの目的です」

ヴラドニア  「ロスタナ・・・ここからだと少し遠いわね。だとしたら、どうしてこちらの地方に来たのかしら?ロスタナに向かうとして、ガープ大橋(おおはし)を経由しては少し遠回りではありませんか?」

クタン    「向かえるところにはなるべく向かう方針なんです。ほら、最近この辺り物騒でしょう?ですから寄ることにしました」

ベニオット   「未だ荒れているのに来たのか?」

クタン    「傷つく人々を放置することはできません。ただ・・・そう決めたはいいですが、不安要素も大きくてですね」

ベニオット   「だろうな。みたところ、村の外縁にいたのがこの組織の全保有戦力だろう?」

ヴラドニア  「え、まさかあれで全部?装備も心許なかったわよ」

クタン    「恥ずかしながら。私有兵はいるのですが、二個小隊に型遅れの魔法銃を持たせるのが限界だったんです」

ベニオット   「それで護衛を頼むのか?本末転倒だろう」

クタン    「私たちとしても、予想外の荒れようでしたから。けど退くという選択肢はありません。ですので、今回は護衛を呼ぼうと」

ヴラドニア  「成程、経緯はわかりました。どのみちガープ大橋(おおはし)は私たちの目的地でしたから、依頼自体に問題はないわね」

クタン    「っ!それでは、引き受けてくださるのですか?」

ヴラドニア  「その前に聞いておきましょう。今回の依頼、幾らまで出せますか?」

クタン    「幾ら、ですか。そうですね、予算との兼ね合いもありますが、60,000メナほどでしょうか」

ベニオット   「なんともまた際どい金額だな。ロスタナまでだろう?結構あるぞ」

クタン    「パトロンに掛け合えば、もう10,000は出せるかもしれません」

ヴラドニア  「計70,000メナ、ということ?ふむ・・・わかりました。その金額ならば、今回の依頼は引き受けるに値するでしょう」

クタン    「本当ですか!?ありがとうございます!」

ベニオット   「いいのか?交渉の余地はあったと思うぞ」

ヴラドニア  「事のついでです。お金にそこまで頓着していませんし、よっぽど低く見積もられない限りは了承する気だったわ」

ベニオット   「それでいいのかお前」

ヴラドニア  「構いません、現状は私財で賄えていますから。それに・・・ほら、私って外から見た印象はよくないと思うの」

ベニオット   「だろうな」

ヴラドニア  「否定はしてくれないのね?だから、こういう依頼自体来るのが珍しいの。端的に言えば、ちょっと興味があります」

ベニオット   「・・・まあ、俺も断れというつもりはさらさら無かったがな。デュラハンと相対したとき、巻き込まんかが心配だな」

ヴラドニア  「無論、引き受けた以上はしっかりやります。心配はいらないわ」

クタン    「それでは、支払いはどのようにすればいいでしょうか」

ヴラドニア  「まずは前金として20,000メナ頂きます。ガープ大橋(おおはし)到達で20,000、ロスタナ到達で30,000支払ってください」

クタン    「わかりました。用意してきますので、少々お待ちください。ええと、たしかお金の管理をしている馬車は・・・」

ヴラドニア  「さて、私たちも動きましょう。デュラハン討伐に向け、しっかり準備しないと」

ベニオット   「そうだな、まずは・・・アニとオティスはどこにいる?」

ヴラドニア  「オティスさんは七星剣のメンテナンスをしてから向かうと言っていたわ。アニさんは・・・あれ?どこに?」

 

 

 

アニ     「あれ、迷っちゃった。目印になる建物、全部壊されてるからわかり辛いよ。テントはたくさんあるけど、ここどこ?」

男1    「おや?嬢ちゃん、あの勇者さんの連れか。こんなところでどうしたんだ?」

アニ     「ああ、えっと、迷っちゃったみたいです。テントが多いみたいですけど、ここは?」

男1    「負傷者エリアだよ。ただ怪我をしただけの人はこの辺りのエリアで治すんだ」

アニ     「治す・・・そっか、そういう人たちなんだよね」

男1    「それと嬢ちゃん、色のついたテントには近づかないようにしろよ?特に紫色。そっちは危険だからな」

アニ     「え、どうして?」

男1    「隔離エリアなんだ。病気とか毒とか、感染を広げちまうかもしれねえ患者はそっちで治療するんだ」

アニ     「分けられてるんだね。上手くできてるなあ」

男1    「しかし、ここら辺の地区は少し異様だな。いつもはこんなに多くないのに、なんだってこんなに」

アニ     「多いって、何が?」

男1    「え、そりゃあ・・・いや、すまねえ。こんなこと嬢ちゃんに話しても仕方ねえよな」

アニ     「あたしも、勇者の仲間です。ちゃんと、聞かせてください」

男1    「いやいや、そういってもねえ」

クタン    「神経毒に侵された患者が異様に多いのです。ここを襲撃した何者かは、毒の扱いに長けていたようですね」

男1    「クタンさん!こんな小さな子にいうことじゃ」

クタン    「聞きましたよアニさん。魔法使いなんですよね」

アニ     「は、はい。そうです!誰に聞いたんですか、お姉ちゃん?」

クタン    「まだ幼い身で人のために魔法を扱う・・・素敵な人ですね、私もかくあるべきと思いました」

アニ     「えへへ、照れる・・・あ!だったら私にも手伝わせてほしいな!回復魔法も使えるんだよ!」

クタン    「回復魔法を?しかし、今回はこちらが依頼を持ってきた側です。アニさんを働かせてしまっては、申し訳ないです」

オティス   「ああアニちゃん。ここにいたんだ、ヴラドニアたちが探してたよ」

アニ     「お姉ちゃん?ごめんなさい、道がよくわからなくて」

クタン    「原典の、勇者・・・」

オティス   「ん、あれ?どこかで会ったことありましたっけ」

クタン    「え?いえ、今回が初めてですよ」

オティス   「だよね?やー、どうも勇者らしくないからか、大抵みんな気付かないんだけどな。よくわかりましたね」

クタン    「今の時代においてもあなたは有名人ですよ。噂はかねがね聞いております、血染めさんと行動しておられたんですね」

アニ     「ほら、名乗るようにしたからじゃん」

オティス   「怪しくない人だと思ってもらうには格好の挨拶だと思ったんだけど・・・失策だったかな」

アニ     「逆に怪しく見えたりするかもよ?」

クタン    「では貴方は原典の勇者の仲間の魔法使い、ということですか。だったら猶更、手を煩わせるわけにはいきませんよ」

オティス   「ん、なんかやろうとしてたの?」

アニ     「治療のお手伝い!このままみてるだけってのも、なんかやだし」

オティス   「うーん・・・クタンさん、でよかったですよね。少しだけでいいので、本人の思うようにさせてやってくれませんか?」

クタン    「ですが、此度の毒は本当に未知数で!何かあったらと思うと」

オティス   「なら、ここのエリアで構いません。負傷者エリア、とかですよね。なら衛生に注意すれば危険はない」

クタン    「オティスさん、しかしですね。今からの依頼のことを考えると」

オティス   「ごめんなさい。私もアニちゃんも、無視できない性格なんですよ。ほら、じっとしてられないみたいで」

アニ     「回復魔法!回復魔法はいかがですかー!おかねはいりませんよー!いかがですかー!」

クタン    「その・・・ありがとうございます」

オティス   「いいのいいの、気にしないでください」

子供B   「おねえちゃん、勇者さまなのー?すごーい!ねえねえ、一緒に遊ぼう!」

オティス   「お、いいよ~何して遊ぶ?かけっこ?それとも・・・今の子たちって何で遊ぶんだ?相撲とか?」

子供B   「かけっこがいいな!みんなあっちにいるから、一緒にやろうよ!」

クタン    「勇者というのは、どうしてこう・・・」

男1    「クタンさ~ん。サザエ鳴ってますよ。クタンさんに用があるって」

クタン    「私に?どなたですか」

男1    「わかりません。なんか、「準備は済んだぞ」といえばわかるって」

クタン    「ああ、知り合いですね。代わってください、応対します・・・こちらクタン、聞こえていますか?」

デュラハン  「無論だ、聞こえている。その口調と声を聞く限り、順調なようだなキバイラ。凡人の振りは大変だろう、ご苦労様だ」

クタン    「いえいえ、そんなことはありませんとも。まさか私も、こんなことが出来るようになっているとは思いもしませんでした」

デュラハン  「他人への変身、か。その術を300年前に使われなかったのは僥倖だった。さぞ面倒だっただろう」

クタン    「そうですね、私も同意見です。あと一つだけ。変わるのではなく、変わってるように見えるだけです」

デュラハン  「ふむ、認識操作の術ということか?他人からは違う人間に見える、と」

クタン    「幻惑魔法の一種ですね、無論穴はありますから、そこを突かれた場合は解けると思います」

デュラハン  「まあ、俺には関係のない話だ。ともかくそちらは上手くやるがいい、貴様の目的のためにもな」

クタン    「勿論です。私の目的のため、失敗は出来ませんから」

デュラハン  「ならばいい。明日の朝、例のポイントに勇者を誘導しろ」

クタン    「かしこまりました。それではまた後で・・・取次ありがとうございました。これ、なおしておいてください」

男1    「なおす?壊れたんですか?」

クタン    「え、いたって正常ですよ。どうしてでしょうか」

男1    「いや、直してと言われたので。てっきりどこか不具合があったのかと」

クタン    「ああそういうことですか、ごめんなさい。元の場所に戻しておいてくださいということです」

男1    「あー・・・戻しておけばいいんですね。承知しました!それで・・・その、クタンさん」

クタン    「ん?どうかなさいましたか。私の顔に、なにかついてますか」

男1    「いえ。あの、どちら様だったんでしょうか?声がおどろおどろしかったので、幽霊の声でも拾ってしまったのかと思って」

クタン    「ふふ、この世に幽霊なんていませんよ。まあ、それに近い知り合いでしたけど。呪われちゃうかもしれませんね」

男1    「うええ!?ちょ、変なこと言わないでくださいよ!こわいなあもう」

クタン    「冗談ですよ。古くからの知り合いです――それでは、作業に戻りますね」

男1    「は、はい!なんというか・・・クタンさん、あんな雰囲気だっけ?言葉を間違えることも早々なかったと思うけどな」

 

 

 

ヴラドニア 「さて、今のところは特に問題なく行軍できてるわね。ベニオット、そっちはどう?通信状況はよろしくて?」

ベニオット  「今のところは異常なしだ。船からは何か見えているか?」

ヴラドニア 「ガープ大橋(おおはし)が目視できるようになったわ。到達まであと5㎞程でしょうか」

ベニオット  「アニ、着いたら通行証を関所に見せてくれ。ある関所全部にだぞ」

アニ    「わかった!このへんな硬い石板だよね?」

オティス  「変な模様だな。これで何がわかるんだろう」

ベニオット  「そこに識別用の魔道具を使うと文字が浮かび上がるらしい。それが登録されたものと一致するか確認するそうだ」

アニ    「なるほど!おもしろいなあ・・・どんな魔法を注げばいいのかな?」

ヴラドニア 「オティスさんも地上からの確認をお願いします。まもなくガープ湖沿岸です、何があるかわからないわ」

ベニオット  「デュラハンの出没情報はどこでも出ていた。いつ来てもおかしくないぞ」

ヴラドニア 「さて、今回の護衛任務にあたって、一度『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』の配置を復習しておきましょう。

次の町までは、昨日渡した図の陣形で動くとのことです」

ベニオット  「馬車の陣形か。どれがどれだったかな?あまり気にしていないが、中身がすべて同じということはあるまい」

ヴラドニア 「『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』は馬車を11台保有しています。先頭と最後に私兵を乗せた馬車を配置しているわ。

       その他に医療器具用に2台、食料用が1台、倉庫代わりに1台、残りはすべて人が乗っているとのことよ」

ベニオット  「俺とヴラドニアは上から追従すればいいとして、オティスとアニがいるのは先頭の馬車だよな?」

オティス  「降下に時間がかかるから、なるべく下に居たいかなと。そうなると、やっぱり先頭の馬車かなって」

アニ    「私はお姉ちゃんと一緒のほうがいいと思ったからね!」

ベニオット  「なあヴラドニア、お前一人でこの船で戦えるのか」

ヴラドニア 「あら、不安かしら?」

ベニオット  「本来、船は複数人で操るものだろ?大丈夫なのか」

ヴラドニア 「心配いらないわ。勇者特権の力で、ゴールデン・ヴェニソン号の制御システムはすべて私の管理下にありますから」

ベニオット  「ああそうか、いつも勝手に航行してたな。あれ?けどこの前イフォニに手伝わせてなかったか?」

ヴラドニア 「たまには羽休めも必要です。今回も、場合によっては貴方に砲撃手をやってもらうかもしれません。よろしくて?」

ベニオット  「今はいいだろう。状況を見て判断する」

アニ    「およ、林を抜けたよ!わあ、綺麗な湖だね!けど、なんか抉ったみたいな形だよね。なんでなんだろう」

オティス  「いろいろ言われてるんだよね。火山で噴火して抉れたところに出来たとか、隕石が落ちて出来たとかね」

アニ    「うーん、不思議だね。水がとてもきれいだ」

オティス  「ほんとだね。鳥も飛んでる・・・ん?あれ、ほんとに鳥か?」

アニ    「わかんない。けど、翼を広げて飛んでいるような気がするよ」

女1   「ああ、ありゃあワイバーンだな。こんなところを飛んでるなんて珍しいこともあるもんだ」

アニ    「竜?ベニオットさんのアホ毛につられてやってきたのかな」

オティス  「ワイバーン、ねえ・・・っ!だめだ!ちょ、馬車を停めて!」

女1   「なんだい勇者、ビビってんのかい?心配しなくても・・・な!?」

アニ    「お姉ちゃん?なにが・・・うわあああああああああああ!?」

クタン   「っ!?全員停止!何が・・・ヴラドニアさん!上から見えますか!先頭から煙のようなものが!」

ヴラドニア 「え、何?何が起こったの!爆発音がしたわよ!?」

ベニオット  「おい、馬車ごと崖から滑り落ちたぞ!後続の馬車は無事だ!」

ヴラドニア 「いったい何が・・・どうして!?馬車が爆発するなんて!」

ベニオット  「様子を見てくる!お前は崖の下も他の馬車も、全部見えるところに陣取れ!」

ヴラドニア 「っ、ああもう!なんでこうハプニングばかり起きるのかしら!」

ベニオット  「オティスとアニには緊急連絡用のサザエを持たせてただろ!落ち着けば向こうから連絡が来るはずだ!」

 

 

アニ    「あいたぁ・・・はっ!な、何が起こったの?」

オティス  「くそ、咄嗟の防御が間に合ったのは私とアニちゃんだけか・・・斜面を滑り落ちたな、後続の部隊がかなり上にいる。

多分、魔法陣を踏んだんだろうね」

アニ    「魔法陣を?え、どういうこと?」

オティス  「設置型の罠ってこと。なにかが触れたら溜まってた魔力をオーバーロードさせて爆発させる、とかかな?

足を止めた一行を別部隊が襲おうとしているのかもね。盗賊にしては手が込みすぎだけど、最近はみんなこうなのかな」

アニ    「ええ!?じゃあ、早く連絡しないと!サザエサザエ!あれ、どこにあるの?あれ!?」

オティス  「お、落ち着いて。あくまで仮説だから。もしかしたら他に意図があるのかもしれないし」

デュラハン 「正解だ。何せ、俺の本命はお前だからな」

オティス  「っ!?アニちゃん伏せて!」

アニ    「え、なに・・・きゃああああああ!?」

デュラハン 「死角から接近したが、気配でも読まれたか。衰えていないな」

オティス  「危ないな、ここでくるのかデュラハン!ていうか首ないくせに喋れるのかよ!」

デュラハン 「見かけに囚われるとは愚かだな。それでも勇者か?」

オティス  「いや怪物に説教されたくはないんだけど?しっかし、一撃がいやに重い!やらしい剣筋、だ!」

デュラハン 「お前を殺すための用意だ、原典の勇者。歴史の遺物はいい加減眠るといい」

オティス  「っち、やなこった!こないだまで寝てたようなもんだぞこっちは!」

デュラハン 「まだ戦うことを選ぶのか、原典の勇者」

オティス  「当たり前だ!私は、人が人らしく生きられる世界が欲しいんだから!」

デュラハン 「隙が大きい。魔物相手に気を抜くなと言ってきたはずだぞ」

オティス  「っあ、く!容赦ないなくそ!綿密な剣筋が鬱陶しいな!・・・なんだ、知ってるぞ。これ」

デュラハン 「足元が疎かだ、剣に気を取られすぎだな」

オティス  「うぇ!?足払いされた!ちょ、っくそ!」

アニ    「お姉ちゃん危ない!魔法弾!」

デュラハン 「おっと、決め損ねたな。いい仲間を持ったようだな」

アニ    「お姉ちゃん、体勢戻して!」

オティス  「有難うアニちゃん!しかし、ああもうなんなんだ!やり辛い、本当に気持ち悪い!なんなんだお前!

フォルレじゃそんな卓越した技術持ってなかっただろ!武器も鎌じゃないし!まるで・・・まる、で?」

デュラハン 「人らしく、か。そういうのは真っ当な人間が吐くものだ。お前のそれはただの戯言だ。つくりものの人形が、何を宣う?」

オティス  「っ!?な・・・は?」

アニ    「つく、り・・・ん?え?どういうことなの?」

デュラハン 「稀代の魔法使いにより、七星剣に適合するよう設計され生み出された人造人間。それがお前だ、オティス」

オティス  「そん、なこと。どうやって、え?なんで知って、なにを。誰に入れ知恵されたんだ?お前なんかが、どうしてそれを」

デュラハン 「他ならぬ俺だから、だ。目を背けていたか?そろそろ現実を直視することだな。この剣に見覚えがあるだろう」

オティス  「・・・・・・無月剣?は、え?なに、そういうこと?」

デュラハン 「俺たちデュラハンは死者の無念、未練を残し散っていった行き場のない魂の集合体――その成れの果てだ。

とはいえ少し難解な存在でな、実体はあるが実態がない。貌がない故に個性も何処へやら、だ。

要はとても不安定で、お伽話に縋らねば存在を保てぬ程度の代物が俺たちだ。

依り代さえあれば俺たちの存在はそれに依ってしまう。此度は無月剣が要因で、俺という個性が押し出された」

オティス  「あ、はは。なんだ、本当にお前なのか?そんなわけが――」

デュラハン 「ほう、その疑問をお前が抱くのか?お前が勇者と成る前から、何十何百と打ち合ってきた。

剣の癖もお互いわかっている。先程の剣戟で生まれた疑念は、この剣を見て確信に変わっているはずだ」

オティス  「っあ、けど。そん・・・な、ことは。じゃあ、本当に?」

デュラハン 「そもそも愚問だろう。いくら言葉を並べようと、無月剣を手にしたデュラハンが「俺」に寄せられた事実に違いはない。

       偽物だと思うか?重ねて言うが、あらゆる否定はお前の中で結論付いているはずだ。俺は、果たして誰だろうな?」

オティス  「えあ、う・・・ちがう。そこじゃない。そこは、もう頓着することじゃあないんだ。なんで、お前がそっちにいる?

本当に「そう」なら、何で私に剣を向ける。よりによってお前が?どうして!」

デュラハン 「都合良く生み出され、都合良く使われて、都合良く殺されたお前は、それでもなお勇者であろうとする。

俺はそれが何よりも許せない。だから、終わらせるために此処にいる」

オティス  「おわらせ、に?私を、お前が?」

デュラハン 「俺は勇者を蘇らせたかったわけではない。英雄の矜持?救済?正義?そんなものは路傍の犬にでも食わせておけ。

       あの裏切りを経てなお、お前という英雄は曲がらなかった。世界の真実を知ってなお、お前は折れなかった。

       お前のその強さに、俺は何よりも憤怒している。もはや怨嗟といってもいい」

オティス  「何を。そうしたのは、救ってくれたのは・・・お前じゃないのか?」

デュラハン 「そう、救ったのは俺だ。お前に命を渡したのは俺だ。お前に絶対的な明日を与えたかった。希望を見せたかった。

どうやらそれは間違いだったようだ。俺は何よりもそのことを悔いている。だからここで、原典の勇者を殺すことにした」

アニ    「間違い?お姉ちゃんが生きていることを、間違いだなんて言わないで!お姉ちゃんはあたしを救ってくれたんだよ!」

デュラハン 「なるほど、その少女とはそういう縁か。しかし、なればなおさら度し難い。お前はなおも世界を相手しているのか」

アニ    「あなたが誰か知らないけど、お姉ちゃんのなにがわかるの!魔物なのに、なにもかも知ったようなこと言って!」

オティス  「待っ・・・アニちゃんちがう、ちがうんだよ、あいつは・・・!」

デュラハン 「オティス、俺はお前を柵から解き放ちに来た。選ぶ余地は与えよう。お前が自らで手を下すのならば、それでもいい。

だが、変わらないのならばそこまでだ。全身全霊を以って、勇なるお前を討ち殺す」

アニ    「お姉ちゃん、こんなの聞かなくていいよ!はやく・・・お姉ちゃん?」

オティス  「やめろ、やめろよ。その声で私を責めるな。その口調で殺意を向けるな。お前が、よりにもよってお前が!」

デュラハン 「俺は未来にも現在にも頓着しない。亡霊だからな。だから、過去の遺恨を晴らす。無念をここで清算しよう。

覚悟するがいい。どのような結末になろうとも、ここがお前の――帰還不能点だ」

オティス  「ウォースロット!どうしてお前が!」

アニ    「え?ウォースロットって、お姉ちゃんの仲間だった・・・っうおお!?ベニオットさんとアホ毛だ!助けに来てくれたの?」

デュラハン 「おや、オティスと少女を竜が咥えていったか?上に誰か乗っていたな、真似事としてもよくできたものだ。

上手いものだが・・・キバイラめ、ここで足止めする気はなかったと見える。横槍を許すとはな」

ベニオット  「ここでデュラハンが来るとは、都合の悪い・・・お前、殺されたかったのか!?剣を下げて呆然として!

俺が間に合ったからよかったものを!何をしていた!」

オティス  「ちがう、ちがう。だって、そんなこと、あいつが思ってたとしたら。わた、しは」

ベニオット  「オティス、おいオティス!くそ。心此処に非ずか・・・こっちはいいぞ!撃てヴラドニア!」

ヴラドニア 「早く退いて、巻き込みかねないわ!主砲、フルチャージでお見舞いしてあげる!食らいなさい!」

デュラハン 「おっと、危ない。途方もない威力だな。些か分が悪いか、相手の体制が整いつつあるな・・・長居は禁物か」

ヴラドニア 「な、あれを躱すの!?とんだ化け物ね・・・ベニオット!デュラハンは撤退したわ、一度オティスさんたちと共に戻ってきてくれるかしら!」

ベニオット  「それなんだが、オティスの様子が少しおかしい。何かあったのやもしれんぞ」

ヴラドニア 「オティスさんが?・・・万一を考えて、クタンを呼んでおきます。船の広間で、一度今後の動きについて話しましょうか」

オティス  「ウォースロット、私は、私は・・・ごめんなさい。わた、しは」

ベニオット  「っち、幻術にでもかけられたのか?一体何が・・・わからん!少しは説明が欲しいぞ!」

 

デュラハン 「まあいい、どのみち勇者である限りお前は俺を無視できない。いずれにせよ解は出る、そう遠くないうちにな」

 

 

 

ヴラドニア  「オティスさん、アニさん、無事ですか!?怪我はない!?体の調子はおかしくありませんか!?」

ベニオット   「落ち着け、二人に目立った外傷はない・・・外傷はな」

ヴラドニア  「外傷は?それはいったい、どういう」

オティス   「っは、っは、っは・・・ふ、うあ・・・息が、上手く・・・出来、な」

アニ     「お姉ちゃん、落ち着いて息を吸って?水あるよ、ゆっくり飲んで?」

オティス   「ありがとう・・・っげほ、げほげほ!えう、へんなとこ入った」

アニ     「も、もう!ゆっくりって言ったじゃん!」

ベニオット   「『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』はどう動いた?デュラハン襲撃に対し、何か言っていたか」

ヴラドニア  「今はひとまず、近くの小さな町に移動してもらったわ。そこで医療活動を行ってます。デュラハンに関しては・・・何とかしてほしい、とだけ」

ベニオット   「じゃあ、被害は馬車一台分ということか。依頼に不備は避けたかったが・・・不意を打たれたな」

ヴラドニア  「・・・崖の下で何が?」

ベニオット   「わからん。だが、デュラハンとの交戦で何かがあったとは思う」

オティス   「げほ・・・ん!(咳払い)デュラハンじゃないよ。もう、別物だった」

ベニオット   「そう、なのか?見かけ上の変化はわからなかったが」

オティス   「君臨勇者、正直舐めてたな。こんなカード用意してたなんて、考えもしなかった」

ヴラドニア  「デュラハンのこと?何か、妙な細工でもされていたのかしら」

オティス   「あいつが持ってた剣は、無月剣だった」

ヴラドニア  「っ!無月剣、ですって!?」

アニ     「うん・・・黒騎士、ウォースロットさんの持ってた剣だよね」

ベニオット  「く、黒騎士だと!?おまえ、それは本当か?」

オティス  「この私がさ、あいつの太刀筋を勘違いすると思う?私だって否定したかったさ。けど、身体がわかってるんだ

本人そのものだった。人の癖を突いてくるところとか、隙が全く無い構えとか、まさにあいつそのものだったよ」

ヴラドニア 「なんて、こと・・・ヴァンハーフ、とんでもない爆弾を用意していたわね」

ベニオット  「しかし、剣を渡せばそれで黒騎士になるわけではないだろ!そんな簡単に、故人が蘇ってたまるか!」

クタン    「・・・霧の町の亡霊、デュラハンだからこそ、でしょうか」

ヴラドニア 「クタンさん、来てくれたのね・・・どういうことか聞いてもいい?デュラハンだから、とは一体何かしら」

クタン    「あくまで素人目の意見ですが――デュラハンの伝承は、たしか一冊の本ですよね」

ベニオット  「たしか、童話だったか?霧の町デュラハンで、人を殺し回っている首無し騎士を描いたものだ」

クタン    「これが実在する亡霊の話だったとしたとして、おそらく認知度は勇者や魔龍のそれを大きく下回っていると思うのです」

ヴラドニア 「えっと・・・あの、ごめんなさい。もう少し噛み砕いてもらってもよろしいかしら」

クタン    「要は、曖昧な存在だと思うのです。忘れ去られてしまえば――存在を認知されなければ、世界からあっさりとかき消されて、居なくなってしまうほどに」

ベニオット  「今のデュラハンは、昔から伝承されてきた童話の力で存在していると?」

クタン    「そこまではわかりません。しかし、女神が人々の心の拠り所となって大きな力を持っているのと同様です。

        人の願いは、時に奇跡を起こします。私はそのような事象を何度も見てきました」

ヴラドニア 「それが、今回のことにどう関係するの?」

クタン    「伝承におけるデュラハンは、どのような存在とされていましたか?」

ベニオット  「ふむ、たしか生者を恨むもの、だったか。死者の念の集まりだというものもいたな」

クタン    「その死者の念の中に、黒騎士の念が含まれていないなんて誰が証明できますか?」

ヴラドニア 「・・・え?」

クタン    「おそらく、死者の念の集まりとされているデュラハンに、明確な自我はないのでしょう。そのようなものに無月剣を渡す。

       それにより、デュラハンの中で黒騎士が強く押し出された。その結果が今のデュラハンになったのだと、私は考察しました」

ヴラドニア 「大胆な仮説だけれど・・・わからなくは、ないわね」

ベニオット  「あんた、やけに詳しいな。医者なんだろう?」

クタン    「昔からそういう書物を読み解くのが好きでしたから。それに職業柄、呪いやら霊やらといった話もよく耳にしますから」

ベニオット  「そういうことか。ともあれ、可能性としては十分考えられるな。実存する怪物にそんなことができたとは思いたくないが」

ヴラドニア 「現に起きてしまっているの、理屈はこの際何でも構わないわ。デュラハンが黒騎士に成ってしまったとして、これからどうするかを考えないといけません」

アニ     「黒騎士さん、か。お姉ちゃんはどう思う?・・・お姉ちゃん?」

オティス  「・・・・・・え?えっと、ごめん。今、何話してた?」

クタン    「デュラハンについてですが・・・大丈夫ですか?」

ベニオット  「お前、平気か?えらく顔が青いぞ」

オティス  「いや、大丈夫、うん。なんてことないよ。今回も魔物討伐でしょ?やることは、いつもと変わらないんだからさ」

ベニオット  「いやお前な、それ本気で言ってんのか」

アニ     「黒騎士さんっていえば、お姉ちゃんにとっては大切な人なんじゃないの?」

オティス  「う、ん。そうだよ、私の仲間だった。けど、けど!あいつはもう」

クタン   「原典の勇者の右腕、黒騎士。あなたとウォースロットさんの絆の深さは、よく知っています」

オティス  「知ったような口をきくなよ」

アニ    「お姉ちゃん落ち着いて。クタンさんに文句言っても仕方ないよ」

オティス  「それ以前だよ。あいつはたくさんの人を殺してる、放置すればこれからも殺し続けるだろ。そんなの、だめだ」

ヴラドニア 「相手が明確な悪なら元仲間でも殺せる、なんてほどオティスさんは非情じゃないでしょう」

ベニオット  「俺とて、その気持ちはわかる。かつての同胞を手にかけろなんぞ言えん。此度は見逃しても誰も文句を言わんぞ」

オティス  「私に魔物を!殺戮を広げる怪物を見逃せってのか!?」

アニ    「そうじゃないよ!けど、お姉ちゃんが倒すなんてあんまりすぎるよ!」

ベニオット  「お前がやらずとも俺たちがいる。どうとでもなるぞ」

オティス  「傍観なんてできるか!脅威を見過ごして逃げろなんて、できるわけがない!」

ベニオット 「ただ立ち向かえばいいってもんじゃないだろう!それくらい、お前ならわかるはずだ」

オティス  「けど・・・けど!折れるわけにいかないんだよ!私は世界を、私を!」

アニ    「じゃあ、お姉ちゃんは「そうなった」ときに私を殺せる?世界か仲間か、どっちかなんて選べるの!?」

オティス  「なっ!?や、やめてよ!冗談でもそんなこと言わないで!私が・・・アニちゃんを、殺すなんて!できるわけがない!」

アニ    「そうでしょ?仲間を殺すなんて、出来ないんだよね?」

ベニオット  「ウォースロットはそうじゃないっていうのか」

オティス  「お前、正論言えばいいと思ってるのか」

ベニオット  「正論と感じたか?ならデュラハンを怪物だと思えてないということだ。なおさら、このまま向かわせるわけにはいかん」

オティス  「い、あ・・・それは、そうじゃなくて」

ベニオット  「そもそも、そんな焦燥した顔でよくもまあ強がれたもんだな。隠そうとしたか?見え見えだ」

ヴラドニア 「手も震えてるわね。ただ事ではないと体が言っています、当たり前よ」

ベニオット 「そんな状態でデュラハン討伐に連れて行けるか、みすみす殺されるのがオチだ」

オティス  「あれはもう黒騎士ウォースロットじゃない、怪物なんだ!わかってる、わかってるから!私にだって、区別くらいつく!」

アニ    「お姉ちゃんにとっては、そうじゃないんでしょ?」

オティス  「もう、やめてよ。私にだって、わからないことはあるんだ」

ベニオット  「そうだよな。そこなんだよ。本当にウォースロットを映し得たのだとしたら、オティスに牙をむく意味がわからない」

ヴラドニア 「頭がないから、牙もないと思うけれど?」

ベニオット  「今そういう話じゃないだろ?」

アニ    「亡霊として――デュラハンさんに囚われているから、かな。けど、それにしたってあれは・・・」

オティス  「それがわかればこんなに悩んでないよ」

ベニオット  「オティス、お前は」

オティス  「ああ五月蠅いなもう!考えた、ずっと考えてたんだ!おかしくなるくらいに!それでもわかんないんだよ!」

ヴラドニア 「オティス、さん?」

オティス  「あいつは私のために命を投げ出したんだぞ!?私の命と自分の命、天秤にかけて私を選んだんだ!」

ベニオット  「あ?ん、ちょっとまて。えと、ん、んん!?!?」

オティス  「なのに、なのに!今度は怪物になって私を殺しに来た!わけわかんないんだよ!なのにそうやって質問攻めか?

       私は万能の存在じゃない!どんなことだって答えられる生き字引じゃない!わかんないことはわかんないんだってば!」

アニ    「命を、投げ出した?ど、どういうこと?」

オティス  「・・・私は、世界を救った英雄でも何でもない。自身を犠牲にして世界を救った?はは、ばかみたいだ

       そんなこと全くやってもいないのにね。そもそも私、封印の術式の組み方知らないし」

ベニオット  「じゃあ、なんだ?魔龍はまだ現世に生き続けてるということか?」

オティス  「仮にそうなら、もうこの世界滅びてんじゃないかな」

アニ    「じゃあ、魔龍は?今、どこにいるの」

オティス  「そうじゃないんだよ・・・いなかったんだ!そんなものどこにも!グニダヘイズに、最初から魔龍なんていなかったんだ!」

ベニオット  「な、なんだと!?魔龍がいない!?」

オティス  「初めから全部間違ってたんだ。魔物の主をでっちあげて、そいつを倒してきたことにする。

そうすることで、主なき魔物なんぞもはや脅威にならないぞ、と恐怖におびえる人民たちの不満を取り除く。

それが当時の王が考えたシナリオだ。私はそのために用意された、仮初の英雄サマってわけだ」

ヴラドニア 「勇者冒険譚は、そのシナリオに則ってつくられたということね」

オティス  「ほんと、馬鹿だった。私は何も疑っちゃいなかったんだ。考えれば、おかしいことばかりだったのにね

       18歳の頃、勇者に成る者として王都に呼ばれる以前の記憶がほとんどないんだ」

ベニオット  「記憶がない?お前、何も思わなかったのか?」

オティス  「自分が誰か、何をすればいいか、何になればいいか、基礎知識は全部あった。だから疑問にも思わなかったんだ

       ああ私は勇者として戦って、顔も知らぬ誰かを救うために生きてきたんだって、そう思った!

       けど違った。初めから全部、生きる意味を間違えていた。死ぬために生きてたなんて・・・思いもしなかったんだ」

アニ    「死ぬために、生きる?じゃあ・・・お姉ちゃん。さっき黒騎士さんが言ってたことって、本当なの?」

オティス  「さっき、って・・・ああ。やっぱり聞いてたんだね」

アニ    「聞いてたよ!ちゃんと全部!じゃあ、「お姉ちゃんが人間じゃない」っていうのは、本当なんだね?

都合よく生み出されて、使われて・・・殺されたって本当なんだね!?どういうことなの!まったく、わかんないよ?」

ベニオット  「ちょっと待て、情報過多すぎて頭が痛くなってきた。は、え?何がどういうことだ?」

オティス  「みんなはさ、考えたことない?七星剣を唯一振るえる人間がたまたま見つかるなんてこと、ほんとにあると思う?」

ベニオット  「言われてみれば、確かに幸運だったなとは思ったが疑問は持たなかったな。ん?そこも、シナリオなのか?」

オティス  「そんなもの、予め用意されたに決まってるでしょ。言うのは簡単なんだけどね。アンドラに造られた人造人間です、って」

アニ    「やっぱり、そうなんだね。お姉ちゃん、が・・・」

ベニオット  「いや、おかしいだろ。そうまでして生み出されて、なぜあんな結末になった?お前は、300年間どうなってたんだ」

オティス  「この手の大がかりなシナリオを書くときはね、主人公はいなくなった方が都合が良いんだよ。口封じができるから。

それに、世界を救ったという多大なる貢献の対価を払わずに済むからね。つくりものなら、殺しても心は痛まない」

アニ    「じゃあ、お姉ちゃんはもしかして」

オティス  「うん。一回殺されてるんだよ私、アンドラによってね」

 

 

 

キバイラ  「はー、しかし疲れるわあ。人間に成りすますんも簡単やあらへん。たまには息抜かなやってられんなぁ」

デュラハン 「俺を暇つぶしに使うとはな。見上げた精神だ、俺も見習おうか。ところで貴様、ここにいていいのか」

キバイラ  「ああ、ちょっと細工してきたから平気や。しかし・・・魔龍はおらんときたか。随分と壮大な絵空事やねぇ」

デュラハン 「当初は兵士を勇者として仕立て上げる予定だった。しかし、平和ボケした王都の兵士の練度は知れたものだった。

かといって俺のような有能な兵士を使うことを王は嫌がった。所詮は使い捨て前提の駒だからな」

キバイラ  「自分で有能って言うんかいな」

デュラハン 「そこでアンドラが提案したのが勇者となるものを作ってしまうことだった。最初から使い捨てる命なら惜しむことはない。

実際のところ、アンドラは魔法技術への投資が欲しかっただけだろう。欲だけは一丁前だったからな。

しかし人間をつくるという誰も挑んだことがなかった命題だ、研究は難航したとも。しかしアンドラは腐っても天才だった。

数多の失敗と苦難と犠牲を経て、幾多の命が失われた果てに17番目の勇者『SIVA-17ρ(シヴァ・セブンティーンロー)』、オティスを完成させた」

キバイラ  「17・・・ほう、それくらいやったんやね。腐っても天才魔法使いてことかいな」

デュラハン 「完成とは言うが、細胞の劣化が常人より早く、心臓が弱いために補助装置代わりの宝石を付けていた始末だ。

それが災いし、5年程度しか寿命がないという弊害が生まれた。しかし、勇者としては5年も持てば十分だった。

世間への根回しを周到にされ、勇者としての訓練を経て、オティスは旅に出た。目指すはもちろん、グニタヘイズだ」

キバイラ  「けど魔龍はおらへんのやろ?行ってどないするん?」

デュラハン 「オティスがグニダヘイズに到達した時点で目的は成されたも同然だ。そこでオティスは殺された」

キバイラ  「それなんやけど、なんで殺す必要があったん?別に情報操作なんいくらでもできたやろ?」

デュラハン 「大団円を生み出すためだ。正義の象徴である勇者は自身を犠牲にし魔龍を封じ込めた、という終幕をな。

自己犠牲と博愛に満ちた英雄譚を民衆に思いこませるために、勇者はグニタヘイズで終わらせる必要があった」

キバイラ  「なら、今生きとるオティスは何者なんや?」

デュラハン 「俺自身、このシナリオには思うところがあった。殺すために生んだ命とはいえ、使い捨てるのは人道に反する。

しかし、この作戦による世界情勢への影響も無視できなかった。俺はその瞬間まで、決めることができなかった。

愚か者だ、結局俺は世界とオティス、どちらも選べなかったのだからな

だからどちらも選ぶことにした。世界の平穏も、オティスの人並みの明日も、どちらも欲しかった。

俺はアンドラを殺し、フラウを見逃し、自身の命を以てオティスに蘇生の秘術を施した」

キバイラ  「・・・なんやて?蘇生の秘術やと?」

デュラハン 「オティスが短命たる所以は、使い捨てることを前提に設計していた故の耐久性の低さだ。特に心臓だな。

要は強靭な核を与えて蘇生させることが出来れば、人間と遜色無い生活を送らせることが出来る。

具体的に言えば、今の原典の勇者の心臓は俺のものに置換されている」

キバイラ  「核のすげ替え、か。そないなことが出来るんかいな。知らんこともまだまだあるもんやな」

デュラハン 「我が一族に伝わる秘術がある。尽きかけた命で足掻き、術を使ったのちに封印の処置をかけた。

自慢ではないがやればなんとかなる性質でな。その果てに俺は絶命し、オティスに300年の空白を与えてしまった」

キバイラ  「長いこと表舞台におらんかったのはそういうことか。そやけど、なんでそない長なってしもたん?」

デュラハン 「死んだ者を生き返らせるという神に逆らうに等しい不可逆的行為は、それだけ困難なことであるということだ。

悠久の時の中で破壊と修繕を繰り返し、不可能の壁を超え、オティスは再びこの世に生まれ落ちた」

キバイラ  「そない苦労して生き返らせた可愛(かあい)い可愛(かあい)いだーいじな人、なんで殺そうとしはるん?」

デュラハン 「俺が望んでいたのはオティスの存命だ。原典の勇者の復活ではない」

キバイラ  「一緒やないの?」

デュラハン 「異なる。米を発酵させ酒を作ろうにも、腐ってしまってはどうにもならないだろう」

キバイラ  「・・・ふむ、まあ理解はでけるな。お膳立ては任せてもろてええよ、好きにやりよし」

デュラハン 「物好きめ。では、再び動くとするか」

 

ベニオット  「まさか、だな。魔龍がいないという事態も仰天ものだ。それ以上に・・・お前が、生き返った存在だったとは」

オティス  「核を喪って死のうとしている私に、ウォースロットは命を差し出したんだ。封印をかけられて300年間眠り続けた。

       蘇生が終わって目覚めたとき、何が起こったかもわからなかったんだ。いつの間にか、私は英雄だったわけだし」

ベニオット  「ウォースロットがお前を救ったということか。だから、オティスは今ここにいるわけだ」

オティス  「私はアンドラに殺され、ウォースロットに生かされた。その意味をずっと考えてた。何をするべきなのか。何を、したいのか

       あいつが私に何を望んで命をくれたのか。何を憎んで命を奪おうとしてるのか。わからない、本当にわからないんだ」

ヴラドニア 「オティスさんは・・・随分と、重たいものを背負っているのね」

オティス  「私は、何なのかな?目を向けたくなくて、ずっと剣を握ってた。目に見えるものを追い続けてたんだ。ねぇ教えてよ。

私はどうすればいいのかな?私は、何になればいいのかな」

ベニオット 「――そんなもの、俺が知ったことか」

ヴラドニア 「ちょっと、そんな乱暴に突き放すことは無いんじゃなくて?」

ベニオット 「喧しい。じゃあオティス、お前は俺が死ぬべきだといえば死ぬか?剣を捨て人になれと言われれば捨てるか?」

オティス  「それは・・・」

ベニオット 「死ぬだろうな、捨てるだろうな。縋りたいものがあるのはわかる。委ねたいのは理解できる。だがな、オティス!」

ヴラドニア 「ちょ、落ち着いてベニオット!」

ベニオット 「いいか、お前の人生はお前のものだ!たしかにお前の人生は、常に他者から与えられてきたものばかりだったな?

だがお前には選ぶ自由がある。ここで死ぬも生きるも、殺すも殺されるも、救うも救わないも、お前が決めていいんだ」

オティス  「ちょっと、胸倉そんなに掴まないで。くるしい、んだけど」

ベニオット 「デュラハンはお前に剣を棄てろと言ったな。しかしそれは、あいつが望むオティスの押し付けに過ぎない。

所詮は他人が描くお前だ。そんなもの、受け入れたくなければそれでいい。受け入れるならそれもいい」

オティス  「え・・・どっちでも、いいの?」

ベニオット 「お前はようやく生を得ることが出来た。だったら好きに生きろ。例えそれが黒騎士の想いを踏みにじるものだとしてもだ。

       お前が自由を謳歌することが、黒騎士への最高の恩返しだと俺は思うぞ」

オティス  「なに、それ?乱暴すぎじゃないの」

ベニオット 「初心を思い出せオティス。俺が見ている限り、人を救おうとするその気持ちは与えられたものではなく本物だ。

お前はずっと、自分で決めて来たんじゃないのか?」

オティス  「うん、決めてきた・・・とおもう」

ベニオット 「今のお前の旅は強制されたものだったか?アニを救ったのは義務感からか?それとも」

オティス  「違う!そんなんじゃ、ない」

ベニオット 「もう一度言うぞ、もう強制されることは何もない。選ぶのは、他でもないお前なんだ」

オティス  「全部、私、か・・・そっか。そういう、ものなのか」

ヴラドニア 「とはいえ、一人で全部決めさせるというのは酷な意見です、ベニオット。何のための仲間なの?同盟なの?

話し合い、分かち合い、手を取り合うのが世間的に言う仲間というものではなくて?感情に任せすぎです」

ベニオット 「ふむ、それもそうだな。早計だった」

オティス  「本当の英雄じゃないよ。それでもいいの?」

ヴラドニア 「オティスさん、こういう問いも不躾なのだけれど――勇者冒険譚に目は通したことは?」

オティス  「ない。読書苦手だし、自分が何言われてるか見たくなくて。顛末はあちこちで語られていたから知ってる」

ヴラドニア 「細かいことは知らないのね。私ね、ガープ大橋(おおはし)で単身で岩の巨人を相手にしたところが好きなの。

心情、決意、勇気。貴方の全てがあそこには在った。中盤で一番手に汗握ったのはキバイラ一派との攻防かしら?

勇者一行だからこそキバイラ達をあそこまで追い詰められたのだと思っているわ。それに――」(ここちょっと早口)

ベニオット 「お前、萌え語りに来たのか?」

ヴラドニア 「ちーがーいーまーす!そういうことではなくて・・・オティスさん、私が何を言いたいかわかるかしら」

オティス  「・・・両方、実際にあったことだ」

ヴラドニア 「実際執筆にあたり、フラウの証言が色濃く反映されたの。要は、結末以外はほとんどノンフィクションなんです」

オティス  「そう、だったんだ。知らなかったや」

ヴラドニア 「だから皆貴方に憧れるんです。貴方を想い、希望の象徴だと謳うんです」

オティス  「私は、そんな高尚なものじゃないよ」

ヴラドニア 「ずっと貴方を見てきました。偽物なんかじゃないわ。貴方の勇気は、慈愛は、覚悟は、紛れもなく本物です。

迷っても構わないのよ、オティスさん。逃げても、悩んでもいい。すべてを受け入れることを選んでもいい。

今は私たちがいるわ。貴方一人で背負えない荷物は共に背負いましょう。支え合うのが、人間なのだから」

オティス  「いいの、かな」

ヴラドニア 「構いません。そもそも、無理をしすぎなの。もう休んでも誰も文句を言わないわ」

オティス  「うん・・・私は」

デュラハン 「挑む気はないか?原典ともあろう者が怖気ついたとでも?

       まあ仕方あるまい、俺で言うのもなんだがこの強化は見事なものだ。俺ですら慄くほどにな」

ベニオット  「おわあああ!?なんだ、何か突っ込んできたぞ!砲撃か!?」

ヴラドニア 「きゃああああ!!また船が壊された―!!直すの大変なのにー!!」

オティス  「っ!ウォースロット!」

デュラハン 「貴様の思慮することは知らないが、俺は気が長い方ではない。急かす気はなかったが、だんまりというのもどうなんだ?

生かすも殺すも俺が決めることではないが、あまり無為に待たせてくれるな」

ベニオット 「まさかこんな時に仕掛けてくるとは。くそ、準備も何もあったものではないな!」

ヴラドニア 「わわわわ、アルヴィドは調整中だし、フレックは弾が1発しかなーい!どうしましょう、どうしましょう!?」

デュラハン 「それともこちらで準備したほうが良かったか?お前は確かに与えられてばかりだったな。ならば、用意は俺がしよう」

アニ    「きゃ!?ちょ、なに?なになになになになんなの!?」

オティス  「ちょ、アニちゃん!?」

デュラハン 「この少女を連れて行くことにしよう。確認するがオティス、お前は今も空を飛べないよな?」

アニ    「え、や、ちょっと!放して! やっ!! お、おねえちゃああああああああん!!!!」

ベニオット 「マントが翼に!?そ、それで空を飛ぶのか?冗談だろう!」

デュラハン 「お前に矜持があるならば追ってくるがいい。大橋(おおはし)にて貴様を待つ。来なければ・・・まあ、その時はその時だ」

オティス  「アニちゃん!ま、くそぅ!待てウォースロット!」

ヴラドニア 「ちょ、ちょちょちょ!?待ってオティスさん!何を考えてるの!?今、飛び降りようとしたわね!?」

オティス  「助けに行くに決まってるだろ!だってアニちゃんが、アニちゃんが!!」

ヴラドニア 「無闇に飛び降りてどうするの!この船、結構高いところで停めてるのよ?落ちたら無事じゃすまないわ!」

オティス  「着地は出来る!魔力を噴射すれば、衝撃を緩和することくらい」

ヴラドニア 「その後を追う算段を立てていないのに、向かっても意味がないわ!殺されたいの!?」

オティス  「けど、アニちゃんが何をされるかわからないじゃん!」

ヴラドニア 「そのまま貴方が無下にデュラハンの下へ向かい、むざむざ殺されるほうが問題よ!」

ベニオット 「二人とも、一度落ち着け。それからでも遅くはない」

ヴラドニア 「待つ、といっていたわ。すぐに危害が加えられるということはないと思うの。ひとまず、倒すための算段を立てないと」

オティス  「たお、す・・・うん。そうだね、そう――わかった。考えよう。頭、使わないと」

ベニオット 「・・・お前が倒す必要があるのか?」

オティス  「あるよ!あるに決まってんだろ、私は」

ベニオット 「お前はなんだ?勇者か?オティスか?どっちだ」

オティス  「私が何かって?どういう・・・ああもう!さっきから何が言いたいんだよベニオット!」

ベニオット 「俺にキレんな。お前は人類を救済する勇者か?アニを想うただのオティスか?どっちのお前がデュラハンを倒しに行くんだ、という問いだ?」

オティス  「っ!その。私、は・・・」

ヴラドニア 「ひとまず、休んでください。このままの状態で向かってはどうしようもないわ」

オティス  「・・・わかった。ごめんね、二人とも」

ベニオット 「お前だけの問題ではあるまい。礼はいらん」

ヴラドニア「アニさん捜索の手は打ってあるわ、心配せずとも大丈夫よ」

ベニオット 「とはいえ俺もじっとしているのは性に合わんな。しばらく辺りを飛び回ることにしよう」

ヴラドニア「ベニオット・・・貴方、人のこと言えないんじゃなくて?」

ベニオット 「お前こそ、オティスが飛び降りようとしなかったらこの船動かしてただろ。操縦桿に手かけてたよな」

ヴラドニア「探査用と追跡用の、自律型使い魔を放っただけなのだけれど?私とて、無策に待てという気はなかったわ」

ベニオット 「・・・なんだかんだ高機能だよな、この船」

ヴラドニア「アホ毛はともかく、貴方は夜目利かないでしょう?日没までには戻っていただけるかしら」

ベニオット 「なんだ、心配してくれてるのか?」

ヴラドニア「勘違いなさらないでくださるかしら。今無為に戦力が欠けるのは避けたいだけなの」

 

 

 

デュラハン 「何やら羽虫が飛んでいたか?すべて墜としておいたが・・・さて、着いたな」

アニ    「ぎゃっ!ち、地上についた!ここどこ?ガープ大橋(おおはし)だよね?」

デュラハン 「ガープ大橋(おおはし)にはいくつかの関所が設けられていることは知っているな?ここはそのうちの一つだ」

アニ    「お姉ちゃんに何する気なの!」

デュラハン 「自分ではなく原典の勇者を気遣うか・・・もちろん殺すとも。それが俺の為すべきことだ」

アニ    「どうしてなのか、聞いてもいいのかな」

デュラハン 「どうして、とは?オティスを殺す理由か?その結論に至った俺への疑問か?」

アニ    「だって、貴方はお姉ちゃんを救ったんでしょ。それなのに殺そうとするなんて、理解できない」

デュラハン 「ああ、そうか。確かに理解し難いだろう。自身の命を懸けて救ったものを殺そうとしているのだからな。簡単なことだ。

       命を懸けたからこそこの結末が許せない。だから原典の勇者をここで終わらせることを決意したわけだ」

アニ    「何でそうなるの!貴方はお姉ちゃんを助けたかったんでしょ?なのに」

デュラハン 「俺は『原典の勇者』を救いたかったのではない。履き違えてもらっては困るな」

アニ    「お姉ちゃんがまだ、剣を握ってるのが気に入らないってこと?」

デュラハン 「奴は未だ、世界から与えられた枷に縛られ続けている。俺はそれを望んだわけではない」

アニ    「あなたの理想をお姉ちゃんに押し付ける気なの?」

デュラハン 「ほう、理想ときたか――あくまで客観的な視点だ。お前は不特定多数のために消費されることを幸福と呼ぶのか?」

アニ    「お姉ちゃんは消費されてなんかない!」

デュラハン 「誰かを救う装置となっていることを是とするのか?」

アニ    「そもそもが違う。お姉ちゃんは強制されて勇者をやってるわけじゃないよ」

デュラハン 「その役割を受け入れてるのは事実だろう」

アニ    「あなたがお姉ちゃんの生き方を決めていいわけなんてない!お姉ちゃんの人生はお姉ちゃんのものだよ!」

デュラハン 「俺はオティスの幸福を願った」

アニ    「それが足枷になってるってわからないの?」

デュラハン 「怪物に良心を求めるのか?善性があるのは結構だが、足を掬われないか?」

アニ    「怪物が人間の心配をするんだね」

デュラハン 「・・・ふむ。黒騎士に寄せられ、少しは人間味が戻ったとみえる。だがあくまで、俺はデュラハンだ」

アニ    「ねえ、ほんとにお姉ちゃんを殺さないと駄目なの?ほんとに戦わないといけないの?」

デュラハン 「忘れてくれるな。言葉を交わすことは出来るが、俺は死を司る怪物だ。相互理解など出来ると思うな」

アニ    「けど私は!お姉ちゃんにも、貴方にも苦しんでほしくないの」

デュラハン 「その優しさは、魔性と相対するときには不必要な感情だ。お前を縛り、苦しめる枷となる」

アニ    「そうかも、しれないけど」

デュラハン 「しかし、捨ててはならない。それは人になくてはならないものだ。もう俺には存在しないものだがな」

アニ    「そんなことを言ってくれる貴方に、優しさがないって?」

デュラハン 「ああ。俺はオティスを殺した後、お前をも殺そう。お前たちが生きていたことを誰もが忘れてしまうほど、凄惨にな」

アニ    「っ!え・・・?」

デュラハン 「もしくは二度月が落ちてなお、オティスが現れなかった場合もだ。首を刎ね、大橋(おおはし)の前にでも曝そうか。

       『原典の勇者の臆病さがこの少女を死に至らしめた』と一文でも添えておこう」

アニ    「そんなことしたら、お姉ちゃんは!」

デュラハン 「言っただろう。俺は原典の勇者を殺すためにここにいると。無論、この手で首を刎ねるのが理想だ。

しかしそれが敵わぬ場合、世間的な殺害も吝(やぶさ)かではないと伝えておこう」

アニ    「あなた、本当に怪物なの?」

デュラハン 「多少頭は回るとも。俺はそのために此処にいるのだからな」

アニ    「ッ、お姉ちゃん・・・」

キバイラ  「なんや、こないなところで油売っとったんか。原典はどないした・・・おやぁ?これはこれは」

アニ    「な、キバイラ!?なんでこんなところに」

キバイラ  「こんなところにいたんやね。久しいなあアニちゃん、達者やった?」

アニ    「まさか、デュラハンと手を組んでたの?」

デュラハン 「魔轟(まごう)の者同士が手を組むことは珍しくあるまい。お互いの利害は一致していた」

アニ    「また、なにかを企んでいるの?」

キバイラ  「いんや、もう大橋(おおはし)での仕事は仕舞いよ?もうここに用はあらへんかな」

アニ    「デュラハンに何をしたの!」

キバイラ  「作り上げたのは君臨勇者や。けどまあ、練り上げたのはうちか。絶対遵守の呪い――ギアスを使い、強化を施した」

アニ    「ギアス、って?」

キバイラ  「そないなことも知らんのかいな。魂に結び付けることによって成す、強固な呪いの一種のことどすぇ。

       本来は同盟間での裏切り防止に締結し合うモノなんやけど、応用すれば概念の強化にも使えるんよ」

アニ    「概念の強化?そうか、だからウォースロットさんがあれだけ強く出てるんだね」

キバイラ  「説き伏せようとしても無駄や。目的が合わん、そっちの仲間になることはあらへんよ」

アニ    「じゃあ、概念の強化って何をしたの。呪いを使ってそんなことが出来るなんて思わないんだけど」

キバイラ  「魔性に人間の常識が通じる思わんことや。例えば、アンデッドには回復が毒にならはるしな。

       とはいえ、やったことは単純どすぇ?攻撃が当たらない限りは無敵――『蹂躙の加護』とでも呼ぼうかいな」

アニ    「あっさり教えてくれるんだね。私がお姉ちゃんに伝えたら、どうするの」

キバイラ  「ああ、何もかも教えてしもたけどそこは心配してへんよ。そも解呪のためには有効打を一発あてなあきまへんからな。

単純な剣術なら原典より黒騎士のほうが上や。知られたところで怖くあらへんよ」

アニ    「お姉ちゃんなら、勝てるよ」

キバイラ  「大した信頼やな。ま、ぶっちゃけ黒騎士が負けようがどうでもええんやけど。けどそうやな、もう一つほしいな。お土産」

アニ    「お土産?って、なにを・・・」

キバイラ  「別にうちは気にしてへんのよ。スレイヴでの一件みたいなやり取りなん、腐るほどしてたからな。うん、そういうもんや。

       この鬼の首魁、キバイラを侮辱したことは許しまひょか。けど、この黒切が許すかいな!」

アニ    「っ!?物理防御!が、は!?そんな、防御が・・・砕かれ?」

キバイラ  「物理防御だけじゃ防げへんよ?黒切の刀身に呪いを纏わせて強化してあるから、物理防御は融けてまうわけや。

       防ぐなら物理防御と魔法防御、両方重ねなあかんよ?こうやって防御できんくて、腹に刀が刺さってもうた」

アニ    「ひ、あ・・・あ、う・・・な、んで?」

キバイラ  「柔いなあ。そない痛がらんでええよ?内臓はちゃあんと避けてある。こないな刺し傷で人は死なんよ」

アニ    「は、っうあ!いた・・・い、う!」

キバイラ  「黒騎士への義理もあるしなあ、ここでは殺さへん。けど、何もせんままっちゅうんは虫が良すぎるでっしゃろ?」

アニ    「がぅ、い!なに、を・・・して!あ、ぎっ!?っち、は、あああ!」

キバイラ  「ああ、堪らんなあ。あんさんの生殺与奪が、全部うちの手に委ねられてるこの感覚!昂ってしゃあないわ!

おっと、いかんいかん。平静にせな、あくまでこれは実験やし。殺したら意味あらへん」

アニ    「じっけん?は、う・・・なにを、たくらんで」

キバイラ  「天が堕ち、地が猛る。審判の日が来たれり――ここに呪いを一つ。『反転(はんてん)・神毒鬼便(しんどくきべん)』」

アニ    「あ、っぐ!つうああああっ! い、つう・・・は、っくあ。抜かれ・・・血、が」

キバイラ  「黒切が血で真っ赤になってしもた。じゅる(血をなめる音)・・・ああ、きれいな血やなあ、美味し。

        曰く、魔力は血で運ばれる。だから無駄に血ィ流させれば、魔法使い言うんは自ずと弱体化しはる。

生娘の血は清いし、魔力が多く含まれるから性行は御法度や言う魔法使いもおったっけな」

アニ    「っ、なに、を・・・した、の?」

キバイラ  「ふう。ちょっとは溜飲下がったなあ――閑話休題。ちょい、一つ仕込ませてもらったよ。

あんさんみたいな支援しか出来へんのには、枷を付けるんが一番効くからなあ」

アニ    「きずが、血が。回復しない、と・・・ひうっ!?あ、うあ!いあ、いたい!なん、にが?」

キバイラ  「反転、言うたやろ?今のあんさんには回復、解呪が毒になる。死に至る程やないけど、苦しさは一丁前や」

アニ    「いぐ、う・・・回復が、出来ない?そん、な」

キバイラ  「ああちなみに、人に使おうとしても発動するで。相手に効きはすれど、反転の呪いはあんさんを蝕む」

アニ    「そんな呪いを、つかえるなんて」

キバイラ  「うちは人間は嫌いやけど、こればっかりは感謝せなあかんかもなあ。うちの右腕『国堕とし』、予想以上の性能やわ

       呪いや毒だけで言えば、君臨勇者よりも、あのクソ腹立つ魔法使いよりも上なんやないか?」

アニ    「ヴァンハーフよりも、なんて・・・ぎゃっ!?っぐ、う!」

キバイラ  「傷口の血が止まらんなぁ、痛そう痛そう。どないな気分や?得意技を潰され、何も出来へん木偶に成り下がるんは。

思いあがるんやないで?ちっとは魔法が使えるようやけど、それが活きるんは原典と一緒におるからや」

アニ    「あ、く・・・だめ、だ。応急処置を・・・みん、な・・・・」

キバイラ  「はて、暇潰しもここらで抑えとかなな。遊んでる場合やあらへん」

デュラハン 「どうやらこちらの意図を理解してもらっていないようだな。鬼とは総じて人への理解を示さないものなのか?」

キバイラ  「意図には沿うとるよ?ちゃんと殺さん程度に留めてる。あんまやること為すこといちゃもん付けんでや?息苦しいわ」

デュラハン 「構わないがな。その少女が死んだ場合も、オティスは激高して俺に向かってくるだろう。殺すという目的は果たせる」

キバイラ  「そないな顛末でええんか?ただ殺せば、ってのは獣のやることどすぇ」

デュラハン 「俺が獣でないと?笑わせるな。とはいえそれが悪手であることも理解している。なればこそ余計なことはしてくれるな」

キバイラ  「・・・なんや、自己分析は出来てるんかいな。つまらんな」

デュラハン 「俺は原典の勇者を殺す――復讐鬼を仕留めたいわけではない、そこが変わってしまっては意味がないからな」

キバイラ  「とはいえ、原典の勇者も案外底が知れるもんやね。もう結果は見えはったかいな」

デュラハン 「お前はこのまま、最後まで見届けるのか?」

キバイラ  「なんやろなあ・・・うちが見たいんは勇者の死に目やなかったんかもしれへんわ」

デュラハン 「違うのか?それを見たいと言っていたろうに」

キバイラ  「凛と佇む勇者が、かつての仲間に殺意を向けられ狼狽する。嘆き、苦しみ、崩れ落ちる。

       勇者らしからぬ振る舞いを見せ、少女のように喚き散らす。不動の英雄が崩れる姿が見たかったんよ」

デュラハン 「成程、死に様そのものが見たいわけではないのか」

キバイラ  「せやからもう、見れたといえば見れたんよね。ま、寄り道ついでに見守るわ・・・うちも暇やあらへんし?」

デュラハン 「ならばお前はそのまま目的地にまで運んでもらうがいい。原典の勇者の首は要らないか?くれてやってもいいが」

キバイラ  「ああ、それは欲しいかもしれんな。しゃれこうべを取り出して金箔ん張って、盃にでもしよかいなあ」

デュラハン 「なかなかどうして悪趣味だな」

キバイラ  「面白いと思わんか?ま、本当に骨格があるのかも怪しいけどな」

デュラハン 「中身はほとんど人間のはずだ。アンドラは凝り性でな、そこの再現は恙なく行われていた」

キバイラ  「なら構わん。そんなら、うちは予定通りロスタナに向かうわ。あそこには置き土産があるからなあ」

デュラハン 「ならばとっとと行くがいい。お前の存在は些か目に障る」

キバイラ  「あんさん、目ぇあらへんやん」

デュラハン 「ああ。何せデュラハンだからな――さて、死なれては困る。傷の具合を見るくらいなら生前の経験からどうにか出来るだろうが・・・生前、か・・・全く、今の俺は何者なのだろうな。考えても答えを得ることはないが」

アニ    「いっ、う!止血、しないと・・・おねえ、ちゃん。あたしは・・・」

デュラハン 「酷い有様だな。ところで、かつての俺は竜騎士だ。その逸話のせいか、手から竜の息吹の如く炎を出すことが出来る」

アニ    「っは、うう・・・ほの、お?」

デュラハン 「傷を焼けば、多少は血も止まるだろうな」

アニ    「し、焼灼止血!?そんな方法、今は使われてないのに」

デュラハン 「そうなのか?俺の時代にはよくあった止血法だったが」

アニ    「今は、縫うのが主流だから――ねえ、ちょっと待って。まさか・・・」

デュラハン 「縫う、か。悪いな。俺はそのような高尚な手解きは不可能だ。歯を食いしばれ、痛いぞ」

アニ    「ちょ、ちょ待っ!その方法は火傷の正しい処置が出来なきゃ意味が、ああああああああああああああ!?」

 

 

 

ヴラドニア 「オティスさん、オティスさーん!うーん、だめね。返事がないわ」

ベニオット  「戻ったぞヴラドニア。一服したいんだが、マッチどこにあるか知って・・・何してるんだ」

ヴラドニア 「ああ、ベニオット。その、オティスさん、朝から何も食べてないようでしたから。お腹を空かせていないかと思って」

ベニオット  「何か作ったのか?どれ・・・これは、リゾットでいいんだよな」

ヴラドニア 「チーズリゾットですけれど。なによ、なにかおかしなところがあって?」

ベニオット  「お前、赤くない料理つくれたんだな」

ヴラドニア 「つくれるわよ!ああしたほうが美味しいのは自明の理として、それが皆さんに合わないのは不服ながら理解しました。

それはいいんですけれど、返事がないんです。鍵も閉めているようなので立ち往生していたの」

ベニオット  「勇者の力があれば開けられるんじゃないか?船の機能、全部お前が管理してるんだろ」

ヴラドニア 「オティスさんの部屋に!?か、勝手に入るなんておこがましくないかしら?」

ベニオット  「ここお前の船だよな?そうだったよな?」

ヴラドニア 「そうだとしてもプライバシーは守るべきよ。まあ、つい気になってご飯をつくってしまったけれど」

ベニオット  「今はそっとしておいてやれ、心の整理は必要だろう」

ヴラドニア 「ええ。けどほら、腹が減っては戦は出来ぬと言うでしょ?オティスさん、かなり魔力を使う戦闘方法ですし」

ベニオット  「ならせめて保存が効くものにしておくべきだっただろう。リゾットて。すぐ食わなきゃだめじゃないか」

ヴラドニア 「うう、つい凝っちゃったわ。これは自分で処理するとして、これからどうするべきかしら」

ベニオット  「オティスのことを慮るのはいいが、依頼のことも忘れるなよ」

ヴラドニア 「全部が気になってしまうの。ダメね、私。もう捨てたものだと思っていたのに」

ベニオット  「王政に関することか?」

ヴラドニア 「王族であったが故に、知ってしまったこともあるの・・・私が、全て知っていたと言ったらどうしますか?」

ベニオット  「知っていた?オティスのことか。どこまでだ」

ヴラドニア 「文字通り、全て。魔龍がいないこと、勇者一行が崩壊していたこと、オティスさんが死んでいたこと。王族には代々口頭で受け継がれてきたことなの。出会う前からずっと、私は知っていた――」

ベニオット  「そうか、それで?」

ヴラドニア 「それで?って・・・軽いわね。ずっと、隠してたのよ?」

ベニオット  「隠し事がない人間なんているか?俺は見たことないぞ。人は誰しも、言えない何かを抱えて生きているもんだ」

ヴラドニア 「それは、そうかもしれないけれど」

ベニオット  「デュラハンを生み出したのがお前の仕業、とかそういう類のものではないんだろ?だったら堂々としていろ。お前がそれを知っていたことで、オティスを苦しめていたわけではあるまい」

ヴラドニア 「わからないの。どうすれば、よかったのか」

ベニオット  「オティスは気にしないと思うぞ?そうやって気を回されるほうが嫌がるだろ。そのリゾットも、詫びのつもりならやめておけ」

ヴラドニア 「ベニオットのその切り替えの早さ、羨ましいわ」

ベニオット  「褒めてんのかそれ?というわけで、これは俺が貰っていく。昼から何も食ってないし、ちょうどよかった」

ヴラドニア 「ん、あれ?ああ!ちょ、私のリゾット!勝手に食べないで!」

ベニオット  「前回はあのソースでえらい目に遭ったからな。これはどうだ・・・あ、普通にうまいな。悪くない」

ヴラドニア 「え、あ・・・本当に?美味しい?」

ベニオット  「ああ。だが少しコメが柔らかいな、火が強かったのか?それにチーズ入れすぎだぞ、その味しかしない」

ヴラドニア 「品評されてる!?ちょ、文句を言うなら返してくださるかしら!」

ベニオット  「黒コショウとかがあるといいかもしれんな。ふむ、ごちそうさん。また気が向いたら食わせてくれ」

ヴラドニア 「もう全部食べたの!?早っ!?」

ベニオット  「俺もしばらく休むことにしよう。管制システムがあるから要らんかもしれんが、監視の目が欲しかったら言ってくれ」

ヴラドニア 「まったく・・・勝手なのかそうじゃないのか、はっきりしてほしいものね。さて、私も一度寝ましょう。眠れる、かしら」

 

 

 

ウォースロット「ふむ、戦いにも慣れてきたな。もうそこらの魔物の相手は卒なくこなせるようだ」

オティス  「そりゃあね、もうお手の物だよ・・・うわ!?危なっ、あの魔物まだ生きてたのか。火吐いてきたよ、怖い怖い」

ウォースロット「慢心はするなと散々言ったがな。そこさえ何とかなれば完璧なのだが。綺麗な薔薇にも何とやら、だ」

オティス  「人を煽らなきゃ生きていけないのかお前」

ウォースロット「む、煽るというつもりは毛頭ないのだが。俺は昔からどうも人に発言を誤解される。何が悪いのだろうか」

オティス  「・・・本気?」

ウォースロット「俺とて悩むことはある。言葉数が少ないのが原因だろうか?それとも言い回しの配慮だろうか」

オティス  「多いんだよ」

ウォースロット「多い?何がだ」

オティス  「一言多い。フォローのつもりなのかもしれないけど、それで却って刺々しくなってるんだよ」

ウォースロット「ふむ・・・考えたことはなかったな。気を付けることにしよう」

オティス  「まったく。この間もずけずけものを言って依頼主怒らせたでしょ?フォロー大変だったんだから」

ウォースロット「気を付けよう。しかし、表情が硬いなオティス。そう眉間にしわを寄せていては警戒されるぞ」

オティス  「いや急に何!?誰のせいだと・・・むにゅにゅ!にゃんでほっぺをつまむ!むー!ちょっと!」

ウォースロット「そう、だからお前は笑っていろオティス。眉間の力を緩め、口角をあげろ。お前はそれくらいがいい」

オティス  「むぎぎぎぎ!引っ張るなよ、もう!なんなんだよまったく!」

ウォースロット「使命に囚われることはない。お前はお前らしくあれ。勇者らしくなど、くだらない考えはひとまず仕舞っておけ」

オティス  「くだらないって・・・私、勇者なんだよ?」

ウォースロット「それ以前に、お前はオティスだろう。その前提を無視した行動に何の意味がある。世界を救う機構にでもなるつもりか」

オティス  「そのために私は居るんだ。魔物を、魔龍を倒して世界を救う。それが勇者だろ」

ウォースロット「前提で間違えている。お前が救うべきなのは世界ではない、人だ。履き違えてはならない」

オティス  「い、一緒じゃないの?それ」

ウォースロット「個人と全体の違いすら分からないか?ただ救うことなら誰でもできる。そこから人を導き、人を想うのがお前の役目だ」

オティス  「えっ、つまり剣振るうだけじゃだめってこと?」

ウォースロット「感情のない兵器に救われて喜ぶものなど誰もいない。俺ならそんなものに救われたとしても歓喜できない。

いいか?お前がそうだと望まずに救済を働きかけるなど、そんなもの災害と大差がない。人を救う以前に己を顧みろ」

オティス  「わからなくは、ないけど」

ウォースロット「人として大切なものを捨ててまで為す正義に誇れるものなど何もない。そこまで堕ちぬよう、止めるのが俺の仕事だがな

      時には、お前が被るべき灰も俺が代わりに被ろう。最後の一つだけは捨ててしまうなよ。俺は、オティスの仲間だ」

オティス  「あ、そう。薄々思ってたけど馬鹿だよなお前。何考えてるかわかんないし。

世間なんて興味ありませんみたいな顔してそんなこと言うし」

ウォースロット「ありがとう」

オティス  「はぁ?」

ウォースロット「最高の誉め言葉だ」

オティス  「・・・ぶ、は!はははははは!な、なにそれ!ほんとに馬鹿なんじゃないの!あはははははは!」

ウォースロット「やはり、お前は笑顔が似合うな。湿っぽい顔は似合わない」

オティス  「あーもうやめてやめて!ひー笑った笑った、おかしい奴!ほんとにさ、何考えてんの?」

ウォースロット「お前が笑顔でいるなら、俺は道化にでも修羅にでもなろう。俺は、お前の黒騎士だからな」

オティス  「うん、ありがとう。しかしなんというか、そこまで固執するかね?」

ウォースロット「言っただろう。仏頂面の勇者など気味が悪いだけだからな。とはいえ、わからないわけでもないのは自明だ。

お前が背負おうとしているものは、確かにその背中にはいささか大きすぎるだろう。

しかし、お前の隣には俺がいる。アンドラも、フラウもだ。旅の途中でも、お前の為に動いてくれる者がいただろう。

      俺たちがいなくなったとしても、そうやってお前のために力を貸してくれる物好きが必ず現れる。勇者とはそういうものだ。

      その者たちを蔑ろにしないためにも、ちゃんと笑えるようになれ。それが、英雄というものであると俺は考察する」

オティス  「はあ・・・だからさ、そういう言い方が勘違いされるんだからね?そんなんだからアンドラと会話する度喧嘩になるんだよ」

ウォースロット「む?なるほど。そうだな、留意しよう」

 

 

オティス  「・・・一人で目覚めるの、久々だ。隣に誰もいないって、こんな感覚だっけ・・・懐かしいな」

 

オティス  (そうか。昔からあいつは「勇者オティス」じゃなくて「私」を大事にしてたっけ。なら、ああも変化するか

       ――違う。本当にあいつがウォースロットそのものなら、私を殺そうなんて考えるはずがないよな。

       わかってるはずだ。あれはあいつの在ったかもしれない一側面に過ぎないってことくらい。

あいつが望むのはきっと、何も助けない私だ。村でコーヒーでも淹れて、のんびりご飯を食べて、くだらない話をして。

       昼は仕事に精を出して、気の許した人と笑い合って、そして最期はたくさんの人に囲まれて、笑いながら死ぬ。

       ・・・クソくらえだ。それが多くの人にとっての幸せであることは知ってる。だから私は、その幸せを多くの人に見せたいんだ)

 

 

 

ヴラドニア 「ちょ、ちょちょちょ!ベニオット!ベニオット!起きてください!ねえ、ベニオットったら!」

ベニオット  「んー、なんだ?まだ夜中じゃないか、暗いぞ。こんな視界で哨戒でもしたいのか?」

ヴラドニア 「それどころじゃないの!見張りはシステムがあるからいいと言ったのは貴方でしょう!そうじゃなくてー!」

ベニオット  「だったら一体何だ?仲間とはいえ、女が男の寝床にそう易々と入ってくるもんじゃないぞ・・・」

ヴラドニア 「オティスさんがどこにもいないの!寝室にも甲板にもキッチンにも!あちこち探したけどどこにもいないの!」

ベニオット  「オティスが?そうか・・・はあ!?オティスがいない!?」

ヴラドニア 「降下用の装置を止めて、窓は全部ロックしてたの!システムには何の以上も無かったから、安心して寝てたの!

それでさっき確認したら、倉庫の窓が割られてて、そこから縄梯子が地上に垂れてて!」

ベニオット  「あいつ、まさか下に降りたのか!?」

ヴラドニア 「ど、どうしましょう!護衛という仕事がある以上、ここから黙って船を動かすわけにも行かないし!けど、けどけど!」

ベニオット  「と、ともかく落ち着け。そうだな、一度クタンに話を通して来よう。まだ焦って動くべきじゃない」

ヴラドニア 「けど、貴方も見たでしょう?あれほど狼狽し、思いつめたオティスさんが、デュラハンと邂逅したら!まともな戦闘になるかどうかもわからないのに!」

ベニオット  「あいつは片を付けに行ったんだろう。だが、黙って出るとは卑怯な奴だ」

ヴラドニア 「卑怯!?貴方ね、こんな時に何を言って!」

ベニオット  「かの黒騎士と打ち合える機会など今後あるまいに。独占しようとは」

ヴラドニア 「ただ打ち合いたいだけだったー!?もう!今はそれどころじゃないでしょう!」

ベニオット  「だがそうだな、万一があるとも限らん。俺かお前、どちらかがここに護衛として残り、どちらかが救援に向かうべきだろう」

ヴラドニア 「そうですわね。ではベニオット、ひとまず身軽な貴方が向かってくださるかしら」

ベニオット  「あー、しまった。そうしたいのは山々だが、今の時間はアホ毛が寝ている。こいつなかなか起きないんだよな」

ヴラドニア 「ええ!?あんなに息巻いていたのに!?」

ベニオット  「すまん、お前が向かってくれるか?アニとオティス、両方回収するなら船を動かせるお前の方が効率もいいだろう」

ヴラドニア 「・・・はあ。ベニオット、さては最初からそうするつもりだったわね?」

ベニオット  「なんのことだ?俺は今すぐにでも駆け出していきたいぞ。アホ毛が眠ってさえいなければ、だがな」

ヴラドニア 「もういいです。では、ひとまずクタンさんに話を通しておきましょう。サザエを使って・・・出ませんね。寝ているのかしら?」

 

 

 

オティス  「ごめん、ありがとうクタンさん!アニちゃんの居場所の手がかりを持ってるなんて、助かった!」

クタン   「アニさんはサザエを持ったまま連れていかれました!ですから私のサザエから位置を辿ることが出来ます!」

オティス  「そういう理屈ね、助かったよ!そんな便利機能があるなんてね」

クタン  (ま、本当はさっき見てきたからなんやけど。そないな機能サザエにはあらへんし、無知で助かったわ。

探せばすぐなところに隠してるあたり、黒騎士も単純やなあ。お互い、我慢は苦手言うことかな)

オティス  「はあ、はあ、はあ・・・ここだよね?ほんとだ、アニちゃんいたよ!アニちゃん!聞こえる!?ねえアニちゃん!」

クタン   「アニさん!よかった、無事だったんですね!」

アニ    「けほ、けほけほ!お姉ちゃんに、クタン、さん?どうして、ここに」

クタン   「意識はありますね。待っていてください、すぐに処置をします」

オティス  「よ、よかった!怪我とかない?何かされてない?大丈夫かな?」

クタン   「お腹を刺されていますね。けど、これ・・・」

オティス  「さ、刺され!?そんな、平気なの!?」

クタン   「お、落ち着いてください!急所は外れてます!そうじゃなくて、止血されてはいるんですけど、方法がですね」

オティス  「見せて!これは――傷を焼いてる?今の時代、こんな止血方法やらないよね」

クタン   「はい。今は圧迫や、結紮(けっさつ)が主流ですね。焼くだなんて、それこそ数百年前に廃止されたような技術で・・・あ」

オティス  「もしかして、ウォースロットがやったってこと?」

デュラハン 「さて、どうだろうな。俺は死を司る魔轟(まごう)だ。他人の生死などどうなっても構わない」

オティス  「ああ・・・ここにいたのか。探したよ」

デュラハン 「俺を求めてここに来たか。解は得たのか?」

オティス  「わかるわけないだろ。いい加減、頭が壊れるかと思ったんだ」

デュラハン 「今一度問おうオティス。お前は何のために剣を握る。義務感か?焦燥感か?それとも、それしか知らないからか」

オティス  「そうだね、私はこれしか知らない。私の本能は平和な世界を見たがっている。これはもう、多分どうしようもないことだ」

デュラハン 「なら、ここで終われ。お前には終着点が必要だ」

オティス  「終われないんだよ。だって、私はこれしか知らないんだから。もっといろんなものを見たいし、いろんなことを知りたい」

デュラハン 「それが、今のお前の戦う理由か」

オティス  「大義なんて背負うだけ無駄だってわかった。だから自由を望もう。これは他でもない、オティスが望んだ道だ!」

デュラハン 「曲げぬならそれでいい。俺が終わりを与えてやろう」

オティス  「ああ、結局それか!ウォースロットにかこつけて、お前は生者を――幸福を羨んでいるだけだろうが!」

デュラハン 「付与された概念のみに突き動かされることの、愚かさを理解しているのか」

オティス  「そりゃあお互い様だろ。それにな、私の感情は私のものだ!たとえ他者を想うように設計されたものであったとしても!

誰かを救いたいと願う、この気持ちは本物だ!それだけは嘘だと言わせない、これだけは誰にだって奪わせやしない!」

デュラハン 「御託はもういいだろう。口ではどうとでもいえるが、剣は嘘はつかない」

オティス  「そりゃいい。お互い、剣は正直だからな。これが最後だ、構えろよ黒騎士」

デュラハン 「今のお前に勝ちが拾えるか?お前の前に立つのは、最強の俺だ」

オティス  「私とて、300年前と一緒だと思うな。それに・・・そうだ、お前に言ってやりたい文句があった」

デュラハン 「なんだ?そこまで根に持たれるような恨みはないと自負していたのだが」

オティス  「いや、ほんとは100個くらいぶつけたいけど?今は抜粋して1つでいい・・・お前、私に勝ち越させてくれなかったよな」

デュラハン 「勝ち越し・・・ああ、俺との訓練のことか?記憶にないな」

オティス  「412勝412敗!お前ときたら、スコア並んだ途端に実践訓練に切り替えやがって、勝ち越しの機会くれなかったろ!」

デュラハン 「そうだったか?機会的にちょうどいいと思っただけだ。それに、俺は「並べ」といっただけで「勝ち越せ」とは言っていない」

オティス  「そうかい、お前らしいよ。ああ、いい機会だよほんと・・・邪魔だな、マント(マントを脱ぎ棄てる)

       ここでお前から白星をもぎ取って、勝ち越しで終わらせてやる」

デュラハン 「そう上手くいかせると思うか?お前は間違っていたのだと最期の黒星を以て教えてやろう。来るがいい、勇者よ!」

クタン   「っ!行っちゃいましたね。すごい勢い、こっちまで衝撃が・・・とりあえずここは安全でしょうか」

アニ    「クタン、さん。お姉ちゃんは」

クタン   「戦っています。ここは安全ですよ、ですから」

アニ    「ダメ、なの。キバ・・・キバイラが、ロスタナに向かうって!なにか、企んでるみたいだった。だから、止めにいかないと!」

クタン   「キバイラがロスタナに、ですか?」

アニ    「いそが、ないと!スレイヴの時みたいに、またなにか大きなことを、企んでるんじゃないか、っけほ、う、あ!」

クタン   「だ、大丈夫ですアニさん。落ち着いてください、傷に障りますから」

アニ    「けど!う。げほげほげほ!は・・・だめ、だ。くらくらする」

クタン   「高度な呪いをかけられています。安静にしてください」

アニ    「大丈夫だよ、意識はあるんだ。それに」

クタン   「キバイラの呪いなど、いったいどのような効果があるかわかりませんよ!」

アニ    「・・・え?」

クタン   「ん、アニさん?どうかしましたか?」

アニ    「あたし、誰に呪いをかけられたかなんて、言ったっけ?」

クタン   「あれ、言ってませんでしたっけ」

アニ    「それに、ここをどうやって見つけたの?探知できるもの、私は何も持ってないのに・・・どうやって、ここを?」

クタン   「ええと・・・し、知りませんでしたか?サザエの隠し機能で、探知が出来るんですよ」

アニ    「そんな機能が?聞いたことないけど・・・・っ!地響き?また、お姉ちゃんが何か?」

クタン   「光が、見えますね。夜なのに明るいな・・・あ、ちょっと!?アニさん!待ってください!危ないですよ、アニさーん!」

アニ    「お姉ちゃん、オティスお姉ちゃん!ダメ、行かないで!」

クタン   「こ、行動的すぎる・・・はあ、まったく!こっちのことも考えてほしいんやけど!」

 

 

 

デュラハン (なんだ?何かおかしい。攻撃は当たっている。隙がないわけではない、乱れはむしろ増している。なのに――)

オティス  「どうした!昔はこんなもんじゃなかっただろお前!」

デュラハン (勢いが衰えない!何をすれど、退くという選択肢を棄てているのか!前にしか進まない、そんな捨て身の戦法を?)

オティス  「お前相手に出し惜しみはしないよ!装填!七星剣、限定解除!」

デュラハン 「技を使う気か。だが、その程度の威力では・・・ぐっ!?後ろに壁、だと!」

オティス  「よそ見してんじゃねえよ!簡易版『七色覆いし蒼天の剣』(セブンカラーズ・レイヴンダガー)!」

デュラハン 「しま――ぐっ!かろうじて躱せたぞ。壊された関所の破片で、狙いが逸れたか?」

オティス  「それが狙いだよ!関所の中に入ったな?だったら今、お前の回避可能範囲はかなり狭いよなぁ!」

デュラハン 「魔力が、まだ上がる!?どこにそれだけ溜めていた!」

オティス  「全部叩き落せ!『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!」

デュラハン 「無詠唱だと!?く、無月剣よ!斬り裂け!」

オティス  「雷を斬った!?くっそ!滅茶苦茶な奴め!」

デュラハン 「ガープ大橋(おおはし)には4㎞毎に関所が設けられている・・・あの少女を捕らえていたのは南東の端の関所だったはずだ

       4㎞押され続けたということか。まるで猪のようだな。退かず、護らず、避けずときたか。攻撃は最大の防御、とでも?」

オティス  「お前の狙いは私だろう?それにお前の剣の怖さは知ってる。だったら、余計な小細工なしに食らいついたほうがいい!

それに魔法を使える私のほうが汎用性は高いぞ!近づけばお前は遠ざかるしかないよな!」

デュラハン 「そうだな。だが、当たらなければどうということはない!それに、今の俺には炎があるぞ」

オティス  「くっ、無駄に火力が強い!くそが!お前が炎覚えたら隙がないだろ!なに着実に弱点潰してるんだよお前!」

デュラハン 「お前が勇者である限り、俺には勝てないと知れ!」

オティス  「やなこった!私はまだ、もらってないんだ!」

デュラハン 「この負の螺旋の果てに、お前は何を望む!」

オティス  「決まっている!未来へと繋がる、明日だ!辛くても、思い通りにならなくてもいい!その先の未来で笑えるのなら!」

デュラハン 「笑止!ならばお前は今、ここで死んで笑えるのか!」

オティス  「笑えないに決まってるだろ!だから私はここで終わるわけにはいかない!そのために、お前をここで殺す!」

デュラハン 「また突撃か!炎を・・・消え、っ!な、回り込んだ!?」

オティス  「慣れてないな?広範囲の魔法攻撃は、下手すりゃ自分の視界を狭めるだけだぞ!」

デュラハン 「がっ!?・・・く、そ。今の俺に中てたな。自身の負傷も鑑みずに、か・・・咄嗟とはいえ、フェイントをかけたはずだがな」

オティス  「知ってるよ、ちゃんと見えてた。けど避けるほどじゃなかったし、お前に一撃噛ませたならそれでいい」

デュラハン 「肉を切らせて骨を、か。左肩を犠牲にするとは、判断を誤ったな。魔力切れを狙ってはみたが尽きる様子はない。

こちらの削りも甘い・・・このままでは埒が明かないな。不毛だ」

オティス  「結局こっちの攻撃もほとんど通ってないな。小手先の技じゃどうしようもない・・・だったら!」

デュラハン 「奥義にて決着をつけるとしようか!」

オティス  「お前に奥義なんてものがあるのか?魔法はからっきしだったのにな」

デュラハン 「無論だ。お前の使う技はすべて把握している、再臨してからの新技も聞き及んでいるぞ。不意を突けると思うな」

オティス  「なら、その慢心ごと正面から殺してやるよ!受けてみろ!お前にも、譲れない矜持とやらがあるんならな!」

デュラハン 「良かろう。ならば、俺も全力で答えるとしよう。そのうえで・・・お前を殺すとしようか!」

オティス  「世に轟きし英雄の唄を聴け!それは彼方に馳せる伝説にして、一度も折れなかった英雄の矜持の象徴だ!」

デュラハン 「最果てに至れ、転輪しろ。これが黒き竜騎士の信念、英雄譚を模る世の原初である!」

オティス  「塵芥となり果てろ!『七海轟く武勲詩の剣(セブンブルーズ・デュランダーナ)』!」

デュラハン 「全てを斬り裂け。『無月の湖(アロンダイト・ダムト)』!っぐ、う、うううううおおおおお!」

オティス  「っ、だああ!!七星剣の全力の投擲でも、届かないのかよ!」

デュラハン 「魔力を込めたこちらの斬撃でも相殺できないとは、見果てた威力だ。しかし凌いだぞオティス。

       おまけに剣を投げたな?手元に戻るまでにはラグがある、隙だらけだぞ!」

オティス  「そうだね、これはピンチ・・・だと思った?狙ってやってんだよばーーか!!!」

デュラハン 「っ!魔力が、まだ増える!?何をする気だ」

オティス  「私がいつもどこに魔力を割いていると思う?身体強化だ!見た技聞いた技は知ってる?

なら、見たことない技は知らないよなあ?ガープ大橋(おおはし)でたった一度しか使ってない技だ!」

デュラハン 「徒手だと!?しま、この距離では」

オティス  「大神の嘆きと怒りを知れ!万物をかみ砕く牙をへし折ったのがこの一撃だ!『狼王失墜(バスタード・フェンリル)』!」

デュラハン 「魔力強化を乗せた蹴り、か!く、退路が――」

アニ    「や、やっと追いついた!お姉ちゃ・・・きゃああああああ!いつもの規模がすごい奴だー!?飛ばされるよーー!!」

 

オティス  「っは、っは、っは・・・はは。ゴーレムを蹴り抜いた一撃だ。さすがに、堪えられないだろ」

デュラハン 「見事、だ。お前はいつも虚を突いてくる。今度こそは、と思ったのだがな。無月剣を折られてしまった」

オティス  「無月剣によって存在が強化されてたんだろ?それが折れたらもうお前を、ウォースロットを保てないだろ。

デュラハン自体も風前の灯だ。ようやく終われるぞウォースロット。もう縛られなくていいんだ、お互いにな」

デュラハン 「俺自身を仕留めるだけではなく、剣を殺されるとはな」

オティス  「防御系の強化もしてただろ。一撃あてるまで、攻撃がまるで通らなかった。

けど、剣は――魔剣に堕ちただけだよな。強くなったわけじゃない。だからそこを突かせてもらった」

デュラハン 「オティス・・・お前は、前に進むことが出来たのだな」

オティス  「そんな感傷的なことじゃないよ。ただ、これ以上余計な傷増やすとアニちゃんに怒られちゃうからさ」

デュラハン 「お前が自分の体を慮るようになるとはな。ようやく、見つけたんだな」

オティス  「うっせ、勝手に全部押し付けたくせに。人生も、宿命も、何もかも全部背負わせておいて罪悪感で私を殺そうとするなんて。勝手だ。勝手すぎるよお前」

デュラハン 「どうすればよかったのか、今でも答えは見つかっていない。しかし、そうか。俺はただ歓喜している。

世界を背負わされていたお前が、自身を憂うほどの存在を見つけられていたことに」

オティス  「他人事みたいな言い方しやがって」

デュラハン 「もう死した俺には、他人事だとも」

オティス  「・・・私の所為で、そうなったのに?」

デュラハン 「如何した?もう俺は敗北している。慈悲など必要ない、とどめを刺すがいい」

オティス  「私は、お前に憧れてたよ。お前を越えたくて、勝ちたくて、必死だった!」

デュラハン 「対人訓練の勝敗数は、同じだったな。此度は俺の負け。お前の勝ち越しで、幕切れだ」

オティス  「違う、こんな勝利が欲しかったんじゃない!私は、ちゃんとお前を越えたかった!

正々堂々、紛うことなき『お前』に勝ちたかった!」

デュラハン 「変わりはあるまい。変質すれど、此れは紛れもない俺だ」

オティス  「なら、なら猶更だ!・・・ああ、なんで?こんなことあるか?」

デュラハン 「お前は始めから裏切られる定めだった。今のお前は、その宿命に叛逆しただけのこと」

オティス  「けど、私は」

デュラハン 「理由が欲しいか?なら与えてやろう。まだ足掻く力はある、その余力を以てお前の大切なアニを謀殺するとしたら?」

オティス  「な・・・そうだよな、お前ならそうするよな」

デュラハン 「お前は自分の甘さで、また仲間を喪うのか?」

オティス  「狡いよな。お前は自分の手で私の下から去ったくせに」

デュラハン 「亡霊といえど人型を成している以上、急所の位置は同じだ――これは俺の体じゃないからな、胸に核がある」

オティス  「なんだ、そこは再現してないのか。狙えばよかった」

デュラハン 「そうならばよかったがな。しかしアドバンテージにはなったようだな」

オティス  「ほんと、嫌な奴だこと」

デュラハン 「憂うことはない。在り来たりな俺の人生よりも、お前の可能性を信じただけのこと――そうだな、信じていたはずだ。

例えまた世界の理に囚われようと、お前は必ず何処かで笑っている。それを・・・わかっていたはずだ」

オティス  「なんだ。見えてなかったのはお互い様か?大馬鹿だな、まったく」

デュラハン 「だから、お前はいつまでも笑っていろ。思うところがあるなら、それを成すだけでいい」

オティス  「そう、だね。ありがとう、私に命をくれて。もうお前が心配することは何もない。さようならだウォースロット」

デュラハン 「ああ、安心した。俺ももう残すものは何もないな」

オティス  「そうだろうな。なら、もういいなデュラハン。無いものねだりの怪物、ここで終わらせてやる。じゃあ、な」

デュラハン 「がっ・・・は、は。ようやく、終わることが出来るわけか」

オティス  「なんだ、終わりたかったのかお前。そうならそうと、早く言えよ」

デュラハン 「感謝している。ようやく俺に――俺たちに終わりを与えてくれたことに。ああ、だが一つだけ・・・やり残したことがあるな」

オティス  「やり残した?いったい何を・・・っ!?あれ、地震?ちょ、待っ・・・これ、もしかしてやっちゃった?」

デュラハン 「ゴーレムを蹴りぬくほどの剛脚を生み出す、だったか。一つ聞くが、橋そのものへの影響は考えたか?」

オティス  「あっ、やば。なんも考えてなかった」

デュラハン 「橋脚のないところで大技を撃つからそうなる。そら、壊れるぞ」

オティス  「わ、まじで崩れた!?ちょ、ま!うわあああああああ!?・・・って?え、浮いてる?なんで」

デュラハン 「まったく、世話のかかる。お前は空を飛ぶことは出来ないんだぞ。また忘れていたな」

オティス  「ぶえぅ!?投げ飛ばされ・・・っ!ウォースロット!なんで私を庇った!?」

デュラハン 「とはいえ、翼はこれで使い切ったか。勇者一人を橋の上に投げ飛ばすので精一杯とはな。情けないことだ」

オティス  「ウォースロット!なん、ウォースロット!!待って!」

アニ    「ちょ、ちょちょちょ!?お姉ちゃん駄目だから!追おうとしないで!ここ、思ったより高いんだからね!?」

オティス  「あ・・・くそ、くそくそくそくそ!なんで、私は!」

アニ    「お姉ちゃん、ウォースロットさんはもう」

オティス  「なんで、とどめを刺したことで・・・こんなに胸が苦しくなるんだ?あいつはもう、もう・・・なのに、どうして?」

アニ    「っ!それ、は」

オティス  「これじゃ、こんなんじゃ何も守れないぞ?わた、しは」

アニ    「いいと、思うよ?だって、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから!」

オティス  「アニ、ちゃん?いつの間に、ここに」

アニ    「気付いてなかったの!?もう!必死に追いかけてきたんだよ!お姉ちゃんったらすごい勢いで進んでいくんだから!

       今も私が間に合わなかったら落ちてたんだよ!?びっくりしたんだから!」

オティス  「そっか、ごめん、アニちゃん・・・ありがと、う・・・」

アニ    「うん。どういたし・・・お、お姉ちゃん!?ど、どうしよう!倒れちゃった!か、回復を・・・使えないんだったー!?

       傷がひどい、血が止まらない!押さえなきゃ、ああけど傷多いよ!どうしたら・・・ん、あれ。サザエ鳴ってる?」

ヴラドニア 「アニさん、アニさん!今そちらに向かっているわ!状況は!?」

アニ    「ヴラドニアさんの声・・・あ、そっか!あたしサザエ持ってたんだ!ええとええと、ここを押して、と!アニだよ!」

ヴラドニア 「アニさん!良かった通じた・・・無事なんですね?オティスさんは無事ですか!デュラハンは?」

アニ    「か、勝ったよ!それはいいんだけど、すごい傷なの!早く治療しないと!」

ヴラドニア 「なんですって!?そんな・・・すぐに運びます!そこで待っていてください!」

クタン   「ヴラドニアさん、こっちにクタンもいます!応急処置はやっておきますから、治療の態勢を整えてから来てください!

      それと、スタッフ用の赤いテントにいってうちの医師を叩き起こしてください!手伝わせます!」

ヴラドニア 「わ、わかったわ!ベニオット、聞いていたわよね!何使ってもいいから交渉してきてくれるかしら!」

クタン   「アニさん、手を借りてもいいですか。ひとまず止血からやります。お腹、痛むかもしれませんがお願いします」

アニ    「わかった!あたし、がんばるから!お姉ちゃんが助かるなら、なんでもやる!」

クタン    「・・・施術、無事に終わりました。二人とも今は眠っています」

ヴラドニア  「二人の、容体はどうですか?」

クタン    「アニさんは、傷自体はそうひどくはありません。荒療治とは言え止血が早く行われていましたから。

        むしろ・・・付与された呪いのほうが深刻ですね」

ベニオット   「呪いを?どのようなものだ」

クタン    「『反転の呪い』です。当人が回復魔法を使う、或いは使われると無効化され、体内に毒が放出されます」

ヴラドニア  「回復封じ!?そのような呪術があるなんて・・・解呪は出来ないの?」

クタン    「効きませんでした。むしろ解呪すら毒となるので、現状では解呪は不可能です」

ヴラドニア  「そう、ですか・・・オティスさんは?かなりひどい傷を負ってると聞きましたけれど」

クタン    「こちらはダメージが深刻ですね。深い傷が多いうえにかなり出血してしまっていますから。現状、血が足りてません。

うちには有能な魔法使いがいないんです。ですから、魔法による回復も乏しい状態です」

ヴラドニア  「・・・完全に失念していました。私たちは思った以上に、アニさんに頼っていたのね」

ベニオット  「回復、補給から潰すのは戦闘の定石だ。だがたしかに、些か戦闘狂ばかりだったというのは否めないな」

クタン    「それと、アニさんの呪いはキバイラにより付与されたものです」

ヴラドニア  「キバイラ!?ガープ大橋(おおはし)にいたの?」

クタン    「デュラハンと手を組んでいたんです。攫われた際に、刺し傷とともに付与されたようです。胸元に紋章がありました」

ベニオット  「あの二人―-ああいや、二体か?同盟を結んでいたとはな。くそ、なんて組み合わせだ」

ヴラドニア  「解呪は出来ていないのよね。おそらくだけれど、解く方法を知るのはキバイラだけでしょうね」

ベニオット  「だろうな。キバイラはどこに?」

クタン    「私たちと同じ目的地、ロスタナを目指しています」

ヴラドニア  「・・・さっきから、やけに言葉が断定的ね?どこ情報なのかしら」

クタン    「あれ、そうでしたか?アニさんから聞いたことなので、間違いはないと思ったのですが。誤解を招いたならすみません」

ヴラドニア  「アニさんが、ね。まさか、貴方たちと目的地が一緒だなんて、妙な偶然もあったものね」

ベニオット  「なら俺たちも、一刻も早くロスタナへ向かう必要があるな。どのみち、依頼がある以上そうしたが」

ヴラドニア  「では、なるべく急ぎましょう。クタンさん。オティスさんとアニさんの治療、よろしくお願いします」

クタン    「はい。二人は『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』が、責任を持って預からせていただきます。可能な限りの治療を試みます」

ベニオット  「一応、様子を見ておきたい。そちらに行っても問題はないか?」

クタン    「今は不可能ですが・・・そうですね、明日の9時ごろなら治療用の魔法が解けて目を覚ましているはずです」

ヴラドニア  「わかったわ。明日の9時に伺わせていただくわね」

 

 

 

オティス  「ん、う・・・あれ!?また私ベッドで寝てる。何してたんだっけ?どう、なったんだっけ」

アニ    「んにゅ、むう。水平リーベ、わたしのふね。どんぶらこどんぶらこ・・・なんか、ちがうな?」

オティス  「アニちゃん・・・よかった、生きてる。本当に・・・良かった」

アニ    「えあ、お?お、お姉ちゃん!よかった!意識、戻ったんだね!ちょっと待ってね、身体起すから」

オティス  「いやそれくらい自分で・・・出来ないぞ?体、やけに重い・・・私、そんな大層なことしたっけ」

アニ    「してたよ!?最後なんかもうハチャメチャだったんだから!覚えて、ないの?」

オティス  「あ・・・そっか。私、ガープ大橋(おおはし)でウォースロットと」

アニ    「身体なんか、ボロボロだったんだよ?」

オティス  「そうなの?え、けど全然・・・ほんとだ、包帯まみれ。足も全然動かないや」

アニ    「橋を蹴り折るような威力出ちゃったらそうなるよ。骨も折れて、靭帯にも損傷があるって。ひどいよ、この傷

他の切り傷刺し傷も、まだ縫っただけだから治ってないよ。『境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』でも、追いつかないほどだって」

オティス  「無茶しちゃったなあ。けど、そうでもしなきゃウォースロットには・・・そうだ、アニちゃんは!?おなか平気?」

アニ    「あたしは、お腹の刺し傷だけだよ。あんまりひどくないけど・・・今、回復使えないんだ。呪い、かけられてて」

オティス  「呪い!?そっか、そんなこと言ってたっけ・・・解呪は?」

アニ    「できないみたい。多分解くには、呪いの元自体をなんとかしないといけないと思うよ」

オティス  「そうなんだ・・・くそ、もっと私がちゃんとしてたら」

アニ    「そこでどうして、あたしの心配が先なの」

オティス  「アニちゃん?え、怒ってるの?」

アニ    「怒ってるよ!?言ったよね。お姉ちゃんの体、今すごいダメージ抱えてるんだよ?しばらくベッドから動けないし!

傷も塞がってない!あたしの回復も使えないから、しばらくそのまんまなんだよ?」

オティス  「ちゃんと聞いてたよ。致命傷がなかったのは幸いだった。けど、しばらく皆には迷惑かけるよね」

アニ    「自分の心配をしてよ!あたしのこと気にかけてくれるのは嬉しいけど、でも!自分の体のことなんだよ!」

オティス  「っ!?けど・・・アニちゃんも大変な状態なんでしょ?」

アニ    「そうだけど!回復魔法使えなくなって、お姉ちゃんを治してあげられなくてムカついてるけど!」

オティス  「そうだよね?だったら別に」

アニ    「自分のこと見ようとしないお姉ちゃんにもムカついてる!なんで、どうしてなの?」

オティス  「自分、を?たしかに傷の調子は気にかかるけど、そんな意味のないことしたって」

アニ    「意味がないぃい!?あたしが毎回毎回お姉ちゃんの傷を治す時、何にも思ってないと思ってるの?

       毒の棘に侵されてた身体を治した時も、焼けた腕を戻した時も!あたしが、何も感じてないと思ってるの?」

オティス  「そ、そういうことじゃなくてさ」

アニ    「あたしの心配はどうでもいいんだ?」

オティス  「違うよ。わかる、わかるよ。だけどさ」

アニ    「さっきからそればっかり!今回は私より、お姉ちゃんのほうがずっと大変だよ?」

オティス  「たしかに大変な戦闘だったよ。けど、こうしてちゃんと生きてるから」

アニ    「誰を殺したか本当にわかってるの?」

オティス  「誰をなんて、わかってるよ。たしかにデュラハンは強敵だったさ。けど・・・ねえ。なんで、抱きしめてくるの?また叩くの?」

アニ    「叩かない!もうそんなことしない!」

オティス  「え、なに?じゃあなんで?あ、あのさ。大丈夫だから!痛くなんて、ないから」

アニ    「大丈夫じゃない!ねぇ、堪えなくてもいいんだよ?」

オティス  「・・・・・・なにを?」

アニ    「大切な人だったんでしょ!あんな風になっちゃってたけど、ずっと一緒だった仲間だったんでしょ!」

オティス  「けど、あいつは昔にもう」

アニ    「お別れだって、ちゃんと出来てなかったんだよね?なのに、戦ったんだよね」

オティス  「あれはデュラハンだよ」

アニ    「お姉ちゃんにとっては、ウォースロットさんだったんじゃないの?」

オティス  「やめて、違うから。あれは亡霊だし。第一、頭もないのに個人の意思だのなんだのがわかるわけないじゃん」

アニ    「じゃあなんで、あの亡霊のことをデュラハンって呼ばなかったの?ずっとお姉ちゃん、ウォースロットって呼んでたよ」

オティス  「っ!?それ、は」

アニ    「お姉ちゃんはお姉ちゃんであろうとしてるのかもしれないよ。けどね、今ここには私しかいないよ」

オティス  「アニちゃん?ちょ、離して。お願い。やだ、ねえ」

アニ    「離さない!離れないもん!こんな、力の入ってない腕で、あたしを引きはがせるわけないじゃん!

ねえ、お姉ちゃん。人はね、悲しかったら泣いてもいいんだよ」

オティス  「わたしは!」

アニ    「悪いことじゃ、ないんだよ。大切な人のために流す涙に、いいも悪いもないんだから」

オティス  「う・・・いいの、かな?」

アニ    「うん。いいの。ここで泣けなかったら、いつ泣くの?お姉ちゃんは、もう気にしなくていいんだよ」

オティス  「あ、う・・・ずっと、追いかけてたんだ。私より剣を使うのが上手くて、料理も出来て、私なんかよりもずっと勇者だった」

アニ    「すごい人なんだね」

オティス  「なのに、あいつは自分の命より私を選んだんだ。自分が生きることより、私が生きることを選んだ。ほんと馬鹿だ。

空気の読めないところもあったけど、本当に馬鹿だ」

アニ    「うん、うん」

オティス  「置いていかれる奴の気持ちなんて、全く考えてないんだ。勝手に希望を託したつもりでいてさ?馬鹿、馬鹿なんだよ。

あいつのいない世界を押し付けてきて。なのに・・・こんな形で再会したくなかった。なんで、なんで!?

どうして大好きな仲間の死を、二回も経験しなくちゃいけないの!なんで!どうして!?」

アニ    「私がいるよ、お姉ちゃん」

オティス  「ごめん、今だけ・・・これが終わったら、また私はオティスになれるから。だから・・・いいの?」

アニ    「いいんだよ。人は、そのために泣くんだから」

オティス  「そうか。そっ・・・か。うあ、あぅ・・・ああ、うあああ。あ、うわあああああああああああああん!!!」

アニ    「やっと、泣いてくれた」

オティス  「わた、私。ずっと、不安だった。なにも、わからなくて。けど・・・うぉすろ、がいたから。私、がんばれたんだ」

アニ    「うん、うん」

オティス  「・・・ひ、ぐ・・・なのに、なのに!ぜんぶなくなった。なんのために、私はたたかってきたのかわかんないじゃん!」

アニ    「大丈夫だよ」

オティス  「こんなことのために、私は戦ったんじゃない!私は!あいつを殺したかったわけじゃないのに!」

アニ    「ウォースロットさんの気持ち、私はわかるよ」

オティス  「痛みが欲しいよ。こんなに傷を負ってるのに、わかるのに、何も感じない。なにもわからない!なにも、ないんだ。

仲間だったものを殺したんだぞと責め立ててほしいのに!それすらも、ないんだ。わたしには、それすら許されないの?

なんで?なんでなの?どうして!」

アニ    「私が一緒にいるからね」

オティス  「ばか、ばかだ。なんで私にそんな道を選ばせたんだ!本当にばかだ。あいつは、私の気持ちなんか考えてないんだ!」

アニ    「そんなことないと思うよ」

オティス  「私は人間じゃないのに。なんで?わかんないんだよ。わかんなかったんだよ!なんで?どうしてこうなったの?」

アニ    「人間じゃないなんて、言わなくていいのに。お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」

オティス  「うん、うんん。ごめん、ごめんね?私が、こんなんじゃだめだよね。ごめんね」

アニ    「いいんだよ。うん、いいよ」

オティス  「もういやだ、失いたくない。やだ、やなんだ。アニちゃん、あにちゃあああ・・・っひぐ、うえあああああああ!」

アニ    「私は、ここにいるよ」

オティス  「どこにもいかないで。もう、一人にしないで!眠るときに誰もいないのはもう嫌なの。もう、独りは嫌だ!」

アニ    「うん、うん。大丈夫だよ。オティスお姉ちゃん」

オティス  「ごめんね・・・ありがとう。ありがとう。ごめん、ね」

アニ    「うんうん、どういたしまして・・・お姉ちゃん。あんまり抱き締められると、苦しいよ。一応、私も傷あるんだけど」

オティス  「アニちゃん、ねえアニちゃん。私は、生きててよかったのかな?生きてても、いいのかな?」

アニ    「当たり前じゃん。私は、お姉ちゃんと生きたいよ」

オティス  「ありがとう、うん、うん。ありがとう・・・ぜったいに、まもるから」

アニ    「うん。私も、一緒がいいよ」

 

 

ヴラドニア 「・・・タイミングを間違えたようね。出直しましょうか」

クタン   「そうですね、今は二人にしてあげましょう」

 

 

オティス  「ひ、く・・・ぐす、は、ぅあ・・・ひぐ、う、ぐす」

アニ    「結構経つけどまだ収まらないね。もう、我慢しすぎなんだよお姉ちゃんは。ハンカチ要る?」

オティス  「えう、ひっぐ・・・うん。わ、かった。顧みるから」

アニ    「うん、そうしてね。あれ、ハンカチどこにいれてたっけ」

ベニオット 「オティス、アニ。容体はどうだ――なんだお前、泣いてたのか」

オティス  「はぁ!?泣いてないし~!どこ見ていってんだ!」

ベニオット 「そんな顔して言われても説得力ないぞ。目を腫らして、鼻も赤いな。オティスもそういう顔するんだな」

アニ    「ベニオットさん!私は結構調子いいよ!へーきへー、きうっ!?あ、思ったより痛い・・・」

オティス  「泣いてないってば、うるさいぞお前・・・ずびっ(鼻をすする)、ぅあーもう。馬鹿みたいじゃん」

ベニオット 「大切な人のために流す涙だ、馬鹿なものか。ひとまずお前は鼻をかめ。待ってろ、たしかちり紙がこっちのポケットに」

オティス  「ぶふうううううううう」

ベニオット 「お前嘘だろ!?俺のマントで鼻かんだな!あー目も拭きやがって!キッチンのタオルじゃないんだぞふざけんな!」

オティス  「あーすっきりした!さて、何の話だったっけ?」

ベニオット 「ぶっ殺されたいのかお前は!はぁ・・・まったく。今回ばかりは仕方ない。どうせ支給品の安物だ」

オティス  「ていうかここで話していってくれる?足動かないからそっち向かえないんだよね」

ベニオット 「そのつもりだったが・・・お前いつも動けなくなってないか?毎度毎度ヒヤヒヤものなんだが」

オティス  「強敵相手に無傷で終わるとは思ってませんし?とはいえ、今度は体に負担がかかることはやめようかな」

アニ    「あれ?あれあれあれ!?お姉ちゃん!右側の髪の毛!バッサリ切られてるよ!」

オティス  「んえ?ああ、ほんとだ。回避し損ねたのかな?気付かなかった」

ベニオット 「むしろ今まで躱せていたんだな、驚きだ。アニ、回復魔法は・・・使えないんだったか」

アニ    「うーん、髪って負傷扱いになるのかな。ある程度だったら頼めばやってもらえるんじゃないかな」

オティス  「んー・・・ベニオットちょっと短剣貸して。腰につけてる非常用のやつ」

ベニオット 「これか?構わんが、何に使うん――だぁ!?おま、なにしてんだ!」

オティス  「ん?髪の毛斬ったんだけど。あー、随分バッサリ行っちゃったな。肩あたりの長さになった」

アニ    「お、おおおおお姉ちゃん?なんで!?すごく綺麗だったのに!」

オティス  「やー、小恥ずかしいんだけどね。髪の毛伸ばしてたのは単に切るの面倒だったのと・・・昔ウォースロットに褒められたからなんだよね」

アニ    「え。そういうことだったんだ?」

オティス  「だからもういい。過去のこと考えるのはやめにするよ。私はオティスだ、現在を見つめないとね」

ベニオット 「そうか、吹っ切れたんだな」

オティス  「その言い方なんか嫌だな?思い直した、とかにしてくれない?」

アニ    「髪の毛・・・あ、あのね!お姉ちゃん!髪の毛、何本か貰ってもいい?」

オティス  「え。いいけど、何に使うの?食べるの?」

アニ    「食べないよ!?あのね、ミサンガを編もうと思ったの。そこに、髪の毛編みこもうかなって」

オティス  「髪の毛を編みこむ?まさか呪いでもかけるつもり!?藁人形みたいに!藁人形みたいに!」

ベニオット 「どこの地域の呪いだそれ」

アニ    「違うから!もう・・・離れ離れになりたくないの。だから、願掛けのつもり。ダメかな」

オティス  「なるほど?そういうことか。いいよ、あげる。もう不安にはさせないから」

アニ    「うん!あたしもがんばるからね!」

ベニオット 「残りは燃やしといたらいいか?」

オティス  「出来れば遠くでやってくれな?髪の毛って燃やすと嫌な臭いするんだよ」

ベニオット 「それもそうだな・・・ん?死体が燃えた時の妙な臭いって、もしや髪の毛が原因なのか」

オティス  「まあ装飾品とかも関係してると思うけど、大部分は髪の毛だよ」

アニ    「いつ使えるかわからない豆知識を得ちゃった」

ヴラドニア 「・・・随分と物騒な会話ね?目的地の話はしたのかしら」

ベニオット 「ああ、忘れてたわ」

ヴラドニア 「はあ、まったく。そんな気はしていたけれど」

オティス  「依頼に変更なく、ロスタナに向かうってことでいいんだよね?」

ヴラドニア 「はい。護衛の任務は私に来ていた依頼だから、遂行に関しては心配いらないわ」

オティス  「操舵とか砲撃くらいは、座りながらやれるんじゃないかな」

ヴラドニア 「休んでてくださるかしら。アニさんも傷が痛むかもしれないけれど、オティスさんの看病をよろしくお願いします。ちゃんと見てて頂かないと、どこかに行ってしまいそうなので」

オティス  「もしかして子供扱いされてる?」

ヴラドニア 「事実として、今回は勝手に飛び出したでしょう?傷が治るまで安易に動かないこと。よろしくて?」

アニ    「え、大丈夫?ごはんとか作りに行ったほうがいい?」

ベニオット 「俺たちで適当にやるから安心しろ。努力はするが・・・まあ、どうにもならんこともあるかもしれんな」

ヴラドニア 「なんでこっちを見ながら言うの?」

ベニオット 「リゾットはよかったが、まーた何から何まで赤くされては敵わん・・・うお!?ちょ、フレック撃つなよお前!びっくりしたわ!」

ヴラドニア 「五月蠅いわね!私だっていろいろ頑張ってるのよー!」

 

 

 

キバイラ  「はて。向かうはロスタナ、待ち受けるは人の闇、人の業。魔轟が辿るは白か黒か、それとも・・・赤か。

       鈴華(スズカ)、八瀬(ヤセ)、百々冥(ドドメイ)・・・珠酊院(シュテイイン)。みんな、うちのために死なせてしもうた。うちだけが、残ってしもうた。

見とれよ。うちは絶対に首魁としての意地を見せる。あんさんらの無念、晴らしてみせるからな」