​CrossWing 外伝 -地獄の沙汰もお金は欲しい-  ♂×1 ♀×3 /嵩音ルイ

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所要時間:180分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

ディスペア  ♀ 15歳(外見年齢) 


    暗躍組織「臨終の鐘」の創設者にて、人ならざる存在。すべての人間を見下しており、かなり自堕落で天邪鬼体質。
    気に入ったものは愛でるが、飽きたり気に入らないものはあっさり見限る。他者を虐げて快楽を得る残忍さを持つ。

 

 

シグマ  ♂ 25歳
 

    暗躍組織「臨終の鐘」の幹部。苦手なものがほとんどないため、ディスペアに仕事を押し付けられがち。
    誰に対しても敬語を使うが、割と気さく。

 

 

イプシロン  ♀ 29歳
 

    同じく暗躍組織「臨終の鐘」の幹部。戦闘能力は高いが状況判断に乏しく頭の回転もあまりよくない。
    料理上手であるなど生活力が高いため、専らディスペアの世話役に近い役割。その気になればフルコースをつくれる。

 

 

カルラ  ♀ 21歳
 

    謎の令嬢、かくしてその正体はマストン男爵の妻。お淑やかで、物腰も柔らかい。
    抗争や地位争いとは無縁の生活をしてきたため、「臨終の鐘」がどのような組織かいまいち理解していない。

――――――――

役表

 

ディスペア (♀)・・・
シグマ   (♂)・・・
イプシロン (♀)・・・
カルラ   (♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

ディスペア「ねぇ、イプシロン。地獄の沙汰でも金次第ってどういう意味かは知ってるかな?」
イプシロン「良く耳にします。地獄に落とされるか否かの裁判においても、金さえあれば優位に立てる。と」
ディスペア「まあ本来の意味は全然違うらしいんだけどね。偽りも何百回重ねれば真実に近似される」
イプシロン「本来の意味、ですか。もしかして、正反対の意味になるのですか?」
ディスペア「結局のところ本質は変わらないし、単純明快だ。要はこの世界どこでだって、ものを言うのはお金だということさ」
シグマ  「ディスペア、起きてますよね。客です」
ディスペア「仕事?それ僕が出る必要はないよね?三度寝しま~す」
シグマ  「貴方が出るべき案件です。追い返そうにも意固地に留まり続ける始末なので相手してください」
ディスペア「ううん、じゃああと5分だけ・・・」
シグマ  「飯抜きにしますよ」
ディスペア「ああもう!わかったよ。んで、今何時?」
シグマ  「ちょうど昼の12時です」
ディスペア「御飯時だね。なんか軽いものでいいから用意しといて」
シグマ  「イプシロン。サンドイッチでもこさえてください」
イプシロン「はい。すぐに用意しますね」
シグマ  「人ならざる存在、悪魔であるにも関わらず食事と惰眠が必要なのは億劫ですね」
ディスペア「人の世界にいる以上、人の理に支配されるのは仕方な、ふわぁあぁあ(欠伸)…んで、相手誰なの」
シグマ  「それが、貴族夫人と名乗りはするのですが名前はおろか家の名すら教えてくれないのです」
イプシロン「ディスペア様以外に名乗りたくなかったのでしょうか」
シグマ  「一応、相手の気持ちもわからなくはありませんが。何せ私たち工作員は皆仮面をつけていますから」
イプシロン「素性のわからない相手が出てきて、不安になっちゃったんでしょうか」
シグマ  「とはいえ、大抵の組織では素性は隠すものだと思うですが・・・」
イプシロン「うーん、一応顔を合わせて話が出来るディスペア様とであれば、まだ安心できるのでしょうか」
シグマ  「かもしれませんね。それより、ディスペア。話中に寝ないでくださいよ」
ディスペア「えー、まぁ・・・、うん、善処、するよ」
イプシロン「でしたらコーヒー、ブラックで淹れましょうか?特別苦いのを」
ディスペア「あからさまだなぁ、嫌いなの知ってるでしょ」
シグマ  「客の前で居眠りなんて面子が立ちませんので。どうぞ、こちらの応対室にて待機していただいてます」
イプシロン「お待たせしました、ディスペア様をお連れしました」
カルラ  「…っ! あなたがディスペアさん、ですか?」
ディスペア「御機嫌よう素知らぬお方。暗殺奸計何でもござれ、暗躍組織『臨終の鐘』の総帥。絶望を冠するこの僕がディスペアだ」
カルラ  「は・・・はじめまして」
ディスペア「で、早速なんだけどどちら様かな?家の名前はいいとして、せめて名前くらいは教えてもらわないと」
カルラ  「そう、ですね。私はカルラと申します」
ディスペア「なるほど、カルラさんね。よろしく」
カルラ  「よろしくお願いします」
ディスペア「んで、早速なんだけど要件は何かな?殺し?それとも地位争いの幇助かな? はたまた…」
カルラ  「ええと、その、ですね・・・」
ディスペア「あー、いいのいいの遠慮しなくても。この組織ね、大公爵様がバックにいるんだ。工作隠蔽はお手の物」
シグマ  「それ言っちゃうんですね」
ディスペア「まあ場合に依るけど、どうせ誰にも漏れることはない。それで君は何をお望みなのかな?」
カルラ  「あ、あの・・・、お、お金を、お貸しくださいませんか?」
ディスペア「なるほど、お金かぁ。うん、いつでもどこでも先立つモノは必要だよね。ん、んん?お金!?」
カルラ  「私にはそういう伝手がなく、どこにも断られてしまっているのです。もう頼るところがなく・・・」
ディスペア「え、ちょちょちょっと待って?金貸し?え、なんで?」
カルラ  「このままでは私の家は断絶の憂き目に遭ってしまいます!どうにかするためにはもうどこからか借りるしかなく!!」
ディスペア「家の断絶。なにそれ」
イプシロン「ディスペア様、サンドイッチです」
ディスペア「ああうん食う。コーヒーはいつもの感じで」
イプシロン「すぐにご用意します」
カルラ  「そのために、お金を貸していただきたいのです!どうか、どうか!お願いします」
ディスペア「えーと・・・僕たちのことは知ってるんだよね?」
カルラ  「はい。『臨終の鐘』という組織は、報酬如何ではどんなことでもやると聞きました」
ディスペア「で?なんでもって、お金貸してると思ったの?」
カルラ  「これだけの規模の裏組織であれば、金銭を借りることも可能かと思ったんです!」
ディスペア「金融に手を出す気は無かったんだけどなぁ。んー・・・、あぁ、ちなみにいくら欲しいの?」
カルラ  「そうですね・・・、あの、700ポンド・・・、ほど」
シグマ  「700ですか。結構大金ですね」
ディスペア「家の断絶がどうって言ってたけど、なんかあったの?」
カルラ  「借金の返済です。事業の失敗が重なって膨らんでしまい、私たちではもう首が回らなくなり・・・」
ディスペア「他の貴族頼ればいいじゃん」
カルラ  「繋がりのある方々には声をかけました。が、断られました」
ディスペア「民から巻き上げれば?君達特権階級の得意分野でしょうに」
カルラ  「ただでさえ私たちの荘園はギリギリなんです。これ以上お金を払わせてしまっては、これから先が・・・」
ディスペア「ならカジノだ。絶対に勝てる仕組みを作って、儲ければいいじゃない?」
カルラ  「既に、散々負けた後なのです!」
ディスペア「ふーん?ふむふむ、そういうこと」
カルラ  「もう、頼れるものがないのです!だからこんなところまで来たのです、どうかお願いします!」
イプシロン「何故、その家にそこまでこだわられるのですか?」
カルラ  「何故、とはどういうことですか」
シグマ  「たしかにそうですね。男爵が負った借金であれば、離縁でもすればあなただけでもやり過ごすことは出来るでしょう」
カルラ  「見捨てる?離縁?何を馬鹿なことを言うのですか!あの人には、私しかいないんですから!」
ディスペア「ふーん、男爵を救えるのは君だけだと」
カルラ  「たしかにあの人はダメな人かもしれません。けどあの人が頼れるのは私だけ、私が見捨ててしまったらあの人は!」
ディスペア「あー、はーん?なるほど、そういう関係か。へーぇ」
シグマ  「おそらくですが共依存ですね、こうなってしまっては目を覚まさせるのは難しい (耳打ちする感じで)」
ディスペア「でしょうねー」
イプシロン「え?同位相、がなんですか?」
ディスペア「あぁ、いいのいいの、イプシロンはそういうの知らなくて」
カルラ  「ディスペアさん!どうか、どうかお願いします!」
ディスペア「んー、そうだなぁ・・・。ねぇシグマ、いまのうちの経営ってどうだっけ?」
シグマ  「去年よりも好調だと思いますが・・・、て、まさか、本当に?」
ディスペア「よしわかった!金を貸す件、考えてあげてもいいよ」
シグマ  「な、ディスペア様!?」
カルラ  「ほ、本当ですか!?」
ディスペア「けど僕たちも初めての事案だ。君たちのことを入念に調べてからになる。その上で結論を出すけど、それでもいい?」
カルラ  「はい!勿論です!ありがとうございます!」

 

シグマ  「自堕落なあなたが珍しくやる気ですね。どうしたんですか」
ディスペア「いやぁ、どれくらいの金利で貸してやろうかなって」
シグマ  「金利って・・・、考え方が雑ですね」
ディスペア「というより、ちょっと気になったからかな。彼女の家と借金の原因。シグマ、仕事の合間に探しといて」
シグマ  「あぁ、それならば、調べるまでもないでしょう。資料がここに」
イプシロン「さすがです、シグマ。仕事が早いですね」
シグマ  「これは別件で得た情報です。彼女はマストン男爵の妻ですね」
ディスペア「え?妻?娘じゃなくて?」
シグマ  「年齢は21ですから、相応でしょう」
ディスペア「21って。もっと子供かと思ってたよ。胸ぺったんこだったし、童顔だったし」
シグマ  「それを貴方が言いますか幼児体型悪魔」
ディスペア「いやいやあの子よりはあるぞ!?着痩せしてるだけだからね!?」
シグマ  「興味ないです」
ディスペア「知ってる。んで、彼女の家はなんで700ポンドの借金なんてこさえてんの。男爵のくせにさ」
シグマ  「最初は数ポンド程度の小さな赤字だったようです。それが膨らみ、返済のためにとギャンブルに手を出したようです」
イプシロン「ギャンブルですか、難しいですよね。それにしてもそんなに負けてしまうなんて、なにがあったんでしょうか」
シグマ  「当たり前でしょう。彼らが利用したのはクリストファー公爵運営のカジノですよ?勝てるわけがない」
ディスペア「え、あのカジノまだ運営してたの?

      ベイクウェルに入れない奴等を相手にするから面白いゲームでも考えろって言われて、適当に考えたゲームばっかだよ?」
シグマ  「むしろ盛況ですよ。毎年収益の一部を頂いてましたが」
ディスペア「え?どれどれ?うわっ!本当だ!書類に書いてある。知らんかった」
シグマ  「知らんかったって・・・、あー・・・。「負完全神経衰弱」とか「手の舞い足の踏む所を知らず」とか

      ここでしかやらないようなユニークなゲームが案外好評らしいです」
イプシロン「ディスペア様が考案したゲームですか?なんだか難しそうですが、面白そうですね」
シグマ  「ええ、大好評ですよ。どのゲームにも必勝法があるとも知らずに、大金を積んで一喜一憂してるそうですよ」
イプシロン「・・・さすがですね!」
シグマ  「ほんとに理解してますか?」
イプシロン「・・・、あんまり」
ディスペア「しっかしマストン男爵がここを、ねぇ。どのゲームやったんだろ」
シグマ  「たしか、「負完全神経衰弱」でしたかと」
ディスペア「まぁそこはどうでもいいんだけど」
シグマ  「じゃあ聞かないでくださいよ」
ディスペア「あのゲームなら負債が700になるのにも納得だ。

      むしろその程度で済んだのは誉だね、躍起になればなるほど負けが嵩むゲームなんだけど」
シグマ  「臆病な男爵だったのでしょう」
ディスペア「言ってやるなよ、戦場で生き残るのは臆病者と卑怯者だけと相場が決まってる」
シグマ  「それとカジノとは別で、マストン男爵は裏ルートに於いてドラッグの購入も見受けられます」
ディスペア「ふんっ、・・・なるほどね? 救いようのない程の落ちこぼれだ」
シグマ  「と、まぁこれが一連の流れですが、いかがなさるおつもりで?」
ディスペア「どうしようかなー。ねぇシグマ、僕の個人的な貯蓄っていくら溜まってたっけ」
シグマ  「ああ、遊ぶ用の貯蓄ですか?確か、なんだかんだ1000ほどはあったかと」
ディスペア「じゃあそこから700使おう」
シグマ  「いいのですか?道楽のためのお金を削ってまで貸すことはないでしょう」
ディスペア「道楽のためのお金を、道楽のために使って何が悪い?」
シグマ  「あっ・・・、まーた貴方はそういうことを・・・」
ディスペア「ふっふーん、彼女はどこまで本気なのかなぁ。いやぁ楽しみだ。あ、こりゃ楽しみだっと」
シグマ  「相変わらず悪趣味ですね」
ディスペア「彼女はいいオモチャになりそうだ。はてさて、何しようかなあ」

 

 


シグマ  「賭博場から収益の一部をいただいていたこと、あなたはしっかり把握していましたか?」
イプシロン「賭博場についてですか?はい、私は存じ上げておりましたが」
シグマ  「まあ、そうですよね。普通は収入源の一つを丸ごと忘れたりはしないですよね?」
イプシロン「でも、そこで扱っているゲームの内容は存じ上げてないです」
シグマ  「気になりますか?貴女はギャンブルをやりたがるような性質だとは思っていませんでしたが」
イプシロン「私は強くありませんから。それに、遊戯というものはつくった本人の性格が顕著に出ますから」
シグマ  「そうですね・・・『手の舞い足の踏む所を知らず』は、単純に言えばポーカーです」
イプシロン「ポーカー、カードを5枚もらって、役が強いほうが勝ちになるあれですね」
シグマ  「強弱が入れ替わることがあるのが、このゲームの厄介なところです」
イプシロン「・・・というと?」
シグマ  「ベットが終わった後にサイコロを振り、奇数なら弱い順、偶数なら強い順になります」
イプシロン「えっ、それってつまり、強い役が出来ていてもサイコロが奇数なら」
シグマ  「ええ、ブタに敗けます。役が強くても勝てるわけではないというのがキモですね」
イプシロン「はぁ・・・、やはり、その、なんていうかディスペア様らしいゲームですね。

      勝ちを確信していた人を叩き落とすルールがあるところなど、特に」
シグマ  「でしょう?根幹に性格の悪さがにじみ出ています」
イプシロン「たしかにこのような内容では、ベイクウェイではやれませんね」
シグマ  「そりゃ、こんなあからさまなゲームをベイクウェイではとても行えませんよ。仮にも公式の賭博場なのですから」
イプシロン「けど、スタンダードなゲームでは勝てない人もいるわけですよね」
シグマ  「だからこそ、クリストファー公爵は私的にカジノをつくったのでしょう。こちらの方が向いている人もいるでしょうし」
イプシロン「変わったゲームをやってお金を賭けあうのは、やはり楽しいんでしょうか」
シグマ  「楽しいと思う者がいるからこそ、賭場というのはやっていけるのですよ」
イプシロン「私はよくわかりませんが・・・さぞ、公爵様は儲かっているんでしょうね」
シグマ  「賭けというのは総じて、胴元が勝つようにできていますから」
イプシロン「お金が好きなんですね。貴族院の上院議員ともなれば、生活には困らないと思うんですけど」
シグマ  「政治を円滑に回すにはお金が必要なものですよ」
イプシロン「たんまり稼いだ賄賂で、首相に近しいところまで上り詰めたわけですよね」
シグマ  「包み隠さず言えばそうなりますかね」
イプシロン「はあ・・・そのせいで、私たちのお仕事が増えているんですよね」
シグマ  「金払いはいいですからね。まあ、それだけですが」
イプシロン「たしかにお金は必要なのはわかりますよ、パンひとつにしたって年々高くなってますから」
シグマ  「大喰らいのディスペア様は他より余計に金がかかりますから」
イプシロン「はい。エンゲル係数がぐんぐん増えているわけです」
シグマ  「何もディスペア様に限った話ではないですが。貴族たちと平民の貧富差はどんどん広がっている」
イプシロン「そうですよね。ですから、ディスペア様はもっと別のところにいってもいいと思うんです」
シグマ  「それは少しばかり賛同です。他の貴族相手でも金になる仕事はたくさん出来るでしょう」
イプシロン「ディスペア様にしては、よく何年も公爵の傘下になっていて飽きないなとは」
シグマ  「い、イプシロンにしてはなかなかに直球な物言いですね」
イプシロン「あ、そ、そんなことは!

      こうは言いましたが、私はディスペア様こそがすべてであって、決してあの人の生活態度に不満があるわけではなくてですね」
シグマ  「公爵に対して、という意味だったのですが」
イプシロン「え?あ・・・もう、意地悪ですね」
シグマ  「まさに「手の舞い足の踏む所を知らず」でしたよ」
イプシロン「有頂天にはなっていませんが・・・?」
シグマ  「もう一つの意味の方です。というか、知ってたんですねこの言葉」
イプシロン「馬鹿にしましたね!私だって勉強しているんですから!」
シグマ  「じゃあ百年戦争において、赤薔薇は何の勢力の象徴でしたか?」
イプシロン「え!?あ、えっと、薔薇?あわ、あわわわわわ」
シグマ  「大慌てじゃないですか・・・あ、だからディスペア様はこのゲームにこのような名をつけたんですね」
イプシロン「むむ、悪口ですか?おこりますよ?」
シグマ  「貴女宛ではありません。サイコロひとつで有頂天にもなり、大慌てもする。結構ピッタリな名だなと」
イプシロン「なるほど・・・やはり、ディスペア様がやったら強いんでしょうか?そのゲーム」
シグマ  「一度おやつのグレードを決めるために遊びでやったことがありますが」
イプシロン「賭けの対象がおやつ、ですか。で?どうなりました?」
シグマ  「巨大なパフェを用意する羽目になりましたよ」
イプシロン「シグマもそこそこ賭け事は強かったですよね?でもやっぱりディスペア様には勝てないんですね」
シグマ  「あの人の場合は賭けが上手いというより・・・少しやってみますか?どのゲームでも構いませんが」
イプシロン「え、ええ!?で、で、でも、こういうのはあまり得意ではなくてですね。あの、その」
シグマ  「いつか、必要になるかもしれませんよ」
イプシロン「本当ですか?それ」
シグマ  「真実如何はおいといて、少し遊びでやるだけです」
イプシロン「では、少しだけ。せっかくの機会です。覚えておくのもいいですね」
シグマ  「普通にやってもつまらないですね、何か簡単な罰ゲームでも設けましょうか。負けた人は・・・」

ディスペア「ねえシグマ、これ質問してもいいんだよね?」
シグマ  「いいですよ」
ディスペア「なーんでイプシロンの仮面がゴブリンみたいなのになってんの?」
イプシロン「私のふがいなさ故です・・・ぐすん」
シグマ  「ほんのお遊びです。今日一日それで過ごしてもらうことになっていますから」
ディスペア「わけがわからないんだけど?」
イプシロン「これをつけているシグマ、見たかったです」
シグマ  「ははは、死んでも嫌です。強そうですよイプシロン。試しに威嚇して見てはどうです?」
ディスペア「堕落を享受するためには仕事をしなくてはいけない。これ、ジレンマだよね」
イプシロン「そんなことを仰らずに。カルラ様がいらしております」
ディスペア「うーん、そうみたいだね。いい返事を聞かせてあげなくちゃ」
カルラ  「こんにちは、ディスペアさん。此度の件は、どのように?」
ディスペア「例の金貸しの件、受けてあげてもいいよ」
カルラ  「ほ、本当ですか!?」
ディスペア「うん本当。700だっけ、僕から出してあげよう」
カルラ  「あ、ありがとうございます!」
ディスペア「・・・君はさ、夫を愛してるかい?」
カルラ  「当たり前です!だからこそ、私はここに来たんです」
ディスペア「離縁したら家の地位が危ぶまれるとか、男爵の地位で安寧を享受したいとか、そういうのじゃなくて?」
カルラ  「違います!あの人には私が必要なのです。だから私はここまで来ました」
ディスペア「あ、そ。でさ、お金を貸す代わりにちょっと付き合ってほしいことがあるんだけどさ」
カルラ  「何を、でしょうか」
ディスペア「シグマ、空調開けといて。あとランプとタオルと、それと汚してもいい服用意して」
シグマ  「かしこまりました。イプシロンも手伝ってください」
カルラ  「あ、あのぅ・・・。いったい何を」
ディスペア「まぁわかってると思うけど、流石にノーリスクで貸すのは割に合わない金額だよね、700ポンドってさ」
カルラ  「それはわかっています。ですから」
ディスペア「だから一件だけ僕の手伝いをしてほしいんだ」
カルラ  「手伝い、ですか?」
イプシロン「ディスペア様、契約書は書いておかれなくていいのですか?用意してありますが」
ディスペア「ああ忘れてた!じゃあこれにサインと捺印お願いね」
カルラ  「700ポンドの貸与の契約書ですね、今書きます・・・文章におかしなところはないから、大丈夫よね」
イプシロン「服をお持ちしました。それと、空調というと、地下室でよろしかったですよね?」
ディスペア「そうそう。じゃあカルラさん、書けたらこれに着替えて。ちょっとくたびれてるけど勘弁してよね」
カルラ  「え?わざわざ着替えさせて、何をするんですか」
イプシロン「こちらへどうぞ。着替えを手伝いましょう」
カルラ  「わ、わかりました。もう、こうなったら多少のことは覚悟しています」
ディスペア「ああそうそう、後で金銭関係とか身の回り関係の書類まとめといて。いろいろあると思うから」
イプシロン「他の幹部にやらせておきます」

カルラ  「地下室、ですか。真っ暗でなんだか、恐ろしいです」
ディスペア「さて、700ポンドもの大金を貸すというわけだけど、そんなうまい話はこの世に存在しませんってやつだ」
カルラ  「でしょうね。ここで働いて、稼げということですか」
ディスペア「いいや、君は何もしなくていい。そこの椅子に腰掛けるだけ」
カルラ  「椅子? 腰掛けるだけって・・・。えっ・・・こ、この椅子!拘束具が付いてませんか?」
ディスペア「座って」
カルラ  「いったい何をなさるおつもりで」
ディスペア「座りなよ」
カルラ  「こんな地下室で、私を」
ディスペア「座れって」
カルラ  「説明してください!」
ディスペア「お金、いらないの?」
カルラ  「・・・っ!!う、うう・・・わかりました、わかりましたから!」
ディスペア「さて、ベルトを締めていくよ。言っておくけどこれは君のための処置だ」
カルラ  「何をなさるかは、教えていただけないのですか?」
ディスペア「ちゃんと言うってば。君はアレか、使われてる食材がわからなきゃ飯も食えない人間なのか?」
カルラ  「それとこれとは話が全く違います!」
ディスペア「よし。固定完了。ところで、君の利き手ってどっちだっけ?」
カルラ  「え?み・・・、・・・左、ですが」
ディスペア「そうか、じゃあ左だね。じゃあこっちはしっかり固定して、と」
カルラ  「あの、何を・・・」
ディスペア「あ、ちゃんと灯りつけてなかったね。仄暗いや。待ってね今ランプ灯すから」
カルラ  「暗さは別に・・・・・・あ、あああ。あああ!?」
ディスペア「なんだ、見えてなかったのか。そりゃああんな世迷言も言いたくなるよ。ごめんね?」
カルラ  「これは、まさか拷問器具!?何を、や・・・、まさか!まさか!!」
ディスペア「そうそう、君がサインした書類にはね、トイチで貸すことをこっそり書いてある」
カルラ  「えっ、そんな記述はどこにもなかったですよ!」
ディスペア「炙り出しって知ってる?あの書類、火にかざすと文が追加される仕組みなんだ。

      書き足したわけじゃないから文句は言わないでね」
カルラ  「そ、そんな・・・卑怯です!」
ディスペア「けど僕も鬼じゃあない。返すべきお金を減らしてあげてもいいと思ってる」
カルラ  「言っている意味が判りません!」
ディスペア「君のこれから次第じゃ、返すお金を250ポンドほど減らしてあげよう。それならまだ返せそうでしょ?」
カルラ  「が・・・、元金から減らして戴けると・・・?・・・っ、何を、何をすればいいんですか?」
ディスペア「いいや。君は何もしなくていいんだ」
カルラ  「え?それはどういう・・・」
ディスペア「だって、何かするのは僕だから。君はただ、受け入れるだけでいい」
カルラ  「ひっ!!それは・・・待っ、なんでペンチを手に持っているんですか?いや!!ま、待ってください!!」
ディスペア「やっぱり返済を待つとなれば担保を貰うのが妥当なんだろうけど、君の家って大したものがなかったからさ。

      どうしたもんかと考えてたんだよ」
カルラ  「いや・・・、いや!やめて、こ、来ないでください!!」
ディスペア「だったら、担保は君で楽しもうと思って。可愛いしいい性格してるし、ちょうどいいかなって」
カルラ  「いや、来ないで!来ないでください!」
ディスペア「大丈夫、命までは取らないよ。けど、わざわざ拘束した意味くらいは理解できた?」
カルラ  「いや! いやぁ!!」
ディスペア「器具はいくつもあるけど・・・これから、君の左手の指を5本捥ぐ」
カルラ  「ひっ!?そ、そんな!」
ディスペア「完遂を以ってして、契約成立としよう。君の恐怖と苦痛の味を担保ってことにするね」
カルラ  「やめて、やめてぇえぇえ!いや、いやぁ!離して!」
ディスペア「どうしてここまですると思う?僕ね、君の生き方が気に入らない」
カルラ  「生き方?なにを、あなたに・・・、一体私の何がわかるんですか!」
ディスペア「綺麗なことして生きてきました、闇なんて知りません、汚いことなんてしてません。君さ、そういう目をしてる」
カルラ  「当たり前です!私は汚れてなどいません!」
ディスペア「ギャンブルとドラッグに狂う夫を止めもせず、ただ愛していると寄り添っているだけなのに?」
カルラ  「そんなことは・・・だって、私が見捨ててしまったら、誰があの人を見てあげられるんですか!?」
ディスペア「それ、君の真なる愚かさは。今まで逃げ続けてきておいて、こんなところに来てしまうことの意味もわかっていない」
カルラ  「だって、だって!誰もあの人のために動いてくれなかったもの!」
ディスペア「だから思い知らせてあげようカルラちゃん。別に無知は罪じゃないけど「知らんふり」は別物だ」
カルラ  「お願いします!いや、いやぁ!やめてください!」
ディスペア「さて、まずは後腐れなく小指からだ。人間はいつだって、失うことでしか価値を知ることが出来ないんだから」
カルラ  「やめて!やめて!こんな、こんなの嫌!や、いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ディスペア「引き留めることもせず、汚泥とともに仮初めの幸せを握りしめ続けていた。そんな手なら、もういらないよね」

 

 


シグマ  「そういえば、イプシロンはディスペア様の今までの行いで記憶に残っていることはありますか?」

イプシロン「いくつかは。それで失望したりはしませんが」
シグマ  「たとえば、どのような?」
イプシロン「シグマが知らないようなものは・・・美食家を謳う貴族に、妻で作った料理を出して批評させたことですかね」
シグマ  「ああ、聞いたことがあります。暗殺の成功報酬を渋ったから、脅迫として作ったと」
イプシロン「ふふふふ、みるみる青ざめて最後には吐瀉物に塗れながらお金を抱えてきた姿が忘れられないです」
シグマ  「フルコースを出して、後の方に出したハンバーグに指輪を仕込んだんでしたっけ?」
イプシロン「ええ。自ら気付かなければ意味がないから、と」
シグマ  「多少皮肉がこもってると言いますか、ディスペアは何かしら意味を持たせたがりますよね」
イプシロン「人は真実に弱いですから。ディスペア様はそこを切開したいのかもしれません」
シグマ  「切開と言えば、不貞で妊娠した令嬢のお腹を裂いて中に宝石を押し込んだこともありました」
イプシロン「あれはわかりやすいですね、子供は宝だといいますから」
シグマ  「さて、あの人は今地下室で何をしているのでしょうか」
イプシロン「まさか殺したりはしないと思いますが・・・お金を貸すという行為は初めてですからね」
シグマ  「もしくは買い物感覚かもしれませんよ。耳を削いでいたりとか」
イプシロン「どうでしょうか?見て見ぬふりをしてきたから目をくり抜く、とかありえませんか」
シグマ  「あり得ますね、それ。もしくは夫とおなじように、ギャンブルでもさせているかもしれません」
イプシロン「何をするかわからないのもまた、恐ろしくもありますね・・・ああ、いけない」
シグマ  「おや、どうしましたか」
イプシロン「夕食に使う魚を捌くのを忘れていました。はらわたをとらないと・・・はい、さくっと」

 

カルラ  「あああああああああ!あ、うあ、いぎいいいいい!」
ディスペア「よい、しょっ!はあ、やっと貫通した。やっぱり骨って硬いなあ」
カルラ  「ぐ、ぎぃっ!が、ぁあぁあっ・・・う、っつううう!」
ディスペア「親指って案外しぶといもんだな。もっと道具選べばよかった」
カルラ  「う、ううっ。ぐ、いたい、いだいいいあ・・・・・・あああ!!!」
ディスペア「ナイフにペンチに鋸にハサミに焼鏝に・・・これで5通りか。結局ナイフ至上主義に落ち着くよなぁ。楽だもん」
カルラ  「私、私の指ぃ・・・あああ、やだ、いだい、いだいよぅ・・・」
ディスペア「あーあ、ふはは、髪もメイクもめちゃくちゃだねぇ。せっかくの美貌が台無しだ」
カルラ  「うう、ぐううう・・・はぁ、はあ、はぁっ!ううう!」
ディスペア「やだなあ、睨まないでよ。もっといじめたくなるじゃん」
カルラ  「ひっ! や、あ・・・!」
ディスペア「そうだね、拘束は解いてあげなきゃ。落ち着いたら上がってきてね、ちゃんと支払いはするからさ」
カルラ  「ぐ、っつう・・・わ、わかりました。むかい、ます」
イプシロン「ディスペア様。カルラ様の応急処置をしておきます」
ディスペア「ああうん、じゃあよろしく」
イプシロン「落ち着いてください、少ししみますよ」
カルラ  「え?あ・・・いいいいいいいっ!? あがぁああぁああ!!」
イプシロン「我慢なさってください。放置すれば感染症にもなりかねません。それと止血もですね」
カルラ  「やあっ!いたい、やめ、やだあっ!もう!やめて、よう、っつうう!」
ディスペア「ははは、イプシロンもイプシロンで、わりと鬼畜だよなあ。そういうの、だーいすき」

 

イプシロン「止血は、だいたいこんな感じでしょうか。あとは傷口をしっかり覆って、と」
カルラ  「っぐ、い・・・いたい、のですけど」
イプシロン「五指を失った以上は、当然の痛みです。あなたはしばらくこの痛みと向き合うんですよ」
カルラ  「他人事だと、思って・・・ぐ!」
イプシロン「ディスペア様的には、今のあなたの姿こそが担保替わりなのでしょうね」
カルラ  「たしかに、私の家にはめぼしいものはありませんが、あんまりです」
イプシロン「カルラ様、人には2つある腎臓ですが、裏世界では1ついくらで取引されるか知っていますか?」
カルラ  「内臓を、うる?ええと、50、くらい?」
イプシロン「150ポンドです。他の取り返しのつかない内臓などはもっと高く売れますが」
カルラ  「は・・・ひゃく!?そん、なに高いの?」
イプシロン「よかったですね、指だけで済んで」
カルラ  「だとしても、けど、こんなのおかしいじゃない」
イプシロン「けれどあなたはこれで現状を乗り切るお金を手にしたのです。返済する元金を減らしてもらった上で」
カルラ  「その手を奪われておいて、何も思うなと?悪趣味にもほどがあります!」
イプシロン「二度目になりますが、生命に関わるものでないだけましですよ」
カルラ  「だから、それとこれとは・・・っ!?い、たっ」
イプシロン「あまり声を荒げては傷に障りますよ」
カルラ  「だれの、せいだと!あなたの頭目の悪趣味に付き合わされるなんて」
イプシロン「お言葉ですが、ここを選んだのは貴女です」
カルラ  「そう、ですが!ですけど、だからといって何でもしていいことにはならないでしょう!」
イプシロン「それと、声は控えめに。もし機嫌を損ねてしまっては、貴女の頑張りも無駄になりかねません」
カルラ  「っ!?け、ど・・・おかしいとしか思えない。人をこんな風に痛めつけて、楽しむだなんて」
イプシロン「はあ・・・私も人のことを言えたものではありませんが、ここに来るべき人ではなかったのでしょう」
カルラ  「だって、わたしは、もう頼れるものがなくて」
イプシロン「その痛みは、きっとあなたへの戒めです。どうかこれからは、カルラ様が道を間違えることが無いことを祈っています」

シグマ  「書類一式です。今サインが必要なのは、これと、これですか」
イプシロン「手配ありがとうございます。ではカルラ様、よろしくおねがいします」
カルラ  「どれに、サインが必要ですか」
イプシロン「こちらと、あとこちらです」
カルラ  「元金は、ちゃんと減らしてくれるの?」
イプシロン「ええ、250ポンドを即日返済したことにして処理します。これにサインを」
カルラ  「はあ、はあ・・・いっ、これでいいですか」
イプシロン「はい、調印頂きました。これで一部の返済が為されたことになります」
カルラ  「は、はい。ありがとう、ございます」
ディスペア「もう日も暮れてきたから、外は危ないでしょ。送らせるから、馬車使ってよ」
カルラ  「いいえ。しかし、その」
ディスペア「勿論民間用に偽装するよ?心配しなくても、ここであなたを殺してしまえば僕たちの沽券に関わる。ご心配なく」
カルラ  「わか、わかりました」
イプシロン「痛み止めはいりますか?ほかにも」
カルラ  「いいです。もう、いたくない・・・」
ディスペア「痛くない、だなんて。流石にやりすぎたかな?」
シグマ  「居たくない、でしょう。普通に考えて」
ディスペア「あ、シグマ。彼女送ってあげてね」
シグマ  「無論です。まだやることがあったのですが、後回しにします」
ディスペア「何任せてたっけ?」
シグマ  「この件について書類をまとめておけと言ったのアンタでしょうが」
ディスペア「ならそれファイに回しといていいよ。あいつの方がいいでしょ」
シグマ  「わかりました」

カルラ  「うう、些細なことが、痛みになるなんて」
シグマ  「700ポンドは些細ではないでしょう? あぁ、馬車の振動がお体に障るでしょうが、今は我慢なさってください」
カルラ  「い、いいえ。そんなことは・・・ぅぎゃ!?」
シグマ  「すみません、小石があったようで」
カルラ  「わ、わざとではないですよね!?」
シグマ  「私はディスペアほど、壊れている積もりはありません。正直、今すぐ適切な処置を施してあげたいところなのですが」
カルラ  「っ・・・申し訳ありません」
シグマ  「謝るのはこちらでしょう。ディスペアはいつも勝手なことばかりするもので」
カルラ  「このようなことは、他の人にも?」
シグマ  「ええ。むしろ人をいたぶるのが趣味の狂者ですので、しょっちゅう」
カルラ  「私は、場所を間違えたのでしょうか」
シグマ  「さぁ。私には判りかねます。ですが、いたぶった相手にお金を渡した例は初めてですね」
カルラ  「他の方は、そうではないと?」
シグマ  「ええ」
カルラ  「それなら、私はまだ幸運だったのですね」
シグマ  「楽観視が過ぎるのではありませんか?

      一時をやり過ごせど、あのディスペアから借金をしているという事実は変わらないのですよ」
カルラ  「その・・・そう、ですね」
シグマ  「とはいえ、あれでも容赦している方です。気まぐれかもしれませんが、こちらが少し仰天してるくらいです」
カルラ  「私は・・・ごめんなさい。何と言えばいいか」
シグマ  「整理はゆっくりとつけてください。

      ああそれと、貴方の手は馬車での事故、そのお金は隠していた宝石を売買して得た、ということにして処理します。

      お忘れなきよう」
カルラ  「送ってくださりありがとうございます・・・。あ、あの!降りた瞬間に後ろからドン、とかないですよね」
シグマ  「大丈夫ですよ。ディスペアも言っていたでしょう、貴女に手は出さないと」
カルラ  「です、ね。手を・・・、潰されましたが、なんとかお金は手に入ったんですから」
シグマ  「それさえあれば、何とかできるのですか?」
カルラ  「はい。このお金さえあれば、救うことができる。ダメでどうしようもないあの人だけど、そのためなら片手くらいは」
シグマ  「また借金を重ねてしまっては意味がないですよ」
カルラ  「はい。私が間違っていました。このお金で家を立て直したら、もう二度と薬も賭けもさせないようにします」
シグマ  「それがいいでしょう」
カルラ  「この片手は、目を背け続けた罰ですね。この手はもうあの人に触れることは出来ませんが、寄り添い導くことは出来る」
シグマ  「到着しました。足元にお気を付けください」
カルラ  「そう、そのことがわかったんだから、片手、くら・・・、・・・、え?」
シグマ  「どうされましたか?何やら札が張られていますね」
カルラ  「これは・・・財産差し押さえ?所有権はクリストファー公爵に?え、なんで?」
シグマ  「一歩、遅かったようですね。貴女の大切なものは、もうなくなってしまったようです」
カルラ  「なんで?借金の返済期間はまだ先のはずなのに!」
シグマ  「付かぬ事をお伺いしますが、今日、マストン男爵はどちらに?こちらにはおられないようですね」
カルラ  「もしかして、賭場に?私が、止めなかったから・・・?あああ、そんな、そんな!」
シグマ  「返せる見込みが無くなった時点で期間も何もあったものではない。果たして、負債をどれだけ膨らませたのでしょうね」
カルラ  「なんで、お金を用意したのに・・・そんな、はずが」
シグマ  「それでは、さようなら。もう二度と会うことはないでしょう」
カルラ  「そんな、あなた・・・そんな!いやああああ!うわああああああああああ!!」

ディスペア「利き手じゃなくてラッキー!なーんて、僕が気付いてないとでも思ってんのかね?だとすれば彼女は相当な頓珍漢だ」
イプシロン「やはり気付いておられたのですか?」
ディスペア「当然。商談上とはいえ一緒にお茶して、おやつ食べて、何なら目の前で書類に名前を書かせた。普通気がつくよ」
イプシロン「では、知った上で左手を奪ったのですか?」
ディスペア「うーん、強いて言うなら・・・絶望や希望って、つまるところ落差なんだよ」
イプシロン「はぁ、たしか以前も似たようなことを仰られていましたね」
ディスペア「彼女はわりと"落ちてる"状態だ。

      利き手の指を全部奪えばそりゃあもっと絶望だけど、後でお金が手に入ると考えるとあんまり美味しくない。

      何より痛みそのものはあんま変わんないしね」
イプシロン「なるほ、ど?たしかに後のことを考えると、変わりませんね」
ディスペア「すごく痛い思いをしたけど利き手が残った。おまけに現状を乗り切るお金も手に入った。

      落ちてた状態から、むしろ彼女は少しだけ高いところにいる状態だ」
イプシロン「ディスペア様らしからぬ、いい行いにも見えますが」
ディスペア「わかってないなぁイプシロン。高揚して希望が見えた先から突き落とすのが面白いんじゃないか」
イプシロン「つ、突き落とす、ですか?」
ディスペア「お金はたしかに払った。けど今日『マストン男爵は死ぬ』んだ。借金のカタに『公爵に財産を全て没収された』上でね」
イプシロン「っ、まさか」
ディスペア「そう。公爵主催のギャンブルだよ。

      彼は彼女が指を失っている間に公爵の道楽に付き合わされて・・・、ふははっ、多分借金が10倍以上にはなってるでしょ」
イプシロン「そう上手くいくのですか?」
ディスペア「いくさ。なにせ行われているゲームは一番不正がしやすい「手の舞い足の踏むところを知らず」だし

      ディーラーはウチから派遣したミューちゃんだ。勝てるわけがない」
イプシロン「ミュー・・・たしかに、たしかにイカサマディーラーをやらせれば彼女ほど有能な者はいませんね」
ディスペア「でしょう?あとは後腐れなく土地も財産も全部借金のカタに差し押さえて、男爵自体も換金してこの件はおしまいだ」
イプシロン「マストン男爵を救いたいという、彼女の願いは無視ということですね」
ディスペア「だって、依頼は男爵を救うことじゃないもの。公爵からはちゃんと前金付きで依頼が来てる。

      報酬としてマストン男爵の財産の幾らかを回してもらえるから、ちょっと赤字になるとはいえ大損じゃあないし?」
イプシロン「なるほど、先だってシグマが調査できていたのはそういうことだったのですか」
ディスペア「守りたい家も愛する者も無くなった、全てを失った状況で手元にある意味のない大金!ははははは!

      果たして彼女は何のために片手を潰したんだろうね!」
イプシロン「まったく、あなたはいつも楽しそうですね」
ディスペア「まあ、結局そのお金も大部分は返済に消えるんだろうね。それでもある程度生きていけるお金は残るだろうから万事解決」
イプシロン「彼女はどうするでしょうか」
ディスペア「まあ普通は逃げおおせて、そのお金で事の顛末を探るんじゃない?」
イプシロン「彼女がナイフを手に取るかもしれませんね。マストン男爵を救わなかったあなたを恨んで」
ディスペア「そうだねえ。金を憎む、それ以上に僕を恨む。そうなったら大歓迎。

      優しく絆して柔らかく解して、冒し尽くしたあとは僕好みのオモチャに書き換えてやるさ」
イプシロン「随分とお金と手間をかけるのですね、ディスペア様はもっと、即物的だと思っていました」
ディスペア「いいや?そこまで出来たのなら700ポンドなんて安いものだよ。

      いい買い物だったな、と20年眠らせてるワイン片手にスコーンでも齧って現に浸るさ」
イプシロン「容赦がないのですね」
ディスペア「持たぬ者で遊べるのは持つ者の特権だよ。男と女もそう、金持ちと金無しもそう、賢者と愚者だってそうさ」
イプシロン「なるほど、言われてみればそうかもしれません」
ディスペア「まぁ、持つ者から奪うのは持たぬ者の特権、ともできるけどね」
イプシロン「勉強になります・・・。あ、シグマが帰還しましたようですね」
シグマ  「ただいま戻りました・・・、と。公爵から伝言を預かってきました」
ディスペア「オッケー、次のお仕事だよ。イプシロン、お互い背中には気をつけよう」
シグマ  「なんの話ですか?」
イプシロン「相変わらずディスペア様はディスペア様だ、という話です」