​CrossWing 外伝 -黄昏時に響く鐘-  ♂×5 ♀×5 /白鷹

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所要時間:180分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

ディスペア  (♀) 15歳(外見年齢)

    性別は女性だが、僕っ娘であると共に、かなり自分勝手で自堕落な悪魔。

    基本的に他の者を見下しており、人間や同種の悪魔やは利用価値がなければ邪魔者。

    小悪魔的要素と天邪鬼体質で他者を困らせる事もしばしばある。

    困らせた他者を見て楽しむなど、あまり性格は良くない上にすぐ飽きる。

    大変なおしゃべりで、人の話を中断してでも自分が喋っていたい為、セリフ数が多く長台詞も多い。

 

アラウン  (♂) 20歳(外見年齢)

 

    慇懃無礼でオーバーアクションな所があり、常に舞台俳優の様な喋り方をする悪魔。

    人界においては、街頭占術師として活動しており、未来視(さきみ)の能力で占いと称して人を陥れる。

    人の苦悶や憎悪をこよなく愛する。

    揉め事や血の匂いを嗅ぎつけると、臆さずにその場所へ立ち入り更に混濁させるなど

    大変悪魔らしい性分を持っているが、厄介。残念なイケメン。

 

 

シグマ(Σ)  (♂) 25歳

 

    ディスペアの立てた暗躍組織『臨終の鐘』の工作員の一人であり、幹部。

    シグマという名前は工作員としてのコードネームであり本名は別にある。

    組織の幹部である為の条件としていつも仮面を被っており、表情から何かを読み取る事は出来ない

    幹部である為にディスペアと悪魔的契約をしており、その能力が何であるかは謎

    常に敬語で話すが、割と気さくな性格らしい

 

 

イプシロン(Ε)  (♀) 29歳

 

    シグマと同じくディスペアの立てた暗躍組織『臨終の鐘』の工作員の一人であり、幹部。

    幹部条件の仮面を被るという条件は顔に火傷を負っている彼女にはとても好都合。

    臨終の鐘の戦闘要員として非常に俊敏で高い戦闘能力を持つが、頭の回転はあまり良くなく

    状況の判断力も鈍いため、常にディスペアに何をすればよいか問う癖がある。

    料理上手などの女子力が高い

 

 

シアン  (♂)  24歳

 

    利害の一致や入手できる情報を目的としディスペアの暗躍組織で働く男性。

    庶民を装っているが実はこの物語上国家の第一王位継承権を持つ王太子

    頭の回転が速く、情報を入手した端から様々な計画を立て始めるなど非常に機転が利く。

    この国の執政権を壟断するクリストファー公爵の身辺を調べている

    強引にディスペアからもぎ取った悪魔契約により、少々の超常能力を持っている。

 

 

エレクトラ  (♀)  22歳

 

    バーンズ男爵令嬢で、高圧的で高飛車な話し方をする。

    悪魔・アラウンにそそのかされて、保守派の上院貴族である伯爵を殺害するなど

    己の目的の為ならば相手の身分素性や手段は選ばない

    本人は気付いていないが、クリストファー公爵にとってのいい手駒になっている

 

 

ラムダ(Λ)  (♂) 31歳

    直接的な戦術は低いが計算力や洞察力が鋭く、機転の良さを利用して有利な戦術に持って行くのが得意

    毒物や暗器などの使い手で、対峙するとなると厄介な人間。

    実は死体愛好症で、街頭で転がっている死体に異常な性的興奮を覚えレイプするなど、

    人目を憚るような生き方をしてきている。相手が苦しむ事にも興奮する。ねっとりとした喋り方をする。

 

 

ファイ(Φ)(♀) 12歳

 

    善悪の境界線が自己視点のみで出来上がった少女。

    自分が気に入らないと感じれば敵とみなし殺す事も厭わない。

    そんな自分を怖ろしいと言った両親兄弟を惨殺し、逃亡中にディスペアと会い、

    彼女の残虐性を秘めた容貌に憧れ、ディスペアの所で働くようになる。

    精神は幼稚。喋り口調はロリ。

 

 

シータ(Θ)  (♀) 26歳

    豪傑で快活でパワフルな女戦士。頭もよく決断も早い姉御肌の女性。

    自分のメリットデメリットを良く弁え、主従関係にも忠実で統率力が群を抜いている。

    小規模な配下をを従えており、傭兵などの仕事を請け負う事が多い。

    組織幹部の中ではかなりまともで、組織の工作員から好まれている。

 

 

デルタ(Δ)  (♂) 28歳

    怪力で俊敏、戦闘に際しては申し分ないが、かなりのならず者。

    目先の欲に自制心が全くなく賭博や酒、女なども好む。過去に数々の犯罪を起こしている。

    頭の回転はあまり良くなく、ただ暴力的なだけで余り突出した能力はないが欲望に忠実な分、

    高い報奨金の仕事はきっちりこなすなどの執着心もありディスペアはそこを買っている。

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役表

 

ディスペア (♀)・・・
アラウン  (♂)・・・
シグマ   (♂)・・・
イプシロン (♀)・・・
シアン   (♂)・・・
エレクトラ (♀)・・・
ラムダ   (♂)・・・
ファイ   (♀)・・・
シータ   (♀)・・・
デルタ   (♂)・・・

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ディスペア 「んーー! あー!! 誰か甘いもん恵んでー?!」
シグマ   「ディスペア、前々から聞こうとは思っていたのですが」
ディスペア 「んー? シグマ、何?」
シグマ   「あんたね、そんだけ甘いもんに飢えてんですから自分で調達しに行けばいいでしょう」
ディスペア 「え、やだよ。面倒臭い」
シグマ   「んじゃ、まとめ買いしてストックして置くとか、何か方法がありますよね
       金が無い訳でもない。『臨終の鐘』は悪徳商法並みに暴利を貪りつくすんですから」
ディスペア 「わぁ~、酷い言い草だ。その暴利に預かってる身の上の癖して」
シグマ   「それが出来ないなら諦めるんですね」
ディスペア 「そっかぁ、シグマがこれから僕の為にディレーリ産ショコラバームクーヘンを買って来てくれるんだね。

       さすがさすが、僕の好みを熟知してる」
シグマ   「誰がそんな事言いましたかね? 虚構癖まで顔を出すとは、見掛けと違って
       お年寄りなんですから仕方ないとはいえ、付き合いきれません?」
ディスペア 「誰がボケ老人だ」
シグマ   「さて誰でしょうね。仕事しましょうか」
ディスペア 「やれやれ、嫌んなるよね。
       1に仕事2に仕事、3.4が無くて5に仕事。・・・、シグマさ、人生楽しい?」
シグマ   「お陰様で。休む暇もありませんよ。誰のせいでしょうねぇ?」
ディスペア 「ん? 誰のせいだろ」
シグマ   「あんたのせいだー!!」
ディスペア 「あー、ヤダヤダ。被害妄想激しくなっちゃって君そろそろ現役降りたら?」
シグマ   「引退してもいいんですか? そうなると必然的に組織の管理・営業・接客・依頼受付・判別・振り分けに加えて

       帳簿の管理まで全部あんたがやる事になりますよ?」
ディスペア 「わあ・・・、誰だ? こんな面倒臭い組織おっ建てたの」
シグマ   「私の覚えに間違いがなけりゃ、ディスペアという黒髪の見目麗しい婆さんです」
ディスペア 「はた迷惑なババァだね、全く」
シグマ   「激しく同意しますよ。本っ当にはた迷惑なババァですよね」
ディスペア 「んふふ~、シグマ。どんな風に死にたい? 今ならリクエスト受け付けるよ?」
シアン   「僕がディスペアを返り討ちにするという方法もあるな」
ディスペア 「おぉ、王子様の凱旋だ。仕事どうだった、シアン」
シアン   「滞り無く順調に解決して、依頼金の徴収も出来た。成功報酬の200ポンドだ」
ディスペア 「さすがの仕事っぷり。シアンは本当に仕事が出来るね」
シアン   「ところでディスペア、今回の仕事の件なのだが。下調べはきちんとしたんだろうな」
ディスペア 「当たり前だよね、情報の欠落なんて業務の遂行に支障をきたすだけじゃん」
シアン   「じゃあ、今回の人探しの概要を聞こうじゃないか」
ディスペア 「なんでそんなに怒ってんの」
シグマ   「概要ですね、確かローレンシア・M・マクレガー」
シアン   「ふむ、間違っていない」
シグマ   「13歳の少女でタウンハウスの近辺で行方不明になったという事でした」
シアン   「それも、問題ない」
ディスペア 「特徴は、色白で青い瞳、ほっそりと小柄で手足がすんなり伸びてて」
シアン   「尻尾が長い」
ディスペア 「そうそう、思い出した! 尻尾が長い大変な美少女・・・。・・・え、尻尾?」
シアン   「マクレガー家の家族、ではなく家族の様に可愛がられている猫だ」
シグマ   「猫、ですか? 私は娘だと聞いていたのですが」
シアン   「娘の様に可愛がっていた、だ」
シグマ   「それは、大変失礼しました。しかし見付かったのですか?」
シアン   「あぁ、見付かったさ。

       路地裏の木材置き場の近くで高齢の割にかなりハンサムな雄猫と3匹の子猫を設けて家族を作っていたよ」
シグマ   「見付けたんですか?!」
シアン   「まとめて持って帰ったら大変な喜びようで報酬に加え、ショコラの詰め合わせを貰った」
ディスペア 「いやったーーーい!! でかしたシアン!!」
シグマ   「お疲れ様でした」
シアン   「誰が君にやると言った。僕は怒っているんだ」
ディスペア 「イイじゃんか、チョコの1個や2個。けち臭い事言わないでさ。で、なんで怒ってんの?」
シアン   「前回の僕の依頼内容を覚えているか」
シグマ   「あー・・・」
ディスペア 「郊外に邸宅構えてる老夫妻からの依頼だよね。盗賊が出て物騒だから退治してくれって」
シアン   「そう。物騒な盗賊の正体はイタチで、畑を荒らされて困ってるという事だった」
ディスペア 「あー、あ、うん。確かそんな内容だったね。うん、あれは本当に悪かった」
シアン   「その前は贈答品用のサラブレッドの護衛だ」
ディスペア 「あれは、後で知ったんだって! サラブレッドが馬だってさ!」
シアン   「僕は動物の飼育要員ではないぞ」
ディスペア 「ごめんって、だからさ、ほらチョコレート!」
シアン   「君にはやらない。これは僕の功労賞だ」
シグマ   「二人ともいい年してチョコレートの取り合いをしないで下さい!」
イプシロン 「あ、シアンさんお帰りなさい」
シアン   「ただいま、イプシロン」
イプシロン 「丁度今から午後のお茶の時間にしようと思ってシフォンケーキを焼いたんです。

       はちみつとクリームがありますからゆっくり休んで下さい」
シアン   「ありがとう。イプシロンは良く気が付くな。貰う事しか考えていないディスペアとは大違いだ」
ディスペア 「なんだか今日、僕なじられっぱなしなんだけど何? みんなで口裏併せて苛めでも楽しんでんの? 趣味悪いよ」
イプシロン 「そんな事ありませんよ。みんなディスペア様が大好きなんです」
シグマ   「は?」
イプシロン 「ただちょっと、いい加減なディスペア様に不満が爆発する時期が重なってしまった、と言うだけですね」
ディスペア 「さーて、苛めが本格的になって来たぞ」
イプシロン 「そ、そんな積もりじゃ。すみませんディスペア様」
シアン   「いいぞ、もっとやれ。イプシロン」
シグマ   「これを機に不満を全部ぶつけてやればいいんです」
イプシロン 「私は不満なんてありません。ディスペア様に出会えた事だけでも感謝しているのに」
シアン   「出会えただけで感謝なんてそんな事滅多に言って貰えないぞ。ディスペア、大切にしてやれ。こき使うばかりじゃなくて」
ファイ   「ディスペアお姉様お客様だよ!」
シグマ   「仕事、ですね」
ファイ   「きれいなお姉さんと変なお兄さん」
シグマ   「ファイも一緒にお茶とシフォンケーキを食べて行くといい」
ファイ   「クリームたっぷりがいい!」
シアン   「ファイにはチョコレートをあげよう」
ディスペア 「何その苛め」
ファイ   「ありがとう! シアン大好き!」

アラウン  「みーなさま、こんにちは! いやこの私、この様な素晴らしい日に皆様とお会いできる運命に感謝いたします!」
シアン   「ディスペア、依頼表の一覧見せてくれないか」
アラウン  「ちょっとそこのあなた、私を無視しないで戴きたい」
シアン   「僕は都合の悪いものを見聞きしない性分なんだ」
アラウン  「なんとつれない態度でございましょうか」
シアン   「頼むから僕の傍には近寄らないで欲しいし、話し掛けるのもやめてくれないか」
アラウン  「未来視(さきみ)の能力をもってするならば、あなたは私の言葉を聞かざるを得ない状況に陥る事となりましょう」
ディスペア 「へえ。じゃ、その前に殺してあげよっか?」
イプシロン 「私がやりましょうか? あ、ディスペア様、ご飯出来てます」
ファイ   「ファイがやるー! ディスペアお姉様がご飯食べてる間にやっちゃうー!」
デルタ   「この仕事組織の依頼として成功報酬100ポンドでオレが貰おうか」
シータ   「人一人の抹殺に軍を使う必要は無さそうだからあたしは降りるよ」
ラムダ   「個の抹殺は緻密な計画を立てた上で当該人物ですら判らぬ様静かに遂行する物だ」
エレクトラ 「皆様、その様に殺気立たないで戴けないかしら? 不躾な相方を先に来訪させてしまった非礼はお詫び致しますから」
シグマ   「ご依頼ですか? それともただの冷やかしか何かでしょうか。後者であればお引き取り下さい。今すぐに」
ファイ   「帰れ帰れー、今すぐ帰っちゃえー。お姉様のご機嫌を悪くする奴なんかいなくなれ!」
エレクトラ 「依頼よ。依頼料は全て前金で5000ポンド。失敗は許さない、と大公からの伝言でしてよ。

       断る権利はあなた方にはありません」
ディスペア 「大公・・・。うーわ、めっちゃ断りたい」
シータ   「デカイ仕事ならあたしが引き受けようか?」
デルタ   「仕事の割り振りが決まったら教えてくれ。オレはちっと飲みに行ってくるわ」
ラムダ   「では、私もお暇しようかね」
ファイ   「ファイお外で遊んでくる! お仕事の時は呼んでね」
シグマ   「では、シータも自室でお休みください。必要があれば声を掛けますので」
シータ   「そうするよ」
シグマ   「では、取り敢えずそちらにお掛け下さい。詳細を聞かねば我々も判断しかねます。
       それと、まずはあなたがどちら様かお伺いできればありがたいのですが」
エレクトラ 「エレクトラ・U・アードレイ。父はバーンズ男爵ですわ
       クリストファー大公とは父がとても懇意にさせて戴いている関係でよくこの様な頼まれ事をされますの」
シアン   「そっちの、鬱陶しい相方は? 君の従者かい?」
エレクトラ 「そんな様なものね」
アラウン  「不肖な身の上にも拘らずエレクトラお嬢様の身元にお仕えさせて戴ける幸運に預かりまして私の様な幸せ者は他におりません」
ディスペア 「はは、君本気でそんな事言ってんの? 人の下に付いて平身低頭ペコペコ水飲み鳥してんのがそんなに楽しい?」
シアン   「随分と敵視しているじゃないか。その態度は前にも見た事がある
       つまり、彼は人外のモノ。見てくれから想像するならディスペアと同じ悪魔かい?」
ディスペア 「シアン、捻り殺すよ? 僕と同じって下級悪魔と同じにしないで欲しいな」
アラウン  「なんという! その蔑んだ視線。この身が打ち震えるようでございますよ」
シアン   「マゾヒストか」
アラウン  「どうか、余り邪険にしてくださいますな。私は今回エレクトラお嬢様に同行させて戴いたとはいえ、目的はあなたと会う事
       天魔一体の審議会に於いて満場一致で史上最悪の災厄と呼ばれた有名人に!
       しがない下級悪魔の身の上でいつかはお会いしたいと思っておりました故」
ディスペア 「僕は一生涯、会いたいとは思わなかったけどね」
アラウン  「私は未来視(さきみ)(さきみ)の能力を使って人を陥れる、あなたも同じく能力を使って人を陥れる。

       所詮私は同じ穴の貉、やっている事は何ら私とは変わらないのですよ」
ディスペア 「僕が人を陥れる為にこんな事やってると思ってる事自体が根本的な間違いだよ
       僕はね、営利目的で人助けをしてんの。そこ、履き違えないで欲しいな」
シグマ   「営利目的は人助けと言わないと思うのは私だけでしょうか?」
アラウン  「無論、存じ上げておりますよ。

       この「臨終の鐘」は世間的には到底受け入れ難く、目を背けたくなる様な非合法の暗躍組織。

       ブーデロンのアンダーグラウンド、闇もしくは病んでいるとでも言いましょうか? その一つでございますねぇ?」
シアン   「ほぉ? よく調べているじゃあないか」
アラウン  「盗み、密入出国、拷問、裏取引、諜報活動、傭兵、暗殺。なんだって金さえ払えば受け入れて下さるとの事。

       いやいやお優しい。世の中の汚職にまみれた輩が好みそうな組織でございますなぁ?」
シアン   「身振り手振りが鬱陶しいな」
アラウン  「しかーし、淫行は断る。清純振った事を仰っていらっしゃいますが実の所どうなんでしょうねぇ?
       幹部のどなたかとそういう関係にあってもおかしくはないでしょうなぁ?」
ディスペア 「下衆な勘繰りはやめて欲しいな。あぁ、そういう泥沼の恋愛小説を好んで読むとか
       乙女チックな趣向でも持ち合わせてるの? 中々気持ち悪いね」
アラウン  「ですが、ディスペアが気に入らない客は金銭の価値問わず断っているというのは少々我儘で、

       組織としてはどうなんでしょうねぇ?」
ディスペア 「あぁ、もう本気で殺したい。君に組織の運営にケチ付けられるとかもう恥以外の何でもないよ。内臓引き摺り出したい!」
アラウン  「という事ですが、概ねご理解いただけましたでしょうか? お嬢様」
シグマ   「そっちに説明してたんかーーーい!!」
エレクトラ 「ええ、とてもよく判ったわ、ありがとう。お茶、とてもおいしくてよ」
シグマ   「・・・? 当組織は、お客様とはいえお茶を出してもてなす所ではありませんが」
シアン   「レディファーストだ」
シグマ   「シアンのお茶ですか。なかなか嫌味なジェントルマン精神ですね」
シアン   「良いじゃないか」
シグマ   「まぁいいでしょう。では、依頼内容を聞きましょうか」
ディスペア 「その前に・・・、君さ、エレクトラだっけ」
エレクトラ 「何か? 呼び捨ては失礼ではなくて?」
ディスペア 「生憎それ程上等な躾は受けてないんでそこんとこよろしく。で、さ。あんた、腐った女の腐臭が漂ってる。
       血の臭いと『アレ』の臭い、ひどい臭いだ」
エレクトラ 「どういう事かしら」
ディスペア 「あんたみたいな雌豚は下町の娼館にでも売り飛ばされて二度と僕の目の前に現れないで欲しい。そう言ったんだ」
シアン   「ディスペア、いくら躾を受けていないとはいえレディに対してそれは余り褒められた言葉ではないな」
ディスペア 「あんた、自分の立場を保守する為に大公と同衾してんだろ。汚らしいったらありゃしないね」
シアン   「はぁ・・・。女性の見解さえ歪める事になるとは、ここに居ると色々勉強になるよ」
ディスペア 「まぁ、さ。唆して遊んでんのはそこの下衆でウザーい悪魔だけどね」
シアン   「それは聖書で学んだ通りだ」
アラウン  「何を仰いますやら。私はエレクトラ様とバーンズ男爵家が執政権に少しでも近付ける様協力をしたまで。
       無論、そこにいらっしゃる金汚い悪魔と違って無償でございますよ」
シアン   「ほぉ? バーンズ男爵。覚えておこう」
エレクトラ 「くす・・・。恐悦至極に存じ上げますわ」
シアン   「ふんっ、何の期待をしているんだ。悪名としてインプットしたまでだ」
エレクトラ 「シアン、と。その様な偽名で何をなさっていらっしゃるのかしら」
シアン   「下手な勘繰りはやめて戴きたいものだが」
エレクトラ 「この様な辺鄙な場所にある館でまさかお会いできるとは思っておりませんでしたわ、レイモンド殿下」
シアン   「誰に言っているのか知らないが、僕は君と会った覚えはないな。人違いだろう」
シグマ   「そろそろ依頼内容をお伺いしましょう。我々とて、これ以上ディスペアの機嫌が悪くなるのを放置したくないので」
ディスペア 「悪いけどシグマ聞いといてくれない?」
シグマ   「ディスペア、これを投げ出す事はさすがに許せませんね」
ディスペア 「ぬーーー!! もう、じゃあ手っ取り早く言って」
エレクトラ 「現在、大公にとってとても目障りな人間がいます」
ディスペア 「からの」
エレクトラ 「抹殺しなさい」
ディスペア 「よし内容把握。金置いて今すぐ回れ右」
エレクトラ 「そうは行かないわ。今回の抹殺対象はあなた方で割り出しなさい」
シグマ   「?! なんだって?!」
シアン   「はは、大した無茶振りだ」
エレクトラ 「その依頼金はあくまでこの臨終の鐘への支援金として処理なさい」
シアン   「なるほど? 今回の一件、例え大公に嫌疑が掛かったとしても知らぬ存ぜぬで通す為に、

       あなたの様な政治的繋がりはないと思われる女性に依頼した、ターゲットは相当な要人とお見受けするが?」
エレクトラ 「さぁ? わたくしは誰とはっきりは聞いておりませんの
       けれど、あなた方の情報収集能力と洞察力から割り出せない人物ではないとそう聞いておりますわ。

       大公の期待に添えるご英断をお祈りいたします」
ディスペア 「判ったから出て行けって」
アラウン  「いやはや全く短気でございますなぁ。一つ教えて差し上げましょう」
ディスペア 「結構毛だらけ猫灰だらけ! あんたの助言なんて全く必要としてないから! いーっだ!」
シアン   「どこのガキだ全く」
アラウン  「ディスペア、あなたはこの上なく大切な物を失うでしょう」
ディスペア 「んな・・・」
アラウン  「見える・・・。見えますよ、血と肉片が飛び散り返り血に真っ赤に染まるディスペアが
       なんと・・・、なんと美しい! 泣き喚く悲鳴! 雄叫び! 戦慄が体中を駆け巡る!
       雨の中でその名の通り絶望しうずくまるあなたの姿が私には見えます」
ディスペア 「出てけ」
アラウン  「血溜まりの中に一つの死体それはディスペアあなたが」
ディスペア 「出てけって言ってんでしょうが!!」

エレクトラ 「さて、アラウン。彼らは大人しく従うかしら?」
アラウン  「エレクトラ様にはたーいへん残念な事を申し上げなければなりません」
エレクトラ 「従わないのね」
アラウン  「最近のエレクトラ様は、わたくし目の言葉を遮る癖がございますね」
エレクトラ 「その口調、飽きたわ」
アラウン  「なんと! 私の口調に飽きたとはいえ私はこれ以上の語彙を持ち合わせておりません
       お嬢様のお好みの口調に切り替えると申し上げても私の様な不肖者には判りかねます故何卒教えては頂けないでしょうか」
エレクトラ 「必要ないわ」
アラウン  「なんと言うつれないお言葉! このアラウン身心削る想いでエレクトラ様にお仕えしているというのになんという!」
エレクトラ 「従わせる方法を言いなさい」
アラウン  「申し訳ありません。それは我々にとって必要な事ではございませぬ故、お嬢様に申し上げる訳には参りませぬ」
エレクトラ 「必要がない? どういう事かしら? それでは大公の信頼を失ってしまう事になるわ。ここまで来てそれは避けたいのよ」
アラウン  「ご心配召されますな。お嬢様にはこの他にやるべき事がございます
       このアラウン、決してお嬢様の立場を失墜させは致しません
       お嬢様はこの臨終の鐘で出会った珍しいお方の事を大公にお伝えするのがよろしいでしょう」
エレクトラ 「シアン、ね。レイモンド・グレーフェンベルグ・ヴァレスティア
       殿下の存在を大公にお伝えすれば、新たな支持が得られるのね?」
アラウン  「その通りでございます。が、改めてお伝えするまでもございませんとも申し上げましょう」
エレクトラ 「どういう事かしら?」
アラウン  「私の未来視(さきみ)の能力をもって視るに、大公は殿下を疎んじておられます
       それは、何故かご存知であらせられますか?」
エレクトラ 「大公が、レイモンド殿下を? 判らないわ?」
アラウン  「大公はブーデロンの執政権を王朝に返上する積もりなどありません」
エレクトラ 「執政権を王朝にですって? 今更何を腑抜けた事を言っているの?
       伝統と格式を大切にするブーデロンの風習は文化にのみ留まるもので、政治には不利よ
       歴史に胡坐を掻いた王朝に今更返上させてどうするというのかしら」
アラウン  「レイモンド殿下は、議会にも出ない大変な放蕩振りで有名です」
エレクトラ 「そうね、あんな所にいるのだもの。一瞬目を疑ったわ」
アラウン  「上院議員は暗愚な王太子を戴冠させたとて議員の傀儡化に出来るものだと侮っておいででしょう」
エレクトラ 「ええ、無能な人間に執政など不可能よ」
アラウン  「ですが、それはレイモンド殿下自らが意図的に流した噂
       レイモンド殿下は非常に頭脳明晰で文武にも秀で、聡明さは大公を凌駕し余りある」
エレクトラ 「大公の、立場が揺るがされる、と言うの?」
アラウン  「さすがお嬢様、状況の見通しがお早い。そして大公のご正室がどなたかは無論存じておりましょうな」
エレクトラ 「この国の第一王女よ。確か男児がお一人いらっしゃる筈ね」
アラウン  「この国の第二王位継承権を持っていらっしゃいます」
エレクトラ 「あ・・・」
アラウン  「お判り頂けましたか? お嬢様」
エレクトラ 「今回の依頼を臨終の鐘が断れば、大公の内情を知り過ぎているこの組織を抹消する

       アラウンの話を聞く限りでは、断るという事が確定。

       そして依頼交渉決裂の名分の下に組織を抹消し、レイモンド殿下は巻き込まれ死亡
       そう言う筋書きを作ればいいのね?」
アラウン  「さようにございます。

       さすれば大公のバーンズ男爵に於ける信頼は不動のものとなりエレクトラ様はご正室よりも優遇される事になります
       即ち、例え愛妾であったとしてもこのブーデロンにおいて比肩される者のない程に稀有な扱いを約束されるでしょう
       余りある財宝、大公の第一子と閨閥に持って行けるのであれば国母(こくも)となる事も夢ではございません」
エレクトラ 「女性としての第一人者。なんて素敵・・・、アラウン、臨終の鐘を始末する方法を構築なさい」
アラウン  「かしこまりましてございます
       このアラウン、風を読み、天を読み地を読み最善の策をエレクトラ様にお伝えしましょう」
エレクトラ 「うふふ、くすくす・・・、なんて・・・。なんて楽しいゲームなのかしら
       あははは、おーっほっほっほ・・・・」

 

 

 

ディスペア 「あーもう腹立つったらありゃしない! あったま来るよね! 
       未来視(さきみ)だか何だか知らないけど、未来予知とか知ったか振っちゃってさぁ
       僕悪魔だよ。たぶらかして唆して陥れるのは人間だけにしといて欲しいよね」
シアン   「なんだ、陥れられそうになったのか。ディスペアともあろうものが」
ディスペア 「まーさーか! 冗談も程々にしてよね」
シアン   「面白いものが見られそうだと思ったが残念だ」
シグマ   「現状を楽しむのは結構ですが、抹殺して欲しいという該当人物を割り出さなければなりません」
ディスペア 「考えるまでもない。シアンだって予測できてるでしょ」
シアン   「推測の範疇だ」
シグマ   「『口に出すのは控えたい』あなたの口癖ですね
       ですがそんな悠長な事は言っていられないのですよ。協力していただけますね」
シアン   「協力とは?」
シグマ   「無論、暗殺です」
シアン   「当該人物が確定していないのに?」
シグマ   「是非はないと、あの雌豚、いえバーンズ男爵令嬢もおっしゃっていましたからね」
シアン   「ほぉ、シグマもあの手の女性は敬遠したいタイプなのか。趣味が似ている」
ディスペア 「答え合わせしようか。シグマ、シアン」
シグマ   「ラッセル・R・クロス」
シアン   「ラッセルに違いないだろうな」
ディスペア 「はははー、だよねー、ラッセルだよねー。妥当と言えば妥当だけどひねりが無くて面白くない」
シアン   「ディスペア、ラッセルを知っているのか」
ディスペア 「知らない筈がないよ、あんな有名人」
シグマ   「大公の権威によって粛清という名の蹂躙を受ける国民を救う英雄」
ディスペア 「革命家と称していながら自らも剣を取って戦うんだから救世主と言われるのも納得するよ」
シアン   「僕は、彼と君が接触を持っているのか、と聞いている」
シグマ   「ザックリ言ってしまえば、我々は義勇軍に武器提供などで浅くない関わりがあります」
シアン   「なるほど、ではここの顧客という事になるのか」
ディスペア 「まぁね、彼は僕の正体を持ち前の動物的勘で察しているらしくて、

       余り好ましいと思っていないのか直接的な関わりを持ってくれないけどね
       お酒飲みに誘ったら摘み出された。理不尽。」
シアン   「持ち前の勘、か。確かに鋭い洞察力を持っているからな」
シグマ   「義勇軍の幹部と臨終の鐘のやり取りがあれば必然的に絡むことになります」
シアン   「随分、不機嫌な顔をしているじゃないか
       好まれていないという事だが、それが不服か。随分入れあげたものだ」
ディスペア 「入れあげる、とかよしてよね。シアン、君がラッセルと繋がってる事も知ってる。
       ねぇ、レイモンド殿下? 君の正体、ラッセルに教えてあげようか」
シアン   「余計な気を遣って戴かなくても結構。いずれ時が来たら自分から言う」
ディスペア 「僕がラッセルの存在を確認したのは確か3年前。
       つまりその3年間、大公が幾度刺客を送っても、直接交戦を仕掛けても始末するどころか

       返り討ちに合い続けて堪忍袋の緒が切れたという事だね」
シグマ   「むしろ短気なおっさんが今まで良く持ったと褒めて差し上げては?」
ディスペア 「間抜けな老害狸が何をした所で傷一つ追わせる事も出来ないよ。ラッセルはぼんくらじゃないもんね」
シグマ   「今に至っては義勇軍などと言う歴史のうねりを反転させる様な代物を作り上げている訳ですからね」
ディスペア 「狸じじいにはそりゃあ面白くない訳だ。傑作だよね。ざまぁ見ろってんだ」
シアン   「君の回答がどうであろうが僕は今回の件協力する積もりはない、が結論を聞いて置きたい」
シグマ   「協力もしないのに結論ですか。見当は付きますが理由をお伺いさせて戴きましょう」
シアン   「僕が義勇軍に内密で手を貸している事くらい知っているだろう?」
シグマ   「ヴァレスティア王朝歴1772年の7月に起こったベイクウェル事件以来ですね」
シアン   「ここの組織に知らせていない内容をそこまで調べ上げられているとはね」
シグマ   「当然でしょう? 我々をなんだと思っているのですか?」
シアン   「臨終の鐘がラッセルを討つ、と言うならその時点で僕を敵だとみなして構わない、という事だ」
シグマ   「大公の目論見はシアンにとってありがたい事ではない、と?」
シアン   「君が探りを入れて来るとは思わなかったよシグマ」
シグマ   「あなたの身分は承知しています。王朝と貴族院の関係が良好でない事も」
シアン   「君が、僕の前で仮面を取り本名を明らかにするならば、詳細を話しても構わないが?」
シグマ   「同等の立場に立ってからという事ですか
       私は議席も持っていなければ貴族との血の繋がりはありませんよ」
シアン   「ディスペアが僕の内情を知っているのは、能力を使って僕自身を調べ上げたからだ。
       もし、シグマが僕の事を知りたいというのであれば、自分で調べるんだな」
シグマ   「私には大公の謀略とあなたの身分素性を照合した推論しか出来ませんよ
       大公に敵愾心を燃やすのは当然の成り行きでしょう、としか判りません」
ディスペア 「充分じゃない? シグマ。ラッセルは現状大公筆頭政治に対する討伐隊
       シアンは大公を駆逐する為にタイトロープの様な関係をラッセルに敷いている
       なら、今回ラッセル抹殺にシアンが協力する訳ない、そうだよねシアン」
シアン   「僕に確認取る必要があるのか?」
ディスペア 「必要なかったね」
シグマ   「では、彼はこの先の部外者。本日の依頼振り分けは終了です
       速やかにお帰り下さい、シアン」
ディスペア 「なんで部外者なのさ、シグマ。僕さ、ラッセルを討伐するなんて一言でも言った?」
シグマ   「では、大公に逆らうと?」
ディスペア 「僕ね、あのおっさんに汲み従ってんのいい加減うんざりしてたんだ。
       大物ぶってるけど金ばら撒くか恐怖の上に従わせるかの二択で現在の立場を維持している様なもんでしょ?」
シグマ   「我々の組織の後援者並びに支援者である事実とは無関係です」
ディスペア 「もうこの組織にはあの禿げ頭の援助も後援も要らない
       敢えて言うならクリストファー公爵家の当主が代替わりした時から僕はあのおっさんの頭の悪さが気に入らなかったし、

       さっさと手を切りたかったんだよね。いい機会だと思わない?」
シグマ   「いい機会、ですか。もっと慎重に考えるべきではありませんか」
ディスペア 「なに? シグマ怖いの?」
シグマ   「誰しもディスペアの様に向かう所敵無しの怖いもの知らずだと思わないで下さい」
ディスペア 「今回の依頼、いや命令かな。断るから」
ラムダ   「ディスペア? 私は貴殿の決定に異議を唱えさせて戴こうか」
シグマ   「ラムダ」
ラムダ   「大公、クリストファー大公爵に逆らうは反逆罪と同レベルの行為」
シアン   「大層な忠義心だ」
ラムダ   「ここに居る皆が理解して然るべき事実を隠ぺいするのはよろしくない、非常によろしくないぞ」
シアン   「君の言葉遣いも非常によろしくないと思うが」
ラムダ   「大公はこのブーデロンの第一人者
       執政権を独占、掌握しこの国を操る者、即ち実質の王(キーング)と言えよう」
シアン   「場合が場合なら僕に喧嘩を売っているとしか思えないな」
シグマ   「シアン、ラムダはあなたの身分を知りません(こっそり耳打ち)」
シアン   「余計な事を言わなくて良かったよ。助かった、シグマ」
ラムダ   「その王に逆らうとは、いかに非合法とはいえこの国で組織を運営する事は出来なくなる、という結論に達しないかね?」
ディスペア 「それはあくまで臨終の鐘の拠点をこの国に敷くならっていう概念での意見だよね」
シータ   「取り敢えずラムダの話を最後まで聞きなよ、ディスペア
       人の話を遮断する、あんたの悪い癖だ」
ディスペア 「別に僕はこのブーデロンにこだわってないし、ここで組織の運営が厳しいならフランティエにでもディレーリにでも行くよ
       内戦抗争の激しいスパンナやオルンドでもいい。寧ろ、内政がごたついてる国の方が割のいい仕事が入って来るだろうしね」
シータ   「ディスペア! あんたあたし達の事なんだと思ってんのさ!」
デルタ   「俺達は必要ないんだとよ。このお姫様みたいな顔した悪魔はよ」
ラムダ   「我々の意見は一切聞く気がないと受け取るが、構わないかね?」
ファイ   「なんでみんなそんなに怒ってるの? ファイ、怖いよ」
シータ   「こっちにおいでファイ。ちょっと怖いかもしれないね」
ファイ   「ん、しょ、と。シータ抱っこ」
シータ   「戦闘員とはいえこんな小さな子まで巻き込んでるのにもう少し考えなよ」
ディスペア 「いずれにしてもブーデロンでなきゃいけない理由なんてどこにもないんだから
       着いて来たい奴は着いて来ればいいし、ここでさようならっていうならそれもいい、好きにしなよ」
ラムダ   「臨終の鐘の存亡に関わる大切な問題に対し投遣りではないかね?」
シアン   「依存心が強いんだな。誰かの援助が無ければ行動が出来ない」
ラムダ   「やかましい! 我々は今まで大公の恩恵に預かって来たのだから有無を問うまでもなく従うべきだ」
シアン   「子供の喧嘩ネタで申し訳ないが、君は大公に死ねと言われたら死ねるのか?」
デルタ   「本当にガキの喧嘩だな。俺達は暗躍組織だ。大公に死ねと言われたら大公を殺す」
ファイ   「賛成! もう、お姉様やみんなが喧嘩するの嫌だしおじさん殺しちゃえ!」
ラムダ   「我々の組織の結束力をもってすれば、義勇軍を潰す事は可能ではないかね?」
ディスペア 「ふーん、いつからそんな忠義だとかくだらないものに従う様な殊勝な性格になったの?
       元々非合法な単独組織だよ。誰かに脅迫されて動くなんて真っ平御免でしょ」
シータ   「普段のラムダに同意するのは恥ずかしいけど、今回のラムダの言ってる事は正論だ。
       あたしももうちょっと考えた方がいいと思うよ」
シグマ   「シータ、珍しいですね。あなたがディスペアに異論を唱えるなど」
シータ   「組織の運営を考えるならもっと検討するべきだと言っているだけだよ
       ディスペアなら大公の返り討ちを一人回避できるだろうけどね」
デルタ   「そりゃ、一人ならどこにだって逃げられるだろうよ
       別にオレ達だって組織に従わなきゃ生き抜いて行けるだろうさ
       だがな、ディスペア。今まで一緒に戦ってきた仲間としてそれは有りなのか?」
シグマ   「仲間意識をディスペアに問うのは意味がありませんよ」
デルタ   「じゃあ、お前は納得できるってのか? え? シグマ」
シグマ   「話し合いの必要性をディスペアに伝えていた所です」
シータ   「だいたい、他の国で組織を新たに立ち上げるってったって、ここの幹部や工作員はどうするのさ。

       全員引き連れて外国へ亡命? 本気でそんな非現実的な事が可能だと考えてんのかい?」
ディスペア 「一家で逃亡、って言うには余りにも規模が大きくなり過ぎちゃったって事かぁ。面倒臭・・・」
デルタ   「おいおい、面倒臭いの一言で片づける積もりじゃあねぇだろうなぁ」
ディスペア 「そんな積もりはないよ、デルタ。だけどね大公のやり方が気に入らないんだ」
ファイ   「ファイよく判んない。あのおじさんに逆らうとどうなるの?」
デルタ   「まぁタダで済む筈ねぇわなぁ? 他の大公傘下の組織と乱闘は免れねぇだろ?」
ファイ   「えっと、うーんと、それって痛いの?」
シータ   「ファイ、ここの臨終の鐘以外の戦闘員と戦う事になるんだ。
       言い方は悪いけどね、みんながファイを殺しに来るっていう事だよ」
ファイ   「ええええええ?!?! ファイ痛いの嫌い!! え?! 嫌だよ!」
イプシロン 「私は、どうなろうとディスペア様の意志に従います
       だって、みんな多かれ少なかれディスペアにお世話になっているのですから
       それは、元々ここの組織に入る時に皆さんが感じた事でしょう?」
シグマ   「確かに、内部分裂などしている場合ではありませんね」
ディスペア 「面倒臭い事からは逃げるのが賢明な判断って事もあるでしょ。とにかく従う積もりないから意志が決まったら教えて」
シグマ   「どこに行くんですか! 話は終わっていません」
ディスペア 「それまで僕寝るね、おやすみ~~」
シグマ   「ディスペア! 組織の存亡に関わる時に無責任な事はしないで下さい! 我々の信頼関係をなんだと思っているのですか!」
ディスペア 「僕を人間の価値観の無責任なんて言葉で縛り付けて欲しくないな
       責任感? 組織を作ったから? 人を雇ったから?
       あのさ、君ら金儲けが出来るからここで働いてんでしょ? 利害の一致って奴じゃん
       僕は誰の判断も問わない。君らは自由意志でここから依頼を貰ってるだけ
       それを念頭に置いて自分らの身の振り方は自分で考えてね」

 

シアン   「全く、見ちゃいられないな。僕には内部分裂なんて関係ない、と言いたい所だが
       内容が内容だけに結論を聞かずに降りるという事も出来ない。厄介だな」
シグマ   「何故、ここにこだわるのですか?」
シアン   「ディスペアの言う通り、利害の一致、だ。それ以上でもそれ以下でもない」
シグマ   「全く、素性が判っても掴みどころのない人だ」
シアン   「結論が出るまで僕はここに滞在させて貰う事にしよう」
シグマ   「宿代は高くつきますよ」
シアン   「結構だ」

 

 

イプシロン (部屋の扉、ノック)

イプシロン 「ディスペア様、お部屋に入ってもいいですか?」
ディスペア 「あー? イプシロンかぁ。ん。いいよ」
イプシロン 「失礼します」
ディスペア 「どうしたのさ。心配してくれてんの?」
イプシロン 「シアン様がチョコレートを半分下さいました。お茶と一緒にどうぞ」
ディスペア 「んむ、なんか餌付けされている様で気に食わないんだけど」
イプシロン 「でもお好きでしょう? きっと甘いもの食べてさっさと判断しろって事ですね」
ディスペア 「僕はもう判断できてるよ。ラッセルを討伐なんてしない」
イプシロン 「それって・・・、『世界平和の為』ですか?」
ディスペア 「結論だけ言うならね。

       ラッセルは人間じゃないし、僕にとっては大公なんかより気になる存在だし、正直言うなら討伐なんて不可能だよ」
イプシロン 「臨終の鐘の幹部全員をもってしても、ですか?」
ディスペア 「うん。ていうか僕なんかの些末な力を少々受け継いだって『大いなる力』になんて勝てる訳がない
       ちょこっと人知の及ばない力が手に入ったからってみんな勘違いしすぎなんだよ
       所詮間に合わせのフェイクでしかない。本物には適わないのに」
イプシロン 「大いなる力、ですか?」
ディスペア 「神に最も近い力だよ。きっと理解できないだろうけど」
イプシロン 「はい、理解できません」
ディスペア 「イプシロンのそういうとこ好きだよ」
イプシロン 「そういうとこ?」
ディスペア 「自分の力を過大評価して無謀な事には挑まない
       僕ね、自分の力を顧みずにただ虚勢を張って偉大になれるなんて勘違いしてる人間見ると、おかしくて笑えちゃうんだよね」
イプシロン 「私は自分の力量を知らないから何が出来るか判らないだけです。
       だからディスペア様に聞いてばかり。鬱陶しく感じるでしょう?」
ディスペア 「鬱陶しく感じる人間と二人きりで話す機会を作る程、僕お人好しに見える?」
イプシロン 「いいえ。じゃあ素直に嬉しいと思う事にします」
ディスペア 「本当に、そんな無欲なの? イプシロンの心の中見たくなっちゃうな」
イプシロン 「どうぞ? きっと変わりません」
ディスペア 「だろうね。イプシロンは好きだけど、時々めちゃくちゃに苛めたくなるよ」
イプシロン 「出来るんですか? どうぞ?」
ディスペア 「やだよ。ホントに邪気のない人間て好きだけど苦手だよ
       イプシロンを壊したいって思うけど、そうしたら元に戻らない事も知ってるから出来ない」
イプシロン 「ディスペア様は素直な人なのに、どうしてみんなややこしく考えるんでしょうね」
ディスペア 「さぁ、頭悪いからじゃない? 知識集めりゃ賢くなれると思ってる
       集めた知識を使いこなせなきゃただの知識バカだって事に気付かないんだ」
イプシロン 「・・・、・・・くす」
ディスペア 「今、誰の事考えた?」
イプシロン 「ラムダさん」
ディスペア 「うははっ! 見てない様でちゃんと見てるよね、イプシロン」
イプシロン 「みなさん個性的な方ばかりで見ていて楽しいです」
ディスペア 「ま、楽しいのは・・・。うん、認めよう。で、さ、・・・みんなは?」
イプシロン 「殺気立ってます」
ディスペア 「そりゃまそうだろうねー」
イプシロン 「ディスペア様の話を聞く限りではどちらに転んでも戦いは避けられませんね」
ディスペア 「相手があのおっさんだもんなー。拒否権はないって言った以上断ったら大事に至るのは必至
       だけど、ラッセル討伐は臨終の鐘の幹部工作員、全員の死亡フラグ立つだけだもんなー」
イプシロン 「幹部のみなさんが聞いたら激怒しそうです」
ディスペア 「こんな生き方を選んだ連中だからね。そりゃ実力が上の人間を見るのは腹が立つだろうけど」
イプシロン 「でも、ディスペア様がラッセル討伐を受けない理由には私情を挟んでいる様に見えます」
ディスペア 「そりゃあ僕だって感情の一つや二つや三つ持ち合わせている訳だから当然だよね
       執政っていう大義名分の下に汚職を繰り返して来たあの老害が、

       僕らみたいな情報重視の組織に対して隠し事出来ると思ってるのかな。ずらで隠せるのはハゲだけだっつうの」
イプシロン 「ずらだったんですか?」
ディスペア 「うん。あ、内緒にしといてあげてね」
イプシロン 「言う人もいないですけど」
ディスペア 「ラッセルは気持ちいい程に”正義”だよ。大義名分として掲げてる訳じゃない
       自分が害を被った相手を許さない所も含めて、老若男女問わず断罪する潔さ。どちらが好まれるかなんて、猿でも判るよね」
イプシロン 「ディスペア様の好きにしたらいいと思います」
ディスペア 「好きにしてるよ、僕は」
イプシロン 「じゃあ、私に出来る事ってなんでしょうか」
ディスペア 「他の連中の様子を見る以外、今の所出来る事はないかな
       イプシロンは僕に着いて来ると言ったけど、そんな忠義心僕は要らないよ」
イプシロン 「知ってます。ただ、私はディスペア様と一緒に居たいんです
       この仮面と手袋を着けて、まだ生きて行けるんだって教えてくれたディスペア様が大好きなんです」
ディスペア 「僕は嬉しい気持ちを表現するの苦手」
イプシロン 「知ってます」
ディスペア 「似てるんだよなぁ・・・」
イプシロン 「え?」
ディスペア 「僕の上司のベルフェゴール様も、僕を絶対に否定しなかった
       イプシロンの優しさは・・・、だからちょっと心に刺さって痛いんだ」
イプシロン 「お茶、冷めちゃいましたね。新しいのを淹れてきます」

 

 

 

エレクトラ 「コークウェル通り。本当にここで待っていれば機会が訪れるの?」
アラウン  「このアラウン、エレクトラ様に嘘をついた事がございましたか?」
エレクトラ 「そう言えば無いわね」
アラウン  「今更ではありますがお気付き戴けた事に心が打ち震えます」
エレクトラ 「そう、それは良かった事。ところで・・・」
アラウン  「なんでございましょう、このアラウンになんなりとお申し付けください」
エレクトラ 「宣戦布告もあるけれど、わたくしあの臨終の鐘のマスター、嫌いだわ」
アラウン  「そうでしょうとも! あろう事か!

       この様にお美しいエレクトラ様を淫売(いんばい)か売女(ばいた)の様な言い草で罵倒するなど言語道断でございます!」
エレクトラ 「ええ・・・。ええそうよ。思い出すだけでもはらわたが煮えくり返るわ(激怒)」
アラウン  「私も同じ心情でございましたとも! エレクトラ様を冒涜した愚か者には制裁を与えねばなりません」
エレクトラ 「そうよ。わたくしを侮辱した無礼者にふさわしい罰を与えなければならないわ」
アラウン  「麗しいエレクトラ様が感じられた屈辱、そのままにしてはなりません」
エレクトラ 「最も屈辱的で苦しみ悶え死ぬ程の制裁を加えなければ気が済まない」
アラウン  「それではこの私の能力をもってエレクトラ様が最高にエクスタシーを感じられる様な報復を致しましょう!」
エレクトラ 「どうすればいいの? こういう時は心が浮き立つわ。
       アラウン、あなたの予言は魔法の様に甘いわね」
アラウン  「おぉ・・・、なんという勿体ないお言葉。ありがたき幸せにございます
       臨終の鐘のマスター、ディスペアが大切にしている駒を使って戒めるのがよろしいかと」
エレクトラ 「ディスペアの大切にしているモノ。いいわね、それを奪って差し上げましょう」
アラウン  「視えますよ、エレクトラ様。準備は万端でございます。駒が動き出しますよ。
       彼女はアフタヌーンティーの後に残った食事を毎日猫にあげます。なんと優しい
       その猫の首輪に先ほどエレクトラ様がしたためた手紙を縛り付けました故、彼女はここまで来るでしょう。
エレクトラ 「でもわたくし心配だわ」
アラウン  「どの様な心配事を抱えていらっしゃるのかこのアラウンにお話し下さい
       不束ながらお嬢様のご心配を全て拭い去って差し上げましょう」
エレクトラ 「女性、とはいえ臨終の鐘は戦闘も請け負う組織よ?
       例えば、戦いになったとしたらわたくしに勝ち目なんてないわ」
アラウン  「力技で物事を解決しようなどと言うフランティエ人の様に野蛮で下衆な人間などに

       エレクトラ様の指一本、髪一筋触れさせは致しません。お美しく聡明なエレクトラ様が穢れてしまうではありませんか」
エレクトラ 「そう、ならいいわ」
アラウン  「そろそろ参りますよ。エレクトラ様のお飲みになるお茶を用意した仮面の女
       派手なブロンドを揺らしてこの路地に! なぁんと憐れな子羊か!
       これより自らが辿る運命を知らずに傲慢な正義感を引っ提げて我々の目の前に!」
エレクトラ 「来たわね。ようこそ、イプシロンさん・・・、ふふふ」
イプシロン 「あなた方が持って来た依頼で組織は今騒然としているわ」
エレクトラ 「それは、お騒がせしてしまってごめんなさいね」
イプシロン 「そんな、上辺だけの言葉で許されるだなんて思っていないでしょう?」
エレクトラ 「わたくしに一体何を要求しようというのかしら」
イプシロン 「一体何の目的があってこんな事をするの?」
エレクトラ 「手紙を読んで来てくれたのでしょう? 嬉しいわ」
イプシロン 「私の身がディスペア様の災厄になる、ですって?」
エレクトラ 「えぇ、そうよ。このアラウンの未来予知は外れないの」
イプシロン 「それを回避する方法を教えてくれると書いてあったわ」
エレクトラ 「ええ、勿論、それは嘘ではなくてよ?」
イプシロン 「一体私がディスペア様にとってどんな被害をもたらすというの」
エレクトラ 「素直でいい子ね。けれど残念だわ、回避する方法はあるけれどあなたは実行できないの」
イプシロン 「元々、罠だという事くらい判っているわ。一筋縄で教えてくれる気はなさそうね」

エレクトラ 「あらぁ・・・、一体何をする積もりなのかしら?

       こんな人通りが激しい路地でナイフなんて取り出してわたくしに危害を加えようというの?」
イプシロン 「私は私に出来る事をするまでよ」
エレクトラ 「臨終の鐘のマスターも気に入らないけどあなたも気に入らないわ」
イプシロン 「結構よ。あなたに気に入られようだなんて欠片も考えていないの」
エレクトラ 「ねぇ、アラウン。どう思う?」
アラウン  「大変な無礼者でございますねぇ。これは手痛い仕置きをせねば」
エレクトラ 「本当に失礼。誰も彼もあそこの組織の連中は気に入らない」
イプシロン 「当然でしょう? 先にあなた達が臨終の鐘に火種を撒いたのよ」
エレクトラ 「だから力で解決?」
イプシロン 「仕方ないでしょう?」
エレクトラ 「本当に野蛮・・・。暴力でしか解決が出来ないのね」
イプシロン 「世の中には何をもってしても判り合えない人間がいるものなの。私はそれを臨終の鐘で学んだわ」
エレクトラ 「学んだ、ですって? ふふふ、あはははは! 結局学の無い人間が物事の解決方法を暴力に捻じ曲げただけでしょう?」
イプシロン 「私が今ここで、大公からの依頼を取り下げてと言ったって無駄でしょう?」
エレクトラ 「だから、力づくで従わせようというのね。頭の悪い人間のやりそうな事だわ」
イプシロン 「最善の策だなんて思っていないわ」
エレクトラ 「それで?」
イプシロン 「依頼を取り消しなさい」
エレクトラ 「嫌よ」
イプシロン 「それなら、あなたを殺す」
エレクトラ 「は?」
イプシロン 「馬鹿だと思うなら思えばいい。あなたを殺して遺体を粉砕するわ」
エレクトラ 「粉砕、ですって?」
イプシロン 「意志を持ってこの右手で触れれば、触れたものを塵に変える事が出来る。私がディスペア様から貰った大切な能力よ」
エレクトラ 「ふぅん。さすが悪魔の組織ね。妙な能力を持っているわ」
イプシロン 「あなたを塵に変えてあげる。あなたがあなたであった事すら誰も判らない程に」
エレクトラ 「そんな事してただで済むと思っているの?」
イプシロン 「さぁ、どうかしら。けれどそうすればあなたはただの行方不明。

       そもそもエレクトラさん、あなたは臨終の鐘に依頼になんて来なかったの。臨終の鐘は何があっても知らぬ存ぜぬを通すわ」
エレクトラ 「下衆で野蛮で胡散臭い組織だものね。本当にやりかねないわ」
イプシロン 「えぇ、そうすれば、大公が臨終の鐘を潰す理由はなくなる」
アラウン  「なーるほど・・・。、エレクトラ様の存在を消し去りこの近日に起こった出来事を白紙に戻す
       と、あなたはそうおっしゃるのですねぇ。えぇ、いい考えですとも」
イプシロン 「安心して、あなたも同じように存在を消してあげるわ」
アラウン  「ふむふむ、下手な小細工をするより簡潔明瞭で判り易いですねぇ」
イプシロン 「理解したからと言ってあなたを許しはしない!」
アラウン  「これはこれは、ディスペアの足手まといにしかなっていないであろう・・・、

       と思っておりましたが中々に面白い事を考え付くものですねぇ。素晴らしい!」
イプシロン 「先に悪魔アラウン、あなたを消してあげる!」
アラウン  「勇み足は結構ですよ! ですが余り我々に近付かない方がいいですよ!」
イプシロン 「その気持ち悪い口調ごと消えなさい! ・・・っ!!」
アラウン  「ですから言ったでしょう? こちらに来ない方がいいと」
イプシロン 「ぇ・・・、あ、な・・・」
アラウン  「私はちゃんと忠告して差し上げましたよ?」
イプシロン 「や・・・、火が」
アラウン  「聞かなかったあなたが悪いのです」
イプシロン 「あ・・・、あ・・・。な、に? なん、で?」
アラウン  「未来は私に語りかけてくれます。まるで語り部の様に・・・、様々な場所で、望みの情報を思いのままに与えてくれるのです
       今日、この時を選んであなたをこの場所に招いたのは偶然ではありませんよ?
       このパン工房が油の転倒により爆発、火災が起こる事は私には視えていたのです!」
イプシロン 「いや、熱い・・・、火が・・・、煙、が・・・」
エレクトラ 「うふふ、本当ね。火を見ると動けなくなるなんて野生の獣(けだもの)のよう・・・」
アラウン  「この路地裏で火を見て立ちすくむあなたの姿をこうして見る事になる! どうでしょうエレクトラ様?
       ただの炎におびえる臨終の鐘の工作員など取るに足りないでしょう」
イプシロン 「あ・・・、あ、いや・・・、や・・・」
エレクトラ 「でもなぜ炎を見ると動けなくなるのかしら」
アラウン  「それは申し訳ありません。私には判りえないのです。

       このアラウンお役にたてないこの身を悔しくも思いますが私の能力は未来視(さきみ)。

       過去に何があったかを知る事は出来ないのです」
エレクトラ 「仕方ないわね。けど、それ程必要な事だとも思えないし、いいわ」
アラウン  「彼女を捕まえますか? それともここで殺してしまいますか?」
エレクトラ 「いいえ? そんなに簡単に殺しては面白くないわ。攻撃出来ない様に拘束して、館に連れ帰って頂戴」
アラウン  「かしこまりましてございます、エレクトラ様。ディスペアの今後の様子は楽しみにとっておきましょう」
エレクトラ 「楽しみだ事・・・、うふふふ、あーっはっはっは、あはははははは」
アラウン  「捕えた後はしばらく放置しても大丈夫でしょう。
       エレクトラ様には大変なお手数をお掛けしてこのアラウン、心苦しい限りではございますが、もう一仕事、残っております」
エレクトラ 「なあに? 楽しいもの? わたくしは構わなくてよ?
       ねぇ、アラウン。私の未来を約束してくれるのでしょう?
       その為に今やっておくべき事を面倒だとは思わないわ。何をするの?」

 

ラムダ   「全くディスペアには呆れたものだ。大公の依頼を断るなど言語道断ではないかね?」
シータ   「あたしは今までだってディスペアの事を理解できたことなんてないよ」
デルタ   「今回ばかりはラムダに賛成だなぁ」
ファイ   「ファイは怒ってるんだよ!」
シータ   「ファイ、みんな怒っているよ。だからこうして集まって話をしてるんだからさ」
ラムダ   「まぁ、ディスペアの考えが我々に理解できないのは当然だろうがなぁ」
デルタ   「そもそも悪魔なんだからよ。人間の俺達がいくら頭捻ったって判るわきゃねぇよ」
シータ   「で、ラムダ。あたし達をここに集めて何の話し合いさ」
ラムダ   「無論、ディスペアの事だ。貴殿たちの事だから概ね察しているとは思うが、
       これ以上、行き当たりばったりで前後関係も考慮に入れず

       私情のみで組織の意向を決断するあの悪魔に付き従うか否かの方針を決めようと思っているのだ」
ファイ   「怒ってるけど、ファイはどうしたらいいかなんて判らないよ!」
シータ   「考えるのは勿論だけど、ファイの事は念頭において考えよう
       こんな小さな子を放り棄てる事なんてあたしには出来ない」
デルタ   「面倒は見きれないが、放置は良心が痛むってか。都合良すぎじゃねぇか」
シータ   「けど・・・」
ファイ   「ディスペア姉さまはファイの意見なんか全然聞いてくれなかったんだよ。
       他の所の人達がいっぱい来たらファイが危険な目に合うっていうのに」
デルタ   「一番勝手なのは、あの悪魔って事だな」
ファイ   「お姉様はファイが怪我したっていいって事でしょ?お姉さま酷いんだもん。ファイ、嫌いになっちゃうよ!」
シータ   「ファイの気持ちは判るよ。あたしだって今まで組織の仲間だと思ってお互いに意思の疎通があると思ってたんだ」
デルタ   「そんな物、ディスペアにゃ無用の長物だったってこったな」
シータ   「それどころか鬱陶しいとさえ感じてるみたいだし、長年一緒にやってきてこれって、すごい裏切りを受けた気分なんだ」
ラムダ   「我々の知恵の及ぶ所ではないが、裏切りなど悪魔にとっては常識の範疇なのだろう
       加えて言うならば、己の身さえ守られれば他はどうなってもいいとそう受け取った
       物事の計画性を欠いてまともに組織など保っていられる筈がない」
デルタ   「ディスペアが何を思ってクリストファー公爵に逆らうんだか知らねぇけどよ。まぁ、ただで済む筈はねぇわな」
ラムダ   「そう。ディスペアは決して敵に回してはならぬ人物に相対しようとしているのだ
       賢い選択肢でない事は貴殿達にも判断できようというもの」
デルタ   「俺は無駄に戦うのは好きじゃねぇ。金の入らない戦いなんざ労力の無駄、そんなもんに巻き込まれるのは真っ平ごめんだ」
シータ   「ディスペアの勝手さは判ってたけど、痛感したよ。所詮、あたし達とは相容れない存在なんだ」
ファイ   「ファイも? もうお姉様はどうも思ってないのかな?」
ラムダ   「貴殿の読みが甘かったのだという事であろう?私はディスペアにそれ程の期待など最初から抱いてはいなかったのでね
       我々に対する裏切りは想定の範疇なのだよ」
シータ   「仲間だと思ってたのはあたし達だけみたいな言い方してたろ?

       そりゃ、金を貰えるから働いてたってのはあるけどあたしはそれだけじゃなかったよ
       けど、ディスペアに取っちゃそんなものはどうでもよかったって事だろ? 悔しいじゃないか」
ラムダ   「では何かね? 貴殿はあのディスペアを説得しようとでも言うのかね?」
デルタ   「無駄、だろうな」
シータ   「確かにね。今までディスペアがあたし達の意見を聞きいれた事なんてなかったね」
デルタ   「そもそもお互いで意見がすれ違う事なんてなかったろうが
       結局は金さえ手に入れば裏切った仲間だってオレ達は殺してきたんだ。何の疑問も持たずにな」
ラムダ   「だが、このままディスペアの意志に従っていては大公の傘下部隊に駆逐されるのは必至
       我々も何か手立てを考えるべきだとは思わないかね?」
シータ   「何か策があるんだったら話なよ。賛同するかしないかは内容によるけどね」
ファイ   「ファイは誰に着いて行けばいいの?」
シータ   「話次第だよ」
エレクトラ 「そのお話、わたくしも仲間に入れて戴いてよろしいかしら」
デルタ   「・・・っ、あんた。例の依頼を持ち込んできた根源じゃねぇか
       何の用でこんな所にきやがった。歓迎されるとは思っちゃいねぇだろうなぁ、ああ?」
エレクトラ 「・・・嫌ね、本当に男は野蛮で女ははしたないわ? あなた方にとって悪くない話をさせて戴く事が出来ましてよ?」
シータ   「はぁん? 臨終の鐘を通さずにあたし達に直接依頼をしようって事かい?」
エレクトラ 「あなた方は能力が突出しているというのに、いつまであの利己主義な悪魔の傘下で活動を続ける積もりかしら」
ラムダ   「ほほーぅ? 悪くないどころの話ではなさそうだ」
デルタ   「ラムダ、一人で納得していなでオレ達にも説明しろ」
ラムダ   「良かろう、頭の悪いお前達に私からご令嬢の意図を説明してやろうではないか」
シータ   「イチイチ腹の立つ男だね! さっさと説明しな!」
ラムダ   「ご令嬢は我々一人一人の能力を侮れないものだと察知していらっしゃるのだよ
       そして、今の様に上部の顔色を窺い誰かの傘下で自らの能力を無駄にしたまま
       日の当たらぬ暗躍組織などに籍を置き生涯を閉じるのかと、問いかけているのだ」
デルタ   「もっと訳が判らなくなったぞ」
シータ   「回りくどいんだよ!」
ファイ   「ラムダのお話はファイいつも判らないよ?」
ラムダ   「それでは、低能な君達にもっとわかりやすく説明して差し上げようかね?」
デルタ   「そうしてくれ」
ラムダ   「ご令嬢が我々に依頼? いやいや違う。我々日陰者に陽の当たる場所へ出でよと言っているのだよ!」
デルタ   「んぁ?」
シータ   「ん・・・、んん? いよいよ理解出来なくなったよ。ええと、その、つまり?」
デルタ   「こいつは何の呪文を唱えているんだ?」
ファイ   「ラムダは変なおじさーん」
アラウン  「差し出がましい様ではございますが、私からご説明を差し上げてもよろしいでしょうか?」
シータ   「あんた、本当に判るように説明してくれるんだろうね」
アラウン  「私もそれ程学識がある訳ではございません故、少々不安ではありますが・・・、
       エレクトラ様のおっしゃりたい事をこの中の誰より理解している事だけは自負しております」
シータ   「まぁ、そうだろうね。じゃあ、頼むよ」
アラウン  「女神の様にお美しい方からの願い事、聞かざる者がおりましょうか、いーえぇ、おりません」
シータ   「っ・・・(照れ) お、お世辞はいいからさっさといいな」
アラウン  「はい。それではお言葉に甘えさせて戴きます。あなた方の様な人智ならざる能力を持った方々が、

       この様に辺鄙な場所で燻っているのをお嬢様は勿体ないと嘆いていらっしゃるのでございます」
デルタ   「ラムダとさして変わらんぞ」
シータ   「そんな気がする」
アラウン  「つまり、臨終の鐘の幹部並びに工作員をやめて

       個人でもっと有益な組織を作る事に協力をさせて戴きたいとの、ありがたい仰せなのでございます」
デルタ   「個人の、組織・・・?」
アラウン  「人の下で働く? その様に勿体ない現状に何故甘んじていらっしゃるのでしょう
       あなた方には、それぞれ人の上に立ち指示を仰ぎ、人を遣う才覚がございます
       エレクトラ様のご助力により、一人一人の組織をお持ちになればよろしいのでございます」
シータ   「個人の・・・。あたしの組織」
アラウン  「さようでございます」
ファイ   「ファイ・・・、判んない」
アラウン  「あなた様を姫君に出来ると仰せになっておられるのでございます」
ファイ   「ファイ、お姫様になるの?」
アラウン  「お嬢様、この様な説明でお間違いないでしょうか?」
エレクトラ 「結構よ。ご苦労様」
デルタ   「つまり、俺が自分の組織の頭領になれるって事か」
エレクトラ 「そうね。その様に援助しましょう」
アラウン  「能力のある者の無駄遣いは天の命に背くも同じ。その様な背徳は許しがたい」
デルタ   「俺は臨終の鐘をやめるぜ。

       自分のやりたい放題できる場所が出来るってのに、こんな片田舎であんな小娘に従ってなんかいられるか」
シータ   「言葉は粗野で下品だが、私もデルタと同意見だよ、けど、あたしは・・・」
ラムダ   「シータ! 何を悩む必要がある!」
シータ   「あたしん所は傭兵団なんだよ! 自分の工作員だって居る。そんなに簡単には決められないよ」
エレクトラ 「そう、あなたは自分の軍を持っているのね。ではそのまま大公にお仕えする機会も作って差し上げましょう」
シータ   「え」
エレクトラ 「こんな将来の保証など何もない暗躍組織などではなく、正式に国の軍として雇用されるのも一つの選択ではないのかしら」
シータ   「正規軍に・・・?」
エレクトラ 「ええそうよ? 待遇は想像の範疇を超えるのではなくて?」
シータ   「そう、だね・・・。正規の・・・」
エレクトラ 「ただし、条件があるわ」
シータ   「当たり前だね。あたしは条件次第だって言っておくよ。人の命を預かってるんだ」
エレクトラ 「わたくしがこれから話す指令はクリストファー公爵の言葉だと思ってお聞きなさい」
ラムダ   「ふうむ、大公の威厳を笠に着るとは大した僭称者だなぁ」
エレクトラ 「一つは臨終の鐘を抹消なさい」
シータ   「はぁ、そう来るとは思ったよ。そうでなきゃあのおっさんは困った事になんだろ?
       色々ヤバそうな事ばっかしてるらしいしディスペアは抜け目ないから弱味を握ってる
       臨終の鐘が今回裏切るってんなら、抹消しないとまずい」
エレクトラ 「そうね、あなたの言う通りよ。けれど条件は一つではないわ」
デルタ   「一つの交渉にいくつも条件を持ってくるたぁ、ちょっと欲張り過ぎだなぁ」
エレクトラ 「当然ね、あなた方にとってこの機会を逃せば二度と手に入らない希少価値の高いものをわたくしは提供しようというのだもの」
デルタ   「確かにな」
エレクトラ 「臨終の鐘の抹消には建物や財産も含まれるわ」
デルタ   「って? どういうことだ」
エレクトラ 「情報の抹消。書物や帳簿その他大公に関する物は全て抹消しなさい。一つの洩れも許さないわ。簡単に言うなら設備の焼却」
ラムダ   「戦に負けた国家は城を焼かれ洗われるというもの、当然の対処であろうな」
シータ   「その程度なら、やって出来ない事はない。で? それだけか」
エレクトラ 「いいえ」
ラムダ   「ディスペアの殺害であろう?」
デルタ   「アホか。臨終の鐘を裏切るって事はそれありきだろうが」
シータ   「得意満面で言う事じゃないね」
ファイ   「ディスペアお姉様を殺すの? うーん・・・、ファイは・・・」
エレクトラ 「そして、あなた方は今回臨終の鐘に依頼した内容も請け負わなくてはならないわ」
シータ   「義勇軍を含むラッセル・R・クロスの討伐。あたしの得意分野だよ。元々臨終の鐘が請け負うなら依頼を貰う気でいたからね」
エレクトラ 「そう、頼もしい事ね、結構よ。もう一つ」
ラムダ   「まだあるのかね? さすがに強欲が過ぎるのではないか」
エレクトラ 「どの案件も重要なのよ。外す事は出来ないわ」
デルタ   「報酬は倍にして貰おうか」
エレクトラ 「いい待遇を差し上げられてよ? 最後の依頼は王太子抹殺」
シータ   「・・・っ?!」
デルタ   「・・・、な、んだって?」
ラムダ   「・・・、ふ・・・、ふふふ、ふはははは!! 面白いではないか!
       大公はまさにクーデターでも起こそうというのか?! 面白い! 非常に愉快だ!」
シータ   「今回の件とは全く関係ないだろ? なんでそんな無茶振りすんのさ」
エレクトラ 「いいえ、あなた方は既に王太子と面識があります」
デルタ   「覚えがねぇなぁ」
エレクトラ 「ここの工作員として働いていますもの」
ラムダ   「ふぅむ、なるほどなるほど? 私の情報の範疇で推測するならば、シグマが王太子という事になろうなぁ」
エレクトラ 「違うわ」
ラムダ   「なんだと?! 私の推論が外れた、だと? その様な事があってなるものか!
       仮面を着けていられる立場で今この場にいない彼以外にはありえないだろうがあぁ!」
シータ   「注目点が狭すぎるよ、あんた」
ファイ   「ファイ知ってるよー? ディスペア姉様が王子様って呼んでた人がいるよ?」
シータ   「王子様、って? ファイ、誰の事を、そう呼んでた?」
ファイ   「シアン。ディスペア姉さまといっつも一緒にいるの
       時々、笑いながら王子様とか殿下とか呼んでるから冗談かと思ってたけど、本物の王子様だったんだね」
デルタ   「シアン、か。確かに粗野な振りはしているが育ちの良さは隠しきれてはなかったなぁ」
ラムダ   「君達の情報収集能力と判断力を試したのだが、

       いや引っ掛からずに見事核心をついて来るとは、さすが臨終の鐘の幹部を長くやっているだけの事はある、素晴らしい」
シータ   「あんた、素で間違えたろ。潔く認めな」
ラムダ   「どうでも良いではないか、その様な事。王太子を殺し、大公の目障りな義勇軍を潰し!

       臨終の鐘での我々の過去を全て消し去り我々は新天地を迎える事が出来るというのだ!

       従わない手はないではないか! うはははははは!!」

 

 

 

エレクトラ 「彼女はどう?」
アラウン  「この3日、水も食事も与えておりませんので、さすがに衰弱しております」
エレクトラ 「そういうのは人並みなのね。あぁ、そう言えばあなたも食事するわね」
アラウン  「人界に足を着いた時点で天使であろうと悪魔であろうと等しく人界の掟に組み込まれます」
エレクトラ 「別にどうだっていいわ。そんなこと聞いてない」
アラウン  「それは失礼いたしました。さて、イプシロンですが万が一に備え手足は拘束しております。
       が、おそらくその必要もないくらいには疲弊しているでしょう
       しかし、弱音を吐かない所などはさすが暗躍組織の工作員」
エレクトラ 「ディスペアは心配しているかしら」
アラウン  「併せて様子を窺ってはおりますが、工作員の身柄はディスペアにとってあまり興味のある対象物ではないのでしょう。

       大して気にしておりません」
エレクトラ 「気に入らないわね」
アラウン  「私も少々は彼女を大切にしていると思っておりました故、ディスペアの落ち着きぶりが気になっております」
エレクトラ 「判ったわ。じゃあ、完全に奪い取ってやるしかなさそうね
       わたくしを淫売扱いした事、彼女を失った事実と共にたっぷり思い知って後悔すればいいわ」
アラウン  「ようやくその決断をなされましたか、エレクトラ様。その思いにより新たなる未来が描かれようとしておりますぞ」
エレクトラ 「ふふ・・・、何が見えるの?」
アラウン  「みなまでは申しますまい。エレクトラ様がその目でたっぷりとご覧いただければよろしい事でございます」

 

 

イプシロン 「・・・っ、私を捕えた所でディスペア様は何も感じたりしないわ」
エレクトラ 「どうやら、そうみたいね。がっかりだわ。あなたもそうではなくて?」
イプシロン 「私はディスペア様に対する想いに見返りなんて求めない!」
エレクトラ 「それはそれは、見上げた奉仕精神ね」
イプシロン 「あなた達の安っぽい考えで全ての物が思い通りになるなんて奢りは棄てるべきね」
エレクトラ 「マスターのディスペアだけでなくあなたまでわたくしを侮辱しようというの」
イプシロン 「今まで私は臨終の鐘で色々な依頼に来る客を見て来たわ。汚い人間たちだって沢山いた。

       依頼が成功したのにもかかわらず成功報酬を納めない人間もだけど、あなた達はその誰よりも醜くて汚い!」
エレクトラ 「ねぇあなた。随分とディスペアに入れ込んでいるようだけれど、まさか、信頼とか忠義心とか・・・、

       愚かな気持ちを持っている訳じゃないでしょうね」
イプシロン 「あなたは・・・、人を信頼する事が出来ないのね。可哀想な人」
エレクトラ 「可哀想なのはあなたね。信頼なんて何の意味もないというのに」
イプシロン 「本当の信頼を知らない人間の言葉だわ」
エレクトラ 「悪魔よ? ディスペアは悪魔なの。愛情? 信頼?
       そんなものが通用と思っているの?」
イプシロン 「じゃあ何故あなたはどうしてそこの悪魔と一緒にいるの?」
エレクトラ 「悪魔と一緒にいる人間が全て同じだと思わない事ね。あなたとわたくしには決定的な違いがあるわ。
       わたくしは自分の手駒としてアラウンを使役しているの」
イプシロン 「勘違いしてるのね。悪魔は人間などには決して従わない。
       あなたの傍に彼がいるのは自分の利益になるからよ。あなた、完全に彼に取り入られているわ。
       悪魔に憑りつかれた人間にこの先の未来なんてないわよ」
エレクトラ 「ディスペアも気に入らないけれど、あなたはもっと気に入らないわ。もう、殺してあげるわね」
イプシロン 「そんな事、捕まった時に覚悟したわ、好きにすればいい
       けれど、そんな事でディスペア様を傷付ける事は出来ないわ」
エレクトラ 「さぁ、どうかしら? 悪魔にも感情があるらしいもの。あなたの遺体の一部をディスペアに送り付けたらどうなるかしら?
       嘆くべき対象が手元にあるのと無いのとでは違うのよ?」
イプシロン 「っ・・・?! 死んだ後にまで・・・!」
エレクトラ 「きれいに死ねるだなんて思わない事ね。ディスペアをわたくしは決して許さないわ」
イプシロン 「やめて・・・」
エレクトラ 「あら、声音が変わったわね?」
イプシロン 「自分の為に私が殺された事を知ったらディスペア様が壊れてしまう!」
エレクトラ 「まぁ、そうなの? いい事を聞いたわ。壊れてしまえばいいのよ」
イプシロン 「やめて! ほんの少しだけど、些細な気持ちだけど!! ディスペア様は私に笑いかけてくれるの!

       それだけが救いなのに!」
エレクトラ 「そうなの。尚更いい材料ではなくて?」
イプシロン 「私はもう覚悟していたって言ってるでしょう?! 殺すなりなんなりすればいいわ!」
エレクトラ 「勿論、好きにさせて戴くわ」
イプシロン 「でも死体を送りつけるなんてやめて! 私が裏切ったと思ったって行方不明になったってディスペア様は生きて行ける!
       でも死体なんて見たらディスペア様が壊れてしまう!」
エレクトラ 「ふふふ・・・、必死ね。でももう決めたの、わたくし。
       それより、仮面越しで話されているのが不快だわ。外しなさいな」
イプシロン 「っ! やめて! 仮面は外さないで!」
エレクトラ 「死にゆく者の顔くらい覚えておいて差し上げようというのよ。わたくしの好意を無駄にしないで戴けるかしら?」
イプシロン 「いやああああああ!!」
エレクトラ 「ひっ!!!」
イプシロン 「あ・・・、あ」
アラウン  「なんとこれはこの世の醜さを束ねた様な面相ではありませんか」
イプシロン 「いや・・・、いや! 見ないでぇ!!」
アラウン  「火が怖いとはそういう訳でしたか、なるほどなるほど?

       火傷で鼻は溶け、唇はめくれあがり、ただれ落ちた頬。なんと・・・、なんと醜い」
エレクトラ 「う・・・、ぐ、汚らしい!」
アラウン  「お嬢様には少々毒が強すぎますねぇ」
エレクトラ 「こんな醜くなってまで、あなた生きていたいと望んだの?」
イプシロン 「あなたに、何が判るっていうのよ!」
エレクトラ 「・・・、ふふ、ふふふ、あははは・・・、じゃあもしかしてその見事なブロンドはウィッグなのかしら?」
イプシロン 「いや! いやああ! これ以上見ないで!」
エレクトラ 「いやぁだぁー・・・、あはは、汚いわ。醜いわ。化け物の様気持ち悪―い」
イプシロン 「もう、やめて・・・」
エレクトラ 「焼けただれた手首一つでも送り付けたら、組織はあなたがどうなったか判るって事よね」
イプシロン 「やめて! 本当に! お願い! 他に私に出来る事なら何でもするわ!」
エレクトラ 「残念ねぇ・・・。もう、死になさい」
イプシロン 「かはっ!」
エレクトラ 「わたくし力がないから、首を切るしか出来ないのだけれど、苦しい? ごめんなさいね」
イプシロン 「か・・・、あ、ぁ・・・、は・・・。お・・・、ねが、い・・・」
エレクトラ 「さぁ、ディスペアの反応が楽しみだわ。うふふふ、ふふふ、あははははは」

 

 

 

ラムダ   「シータ、デルタ、ファイ。心は決まったかね?」
デルタ   「俺はもうとっくに決まってるぜ? 未来のない組織にこれ以上居たって何の得もありゃしねぇ」
ラムダ   「結構な判断であるな」
シータ   「まぁ、あたしも決まったよ。長いものには巻かれろってね。けど、ラムダあたし達が協力するのは報酬を受け取るまで。
       それから以降は、一切の関わりを絶たせて貰うよ」
ファイ   「ファイはもう決まってるよー。だって怖い人達が沢山来るんでしょう?
       嫌だもんそんなの。ディスペアお姉さまの事は好きだったけどもう要らなーい」
シータ   「あっさりしてるんだね」
ファイ   「ファイはね痛いの嫌―い。怖いのも嫌―い」
デルタ   「ガキの癖に戦闘力が一丁前ってのが怖ろしいよな」
シータ   「戦闘になると残酷だからね」
ファイ   「んふふ、だってファイにはもう何も失くす物がないんだもーん。全部、全部ファイが棄てて来たんだよ」
ラムダ   「そう言えば、何故この様な幼子が暗躍組織で、工作員に留まらす幹部などと言う
       立場にいるのか、今まで聞いた事も無かったが、どういういきさつがあったのかね?」
ファイ   「ファイは家族がいないの。みんなファイが殺したんだよ?」
シータ   「・・・って、家族を・・・?」
ファイ   「ファイの手を噛んだ犬も腕を引っ掻いた猫もみんな殺したの
       そしたらね、ファイの
女家庭教師(カヴァネス)がそんな事はしちゃダメだって怒ったの
       ファイのほっぺた叩いたんだよ? だから
女家庭教師(カヴァネス)も殺したの」
デルタ   「狂気って奴か。無邪気で純粋な程その度合いが高くなる、とは聞いた事はあるが」
ファイ   「うふふ、お兄ちゃんはねファイを変な目で見て怖がってた
       花瓶投げ付けられて足を怪我したんだよ? 痛かったの、だからお兄ちゃんも殺した」
ラムダ   「さすが臨終の鐘の幹部で、悪魔の力を持つに相応しいではないか
       家族殺し! それ位の迫が無ければ我々の同志とは言えぬ!」
ファイ   「ママもパパもみんなみんなファイの事を責めて酷い事言うから殺しちゃった
       みんなみーんな、ファイを苛める奴は死んじゃえー。あははは、あはははは」
シータ   「ファイ・・・」
シグマ   「遅くなって済まなかった、少し所用があって実家に帰っていたんだ」
シータ   「シグマ、遅いじゃないか」
ラムダ   「こんな組織にいる癖に実家があるなど貴殿くらいの物だろうな、シグマ」
シグマ   「まぁ、な。相応の事情がある。で? 呼び出した理由を聞こうか
       幹部を全部揃えて物々しいな。・・・、イプシロンは来ていないのか」
シータ   「イプシロンはしばらく前から連絡がつかないよ」
シグマ   「そうか」
ラムダ   「さて、我々も余り時間の余裕があるとは言えない状況になって来ているのでねぇ。早速本題に入らせて貰おうか」
シグマ   「そうしてくれ」
ラムダ   「ディスペアに対する貴殿の忠義心も判らなくはないが・・・」
シグマ   「じゃあ済まないが、まずその鬱陶しい喋り方をなんとかしてくれないか。真面目な話し合いの為に」
ラムダ   「私は十分真面目な積もりだが?」
シグマ   「そうか、すまない。しかしラムダ、人生の7割をその口調で損しているな」
ラムダ   「やかましい。では短気な貴殿の為に手っ取り早く話すが、先日我々に神の啓示に似た素晴らしい話が合ったのだよ
       悪魔だか人間だか知らぬがあの様な訳の判らぬ存在の為に身を粉にして従い人道に外れた行為を続ける事なかれと!
       即ち、幾つかの試練を共に凌がねばならぬだろうが、その先にある輝かしい未来を」
シグマ   「手っ取り早く言うと! ディスペアを裏切ってラムダの傘下に下れ、とそう言いたいんだろう!」
ラムダ   「私がわざわざ言葉をオブラートに包んで穏やかな話し合いになるよう努めているというのに!

       それを台無しにするとは空気の読めない輩だ」
シグマ   「手っ取り早くとオブラートに包んだ物言いは決して相容れない。平行線を辿る一途だぞ」
ラムダ   「人の揚げ足ばかりを取る、真面目に話し合おうという姿勢が感じられないが、まぁいい。
       答えを聞こうではないか。打算的な貴殿の事だからこの提案に異論はないだろうが一応返答を聞いておこうでは・・・」
シグマ   「断る」
ラムダ   「ふむ、そう言うと思ったよ。無論だが、今回クリストファー公爵から受け取る報酬だが5千ポンドを5人で・・・、
       ・・・? なんと言った?」
シグマ   「断ると言った」
ラムダ   「なーぜーだーぁ。貴殿の様な機智叡智にとんだ人間の判断とは思えんな。
       我々千載一遇のチャンスを棒に振るとは損得勘定がまともに出来ないのかね? このまま組織と心中でもする積もりか?」
シグマ   「千載一遇のチャンスだとか、損得勘定だとか全く意味が分からないな
       なんの儲け話をしている。臨終の鐘の幹部がこんな所に揃いも揃って雁首付き合わせて

       他の悪魔の奸計に乗せられるとは情けないと思わないのか」
シータ   「・・・っ、シグマ。あんた・・・」
シグマ   「イプシロンの言葉をどう聞いていた。
       輝かしい未来だって? 私達の手はとっくに汚れた血で染まっている
       今更血で血を洗うような真似をした所で日陰者の汚名をすすぐ事ができると思っているのか」
ラムダ   「もっともらしい事を言って我々を洗脳しようという魂胆か? シグマ
       我々には約束された未来があるのだよ」
シグマ   「誰に立てられた約束なのか概ね見当は付いているが、信じるとは低能にも程がある」
ラムダ   「随分とディスペアに傾倒した意見を押し付けて来るではないか?
       もしや貴殿、ディスペアに恋慕の念を抱いているのではなかろうな?
       いや、そうなのだろう。全く愛や恋などと言う代物は非効率的で物事の正しい認識を奪い去る、もっとも忌まわしい代物だな」
シグマ   「ラムダこそ稚拙な考えで私を計るのはやめてくれ。交渉は決裂だ
       私のせめてもの温情としてこの件はディスペアに報告しないでおいてやる。もう一度、良く考え直すんだな」

 

シータ   「シグマ!」
シグマ   「シータ。どうしました、考え直しましたか?」
シータ   「あんた、本気でディスペアに惚れてんじゃないだろうね」
シグマ   「そんな物じゃない、とさっきも言った」
シータ   「じゃあ、どうして未来なんて見込めない臨終の鐘に残るなんて言うんだ」
シグマ   「未来がないと、誰が決めた?」
シータ   「・・・っ、それは」
シグマ   「自分の未来は自分で切り開く」
シータ   「あたしはあんたと戦いたくなんてないんだ! シグマ」
シグマ   「シータ、あなた方はとっくにタブーを犯しています。制裁対象なら私はあなた方を殺します」
シータ   「あんたの事が好きなんだ!」
シグマ   「・・・、だから自分だけは見逃して欲しいと?」
シータ   「なんでそんな歪んだ考え方をするんだ!」
シグマ   「生き延びたいなら私情を棄てなさい。私は手加減をしません」

 

デルタ   「シグマの事はもう諦めな。あいつはどうもただの幹部じゃない
       ディスペアとデキてるって訳でもなさそうだが独自の目的を持ってんだろう」
シータ   「独自の目的ってなにさ」
デルタ   「そこまで知るか」
シータ   「でも、シグマはディスペアの意見も反対しようとした。何でもかんでも言う事を聞いているのとは訳が違う」
デルタ   「だから、組織と一緒にさようならって訳にゃいかねぇって? 放っとけよ。ただでくたばる奴じゃねぇだろ?」
シータ   「あたしは、あんたやラムダみたいに割り切れないよ」
デルタ   「食い下がって落ちる男じゃねぇだろ?」
シータ   「なんなんだろうね、無欲なのか何か計画があるのか」
デルタ   「ストイック野郎の考えるこた俺らにゃ判らねぇ。だがお前は振られたんだよ。潔く認めな」
シータ   「あんたにそんな事言われなくても、判ってるよ」
デルタ   「納得してる顔にゃ見えねぇけどな」
シータ   「もう、あたしの事はいいよ。それよりデルタ、なんか用事があったんじゃないのか?」
デルタ   「ラムダが呼んでるぜ。作戦会議だとよ」
シータ   「作戦って・・・」
デルタ   「あいつはもう戦う気満々だ」
シータ   「もう少ししてから行くよ。少し一人にして」
デルタ   「いくら考えたって答えなんか出ねぇぞ」
シータ   「判ってるから! 一人にして!」
デルタ   「ヒステリーに付き合ってられっかよ、さっきのシグマの言った通りだ。お前はもうタブーを犯してる
       ディスペアに取っちゃ敵以外の何でもない。次にディスペアに会う時はあいつに殺されるか自分が殺すかの覚悟をしときな」
シータ   「なんで、あんた達はそんなに簡単に割り切って棄てる事が出来るんだよ
デルタ   「そうでなきゃ、自分が殺されっからだろ。お前、自分の生き様がどんなもんか理解してなかったのか?
       お遊びの女王様ごっこに付き合わされる工作員に同情するぜ」
シータ   「そんな積もりじゃ!」

デルタ   「甘ったれんのもそこら辺にしときな。自分の配下の命握ってんのはお前だろ。お前の優柔不断が配下の工作員の命をなくす」
シータ   「・・・っ! 今からでも! ディスペアに」
ラムダ   「何の話をしているのかね? シータ、それにデルタ」
デルタ   「俺は甘ったれた事言ってるこの女に現実を突き付けてやったてただけだぜ?」
ラムダ   「シータ?」
デルタ   「俺はファイの様子でも見て来るわ」
ラムダ   「今から、ディスペアに・・・。どうする積もりかね?」
シータ   「謝って、組織の意向に沿うって伝えるんだよ!」
ラムダ   「今更それが許されると思っているとは女の浅知恵とは愚かな事だ」
シータ   「あんたに呼び出されて話は聞いたよ! それだけだ」
ラムダ   「怖気着いたという訳だな?」
シータ   「シグマは本気であたし達を潰しに来るよ」
ラムダ   「ふむ・・・。当然だろうな」
シータ   「あたしは・・・」
ラムダ   「答えは決まったのではないのかね? 貴殿は報酬を受け取るまでの短い期間とはいえ我々と協定を結んだのだよ
       今更前言撤回など許される筈が無かろう?

       我々の目論見を知っている貴殿をそのままディスペアの所へ行かせる程我々が甘いとでも?」
シータ   「もう一度! ディスペアと話をしよう!」
ラムダ   「却ーっ下、である」
シータ   「・・・、言ってみただけだ。大丈夫だよ、裏切ったりなんてしない
       作戦会議だろう? 後でちゃんと行くから先に行っててくれない?」
ラムダ   「よかろう。が、監視はつけさせて貰おう」

 

 

 

ファイ   「おっはな~、おっはな~」
デルタ   「なんだそりゃ」
ファイ   「ラムダがお屋敷の周りが寂しいから植えて来いって言ったの」
デルタ   「はぁ?」
ファイ   「きれいでしょ、ね、オレンジ、ピンク」
デルタ   「爆弾、入ってんのか。なるほど」
ファイ   「このお花爆弾なの?」
デルタ   「だな」
ファイ   「全部置いたから、ラムダの所に行こうか」
デルタ   「爆弾と聞いても全く驚きゃしねぇ。不気味なガキだ」
ファイ   「デルタまでファイの事気持ち悪いっていうの?」
デルタ   「あん?」
ファイ   「だったら許さないよ。このお花デルタのお口に突っ込んで起爆装置押すから」
デルタ   「あぁ、悪かった悪かった。そういうんじゃねぇよ
       ガキの癖に肝が据わってて、ディスペアは戦闘員として重宝してたから惜しい事したなって」
ファイ   「本当に?」
デルタ   「あぁ、本当だ。ち・・・、おそろしいガキだ(小声)」
ラムダ   「ファイの様な子供にビクつくなど、デルタも案外小心者だなぁ」
デルタ   「純粋な殺人鬼ほど怖ぇもんがあるかよ。ファイは殺して何かを得ようとしている訳じゃない」
ラムダ   「そうとも、であるからして我々には欠かす事の出来ない重要な戦力なのだよ」
ファイ   「ラムダはファイが必要? ね、必要?」
ラムダ   「あぁ、必要だとも。貴殿程、今回の作戦上必要な存在はいない」
ファイ   「嬉しいな! ラムダっていうのが気に入らないけど」
ラムダ   「何が気に入らないのかね? 私程貴殿の能力を熟知し上手く使いこなせる人間はおらんぞ」
ファイ   「ファイの能力?」
ラムダ   「いかにも、そうである。俊敏さ、跳躍力、そのどちらも我々の適う所ではない」
ファイ   「ラムダはのろいもんね!」
ラムダ   「私には人並み外れた計算力があるのだよ。俊敏さはさして必要ではない」
ファイ   「でも、ファイ本当はお姉様を殺したくないよ?」
ラムダ   「この期に及んで貴殿まで何を言っているのかね?」
ファイ   「だってお姉様のお目々、とっても綺麗」
デルタ   「オッドアイ、か」
ファイ   「死んじゃったら、そのお目々も見られなくなっちゃうでしょ?
       お姉様は全部きれい。だから、本当はファイの言う事を聞かせるお人形にしたいの」
ラムダ   「ふん、生きている女などきれいな物か」
ファイ   「死んだ人が好きなんてラムダがよく判らないよ」
ラムダ   「死こそ人のあるべき姿なのだよ。我々は生まれたその瞬間から死ぬ為に時を重ねているのだ」
ファイ   「変なの」
ラムダ   「死の甘美なる誘いを知るにはファイはまだ幼な過ぎるな」
デルタ   「お前のその変な哲学だか趣味だかどうでもいいから作戦を考えようぜ」
ラムダ   「ふぅむ。シータが戻ってこないがまぁいいとしよう
       今まで我々は幹部として他の工作員を使う事はあったが、貴殿達と同じ仕事をともに片付けるという事は無かった」
デルタ   「チームワークの面から行くと圧倒的に不利だわな」
ラムダ   「ならば個人で特性を十分に生かしてディスペアを叩くのが良かろう」
ファイ   「それって一人ずつ戦うって事?」
ラムダ   「いかにも」
ファイ   「確かにファイはラムダとかデルタとかと一緒に戦うのは嫌かな
       シータは変なおじさんをいっぱい使うからファイには判んないし」
ラムダ   「ファイに植えて貰った花が爆破がディスペアへの宣戦布告だ」
デルタ   「暗殺なんざ通用する相手じゃねぇからな、森を活用して戦えってか」
ファイ   「はーい。じゃあ、ファイ遊びに行ってくる!」
ラムダ   「ふふふふふふふふふふ」
デルタ   「どうした、ラムダ。悪いもんでも食ったか」
ラムダ   「ディスペアを倒すのが楽しみだよ」
デルタ   「悪いな。俺が先にやっちまうからよ。お前は死体眺めてろ」

 

 

 

シアン   「ディスペア、扉の前に届け物があったぞ」
ディスペア 「届け物? なんで直接渡していかなかったんだろ。ん、サンキュ」
シアン   「面倒臭かったか、何かの陰謀か。いずれにしてもまともな届け物ではないだろう
       十分に注意して・・・」
ディスペア 「・・・っ、これ」
シアン   「・・・? ディスペア。どうした」
シグマ   「どう、されました?」
ディスペア 「シグマか、シアン。ごめんだけどさー、この箱開けて貰えないかな」
シグマ   「爆発物かトラップでも掛かっているのですか?」
シアン   「能力を使えば判るんじゃないか? その程度の箱なら大して体力も削がれないだろう?」
ディスペア 「見ようとしなくてもさ、見えちゃうこともあってさ」
シアン   「内容物が判っているなら、躊躇う事はないだろう。まぁ、別に危険な物ではないというのなら開けても構わないが」

シアン   「・・・っ?! こ、これは・・・?! 人の、手か? 焼けただれている様だが」
シグマ   「・・・イプシロン・・・」
シアン   「なんだって?」
シグマ   「・・・イプシロンは全身に火傷を負っており、ここの幹部である証明の仮面が彼女を守っていました。

       肌一つ見せなかった彼女の最後の救いだったんです」
シアン   「では、イプシロンは、殺されたという事になる」
シグマ   「手首を切り落とされても手の施しようで生きる事は可能でしょう、が・・・、おそらく生きている事は無いでしょう」
シアン   「・・・、そうか。ん?・・・、カードが入っている」
ディスペア 「なんて書いてある?」
シアン   「大公の威光に対する謀反とみなし臨終の鐘に制裁を下す
       様々な侮辱は許されない。彼女の様になりたくなければ大人しく投降すべし
       残りの遺体はオブリージュ橋にて受け取られよ、と」
シグマ   「何故、オブリージュ橋などに」
ディスペア 「ごめん。引き取りに行って貰ってもいい? シグマ、シアン」
シグマ   「判りました。シアン手伝って戴いてもよろしいでしょうか」
シアン   「嫌な予感しかしないが放置する訳にも行かないだろう。手伝おう」
ディスペア 「ホント、ごめん」
シアン   「ディスペアから謝罪とは、調子が狂うじゃないか」
ディスペア 「うん」

 

 

ディスペア 「イプシロン、君さ。罠だって判ってるなら相談して欲しかったな」
イプシ(M)「私は、本当は臨終の鐘の工作員なんて出来る素質なんてないんです。
       でも、食事を作るのは得意なんですよ。食べたい物があったら言って下さいね」
ディスペア 「イプシロンのご飯、好きだったよ。すごくおいしかった」
イプシ(M
)「貧相な家に育った私には学も何もない。運動神経だっていい方じゃありません
       人見知りも激しくて生きて行くのも困難なくらいだったのに」
ディスペア 「はは、謙遜しすぎだっての
       くだらない事ばかり喋る阿呆なんかより君の言葉はずっと価値があった」
イプシ(M
)「覚えていますか? ディスペア様。私と出会った時の事」
ディスペア 「忘れたりなんてしないよ」
イプシ(M
)「私達の居住区でもあった地域が大規模な火事で沢山の人達が焼け死にました。私の両親も死にました」
ディスペア 「酷い火事だったもんね、あれ」
イプシ(M
)「私自身も全身に火傷を負い苦しんでた時、ホントに気まぐれだったんですよね。
       ディスペア様が手を差し伸べて『一緒に来る?』って聞いてくれたんです」
ディスペア 「そう、気紛れだよ。同情や憐憫とやらを経験してみようかなって思っただけ」
イプシ(M
)「それでも路頭に迷っていた私に、生きる価値があるかどうかも判らない私に道を作って下さったんです」
ディスペア 「そんな大層な言い方しないで欲しいな。僕の気紛れに付き合わされて大変だったでしょうに。ホントにバカだなぁ」
イプシ(M
「戦闘は苦手だけれどディスペア様の力を少し分けて戴いたおかげで

       人より少し早く動けるからまだ足手まといにはなっていませんよね」
ディスペア 「足手まといだなんて思った事は無かったよ。だって君はいつでも僕を見てたから僕を良く知ってただろ?」

 

 

シグマ   「戻りました、ディスペア」
ディスペア 「ああ、お帰り、シグマ。シアン。どうもありがとう。布に、くるんでくれたんだ・・・。それとも、最初から?」
シアン   「・・・、いや。全裸でオブリージュ橋の欄干に吊るされていた。野次馬が集まって騒いでいたのだが、

       ・・・その、済まない。焼けただれた遺体を気味悪がって、誰も降ろそうとはしなかったんだ」
シグマ   「とっさにシアンが布を買いに走ってくれました」
シアン   「今更隠し立てした所で、彼女への冒涜を消す事は出来ない」
ディスペア 「生きている間は、決して僕にだって見せようとしなかったよ
       死んでしまってからそんな凌辱を受けなければならない理由なんて、イプシロンにはどこにもなかった」
シアン   「エレクトラ・U・アードレイ・・・。唾棄したくなる人間と言うものが存在するとは思わなかったよ」
ディスペア 「・・・、お帰り。イプシロン。もう、誰にも君を辱めさせたりしないからね。苦しかっただろう」
シグマ   「・・・っ。ディスペア、私はあの女を許せません」
ディスペア 「許すとか、許さないとか。そんなのどうでもいいよ。どの道あの下衆女を殺さずに済む道なんてないんだからさ
       必要なのはね、シグマ。どう殺すか、だけだ」
シアン   「素直に仇を取る、と言えないのか。相変わらずの天邪鬼だな」
ラムダ   「んディーースペアーーー!!」
シアン   「うざっ」
ラムダ   「依頼主を殺すなどと言うたわけた発言が聞こえたのだが? 私の気のせいかね?」
シアン   「ラムダ、と言ったかな? いつもテンションが尋常じゃないのは結構だが、TPOを弁えてくれないか」
ラムダ   「前々から思っていたのだがな、シアン。

       私とて若輩者が犯す若気の至りと言うものを理解してやる温情と言うものは当然持ち合わせている」
シアン   「話の意図が全く見えて来ないのだが」
ラムダ   「少々ディスペアと仲がいいからと我々幹部に対する暴言が過ぎるなぁ? んん?
       若いから許されるとでも思っているのかね?」
シアン   「いや? 何を言いたいのかさっぱり判らないが、僕とディスペアが仲良しとはいささか吐き気を催さないか、ディスペア」
ディスペア 「ん、仲良くはないけどそれについては激しく同意するかなぁ」
ラムダ   「ディスペア、貴殿はどうやら幸福の女神からの祝福を受けるには余りに横暴が過ぎたようだ
       女神は私に微笑み貴殿は何の加護も得られず永遠の暗闇を彷徨う事になるだろう」
シアン   「さて、いよいよ謎めいてきたぞ」
ラムダ   「元より当主の器でない者が実権を握れば組織は乱れる。私は歪んだ現状を正すべく選ばれたのだよ」
ディスペア 「シグマ、翻訳」
シグマ   「あんたを殺すんだそうです」
シアン   「そんな物騒な話だったのか、驚いた」
ディスペア 「判った」
シグマ   「はぁ・・・、全く毎度毎度・・・、あんたはそれでいいんですかー!!」
ディスペア 「良いも悪いもないよね。殺さないで下さいって懇願してラムダが見逃してくれるとは思えないし
       僕もそんなみっともない真似したくないしね。ラムダに懇願とか、犬のクソ踏むより屈辱的だもん」
シアン   「僕なりの解釈で済まない。即ち彼は君を殺しこの臨終の鐘を乗っ取るという解釈で間違いないかな
       あくまで彼の希望的観測ではあるが」
ディスペア 「知らないよ。ラムダの言う事なんて興味ないもん」
シグマ   「ほぼ間違いないと思いますよ」
シアン   「組織の管理なんて当初の予測など遥かに上回る熾烈さだろう。どこの組織にも調和を乱したがる暗愚な輩がいるものだ」
ディスペア 「君の様な弱卒に言われなくてもそんな事、重々承知しているさ」
シアン   「僕は組織の幹部でもなんでもないが、ここ以外で僕の望むだけの情報量を得られるとも思わない。無くなるのは非常に困るな」
ディスペア 「僕の知った事じゃないよ。けど、僕はラムダに殺される積もりない」
シアン   「利害の一致により協力させて戴こう」
ラムダ   「丁度いい、一緒に抹殺させて貰おうではないか! レイモンド・グレーフェンベルグ・ヴァレスティア!
       ブーデロンの第一王位継承者、貴殿の命も共にこのラムダが申し受ける!」
シアン   「せっかくの申し出だが、断らせて戴こう。ディスペア、新しい情報が加わったな。
       彼はどうやら正規ルートではない依頼を受けているらしい、依頼主は、あの女か」
ディスペア 「はーん、協力じゃないよね。ねぇシアン、守ってあげようか?」
シアン   「無駄金を払う積もりはない」
シグマ   「ディスペア! シアン! 建物の外に出て下さい!」
ディスペア 「・・・っ!」
シアン   「?!」

シアン   「く・・・、は・・・っ、間一髪。ディスペア、シグマ大丈夫か!!」
ディスペア 「ご心配どうも」
シグマ   「私は大丈夫です!」
ディスペア 「あーあ、爆破とか派手にぶっ壊してくれちゃって。これ一応僕の資産の一つなんだけど」
シアン   「怪我がない事を幸いとしろ!」
シグマ   「ディスペア! ラムダは私たちと話し合いの場を設ける積もりは無さそうです」
ディスペア 「へぇ。デルタ、シータ、ファイまで僕を殺そうってんだ。いいよ、相手してやろうじゃん、手加減はしない」
シアン   「?! 消えた? ディスペア?!」
シグマ   「ディスペアが本気で動けば人間の視覚でとらえる事は出来ません!
       シアン、あなたは自分の身を守って下さい! あなたも狙われています!」
シアン   「ほぉ? なるほど。ディスペアに続くぞシグマ!」
シグマ   「?! 速い!」
シアン   「僕もようやくこのディスペアから奪い取った悪魔的能力とやらを使えるという訳だ」
シグマ   「あなたも血の契約を? いつの間に?!」
シアン   「無理矢理さ。お互いの指を切って傷口合わせたんだ。ディスペアに変態と罵られたよ」
シグマ   「我々幹部と変わらないという事ですね」
シアン   「君はどうするんだ、シグマ。僕もディスペアも連中のターゲットだ。だが君は違う。連中側に着く事は考えないのか」
シグマ   「私は彼らとは違います。この臨終の鐘はディスペアだけの物ではありません」
シアン   「価値観の問題か、片が付いたらゆっくり聞かせて貰おうじゃないか。取り敢えず背後から襲われる危険性はないという事だな」
シグマ   「ディスペアの援護に回ります」

 

 

 

ディスペア 「デルタ。巨体の割に俊敏、んで怪力」
デルタ   「さすがに一発目は避けるか!」
ディスペア 「その馬鹿でかい剣でぶっとばされたら脳漿飛び散るだろうからね!」
デルタ   「大人しく殺されな! ディスペア!」
ディスペア 「ねぇねぇ、ラムダになんて言って唆されたの? 
       お金沢山貰えるって? それともいい女抱けるって? それとももっといいもの?」
デルタ   「その全部だよ! お前ぇみたいな小便臭いガキにこき使われんのなんざもう真っ平だ! つぉおりゃあぁあ!!」
ディスペア 「馬鹿みたいに振り回すしか出来ないなまくらは、君にピッタリだね! うっひょ! あっぶな!!」
デルタ   「あぁ、言い忘れてたな! 世話になった! せいっ!」
ディスペア 「どういたしまして! ノースグルドン出身のデスペラードが稼いだね!
       その金はみんな摩っちゃったの? 賭博でさ! それとも女かな!」
デルタ   「女に金は使わねぇよ! いい加減死ねよ! そりゃあ!」
ディスペア 「ああ、君強姦が好きなんだっけ! お断りしまーす

       僕もね、君を野放しに出来ないんだ。責任感とかそういうんじゃないんだけどさ」
デルタ   「じゃあなんだってんだ? 死の間際の言葉だ! 聞いといてやるぜ!」
ディスペア 「特殊能力分けてあげたの僕だしね。自分の目の届かない所で悪さに使われるの赦せないんだよ」
デルタ   「どうせ死んじまったら関係ねぇだろう? とぅ!」
ディスペア 「うん、だから。死んで」
デルタ   「が、は・・・? んな・・・」
ディスペア 「僕の一番愛用してる大型軍用シャベルで殺してあげたんだから感謝してね」
デルタ   「小娘の・・・、どこにそんな・・・、ちからが・・・、ぐっ」
ディスペア 「力技だけで戦ってきたバカは、角度やスピードも計算できない
       どうやら、この世界で君が生き抜いていけたのは運だけだったらしいね、ばいばい、デルタ」


シアン   「援護は要らなさそうだな。と言うか全員裏切った筈だが残りの奴等は」
シグマ   「隣接する森は厄介です。絶好の隠れ蓑ですから
       ディスペアはいいとして、我々はお互いの背中を守る事に専念した方がよさそうです」
シアン   「いや? シグマ。北東を見てみろ、気付かれない様にそっとだ」
シグマ   「・・・ん? あれは・・・」
シアン   「エレクトラなんとかっていう女と、舞台俳優を気取った鬱陶しい悪魔だ。背後に回って捕獲するぞ」
シグマ   「しかし、彼の能力もディスペアと同じく視るものです。我々の行動は予測されているのではありませんか?」
シアン   「所詮は視る能力だろう。ディスペアの様に戦闘能力ではない」
シグマ   「罠を仕掛けている危険性は」
シアン   「あり得るだろう。が、Nothing venture, nothing have. 東洋のことわざだ」
シグマ   「危険を回避していては得るものは何もないという事ですね。私は一仕事してきます」
シアン   「一仕事?」
シグマ   「工作員は幹部だけではありません。また、シータは傭兵部隊を持っています。私はそれらを潰しに行きます」
シアン   「判った。油断するなよ」
シグマ   「あなたも」

 

 

 

ファイ   「えーい。ダイビングぅ!!」
ディスペア 「ハイ、ファイ。相変わらず元気そうで何より」
ファイ   「ファイはね、なんでこんな事になっちゃったのかよく判らないんだ」
ディスペア 「ふーん。そんなに難しい問題じゃないと思うけど」
ファイ   「お姉様、ファイねお姉様を殺さないとダメなんだって」
ディスペア 「うん、知ってるよ」
ファイ   「でもファイはお姉様の事殺したくないよ?」
ディスペア 「へぇ、そうなの? どうして?」
ファイ   「だってファイお姉様の事大好きだもん」
ディスペア 「どんな所が?」
ファイ   「だってファイの事叱ったりしないもん。みんなが悪い子だっていうファイをお姉様は叱らないし痛い事もしないでしょ?」
ディスペア 「どうして叱らないか知ってる?」
ファイ   「んーと、ファイが好きだから?」
ディスペア 「残念外れ。違うんだなぁ」
ファイ   「じゃあ判らない。どうして?」
ディスペア 「どうでもいいからだよ」
ファイ   「どうでもいいから? よく判らない」
ディスペア 「ファイが悪い事してもみんなに責められても僕には関係ないし興味ないし知らない。
       生きててもどこかでのたれ死んでも僕は何にも困らないからだよ」
ファイ   「ファイがいなくなっても?」
ディスペア 「うん。いなくなっても探さないし甘いものでも食べに出掛けてるよ」
ファイ   「えっと、そのお、お姉様はファイより甘いものが好きなの?」
ディスペア 「はは、当たり前。ただ、今は少し違うんだ」
ファイ   「変わったの? どう変わったの? 好きになった?」
ディスペア 「ううん、あのね。邪魔になった」
ファイ   「え。・・・、ファイが、邪魔なの?」
ディスペア 「そう。だからね僕は今からファイを殺すんだよ」
ファイ   「でも、ファイは死にたくないよ。痛いの嫌い」
ディスペア 「だからファイも僕の事殺したくなる様にしてあげるよ」
ファイ   「ファイはお姉様を殺したくならないよ?」
ディスペア 「このナイフで、こうやって、ファイの腕を刺したら!」
ファイ   「きゃああああああ!!! 痛い!!」
ディスペア 「痛いよね、刺したんだもん。ほら血も沢山出てる。ファイの血だよ?
       きれいな赤色してるね。もっとあげるよ。二本三本四本五本。」
ファイ   「いやあああ!! 痛い痛い! や! 血が出てる! いや! いやいやいやいや!!
       痛いお姉様・・・、お姉様嫌い!! 嫌い嫌い嫌い!! 嫌い・・・!! 殺す!!」
ディスペア 「あはは、やっといい顔になった、残虐で自己愛の塊。醜くてきれいな顔だ
       僕はそういうファイの顔好きだよ。いい目をしてるね、ぞくぞくするよ」
ファイ   「こんなお姉様はお姉様じゃない! 殺す!」
ディスペア 「僕はいつだって僕なのにね。勝手な理想持って自分の理想と違うからって勝手に幻滅
       本当に迷惑。鬱陶しいなぁ、マジで人間嫌いだよ。おっと、消えたね」
ファイ   「お姉様許さない、殺す殺す殺す殺す殺す!! 殺すうううう!!!」
ディスペア 「弱冠12歳。けど戦闘能力は熟練の戦士を凌駕する
       スイッチが入れば即座に地の利を把握。森の木立は体の小さなファイに有利
       だけど致命的な弱点は接近戦しか出来ない。この陽動だって僕に取っては全く意味がない
       右・・・、左、右。上!」
ファイ   「死ねえぇえぇえ!!」
ディスペア 「あー、お断りします。君が死んで、ファイ」
ファイ   「かはっ・・・、あが・・・、が、ふ・・・」
ディスペア 「ばいばい、ファイ」


シータ   「ディスペア・・・、あんた」
ディスペア 「やぁ、シータ。今更何そんな驚いた顔してんの? ファイは規律を破った。当然制裁対象だよ。それに君もね」
シータ   「規律がなんなんだよ! こんな小さな子を躊躇いなく殺すなんて!」
ディスペア 「公序良俗とか言う人界の美徳って奴に僕が反してるって言いたいのかなぁ」
シータ   「・・・悪魔」
ディスペア 「はーい、悪魔でーす」
シータ   「あたしはね! 自分のやってる事の罪の重さは十分知ってる積もりだよ! けど、あんたは腐ってる」
ディスペア 「やだなぁ、腐ってる君にだけは言われたくない言葉だよね」
シータ   「あたしが、腐ってるだって?」
ディスペア 「何? 自分はきれいだとでも言いたいの? この期に及んで」
シータ   「そりゃ数え切れない程の人間を殺して来たさ!
       内訌に於ける敵に温情なんて掛けたらこっちが殺られる。あたしは傭兵団団長なんだ!」
ディスペア 「そうそう。金を貰って人を殺す、依頼者の敵であれば罪のない人間も。視野の狭い美学に縛られた傭兵だよね。

       戦場のヴィーナスとか言われてたっけ確か? あーっはっはっは。おかしくて腸捻転おこしそうだよ、勘違いした雌豚」
シータ   「め、雌豚だって?」
ディスペア 「君さぁ、シグマの事好きでしょ? んやぁ、それも組織内で関わる事の出来るイケメンがシグマだから妥協の上での恋慕
       いやらしいったらありゃしない」
シータ   「人に惚れたのをそんなになじられる訳が判らないね!」
ディスペア 「だーってさ、シアンでもいいと思ってたでしょ?
       あー、ほらシアンて紳士だし優しいし洗練されてるもんね、判る判る」
シータ   「馬鹿にすんのも大概にしな!」
ディスペア 「馬鹿になんてしてないよ。命の瀬戸際を感じながらの大量殺人

       人間て限界を感じると性欲が高まるらしいね、自分の子孫を残す為に
       だから君は至って正常な反応してるって事でしょ? 生きてるって素晴らしいね」
シータ   「下衆な勘繰りしやがって!」
ディスペア 「下衆なのは君でしょうに。何? 僕を殺した後の性欲処理はどっちですんの?
       シアン? シグマ? 汚らしく腰振って獣(けだもの)みたいに咆哮あげて蹂躙すんの?」
シータ   「ディスペア・・・、さっさと!! 死んじまいなあああ! 弓兵隊! 打て!!」


シグマ   「シータ配下、弓兵隊5名・槍兵隊10名・遊撃隊18名・騎馬隊16名、総勢49名
       殲滅完了」


シータ   「な・・・、シグマ?」
シグマ   「私がディスペアと共に行動していない時点で迎撃しているとは予想できなかったのですか? 

       あなたは軍を引率するには詰めが甘い」
シータ   「殲滅・・・って」
シグマ   「ご安心下さい。せめてもの慈悲として痛みを感じる事なく瞬殺させていただきました」
シータ   「全・・・、員?」
シグマ   「私の数えに間違いがないのなら」
シータ   「共に戦った仲間を、シグマ、あんた・・・」
シグマ   「裏切りには制裁を。考え無しに組織を離反しようとしたあなたの裏切りが彼らを殺したのです」
シータ   「貴様――!! シグマ!!! 殺してやる!!!」
シグマ   「ディスペア、避けて下さい」
ディスペア 「はいはい」
シータ   「ぁぐあ!! ・・・がっ、・・・は」
シグマ   「無意味な死を迎えたあなたの部下への贖罪にあなたの命をあてがって差し上げましょう」
ディスペア 「は、容赦ないねー。さーてと、ラムダ見ぃ付けたー」
ラムダ   「は・・・、ま、待てぃディスペアーー」
ディスペア 「死ぬ準備? 待ってあげるよ? 僕心広いから」
ラムダ   「わ、私に良い考えがあるのだが聞いてみないか?」
シグマ   「ロクでもない戯言ならさっさと死んでおけ」
ラムダ   「お前たちが死なずに済む方法があるのだ」
ディスペア 「計略外れて残念だったね。ラムダ」
シグマ   「計略?」
ディスペア 「ラムダは他の連中に戦わせて僕を疲弊させる算段だったんだよ。おあいにく様。能力使わなくても君ら程度殺せるの」
ラムダ   「良いかディスペア。

       貴殿達は一旦死んだように見せ掛けるがこの私に任せれば大公の目を欺きぐぅば・・・っ、が・・・ごぶっ」
ディスペア 「セリフ数オーバー、時間短縮の為に死んで」
シグマ   「随分メタな理由で殺しましたね」
ディスペア 「さてと、シグマ。シアンはどこに行ったの?」
シグマ   「例の女、今回の諸悪の根源を捕まえに行きました。あぁ、戻って来たようです」
エレクトラ 「わたくしをこの様に乱暴な運び方をして許されると思っているの? さっさと放しなさい! きゃあ!」

シアン   「無傷で連れて来てやったぞ。感謝して欲しいな、ディスペア」
ディスペア 「へ? 僕は少々痛めつけて貰っても全然かまわなかったんだけど? 喋る事が出来るくらいに生きていれば、さ」
エレクトラ 「ふんっ! 口の割に全く役に立たない連中だったわ。結局全部失敗だなんて情けない
       まぁ、こんな野蛮な連中に任せたって成功する筈もないし期待もしていなかったけれど
       最初からなかったものだと思えば大した損害もないわ」
ディスペア 「へぇ。意外意外、諦め早いじゃん。いい事だよ、物事諦めが肝心」
エレクトラ 「けれど、あなた方が生きているのは非常に不愉快だわ」
ディスペア 「この場合不愉快とかそういう問題じゃないよね? 自分が殺される危機感は感じてないのかな?」
エレクトラ 「冗談も程々にしてほしいものね。アラウン、彼等を殺してしまいなさい」
アラウン  「お嬢様、非常に残念ではございますが殺しは専門外なのでございます」
エレクトラ 「は? 何を言っているの?」
アラウン  「私には彼等と戦うメリットはどこにもないと、そう申し上げました」
エレクトラ 「冗談を言わないで? このまま放置したら私が殺されるわ?! そんな事も判らないの?!」
アラウン  「ええ、勿論そうなるべくしてなりましょうとも。お嬢様、長きに渡りこの不肖者をお遣い頂きましてありがとうございます」
エレクトラ 「ア・・・、アラウン?」
アラウン  「ご自分の犯した罪と共に美しく散って下さい」
エレクトラ 「馬鹿言わないで! わたくしとの契約はどうなるのよ!」
アラウン  「はて、契約・・・。そんな物を交わした覚えがございませんなぁ」
エレクトラ 「なんですって?」
ディスペア 「ねぇ、まだ話終わんない? 待ちきれないんだけど」
エレクトラ 「ア、アラウン! ふざけるのもいい加減にしなさい!」
アラウン  「ふざける? 私はふざけてなどおりませんが? エレクトラ様の勘違いには付き合いきれませんなぁ」
エレクトラ 「訳が、判らないわ」
ディスペア 「頭悪いなぁ。悪魔召喚だとか使い魔だとか魔法陣使役だとか本気で存在すると思ってんの? ちょっと物語に毒され過ぎだよ。
       悪魔が人界に留まる理由なんて人を甘言で唆し陥れて負の調和を助成する為だけだよ」
エレクトラ 「どういう事なの?」
ディスペア 「つまりね、こいつは君に仕える振りして大公の汚職を増長する為に利用したんだよ
       悪魔が人助けなんてするもんか。そんなの・・・、あいつくらいしか知らない」
アラウン  「面倒な説明を替わりにして頂いて助かりました。それではエレクトラ様、どうぞお達者で」
シアン   「逃がすか!」
アラウン  「追って来られるものならどうぞご自由に。私は空を飛べますので、悪しからず」
ディスペア 「あの悪魔はシアンに任せるとして、さて君さ死ぬんだけど何か言い残す事ある?」
エレクトラ 「や・・・、やめて。い、今までの事なら謝るわ、だから・・・!!」
ディスペア 「あー、無理、やめられないや、ごめんねー」
エレクトラ 「お願い・・・」
ディスペア 「懇願ですらはらわたが煮えくり返るよ。手始めに、顔を潰してあげる」
エレクトラ 「ぎゃああああああ!!」
ディスペア 「ははは、きったない悲鳴。んと、両腕を切り落として」
エレクトラ 「があああああああ!」
ディスペア 「うるさいなぁ。この腕どうしよう、あぁ、頭から生やしてみよう。あははははは、見てシグマ。これ結構おかしくない?」
シグマ   「・・・、ディスペア・・・」
ディスペア 「エレクトラ、心配しなくても両腕動くよ? 神経も繋げたから。これね、僕の能力。

       こんな事も出来るんだよ、すごいでしょう。うはははは、動いてる動いてる、おもしろ~」
シグマ   「もう、終わりにしましょう。イプシロンはそこまで望んではいないでしょう」
ディスペア 「イプシロンが望んでいるかどうかなんて関係ないよ
       僕が楽しむの、うはははー、見て見てシグマ。口から内臓出してみたーー」
エレクトラ 「う、ご・・・、ごぼが・・・」
シグマ   「ぅ・・・ぐ、ディスペア・・・」
ディスペア 「これさぁ、もう元が何だったか判らないよね、あははははは、あー楽しかった
       ごぼごぼ何か言ってるし。もう殺そ」
エレクトラ 「ぼごがばぁ!!」
ディスペア 「イプシロンは僕のこういう所を抑えててくれたんだー! ははは
       い~なくなっちゃった~~。もう収まりきらなくてさ、誰か殺したいーーー!!
       あははははは・・・。あーーっはっはっはっは」
シグマ   「ディスペア・・・、あなたは・・・」

 

 

 

アラウン  「さてさて、私をこの様な所まで追い掛けて来るとは一体何の御用でしょうか?」
シアン   「君が一体どれ位バーンズ男爵令嬢と共に行動して来たのか知らないが
       その為にどれだけの人間が犠牲になり、この国に波乱を持ち込んだのだろうか」
アラウン  「おやおや、国や人の心配とは見上げた君主気質でございますなぁ
       しかし、私はあなたと悠長に話をしている時間がございません。悪しからず」
シアン   「ほぉ、悪魔にもスケジュールなどと言うものがあるのか」
アラウン  「私は今日の夜にでも開く神門をくぐり、魔空界へ帰還してこの数年間の私の功績を
       我が主ルキフェル様にご報告申し上げなければならないのでね」
シアン   「悪魔ルキフェル、その名は聞いた事がある。人を驕慢に陥れる七大悪魔の一人だ」
アラウン  「さすがは我が主、人界に於いて名を馳せているとは尊敬の念で心が打ち震えます」
シアン   「さて、神門がどこにあるかは知らないが、君を主の元へ素直に帰す気はないよ」
アラウン  「ほほぅ、私を殺すとでも?」
シアン   「ご名答。君は人間界の塵となり果てて戴こうか」
アラウン  「全く人間とは愚かな生き物でございますなぁ」
シアン   「馬鹿に馬鹿と言われても、結構何とも思わないものだな」
アラウン  「私をどう殺すのです? その剣で殺しますか? 残念でございます
       私は空を飛べるのでね、これ以上付き纏われるのは迷惑千万この上ない事でございます」
シアン   「・・・、飛んだがどうした」

アラウン  「があぁあぁあ!!」
シアン   「羽根を貫かれて飛べるかい?」
アラウン  「まさか・・・、銃を、使うとは」
シアン   「なんだ。未来予知の能力を持っていながら自分の未来は見ていなかったのか。なるほど残念な悪魔だ。頭が悪い」
アラウン  「待て! 待て・・・、わ、私と契約をしようではないか」
シアン   「契約などあり得ないのではなかったか?」
アラウン  「己の未来を知りたくはないか! 仮にも第一王位継承権を持っているのだ!
       大公を始め敵は多く居るだろう! 私を使えばその存在を前もって知る事が出来る!」
シアン   「それは便利だ」
アラウン  「そうだろうとも! 一体誰が敵として対峙して来るのか!
       それが判れば向かう所敵無しだ。私が傍にいればそれが可能になるのだぞ!
       欲しいと思わないか、私の能力が! 今なら、お前のいう事を聞いてやろう。契約をしようではないか」
シアン   「余計な世話だな。自分の未来は自分で切り開く。お前は大人しく死ね」
アラウン  「私の能力を侮らないで欲しい! 私は風の向き、天気天災何でもお見通しだ
       地の利に加えて天の利を手中に収める事が出来るのだ。誰でも得られる物ではないぞ
       稀有なこの力を存分に使いうぐあぁぁぁああ!!!」
シアン   「僕はね、人ならざる存在が国を戦禍に巻き込む事に我慢がならないんだ。悪魔に贖罪の権利はない」

 

 

 

ディスペア 「はぁ~あ、せっかく能力を分けてあげたのに手ごたえの無さと言ったら
       うまく能力を使いこなせない愚図ばっかりだったなぁ
       ねぇ、シグマ。殺し足りない、もっと悲鳴が聞きたい血が見たい殺したーい」
シグマ   「ディスペア・・・」
ディスペア 「はははは、シグマ殺してもいい人間連れて来てよ」
シグマ   「ディスペア、もうやめましょう」
ディスペア 「それともノースグルドンにでも行ってデスペラード共をお掃除して来ようかな」
シグマ   「仲間の裏切りが辛いのはあなただけではありません! ですが落ち着いて下さい!」
ディスペア 「あ、いっそ今この瞬間にも優雅に舞踏会なんて開いてる貴族共を血祭りにあげるってのはどう?」
シグマ   「イプシロンはあなたにそんな事を望んでいましたか?」
ディスペア 「知~らない、そんな事。

       それとも街頭で凍えてる生まれて死ぬだけの人間殺してこようかな。あー駄目、抑えてた欲が止まんないや」
シグマ   「彼女の悲願を無駄にするのですか! これ以上無意味な殺戮はやめて下さい!」
ディスペア 「人殺すのに意味なんてあるもんか」
シグマ   「何を、言っているのですか」
ディスペア 「だって考えてもみなよ。人が人を殺す理由のくだらない事ったら!ははは
       君達が畜生呼ばわりしてる動物の方が余程有意義だよ
       組み込まれた食物連鎖の為に殺して食う。食う為に殺すんだ。なのに君ら人間はどう?
       人間殺して食う事をカニバリズムだなんて非難して、自分の邪魔になるから殺す
       世界の調和から最もかけ離れた連中だね。全部いなくなればいいんだ」
シグマ   「極論を講じてみた所で何も変わりません」
ディスペア 「だーかーらー、僕が殺してあげるんだって」
シグマ   「それなら『世界平和』をあなたが立証してください!」
ディスペア 「はあ? 何言ってんの? ・・・っ!! 何? 僕と戦おうってのシグマ」
シグマ   「あなたが悪魔で突出した能力があると言っても不死という訳ではない」
ディスペア 「はっ! 速いね。さすが、幹部の中でも群を抜いた戦闘力だ!」
シグマ   「あなたは常に、頭、首、心臓などの急所を守る」
ディスペア 「そりゃ、急所を突かれたら死ぬもん」
シグマ   「もう、終わりにしましょう」
ディスペア 「何をさ」
シグマ   「あなたがこれ以上の罪を重ねる所を見たくありません!」
ディスペア 「現実逃避っていうんだよ! それを!」
シグマ   「私の本名は」
ディスペア 「どうでもいいよ! そんな事! 無駄口叩いて僕に勝てると思ってんの?!」
シグマ   「アベル・J・ロビンソン」
ディスペア 「え」
シグマ   「フィーネ・T・ロビンソンの子孫です。
       14世紀の薔薇戦争。イェーツ公とランチェスター公の執政権をめぐる戦いに於いて暗躍した黒薔薇の騎士。

       かつて、あなたを愛しあなたも愛した人です」
ディスペア 「フィーネ・・・、の・・・」
シグマ   「家に代々伝わる手記であなたの事は知っていました」
ディスペア 「そ、っか・・・。そんな事で! 僕が油断すると思った?」
シグマ   「・・・っ?!」
ディスペア 「苦しいと感じるのは自由だ。僕に同じ感情を押し付けないで欲しいね」
シグマ   「か、は・・・っ」

ディスペア 「今更、なんだよ・・・」

 

 

シアン   「ディスペア・・・」
ディスペア 「・・・。あー、お帰り。シアン」
シアン   「・・・、シグマも殺したのか」
ディスペア 「僕を殺そうとした。僕が、可哀想なんだって」
シアン   「・・・、そうか。最期まで訳の判らない奴だったな」
ディスペア 「知りたい? シグマの動機とか過去とか。それともシアンも僕を殺す?」
シアン   「泣いてるのか」
ディスペア 「ただの雨だよ」
シアン   「雨、か・・・」
ディスペア 「・・・っ、なんだよ! いきなり抱き締めるとか! やっぱり変態だ!」
シアン   「幼少期から泣いている女性には優しくしろと育てられているのでね
       誰にもディスペアの涙を見られない様に、と胸を貸してやる僕の紳士的な精神を無駄にしないでくれないか」
ディスペア 「そりゃ、大したエゴイズムだ」
シアン   「結構」
ディスペア 「そんな優しさがあるならさ」
シアン   「なんだ」
ディスペア 「もう、僕を殺してよ」
シアン   「断る」
ディスペア 「ドコが優しいんだよ、嘘つきめ」
シアン   「自分の世界に帰ろうと思わなかったのか」
ディスペア 「追放者だからね。帰りたくても帰れない」
シアン   「試したのか」
ディスペア 「何度も神門をくぐろうとした。けど、その度に弾き飛ばされるんだ」
シアン   「追放・・・、か」
ディスペア 「『世界平和を成し得ろ』だって。その使命を果たすまで帰れない。ねぇ、シアン。世界平和って何?」
シアン   「君の求める世界平和の概念が僕と同等だとは到底思えないのでね。答えるのは控えさせてもらうよ
       ノブレスオブリージュなど君にとっては唾棄すべきものだろう?」
ディスペア 「駆逐するべき者、淘汰されるべき者、排除するべき者、救うべき者。ラッセルはそのどの位置付にいるのか判らない」
シアン   「ほぉ? 随分と傲慢な考えを持っているね。彼は、そのどの部類にも属さない、と思うな」
ディスペア 「僕は色々な物を知っている積もりで実際には何も知らないのかもしれないね」
シアン   「ディスペア、らしくないじゃないか。弱音を吐く為にその口がついているとは、僕は君を買い被り過ぎていたのかい?」
ディスペア 「なんとでも言えばいいよ」
シアン   「いい加減、頽廃的な考え方と斜めから物事を見るのはやめたらどうだ?

       好きなものは好きだと認めろ。辛いなら、辛いと言え」
ディスペア 「こんな中途半端な僕にそんな事が出来ると思う? 不可能だと判っている癖に使命放棄を許さない!」
シアン   「難問だな」
ディスペア 「・・・、帰りたいよ」
シアン   「あぁ」
ディスペア 「もう、許してよ・・・、誰か助けてよ・・・!! ベルフェゴール様の所に帰りたいよ!

       あの方だけが僕を全力で守ってくれようとした! 会いたいよ! ・・・っ、ふ、ぅ・・・っ
       どうして・・・、!! なんで僕はいつも失ってばかりなんだ!! うわああああああん」

 

 

 

シアン   「落ち着いたか」
ディスペア 「僕は取り乱してなんかない」
シアン   「説得力が全くないな」
ディスペア 「どうして僕を殺さなかったの?」
シアン   「構っていられるか。自分の事で手一杯なのに君の命の行く末なんて知った事じゃあない」
ディスペア 「あ、そ・・・」
シアン   「饒舌な君がえらく殊勝じゃあないか? 大切にしていた仲間を全員失って流石の強靭な精神も参ったという事か?」
ディスペア 「参ったりなんかしてないし! ドコが参ってる様に見える? それに大切? 仲間?

       ふざけた事を言わないでくれないか? そんな物作った覚えもないしこれからだって作る積もりなんてない!
       だいたいシアンはどうしてここに居るのさ! 同情? 憐憫? 

       そんな身勝手な自己満足を僕に押し付けないで貰いたいんだけど!」
シアン   「はっ、同情? 憐憫? 君に対して? 相応のしっぺ返しだろう。存分に喰らえ。
       君ともあろうものが僕をえらく買い被ってくれたものじゃないか」
ディスペア 「じゃあ、どうしてここに居るんだよ! 僕を嘲笑う為か!この畜生!」
シアン   「そんな悪趣味でもない。君を懐柔する為さ。」
ディスペア 「懐柔?」
シアン   「戦いで能力も存分に使い、精神肉体共に疲弊している今なら君を自由に操る事も容易すそうだからな」
ディスペア 「余り舐めないでくれない? 自由になんかさせるものか」
シアン   「そうか? 僕は戦いで高揚した気持ちを抑えきれなくてね。

       気晴らしにこのままクリストファー公爵の傘下で安寧を貪っている暗躍組織を一つ残らず殲滅しに行く積もりなのだが。

       どうだ? 付き合ってみないか?」
ディスペア 「クリストファー公爵、の?」
シアン   「そう、仇討ちなんてガラじゃないだろう? だが、組織を失って仕事もない
       これからどこでどう過ごす積もりか僕の知った事ではないが、暇潰しにはなるんじゃないか?」
ディスペア 「大公の思う壺にはさせない、てか。仕方ないな全くもう、付き合ってあげるよ」
シアン   「ディスペア」
ディスペア 「何」
シアン   「君の使命は必ず果たされる」
ディスペア 「慰め? 必要としてませーん」
シアン   「いや? 慰めなどではない」
ディスペア 「そう思った根拠は?」
シアン   「人智を超えた存在の君達には僕等人間が愚昧で弱小な存在かもしれない。だが、弱いからこそ必死で足掻くんだ。
       そんな試行錯誤の結果が世界の滅亡である筈がない、と思うんだ」
ディスペア 「だからなんなの」
シアン   「だから、ほんの少しでいい。僕を信じて欲しい」
ディスペア 「・・・っ。せいぜい、足掻けばいいよ」
シアン   「ありがとう」