​原典の勇者 第4話 -港の町 シパオ- /♂×3 ♀×4 / 嵩音ルイ

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所要時間:160分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス  23歳 ♀


    どこからか来た旅人。
    飄々としており温厚。悪しき勇者を駆逐する旅をしている。読書を始めたが10分でやめた。
    「原典の勇者」と呼ばれる、魔龍を封印したかつての勇者。果物を剥かずに直接食べがち。

 

 

アニ  12歳 ♀

 
    オティスの仲間。魔法使い見習い。魔法も料理も邁進中。
    好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。強い女性へのあこがれがある。
    オティスの料理センスの無さを本気で心配している。

 

ヴラドニア  22歳 ♀
 

    『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。
    二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。
    元王女であり、兄の死の真相を追っている。料理をするとすべて赤くなる謎の技術を持つ。

 

 

ベニオット  26歳 ♂

    

    王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。交友関係は狭く深くがモットー。
    真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。
    パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

ヴァンハーフ  30歳(自称) ♂

    

    君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。
    人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。
    勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画があるようだが・・・?

 

イフォニ  年齢不詳 ♂

 

    その筋では有名な情報屋。対価さえ積めば有用な情報を明かしてくれる。
    童顔で小柄であるうえ、身分を全く明かしていない。金は他人に出してもらうモノ。
    背が小さいことをかなり気にしており、馬鹿にすると怒る。

 

 

リリフ(9代目キャリコ)24歳♀ 122
 

    近海で運び屋を営んでいる船乗り。気さくで明るい海の女。
    代々船乗りをして名を残している「キャリコ」一家の9代目。ベニオットとは古くからの付き合い。
    先代キャリコをヴラドニアに殺されており、深い悔恨を残している。

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役表

 

オティス   (♀)・・・
アニ     (♀)・・・
ヴラドニア  (♀)・・・
ベニオット  (♂)・・・
ヴァンハーフ (♂)・・・
イフォニ   (♂)・・・
リリフ+キャリコ (♀)・・・

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ヴラドニア 「これで良し、と。ああ、もう少し離れればよかった。また服を血で汚してしまったわ」
リリフ   「そんな、お父さん・・・ハイチお父さん!なんで、どうして!どうして殺したんだ!」
ヴラドニア 「貴方が一番よく知っているでしょう?8代目キャリコ、ハイチはここに死んだ。この私が、殺した」
リリフ   「違う、違う!キャリコは偉大な船乗りの名前だ!海を切り開き、新たな世界を世に示した偉大な男の名前だ!」
ヴラドニア 「それが何?過去の栄光があれば悪を成してもいいと?善悪は足し引きじゃないのよ」
リリフ   「これからだったのに。汚名を濯ぐため、お父さんがどれだけ苦しんできたかも知らないくせに!」
ヴラドニア 「言ったでしょう、罪が消えるわけじゃないの。
      それが必要悪だとしても、その男が危険物の密輸に手を染めた事実に変わりはないわ」
リリフ   「だったら公正に裁かれるべきだった!どうしてこんな無惨に殺されなくちゃいけない!」
ヴラドニア 「馬鹿ね。腐敗し、基盤が崩れ落ちた今の司法でまともな裁判が出来ると思っていて?
      『勇者特権者の行う凡ゆる行為、其れ即ち犯罪に非ず』なんて、真顔で言っちゃう連中よ」
リリフ   「あんたも勇者だろう!その権利で父を殺しておいて!」
ヴラドニア 「ええ、だって私は正義ですから。この世界には調停者が必要なの。それを私がやっているだけ」
リリフ   「そんなの、傲慢だ。あんたに正義なんてない!」
ヴラドニア 「それを決めるのは貴方ではないわ。何も持たない者に、選択の余地などないのよ」
リリフ   「奪ったのは、あんただろう!」
ヴラドニア 「生憎だけれど、貴方に興味はないの。どうするにせよあとは勝手になさい」
リリフ   「キャリコは、キャリコはまだ死んでないぞ!私がいる、私が変えてやるからな!」
ヴラドニア 「やめておきなさい。貴方には選択の余地がある、キャリコを継がない自由もあるのよ」
リリフ   「いいや、このまま終わらせない。私が憧れたキャリコを、こんなところで終わらせない!」
ヴラドニア 「憧れ、か。随分重たい看板を背負おうとしてるみたいね。
       夢を追うのは結構だけれど、身に合わないなら下ろした方が身のためよ」
リリフ   「そんなもの覚悟の上だ。いつか、いつか必ず到達してやる。誰も知らない海を見つけてやる。
       世界の海にこそキャリコありと、万民に謳わせてやる!」
ヴラドニア 「あらそう。意思が変わらないならそれでもいい、期待してるわ。」
リリフ   「父を殺したことをいつか後悔させてる!あんたの正義なんて、所詮ハリボテだったと示してやる!」
ヴラドニア 「ならせめて、悪の道に墜ちないことね。そうなってしまっては、私はもう引き金を引く選択しか選べなくなるから」

リリフ   「あれから3年が経った。9代目キャリコは、私が望む道を進み続けている。
       ああ、それだけは確かだ。それだけは、確かだったはずなんだ」

 

ヴラドニア 「あら、見たくもなかった顔だけれど久しいわね。まだ殺されていなかったなんて、世界は案外寛容なのね」
イフォニ  「こう見えても悪運としぶとさは一丁前でね。しかしひどいな、そんなにも気に食わないかい?」
ヴラドニア 「私、虫が嫌いなの。辺りを耳障りに鬱陶しく飛び回って、羽音を立てて。癪に障るわ」
イフォニ  「あはは、はちみつを欲しがる熊のようだね。蜂の恩恵を得なければ蜜を得られないのに、天敵と呼び嫌悪するわけだ」
ヴラドニア 「今はちょうど殺虫剤を切らしているの。魔法銃ならあるから、これでいいかしら」
イフォニ  「わわわ、ちょっとまって!何も煽りに来たわけじゃないから今日!待って!」
ヴラドニア 「あら、じゃあどういう趣なのかしら?何もないなら結構、お引き取り願いたいのだけれど」
ヴァンハーフ「短気なのはよくないよ、ヴラドニア。焦って事を仕損じてしまっては意味がない」
ヴラドニア 「ようやく来たわね、君臨勇者。相も変わらず全国行脚、楽しそうで何よりだわ」
ヴァンハーフ「勇者同盟の元締めとして、やるべきことは多いからね。 しかしつくづく君は困りごとばかりを持ってくる」
ヴラドニア 「何のことかしら。覚えがないわね」
ヴァンハーフ「君は勇者特権者を見つけ次第殺害しているが、勇者同盟へ参加しているものも多い。
      今は勢力の拡大が最優先事項だ、仲間を殺すのは勘弁してもらいたいのだがね」
ヴラドニア 「仲間?面白いことを言うのね。手足の間違いではなくて?」
ヴァンハーフ「勇者とて人間だ。差別はいけないよ、ヴラドニア」
ヴラドニア 「あら、説教でもしたいの? 私は私の正義を曲げる積もりはなくてよ?それにいいじゃない。
      あなたが欲しいのは所属者の数であって、生死問わずのスタンスでしょうに」
ヴァンハーフ「すべて死んでもいいということではない。生きているほうが当然いいとも」
ヴラドニア 「なら手綱はしっかり握りなさいな。ケルディや炎帝勇者のようになりかねないわよ」
イフォニ  「ま、ケルディをやったのは原典だけどねー」
ヴラドニア 「どのみち消すつもりだったわ。あれは正義に相応しくないもの」
イフォニ  「いい噂はなかったけど、じゃあ炎帝勇者は?」
ヴラドニア 「説明が必要かしら?彼が焼いた村の数を覚えていて?」
イフォニ  「勇者って何かと町焼きたがるのなんなんだろう」
ヴァンハーフ「ともかく留意するとしよう。君は君のまま進むといい、血染めのヴラドニア」
ヴラドニア 「当たり前よ。次に会うときは良質な紅茶でも用意しておいてくださいな?」
ヴァンハーフ「ああいや、君に用があってね、ここで会えたのは僥倖だった」
ヴラドニア 「なにかしら。私、あまり暇じゃないの。行かなければいけないところがあるの」
ヴァンハーフ「一応聞いておこうか。どこに、何をしに?」
ヴラドニア 「シパオ近海の哨戒と、例の団体の殲滅よ。何か文句があって?」
ヴァンハーフ「いいや、ないとも。ならばちょうどいい。僕もそこへ連れていってくれるだろうか」
イフォニ  「いいじゃん。なら僕も便乗したいな。この島、移動手段なくて困ってたんだ」
ヴラドニア 「ああそう、なら・・・はぁ!? どうして! あなた、歩いて行けるでしょう!?」
イフォニ  「僕は歩けませんけど。生憎近くに雇える船乗りもいないしね~」
ヴァンハーフ「たしかに海上歩行は会得しているが、効率が悪いし時間がかかる。移動手段があるなら便乗したほうがいい」
ヴラドニア 「あなたが極度の面倒臭がりとだけ覚えておくわ。それとコーヒーの備蓄はなくてよ、よろしい?」
ヴァンハーフ「構わない。以前とは違う、僕を客扱いしなくても平気だとも」
ヴラドニア 「それと、運賃に見合う情報を出しなさい。二人分よ。 出し渋るなら途中からでも海に叩き出すから、そのつもりでいなさい」
ヴァンハーフ「いいとも。僕の情報網で得た情報でいいなら、惜しむこともあるまい」
イフォニ  「その情報網の中に僕もいることを忘れないでね??」
ヴラドニア 「結構。さっさと私の『ゴールデン・ヴェニソン号』に乗っていただけるかしら。余計な時間はかけたくないの」
ヴァンハーフ「ああ。エンジンが始動すれば、この島を離れるのもすぐだろうからね」
ヴラドニア 「ところであなた、その・・・あの小さな子供はどこにやったの?」
ヴァンハーフ「ネリネのことかい?彼女にはお使いを頼んでいる。なにか気にかかることが?」
ヴラドニア 「いいえ? 食べたのかと思っただけ。ドラゴンステーキ、最近トレンドなのよ」

 

オティス  「これで終わり!っと。ふう危なかった、意外としぶとかったな」
ベニオット 「お前ともあろうものがこのような魔物に後れをとるなど。回復しきっていないか?」
アニ    「今のは仕方ないよ。大トカゲかと思ったらサソリが合体してたなんて、ずるいよこの魔物」
ベニオット 「上手く擬態したもんだ。しかし、少し動きが悪いのは否めなかったぞ。眠いか?」
アニ    「お姉ちゃん、もう体平気?キバイラの毒とか残ってない?」
オティス  「平気平気。あれから結構経つよ、さすがに抜けてる。ちょっと出力調整ミスっただけだから」
ベニオット 「キバイラ、か。お前でも歯が立たぬ相手がいるとはな」
アニ    「お姉ちゃんも別に万能なわけじゃないよ?」
ベニオット 「そういうつもりではない。ただ、次に相対するときは俺も相応の覚悟がいるな、と」
オティス  「ああ、なるほど。まあ竜騎士やってんなら何とかなるんじゃないの」
アニ    「軽いね??」
オティス  「それに、あれだけ苦戦したのは後手後手になったからだし。今度こそ殺すさ」
ベニオット 「しかし、イフォニはどこに行った?港の近くで待ち合わせる予定だったろう」
アニ    「うーん、道に迷っちゃったかな?」
オティス  「本当に合ってるんだよね?似た港がたくさんあるとか、そんなじゃないだろうな」
ベニオット 「まさか。あいつが地図を渡して座標を指定して来たんだぞ?近くにほかの港はない」
アニ    「遅れてるのかな。なんかこう、馬が怪我しちゃった~みたいな」
ベニオット 「あいつ、基本的に自分で馬に乗ったりせずに人にただ乗りするから」
アニ    「いい相手が見つからなかったんじゃないかな」
ベニオット 「ない話ではない。どうもこちら側、寂れてるからな。人の行き来が少ない」
アニ    「寂しいとか言われたー」
オティス  「うわーひどいやつだ。騎士ってひとのこころあるのー?」
ベニオット 「事実だろう。だからこそ、フォルレのような一件も今まで気づかれなかった」
オティス  「ははあ、スレイヴもそうだと言いたい?」
ベニオット 「要因の一つだ。あれがもしもカラドインや、ましてやアスカロン周辺で起こったとしたらこうも拗れなかったぞ」
オティス  「けど主要因はそこじゃないぞ。どのみち変えていく必要はあるだろうけど、それは私のやることじゃない」
ベニオット 「地域格差の是正はたしかに王政の仕事だな。騎士でも勇者でもできないことだ」
オティス  「そうそう、だから私たちで話し合ってもどうにもなんないの。未来の政治より目先の魔物」
アニ    「キバイラ、追わないとだね」
ベニオット 「デュラハンも放置はできないだろう。また被害が出たところだからな」
アニ    「首無し騎士さんが?どこの辺り?」
ベニオット 「ガープ大橋。その付近の町でデュラハンからの被害情報があがっている」
オティス  「ガープ大橋か・・・となるとやっぱり海を渡らないことには始まらないね」
ベニオット 「シパオを経由するのがいいだろう。なるべく陸路を使いたいからな」
オティス  「どのみち海には出る気だったから、そろそろ港に着く予定だけどね」
アニ    「海になにかあるの?」
ベニオット 「海にも魔物は多くてな。ぶっちゃけ陸路より過酷だぞ」
アニ    「そ、そうなんだ。海って大変なんだね」
オティス  「ていうか私、海渡る手段持ってないけど。おまえのアホ毛に乗せてもらっていいか?」
ベニオット 「いやいや、馬鹿かお前は。これ以上過積載にしたら飛べなくなるわ」
アニ    「お姉ちゃん、今まで移動はどうしてたの?何かこう、お世話になった船乗りとかいないの」
オティス  「ああ、こっち側に渡ってきたとき?密航したからいい繋がりとかはないと思ってくれていいよ。 恨みなら持たれてる」
ベニオット 「大悪党か??」
アニ    「海、海かぁ・・・どんなのなんだろ」
オティス  「ん?あ、そうか。ずっとプリメロにいたんだったら海って見たことないのかな」
アニ    「うん、ないよ。だからちょっと気になってたんだ」
ベニオット 「海を知らない?ずいぶんと希少だな」
アニ    「見たことない人多いと思うよ?旅をする人以外、ほとんど町を出ないって人多いから」
ベニオット 「そういうものか・・・ともかく港へ向かわないことには始まらないな」
オティス  「ちなみに友達いない騎士のベニオットさん、船乗りに当てはある?」
ベニオット 「友達くらいたくさんいるわ。知り合いが海運をやっている。頼めばまあ、乗せてもらえるだろう」
オティス  「あ、ほら見えてきたよアニちゃん!あの丘の向こう!海だよ!」
アニ    「うそ!?あれが海!?わあ。わああああ!」
オティス  「予想の3倍くらい興奮してる」
アニ    「海!これが海なんだね!?わははぁ!すごい!広い!青い!すごーい!」
オティス  「行くぞアニちゃん!釣りとかするぞー!」
アニ    「いえーい!」
ベニオット 「遊びに行くんじゃないんだぞ・・・少しくらいはいいか。死別しかかったんだ、あれでもな。
      さて、たしか知り合いはここらで活動していたはずだが、と?廃業?なぜ?」

 

ヴラドニア 「デュラハン、原典の勇者、キバイラ、神殺し、魔龍信仰・・・どれも耳寄りな情報だけど、もう一声。 まだ足りないわね」
イフォニ  「与えた方だとは思うけど、まだ足りない?食いしん坊だこと」
ヴァンハーフ「ああそうだ、勇者同盟に所属する勇者は、とうとう100人となった」
ヴラドニア 「興味ないわ、どうせ数合わせでしょう?次」
ヴァンハーフ「ならそうだね、あと一つ。王都アスカロンでの人民の不満について」
ヴラドニア 「急にそれらしいわね。ならそれでいいわ、話して」
ヴァンハーフ「一向に人民を顧みない政策ばかりを進める王に対し、暴動の機運が高まっている」
ヴラドニア 「暴動?まあ、あの王なら仕方ないところかしら」
イフォニ  「その話ならネタがある。昨日だったかな、王に向け勇者特権撤廃の嘆願書が届けられたが、突っぱねたそうだ」
ヴラドニア 「へえ、そう。相変わらずザルね」
イフォニ  「なおも勇者は増え続けている。最近では兵役制やそれに伴う増税も行われているから」
ヴァンハーフ「ヴラドニア?どうかしたかな、顔色が悪いね」
ヴラドニア 「余計な気遣いは結構、何ともないわ」
ヴァンハーフ「やはり気がかりかい?君の兄を見殺しにした王の無様、というのは」
ヴラドニア 「二度は言わないわ、今すぐ私の前から消えてくれるかしら。それとも叩き落されたい?」
ヴァンハーフ「それは勘弁だ。それでは、何かあれば呼んでくれ」
イフォニ  「じゃあ僕も退散しようかな、またあとで」
ヴラドニア 「お兄様。私は、ヴラドニアは、純然たる正義としてこの世界を、善きものとしてみせます」

ヴァンハーフ「利己的な正義というものは盲目なうえに脆いものだが、さてと、念波サザエを・・・、僕だ。対象と接触してくれるかな」

 

ベニオット 「クラーケンの襲撃による廃業・・・くそ、ここもか」
アニ    「色々釣れたー!ここ、船が全然いないよ?お魚はたくさんいたのに」
ベニオット 「いくらなんでも、ゼロなんてことはないだろう。誰も彼も廃業を余儀なくされたということか」
オティス  「この辺り一帯はクラーケンの被害が出てるみたいだね」
ベニオット 「クラーケンもそうだが、先ほど妙なことを言っている者もいてな」
オティス  「妙、というと?海獣でも出たのか」
ベニオット 「血染めのヴラドニアにやられた、と。どうもあれが民間船舶を襲っているようでな」
アニ    「ヴラドニアさんが、船を?なんでだろうね」
オティス  「問題はクラーケンだけじゃないということか。つまり、どういうことだ?」
キャリコ  「おーいあんたら、そんなとこで何を・・・ベニオット!?もしかしてベニオットかい!」
ベニオット 「お。おお?お前、リリフか!久々だな!こんなところでなにをしている」
キャリコ  「今のアタシはキャリコさ。そんな奴がこんなところで、船に乗る以外にやることがあるとでも?」
ベニオット 「キャリコ?そうか継いだのか。じゃあ船、あるか?あるのか!?」
キャリコ  「ああ、そうか。ここいらの船乗りはみんなやられちまってんだっけ。アタシは平気さ。どこへだって行けるよ!」
ベニオット 「よし、あてが出来た。すまないが、俺たちを乗せて行ってくれるか?」
キャリコ  「構わないよ!他ならぬあんたの頼みなら聞こうじゃないか!」
アニ    「おお!船乗りさんだ!よかったあ、何とかなるね!」
オティス  「ベニオットの旧友か・・・なんか変な属性ないよね?トラブルメーカーとか」
ベニオット 「誰のことを言っているんだ?というか、原典といえどキャリコは知らないか」
オティス  「少なくとも私の時代にはなかった名前だけど。私の後からできた名前なんじゃ?」
キャリコ  「原典?え、まさかあんた原典の勇者かい!?」
オティス  「え?ああ、そうですよ。こんにちは、今回はよろしくお願いします」
キャリコ  「へえ、本物の勇者さまと海を渡れるなんて光栄だねえ!よろしく頼むよ!」
ベニオット 「たしか初代キャリコが台頭し始めたのは原典より後の時代だったか」
キャリコ  「そうだったっけか。もうアタシで9代目だ、詳しくは覚えちゃいないんだけどね」
オティス  「質問なんだけど、ここいらの船乗りがあらかた壊滅してるのってやっぱり」
キャリコ  「そうだね、原因は2つ。クラーケンと、血染めのヴラドニアだ」
ベニオット 「そこがよくわからないんだが。なにがどうなってそんな被害が出るんだ」
キャリコ  「ここ最近になって、『魔の海域』でクラーケンが暴れているみたいでね。いくつも船が沈んでるんだ」
アニ    「魔の海域って?」
キャリコ  「ここからシパオを結ぶ航路の、ちょうど真ん中にある楕円形の海域さ。アタシも普段は避けるやばい海路」
ベニオット 「一度入れば無事では出られない呪いの海域だと言われていたが・・・そうか、真の原因はクラーケンだったか」
オティス  「で、血染めは?なんで原因になってるわけさ」
キャリコ  「どういうわけか知らないが、度々船を襲っては沈めてるのさ。こっちはむしろ、魔の海域を避けた場合に多いね」
アニ    「血染めさんでも、魔の海域は嫌なんだね」
オティス  「そっちはともかく、クラーケンは放置できないな。現に何人も被害を受けてるわけだし」
キャリコ  「アタシから頼むのも変だが、原典様。あんたなら何とかできるかい?」
オティス  「さすがに、現物を見てみないとわからないことは多いけど、たぶん行けるんじゃないかな」
アニ    「え、ええ?そんな簡単に受けちゃって平気?スレイヴみたいになったら、嫌だよあたし」
オティス  「引き際は弁えるよ。ともかく・・・付き合ってはくれるかな?キャリコ」
キャリコ  「やってくれるなら、無論付き合うさ!アタシとて不満はあったんだ、解決できるなら万々歳だ」
ベニオット 「なら航路は決まったな。魔の海域でクラーケンを討って、それからシパオだな」
オティス  「さーそうと決まれば準備だ準備!素材を粗方売って、船旅に必要なものをそろえる!」
アニ    「はーい!ねえお姉ちゃん。新しいお鍋、買っていいかな?」
オティス  「あんまり高いのはやめてね。えーと、1000メナ渡しとくから好きに買って。お釣りはあげるから」
キャリコ  「あのー。ところで一つ聞きたいんだが、さっきまで釣りでもしてたのかい?」
アニ    「うん、してたよ!どうして?」
キャリコ  「いや、素敵な髪飾りだと思ってね。よっぽど大物を釣ったようだ」
オティス  「そうそう。アニちゃんくらいのサイズの魚をね・・・うわ!頭にヒトデついてた!」
アニ    「え、それわざとじゃなかったの!?いい位置にいたからおしゃれとかと思ってた!」
オティス  「んなわけあるか!言ってよ!結構な数の人に声かけちゃったじゃん!」
アニ    「この前、倒したスケルトンの頭帽子にしてたじゃん。お姉ちゃんのセンス独特だから」
オティス  「くそう!ぐうの音も出ない!」

 

キャリコ  「ええと、これでつながってんのかい?この貝の仕組み、いまいちわからないねぇ。えっと、ヴァンハーフかい」
ヴァンハーフ「キャリコか。積み荷の運搬は順調かな?」
キャリコ  「ああ、問題ないさ。シパオ方面でいいんだろ?それと、その・・・原典と接触したよ」
ヴァンハーフ「ふむ、予定通りだね。しっかり依頼は受託したかな?」
キャリコ  「クラーケンのことかい?それなら心配はないよ、しっかり依頼した」
ヴァンハーフ「了解した、その件についてはよろしく頼むよ」
キャリコ  「ああ。その代わりこれからもよろしく頼むよ?それじゃ」
イフォニ  「計画の話か。君臨勇者も隅に置けないね、キャリコを使うとは」
ヴァンハーフ「先代キャリコとは縁があってね。彼にはよくしてもらったんだ」
イフォニ  「ああ、先代か。なるほど、それはたしかに強いつながりだね」
ヴァンハーフ「これからの世界に必要なのは魔法でも力でもなく、人脈になるだろう」
イフォニ  「情報の優位性は変わらないだろうね。だからこその情報屋だ」
ヴァンハーフ「とはいえ、9代目キャリコ――リリフは些か扱いづらい。危険な仕事を受けなくなった」
イフォニ  「たしかに9代目に関して悪い噂を全然聞かないな」
ヴァンハーフ「穢れを切り捨てるのみでは組織改革は成せない。それを彼女はわかっていない」
イフォニ  「だから、利用すると?」
ヴァンハーフ「リリフにはリリフに適した役割を与え、キャリコは新たな組織へと作り変える
       新たなる革新のため、キャリコの功績と身柄は最大限に利用させてもらう」
イフォニ  「あ、ははは。それはなんとも刺激的だ」
ヴァンハーフ「この世に絶対的な悪は居ない。正義もまた然りだ。だから為す必要がある」
イフォニ  「勇者は絶対的な正義たり得ないって?」
ヴァンハーフ「当然だとも。だが、絶対的な悪は創造できるものだ。僕はそれが欲しい」
イフォニ  「なるほど、それもまた一興だなあ。善が勝つか悪が勝つか。見ものだね」
ヴァンハーフ「すべてを決めるのは僕ではない。世界は、神の御心のままに動くのだからね」
イフォニ  「・・・あれ?君、信仰者だっけ?」
ヴァンハーフ「む?ああ、そうか。僕は無神論者だったね。同期が乱れ、情報が混濁したようだ。改善が必要だね」
イフォニ  「まったく、しっかりしてくれよ。君はヴァンハーフ、過去無き君臨勇者だぜ」

 

アニ    「すごい!広い!見渡す限り真っ青だよ!これが海なんだね!すごいなあ・・・大きいな」
オティス  「改めて見ると広いよねえ。もう陸が見えなくなっちゃった」
アニ    「先が見えないよ!風も気持ちいいなあ・・・きっとお姉ちゃんと会わなかったら、一生見れなかったんだろうね」
オティス  「もしかしたらそうかも。けれど私はここにいて、アニちゃんは私と一緒にいる」
アニ    「そうだね。ありがとうお姉ちゃん。私毎日楽しいんだ」
オティス  「うん、私もアニちゃんと冒険出来て楽しいよ」
アニ    「それでね、聞きたいことが・・・あ!お姉ちゃん!魚かかってるよ!そこの竿!」
オティス  「そいっと!見てみてでかいの釣れたよ!これ調理しようよアニちゃん。さっき釣ったやつも合わせてさ」
アニ    「いいね!新鮮な魚だから、変に奇をてらわないほうがいいかな?」
オティス  「どうだろう、私あんまり料理わかんないからなあ」
アニ    「うーん・・・ムニエルとか、スープにするのがいいかな」
オティス  「いいんじゃないかな。野菜類は結構積んできてもらったから、好きに使っていいよ」
アニ    「お野菜?いれるつもりだったけど、なにかあるの」
ベニオット 「船旅において、野菜や果実は傷みやすいから栄養が不足するんだ。そのせいで壊血病が一時期流行ったくらいだ」
アニ    「壊血病、ってまさか伝染病!?どど、どうしよう!回復魔法、まだ病気治せるレベルじゃないよ!?」
ベニオット 「違う違う、壊血病はビタミン不足が原因で起こる病気だ。肝要なのは偏りのない食事だ」
アニ    「そういうのあるんだ・・・ん?じゃあ普段の生活でも不足したら」
ベニオット 「ああ。起こるぞ。だから流通が不十分な町では地上だろうと流行り病になることもある」
アニ    「そうなの。なんとかしないと、いけないんだね」
ベニオット 「流通も大きな課題だな。魔物の影響もあるが、そも馬車と帆船では資材を運べる範囲に限界がある」
オティス  「魔法によるワープ移動なんかも提唱されたけど、未だ実現には至ってないしな」
ベニオット 「もしくは全国的に食糧生産が安定すればいい話なんだが。少なくとも今は難しいな」
アニ    「船も早いのに。世界は広いんだね」
キャリコ  「そうだね、世界は広いもんさ。だからこそ楽しいのさ!勇者さまが旅を続けるのも、それが理由だろう?」
オティス  「まあ否定はしないかな。知らないことを知るってのもまた一興ってやつだ」
キャリコ  「なかでも海はまるで無限だ。誰も知らない何かを探すのは楽しいもんさ」
アニ    「うん、とっても楽しい。あたし、こういうの好きだ」
キャリコ  「ベニオットだってそうだろう?この楽しさを知ってるから騎士になったんじゃないかい?」
ベニオット 「否定はしないが、あまりにも時間がかかる移動は嫌いだ」
アニ    「移動も楽しいもんじゃないの?」
ベニオット 「特に面倒なのは海だ、船が必須になる。飛んでいけなくはないがどうも要領に欠ける」
キャリコ  「なんだい、アホ毛で飛んでいかないのかい」
ベニオット 「さすがに距離が長すぎる。休憩ポイントがあればまだしもこの海域は広すぎる」
アニ    「王都まで飛んで行ったときはどうしたの?」
ベニオット 「ぎりぎり飛んでいける航路がある。陸路は迎えがあったからな」
オティス  「ともかく乗せてくれる船乗りがいてよかった。海図読めないから私」
アニ    「お姉ちゃん、読み物に疎いよね」
オティス  「そんなことは、ないと、おもいます。はい」
キャリコ  「おや、そりゃまいったね。原典様に海図見ててもらおうかと思ったんだが。今回は舵輪から手が離せそうにないからね」
アニ    「よ、読み方教えてくれたらなんとかするよ!」
オティス  「じゃあ私が操舵変わろうか。心得はあるよ」
アニ    「あたしはー!?」
オティス  「おいしいご飯をお願いします」
アニ    「まかされました!」
キャリコ  「操舵は任せるね。ベニオット、定期的に辺りを哨戒してくれ」
ベニオット 「わかった。しかし、お前とともに旅をする日が来ようとは」
キャリコ  「感慨深いねえ。何もかも変わっちまったけどね」
ベニオット 「改めて思うと久しいな。6年ぶりくらいか」
キャリコ  「もうそんなになるかい?長いようであっという間だったね」
ベニオット 「お前はまだ夢を追い続けるだけの船乗り見習いだった」
キャリコ  「あんたこそ、ただ熱くて気概しかない一兵卒だったろうさ」
ベニオット 「変わらんな、お前は」
キャリコ  「あんたこそ。アホ毛とも仲良くやってるみたいで安心したよ
ベニオット 「相棒だからな。親父さんの船の帆も調子はいいようだ」
キャリコ  「お互い、小さいころからの付き合いだからね」
ベニオット 「・・・お前は満足か?キャリコといえば、結構な噂を聞くぞ」
キャリコ  「いいや、まだまだだよ。アタシはもっとやることがある。キャリコを、善きものにするために」
ベニオット 「キャリコといえば、よくない噂を散見する」
キャリコ  「だろうね。成り立ちからしていいものじゃないから」
ベニオット 「だがお前が継いでからはめっきり消えた。いいじゃないか、焦るなよ」
キャリコ  「そう、だね。けど、着実に進んでる。心配しなくても大丈夫さ」
ベニオット 「ならばいい。成果を焦るあまり人を貶めることに手を染めては元も子もない」
キャリコ  「それ、誰のことだい?」
ベニオット 「馬鹿な知り合いのことだ。お前はそうなるなよ」
キャリコ  「わかってるよ。そうやってのし上がってきたキャリコのやり方をやめようってんだ。新たな災禍を生んだら意味ないだろうさ」
ベニオット 「そうか。さて、そろそろ魔の海域か」
キャリコ  「通るのはずいぶん久しぶりだ。ハラハラするねえ」

 

ヴァンハーフ「魔の海域といえど、ほとんど魔物に襲われずに済むのもこの船の特権か」
ヴラドニア 「対魔物用の装備は欠かしていないわ。そこらの雑魚なら傷すら付けられない代物よ」
ヴァンハーフ「なるほど。しかしクラーケンであればどうかな?さすがの君でも太刀打ちは難しいんじゃないだろうか」
ヴラドニア 「さあ、戦ったことはないからわからないわ。それより周囲の監視、やるって言ったのだからちゃんとやってよね」
イフォニ  「ん?あそこに船がいるね。誰の船かな」
ヴラドニア 「船?ちょっと双眼鏡貸しなさい・・・ああ、キャリコの帆船ね。彼女がここを通るなんて珍しいこともあるわね」
イフォニ  「9代目キャリコか。普段は通らない航路を通ってるなんて、何かあるのかな」
ヴラドニア 「ふむ、気になるわね。少し調べてみるべきかしら」
ヴァンハーフ「そういうことならば僕もほどほどに手を貸そう。『魔の鎖』の性能を試したかったところでね」
ヴラドニア 「また魔道具作成かしら。飽きないわね」
ヴァンハーフ「これはどちらかといえば新種の「魔法」作成に近い。魔力を練り上げ、金属を作り上げる」
ヴラドニア 「私に魔法を説かれてもわからないのだけれど?それに、まだ黒と決まったわけではないの。

      いくら悪名高きキャリコといえど、見ないことにはわからないわ」
ヴァンハーフ「キャリコといえば…8代目を殺したのは、君だったのではないか?」
ヴラドニア 「ええ、勇者と成ってあまり月日が経っていない頃のことだったかしら。それがどうかしたのかしら」
ヴァンハーフ「大したことではないよ。しかし、どういう気分なのかな。9代目の現状は、君が作り出したようなものだ」
ヴラドニア 「別に、大した感慨もありません。あれだけのことを吼えておいて何も変わらなかったのだとすれば、それはあちらの怠惰です」
ヴァンハーフ「実に君は冷酷だね。前に僕の仲間の勇者を殺した時も、その赤い瞳は冷めきっていた」
ヴラドニア 「どうとも思わないわ。捨てるべきを捨てただけよ。貴方に聞くまでもないでしょうけど、魔法銃に使う宝石に必要な条件は?」
ヴァンハーフ「均質であること。それから、傷や割れ目がないことかな」
ヴラドニア 「ええ。だから偏りのあるものは捨てないと。割れているものも避けないと。それだけよ、感情を沸かせろという方が難しいわ」
ヴァンハーフ「大義のためにはすべてが路傍の石、か。実に分かりやすい」
ヴラドニア 「ところで、仲間の勇者って誰のことかしら。この間の・・・炎帝勇者?」
ヴァンハーフ「いいや、違うが・・・全く、困るね。勇者同盟に属する勇者を、君は何人葬ってきたのかな」
ヴラドニア 「覚えていないわ。コーンスープを飲む時、コーンの含有数なんて気にしないでしょう?」
ヴァンハーフ「そうだね。では、どうやって降下すればいいのだろうか」
ヴラドニア 「そこの左のハッチをあけて、レバーを下ろせばいい。着地のことは気にしなくていいわ」
ヴァンハーフ「そうか。まずは僕が参るとしよう」

 

アニ    「うーん、魔の海域なのに、さっきからなんか静かだね?」
ベニオット 「当初は雑魚が群がってきたというのにな、気味が悪い」
キャリコ  「魔物すら逃げ出すやばいやつがいるのかもね。警戒しとくんだよ」
オティス  「ん?なんか飛んでるね、鳥かな」
アニ    「鳥っぽくはないよね。魔物かな?うーん、良く見えないな」
ベニオット 「何か飛んでいるか?すまんが今、アホ毛は翼を休めている。双眼鏡のようなものはあるか」
キャリコ  「ここに望遠鏡がある。どれどれ・・・ん?あれ、は」
アニ    「何が見えたの?怪鳥?」
キャリコ  「ご・・・ゴールデン・ヴェニソン号だ」
アニ    「金の鹿肉(ゴールデン・ヴェニソン)?なにそれ、どういうこと?」
オティス  「ゴールデン・ヴェニソン号といえば血染めのブラドニアが保有してる戦艦だけど・・・飛ぶんだ!浮くんだねあれ!」
ベニオット 「どういう原理か空を航行できる唯一の船だが、おいキャリコ!魔の海域は通らないんじゃなかったか!」
キャリコ  「そんな馬鹿な。なんで、どうしてここに!?」
アニ    「ここ、通ってるからかな?挨拶とかしたほうがいい?」
ベニオット 「多分いらないんじゃないか?砲門がこっち向いてる」
オティス  「キャリコ。今から引き返して全速力出したとして、逃げられると思う?」
キャリコ  「あえ?うーん、厳しいと思うね。航行速度も、旋回性もあっちが上なんだ」
ベニオット 「仕方あるまい、空を飛べる俺が話をつけて来よう。」
ヴァンハーフ「やめておいたほうがいい。人に背を許す竜というのは貴重な存在だからね」
アニ    「お姉ちゃ・・・え、なんか知らない人がいるー!」
キャリコ  「な!?君臨勇者!?どうして勇者が二人も!」
オティス  「この野郎!ベニオット、行くならとっとと飛べ!抑えは私がやる!」
ヴァンハーフ「させないよ。行け、『魔の鎖』」
ベニオット 「鎖!?しま、捕まった!」
ヴァンハーフ「むざむざ竜騎士を飛ばせはしないよ。そら、甲板とキスでもしていてくれ」
オティス  「フレイム!くそ、とんだ来客だなほんと!」
キャリコ  「ここから逃げないと・・・っと?まずい!舵をやられた!くそ、狙いが的確過ぎる!」
オティス  「一閃!ああくそ、まさかこんなところで再会するとは思ってもなかったな。なあ君臨勇者」
ヴァンハーフ「世界に偶然はあり得ない。これもきっと、何かが仕組んだ必然だよ」
オティス  「うわほんとに気持ち悪い。何しに来たんだ、よ!」
ヴァンハーフ「僕の目的はずっと変わらないさ。人類をより良いステージへと導く、そのための全てだ」
アニ    「人類を、導く?」
オティス  「目的はもういい!手段を聞いてるんだこっちは」
ヴァンハーフ「ならば、その片鱗だけでも教示してもいいだろう。魔龍の再臨だ」
オティス  「っ!?まりゅ、うの・・・再臨?馬鹿を言え!魔龍なんてもの、この世には」
ヴァンハーフ「おっと、手が緩んだようだ。拘束」
オティス  「しま!くっそ、油断した!」
ヴァンハーフ「すまないね、御用改めだ。大人しくしていてもらおうか」
オティス  「っぐ・・・くそ、なんだこの鎖。力が、入らない」
ヴァンハーフ「それかい?魔力で練り上げた物質特有の性質だ。辺りの魔力を吸い上げ、剛性を強化しようとするのさ」
オティス  「魔力を吸う?ああくそ、そういうことか」
ヴァンハーフ「君は見かけのわりに、七星剣を片手で振るえるほど力が強い。何かがある、と僕は考えた。
      筋力を魔力で強化しているのだろう?ならこの鎖は天敵といえる」
オティス  「はは。天下の君臨勇者ともあろう者がそんなにも怖いか?」
ヴァンハーフ「僕をなんだと思っている?怖いとも。不確定要素は消すに限る」
オティス  「不確定、ね。私としては、お前の存在そのものが不確定だ。なんなんだお前は」
ヴァンハーフ「何かといわれると少し困るな。そうだな、あくまで僕は君臨勇者という個体でしかない」
オティス  「・・・お前、ほんとに人間か?」
ヴァンハーフ「人間である是非を君に問われたくはないな。さて、創剣。少しダメージを与えておこう」
アニ    「創剣? 何もない所から剣を作り出す、なんて・・・?!お姉ちゃん!?なんで、まともに食らってるの!」
オティス  「ッ!くそ、行けると思ったんだけどな」
ヴァンハーフ「なるほど、目ざといな。僕の攻撃で鎖を破壊しようとした。眉一つ動かさずに、よくやるものだ」
オティス  「けふ・・・その割にお前も致命傷は避けたな。なんなんだ、意図が読めない」
ヴァンハーフ「一つ、気になっていることがあってね。ふむ、瞳孔の反応に、発汗はなし、あとは」
アニ    「お、お姉ちゃんが診察されてる!?」
オティス  「や、ややややめろ!変な手つきで触るな!鳥肌立つ!」
ヴァンハーフ「やはりか。痛みへの反応がない。原典の勇者の勇猛さの所以は、痛覚の喪失が理由か」
アニ    「痛覚の、喪失!?」
ヴァンハーフ「反応を見るに、痛みそのものは感知している。脳が痛覚だと認識していないのが原因か。痛覚遮断だろうか」
オティス  「だから、なんだ。それが関係あるのか?」
ヴァンハーフ「痛みとは、防衛本能の顕れだ。恐怖から逃れようとする反応だ。
それを喪失してしまえば、なるほどたしかに勇猛な戦士となれるだろう。勇者とするため、よく考えられたものだ」
アニ    「痛みを、感じない?お姉ちゃんが?」
ベニオット 「そうか、だからフォルレでアニの激辛サンドイッチもけろっと平らげたのか。辛みは痛覚だから」
アニ    「キバイラと戦ってた時、平気そうにしてたのも?そんな・・・」
ヴァンハーフ「哀れなことだ。その体質のせいで君はどれだけのことを」
オティス  「うるさいな、哀れんだ声を出すな!たった一つ私のことを知ったくらいで理解したような口ぶりするなよ!」
アニ    「どうして?ひどいよ、そんなことって」
オティス  「別に気にしちゃいないけどね、詮索されんのは気分悪い・・・あ、やば。肩外れた」
ヴァンハーフ「無理に抜けようとするからだ。もっと君のことを調査したいが、今日の目的は残念ながら君じゃない」
キャリコ  「どうなってんだい!?ヴァンハーフ!なんでアタシの船を襲うんだい!」
ヴァンハーフ「理由はよくわかっているだろう?君には君の役目がある。違法密輸のカリスマ、キャリコ」
キャリコ  「そ、それは先代までの話だ!アタシはもうそういうのからは足を洗ったんだ!」
ヴァンハーフ「本当かい?君の家系は代々そういうものを専門に運んでいただろう」
キャリコ  「そんなことしちゃいない。今回の荷物だって、違法なものじゃないんだろ?」
ヴラドニア 「君臨勇者、いったい何が目的なのかしら。邪魔をしないでほしいのだけれど」
ベニオット 「血染めのヴラドニア!?くそ、降りてきたのか」
アニ    「この人が、あのヴラドニア?綺麗なひとだ」
ヴラドニア 「鎖で全員完封して、随分楽しそうなことね。私がなんて言ったかも忘れたのかしら」
ヴァンハーフ「何、簡単なことだ。キャリコは魔力炉を運搬していた。罪ありきだ」
ベニオット 「魔力炉?!おいキャリコ!今回頼まれてた積み荷って、いったいなんだ!」
キャリコ  「え?魔法のために使う道具だと聞いていたが、それ以外は知らないよ」
ヴァンハーフ「半永久魔力生成装置、曰く魔力炉。これは王都に申請を出さないと運搬しちゃいけない決まりだ」
キャリコ  「あ、あれはあんたが運べって言ったんだろ?」
ヴァンハーフ「そうだったかな?しかし君の船の格納庫にはたしかに魔力炉が―」
ヴラドニア 「知らないし興味ないわ。私はキャリコを見定めにきたの」
アニ    「キャリコさんを?」
ヴラドニア 「この辺りの海域、違法な運び屋がよく通るの。その総締めはキャリコで間違いないのかしら」
キャリコ  「だからそれは先代、先々代たちのやってきたことだ!アタシはもうそんなことやめた!それに」
ヴラドニア 「聞いていらして?あれだけ私に啖呵を切っておいて、この体たらくとすれば笑えないわよ」
キャリコ  「アタシじゃない!違う!」
ヴラドニア 「あのね、罪は時間では消えないのよ。贖う気がないなら、私は弾丸しか差し出せない。悪は鏖(みなごろし)よ」
キャリコ  「そんな、ちょ、やめ」
ヴァンハーフ「話を聞いてくれないかな、ヴラドニア。キャリコを殺してはいけないよ」
ヴラドニア 「あなたもあなたよ。何を企んでいるのかしら」
ヴァンハーフ「その前に、紹介しておこうかな。一同、3時の方向を向いてもらえるだろうか」
アニ    「3時というと、右舷のほう・・・ん?んん!?」
ヴァンハーフ「この海域の主、クラーケンだ。まだ小型だがね」
ベニオット 「ははは・・・だから魔物がいなかったわけだ。ずっと潜伏していたのか」
ヴァンハーフ「僕はこれに興味があってね。都合よく魔力炉がここにあり、君たちもいる」
キャリコ  「な、仕組んだってのかい!?なんのためにだい!」
ヴァンハーフ「人類の発展のためさ。さて、まずは懐柔と行こうか・・・おっと」
アニ    「きゃーー!?クラーケンに船をたたき割られた!!」
キャリコ  「ああ、アタシの船が!くそ、やめてくれ!」
ヴァンハーフ「凶暴だな、まったく。うっかり魔力炉を壊してしまうところだ」
アニ    「こ、このままじゃ沈んじゃうよー!」
ヴァンハーフ「これはいけないね。仕方あるまい、一時撤退と行こう」
キャリコ  「うわ!?くそ、アタシをどこに連れて行こうってんだい!やめろ!」
ヴラドニア 「な、待ちなさい!ああもう、分が悪いわね」
ヴァンハーフ「また会おう、皆の衆。僕の計画はここで終わらないよ」
オティス  「んぎー!鎖が取れないー!ん、煙幕?なんだこれ」
ヴラドニア 「魔力物質の構成式を崩す素材が含まれているわ。『魔の鎖』はこれで壊せる」
アニ    「解放されたー!よーしお姉ちゃん、指示を」
ヴラドニア 「やめておきなさい、この局面じゃ勝てないわ。ひとまずは態勢を立て直すべきね。目くらましがきいてるうちに撤退よ」
オティス  「ちょ、撤退も何も船ぶっ壊れてるんだけど!?」
ヴラドニア 「あら、船ならあるじゃない。ゴールデン・ヴェニソン号、乗せてあげる」

 

イフォニ  「まったく、僕に降り方教えずにいくなんてずるくないか。おかげで留守番を・・・勇者一行だ!?」
オティス  「イフォニだ、いたんだね」
イフォニ  「いたよ!?ずっと船の航行システムとにらめっこしてたよ!?」
オティス  「それで、仕切り直しってことでいいのかな。血染めのヴラドニア」
ヴラドニア 「あら、親切で引き上げたのに敵意をむき出しにしてくるのね」
オティス  「勇者殺しを信用しろと?邪魔もいなくなって、次なる標的は私か?」
ヴラドニア 「そうね。隠していても仕方ないわ。原典の勇者、ずっと会いたかったの」
オティス  「なんだ、どんな武器を出す気だ!やるならやる・・・ぞ?」
イフォニ  「えっと、本かな?勇者冒険譚だね。しかもこれ、結構初期のやつだ。珍しいね」
ヴラドニア 「私の宝物です。その・・・さ、サインを。いただけないかと思って」
オティス  「・・・は!?そっち!?」
ヴラドニア 「何よ!何か文句があるのかしら!私を誰だと思っているの!あらゆるものが恐れ慄く、血染めのヴラドニアよ!」
イフォニ  「こんなわかりやすいの見たことない」
アニ    「お姉ちゃん、サインとかあるの?」
オティス  「ああうん、考えてるには考えてるけど・・・これとこれ、どっちがいいかな?」
アニ    「うーん、やめたほうがいいよお姉ちゃん。なんか宿りかねないよ」
ヴラドニア 「ええ、そうよ。小さいころから憧れの存在よ。ようやく会えたのに、むざむざ死なせるわけにはいかないでしょ」
オティス  「ああうん、それはどうも。サインはやめとけって言われたから、握手で許してもらえないかな?」
ヴラドニア 「握手?! あ、握手ですって?! そんな! 畏れ多い!」
オティス  「はい、右手握って、よろしくね」
ヴラドニア 「きゃーーー!! 原典様と握手! 握手をしてしまいましたわ! わたくしもう右手は一生洗いません事よ!」
ベニオット 「衛生的に問題があるから手洗いうがいはこまめにな?」
イフォニ  「ていうか皆、ずいぶん身軽だね。荷物は?」
アニ    「あ、もしかして船ごと?」
ベニオット 「沈んだか?それは参ったな、今からでも回収できないか?」
ヴラドニア 「今降りたらクラーケンの餌よ。貴重なものがあったかもしれないけれど。あきらめてください」
ベニオット 「たしかにそうか・・・おい、俺のアホ毛はどこだ」
ヴラドニア 「アホ毛?ああ、竜のこと。帰還魔法はね、人間にしか反応しないの」
ベニオット 「アホ毛ェーーーー!?ああよかった、こっちに飛んできていた!」
アニ    「荷物、せっかくいい調理道具・・・かった、の、に」
オティス  「アニちゃん?アニちゃん!?倒れ?そんな、熱がある!」
イフォニ  「揺らさない揺らさない!どれ・・・下で何かあった?体の魔力がほとんど抜けてるんだけど」
ヴラドニア 「魔の鎖のせいかしら。生命維持のための魔力すら吸われるなんて」
オティス  「ど、どどどどどうしたらいいのこれ!?人工呼吸!?」
イフォニ  「人の看病したことないの?」
ベニオット 「風邪に近い症状が出ているな、いろいろ用意したい。備蓄はあるか」
ヴラドニア 「あるけれど、ひとまずシパオに向かいましょう。補給もしたいし、買うべきものもあるでしょう」

 

アニ    「うう、ん・・・あれ?寝てたの?」
オティス  「お?おお?アニちゃん、目覚めたんだね!よかったぁ」
アニ    「そっか、あたし・・・ここ、どこ?」
オティス  「ゴールデン・ヴェニソン号。ヴラドニアの船の中だよ」
アニ    「ヴラドニアさんの、か。お姉ちゃんが看病してくれたの?」
オティス  「え?うん。とりあえず魔力は順調に回復してるよ。リンゴ食べる?」
アニ    「うん。ありが・・・お姉ちゃん、それどうしたの?」
オティス  「あ、指?果物剥くの久々すぎて切っちゃった。大丈夫、そんなに深くないからすぐ治るよ」
アニ    「いたく、ないの」
オティス  「うん。これくらいは全然、っと?なに、急に抱きついてきて・・・えちょ、え?なんで叩くの」
アニ    「べしべし、べしべし!」
オティス  「ちょ、やめやめ!どうしたのほんと!胸元とわき腹をめちゃくちゃに叩いて!なんで!? 何が気に入らないの?!」
アニ    「お姉ちゃん、ほんとになんともないの?」
オティス  「あ、ああ。痛覚の話?うん、全然なんともない」
アニ    「今、結構強く叩いたんだよ?なのに、そんなに平気そうなの」
オティス  「それは・・・いらないんだ、私には。戦いにおいて苦しみは隙になる。」
アニ    「そんなの嘘だよ!痛くないなんてそんなはずはない!」
オティス  「けど、なんともないよ。」
アニ    「感じてなくても、身体は痛がってるかもしれないよ?痛くなくても、傷は出来るんだよ?」
オティス  「回復すれば、治るよ」
アニ    「そうじゃないもん!痛くないんだとしても、傷つくお姉ちゃんを見るのはいやだよ。
      だから平気なんて言わないで、いらないなんて思わないで」
オティス  「・・・そう、思ってくれてるんだね」
アニ    「だから無茶は嫌だよ。私も頑張るから!お姉ちゃんだって、人間なんだよ」
オティス  「人間、ね――違うって言ったら?」
アニ    「え?それは、どういう」
オティス  「何でもないよ、ありがとう。じゃあ戻ろうか、ヴラドニアが呼んでる」
アニ    「うん・・・だけどもうご飯時じゃないかな。なにかつくらないと」
オティス  「まだ回復してないでしょ、休んでて。今日のご飯は私がやるから」
アニ    「はい・・・え!?だ、だめだよお姉ちゃん!あたしがやる!」
ヴラドニア 「あらアニさん、目が覚めたのね?万全ではないのだから休んでおくべきよ」
アニ    「だめだって!お姉ちゃん、なんでも塩で焼くか適当に食材詰めて煮込むかしかレパートリーないんだから!」
オティス  「え、別に良くない?そんなにだめ?」
アニ    「だーめ!あたしがやるから!」
ヴラドニア 「あの、オティスさんの料理ってそんなにひどいの?」
イフォニ  「一回食べはしたけど、まずくはないよ?ただえらく豪快で雑だから、かなり人を選ぶといいますか」
ヴラドニア 「ゆ、勇者さまはたくましいのね?」
アニ    「何とも言えない味がするから!だからやめとこう?」
ヴラドニア 「とりあえず今回の料理なら私がやったわ。食料はたくさんあるし、振舞ってさしあげてもよくてよ」
イフォニ  「できるんだね、すごいな」
ヴラドニア 「給仕も召使もいないのよ?自分で何とかしようとするのは当然よ」
ベニオット 「ふむ、なんでも自分でやろうとするのはいいことだな」
ヴラドニア 「あくまで簡単なものしかないけれど。パンにスープにサラダにカルパッチョに・・・」
アニ    「・・・これ何?」
ヴラドニア 「今言ったでしょう?詳しい料理名は決めてないわ」
オティス  「赤いね。え、べつに元から赤い食材じゃないよね?なんで赤くなるの?」
イフォニ  「ていうか全体的に赤いね!?パンすら赤くできるってもはや才能だよ!?」
アニ    「料理まで血染めだ・・・なんで?」
ヴラドニア 「どうしてそこまで言われなきゃならないの!味!料理は味なんだからー!」
オティス  「ベニオット、頼んだ」
ベニオット 「こういう時だけ俺を頼るよなお前。たまにはこういうピンチも一人で越えろ」
オティス  「同盟だろ同盟。先陣を切らせてやろうってんだぜ」
イフォニ  「そうだぜベニオット、こういうとこに真っ先に行けるやつかっこいいぜ」
アニ    「ミネストローネかな、あむ・・・あ、コーンスープだこれ。なんで赤いんだろう」
ヴラドニア 「っ!そ、そうよ!どう、かしら?」
アニ    「これ、ヴラドニアさん的に出来はどうなのかな」
ヴラドニア 「え?最高、とは言い難いけど上手くできたほうよ」
アニ    「うーん、悪くはないんだけどこれはちょっときついかな。いろいろ教えてあげるね」
ヴラドニア 「ど、どうして!?お兄様が愛用していた秘伝のソースをふんだんに使ってるのよ!?」
イフォニ  「原因が明らかすぎる」
ヴラドニア 「ピリッとしてておいしいのよ!コクがあって!」
ベニオット 「全部の料理を同じ味にしてどうするんだ」
アニ    「なんでもマヨネーズかける人みたいだね」
ヴラドニア 「そ、そんな。これがダメだったなんて。考えもしなかった・・・おいしいのに」
アニ    「使う料理は選んだほうがいいね。カルパッチョにこのソース、合わなさ過ぎるよ」

――――――・・・

 

キャリコ  「血染めのヴラドニアが、アタシのことを探してる?」
イフォニ  「船乗りが何人か襲われてるそうだ。ここいらの船乗りの総締めといったら君だろう?」
キャリコ  「たしかにそうだが、どうしてだい?アタシは何もしちゃいないよ」
イフォニ  「シパオから出荷された武器や宝石が、どうも勇者に流れてるようでね」
キャリコ  「勇者に?そんなの今の時代じゃ多くない話だろう」
イフォニ  「そのせいで女神にまつわるものが一つ滅びかけたとしても?」
キャリコ  「町が?どういうことだい」
イフォニ  「フォルレ、わかるよね?あそこの神樹に手をかけようとしたシスターがいたんだ」
キャリコ  「神樹を?なんとも剛胆なことをするやつがいたもんだね」
イフォニ  「その時使われた呪いの水が、どうもルートを辿ると君の航路から出てたみたいでね」
キャリコ  「アタシの?そんな代物、扱ってないはずなんだけど」
イフォニ  「ケルディのところに神聖剣が渡っていたことにも心当たりはある?」
キャリコ  「アタシは武器類の輸出は差し止めてる。
      ちょっとしたものならまだしも、そんな代物が混じってて気付かないはずがないさ」
イフォニ  「そうだよね。ちなみにこの事件を未然に防いだのは原典の勇者だ」
キャリコ  「原典の勇者?本当に封印から甦ってたんだね。驚きだ」
イフォニ  「しかしキャリコ自身覚えがないのをみると、やっぱり君の航路を使ってる者がそれを運んだとしか」
キャリコ  「困ったね。なるべく運送する荷物を明確化するように言ってるんだが、それでもまだ抜ける部分はある」
イフォニ  「それで、この間の薬物密輸組織の件が重なったろう?ヴラドニアは何かあると踏んだみたいでね」
キャリコ  「シパオ近海の警戒を強めたのはそういうことかい、てっきりクラーケン関連かと」
イフォニ  「クラーケンも脅威だが、ヴラドニアにとって一番脅威な魔物は『人間』だからさ」
キャリコ  「笑えないよ、アタシはあいつを見返したいんだ。こんなところで終われないよ」
イフォニ  「とはいえ、苦難な道だろう。キャリコという名に積みあがってきた罪の多さは計り知れない」
キャリコ  「キャリコの、罪か。わかってるさ」
イフォニ  「初代キャリコ、俗称「鉄の首輪」。
      魔龍及び勇者が去りし世の騒乱に紛れ、身寄りのない子供を奴隷として売りさばいていた。
      この時彼が拓いた海路が、後にキャリコの名を大きく轟かせることになることは説明しなくていいだろう。
      5代目キャリコ、俗称「毒の絨毯」。彼が生業にしていたのは強烈な毒物の運搬だ。
      カップ一杯ほどで町を殺すような毒すらも運び売り、その毒により死に至らしめた要人は数えきれない。
      8代目キャリコ、俗称「楔の洗礼」。依存性の高い覚醒剤を運んでいた。
      君が羨望してやまなかった君の父親は、治療薬、回復薬の大義に隠れて大量の違法ドラッグを運び続けた」
キャリコ  「・・・それは、そうだけど。けど、善きことを成したキャリコもいる」
イフォニ  「「命の黎明」こと3代目キャリコかな。『
境界線のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』を結成。

      世界中を回りたくさんの命を救った」
キャリコ  「そうさ、まだ終われないんだ。あたしだって機会を与えられたんだ。9代目ここにありと言わしめたいんだ」
イフォニ  「そういうことか。今はヴラドニアへの対抗手段を模索していると」
キャリコ  「最終的には何にも頼らないのが理想さ。けど今は、頼れるものがあるなら頼りたいのが本音だ」
イフォニ  「ならちょうどいい。今回の件ではヴァンハーフも動いていてね。支援をしたいと言っていた」
キャリコ  「そりゃあ本当かい?彼が動いてるなら有難い。同じ勇者同盟の仲なら諫めてくれるだろうしね」
イフォニ  「ま、少々の協力は要請されるかもしれないけど、今の君には十分な後ろ盾だと思うけど」
キャリコ  「ありがたい話ではあるが・・・君臨勇者か。正直、ちょっと不安だが」
イフォニ  「裏表あるのは否定できないよ。けれど彼は才能を正しく評価してくれる。君の思いもわかってくれるでしょ」
キャリコ  「そうだったらいいが、そもそもなんであんたは仲介人じみたことやってんだい?何か企んでるんじゃないだろうね」
イフォニ  「まさか、僕はしがない情報屋さ。頂いた額に応じた情報を出しているだけだよ、手厚く思えた?」
キャリコ  「そういうもんかい。なんにせよありがたいね。君臨勇者の支援か、少し考えてみるよ」
イフォニ  「うん。快い返事を待ってるよ」
キャリコ  「これからキャリコとしてやっていくには、そういう闇とも向き合わないとね。さて、今度の依頼は・・・と」

イフォニ  「ま、余計なお喋りはヴァンハーフからもらった分を喋っただけだけど。情報屋は報酬に忠実だからね
       にしても、こんな手法を使っちゃうなんて珍しいな、僕。相応の額を貰っておいて意図的に情報を抜くなんて
       ヴァンハーフが評価してるのはリリフではなく、
君の持つ海運組織(キャリコ)そのものだってこと」

――――――――――――


キャリコ  「うう、ん・・・そうか、あのころからすでに」
ヴァンハーフ「目覚めたかい?ならば始めようか。こちらの準備はすべて整えている」
キャリコ  「っ!?なんだい、これ・・・クラーケンに魔力炉を取り付けて、何をする気なんだい」
ヴァンハーフ「これを以て、君の罪を払うことにしよう。さて、心の準備はいいね?」
キャリコ  「罪を払う?馬鹿なことを言うんじゃないよ!もう関係のないことだ!」
ヴァンハーフ「それはどうだろうか。キャリコの名を背負うということは、その罪をも背負うということじゃないのではないか?」
キャリコ  「何を、アタシはなにもしちゃいないよ」
ヴァンハーフ「たしかに、ここ3年で君が成した功績は大きい。

      特に魔物に感知され辛い航路の再発見と魔除けの石の応用による航行成功率の跳ね上げ。この発想はとても興味深い」
キャリコ  「そ、そうだろう?わかってるじゃないか。だったら」
ヴァンハーフ「しかしね、君もわかっているだろう?君がどのような功績を積もうと、8代も重ねてきた罪がなかったことになるわけではない
      他でもない、キャリコである君が清算しなければいけないよ」
キャリコ  「だから、改善していってるんだろうよ」
ヴァンハーフ「いいや、清濁併せ呑むといっても限度はある。君に贖罪の意識も悪を成す覚悟もないならば、もはや僕が示せる道は一つだ」
キャリコ  「アタシに何をさせる気なんだい・・・ひぃ!?」
ヴァンハーフ「大海に益も害も振りまくキャリコに相応しいのは、その命を賭して海を守っていく力を付すことだ。
      海神と成り、世界を乱す愚かな者たちを海の藻屑に変え、平穏を司る」
キャリコ  「や、やめ!まさか、まさか!」
ヴァンハーフ「ひとつ試したいことがあるんだ。君にクラーケンをあてがう。どうなるかは、これから次第だがね」
キャリコ  「やめろ、アタシはなにもしてないのに!ただ、キャリコの名を蔑むやつらを見返したくて!

      キャリコの名を善きものにしたくて!そのために!」
ヴァンハーフ「善行ごときで人々が過去の穢れを許すとでも思うかい?残念だね」
キャリコ  「いやだ、飲まれる!呑まれる!あ、あああああ!」
ヴァンハーフ「人は他人の悪性を許さないのさ。破滅するまで追い詰め、最後にはこう言って笑うのさ
       私は正義として当然のことをした、悪は滅されて然るべきだとね」
キャリコ  「え、ぎ、あうあ、っう・・・あ、れ?アタシは何を?」
ヴァンハーフ「ふむ、ひとまず回路はつながったかな?さて、自分のことはわかるか」
キャリコ  「アタシ?アタシは、キャリコ・・・あんたは、だれだい」
ヴァンハーフ「君を導くものだ。一つ、言わなければいけないことがある」
キャリコ  「みちび、く?なんのことだい」
ヴァンハーフ「いま、君を殺そうとしているものがいる。このままでは、君は殺されてしまうんだ」
キャリコ  「ころす?殺す?それはいやだ、アタシはしにたくない・・・、よ?」
ヴァンハーフ「だから僕が君を守ろう。君を導こう」
キャリコ  「どうすればいいんだい?アタシが、しなないためには」
ヴァンハーフ「簡単さ、先に殺してしまえばいい。そうすれば、君は殺されることはない」
キャリコ  「そうか、なるほど。そうかそうか。そうすればいいんだ!殺される前に殺す、よく考えなくてもわかる事じゃないか。
      なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。なるほどなるほど、素晴らしい。これでアタシは生きていけるんだ」
ヴァンハーフ「そうさ。さあ、ともに行こうか。君には力がある。意思がある。生きることができる」
キャリコ  「力、ちから、チカラ・・・、そう、このみなぎる力、これがアタシのものだっていうなら恐れる事なんて何もない。
      なるほど、なるほど。じゃあいこう、行こう? イコウ? どこに行けばいいんだ? どこ? どこにイクの?
      教えて? 生きる為にコロス、殺す、ころす、アタシが生きるんだ、アタシを殺そうとするやつを殺す」
ヴァンハーフ「そう遠くはないよ。ここを東にしばらく──シパオという町に標的がいる」

 

オティス  「さて、アニちゃんはもう寝たかな。さすがに成長期の子供の前で葉巻開けるのは憚られるしね
       まさかこのご時世に売ってるなんて。『DragonRider』・・・300年前のブランドなんだけどな?
      葉巻ってどうやるんだっけ。たしか先端に火をつけて、それからあまり吸い込むと駄目なんだっけか
      お、付いた。さて、すう・・・ぅ、こほっごほっ!ああやっぱり駄目だこれ、人間がやることじゃない」
ベニオット 「それで左舷から来た鳳がな・・・オティスか。意外だな、甲板で喫煙ときたがか」
イフォニ  「思わぬ勇者の一面だ。タバコ好きだったんだね」
オティス  「げ。やな奴に見つかった。今の喫煙に見える?」
ベニオット 「葉巻を持っているだろう、妙なことを言うな」
イフォニ  「おまけに骨董品級の葉巻ときた。昔吸ってたやつってこと?」
オティス  「適当に寄った雑貨屋にあったんだよね。むしろ今も残ってることに驚いたよ。」
ベニオット 「古臭い渋さがくせになるんだろうさ。俺たちにかまわず吸うといい」
オティス  「だから、私は喫煙者じゃないっての」
イフォニ  「そうなの?ならなんで」
オティス  「よくウォースロットが吸っていたんだ、これ。あいつこういうの好きでさ。けどだめだこれ。葉巻って人間向きのものか?」
ベニオット 「そういうアレか・・・よし、残りをくれ。俺が吸う」
イフォニ  「お前葉巻苦手じゃなかった?」
ベニオット 「吸うぞ?たしなむ程度だがな。かの黒騎士が好きな葉巻と聞けば、試したくなるのが道理さ」
イフォニ  「あれ、そうだっけ?まあいいか」
オティス  「別にいいけど、たぶん吸えたものじゃないよ」
ベニオット 「構わんさ。ふむ・・・なあ、300年前からこんななのか?」
オティス  「少なくとも、臭いは全く変わってないけど」
イフォニ  「刺々しいけど悪くないね、けどやっぱり昔の葉巻って感じだ」
ベニオット 「まあ今とは葉巻の事情が違うのかもしれんな。香りはいいがこう、ひたすらに苦いな」
オティス  「でしょ?暴力だよ。よくこんなの吸い続けられたよあいつ」
イフォニ  「まあ、葉巻は香りを楽しむもんだからね。味は気にするもんじゃないよ」
オティス  「あ、そうなの?よくこんなやばいものよく吸うなって思ったけど」
ベニオット 「とはいえ、火をつけた以上その一本はしっかり味わうんだな」
オティス  「うげえ、そのつもりだけどさ。あーあ、女々しくてやんなっちゃう。やめときゃよかった」
ベニオット 「かつての仲間の面影に触れることの何が悪い。というかほんとに不味いなこれ」
オティス  「願掛けって言ってたけど、あいつそういうところ馬鹿だったから」
ベニオット 「黒騎士も人間的だったと見える。少し安心したよ」
オティス  「そう?みんな思うほど英雄って感じじゃないよ。私が言うのも何だけど」
ベニオット 「ならばお前ももう少し人間的に過ごすべきだな」
オティス  「何のこと?ご飯はちゃあんと食べてるけど」
ベニオット 「それはいい。だが、お前1日に何時間寝ている?」
オティス  「あー・・・そういう?」
ベニオット 「アニと添い寝はするが、起きたらいないと悲しんでいたぞ。フォルレでもスレイヴでもな」
オティス  「いや、一応寝てはいるよ」
ベニオット 「睡眠時間の話をしている。本当に平気なのかお前」
オティス  「ああ案じてくれてたのか、ありがとう。けど300年寝てたみたいなもんだから、全然」
イフォニ  「お言葉だけど、嘘を言う時結構わかりやすいよ?」
オティス  「え、いやいやそんなことないよ。ポーカーフェイスで有名なオティスだぞ」
イフォニ  「嘘やごまかしを言う時、大抵左手で髪先をいじっているよ」
オティス  「え?・・・みんな気付いてるかな?」
ベニオット 「少なくとも俺は気付いた。アニもなんとなくわかってるんじゃないだろうか」
オティス  「その、睡眠はちゃんと必要分は取ってるよ?けど、起きてないと生きてる実感がわかなくて」
ベニオット 「見張りならば俺もやる、ここには一応ヴラドニアもいる。休むことも大事だぞ」
オティス  「ははは、それくらいわかってるから。ではお言葉に甘て、寝るとしましょうかね」
ベニオット 「アニと一緒に起きるんだぞ」
オティス  「それはやってみなきゃわかんないかな?」
ベニオット 「ふう。まったく、気のかかる2人だ」
イフォニ  「君こそ、ずいぶんおせっかい焼きだね」
ベニオット 「俺はお前ほど移ろ気じゃないだけだ。会うたびに立ち位置が違うぞ」
イフォニ  「前回は君に付き添ってたからね。今回は2人の勇者に挟まれてたし」
ベニオット 「・・・何故ヴァンハーフに付き従う?一目相対すればわかる、あれは勇者制度が生んだ負の象徴だ」
イフォニ  「その負と向き合うのが僕の仕事でね。一応ね、彼の考えを全否定する気はないんだよ」
ベニオット 「あのくだらん考えをか?魔龍の復活なぞ、本気で為せるとは思えんが」
イフォニ  「現にオティスは戻ってきたよ。それにね、彼だけではなく魔龍の復活を本気で臨んでる人もいるんだ」
ベニオット 「魔龍信仰か。次から次へと、やることが多いな」
イフォニ  「彼は人類の革新を掲げているけど、実際のところどこまで考えてるかはわからないんだよね」
ベニオット 「虚言の可能性もあると?お前でも見通せない情報があるとはな」
イフォニ  「そもそもヴァンハーフなんて名前、以前は全く聞いたことがなかった。あんな芸当をできる魔法使いも覚えがない」
ベニオット 「それは妙だな。勇者制度というものの恩恵か?」
イフォニ  「そこまで大げさな支援が受けられる制度じゃないはずなんだけど。せいぜい魔力は増えて10%くらいだけど」
ベニオット 「ふむ、噛み合わんな。なら勇者同盟は?あれは一体なんだ」
イフォニ  「その名の通り、勇者たちが名を連ねる同盟さ。現在名を連ねるのは100名を超えて」
ベニオット 「そんな噂程度の情報を欲しがると思っているのか?もっと深淵だ。覗かせろ」
イフォニ  「その言い回しを見ると、本格的に対立したいみたいだね。僕はいいけど、きみはいいの?」
ベニオット 「知ったことか。元より騎士になった時点で俺の命は俺の手元を離れている。やってやるさ、俺とて悪は嫌いでね」
イフォニ  「いい覚悟だ。ならある程度はくれてやろうとも。実際のところはかなり特典豊富なんだこれが」
ベニオット 「特典か。それはお試しパックみたいなやつか?」
イフォニ  「そも、ヴァンハーフが駆け出し勇者の支援を謳って始めたのが勇者同盟なんだ。
      あふれたアイテムを譲渡したり、戦闘の仕方を教えたり。素質があれど技術がない勇者育成が目的だ」
ベニオット 「で、今は?その言いぶりだと体系は崩れていると見えるが、ヴラドニアがいるんだ。何かあるだろう」
イフォニ  「や、むしろ手厚くなってるくらいでね。最近では勇者間の交流やチームアップ支援もある」
ベニオット 「・・・まじに手厚いな」
イフォニ  「情報共有のシステムも出来たくらいでね。あとあれだ、勇者間でのアイテム交換制度も出来てた」
ベニオット 「かゆいところに手が届きすぎるだろ。じゃあ、彼女もそれ目当てか?」
イフォニ  「ヴラドニアは始めからいろいろ持ってたからね。きっと情報目当てだろう、彼女は求めてるものがある」
ベニオット 「ヴラドニアが求めるもの?なんだそれは」
イフォニ  「本人に聞きなよ。ともかく、何を考えてるのかわからないくらいに異様に勇者育成に手を回しててね」
ベニオット 「気味が悪い。目的のためなら実の子すら手にかけそうなほどに冷酷だったぞ」
イフォニ  「ま、相応に狂ってはいるよ。探求のためなら人の死も厭わない、研究のために町を滅ぼしたこともあったっけ」
ベニオット 「マッドサイエンティストとでもいうべきか。強烈な野心に苛烈な実力が伴えばあのような傑物になると」
イフォニ  「馬鹿と鋏は使いようというか、間違ってしまった英雄というか。何を企んでるのやら」
ベニオット 「どのみちやることは変わらん。その障害になるのなら、強引に押し通るまでだ」
イフォニ  「うわ、脳筋だ」
ベニオット 「喧しい。というより、随分と色々喋ったな。いいのか?一応ヴァンハーフともつながってるんだろう?」
イフォニ  「そこは心配いらない。僕らは基本自由にやれって言われてる。元々そういうスタンスだからね」
ベニオット 「・・・あん?誰にだ?」
イフォニ  「あー、そうじゃないか。僕は金と情報に糸目はつけないから。出す奴には出すし、出さないやつには出さない」
ベニオット 「そうか、お前はそういうやつだよな・・・あ、待てよ?じゃあつまり」
イフォニ  「もちろん相応の対価はもらうよ?バランスは大事だからね」
ベニオット 「今は・・・うん、手持ちがないな。これで勘弁願えるか」
イフォニ  「やめろやめろオティスの葉巻を寄越すな。貰っといて飽きてるんじゃないか」
ベニオット 「一回吸えば満足するかんじのやつだわこれ」
イフォニ  「じゃあなおさらいらないよ馬鹿」

アニ    「ふわぁ・・・ん?お姉ちゃんが布団の中にいる。寝てるお姉ちゃん見るの新鮮かも」
オティス  「ん・・・アニ、ちゃ・・・むにゃあ」
アニ    「よし、もうちょっとだけ寝よう。ちょっとくらいなら抱き枕にしても許してもらえる気がする!きが、する」

ベニオット 「さて、朝っぱらから招集なんて、随分物騒だなヴラドニア。なにかあったか?」
アニ    「さすがに朝ご飯は私が作るよ?」
ヴラドニア 「ええありがとう。けどそうじゃなくて・・・今日の正午、シパオを発ちヴァンハーフのもとへ向かうわ」
アニ    「当てはあるの?」
ヴラドニア 「ええ、ないわ」
イフォニ  ないんだ!?」
ヴラドニア 「アニさんは気配を探れると聞いたわ。それを使って航路を決められないかしら」
アニ    「で、出来るかな?あんまり遠くまでは無理だよ」
ヴラドニア 「目星はつけているの。細かな場所はわからないから、絞り込みだけしてほしいの」
オティス  「目星ねえ、私もつけてるけどどこだと思ってるの」
ヴラドニア 「魔の海域ね」
オティス  「よし合致。見る目はたしかだね」
イフォニ  「どうしてそこにいるって思ったんだい」
ヴラドニア 「あの男がキャリコを使ってわざわざ荷物を運ばせたの。何かあるとしか思えないわ」
イフォニ  「ゴールデン・ヴェニソン号の航路を選んだのもあいつだったね」
オティス  「え、そうなの。感覚だったんだけど」
アニ    「感覚!?」
イフォニ  「冗談みたい」
オティス  「まあ探し出せたとしても、倒せなきゃ意味がないんだけど」
アニ    「がんばろう!うーん、なにがいるかな?」
オティス  「あいつ仮面付けてるからな。催涙ガス浴びせて地獄を見せてやろう。中がぐしゃぐしゃになるぞ」
イフォニ  「嫌がらせの才能がありすぎる」
ヴラドニア 「ともかく!そういうわけだから、必要なものがあれば揃えておいて」
ベニオット 「っと・・・一つ聞いていいかヴラドニア。同盟に属しているのにヴァンハーフと敵対していいのか?」
ヴラドニア 「これからのことを考えたの。彼の行いはきっと、よからぬことを引き起こす。だから止めることにしたわ」
ベニオット 「それは国にとってか?それとも民にとってか?お前は何を以て正義を成している」
ヴラドニア 「民のためよ。底を曲げるつもりはないわ」
オティス  「ていうか、なんで勇者なんてやってんの?

      よくわかんないけど、君が王女になり国を根底から~みたいなことは考えなかったのかなって」
ヴラドニア 「私は王になる資格なんてないの」
アニ    「もう、王様になる権利?は捨てたんだっけ」
ヴラドニア 「王位継承権のこと?そういうことじゃないわ。他でもない私が、王には相応しくないとわかっているから」
アニ    「相応しくないって、何があったの」
ヴラドニア 「・・・兄を喪(うしな)ったの。いずれ王を継ぎ、民を導き、国をよりよくしてくれるはずの兄が」
アニ    「ん?あたし?」
オティス  「違うと思うよ」
ヴラドニア 「世間的には病死ということになっているけれど、違う。殺されたのよ」
ベニオット 「バラド王子が!?馬鹿な、心臓の病が悪化し亡くなったという話だったぞ?」
ヴラドニア 「兄は確かに心臓を悪くしていたけれど、そう簡単に死ぬようなものではなかった。

      調べて分かったのは、呪詛を使われたということ」
アニ    「それを探るために、勇者になったってこと?」
ヴラドニア 「兄を殺したものを見つけ出し、殺す。それが私の目的よ」
ベニオット 「そのあとは?何を為す気だ」
ヴラドニア 「結局のところ、私がやることは変わらないの。正義を執行し、悪を挫く。それが私の使命よ」
オティス  「そっか・・・平穏な世であれば、君はもっと」
ヴァンハーフ「平穏な世、か。本当に君はそれでいいのかな?」
ヴラドニア 「ヴ、ヴァンハーフ!?」
オティス  「簡易版『七天穿つ極座の蠍』(セブンフィール・アンタレス)!!」
アニ    「名前のセンス?!」
ヴァンハーフ「おっと。いきなり強攻撃とはつれないじゃないか」
オティス  「おま、いつの間にここに!」
ヴァンハーフ「準備が整ったんだ。魔物の最適化、および可操作性の研究の成果が出たからその実験に来た」
ヴラドニア 「魔物の実験?いったい何を」
ヴァンハーフ「魔の海域にクラーケンがいただろう?あらゆる船を沈めるほどの性能があるが・・・まだ足りない。まだ上がある」
アニ    「何を、言っているの?」
ヴァンハーフ「かのクラーケンは普通のタコが変異したものだが、そのせいで脳が小さい。おかげで体を上手く扱えていないんだ」
キャリコ  「ああ、寒い・・・寒い。なんだ?ここは、どこだい?」
ヴァンハーフ「だったら、脳をくれてやればいい。タコよりも知能が高い生物が望ましい。例えば」
アニ    「・・・人間?」
ヴァンハーフ「正解だ。外部装置として脳を共有させることで的確に体を使えるようにさせる。
      魔力炉を用いて体の各部も調整、強化させてもらった。これより実験開始だ。さて、どこまで通用するか」
アニ    「お、お姉ちゃん!沖合!向こうのほう!とんでもない気配を感じる!」
ヴラドニア 「あれがクラーケン?そんな、昨日会ったときよりも倍は大きくなっているわ!」
ヴァンハーフ「新たな海の守護神だ。名前は――別になくてもいいか。魔の鎖展開。神経接続、操作開始」
キャリコ  「あたしが、あたしがやらなきゃいけないんだ!じゃまをするな!」
オティス  「ヴラドニア!あっち頼んでいいか!」
ヴラドニア 「構わないけど、あなたは?」
オティス  「こいつを止めなきゃいけないだろ?」
ヴァンハーフ「うれしいね。勇者直々に相手をしてくれるのか」
アニ    「あたしはお姉ちゃんのサポートする!そっち、お願い!」
ヴラドニア 「ゴールデン・ヴェニソン号、出すわよ!」
オティス  「あれは私が倒すべきなんだろうけど、たまには花を持たせてやらないとね。それに、お前を止めるのは私の仕事だ」
ヴァンハーフ「ふむ、それはとても興味深い」

キャリコ  「は、はは。飛んできている。あれは、あれか。あれを落とすぞ」
イフォニ  「見ろ! クラーケンの頭部に、キャリコがいる!なんだあの管・・・? クラーケンとつながってるのか」
ベニオット 「その後ろに魔力炉・・・か? なんだあれ? 妙なものが刺さっている」
ヴラドニア 「ああ、可哀想。私は確かに警告したのにね」
キャリコ  「ヴラドニア、ヴラドニアァァァ!!」
ヴラドニア 「悪に堕ちれば殺すしかないと。聞いてないとは言わせないわよ、9代目キャリコ。いいえ・・・」
キャリコ  「あんたが、あんたがわるいんだ・・・全部!」
ヴラドニア 「貴方はたしかにキャリコの汚名を返上すべく、邁進していた。

      その結果海路での損失率をはるかに抑え、海運の有用性を改めて引き揚げつつあったわ
      けど違う。貴方はどこかで止まるべきだった。
      憧れに背を押され、夢に盲目になり、期待に胸を埋め、その結果として足元の悪意に殺された。」
キャリコ  「あんたさえいなけりゃ、こんなことにはならなかった!」
ヴラドニア 「ええ、とても哀れな人。船乗りの安全と平和を願い続けたあなたが、船乗りの最大の障害となり果てるなんてね」
キャリコ  「ころしてやる、あんたにもこのくるしみを!」
ヴラドニア 「正義の名の下に貴方を殺しましょう。その後は優雅にアフタヌーンティーを嗜んで、貴方のことなど忘れてあげるわ」
キャリコ  「握りつぶしてやる!」
イフォニ  「危ない!ちょっと、いくらなんでも無茶が過ぎる!操舵なんてはじめてなんだけど!」
ベニオット 「だがいいぞ、クラーケンの動きはまだ鈍い!高度を上げて捕まれないようにしろ」
イフォニ  「足を全部動かされたらたまったものじゃなかった。慣れてないのかな」
ヴラドニア 「いくらなんでも、急に手足が8本になってしまったとしても操り切れないでしょう。感覚が追いつかないはず」
ベニオット 「なら始めは操れて二本だ、だが慣れてしまえばその程度じゃすまなくなるぞ」
ヴラドニア 「早めに始末をつけましょう、イフォニ、副砲で牽制を。浴びせてやりなさい」
イフォニ  「わかった!ベニオットはひとまず・・・ちょ、アホ毛を呼んでどうする気!?」
ベニオット 「飛んで近寄る。あの管さえ切り離せば、まだ引きずり出せるかもしれん!」
ヴラドニア 「な、馬鹿を言わないで!あんな風に魔物と融合だなんて、正気のまま可能だとは思えないわ!

      このまま倒してしまったほうがいいに決まってるでしょう!」
ベニオット 「あれはキャリコだ!」
ヴラドニア 「もうクラーケンよ!」
イフォニ  「副砲の斉射じゃ効いてる気がしないよ!?どうしようか!」
ヴラドニア 「なら主砲を!第二波に備えて50%程度のチャージで放ちなさい!」
アニ    「な、なんかあっちもめてる?わたわたしてるよ」
オティス  「アニちゃんよそ見しないで!防御のスキを縫われる!」
ヴァンハーフ「強いな、君は。その無尽蔵な力は、さながら民衆の支持を得たことによる恩恵か」
オティス  「お前に褒められてもうれしくない」
ヴァンハーフ「しかし、それは本当に、純然たる君への『支持』だろうか?」
オティス  「なにが、だ!」
ヴァンハーフ「君が誰かを救うことを、皆が当たり前だと思っていないかな」
オティス  「っ!?それは、どういう」
ヴァンハーフ「初めは感謝だっただろう。しかしいつからかそれが当然になり、義務になり、もはや「為さねばならぬこと」となった」
オティス  「そんなこと、は」
ヴァンハーフ「どんな気分なのかな?たった一つの取りこぼしを叱咤されるのは。
      6を救おうとも、4を救えなかったことを非難されるのは。
      こうして今の世を、太平に導けなかったことを責められるのは!!」
オティス  「騒がしいんだよ、どうでもいいことをやーやーと!」
ヴァンハーフ「おっと、威力が上がった。はは、怖ろしいな。さすがだな勇者よ」
オティス  「私は私だ!勇者だろうと一般市民だろうと、やることを変える気はない!」
ヴァンハーフ「興味深いな。その勇猛さは、君自身に起因するものなのか」
オティス  「サンダーボルト!ああもう、おしゃべりしに来たんじゃないんだよ私は!」
ヴァンハーフ「先ほどから大味な攻撃ばかりだな。魔力供給が間に合わないのではないか?」
オティス  「地味な攻撃じゃ通りそうにないんでね、大胆に殺してやるよ!」
ヴァンハーフ「それは怖い。ならこちらもいなすだけではなく、攻勢に出るか・・・魔法陣、最大展開」
アニ    「魔法陣が、1,2,3・・・20!?あんなにたくさん!?」
オティス  「高名な魔法使いでも、魔法陣の同時展開は5が限界だったか?鎖といい、なんだあいつの魔力量は」
ヴァンハーフ「魔力炉。通常はインフラを富ませ、此度はクラーケンを強化し、そしてあの船の動力がそれだ」
イフォニ  「やっぱり、魔力炉積んでるのか。って、ん?じゃあそこ狙われたら」
ヴァンハーフ「しかし、魔力炉周りには特有の力場が発生するため魔法が当たることはない。破壊は困難だ」
アニ    「そうなんだ、よかった」
ヴァンハーフ「だが、その周辺は無力だ。魔法陣、並列展開。さて、僕のとっておきの『主砲』をくれてやろう」
アニ    「魔法陣10個を縦に並べて、それを二本並べた。なんか、トングが浮いてるみたい」
ヴァンハーフ「原典。君の雷魔法はたしかに優秀だが、非効率的だ。雷そのものでの攻撃は魔力消費が大きい」
オティス  「倒せりゃいいんだよ、何をする気かは知らないけどな
ヴァンハーフ「難しいことをすればいいってものじゃない。僕はこの、五寸釘を弾にする」
ヴラドニア 「っ、三本目が来た!キャリコが身体の使い方を身に着けてきているわ!」
ヴァンハーフ「魔法陣に雷をまとわせ、間に釘を投げ入れる。そうすれば雷の性質により、釘は爆発的な加速をする」
イフォニ  「溜まった、主砲撃つよ!な、何か来てない!?」
オティス  「っ!?アニちゃん!防御展開!船を狙われてる!」
アニ    「あわわ、まにあわないよー!」
ヴァンハーフ「夜空は運命を示す。これは神話にかたどられし必然が如き。『
流星貫矢(ケイローン・ショット)』」
ヴラドニア 「きゃああああああ!?浮力低下、出力停止!?浮上用のオールをやられたわ!」
イフォニ  「高度を保てない!二人とも備えて!クラーケンの攻撃が届く範囲に堕ちる!」
ヴァンハーフ「さて、あれでいいか。今度は、っと」
オティス  「お前の相手は私だろうが!」
ヴァンハーフ「すまないね。だが、彼女に為すべきを成してもらうためだ」
オティス  「私が一番気に食わないのはお前のその理論だよ!」
ヴァンハーフ「キャリコのことかい?それは罪深き名前だ」
オティス  「リリフは何もしていないだろうが!」
ヴァンハーフ「そう、彼女は祖先たちの罪を払おうとしていない」
オティス  「彼女の人生は彼女のものだ!」
ヴァンハーフ「それは欺瞞だ。選んだのも、背負ったのも彼女だ」
オティス  「罪まで背負えと?それこそ傲慢だ」
ヴァンハーフ「是非はどうだっていい。議論を交わしたところで納得する君じゃあないだろう。それに」
オティス  「それに、なんだ!」
ヴァンハーフ「僕は勇者特権を有している。君は勇者だが、特権持ちではない。それで十分だ」
オティス  「へえ、よくわかってるじゃん。ならそれ以上言うことはないよな」
ヴァンハーフ「そうだね、あとはどちらの意見が正しいかどうかだ」
オティス  「正しさなんてないよ、いつだって世界は相対的だ!」
ヴァンハーフ「強い魔力の波長を感じる。なるほど、君の全力が見られるのかな」
オティス  「お前相手に数は無策だ。だから一撃で決めてやる。さあ、精々味わってくれ!」
ヴァンハーフ「興味はあるが自己保存は前提だ、回避を・・・っと、鎖?」
オティス  「その程度なら私にだってできる!」
ヴァンハーフ「興味深い、魔の鎖をコピーしたのか。たしかに、これは由々しき事態だ」
オティス  「天にこそ虹は輝けり!彼方に続く円環の理を知れ、それこそが新たなる原点の剣となる!
      いい加減ここで止まれ!『
七色覆いし蒼天の剣(セブンカラーズ・レイヴンダガー)』!」
ヴァンハーフ「成程、これはッ・・・素晴らしいな!」
アニ    「うわあああああああ!?し、衝撃がすごい。かなり吹っ飛んじゃった・・・っ!お姉ちゃんは」
ヴァンハーフ「創剣に、近いな。自身の破壊も顧みない高熱の炎の剣。これはたしかに、必殺だ」
オティス  「ッ至近距離で、これだけやって・・・なんっで、死なないかなぁ」
アニ    「お姉ちゃ・・・腕が、焼けて」
ヴァンハーフ「修復可能な程度にとどめているな。しかし、これで僕の防御の魔力も尽きた。
      危なかったが、君の攻撃魔力もほぼ尽きただろう?」
オティス  「まだ、終わってないぞ!っ、くそ」
ヴァンハーフ「柔いな。ろくな把持も出来ず重さ任せに振る剣など、受け止めるのは容易だ。鎖一本で事足りる」
オティス  「や、受け止めてくれてありがとう。おかげで、お前の体はがら空きだ」
ヴァンハーフ「そうかい?しかし魔力のない君の徒手など・・・魔法銃だと?」
オティス  「フレック、だっけ。ヴラドニアの魔法銃さ。手数は多いほうがいい」
ヴァンハーフ「ふむ、なるほど。これは興味深い」
オティス  「じゃあなヴァンハーフ。ファイア・・・あ、また肩外れた。思ったよりも反動あるな」
ヴァンハーフ「ふ、はは。核をやられたか。この体はもう持たないか」
オティス  「普通の人間は心臓無くなったら死ぬんだよ。くたばれ君臨勇者」
ヴァンハーフ「このまま終わらせておくには、惜しいと思ってね。せめて君に伝えるべきを伝えようと思ったのさ」
オティス  「あ、そ。一体なんだよ」
ヴァンハーフ「首のない怪物。貌を持たぬ彼に首を、自我を与えた」
オティス  「・・・・・・はあ?」
ヴァンハーフ「君は、彼の正体とその真意に気が付いていない。あれはただ人を狩る亡霊ではない」
オティス  「別になんだっていい。人に害成すものなら殺すだけだよ」
ヴァンハーフ「気を付けるといい。彼はきっと、君にとっては――」
オティス  「五月蠅い口は、割るに限る。まったく・・・後味が、悪い」
アニ    「お姉ちゃん!クラーケンの様子が!」
オティス  「っ!よし、行こう」

イフォニ  「キャリコの対応が思ったより早い!腕を5本使えてる!船ごと絞殺されちゃう!」
ベニオット 「このままでは・・・お?なんだ、止まったぞ」
キャリコ  「っぐ、あ。体が、うごかない。なにがおこってる?あれ?」
ヴラドニア 「考えればわかりやすい。支配ではなく共有なら、そのパスを壊せばよかったのね
      キャリコが脳なら、ヴァンハーフが神経を担っていた。それが壊れれば動けなくなるということ」
キャリコ  「なんで、なんでなんだよ! アタシはただ、死にたくなかっただけなんだ」
ヴラドニア 「そう・・・全ては私が八代目を殺めた日から、始まっていたのね」
キャリコ  「いやだ、イヤダ・・・、嫌。アタシは何も悪いことしてない。殺さないで。お願いだ。死にたくない、生きていたいんだ
      まだ生きていたい。」
ヴラドニア 「ええ。貴方は何もしていない。けれど、あなたの運命は私が歪めてしまったようね」
キャリコ  「ヴラドニア、アタシは悪じゃないんだ。悪くない、悪いのは、悪いのは・・・、悪いのは・・・、誰?、アタシ? あたしは?
      キャリコ? あたしはリリ・・・フ? キャリコ? リリフ、リリリリフ、キャリ?」
ヴラドニア 「・・・いいえ、貴方は悪になってしまった。貶められてしまったの」
キャリコ  「なにもわからない。アタシは、なんだ? これなに? アタシの手? ここはドコ? あなたは?

      アタシ、は? アレ? アタシは・・・、なに?」
ヴラドニア 「苦しいでしょう、なりたくない自分にさせられるというのは。せめてもの償いとして、私が救います」
ベニオット 「・・・おい、ヴラドニア。待ってくれないか」
ヴラドニア 「止めないでくださるかしら。いくらあなたの友人だからと、手を止めることは出来ないわ」
ベニオット 「キャリコは、どうにもできないか。救出して、治す方法はないのか」
ヴラドニア 「そうね。人間で言うなら脊髄を壊されたようなものよ。無理に引きずり出せば、もう二度と起き上がれない体になる」
ベニオット 「そう、か。なら、少しだけ話してもいいか」
キャリコ  「べ・・・、二オット?」
ベニオット 「俺は、思い出してくれたんだな」
キャリコ  「何言ってんだよ、忘れる筈ないだろう? なんだい? どうしたんだい?」
ベニオット 「いいや、なんでもないさ。少し昔を思い出した。2人でタイムカプセル、つくってたよな」
キャリコ  「そんなこと、あったかい?おぼえ、て」
ベニオット 「また今度掘り起こそう。何を入れたか、もう覚えてないけどね」
キャリコ  「は、は。あんたはなにもかわらないねえ」
ベニオット 「いいや、変わったとも。どうにもならないことがあることを、知ってしまったからな
      変わらなかったのはお前のほうだ。変わらないままで、良かったのかもしれんがな」
キャリコ  「ベニオット、あんたはまんぞくかい?」
ベニオット 「いいや、まだまだだ。お前が善きものにした、キャリコをこの目で見ていない」
キャリコ  「ああ。あたし、がんばるからね。お父さんの、あとを・・・お父さん?お父さんはどこ?あれ?アタシは誰?」
ベニオット 「期待して待っている。ヴラドニア。もういい。せめて、苦しませないでやってくれるか」
ヴラドニア 「意外ね、止めるのかと思っていたわ」
ベニオット 「止めたいさ、死んでほしくはない。だがな、客観視は出来る。望みがないなら――望むのは、酷だ」
ヴラドニア 「わかったわ。せめて、丁重に弔ってあげる。私を憎んで構わない。さようならキャリコ」
ベニオット 「じゃあなリリフ。俺は、お前を忘れない」
ヴラドニア 「これで勇者同盟からは名実ともに脱退ね。もう少し吸い上げてからが理想だったけれど、仕方ないわ」
ベニオット 「お前はこれからどうする?ただの勇者に戻るのか」
ヴラドニア 「少し、考えてることがあるの。考えもしなかったことだけれど、新たな道を拓けそうなの」
ベニオット 「成程。具体的には?」
ヴラドニア 「二人のところに戻ってから話します。ひとまずは、しっかり弔ってあげましょう」

オティス  「あの後魔力炉の中を調べたけど、よくわからないものが出てきた。初代キャリコの航海日誌。どういうことなんだろうか」
アニ    「日誌から魔力を抜き出してたの?どういう原理なんだろ」
イフォニ  「ちょっと特殊な代物でね。簡単に言うなら、信仰力を魔力に変換するんだ」
アニ    「まったく分からない」
イフォニ  「ヴァンハーフによると、人々に認知されている旧き伝承や物語にまつわるものは、在るだけで魔力を引き寄せるらしい
      聖遺物、と呼ばれるものがそれにあたる。より古く、より有名なものであるほどその性質は強くなる」
ベニオット 「キャリコといえば数百年続く名だから、その対象に含まれたと?」
アニ    「ええと?よくわかんないんだけど。信仰が、魔力?むむむ?」
イフォニ  「親しまれ、語り継がれることが旧きものへの信仰に近いものとなり、魔力という形で残留するらしい。
      ぶっちゃけ、僕も原理をちゃんとわかってるわけじゃないんだけど」
アニ    「つまり、その聖遺物?っていうのがカギなんだね」
イフォニ  「そうだね。魔力炉の中に聖遺物を入れることで魔力を生むんだ。何よりネックなのは中身のほうでね」
アニ    「古くてゆかりのあるものってことだよね。そうそうあるものじゃないよね」
イフォニ  「魔力炉自体も作るのは大変でね。今のところ、稼働が確認されているのは6基。
      今回使われたものが一基、ゴールデン・ヴェニソン号に一基、行方不明が一基。
      あとはすべて主要都市のインフラ稼働に使われている」
ベニオット 「出力はどれくらいのものだ?」
イフォニ  「一番大型のものはアスカロンに設置されている。王都なだけあって消費魔力も大きいけど、1基で賄ってる」
アニ    「すごく便利だね。そんなすごいもの、良く思いついたなあ」
イフォニ  「開発したのはアンドラの再来と呼ばれている宮廷魔術師、フォラスだ。
      魔道具の開発、基礎魔法理論の紐解き、魔法学基礎の提唱、そして魔力炉の開発。功績の多い男だ」
ベニオット 「とはいえ、ここ数年はスランプ続きだろう。時代は終わったなど揶揄されているがな」
イフォニ  「むしろそれまでに成した功績が大きいからね。ともかく、早々数を増やせるものじゃないとだけは言っておこう」
ベニオット 「そうだな、炉自体はともかく聖遺物は作ろうとして作れるものじゃあないからな」
アニ    「フォラスさんか・・・会ってみたいなあ」
ベニオット 「ともかく、次はデュラハンを追うしかあるまい。ガープ大橋か、厄介だな」
アニ    「遠いかな?」
オティス  「まあ、いつもみたいにのんびり気ままに行こう。焦って仕損じちゃ意味ないし、何より消耗も激しい」
ヴラドニア 「ゴールデン・ヴェニソン号も、修理が必要ね」
アニ    「・・・これから、ヴラドニアさんはどうするの?」
ヴラドニア 「私は、正義になりたい。そうあるべきだし、そうあらねばならない」
イフォニ  「ええと、つまり勇者は続けるの?」
ヴラドニア 「ええ。そこは曲げません。そして一つ頼みたいことがあるの、オティスさん」
オティス  「私に?えっと、何をすれば?」
ヴラドニア 「原典の勇者、オティス。私は貴方に教えを乞おうと思います。まだ未熟な私が、正義を成せるように」
オティス  「・・・は!?」
ヴラドニア 「ええ、要は仲間にしてほしいんです。戦力として申し分はないと思うのだけれど、どうかしら」
オティス  「んや、たしかに頼りにはなるけれども!教え!?そういう人道的なところで教えられることなんてないけど!?」
ヴラドニア 「もっと貴方を知り、貴方を理解し、貴方を学び、誇れる正義となるよう。どうかよろしくお願いします」
オティス  「決定事項だ!?」
イフォニ  「いいんじゃない?彼女、勇者の中でも選りすぐりで強いよ」
ベニオット 「悪名が強すぎるんだよな」
アニ    「けど、頼りになるよね!あたしはいいと思うよ」
オティス  「あの、あんまり人を導くとかしたことないから、どうなるかはわからないけど、よろしく頼むよ」
ヴラドニア 「っ!ええ、ええ!よろしくお願いします!やった、勇者様と、勇者様と!」
アニ    「これからよろしくね、ヴラドニアさん!」
ヴラドニア 「はい!さて、やることはたくさんあるわ。お部屋の用意に修理、あとはあとは!ああ、頑張らないと!」
オティス  「はぁ、また波乱万丈な旅になりそうだな」
アニ    「けどけど、4人そろったよ!勇者パーティだよ!」
ベニオット 「騎士に、魔法使いに、船乗りか。奇怪なチームが出来たものだな」
イフォニ  「・・・僕、ハブられてる」
ベニオット 「仲間名乗ってないだろうがお前」

 

イフォニ  「ヴァンハーフの死体、放置されてるな。けどこれはいわば彼のバックアップ――使い捨て用のスペアだ
      脳は無事か、なら大丈夫だね。仮面に亀裂が入ったけど、まだ付けられる程度にとどまっている
      お疲れ様、ミュラ。君は十分に端末としての役目を果たした。罪から解放され、ゆっくり休むといいよ
      さて・・・共有完了、情報を本体へと持ち帰ろう。端末としての、使命を果たさないトネ」