​原典の勇者 第3話 -炭鉱の町 スレイヴ- /♂×2 ♀×4 / 嵩音ルイ

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所要時間:120分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

オティス  23歳 ♀


    どこからか来た旅人。
    飄々としており温厚。悪しき勇者を駆逐する旅をしている。現在は亡霊「デュラハン」を追う。
    「原典の勇者」と呼ばれる、魔龍を封印したかつての勇者。最近サインを考えている。

 

 

アニ  12歳 ♀
 

    オティスの仲間。魔法使い見習い。
    好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。最近の趣味はオリジナルレシピの考案。
    ネーミングセンスが壊滅的だが、オティス的には大ウケ。

 

 

レオン  20歳 ♂

    スレイヴの町人。
    キバイラに支配された町から2年前に抜け出し、修行の末に勇者となって帰ってきた。
    想い人のマルグを救うため、キバイラ討伐を目指している。勇者に憧れを抱いている。

 

鬼狽羅(キバイラ)  ??歳 ♀
 

    鬼の首魁。原典の時代の人物。
    スレイヴに巣食って生贄を喰らいつつ使いつつ、新たな殺人兵器の開発にいそしんでいる。
    かつて勇者一行とやり合った際、オティスに右腕を奪われており、オティスへの復讐を企んでいる。

 

 

マルグ  18歳 ♀

    

    スレイヴの住人。ビルデの娘。
    気弱なタイプで、あまり強く物を言えない。いつもどこかに傷をつくっている。
    今回、キバイラ自身からの指名により生贄に選ばれた。

 

 

ビルデ 45歳 ♂
 

    スレイヴの町長。
    町を考えた行動をとっているように見え、自分の立場と財産さえどうにかなればいいと思っている守銭奴。
    マルグを自分の思い通りになる道具としか考えていない。生贄は毎度ビルデが選出している。


 

ネリネ 11歳 ♀ (マルグと兼ね役)
 

    謎の少女。誰かを待っていたようだが・・・?

――――――――

役表

 

オティス    (♀)・・・
アニ      (♀)・・・
レオン     (♂)・・・

キバイラ    (♀)・・・

マルグ+ネリネ (♀)・・・

ビルデ     (♂)・・・
 

――――――――――――――――――――――――
 

マルグ  「レオン、ここにいたんだね。家にいないから、またいなくなったのかと思っちゃった」
レオン  「マルグか。もう、黙っていなくなったりしない」
マルグ  「そう?ずっと放置されて埃がたまってく家を見るの、悲しかったから」
レオン  「それは・・・、ごめん。だけど俺はもう失いたくなかったんだ。だから」
マルグ  「あのね、サンドイッチつくってきたんだ。一緒に食べよう? 山頂から見る景色、私も好きなんだ」
レオン  「いいけど、その甘ったるい紅茶は嫌いだ」
マルグ  「背伸びしたがりなところも変わらないんだね。ストレート、ほんとは飲めないのにさ」
レオン  「うるさいな。そのほうがまだマシってだけだ」
マルグ  「勇者になっても、レオンは変わらないね。とっても安心する」
レオン  「マルグは、変わったな。昔はもっと、こう・・・、子供っぽかった気がする」
マルグ  「なあにそれ、へんなの。だってレオンは私より2個年上だもん、当然だよ」
レオン  「前のお前は、そんな顔しなかった」
マルグ  「・・・仕方、ないよ」
レオン  「またお前は、そうやって全部自分が抱えればいいと思ってるんだろ」
マルグ  「そんなこと思ってないよ。けど、そろそろ私の番だってのはなんとなくわかってる」
レオン  「じゃあ、なんで」
マルグ  「レオンがいてくれて、私はたくさん救われた。だから、レオンには生きててほしいの」
レオン  「馬鹿を、言うな。俺が救ってやる。そのための2年だったんだ」
マルグ  「ねえレオン、女神様ってホントにいるかな?」
レオン  「話を・・・、いや、どうだろう。俺はいないと思ってる」
マルグ  「あはは、夢が無いね。私はいると思ってるよ」
レオン  「いないさ。もしいるとしたら、思いっきり殴ってやりたいくらいだ。何ももたらさない女神なんて、いないも同然だ」
マルグ  「人は弱いから。何かに縋らなきゃ生きられないのよ」
レオン  「居るかもわからない救いに縋るなんてごめんだ」
マルグ  「だから、勇者になったの?」
レオン  「ああそうさ、なのにお前が救われようとしないんじゃ意味がない」
マルグ  「ねえレオン、人は死ぬんだよ。だったら、なるべくましな方がいいじゃない」
レオン  「これから死ぬと決まった他人に、同じことが言えるか?」
マルグ  「わかんない。けどさ、私はこれでよかった。良いことなんてなにもなかったけど、これでよかったんだよ」
レオン  「わからない。これじゃ、今まで何のためにあがいてきたんだ?」
マルグ  「貴方の力はきっと、他の誰かを救うためにあると思うの」

 

ビルデ  「やれやれ、今月も苦しいな。相変わらず予算がギリギリだが・・・、ん、んん?」
キバイラ 「相変わらずここは辛気臭くてあきまへんなぁ。煙たいし、鉱石臭いし」
ビルデ  「キ、キバイラ様!? どうされましたか」
キバイラ 「どうもこうもあらへんわ。一昨日寄越してきたあの人間、どないなっとるんや?」
ビルデ  「え、と・・・、ファトのことですか? 彼がいったい何か」
キバイラ 「よぅも惚(ほう)けられるなぁ。うちは、可愛らしぅて、大人しぃて、清らかーいお子をおくれやす、と言ぅた筈どす?」
ビルデ  「し、しかしですね。もうこの町も若者が少なくなってきてですね」
キバイラ 「やからと言ぅて肥えた汚らしいのを連れてくるんはどないな了見どす?」
ビルデ  「あれは、その、ですね。彼が志願したのです。貴女の下へ行く、と」
キバイラ 「あないなもん寄越されてもドブネズミと変われへん扱いしか出来まへん!」
ビルデ  「ひぃ!す、すいません!」
キバイラ 「あかんあかん、こないなもんに怒るなんて情けあれへん。

     ・・・あんさん、仮かて町長ですやろ? まともに選別もでけへんのどすか?」
ビルデ  「ですから、彼の意志を尊重した結果でして」
キバイラ 「知らへん、次はそない行かへんよ。そっちも見せるもん、見してもらいまひょか?」
ビルデ  「見せる? キバイラ様、一体何を」
キバイラ 「ひとまず、あの豚ん家族はみな殺しまひょか。それと、あんさんのとこに一人おるやろ、お子さん」
ビルデ  「いるってもしかして、娘のマルグですか?」
キバイラ 「へぇ。あの子、マルグ言うんやね。ええ名前やおまへんか。さぞええ子なんでっしゃろね?」
ビルデ  「その、あの、待ってください。つまり」
キバイラ 「ごちゃごちゃうっさいなぁ、権力やけが取り柄の醜い鼠の分際で仕事もとろいん?」
ビルデ  「娘を、生贄にしろというんですか?」
キバイラ 「嫁はんすらあっさり差出したんに、娘は渋るん? おもろいなあ、小間使いは多いほうがいいん?」
ビルデ  「そのようなことは・・・、いえ」
キバイラ 「羽虫(はむし)がついとった思うけど、たぶん手は出してへんやろ。うちは生娘が好きでなぁ。
・・・おいもさんやから」(おいもさん=便利)
ビルデ  「しかし、その、マルグはですね」
キバイラ 「ん? それともちゃうん? そんなら散らした相手に挨拶に行かへんとあかんなぁ」
ビルデ  「い、いえ! おそらく生娘? だとおもいます」
キバイラ 「ほぅか、なら次はその子にしよか。明日ん朝、身体を清めて連れてきてな」
ビルデ  「そんな・・・、って、ま、待ってください! そこの家は、ファトが住んでいた家で」
キバイラ 「せやからこそやけど? 明かりはついてるから、うんうん、親豚は中におるんやね」
ビルデ  「剣を抜いて、まさか、斬るのですか?」
キバイラ 「ひとまずは出てきてもらわなあかんやろ? 本来はこないなもん斬りたないんやけどしゃーないよな。
唸れ、黒切(くろきり)。ふっ!」
ビルデ  「な!? 剣で家が真っ二つに!」
キバイラ 「昼寝中やったか、起こしてしもたみたいやなぁ。あぁ安心してぇな。またぐっすり寝かせたげる」
ビルデ  「あ、あああ・・・、そんな。徳利(とっくり)の中の毒をぶちまけて、ああ! 二人の体が!」
キバイラ 「ととととと、と。ちょいと注ぎすぎたかもしれへんな? 10秒持たんとあっさりすっぺり蕩けてしもた。薄めとくべきやったか」
ビルデ  「キバイラ様、町民にはむやみに手出しをしないと・・・、ひぇっ!?」
キバイラ 「そら生贄の対価でっしゃろ? あんさんらが守ろうとせん約束を、うちが守る道理はあらへん」
ビルデ  「しかし、これではますますこの町が」
キバイラ 「これ以上はあらへん。次しょーもない者(もん)寄越したら、骨一本残れへんと思え」
ビルデ  「は、はい。わかりました」
キバイラ 「はーぁ。あんさんが眉目秀麗ならまだ美味しく食えたかもしれへんのになぁ。肥えてて、チビで醜(みにく)ぅて・・・、最悪やわ」
ビルデ  「あ、ははは。それは、どうも」
キバイラ 「まぁ、えぇ御神酒(おみき)揃えてはるんは便利やけど? また適当に持ってきてくれへん?」
ビルデ  「は、はい。かしこまりました」

マルグ  「お父さん、おかえりなさ・・・、ん? どうしましたか、そんなに不機嫌そうにして」
ビルデ  「くそ、くそ! あの鬼め! 私を何だと思っているのだ!」
マルグ  「お、落ち着いてください!キバイラ様のたわ言をいちいちまともに聞いてたらキリがありません」
ビルデ  「あやつめ、くそ。なにもかも馬鹿にしおって。私が、」
マルグ  「何があったんですかお父様。まさか、怒らせてしまったのですか?」
ビルデ  「あぁ、その・・・、身を、清めに行ってくれ」
マルグ  「身を? え、あ。もしかして、私なんですか」
ビルデ  「そういう、ことになる。すまない、お前だけは守りたかったのだが」
マルグ  「そう、なんですか。ついに・・・、そっか」
ビルデ  「キバイラのもとに行って帰ってきたものは誰もいない。どうなるかは、わからないが」
マルグ  「けど、誰かがいかなきゃいけないんですよね。今までも、もう何人も」
ビルデ  「あやつがこの町を支配してから2年・・・、お前だけでも助けたかったのだが」
マルグ  「ほんとうに、そう思っていますか」
ビルデ    「なんだ? 何が言いたい」
マルグ    「っ! いえ、なんでもありません!」
ビルデ    「貴様もそうやって、私を馬鹿にするのか? 心のないネズミだと嗤いたいのか!」
マルグ    「そんなこと、ありません! や、お父様駄目! 今は、こんなことしている場合じゃ!」
ビルデ    「うるさい! 最後まで私に歯向いおって! 身体で教えなければわからないか!?」
マルグ    「だ、めっ・・・、傷がついたら、ばれちゃ!」
ビルデ  「これが終わったら、もう休んでいなさい。泉で体を清め、明日にはキバイラのところに向かってもらわねばならないからな」
マルグ  「わかり、ました。その、お父様」
ビルデ    「その前に。ここまで育ててくれたお父様に、感謝を示してくれてもいいんじゃないかな?」
マルグ  「(ああ、こんな時まで、この人は・・・)」

 

オティス 「しかしまぁ、いないもんだな。あれだけ派手に空を飛んでおいて、デュラハンの目撃情報が一つもないなんて」
アニ   「案外目立たないものなのかな?」
オティス 「飛んで行った方角はこっちだったよね。なんだろう、幻惑のアイテムでも持ってんのかな」
アニ   「ベニオットさんの情報、待った方がいいかな?」
オティス 「かもしれないね。まさかデュラハンに遭遇してしまったばかりに、王都に呼び出されるなんて思わなかった」
アニ   「飛んで行っちゃったもんね、ベニオットさんとイフォニさん」
オティス 「いろんな情報持ち帰ってくれるらしいから、ゆっくり待とう。連絡取れれば良いんだけどな、テレパス的な」
アニ      「連絡? 取れると思うよ。お姉ちゃん念波サザエ知らない?」
オティス 「え、何それ全然知らない。それもなんか、火を起こしたり出来る便利なやつ?」
アニ      「遠くの人とも会話が出来るんだよ。1日1回しか使えないみたいなんだけど」
オティス 「へー、昔は大掛かりな魔法が必要だったのにね。進歩したなぁ」
アニ   「さすがに雨を降らせるものはなかったかなと思うから、お姉ちゃんも負けてないよ」
オティス  「あれは条件合ってたから出来ただけだよ。別に魔道具に張り合う気はないけどね」
アニ   「それもそうか。けど、魔法ができない人でも使えるって、いいね」
オティス 「ひとまず、今はデュラハンだ。こっちもこっちで進めてこう」
アニ   「うん、捜査だね!いろんな人に話聞いて行こう!」
オティス 「あとは町でも見つかればいいんだけど。集めた素材を売りたいんだよね」
アニ   「たくさんあるもんね。竜の牙に、オークの棍棒、心臓に、羽に・・・、これ、どこの部位が売れるとか全部覚えてるの?」
オティス 「うん。大体叩き込んでるよ。荷物かさばるし、一時期本気で金欠になったからさ」
アニ   「金欠になるの? 勇者なのに?」
オティス 「勇者なのに。ひどいんだよ、魔龍をなんとかしろって言っといて渡してきたの低級装備と100メナだからね?」
アニ   「ひゃ、100メナ!? ええと、コーヒー1杯がたしか・・・、100・・・、メナ・・・。やばいね?」
オティス 「まあ当時と物価は違うから単純比較はできないけど、それでもまあはした金だよね。死ねって言われてんのかと」
アニ   「なんとかできなかったの?」
オティス 「自己鍛錬、自己研鑽も勇者としての重要なファクターだっつって聞く耳持たなかったよ」
アニ   「そんなお金で、どうやって過ごしてたの?」
オティス 「まあ、七星剣はわりと早期に見つかったから武器はなんとかなったけど、問題はやっぱりお金だったよね」
アニ   「100メナだもんね」
オティス 「だから初期はとにかく狩りに躍起になった。そうしないと寝る場所さえままらなかったから」
アニ   「寝場所を貸してもらったりとか、そういうのはなかったの?勇者なのに?」
オティス 「勇者なのに。そもそも公的な信用がまだなかったから、戦って示すしかなかったといいますか」
アニ   「なるほど。積もり積もって、今の原典の勇者の人望があるわけだね」
オティス 「まあ後期になるといいアイテム手に入ったり、ウォースロットがギャンブル上手かったからお金には困らなかったんだけど」
アニ   「へぇー。って、ん? 今は?」
オティス 「ほ・・・、ほら。勇者特権持ちの奴らってさ、結構良い武具とかアイテムため込んでるんだよね」
アニ   「あー!わるいおねえちゃんだ!」
オティス 「はははは、再利用、再利用」
アニ   「まったく! いくら勇者だからって・・・、およ、誰かいるよあそこ」
オティス 「ほんとだ。魔物の群れと戦ってる。狩り、かな?」
レオン  「ああくそ、このゴブリンめ! くらえ、くっそ躱すんじゃねえよ!」
アニ   「狩られそうになってるね。剣に慣れてないのかな」
オティス 「というより、間合いの取り方が下手だ。無視してもいいけど・・・、アニちゃん、ちょっと捕まっててね」
アニ   「ふぇ? あ、うわわわ! お馬さんの急加速!」
レオン  「くそ、ああもう鬱陶しい! いい加減・・・に? あれ、あいつらどこ行った」
オティス 「こんな程度一閃で片付くっての。ごきげんよう、若き勇者さん。調子はどうかな」
アニ   「わあ、あんなにいたゴブリンが一瞬で! ん、え? 勇者?」
レオン  「なんでそれを・・・、あんた誰だ?」
オティス 「君と同じ勇者だよ。原典の、だけどね」
レオン  「原典!? こ、これはどうも」
オティス 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
レオン  「あーえっと。ここじゃ、目につく。一旦俺の家まで来てくれないか」

 

マルグ  「清めの泉、どこにあったっけ。あと、傷とか、色々ごまかさないと・・・、あれ、レオン?」
ビルデ  「おいマルグ、何をしている。まっすぐ泉へ向かえ。下手なことをしてキバイラの機嫌を損ねたら」
マルグ  「え、いや、あそこです。レオンの家に誰か入っていったので」
ビルデ  「何!? あいつめ、こんな大変なときに人を連れ込んだのか!」
マルグ  「あっちょっと、きゃ!」
ビルデ  「馬鹿者め、かつての勇者の一件以来、来訪者は嫌われているとわからんのか!」
マルグ  「ちょ、お父様!レオンの家には近づかないって!」
ビルデ  「今はそんなこと言ってる場合か! おいレオン!」
レオン  「炭鉱も、連絡手段も一切合切を抑えられている。従うしかない状況だ」
アニ   「だからって、魔物に生贄を捧げてるなんて! そんなのおかしいよ!」
オティス 「そうか。魔物が町を支配、ねえ・・・。ん、誰かきたけど」
レオン  「おお? あ、なんだビルデとマルグか。何の用だよ!! 入んなっつったろ」
ビルデ  「そうも言ってられんだろう。お前な、今この町がどんな状況なのかわかってるのか」
レオン  「わかってるわ。だからこそ目立たねえ俺の家を選んだんだろ」
マルグ  「レオン、そこの2人はどちら様なの?」
レオン  「・・・原典だとよ」
ビルデ  「なんだと!?」
マルグ  「勇者さま・・・、なんで、こんなところに?」
オティス 「やっぱ名乗んないほうがよかったかな?」
アニ   「お姉ちゃんほかの町ではどうしてたの」
オティス 「明確に名乗り始めたのはプリメロからだけど」
アニ   「じゃあ、やめておいたほうがよかったんじゃないかな」
ビルデ  「マ、マルグ! 家にある一番いい茶葉をとってこい!」
マルグ  「ち、茶葉? 私、どこにあるか知りませんけど・・・」
ビルデ  「ええい、なら私が行く! まったく、大事な客にお茶も出さないなど! 原典様なのだろう?」
レオン  「や、突然なんなんだお前」
ビルデ  「女神の使いと称えられるお方だぞ! お前冒険譚読んだことないのか?」
オティス 「アニちゃん、あれが掌を返すというやつだよ」
アニ   「参考になるね」

 

マルグ  「レオンったら相変わらずキッチン使ってないんだね。ほこりが・・・、けど、火起こしのところだけきれい? なんでだろう」
オティス 「ああ、ここにいたんだ。マルグちゃん・・・、だったっけ? 何してるの」
マルグ  「父が紅茶を取ってくるので、淹れる準備を」
オティス 「あの人、町長なんだよね? なんというかこう、あれで平気なの?」
マルグ  「ええと、まあ程々に。どうしようもないところもありますけど、一応何とか出来てますよ」
オティス 「そう? なんか杜撰(ずさん)そうだけど。で、マルグちゃんに聞きたいことがあるんだけど」
マルグ  「この町を支配する魔物のことですか?」
オティス 「まあ・・・、それもある。いつからこの町を?」
マルグ  「大体、2年くらい前に突然現れたんです。いい巣を見つけた、って」
オティス 「それ以来ずっと?」
マルグ  「はい、生贄を捧げています。周期はまちまちですが、ずっと」
オティス 「だからレオンは勇者特権を得たってわけね。町を救うために、か」
マルグ  「町が支配されたとき、外にいたレオンだけたまたま無事で、逃げ出せたのです。でも」
オティス 「でも?」
マルグ  「その代償に、両親は凄惨な死を遂げました。レオンがそれを知ったのは、帰ってきた先週のことで」
オティス 「ちゃんと見ておかないと、やらかしそうだなあいつ・・・、町の被害は?」
マルグ  「もう、若者はわずかしかいません。ほかの人も、気まぐれで殺されたり、餓死したりで」
オティス 「そっか、わかった。なんとか考えてみるよ」
マルグ  「考えてくれるんですね・・・、もしもこの町、スレイヴを見捨ててレオンだけ助けてって言ったら、聞いてくれますか?」
オティス 「一応理由を聞いてもいいかな」
マルグ  「私はレオンに愛してもらう資格なんてないんです。身も心も醜い、死ぬことでようやく役目を終える女なんです」
オティス 「ああ、そういうことか。なんとなく疑問に思ってたけど、君たち本当の親子じゃないんだな」
マルグ  「はい。お父様は母の再婚相手で。私は本当の父親が誰かもわからないんです」
オティス 「体中の痣は、そういうこと?」
マルグ  「はい。私、こんなところで死にたくありません。けど、それ以上にもう生きたくないんです」
オティス 「言い辛いかもしれないけど、どうしてほしい?」
マルグ  「ここで、殺してください。そうすれば、きっと最悪は訪れない。ごめんなさい、自分で死ぬ勇気もないんです」
オティス 「それでいいの? レオンなら・・・、いいや、外にだって、君の知らないことはたくさん」
マルグ  「あなたなら、よくわかるんじゃないですか」
オティス 「その言い方、ずるいな・・・。目を、瞑ってて。それで終わらせるから」
ビルデ  「マルグ! ここにいたのか!茶を入れる準備はしたんだろうな!」
マルグ  「ひっ!? え、あ、はい! ちゃんとやってます!」
ビルデ  「おっと、勇者様もここにおられたのですか。どうぞあちらで待っていてください。すぐに用意しますから」
オティス 「あぁ、はい、では・・・。ごめん、またあとで」
マルグ  「はい。ごめんなさい、変なこと言って」

 

ビルデ  「お待たせしました、こちらをどうぞ」
アニ   「コーヒーじゃないんだよね。これがお茶なの?」
ビルデ  「この町ではよく紅茶を嗜んでいます。お気に召しますでしょうか」
レオン  「あんた紅茶知らねえのか」
アニ   「お父さんがカフェやってたけど、コーヒー専門だったから。お茶の葉? も、うちの町には来なかったよ」
レオン  「茶葉が届かない? 輸送経路が整備されてなきゃあり得るのかな」
オティス 「紅茶か。うん、いい風味だ」
アニ   「美味しいね! ん? このジャムはどうするんだろう。砂糖代わりに溶かせば甘くなるとか・・・、なんか違うな?」
ビルデ  「それで、首のない怪物でしたか。残念ながら私どもはそのような怪異は見てませんな」
オティス 「そうですか。やっぱり、姿を隠してるのかな?」
ビルデ  「一応、ほかの者にも聞いてみます。それで、1つお願いなのですが」
レオン  「この町を支配している魔物に手をだすな、ってか?」
ビルデ  「な、お前は黙っていろ! しかしまあ、要はそういうことです」
アニ   「けど、生贄を捧げてるんでしょ? なんとかしなきゃいけないよ」
ビルデ  「しかし、ただ倒すだけでは私たちは・・・、その」
オティス 「ははぁ。対価、とかそんな感じですか?」
ビルデ  「彼奴が来る前から経営はギリギリだったんです。生贄の対価として渡される財宝がなければ、生活が出来ません」
アニ   「そんな! 命を売ってるようなものじゃない!」
ビルデ  「生命を賭け資金を得るのは、基本のことでしょう」
アニ   「意味がちがうんじゃないの? だって、そんなんじゃ」
オティス 「町を捨てて皆で逃げる、というのは?」
レオン  「この町の住人はみんな、あいつに呪詛を結ばれてる。刻印──この町から遠ざかると心臓が止まる」
アニ   「そんな! なんとかならないの?」
ビルデ  「起点となる刻印を壊せばいいのですが、魔物が守っているうえに場所がわからないのです」
アニ   「じゃあ、その魔物を倒せればいいんだよね?」
レオン  「以前、流れ者の勇者が挑んだことがある。名前は・・・、忘れたが」
オティス 「その時は、どうなった?」
レオン  「町の一部ごと融けた。俺んち来る途中でちょっとした平野あっただろ? あれがそうだ」
アニ   「融けた、の?町が?」
ビルデ  「魔物は現在、兵器を開発しているといいます。そのための材料集め、だとか」
オティス 「兵器の材料?鉱石かな、いやけど弾丸くらいにしかならないんじゃなかったかな」
ビルデ  「それさえ完成すればここから出ていくと言っています。ですから、それまで耐えるしか」
アニ   「けど、たくさんの人が死んじゃうんだよね」
ビルデ  「仕方のないことだ。生きていくためには犠牲なしではいられないのだ」
オティス 「わかるよ、アニちゃん。けど、ちょっと思いつめすぎ。深呼吸しな」
ビルデ  「前は別の町にいたそうなのですが、その町は抵抗を決めた翌日に消滅したのです」
レオン  「は、なんだそれ。聞いてねぇぞ俺それ」
ビルデ  「彼奴が自から教えてきたわ。何という町かは忘れたが、潰したと」
オティス 「そいつの言うことが本当なら、すでに町一つ潰せる規模の力を持ち合わせていることになる」
ビルデ  「私たちには、ここしかありません。どうか波風を立てぬようお願いします」
オティス 「そうですか・・・、わかりました。それ以外でも何か出来ることがあるかもしれません。少し地図を見せてもらっても?」
ビルデ  「地図? それならば町の資料庫で管理しています。少し歩きますが、付いてきてください」
アニ   「あ、行っちゃった。何か私も出来ないかな」
マルグ  「アニさん、でしたっけ。勇者さまと共に旅をして、なにを担当しているのですか?」
アニ   「えっとね、料理とか、魔法とか! ふへへ、いまいろいろ勉強してるんだー」
マルグ  「なら、私のレシピ本をプレゼントしましょうか? それで美味しいものを作ってあげてください」
アニ   「え、いいの!? だってそういうのって大事なものだよ?」
マルグ  「いいんです。亡くなった母からもらったものですが、もう使うことも無さそうなので」
アニ   「どうして? まだ時間はあると思うんだけど」
マルグ  「父はあえて言いませんでしたが・・・、次は私なんですよ」
アニ   「・・・ふぇ? それって、もしかして」
レオン  「なんだ、外から物音がするな。っ! おい二人とも! 伏せろ!」
マルグ  「どうしたのレオ・・・っ、きゃああああ!?」
アニ   「ええ、家の壁が壊れてる!? なにが飛んできたの今!」
キバイラ 「うんうん、今日も好調やねぇ。家の壁くらい紙みたいなもんやね」
アニ   「剣・・・? もしかして、家を真っ二つに切ったの!? 嘘!?」
キバイラ 「あきまへんぇ? お家で大人しうしぃや。卑しい羽虫(はむし)がついてしまうよ?」
レオン  「キバイラ! なんで、こんなところに」
アニ   「え、え!? なにこの人! 頭にツノがあるよ!」
キバイラ 「あらまぁ、可愛らしいお子やねぇ。どないしたん、道端で拾ってきたんかいな」
レオン  「あんたには関係ないだろ」
キバイラ 「あるに決まっとるやろ? ウチに楯突く気ぃなら呪詛を暴走させて・・・
あぁほうか、あんさんには埋め込んでへんのやっけ?」
アニ   「え、あ、どどどどうしたらいいのこれ! お姉ちゃんも町長さんもいないのに」
レオン  「くそ! こうなったら」
キバイラ 「いらん気は起こさへんほうがえぇよ? 大事な子、失うんはかなへんやろ?」
レオン  「何しに来たんだ! ここは俺の家だぞ!」
キバイラ 「マルグちゃんの無事を確かめに来たんどすぇ。こないな辺鄙な家に連れ込まれて、何(なん)があるかわかれへんでっしゃろ?」
レオン  「連れて行かせは、しないぞ」
キバイラ 「小僧・・・、剣を抜くなら覚悟を決めや? 抜いたら最後、斬るまで終われへんが世の常どすぇ?」
レオン  「っ・・・、何故ここだったんだ。なんでお前はこの町を選んだ!」
キバイラ 「んー、理由なんてあらへんよ。別にあんさん、市場で売られてる豚の種類なん、かめへんやろ?」
レオン  「な!? じゃあ、ここが炭鉱であることも、町長が馬鹿だってことも、なんの関係もないのか?」
キバイラ 「あらへんよ? むしろ、都合のいい町で助かったわぁ」
レオン  「貴様ぁ! 絶対に許さない!」
キバイラ 「あーあ、抜いてもうたー。」
マルグ  「レオン、だめ!やめて!」
レオン  「貴様がいなければ母さんも、マルグの家族も、マルグも! 貴様がこの町に来なければみんな平和だったんだ!」
キバイラ 「あらあら、そないに吠えんで。疼いてしゃーないやろ・・・。かぁ!」
レオン  「げふぅ!? 今のが、蹴り? まるで猪の突進みたいな・・・、いや、それ以上だ」
マルグ  「や、待ってくださいキバイラさん! 私、大丈夫ですから!」
キバイラ 「言ぅたやろ、剣を抜くなら覚悟を決めろて」
レオン  「くそ、行かせないぞ!やめろ!!」
キバイラ 「取り返したいん? やめておくれやす? はははは、やってみせたらどない? どうせウチには敵わへんやから!」
レオン  「痛ッ! つ、ぐぅ・・・、この鬼め!」
マルグ  「レオン、だめ。いくら勇者だとしても、鬼に敵う人間なんてそうそういないんだから」
キバイラ 「余計なことはせん方が吉どすぇ。今はたまたま気分がえぇし、ここまでにしといたげよかな」
レオン  「くそ、なんで、こんなにも届かないんだ」
アニ   「ま、待って鬼さん! 行かせない・・・、マルグさんを離して!」
キバイラ 「へぇ。可愛(かあい)らしいんに、魔法使いやったんね。せやけど、なぁんも見えてへんやね?」
アニ   「見えてるもん!私だって、お姉ちゃんみたいに誰かを救える人にっ」
キバイラ 「世間知らずは敵わん。動いたら、殺すで」
アニ   「ひ!? っあ・・・、け、けど! あたしは!」
キバイラ 「おーおー、足(あいや)震わせて。かーいぃねぇ。けったいな事せんかったら何(なん)もせんよ? せやけど牙向いたら、わかるやろ?」
アニ   (ダメ、だ。手も震えて・・・、何も思いつかない!)
キバイラ 「せやかてまぁ、こん羽虫(はむし)はほんに勇者ん器なんか? 紋章はちゃんとあるんかいな」
レオン  「な! や、やめろ! 紋章はッ!」
マルグ  「やめ、キバイラ様! レオンを食べないで!」
キバイラ 「別に取って食べたりせんよ・・・、なんやのこれ。紋章が体に馴染んでへんやん」
アニ   「紋章が馴染んでない? あれって各個人で特性が違って、馴染みやすいようになってるはずだってお姉ちゃんが・・・」
キバイラ 「身体が拒否反応を起こしたはるやん。よっぽど身体が変(けもじ)か、それとも・・・、他人(ひと)んもんをくすねたか」
マルグ  「他人の、もの?」
アニ   「え、ど、どういうこと!? レオンさんの紋章、違う勇者のものってこと!?」
レオン  「それ、は・・・、その」
キバイラ 「当たりかいな、呆れた。何まともに相手しとったんやろ。偽物(にせもん)に興味なんあらへん」
レオン  「つ、ま、マルグ!」
マルグ  「レオン・・・、そんな人だと、思ってなかった。あなたは、もっと」
キバイラ 「もう未練はないやろ? ほらいくで、身体は清めたる筈どすやろ?」
レオン  「まっ! あ、ぐ、くそ! くそぉ!」
アニ   「はっ、はっ・・・、なん、で? レオンさん、どうしてなの? 紋章を、奪ったなんて」
レオン  「ちが、うんだ。聞いてくれ、俺は奪ったわけじゃ」
アニ   「そりゃ、勇者さんたちはろくでもない人が多いかもしれないよ? けど、悪人相手なら奪ってもいいなんてことない!」
レオン  「俺をそこらの特権持ちと一緒にするな!」
アニ   「一緒だよ!そんなことするなんて。いい人だと思ってた、のに!」
ビルデ  「おい、戻ったぞ。って、なんだこの荒れよう!何があった!」
レオン  「キバイラが来て、マルグを持ってかれた」
ビルデ  「なんだと!? くそ、相も変わらず気まぐれで町を破壊しよって!」
アニ   「あれが、町を支配している魔物・・・、そうだ! お姉ちゃんは? 今どこにいるの!」
ビルデ  「ああ、炭鉱図を見ている。どうしても確認したいからと頼まれたので仕方なくな」
アニ   「あたしもそっち行く! お姉ちゃんの気は、あっち!」
ビルデ  「あ、こら! あまり目立つ行動をするんじゃない! まったく、何をしているんだ」

 

オティス 「アニちゃん? こっち来たんだ。どうかし・・・っ? 何があったの。冷や汗びっしょりだよ」
アニ   「あああの、あのね。魔物が来て、マルグさんが連れてかれて、レオンさんが偽物で! それでそれで」
オティス 「ちょっ、落ち着いて。ゆっくりでいいから、詳しく聞かせて」

アニ   「って、ことがあって。それで、今こっちまで来たの」
オティス 「キバイラ・・・、ああくそ、そういうことか」
アニ   「ど、どうしよう。マルグさんもだし、あとは・・・、うひゃっ!? どうしたの、急に机殴って。びっくりした・・・」
オティス 「なんで気が付かなかったんだ、よく考えればわかることだったろうに! こんな悪趣味なことやるのはあいつくらいじゃないか」
アニ   「知り合い、なの?」
オティス 「鬼の首魁(しゅかい)だ。300年前に大暴れしてた、私たちが討ち損ねた最悪の敵だ」
アニ   「しゅかい? あ、それ読んだことある気がする。いろんな町を襲って、好き勝手してたんだよね」
オティス 「正攻法では決着がつかなかったから、ウォースロットが罠にかけて討とうとしたけど腕を落とせただけで、逃げられたんだ」
アニ   「そういえば、右手がなかった気がするよ」
オティス 「やっぱりか。あれ以来見ないと思ったら、辺鄙な町を渡り歩いてたのか」
アニ   「当時のお姉ちゃんでも、倒せなかったんだよね」
オティス 「魔物のくせに人語を話して知性があって、しかも力は向こうが上だ。元々の種族値が違う」
アニ   「勝てる、よね? 大丈夫だよね?」
オティス 「町長のビルデさんがああ言ってる以上、慎重に動かないと。まだ向こうには気づかれてないようだからなおさらだ」
アニ   「わかった。なんとかしようね」
オティス 「しかし、レオンが偽物だったとはね。特権持ちにしては妙だと思ったけどそういうことか」
アニ   「そうなの! 勇者の紋章って、人から奪ったり出来るの?」
オティス 「奪ったというよりは、多分写しを買ったか何かしたんじゃないのかな」
アニ   「写し? 紋章の? そんなのあるんだ」
オティス 「あるよ。勇者の紋章って王都で一括管理してあってさ、模様と名前、術式がちゃんと記録されてるんだよ」
アニ   「思ったよりちゃんとしてるんだね」
オティス 「国家政策だし。実は行方不明になったり死んだ場合でも紋章の登録って消されないんだよね。それを利用してると思う」
アニ   「使われなくなった紋章を、他の人が手に入れてるってことなの?」
オティス 「王都の近隣の闇市ではそういう取引があるとは聞いてたけど・・・、レオンが、か。水準を満たせなかったんだろう」
アニ   「そう、だったんだ。ひどい言い方しちゃったな」
オティス 「いや責めて間違いはないけど。本来なるべきじゃないものが不正に勇者になってるんだ」
アニ   「確かに? 勇者ってろくな人がいないね。あ、お姉ちゃんは違うよ」
オティス 「わかってるよ。特権持ちってのは真偽問わずろくでもないものが多いしね」
アニ   「お姉ちゃんの誇りの証ともいえる肩書きなのに。穢されてるみたいで、なんかやだな」
オティス 「まあ別にそれ自体に頓着してないからいいんだけどね。肩書きにこだわりはないからさ」
アニ   「けど、なんか複雑・・・。あ、ヴラドニアさんはすごいって聞いたよ!」
オティス 「血染めのヴラドニア? 彼女に関してはいい噂聞いたことないけど」
アニ   「正義の人! 悪を許さず、非道の勇者や悪人をたくさん倒してるって!」
オティス 「ああ、なるほど。世間的にはそうなるのか」
アニ   「いつか会ってみたいんだ。あ、けどやっぱりお姉ちゃん的には悪い人なのかな?」
オティス 「ヴラドニアに関しては情報が多すぎるんだよね。勇者と言えど、すべてが傍若無人じゃないだろうから」
アニ   「じゃあ優しい人だったら?」
オティス 「さすがに世にとって益になる人に斬りかかったりしないよ。まあ、友達にはなれるんじゃないかな?」
アニ   「そ、そっか! 仲良くできたらいいね!」
オティス 「(血染めのヴラドニア、か。無辜(むこ)の民にこそ手を出しちゃいないが、多分後先考えないタイプなんだよね。
      先日は勇者のたまり場になった町へ無勧告砲撃やらかしたし。随分勇者が嫌いらしいけど、無茶苦茶なのは確かだ)」

 

キバイラ 「ここは炭鉱の一部を改造してつくった住処でな。入り口に細工がしてあるから、普通は入れへんようになってる」
マルグ  「あ、ああ・・・、ここが、キバイラ様の」
キバイラ 「そないに怯えて、可愛(かあい)らしいねぇ。あのネズミの娘にしては、なかなかどうして造形がええなあ」
マルグ  「わた、私は、何をさせられるんですか?」
キバイラ 「いつもは実験に使ったり、骨抜いて食べたりすんねんけど。マルグちゃんえぇ子やからなぁ、どないしよか悩むわぁ」
マルグ  「実験!? えあ、その」
キバイラ 「怖がらんでえぇよ? まだ苦しませへんから。ほぉら力抜きや? 血をちょい貰うやけやから」
マルグ  「血を? え、あ、なんですか、その筒みたいなもの」
キバイラ 「ばんはーふ? やっけな、そない名前ん勇者がくれた道具でなぁ。血を吸い上げてくれんねや。便利やろ?」
マルグ  「うえ・・・、血が、吸われて」
キバイラ 「綺麗な血やなぁ。どれ、舌触りはと・・・、ん? 思ったより味ないな」
マルグ  「あ、え? 何が、ですか?」
キバイラ 「なんでやろ、見たところ健康体やし、病気やあらへんよな。ちゅうことは、と」
マルグ  「どうしたんですか?その、私に何か、きゃ!? なんで下着を脱がすんですか!?」
キバイラ 「下手に抗うと痛いで。どれどれ」
マルグ  「な、何を! やっだ! やめて、ください! そんなところ、やぁ!」
キバイラ 「ああ、そう。やっぱりそういうことなんやな、あんさん生娘やないやろ」
マルグ  「え? あ・・・っ! その、それは」
キバイラ 「それに服とスカーフで誤魔化してるけど、随分と怪我が多いようやね。なんよ、この痣は」
マルグ  「ちが!わたしは、そんなこと」
キバイラ 「やっぱしあの家で羽虫(はむし)に? や、ちゃうな。かぁいらしいお子さんの前にゃやらへんよな。
となると・・・、ははーん、そないいうことか」
マルグ  「キ、キバイラ様?どうしたんですか、目が、怖いです」
キバイラ 「あんさん、ビルデに散らされたな? しかも今日もまぐわとったやろ」
マルグ  「は、え? わた、しは」

――――――・・・

ビルデ  「うるさい!お前は黙って私の言うことを聞いていればいいんだ!」
ビルデ  「泣くなわめくな、うるさいぞ!母さんがいなくなって大変な時期に私の手を煩わせるでないわ!」
ビルデ  「しかし、お前も随分と成長したな。母さんにそっくりではないか」
ビルデ  「暴れるでない! 金も少ないのにお前を養ってやっているのだ! 少しは礼を返しなさい! いうことを聞け!」

――――――――――――
 

ビルデ  「子供は育ててもらった恩を親へとかえすものだ。だからお前も、模範的な子でありなさい」

マルグ  「その、あの・・・、それ、は」
キバイラ 「あーあ、いよいよ見過ごされへんなぁネズミ。うちのことを随分みくびってくれたみたいや」
マルグ  「そんな、まって! おとうさんは、みんなは関係ない!」
キバイラ 「関係おへんことあらへんわ。取り入るならともかく、害為すばっかりならもう必要あらへん」
マルグ  「そんな、だめ、だめです!やめてください!みんなを殺さないで!」
キバイラ 「うちが何で生贄なんて煩わしい手を使こてたかわかるか? あんさんら人間、浅ましい負ん感情が欲しいからや」
マルグ  「負の、感情? それを、どうして?」
キバイラ 「怨嗟、絶望、憤怒、号哭。貯めこんだそれを呪術転用したいんに、最近(きょうび)はちっとも取れやへん!」
マルグ  「負の感情による呪術・・・、そんな、ことが」
キバイラ 「餌かて素材かてならんなら不要や。もう飽いやした、虐殺でもしよかな」
マルグ  「ぎゃ、虐殺!?どうしてそんなことを!?」
キバイラ 「人が死に際に残す無念も、一応呪詛の材料にはなるんよ。効率悪いけど、しゃあないなぁ」
マルグ  「待ってください!だめ、殺さないで!」
キバイラ 「けったいな話やね。あんさん、散々好き勝手されてきたんにほんでも庇おうとしはるんやな」
マルグ  「だって、わたしにはもうなにもない、ならせめてレオンだけは、救いたい!」
キバイラ 「・・・、ふーん、ほぅか。偽モンやと知っても想いは変わらへんか。ほな、なんでもやれるか?」
マルグ  「え? それは、どういうことですか?」
キバイラ 「新しぅ作った毒酒があるんよ。効果はまぁ、秘密やけど。飲める?」
マルグ  「っ・・・や、やります! 飲みます、から!」
キバイラ 「へえ、言うたね? うちん思い通りになってくれるんなら、少しは考えたげてもえぇけどなぁ?」
マルグ  「っう、っう・・・ぐ、ううう!? う、ああああ!!
なに、これ、おなかが、とけるみたい・・・、やあ、いたいいたい! いたいよぅ・・・」
キバイラ 「痛みくらい序ん口やで。可哀そになぁ、皆ん負債を引き受けるんは、激痛程度じゃ足りへんよ?」
マルグ  「からだ、が、おかしくなる! やだ、こんあの、っぎ、ぐ・・・あ、っつあ」
キバイラ 「内側(うちねぎ)から全部(すっぺり)ひっくり返すようなもんやからなぁ。ほらほらどんどんいこか。

     だーいじなレオン君助けたいんやもんなあ。」

 

ビルデ  「売却素材の話ですが、買い手が見つからずお金にできませんでしたので、返却します」
オティス 「素材の買い手がいない? そんなことあるのか、結構有用なものばっかなんだけどな」
レオン  「・・・金がねえからな」
ビルデ  「余計なことを言うでないわ」
オティス 「ああ、言ってましたね。ならこれは別の町で売ることにします。ってあれ、ちょっと足りないけど」
ビルデ  「それですか、宿泊代として徴収しました」
オティス 「ははあ、抜け目がない。けどそれにしては少し高額では?」
ビルデ  「私どもの経済状況を考えていただきたい。寝床はレオンの家に生きている部屋がまだありますので、そこを使ってください」
オティス 「仕方ない、か。では魔物の目につくといけませんので、私は引きこもっておきましょうかね」
ビルデ  「ではでは。ゆっくり休んでください。レオンよ、しっかり見張っていろよ。間違っても町で騒ぎを起こさぬようにな」
レオン  「ああ・・・、ちゃんと寝ててもらうよ」

 

 

 

アニ   「キッチンは生きていたので料理はできるのです! というわけでマルグさんのくれたレシピを活用したスープです!」
オティス 「おお、けどなんかいい食材あったっけ?」
アニ   「レオンさんがくれたんだよ。あとお姉ちゃん、たくさん素材持ってたでしょ? そのうちから使えるもの探してみたんだ」
レオン  「あのバカがぼったくったんだろ? ならちょっとでも返しとこうと思っただけだ」
オティス 「へぇ。なんだなんだお前、素直じゃないなー」
レオン  「うっせ。あんたに言われてもうれしくねえよ」
オティス 「じゃあ黙って食べますよーだ。ふむ、確かにいろいろ入ってるね。全部トマトとコンソメで煮たのか」
アニ   「薬草とか力の豆とか、いろいろ入れてみたんだよ! 何かと魔力使ってるから補給できたらいいなって」
オティス 「なるほど、ありがとう。どれどれ・・・、うんうん、おいしい! いいねこれ!」
アニ   「ほんとに? よかったあ。魔物のお肉使うのまだあんまり慣れてないんだよね」
オティス 「ああうん、一つだけ言うとしたら魔獣の心臓は入れちゃダメだったと思う。こいつだけ別次元だわ」
アニ   「んー、やっぱり? 使えるかどうかわかんなかったんだけど」
オティス 「これは食って楽しむというより、調合して毒消しとか薬に使ったりするのが正しいよ。味のクセ強いしね」
アニ   「食用じゃないんだね」
オティス 「そもそも心臓食べるって発想なかなか無くない?」
レオン  「だからやめとけって言ったのに・・・、俺は先に寝る。ランプは消しといてくれ」
アニ   「あれ、レオンさんはいらない?」
レオン  「腹減ってないからいい」
オティス 「ちょっとは食べとかないと、身が持たないと思うよ。気持ちはわかるけど」
レオン  「(食えるわけないだろ、眠り薬盛ったんだから。狩りに使う、野良ゴーレムですら朝までぐっすりな代物だ。
     もとから他人なんて頼る気はない。勇者の剣さえあれば、俺の力が足りなくても、紋章なんてなくてもあいつを殺せる。
     そうだ、全部はこのためだ。鬼とて夜は寝るだろ。そこを襲って、全部終わりにする。そのあとは、マルグを・・・)」

 

 

ビルデ  「こんな夜に、私に用とはなんでしょうか。お酒なら、用意していましたが」
キバイラ 「そないなもんいらへんわ。あんさんは何回言うても、町民ん管理が出来へんねやなぁ」
ビルデ  「管理? レオンの、ことですか」
キバイラ 「ゴミ以下ん俗物とはいえ、楯突かれたんは気に入らん。せっかく見逃してあげたんやから、ちゃんと手綱は握りぃや」
ビルデ  「そうは言いましても、あいつは先月この町に戻ってきたところで」
キバイラ 「人を虐げるのは得意なんでっしゃろ? マルグちゃんにしたみたいに、身体ん教えたらよかったんとおまへんか?」
ビルデ  「な!? それは、いや、どうして」
キバイラ 「気付かへんと思ったか? 残念、せやけど血でわかるんどすなぁ」
ビルデ  「き、生娘かどうかがそんなに重要なのですか? マルグは見栄もよく、それから」
キバイラ 「それをなんであんさんが決める! たかが人間分際でつまみ食いをしたことん言い訳しか喋れへんのか!」
ビルデ  「ひい!」
キバイラ 「あかんあかん、冷静に冷静に。なぁ、もうそろそろ年貢の納め時とちゃうか」
ビルデ  「その、マルグはどこに?」
キバイラ 「奥におるよ。せやけどあんさんには関係あらへんよな」
ビルデ  「あ、そんな、黒切(くろきり)をぬいて、何を」
キバイラ 「うちがネズミに向けて剣を抜く理由なんて、1つしかあらへんやろ」
ビルデ  「や、だめ、殺さないでください! これからはさらなる忠誠を誓いますから!」
キバイラ 「それ、もう聞き飽きたわ。お念仏さんはいらへんよな?」
ビルデ  「あ、ああああ! い、います! いるんです!」
キバイラ 「何(なん)がどすか、偽勇者の羽虫(はむし)か? 粋がったところであれにはなぁんも出来ぃひんから」
ビルデ  「レオンの家に、オティスが!原典の勇者がいます!」
キバイラ 「・・・は? なんやって?」
ビルデ  「う、裏切りではありません! 今は夜! 寝静まってるスキを突けば、恩讐を果たせるのでは」
キバイラ 「へえ、角折られたせいで気配探知は確かに鈍っとったけど。まぁたそん場しのぎ嘘ちゃうやろな」
ビルデ  「違います! なんならマルグも知っています! です、から。どうか」
キバイラ 「オティスがこん町に、ね。そんならあんさん潰すんは今やおへんな」
ビルデ  「よかった。剣を収めてくれた」
キバイラ 「ええこと思いついたしな。こん情報に対する対価はちゃんと出すから、家に帰りよし。
羽虫(はむし)の家には近づいたらあかんどすぇ?」
ビルデ  「も、もちろんですとも!」
キバイラ 「粗相を見過ごすんはこれが最後どすえ。とっとと失せておくれやす」
ビルデ  「はい! それでは、失礼します! ひいい!怖かった!」
キバイラ 「ま、もう次なん、あらへんのやけどね。こんでなんもかも仕舞いにするし」
マルグ  「ああああ、う、えぐぁ・・・あ、う? だあれ?」
キバイラ 「マルグちゃんは嬉しい誤算やったなぁ。まさか完成でけるとは思わへんどしたわ」
マルグ  「うう、あ・・・、きばいらさま、わたし、わた、し? がんあった? から・・・、れお・・・」(私頑張ったからレオンを)
キバイラ 「よぉ死なんと耐えたねぇ。おめでとぅさん。マルグちゃんは強い子やねぇ」
マルグ  「れお、れおはだめ。ころしちゃ、や・・・」
キバイラ 「重複した呪いと毒で余命はわずか。精神はかろうじて保ってるけど、臨界寸前。うんうん、急ごしらえにしては上々や」
マルグ  「きば、ら、さま? わたしは、何をすればいいんですか?」
キバイラ 「せやねぇ。とりあえず印を結んで、と。あんさんは今から、こん町唯一ん帰還者となるんどすぇ」
マルグ  「きかん、しゃ? あの家に、帰るんですか」
キバイラ 「そう。もう苦しむことはあらへんよ。ここから出て行って、家(うち)に居ぬんや。良かったどすなぁ」
マルグ  「けど、わたしは・・・、ああ、かえるんです、ね。わかりました」
キバイラ 「それから、皆に言うてあげるんどすぇ。もうキバイラはこっからおらんくなる。せやから・・・」
マルグ  「・・・はい。では、さようなら」
キバイラ 「よし、暗示による誘導は完璧。ほな、うちも行こうかいな。あぁ、あかんあかん。黒切(くろきり)に毒塗るん忘れとった」

 

オティス 「んん、ふわあぁ。寝てた? 思ったよりも疲れてたかな?

     ・・・ってあれ。私、荷物ここに置いてたよな? 剣も・・・、あれ、まさか」
アニ   「ああ、魚のラリアットがカルパッチョの酢を殴り飛ばした・・・、たたき、これがほんとのたたき」
オティス 「アニちゃん変な寝言言ってないで起きて!? くっそ、私としたことがうっかりしてた!」
アニ   「ふにゅう? なに、どうしたのお姉ちゃん。外まだ真っ暗だよ?」
オティス 「私の剣がないしレオンがいない! もしかしたらあいつ、キバイラのところに先走ったんじゃないか!?」
アニ   「剣とレオンさん・・・、えええ!? 大変だ! 大変すぎる!」
オティス 「くそ、まさかここまで考えてたなんて! 二人で探すよ!もしかしたら、大変なことになる!」
アニ   「わかった! 杖とローブと、よし! サーチやるからちょっと待ってね! でりゃーーーー!」
オティス 「どっちのほう? 山か?」
アニ   「ええと、町長さんの家のほうかな? あれ、おかしいな・・・、マルグさんの気配が、家にいるよ?」

 

マルグ  「(痛い。全身が痛い。すべての感覚が鋭敏で、五感は正常に動いている。
     だからこそ、身体を内側からめちゃめちゃにされているこの感覚は明確に私を苛んでいる。
     まるで糸に繋がれた操り人形のように、夜道を歩かされている。本当は止まりたいのに、言うことを聞かない。
     見慣れた町が別物に見える。頭を埋め尽くす苦痛は晴れないけど、ようやく全部が終わるってことはわかる。
     嫌だ。あんな家に戻りたくない。けどキバイラ様のところも嫌だ。私の居場所は、いったいどこにあるんだろうか?)」


ビルデ  「マルグか? 解放されたのか!」
マルグ  「(ああ、あいつがいる。お母さんを見捨てた鬼畜がいる。私を弄ぶ悪魔がいる)」
ビルデ  「は、入りなさい。そうか、キバイラが言っていた対価とはこれのことか。いやはや、金も欲しかったがこれはこれで」
マルグ  「(私は知っている。キバイラから与えられるお金を、ほとんど懐に入れていることを)」
ビルデ  「よかった、傷はないな。手荒いことはされていないんだな」
マルグ  「(私の異常にも気付かないのに。他人を何食わぬ顔で差し出しておいて、どうして?こいつはこんなに平気そうなの?)」
ビルデ  「なにか、キバイラから聞いていないか? ・・・マルグ? どうした? 怖かったと思うが、もう大丈夫だぞ」
マルグ  「だい、じょうぶ。も・・・、もう、キバイラ、さま、はいなくなる。だから・・・」
マルグ  「(口が思考を無視して勝手に動く。いやだ、止まらない。こんなこと言いたくないのに)」
ビルデ  「だから、なんだ? どうした、急に抱きついてきて」
マルグ  「だから、めいいっぱい、わたしを・・・、あいしてください」
ビルデ  「・・・そうかそうか。ようやくお前も素直になってくれたか。うれしいよ、こっちへ来なさい」
マルグ  「(いやだ、いやだ。もう終わると思ったのに、なんで? いやだ、脱がさないで、触らないで! そんな目で見ないで!)」
ビルデ  「マルグ。これからはもう・・・っ!? なんだ、いったい誰だノックもせずに!」
レオン  「てめぇ! 何してやがる!」
ビルデ  「レオン!? なんだ貴様、何を考えている!」
レオン  「マルグが帰ってくるのが見えたから、何事かと思えば! 自分の子供をなんだと思ってんだ!」
ビルデ  「やかましいわ! 貴様こそずっとマルグにべたべたしおって! なんだ、マルグを狙っていたのか?」
マルグ  「(レオンが、私を?)」
レオン  「な、てめぇと一緒にすんな! この外道が!」
ビルデ  「いいや、そうに違いない! キバイラが来る前からやけにべったりしていたからな!」
レオン  「ちがっ、それは関係ないだろうが!」
ビルデ  「仲良くなって、それからを狙っていたのだろう! 他は誤魔化せても私は騙されんぞ!」
マルグ  「(そんな、そうだったのか。優しくしてくれたり、キバイラから守ろうとしていたのは。そのために、いままでずっと?)」
ビルデ  「待て! 話はまだ終わってないぞ!」
レオン  「ともかく、来いマルグ! こいつから離れろ!」
マルグ  「(レオンがこっちを見ている。腕を掴まれて家から出された。こわい。何をされるの? あなたも同じことをするの?)」
レオン  「ひとまず、俺の家で匿う! だから」
マルグ  「(ああそうか、みんな、みんなみんな、私のことを救う気なんてなかったのか! 甘い蜜を吸えればそれでよかったのか!)」
マルグ  「い、いや! やめて!離して! やだやだやだやだ! わたしは! おもちゃじゃない!」
レオン  「何を、そんなことしない! だから落ち着いてくれ、俺はマルグを」
マルグ  「お母さんも、私も!ずっと誰かのおもちゃだった! なんで? どうして? 私たちが何をしたの?」
アニ   「いた! レオンさんとマルグさん! やっぱりこっちだった! お姉ちゃん早く!」
マルグ  「ただ普通に生きたかっただけなのに! どうして誰も気付いてくれないの? 誰も助けてくれなかったの!?」
オティス 「おいレオン! 私の剣があったとしてもキバイラは・・・、マルグちゃん?」
マルグ  「女神様は、救ってもくれない! 勇者でさえも! どうして? 私にはその権利もないの?」
アニ   「およ? マルグさんの体に模様みたいなのが浮かんでる。なんだろう」
マルグ  「苦しいのも知らんふり、悲しいのも見ないふり! そうやって、誰かの幸福のために捨てられる人生なんて、まっぴらだ!」
ビルデ  「おい! あまり大声で騒ぐでない! キバイラが変な気でも起したらどうする」
マルグ  「女神さまに呪いあれ、世界に呪いあれ! 死ね、死んでよ! みんなみんな、死んでしまえばいいんだ!」
オティス 「あれは・・・っ!? まずい!全員離れて!」
キバイラ 「人ん呪詛は棘となり、あらゆる災厄を切り裂く憤怒ん炎となるであろう。

     さあ発動や、『酒呑毒刺人間炸薬(しゅてんどくしにんげんさくやく)』」
マルグ  「こんな世界なんて、ほろんでしまえばいいんだ! 何もかも! 消えてしまえ!」
レオン  「マルグ! 俺は君のことが!」
オティス 「離れろって言っただろ! 死にたいのか!」

 

アニ   「う、ううん。なに? まるで風船が弾けたみたいな音が・・・、え、あれ? マルグさんは?」
オティス 「ああ、やってくれたな全く。普通思いついたって誰がやるんだ、こんなの」
レオン  「い・・・、ぐうう! な、なんだこれ! あたりが真っ赤になってる」
アニ   「お姉ちゃん!? そんな、血まみれだよ!?」
オティス 「返り血だよ。かなり高位の呪いが込められた猛毒になってるけど。くそ、右目と右手やられた」
レオン  「いてて、何が・・・、マルグは!? どうなった!」
オティス 「あたりに散らばってる破片、全部だよ。惚けてないで剣返せ。どうせお前には抜けないんだから」
レオン  「・・・は? え、死・・・へ? じゃあマルグは?」
キバイラ 「ふ、ふふふふ。こないに、あんじょういくとはなぁ。人間にこびりついた負ん感情を燃料にし、肉体を爆発させる」
オティス 「骨は棘に、血肉は毒に、か。起爆剤と材料は呪詛と怨恨と慟哭か? なるほど、最悪だな」
キバイラ 「痛いやろ? 苦しいやろ? それは全部マルグちゃんが味わったものや。身に染みるか? なあ、英雄様!」
レオン  「お、前・・・、なんで、なにをいってるんだ?」
キバイラ 「あーあ、死んでもうたねぇ。美しいなぁ、少女が最期に残した叫びが切り裂いたんは、よりにもよって原典ときはった!」
アニ   「っ!? あの時の、鬼」
キバイラ 「あはははははは! 勇者ともあろう人が情けあらへんなぁ。小娘一人もよぉ救えへんなんて、女神様が泣いとうよ?」
オティス 「相変わらず悪辣な遊びを思いつくもんだな、逆に感心するよ」
キバイラ 「平和の象徴! 女神の使い! 悪を討つもの! かつては敬われ、羨望された英雄が情けあらへん、情けあらへんなぁ!」
オティス 「お前こそ。むざむざ逃げ延びて、どこに行ったのかと思ったら。こんな片田舎で極貧生活か。鬼の首魁が無様だな」
キバイラ 「せやで、せやで! あんさんに仲間を奪われ、腕も奪われ、誇りすらも奪われた! ああ、ようやっと会えたなぁ!」
オティス 「腕を落としたのはウォースロットだけどね。それに、お前たちは略奪と殺戮を繰り返していたんだ、当然の末路だろうよ」
キバイラ 「うちかてうちん矜持がある、うちかて鬼ん首魁としぃやん意地がある。

     否定せいでよ、立場変われば勇者も悪逆ん徒でっしゃろ?」
オティス 「そうかい。なら私は勇なる者として、お前を今度こそ殺そう!」
キバイラ 「ええなぁ、ええなぁ! 苦節300年、ようやっと全部(すっぺり)晴らせるわ!」
アニ   「邪魔にならないように、離れないと。もう、レオンさん!自分の足で歩いてよ!」
レオン  「いや、その・・・、足を、やられた。棘が、何本か刺さってる」
アニ   「とりあえず、応急処置するね! え、ああけど呪術も加わってるんだっけ? 解き方わかんないよ!どうしよう!」
レオン  「い、いいから早くしてくれ! 解毒とか回復の魔法は覚えてないのか?」
アニ   「ま、まだわかんないの! お姉ちゃんも使えないから、感覚がわからなくて」
レオン  「嘘だろ!? くそ、なんでもいい、とりあえず痛みだけでもなんとかなるか? 耐えられそうに、ない」
アニ   「すごい汗だ、こんなちょっとの負傷でもかなり痛むんだね。って、じゃあ、あれだけ喰らっちゃってるお姉ちゃんは?」
オティス 「なんだ全然変わらないなキバイラ! 今度は私が左腕を落としてやろうか!」
キバイラ 「あはははは! そない言うあんさんは随分衰えたんと違うか? そんなんでうちを倒せるなんてよう言えたものやね!」
アニ   「血だって、たくさん浴びちゃったのに。なんで、あんなに平然と戦えるの?」
キバイラ 「片腕やけやんにこん膂力(りょりょく)。ええなあ、たくましいなあ」
オティス 「鬼に褒められても嬉しくないんだけど! この怪力野郎が!」
キバイラ 「そないなこと言わはるんならあんさんもやろ? そない重たい宝剣を片手で振るなんて、人やおまへんわ」
オティス 「は、お互い片腕同士でいい塩梅だろう! これくらい乗り越えられなくて、何が英雄だって話だ」
キバイラ 「まぁ、カラクリは見え透いとるけど。魔力による強化やろ? 魔力、放出し続けたらいつまで持つんかいな?」
オティス 「問題、なし! その前にお前を殺せばいい話だ!」
キバイラ 「自身がほして苦しんやて、か。大したもんやなあ、仲間思いやおすこと!」
オティス 「一切合切、守るのが勇者だ!」
キバイラ 「仲間、出来そこないの勇者、知らん町。護るものが多いんはえらい大変やなぁ。潰すんは簡単やけど」
オティス 「はは、荒らすだけのお前には、この尊さはわかるまい!」
キバイラ 「マルグちゃんを守れんかったんにそないなこと言われても。説得力あらへんよ」
ビルデ  「ああ、なんてことをしてくれる!戦いの余波で町がめちゃめちゃだ!」
アニ   「もう、動かないで! 棘が抜けないでしょ!」
ビルデ  「無茶を言うでない! 貴様は喰らっていないからいいものの、タンスに小指の六倍は痛む! 叫ばねばやってられん!」
レオン  「傷に響く、黙ってろ。それよりもあれから2年経つんだ。対策の1つや2つ考えてたんだろうな?」
ビルデ  「対策? そんなことすれば、キバイラになにをされるかわかったものではないだろう!」
レオン  「ほ、本気か!? ただ従属を選んでいたのか!?」
ビルデ  「下手な動きを見せて反感を買えば、皆殺されるのだぞ!」
レオン  「無抵抗で殺されるのを待つよりはましだろう! プライドもないのか!」
ビルデ  「なにをいうか! 何も背負わずみすみすどこかへと逃げた貴様とは立場というものが違うのだ!」
アニ   「も、もめてる場合じゃないって! もう! 適当に抜いちゃうよ!? いいの!?」
キバイラ 「あれまぁ、足取りがおぼつかんで。膂力(りょりょく)も弱まってきてる。毒ん効果やねぇ。腕ん感覚はある? 耳は聞こえる?」
オティス 「うる、さいな。それがなんだ。こんなところで負けるような柔な鍛え方はしてないんだよ」
キバイラ 「あらあら、お強いんやねぇ。みーんな庇ったせいで負った傷も意に介さへんかぁ」
オティス 「べつ、に。両腕折れた状態でゴーレムに勝った私だぞ」
キバイラ 「正義ん味方さんはお優しいなぁ。せやけど、そのせいで置いてかれる子たちは? あらあら残酷やなぁ」
オティス 「死ぬ気はないよ! お前ごときの稚拙な攻撃にやられるもんか!」
キバイラ 「おお、こわいこわい。ここにきて出力があがってるわ。やっぱり片腕潰すやけやあきまへんなぁ」
オティス 「それにね、私を正義呼ばわりするのはやめろ。私は何も、正義の味方になりたいんじゃないんだ」
キバイラ 「へえ、意外やね。てっきり勇者とやらの肩書が好きなんかと思うてたんやけど」
オティス 「人を救うのに、肩書や理由はいらない。自らの基準で勝手に救うか否かを分けてんだ。そんなやつが正義なもんか」
キバイラ 「おや、かっこよろしいなぁ。せやけど戦いは死ぬか生きるかどすぇ?

     そないな些事(さじ)持ち込んだら、足(あいや)掬われるよ!」
オティス 「あ、ぐっ!? しま、った!足を・・・、もう鬱陶しいなあお前! 小手先ばっかり!」
キバイラ 「ふふ。今んはな、マルグちゃん肋骨で作った短剣なんや。急ごしらえやからいまいちやけど、効くやろ?」
オティス 「言う、ねえ。私は、まだっ・・・、っぐ、動け、ってば」
キバイラ 「まぁええわ。今のうちは、あんさんが苦悶しもって死ぬんを見たいやけやから。さてと」
レオン  「ま、まずい! キバイラがこっちを見ている! 狙われているぞ!」
キバイラ 「勇者は護る者(もん)でっしゃろ? 頑張らなみぃんな死んでしまうよ?

     みすみす全員死なせたら、いよいよ原典も終わりやねぇ!」
アニ   「そんな、まだ応急処置終わってないのに! どうしよう、ああ何すればいいんだ!?」
ビルデ  「こ、ここにいても何もできん! 一旦レオンの家のほうへ退散するしかない」
レオン  「あんなところ、いよいよ逃げ場がねえだろうが! ちょっとは考えろ!」
ビルデ  「毒をむざむざくらった間抜けに言われたくないわ」
レオン  「んだとぉ!?」


アニ   「(考えろ、考えろ! 一撃。お姉ちゃんならそれさえあればいいはずなんだ。拮抗しててどちらも当てられてないだけだ)」


オティス 「させない、けどね! こっち見ろやキバイラ!」
キバイラ 「しぶといなあ、そろそろ折れたらどうや? 正義だの悪だの鬱陶しいこと考えるんしんどいやろ?」
アニ   「そうだ、こっちを向かせたらいいんだ」
ビルデ  「ん? おい、何を企んでいる。杖なんか持って」
アニ   「ごめんなさい、ちょっと離れてて。三属性の魔法を応用して、あとは・・・、よし、月明かりは出てる!」
レオン  「待て、俺たちじゃあいつに対抗できる術がない。瞬殺だぞ」
アニ   「どのみち、お姉ちゃんがもたなかったら皆殺されちゃう。状況を変えなきゃ、ジリ貧だもん!」
ビルデ  「震えながら言うことか! なんとか逃げて、やり過ごすしかないだろう!」
アニ   「いいや、大丈夫! うまくいくかわかんないけど、きっと! 魔法弾、飛べ!」
キバイラ 「んお? なんや、あの女の子の攻撃かいな。狙いはええけど速度と威力が足らへんな!」
アニ   「えぇ、だって本気じゃないもんね! こっちに来てみたらいいよ! 今度は最大威力をあげるから!」
キバイラ 「ええやないの、けど蛮勇と勇敢は別物やで! 命に代えて学ぶとええわ!」
オティス 「アニちゃん!? くそ、抑えきれなかった!」
アニ   「大丈夫! 信じてお姉ちゃん! 鬼さんこちら、手の鳴る方へ! 追いかけてみてよ!」
キバイラ 「へぇ、ようわかっとるやない。挑発が上手いんやなあ、感心するわ」
アニ   「この魔法と、そこに水を撒いて・・・、セット! アニ式、挑発ミラージュ発動だよ!」
キバイラ 「さあ追いついたで! 妖刀黒切(くろきり)ん錆にしてあげ・・・、よかっ? な、剣が届いてへん! 間合いが遠かった!?」
アニ   「ようしうまくいった! 残念! そこに私は居ないんだよ!」
キバイラ 「目測をずらされた? まさか、幻惑魔法か!」
アニ   「そんな大したもんじゃないよ、空気の屈折率をいじって、距離感を狂わせました!」
キバイラ 「そないなことを、簡単に! 退避を・・・、な、地面が泥濘に!?」
アニ   「踏ん張りも奪った! それじゃ約束通り私の最大最強の魔法弾をあげる! 顔面にどうぞ!」
キバイラ 「んぶぁっ!? こ、のクソガキ! よぉも!」
オティス 「おいおい私を忘れんなよ。だから言ったろ、こっち見ろって」
レオン  「なん、だ、あれ。雷が剣を包んで、まるで槍みたいになってる」
オティス 「右半身封じれば技を防げると思ったか? ばーか!片手があれば撃てるんだよ!」
キバイラ 「しまっ、打ち合いもって溜めとったんか!?」
アニ   「さあ! やっちゃえお姉ちゃん! あれ、もしかしてここって巻き添え喰らう?」
オティス 「わざわざ発動のスキをくれてありがとう!

     原初の彼方まで吹き飛びな!『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!」
キバイラ 「回避、間に合わん! くっそがあああ!」
アニ   「ひええ、頑張って離れたのにすごい威力。3重に防御壁張ったのに、全部割れちゃった・・・、ほんとに、神鳴りって感じだ」
ビルデ  「おお。これは決まっただろう! どうだ! やったのか!?」
キバイラ 「やってへんわ、もう、萎えたわ。うちはこういう真っ当な戦いしに来たわけちゃうねん」
オティス 「よく真っ当なんて言えたな?お前だけが有利なリングだったろうが」
キバイラ 「そらそないでっしゃろ。しんどいのが好きなんいうマゾになんなってられへんわ」
オティス 「けどまあ、武器は私のほうが上だったみたいだね。自慢の黒切(くろきり)、折れちゃって欠片もないぜ」
キバイラ 「ま、どうせ拾い物(もん)やしな。愛着も何(なん)もあらへんしええんやけど。しかたあらへんし、ちゃう武器使うか」
レオン  「なんだ、徳利? 酒か?」
ビルデ  「まさか、件の兵器というやつか! それともファトの家に使われたあれか? なんにせよ逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
キバイラ 「さあ、ぶちまけよかなぁ! 巻き上がれ、煙」
アニ   「うわああ! ・・・あれ? これ、ただの煙幕だ!?」
キバイラ 「アニちゃん、やっけ。こん借りはいつか返(かや)す。ひとまずは痛み分けやね、うちはここら辺でさいならや!」
オティス 「また逃げた!? 待て、あっくそ毒が結構・・・、気が抜けた途端、に」
アニ   「お姉ちゃん!そんな、すごい傷だ。それにこれ、毒がかなり回っちゃってる!」
レオン  「どう、する? 俺やあいつはまだ軽微だったからいいが、これは」
アニ   「わかんない、早く治療しないと! けど、薬草での解毒じゃ全部は抜けないし、呪いも取れない!」
レオン  「けどないよりはましだ! すぐそこにある、取ってくる」
ビルデ  「おいおい、まずいぞ! かなり戦闘で動き回っていた、毒と呪いはもう相当身体を蝕んでるはずだ!」
レオン  「薬草、取ってきたぞ!」
アニ   「すりつぶして、傷にぬって、それから、それから! お願い! あたし、お姉ちゃんがいないとやだよ!」
ビルデ  「呼吸が、浅くなっているぞ」
アニ   「そんな、ダメ! ダメだよ! まだ聞きたいことも、教えてほしいこともいっぱいある!

     だから生きて!お願い! 女神様ァ!」
オティス 「・・・はは、神頼みで、毒は抜けないよ」
アニ   「お姉ちゃ、ん? え、なんで? あれ、あれれれ!? 傷が治っていってる!? この薬草そんなにすごいの!?」
オティス 「ちがう、よ。アニちゃんのちからだ。ほら、わからない?」
ビルデ  「むむ? おお! なんと、傷が治っているではないか! 毒による痛みもない!」
レオン  「棘が刺さってたところが、もう跡形もない。おい、まさかこれ」
アニ   「回復、魔法? あたしのこれが、そうなの?」
オティス 「おめでとう。これで、立派な魔法使い、に・・・」
アニ   「お姉ちゃん? おねえちゃん!? そんな、死なないで! お姉ちゃーん!!」
レオン  「それ、寝てるだけだと思うぜ。魔力を使いすぎて、意識保てなくなったんだろ」
アニ   「寝てる、のか。お姉ちゃんの寝顔、初めて見た気がするなあ」
ビルデ  「いやいや、こんなところで寝かせてどうする。家に連れて行かんか」
アニ   「よかった。ちゃんと、やれること、やれたかなあ」
レオン  「(・・・結局、何もできなかったな)」

 

 

 

アニ   「もう大丈夫? 寝てなくていい?」
オティス 「さすがに丸1日寝通したら回復したよ。そろそろ平気かな」
アニ   「そっか! それはよかった! じゃあ朝ごはん作ってくるね」
レオン  「おう。紅茶入ったけど、いるか?」
オティス 「紅茶か。正直なところ、ストレートで飲むのは好きじゃないんだよな」
レオン  「ああ。正直俺もそんなに好きじゃなかったんだけどな。マルグの紅茶は、砂糖とミルクが多くて甘かったな」
オティス 「ふぅん、で、どう? その紅茶、美味しい?」
レオン  「わかんねえ。ストレートでいいと思ってたけど・・・、物足りないんだ。なんか、足りない」
オティス 「なんだ。お前も紅茶好きだったんだろ。いや、好きだったのはマルグのほうか?」
レオン  「・・・今更、何だよ」
オティス 「食事ってさ、やっぱり誰と摂るかで結構変わると思うんだよ。君はやっぱり・・・っ?! え、なんで殴ったの?」
レオン  「あんたが、あんたがあいつを倒してさえいれば! なんで300年前、あいつを討ち漏らしたんだ!」
オティス 「ああ、うん。それは、そうだね。私の落ち度だ」
レオン  「そもそもあんたが魔龍を倒していたらこうはならなかったんじゃないのか? お前が救ってくれなければ誰が救うんだよ!」
オティス 「うん、それは」
レオン  「返してくれ、マルグは、この町の人は、お前に殺されたようなもんだろうが!」
オティス 「私は・・・、私は神じゃないぞ! 万能器じゃない! そんなこと、私が一番よくわかってる!」
レオン  「何がだよ。結局言い訳じゃ・・・、いった! 殴ったな!」
オティス 「ああ、結局お前もそっち側か。勇者なんて都合よく持ち上げておいて、思い通りの結末にならなかったらそれか!
     何も感じていないと思うか? 何も苦しんでいないと思うのか? そうなれたらどれだけ良かったか!
     私が、わたしが! 世界を救えたのならどれだけ良かったか! それでも何とかしたくてずっともがいて、足掻いてきたんだ」
レオン  「っ、その、すまない。ずっと、背負い込んでたのか」
オティス 「え? あー・・・、うん、レオンに言っても仕方ないことを言った。殴って御免、歯とか折れてないか?」
レオン  「えっと、2本ほど。じゃなくて、それを言うなら俺の方が」
アニ   「お姉ちゃん、調子は、って何してるの!? 喧嘩!?」
オティス 「んや、なんでもない。ああそうだ一つ忘れてた。レオン、紋章はどこにある?」
レオン  「紋章? それならここだ、左の二の腕。ここなら服で隠れることが多いから、偽だとバレにくいかなって」
オティス 「わかった、左の二の腕ね。フレイム」
レオン  「あっつあー!?!? なんで、おま、燃やし、うわああああああああ!?」
アニ   「お姉ちゃん! ちょ、ななな何してるの?」
オティス 「こんなもんか、消火消火。紋章、焼かせてもらったよ。アニちゃん治療してあげて」
レオン  「紋章を・・・、って、もっと他に消し方とかあっただろうが! なんで燃やした!」
オティス 「ないよ。普通は身体に刻むものだから周辺ごと壊さないと消せないから。馴染んでなかったから焼くだけで済んだんだぞ」
レオン  「いや、おま、それはないわ」
オティス 「噛みしめて生きていくんだね。その傷は、痛みは、不便さは、不相応な力を得ようとしたツケだ」
レオン  「お前・・・」
オティス 「本当は紋章を暴走させて左腕を麻痺させてやろうかと思ったけど、存外に良いパンチ撃つみたいだし? 情状酌量です」
アニ   「もう、お姉ちゃん! いくらなんでもやりすぎだよ! 言いたいことは何となくわかるけど、やり方ってものがあるじゃない!」
オティス 「言うだけならだれでも出来る。それに言葉だけじゃいずれ人は忘れちゃうんだからさ」
アニ   「わかったような言い方して! お姉ちゃんも、夜はちゃんと私と一緒に寝てって何回言ってもどっか行くじゃない!」
オティス 「あのね、町にいるときはともかく野営のときなんかは危険も多いんだから。見張りとか罠とか、色々必要なんだよ?」
アニ   「私もやるって言ってるじゃん!」
オティス 「まだ成長期なんだから寝ててほしいんだって」
アニ   「私はお姉ちゃんの仲間だよ! 今回も頑張ったもん!」
オティス 「今回は上手くいったけど、失敗してたらどうするの。大分危なっかしい策だったよ、もうちょっとちゃんと考えてやらないと」
アニ   「考えたもん! 頑張ったもん! アニ式挑発ミラージュだよ!」
オティス 「や、まあ今回は完全に助けられたからあんま強く言えなくけど。けどね、なるべく危ないことはしないでほしい」
アニ   「そうなったらお姉ちゃんばっかり負担になるでしょ! あたしは守ってもらいたくてお姉ちゃんと一緒にいるわけじゃない!」
レオン  「喧嘩もいいが、その、手当を手伝ってほしいんだが」
アニ   「ええ? あ、うん。わかった。火傷って回復魔法で治せるかな?」
オティス 「傷薬でいいと思うよ。まだ回復魔法慣れてないでしょ、多用すると危険だ」
アニ   「え、けど使わなきゃ慣れないよ?」
オティス 「それに、残ったほうがいい傷もあると思うけど。どうかなレオン君。ただれた肌を回復魔法で直してほしいかい?」
レオン  「そうか・・・、いらない。これは俺の愚かさと弱さの象徴ということだろう? なら背負って生きていくさ、マルグの分も」
アニ   「むむむ? これ、誘導尋問っていうんじゃない? あたし知ってる」

ビルデ  「何はともあれキバイラという驚異は去った。巣穴の入り口が開いていたから、無事に我らを縛る刻印も消すことができた」
レオン  「これで解決万々歳、ってか? よく言えたもんだ」
ビルデ  「何を言う、もはや私たちに脅威はないのだぞ。金や周辺の町との関係復帰といった問題は山積みだが、どうとでもなる」
レオン  「ああ、そうだな。もうここにキバイラはいない」
ビルデ  「そういうことだ、いいから手を動かせ。何のために無事な町人を集めたと思っている、彼奴の隠し財産があるはずだ」
レオン  「解放されるまでのその過程で、犠牲になった人たちがいる」
ビルデ  「仕方あるまい。生きるためだったのだからな」
レオン  「なぜ俺たちが窮地に立たされたのか忘れたか? お前が無茶な採掘計画を立てたせいで落盤事故が起きたせいだ」
ビルデ  「あんなもの予想できるわけないだろう、ちゃんと賠償金は出したぞ」
レオン  「金、ねえ・・・、生贄の選出が、ほとんどお前の好き嫌いだったことについては?」
ビルデ  「は? いったい何を、おいなんだお前たち。私を囲んでどうしたいんだ」
レオン  「嫌いな奴の子供を送り出すのは、さぞ痛快だったろう。マルグを出すのも、好都合だと思ってたよな」
ビルデ  「何を言う。そんなことはない! 私はあくまで公正に」
レオン  「じゃあお前の家にたんまりある財宝はなんだ? キバイラから与えられた宝石は各家で等分するきまりだったよな」
ビルデ  「そんなことか、町の金を町長である私が管理して何が悪い!」
レオン  「お前の家にはまだ原典がいるが・・・、こんな炭鉱の奥深くじゃ、届く声も届かない」
ビルデ  「な、おい、やめろ、何をする気だ!」
レオン  「自分以外のことは、どうでもよかったんだろ? どうなろうと知ったこっちゃなかっただろ?」
ビルデ  「やめろ! お前たちが生きているのも、私がキバイラを抑えていたからだぞ!」
レオン  「なら、俺たちもお前がどうなろうと知ったことじゃねえよ」
ビルデ  「やめろ、寄って集って貴様ら、群れねば何もできないくせにああああああああああ!」
レオン  「まったく、こんなやつのどこが勇者に相応しいんだってな。また、1から始めるしかないか。見ててくれな、マルグ」

 

 

 

キバイラ 「はーあ、えげつない目におした。まったく・・・そこにおるんはどなたはんどすか? うち今暇やあらへんねやけど」
ネリネ  「こんにちは、キバイラさん! ネリネなのだわ! お父さんから伝言預かってきたの」
キバイラ 「ネリネ・・・、ああ、そういうことかいな。で、ばんはーふがうちに何の用や」
ネリネ  「えっとね、兵器(プレゼント)が出来たのかどうか聞きたいらしいの! 近くにいるから、あるなら渡してって!」
キバイラ 「ああ、おかげさまで完成したで? せやかて交換条件は忘れてへんやろ」
ネリネ  「こうかん? ちょっと待ってね。メモメモ、あった! えーと・・・大丈夫よ! 心配いらないわキバイラさん!」
キバイラ 「うちん利き腕を探しだして渡す代わりん、聖遺物級兵器を作る。そないいう協定やったもんなあ」
ネリネ  「キバイラさんは、どんなものをつくったのかしら! ネリネ、とても気になるのだわ!」
キバイラ 「知りたいんか? かつて大蛇ん酔わせてから殺すためん作った酒─そん模造品や」
ネリネ  「大きな蛇を、酔わせる? よくわからないけど、すごいのだわ!」
キバイラ 「銘は・・・って、言うたってわからへんどすやろ」
ネリネ  「メモを渡してって言われたから、渡すわね! ここにあるらしいのだわ!」
キバイラ 「ふむ、こん町なんか・・・、もしもこれが嘘やったら、わかってはるやんなぁ?」
ネリネ  「大丈夫よ、お父さんはいつも正しいもの! キバイラさんも、お父さんにプレゼント、渡してあげて!」
キバイラ 「後で行くわ。ほな、案内して貰えまっしゃろか?」
ネリネ  「もちろんなのだわ! お父さんはこっちだよ!」
キバイラ 「(子供か、なんとも用意周到やな。
     しかし、聖遺物─過去から現存しはる曰くつきの品なん集めて、なんしはる気なんやろ
     ま、面白そやから付き合うけど。君臨勇者は、この世界をどないしたいんやろな)」