​CrossWing 外伝 -湖畔の黎明-  ♂×3 ♀×3 /白鷹

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所要時間:120分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

ディスペア  (♀) 15歳(外見年齢)

    性別は女性だが、僕っ娘であると共に、かなり自分勝手で自堕落な悪魔。
    基本的に他の者を見下しており、人間や同種の悪魔や高潔な天使は利用価値がなければ邪魔者。
    小悪魔的要素と天邪鬼体質で他者を困らせる事もしばしばある。
    困らせた他者を見て楽しむなど、あまり性格は良くない上にすぐ飽きる。
    大変なおしゃべりで、人の話を中断してでも自分が喋っていたい


 

シアン  (♂) 17歳

    身分素性を隠してディスペアの暗躍組織で働く男性。
    庶民を装っているが一人称が僕である事なども含め、言葉の端々に育ちの良さを感じさせる。
    頭の回転が速く、情報を入手した端から様々な計画を立て始めるなど非常に機転がいい。


 

シグマ  (♂) 20歳

 

    ディスペアの立てた暗躍組織『臨終の鐘』の工作員の一人であり、幹部。
    シグマという名前は工作員としてのコードネームであり本名は別にある。
    組織の幹部である為の条件としていつも仮面を被っており、表情から何かを読み取る事は出来ない
    幹部である為にディスペアと悪魔的契約をしており、その能力が何であるかは謎
    常に敬語で話すが、割と気さくな性格らしい


 

レスター  (♂) 19歳

 

    臨終の鐘に依頼に来た貴族。その若さで既に子爵家の当主であり貴族院に名を連ねる青年。
    しっかり者だが情に厚く忠義心も持ち合わせており、世渡りも上手でそつがない
    反面情熱的な青年で、幼い頃に婚約者として会ったローゼンヴァーグ伯爵令嬢にベタ惚れしている。
    話し方は丁寧で敬語を常に話すが、突発的なトラブルには取り乱す事もある


 

クライヴ&レティシア  (♀) 15歳 

 

    臨終の鐘に依頼に来た少年。実は男装の麗人で、とある事件の全貌を調べようとしている
    その為に男装をしているので少年としてもかなり幼く見られてしまう。
    正義感が強く曲がった事は大嫌いで立場や身分などは二の次。
    我が身を省みず正義感に則った行為をする為、時に周囲を驚かせる事もある。
    途中から男装していることがバレてしまう為、本来の伯爵令嬢の口調に戻る。


 

ルシエル  (♀) 17歳(外見年齢)

 

    『第2天・ラキア』のマスピエル大天使よりある使命の為に人界に派遣された天使。
    見掛けの可愛らしい外見とは裏腹に、使命遂行の為ならどんな方法も辞さない強い意志の天使
    己の中にある世界の調和という確固たる意志を持っており、その意思を覆される事を嫌う。
    人間の慈愛に満ちた天使像とは相反する厳格さと恐ろしさを持つ。

 

――――――――

役表

 

ディス    (♀)・・・
シアン    (♂)・・・
シグマ    (♂)・・・
レスタ    (♂)・・・
クライ&レティ(♀)・・・
ルシ     (♀)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

ディス 「・・・、ねーシグマ、僕どれくらい眠ってた?」
シグマ 「丸3日と1刻半くらい。しこたま食ってそのまま爆睡。殺されても起きないくらいには寝てたよ」
ディス 「ふぁ~~~あ(伸びしながら欠伸) あ、よく寝た。なんか食べるものある?」
シグマ 「冬眠から起きた熊みてぇ。メシは下にイプシロンが用意してる3日分、な」
ディス 「ありがとー、あの子の料理の味は信用できる。で、依頼の方どうなってる?」
シグマ 「おおむね振り分け済み
     だけど、やはりディスペアに判断して貰わないとならないものがいくつか残ってるのと
     例のおっさん・・・、いや失礼。クリストファー大公爵様が報告を待ってるらしい」
ディス 「え、こないだ行ったばっかじゃないの? 細々してて鬱陶しいなぁまったく…」

 

ディス(M)「(ここ「臨終の鐘」はいわゆる非合法の暗躍組織。ブーデロンのアンダーグラウンドの一つだ
     金さえ払えば、盗み、密入出国、拷問、裏取引、諜報活動、傭兵、暗殺、なんだってやる
     あ、淫行はお断りの方向で。勿論、僕が気に入らない客はどれだけ金を積まれようがお断りだ)

 

ディス 「んむんむ・・・(物を食べながら)、残ってる依頼は、と・・・、身辺護衛、謀の真実解明、人探し・・・、と制裁、ねぇ。
     シグマ、この身辺護衛と人探しを割り振らなかったのはなんで?どうせ誰か暇してるんじゃないの?」
シグマ 「その身辺護衛、アンタ指名だからさ。あと皆あんたが寝てる間必死で仕事してたから暇人はいない。」
ディス 「え、なにそれ。すんごくめんどくs」
シグマ 「仕事しましょう」
ディス 「めんどk」
シグマ 「仕事しろよ! ・・・、なぜあなた指名なのかは聞かないんですね?」
ディス 「君に聞かなくったって依頼人に聞くからいいよ。んで、もうひとつは?」
シグマ 「人探しですね?これは報酬金額が破格だったのでなんか怪しいなと思いまして。」
ディス 「いくら?」
シグマ 「1500ポンドです」
ディス 「へえ、ありがたいじゃん貰おうよ、やろうやろう。」
シグマ 「調査はしています、が・・・。行方不明になっている当人は自ら行方をくらませた可能性が高いのです。
     そうなると、探し出すのが非常に困難だということは判りますね?」
ディス 「もしかして家出? こんな時代だからこその抑圧された生活に我慢ならなくなったのかな
     しかしそれの捜索となればそれはさぞかしめんどくs」
シグマ 「し・ご・と・で・す」
シアン 「家出の末の行方不明に? 捜索依頼? 依頼主を教えてくれないか?」
シグマ 「シアン、どういうことですか?」
シアン 「可能であればその仕事、僕がやろう。」
ディス 「えっまじで? やったぜ」
シグマ 「あんたどこまで仕事したくないんですか!!!」
ディス 「だって寝起きだもん。さぁイプシロンの愛のこもったごはん食べようっと。
     その仕事よろしくね、シアン。報酬は7掛けで、反論はなしの方向でおねがいしたいかな。」
シアン 「可能であれば、と言っている。依頼人の名前を教えてくれ。」
シグマ 「オールチャーチ子爵、レスター・V・カルヴァートという青年貴族です。」
シアン 「なるほど?探してほしい人間はレティーシャ・C・フォスター。ローゼンヴァーグ女伯爵令嬢で間違いないかな?」
シグマ 「なぜご存じで?」
シアン 「4日前のタイムズ紙に載っていた。オールチャーチ子爵婚約の話と、ローゼンヴァーグ女伯爵令嬢失踪の情報。

     タイムズ紙だからおそらく間違いはないだろう。」
シグマ 「なるほど? 子爵は令嬢に閨閥結婚を望まれたものの令嬢は他に想い人でもいた、ということですかね?
     では今頃ブルームフィールドにでも行って、想い人と挙式を済ませたかもしれませんよ。」
シアン 「随分ロマンティックで、めでたい頭しているな、シグマ。」
シグマ 「違うんですか?」
シアン 「おそらく、ね。だが、推測の範疇を出ない考えは口に出すのを控えたい」
シグマ 「相変わらず掴みどころのない人ですね、あなたは。

     ところで・・・、いつまで他人事のように食ってんだ! あんたは! 仕事せんかーーー!!」
ディス 「あー!! クリームパンが放物線を描いて地面に! いくらなんでもテーブルひっくり返すことはないでしょ!
     こっちはお腹減ってるのに!」
シグマ 「トドの様にぐうたらいつまでも寝てるからでしょう! って地面に落ちたパンを拾って食べないでください!」
ディス 「エナジーすっからかんになるまで能力使って死にそうになってたんだから仕方ないじゃん?
     あとパンについては勿体無い精神に基づきました異論は認めない」
ルシ  「あ、あの・・・」
シアン 「・・・ん? キミは?」
ルシ  「お邪魔をしてしまって申し訳ありません。その、依頼を・・・、受けて戴けるかどうか心配になって・・・」
シアン 「客だ、ディスペア。後でガトー・ショコラを持ってきてやるから話を聞こう
     例の身辺護衛の依頼、で間違いないかな?」
ルシ  「は、はい・・・。その、どうしてもディスペアさんでなくてはならなくて」
ディス 「だってシグマ。君でいいよね」
シグマ 「お客様のご使命はあなたです、ディスペア。黙って話を聞きなさい。大変失礼しました。理由などもおうかがいできますか?」
ルシ  「『神門』が開くまでわたくしを人間たちから守って欲しいのです
     わたくしはマスピエル様より人界に使わされた天使です。人間に逆らい命を狙われているのです」
ディス 「・・・ん?」
シアン 「は・・・、天使・・・、とは。 また・・・、はは・・・、随分変わった客が訪れるんだね、ここは」
ディス 「まぁ、ね。一般人の理解を超えることだってあるよ?

     気になるのも判らなくはないけど、余計な詮索はやめようよ。お互いに、さ」
シアン 「詮索などと面倒な事をする積もりはないよ。ま、せいぜい頑張ってくれ
     僕はこの人探しの依頼を戴くとしよう」
シグマ 「それがいいでしょう。丁度、依頼主が来たようですので」
シアン 「依頼主?」
レスタ 「失礼? こちらのマスターの休暇が終わる時期だとお伺いしていたもので改めさせて戴きました
     私はレスター・V・カルヴァート。オールチャーチ子爵領の領主です」
シアン 「ベストタイミングで来るとはまた律儀な性格だ」
レスタ 「いえ、早く見つかって欲しいと思っているので」
シグマ 「オールチャーチ子爵、人探しの案件は担当が決まりましたので詳細は彼にお願いします」
レスタ 「ええ、探して戴けるのであれば、私はどなたが担当してくださっても問題は・・・
     ・・・っ?! ・・・?! 
プ・・・、プ・・・っ?! がっ!!(シアンに足を踏みつけられる)」※プリンス、と言いたい
シアン 「ディスペア。子爵がそちらのプディングをご所望でいらっしゃる。
     客人なのだから、もてなして差し上げてはいかがだろうか?(
レスターの足をぐりぐり踏みにじりながら話すシアン)」

ディス 「えっ? 普通にやだよ、なんで」
レスタ 「
で、でん・・・(殿下と言いたい)。あ、あし・・・っ、足を、ど、け・・・、て・・・。踏んで・・・」
シアン 「おや? ご所望なのはプディングではなく、な・ん・で・し・た・か?(更に足を踏みつける)」
レスタ 「ぐはっ・・・。判りましたー、判りましたって・・・(小声)」
シアン 「今回の依頼、前金500ポンド、成功報酬1000ポンドで依頼成立
     という事で詳細をあちらのカフェでお伺いできるかな?」
レスタ 「よ・・・、よ、ろしく・・・、お願いします。あ、いた・・、た」
シグマ 「どうかなさいましたか?」
レスタ 「いえ、なんでもありません。お気になさらず」
シグマ 「・・・? なんでも無いようには見えませんが」
ディス 「よっしゃー仕事1個片付いたぞー」
クライ 「クス・・・」
シグマ 「・・・ん? 今日は溜め込んでいた依頼の精算日、という事ですかね
     ディスペア3人目のお客様です。今度こそまじめに仕事しましょう」
ディス 「なんの依頼だっけ?」
シグマ 「あんた、話聞いてました?」
シアン 「制裁、はここの一方的な仕事で依頼主がいる訳ではないから残る選択肢は一つ。謀略の解明」
ディス 「うわぁ果てしなく面倒なやつ来てた」
シグマ 「ディスペア!! お客様の前です!! ちょっとは気を使ってk・・・」
クライ 「大丈夫です。面倒な内容だという事は僕も判っていますので。
     ローゼンヴァーグ伯爵の死因を洗い直すなどというのは、意味もないことかもしれません
     貴族院ですら手を引いてしまった事件を、今更覆したところで何も出てこない可能性の方が高いのですから」
レスタ 「ローゼンヴァーグ、伯爵?」
シアン 「奇遇、と判断するには余りに軽率な気がするな」
レスタ 「失礼ですが、あなたと伯爵の関係をお伺いしても?」
クライ 「伯爵は僕の大叔父に当たります」
シアン 「君ね、そんなに簡単に依頼内容をぺらぺらと話すものじゃないよ。どこで誰が聞いているか判らない。
     伯爵が何らかの謀略に嵌められて殺害されたというなら、それを調べるのは非常に危険な行為だ」
クライ 「不思議な事をおっしゃいますね。依頼内容を話さずにどうやって依頼をしろと?」
シアン 「慎重には慎重を重ねて重ねすぎる事も無いだろう
     依頼成立後に担当工作員にだけ話す方がいいと僕は思うよ。・・・が」
クライ 「・・・が?」
シアン 「モノのついでだ。その案件もまとめて面倒見ようじゃないか」
ディス 「なんと、気がつけば仕事が片付いたぞ?」
シグマ 「それでいいんですか、あんたは」
ディス 「いい!」
シグマ 「はぁ~~~~、シアン。何を考えている?」
シアン 「別に? 人探しと謀略の解明とやらが全くの無関係に思えないから、両方まとめて片付けると言っているだけだけの話
     報奨金も貰えて万々歳だ。」
ディス 「シグマ。口うるさい君に一つ言っておくけどさ、僕は面倒臭いからシアンに投げてるってわけじゃないからね?
     シアンのやりたくない仕事は目もくれませんっていう徹底ぶり、けっこう気に入ってるんだよ
     シアンに何かの意図があって目的を果たせるならそれに越した事はないし、

     且つ依頼人にも質の悪くない仕事の提供も出来る。一石二鳥だ、任せない手はないよねって僕は思うわけだ。」
シグマ 「言い訳を熱弁している所が怪しいと言っているのです」
シアン 「では、僕はお二人の依頼を聞くとしよう。子爵、クライヴ殿ついて来て戴きたい」
レスタ 「よろしくお願いします」
クライ 「えぇ、よろしくお願いいたします」

 

ディス 「さーてーと?ごめんごめん、危うく存在を忘れかけたよ
      なんだっけ、人間の不興を買ったおバカな天使さん、だっけ。」
ルシ  「・・・っ(あからさまにムッとする)」
ディス 「へぇ? 僕が神門だの人界だのが何なのかって事をよーく理解している悪魔だって事を知ってて
     頼んではみるけど、果てしなく気分が悪いなあってのが顔に出てるよ、ルシエルちゃん?
     本来天空界に住む高潔な天使様が、僕ら悪魔を侮蔑的に見てんのくらい知ってるし
     その悪魔である僕に頼みごとをするんだ、とりあえず話くらいは聞いてあげるよ」
ルシ  「わたくしは・・・」
ディス 「はーいストップストップ」
ルシ  「え?!」
ディス 「話くらいは聞くって言ったけど質疑応答形式でよろしくしようかな?
     誰が自由に話していいなんて言ったよ、言葉を履き違えんな」
ルシ  「・・・っ(怒り)」
ディス 「腹が立ってる? 虫唾が走るほど大嫌いな悪魔如きに頭下げちゃってんだもんね?

     ところで、人界のシステムは知ってるよね? 何かを得ようとする場合、無償で得られる筈はないって事」
ルシ  「勿論です。人界に降りる際20ポンド持ってきました(160万)」
ディス 「は? 20ポンド?! はは、こりゃあいいね傑作だね!」
ルシ  「なぜ笑うのです!」
ディス 「ここに依頼に来るやつは最低でも100ポンドは積んでくるもんだ。
     それに神門を出る時に20ポンドって事は食べたり寝たりで半分も残ってないでしょ?
     端金じゃん、そんな安い金で命を守って貰おうと思ってるの?」
ルシ  「では、どうすれば依頼を引き受けて下さいますか?」
ディス 「あー僕、慈善事業する積もりさらさらないの、お断りします。ってことで出て行って? こっから、今すぐに」
ルシ  「わたくしに死ねと、おっしゃるのですか?!」
ディス 「そんなこと誰もいってないよ? 生きたければ自力で神門が開くまで生き抜けばいいし力が無きゃ何も出来ずに死ぬ
     死んだところで僕は君の生死なんて関係ないし興味ないし知らない。」
ルシ  「あなたは・・・、最低です・・・っ!(怒りを滲ませて)」
ディス 「それは君たち天使が理想とする最善策を僕が取らなかったから、『最低』って極論を押し付けてるってだけだよね?
     侮蔑対象の僕に無償の慈愛論を期待したけど得られないという理由で」
ルシ  「助けられるかもしれない命を見捨てるのでしょう?! 金銭的な価値がないから!! 強欲で狭量で最低です」
ディス 「そういうのはまず
     『真っ当にお金を払う積もりはないですけど今ならまだ助けられる私の命を黙って救いやがれ』
     なんて言っちゃってる傲慢な自分に言えば?」
ルシ  「もう、結構です!」
ディス 「あ、そ。バイバイ。天使さん。お金がつくれたらまたおいでー。」

 

ディス 「はっ! 時期を待てば神門をくぐる権利のある天使様が甘ったれてんじゃないよってね
     あー甘いもの食べたい・・・」

 

クライ 「シアン殿はこの辺りの地理に詳しくていらっしゃるんですね」
シアン 「ほぉ? なぜ、そうお思いに?」
クライ 「街道でこの様においしい紅茶を提供できるカフェを知っていたので。おかしいですか?」
レスタ 「クライヴ殿、失礼ですがあなたは社交界デビューは済んでおられますか?」
クライ 「いえ、まだですが」
レスタ 「でしょうね・・・(呆れ)」
クライ 「なぜでしょうか?」
レスタ 「いえ。この状況を無邪気に楽しめるという事が素晴らしいとだけ申し上げておきます」
クライ 「意味が判りません」
シアン 「レスター、余計な事は言わなくていいんだ。僕は「臨終の鐘」の工作員の一人
     そう、思い込むことが不可能というのであれば今回の件、手を引かせていただくよ」
クライ 「シアン殿は何か身元を伏せておいでですか? あ、深くは追及しませんのでご安心下さい」
シアン 「そうしていただけるとありがたい。配慮の足りないレスターとは大違いだ」
レスタ 「どういう意味ですかね」
シアン 「では、本題に入らせていただこうか、レスター。君が探している人をもう一度聴けるかな?」
レスタ 「ローゼンヴァーグ女伯爵令嬢、レディ・レティシアを探しております」
クライ 「え」
シアン 「クライヴ殿はローゼンヴァーグ伯爵の親戚、この案件に協力していただけそうだと思わないか?」
レスタ 「それは私も思っていた事です。

     レディ・レティシアは失踪する前に何か手掛かりになるようなものを残してはいらっしゃらなかったでしょうか」
クライ 「その、すみません。レティシア殿とはあまり面識がないもので・・・、お役には立てそうにありません」
シアン 「一緒に探しているうちに何か思い出すかもしれない」
クライ 「ですが、僕はレスター殿にお付き合いする時間がありません。伯爵の死因をはっきりさせたい」
シアン 「その件もレスターが詳しく知っているかと思うよ。お互いの依頼が協力し合から二つ同時に引き受けたのだから」
クライ 「え?」
レスタ 「・・・え?」
クライ 「・・・ご存知・・・、ない様子ですが?」
シアン 「おそらく知っている筈だ、オールチャーチ子爵。子爵家は先代の頃よりクリストファー公爵と親しい
     今回の1件、僕はクリストファー公爵が大きく絡んでいると判断している
     その辺りできっと納得の行く話が聞ける筈だが、相手は大公。今この場でどうこうというのは難しい
     子爵には大公との謁見を申し出て会う機会を作って貰いたい。場所は大公のタウンハウスで」
レスタ 「私がそれを断るという事は考えていないのですか?」
シアン 「質問を返すようだが、レスター。君、レディ・レティシアと最後に会ったのはいつ?」
レスタ 「幼いころに一度会っただけですが、だからと言って私の想いを否定する様な真似はよして戴きたい。

     私は今も変わらず彼女を慕っているのですから。」
シアン 「誰も疑ってなどいないよ。幼い頃に一度、ね。なるほど合点がいった」
レスタ 「もっとわかる様にご説明を願いたい
     大公との謁見がレディ・レティシアの所在を明らかにするとでもいうのですか?」
クライ 「もし・・・」
レスタ 「ん?」
クライ 「クリストファー公爵邸においてローゼンヴァーグ伯爵の一件に光明が差せば・・・
     おそらくレディ・レティシアは帰って来るでしょう」
レスタ 「レディ・レティシアを使って私に協力を仰ぎ、彼女が帰って来なかった場合の責任が君に取れますか」
クライ 「必ず、帰ってきます」
レスタ 「・・・ふぅ、大公との面会ですね。わかりました、協力しましょう」
     謁見の期日が決まれば、組織の事務所に伺います。」
シアン 「僕もその連絡を待ちつつ、レディ・レティシアについてもう少し調べてみよう」

 

 

 

 

シアン 「ディスペア、ガトー・ショコラを持って帰った。糖分不足で特殊能力の回復が芳しくないんだろう? 存分に食べるといい」
ディス 「お、まさかの有言実行、よくやった! ・・・まぐ、ん、シアンて掴みどころがないけどいい人間だね。
     面倒な仕事をまとめて引き受けてくれるし、それでもって仕事は普通に出来るし」
シアン 「・・・、と思っている所を後ろからざくり・・・、なんてことがあるかもしれない」
ディス 「は・・・? シアン、人を後ろから抱え込むのはいい趣味じゃないね」
シアン 「雇う側が工作員の身元を確認しないのは、暗躍組織ではよくあることだが

     その場合マスターである者は常に警戒を怠らないものだ。僕が刺客だという可能性を棄ててはならない」
ディス 「ご忠告をどうも。僕は君を微塵も信用しちゃあいないけど?
     いい人間って言ったら信用されてるんだなぁっていう見当違いな解釈でもした?」
シアン 「まさか。キミからの信用なんて野良犬にでも食わせてやろう。当然刺客などではないしね」
ディス 「じゃあ、離して貰える? 僕チョコレート食べたいんだけど」
シアン 「いや。面倒な仕事まとめて引き受けた分、報酬を前払いで受け取りたいんだ」
ディス 「あのさ、成功報酬ってルールがあるでしょ。君にだけ譲歩なんてしない」
シアン 「報酬貰ってとんずらするようなタイプに見かな、僕は」
ディス 「そりゃあ、見えないよ? けどそれが変に公になったら他のやつに建前が通用しなくなるじゃん」
シアン 「何も金銭を貰おうっていう訳じゃないんだ、ケチケチしないでくれないか
    ・・・、例えば、こういうのはどうだ?!」
ディス 「ぁう・・・っ!?」
シアン 「ふむ、血液の色は赤色か。人間と変わらないように見えるが」
ディス 「な、え、何を・・・っ?」
シアン 「指先を切ったんだよ。痛いのか」?
ディス 「・・・っ、僕に痛覚が備わってないとか本気で考えてんの? ていうかなんの目的があんだ、場合によっちゃ・・・」
シアン 「そう不機嫌にならないでくれよ。
     仮面をかぶったここの幹部全員、君と悪魔的な契約でもしているんだろうと思ってさ。
     彼らの身体能力はただの人間ではない。そして、君自身もね」
ディス 「あのさぁ・・・、君の身分素性を調べ上げないのは、僕なりのささやかな温情だと思ってはくれてないのかな?」
シアン 「つまり、キミの事もこれ以上探りを入れてくれるな、という事か」
ディス 「そういう無駄に呑み込みの早いとこ嫌いじゃないんだからさ。」
シアン 「人に正体を探られたくないのなら田舎にすっこんで出てこないか、ただの人間をもっと上手に演じて見せろ。・・・っ!」
ディス 「何してんのさ! 自分の指を切るとか自虐趣味でも持ってんの?」
シアン 「まさか・・・。こうやって互いの傷口を合わせ血の交換をする事で、僕にも何か特殊能力が現れるかもしれない」
ディス 「っ!う、あ!!・・・っく、つ、ぅ、い・・・痛ったいなもう!
     あのさぁ人の指切った挙句傷口をほじくり返すとか趣味悪いし、あと僕これでも女なんだけど?
     シアンはヘマトフィリアの変態か何かか!?」
シアン 「へぇ。世間ではこういう行為を変態というんだな。勉強になったよ、ありがとう
     キミが惰眠をむさぼっている間に行う事も考えたんだがね。

     どうやら惰眠中は幹部の監視が尋常ではなく近付く事も出来なかった。余程無防備になるらしいね」
ディス 「は、この行為だけじゃなく寝込みを襲おうっていうんだ、ホントに変態なの?」
シアン 「襲った訳じゃない」
ディス 「それに惰眠惰眠って、僕は怠けて寝ていたんじゃないんだけど」
シアン 「なんで寝ていたんだ?」
ディス 「疲れてた」
シアン 「3日以上も睡眠をむさぼるほど? どうして」
ディス 「いちいちうるさいなぁ、もう」
シアン 「だって尋常じゃないだろ? 疲労困憊で3日以上寝込む理由が気になるのはおかしい事ではない」
ディス 「それをシアンに言う理由は何一つないね。傷、痛いんだけど」
シアン 「確かにそうだ。これ以上の詮索はやめておくよ、嫌われたくない」
ディス 「はっ・・・、微塵も思ってない事を言わないでよね。」
シアン 「傷薬と包帯はおいて行くよ、利き腕ではないだろうから自分で手当てくらいできるだろう?」
ディス 「ご丁寧にどうも」
シアン 「さ、依頼を片付けるとするか」

 

ルシ  「力が欲しいのですか?」
シアン 「ん?」
ルシ  「人、ならざる力が欲しいのですか?」
シアン 「盗み聞きか。君は僕が幼い頃に童話から学んだ天使とは少々違うようだ。天使、ルシエル」
ルシ  「人界にも階級や身分所属など、様々な区別があるでしょう? 天空界も同じです」
シアン 「神々しく、慈愛に満ちた天使様も存在するという訳か。で? 質問の意図は?」
ルシ  「あなたが力を望んでいるというのであれば、わたくしにはそれを差し上げる事が出来ます」
シアン 「なるほど、ディスペアとの交渉が決裂した
     だから、既に事情を知っているであろう僕に個人で依頼をしようという事で間違いないかな?」
ルシ  「交渉など、最初からわたくしはする積もりはありませんでした」
シアン 「短気は損気だと習ったが、僕も無駄話は好まない。依頼は身辺護衛から変わらず?
     それとも、ディスペアを殺せ、というのではないだろうね?」
ルシ  「・・・っ?!」
シアン 「・・・ふぅん、参ったね。適当にカマを掛けたら当たってしまった
     つまり、身辺護衛の依頼はディスペアに近付く事が目的で、接触を謀れるならば内容は何でもよかった」
ルシ  「話す手間が省けて結構ですわ」
シアン 「一つ言っておくが、ディスペアは侮らない方がいい
     僕がカマを掛けられる程度の内容など簡単に予想がついているだろう」
ルシ  「おそらくそうでしょうね
     彼女のいた魔空界ですら彼女の存在を忌み嫌い、疎み、体よく追放してしまったのですから薄汚さは想定の範疇です。

     そしてわたくしは接触を謀ったのではありません。臨終の鐘のマスターがディスペア本人であるかどうかの確認をしたまでです」
シアン 「ディスペアを殺せというならお断りさせていただこう
     悪魔などに手をかけて死に至らしめた際に、余計な呪詛などで身を滅ぼしたくはない」
ルシ  「わたくしとて殺そうなどとは考えておりません」
シアン 「参考までに聞いておこう。どうしてほしいと?」
ルシ  「わたくしの目的はディスペアを天空界に連れ帰る事」
シアン 「悪魔を天使の世界に・・・。ほぉ? それはディスペアにとって栄転と言わないか?」
ルシ  「わたくしの担当する第2天ラキアは罪を犯した天使と悪魔を収容・監視し、罰を与える場所です」
シアン 「栄転どころではなかったね。監獄か、ご愁傷様」
ルシ  「明日、満月の夜。わたくし達天使と悪魔が人界を往来する為の神門と呼ばれる門が開きます
     彼女を連れ帰る為の協力をしていただきたいのです」
シアン 「雲をつかむような話だな
     神門とやらがどこにあってどのように開くか判らない僕にその手伝いをしろとは・・・、いささか無茶ぶりが過ぎないか?」
ルシ  「連れて行くまで見届けろとは言いません
     明日の満月の夜までに反撃を抑える為、彼女の体力を削り疲弊させておいてほしいのです」
シアン 「その間に君は体力を蓄え、疲弊したディスペアを連れ帰る
     なかなかえげつない事を考え付くな。どちらが悪魔か判ったもんじゃない
     いいだろう。僕に人知を超えた力が手に入るというならば協力しよう」
ルシ  「明日の夜、頼みましたよ」

 

ルシ  「ひと月・・・。長かった。マスピエル様、ようやく任務を遂行する事が出来そうです。ん・・・? 誰だ!」
クライ 「・・・っ!」
ルシ  「あなたは、臨終の鐘に依頼に来ていた」
クライ 「クライヴ、と言います。何だか、お邪魔をしてしまったようで済まない」
ルシ  「大丈夫でしてよ?」
クライ 「あの、あなたは」
ルシ  「何かしら」
クライ 「あなたは、本当に天使なのですか? その、不敬な事を申し上げる事をお許し下さい
     ただ、その様な存在がいるという事が、にわかには信じがたくて」
ルシ  「ふふ・・・、その質問に答える義理がわたくしにありまして?」
クライ 「え、あの・・・。」
ルシ  「別に、神の存在を疑っている事は不問にして差し上げてよ」
クライ 「いえ、神の存在を否定している訳ではないのです。ただ、今まで物語や聖書の中でしか見掛けた事がなかったものですから」
ルシ  「あなたの疑いをはらす事が、今のわたくしに必要な事だとは思えません」
クライ 「臨終の鐘の主が、悪魔だとか言っていましたがそれは本当なのでしょうか!
     それでは、僕は悪魔と契約をしてしまったという事になる!」
ルシ  「あの、ディスペアという悪魔は、人間の中にうまく溶け込み甘言で唆します。
     我々天界の者にとっては卑しく、存在には吐き気を催します」
クライ 「けれど、要求されるものは金であって他の犠牲は必要としない」
ルシ  「悪魔の快楽とは人智の及ばぬところにあります。

     今は金銭のみで済んでいるでしょうが、今後ともそうであると言い切る事が出来ますか?」
クライ 「それは・・・」
ルシ  「あなたが彼女と契約したというのであれば、あなたは悪魔の謀略に乗せられたという事
     わたくしは、彼女との契約を反故にするよう警告します」
クライ 「依頼を受けて下さったのは、シアン殿です」
ルシ  「彼もディスペアの能力を欲しています。好ましい傾向とは言い難い状況です」
クライ 「まさか、シアン殿も一緒に罰を下そうなどとは」
ルシ  「必要であれば、わたくしはそうするでしょう
     人とはいえ悪魔との繋がりを色濃く持ちすぎれば、災禍の元となるでしょう」
クライ 「災禍、などと。あなたの言っている事は少々大袈裟なのでは?」
ルシ  「大袈裟?」
クライ 「行き過ぎた行為なのではありませんか? 大体、あなたは先程シアン殿に物事の協力を頼んでいるようでした」
ルシ  「わたくしは彼の物欲に対し等価対価で協力の交渉をしたまで。彼が受けたのは、その物欲の執念たるもの
     それにより彼がどの様な不遇に見舞われようとわたくしの知った所ではありません」
クライ 「言い逃れだ」
ルシ  「なんですって?」
クライ 「あなたは先程からディスペア殿をなじりご自身の行為を正当化しているがやっている事は彼女とほぼ変わらない様に見える!」
ルシ  「・・・ディスペア、と・・・?」
クライ 「悪魔と人間が手を結ぶのが気に入らないだけではないのですか!
     天使として力を分け与える事を条件に謀を企むのは、人への干渉ではないのですか!」
ルシ  「小賢しく頭の回る人間。」
クライ 「え?」
ルシ  「わたくしは先程からあなたの様子を窺い、

     邪魔にならないのであればこの場を何事もなく立ち去るだけの猶予と慈悲を与えてきました。
     けれど、わたくしのその行為も無駄に終わったものだと判断します」
クライ 「何を言っているのだ、あなたは!」
ルシ  「このまま放置すれば、あなたはディスペアにこの顛末を伝えるでしょう。
     自分自身が正しいのだという思い込みの元に、わたくしの邪魔をする」
クライ 「邪魔って、僕は何もしていない。あなたに話を聞いているだけだ」
ルシ  「わたくしの事情も知らず、干渉が過ぎるのはあなたの方ではなくて?」
クライ 「僕は・・・、あなたの企みが正しい事だとは思えない! 人をたぶらかし、自分の片棒を担がせて!
     天使だか何だか判らないが、強引なやり方で自分の使命とか言うものを遂行しようとしているあなたが!

     果たして我々を加護する為にここにいるなどと思う事は出来ない!」
ルシ  「直接の加護が得られなければ納得しないなどと愚かな事を考えるのですね
     世界の均衡を保つ為に必要な調和とは、必ずしも直接見えるものではありません」
クライ 「もう一度聞かせて下さい」
ルシ  「何でしょうか」
クライ 「あなたは、本当に天使ですか?!」
ルシ  「ことごとく、人間とは分を弁えない失礼な輩ね。マスピエル様からある程度聞いていたとはいえ、想像以上に愚昧な生き物でした。
     あなたの質問に答えてさしあげる謂れはないと言った筈ですが?」
クライ 「結論を曖昧にするという事は、あなたがそうでないと言っているようなもn・・・」
ルシ  「言葉を慎みなさい。神への冒涜、わたくしへの不遜、許しがたい事でしてよ」
クライ 「あなたが! 神の名を騙り冒涜しているのではないか!」
ルシ  「・・・、なんと、言いました?」
クライ 「僕達人間の領域ではないと物事をはぐらかし、何かを企んでいる事しか判らない!
     あなたは、天使でもなんでもない!」
ルシ  「不敬なあなたに最後の慈悲を差し上げましょう」
クライ 「慈悲?」
ルシ  「今夜の出来事はすべて忘れ、今後わたくしに関わらない
     また、ディスペアとの契約を反故にし、臨終の鐘には近寄らない、と約束するのであれば、このままあなたを見逃しましょう」
クライ 「断る!」
ルシ  「ならば、実力行使をするまで」
クライ 「何を・・・、うっ! か・・・、体が・・・、動かない・・・」
ルシ  「何らかの能力を持つ悪魔や高位の天使には聞かない技でも、脆弱な人間如きの動きを封じる事など容易いもの」
クライ 「く・・・そ、何をする積もりだ!」
ルシ  「体が動かないのに喋るなどと、苦しいのではなくて?
     大丈夫、命までは取りません。それではあの腐れた悪魔と同じですもの」
クライ 「傍に・・・、来るな!」
ルシ  「無駄な抵抗はおやめなさい。あなたの記憶を抹消するだけのこと」
クライ 「記憶、だと?」
ルシ  「そう、この件に関わる記憶を全て消し去ります」
クライ 「やめろ!!」
ルシ  「いいえ? 記憶操作はわたくし達にとって余り褒められたやり方ではなく
     物事を仕損じた場合に仕方なく施行する物ではありますが、今回は仕方ないでしょう」
クライ 「人に・・・、人智を超えた接触を、・・・、う、く・・・
     あなたは、好まない、と・・・、僕はそう判断した、のに」
ルシ  「ええ、その通りです。けれど想定外の出来事には能力を使う事もやむを得ません」
クライ 「あなたは・・・、ディスペアと・・・、同じだ!!」
ルシ  「今すぐにでもその口を封じる為に存在ごと抹消したい所ですが、許して差し上げましょう」
クライ 「記憶を・・・、嫌だ! 消さないでくれ・・・」
ルシ  「残念ですが」
クライ 「記憶が消えてしまえば! 僕はローゼンヴァーグ伯爵の死因を追う事も出来なくなる!」
ルシ  「それが一体なんだというのです?」
クライ 「それだけは・・・! 僕は、その真実を知る権利がある!」
ルシ  「一度に二つの記憶を消去する事は、いくらわたくしでも体力の消費が激しい
     温存する為に、あの人間と取引をしたのに、本末転倒ですものね
     よろしくてよ? 消去するのは今晩の出来事だけにして差し上げましょう?」
クライ 「僕は・・・、く・・・っ! ああああああああ!!」
ルシ  「・・・、気を失いましたか。命には別状ありませんね
     全く厄介な。人間も、悪魔もわたくしはどうやら受け付けないようです
     マスピエル様・・・」


ルシ  「?! 今度は誰?」
レスタ 「失礼、何やら物音が聞こえたので」
ルシ  「あ・・・、また厄介ごとか(小声)」
レスタ 「彼は? クライヴ殿? どうなされたのです?」
ルシ  「いえ、わたくしも存じ上げませんの。満月に向かい祈りを捧げていたら倒れている事に気が付いて」
レスタ 「そうですか。こんな所に放置しておくと凍死してしまう。臨終の鐘に、身柄を預かっていただけるか交渉しましょう」
ルシ  「ええ、そうですね。お願いしてもよろしいでしょうか」
レスタ 「よ、っと・・・。随分軽いな。ちゃんと食べているのだろうか」
ルシ  「・・・、どうやら話を聞いていた訳ではなさそうね(小声)
     わたくしは、宿へ戻ります。どうぞよろしくお願いいたしますわね?」
レスタ 「レディ? 余り夜道は安全ではない。どうぞお気をつけて」
ルシ  「ありがとうございます」

 

ディス 「やあやあ、朝早くからご苦労様。ていうか早朝の迷惑とかは考えてるのかな、オールチャーチ子爵?」
レスタ 「シアン殿はいらっしゃるか?」
ディス 「聞く耳を持たないってのはあんまりじゃないかな」
レスタ 「大公との面談が、今日の午後から可能だと連絡が入ったのでシアン殿と連絡を取りたいのだが」
ディス 「へ、大公って?もしかしなくてもクリストファー公爵?」
レスタ 「そうです」
ディス 「・・・何の為に?」
レスタ 「私はシアン殿から大公との面談を整えるよう指示を受けて動いているのだが、詳細は聞いていない。

     レディ・レティシアの捜索に繋がると聞いているだけだ」
ディス 「アレとの面談が、ねぇ・・・。ふーん。まあいいや、シアン呼んでくる」
シグマ 「ディスペア。その件、曖昧にするのは良策ではないと思いますが。
     オールチャーチ子爵、私から少々お伺いしてもよろしいでしょうか?」
レスタ 「私の判る範疇であれば」
シグマ 「面談を取り付けたと言うが、彼が一体どういう人物か判っているのでしょうか」
レスタ 「私の爵位は儀礼称号ではない。立場を理解していないと?」
シグマ 「失礼なのは百も承知の上で聞いています」
レスタ 「ふぅ(溜息)。この国ブーデロンにおける貴族院の第一人者だ。全ての執政権は大公の元にあると言って過言ではないだろう」
シグマ 「結構です。そこまでご存知でいながら大公との面談を取り付ける。アッパークラスとはいえ、相当な尽力が要ったのでは?」
レスタ 「執政に忙殺されていらっしゃるから当たり前のことだ。だが、オールチャーチ子爵家は古くより大公と繋がりが深い
     先代の威光を笠に着る訳ではありませんが、大公とて無碍にも出来ない」
シグマ 「なるほど? 表面上では判らないものですね。」
レスタ 「貴族には貴族の事情があります。あまり不躾な質問をされるのは、私にとって非常に不愉快なのですが」
シグマ 「では、その先代の伝手を頼ってまで、なぜ大公と面談を?
     シアンから頼まれた、と先程あなたはおっしゃいましたが、彼の言う事を聞く理由が一体どこにあったというのでしょうか」
レスタ 「シアンのいう事を聞いた訳ではありませんよ。

     レディ・レティシアの捜索に繋がるというのは先程もディスペアに伝えたばかりだ」
シグマ 「具体的にどのような?」
レスタ 「詳細は聞いていない」
シグマ 「ええ、それもディスペアに話していましたね」
レスタ 「質問を返させて戴きたい」
シグマ 「なんでしょう」
レスタ 「なぜ、あなた方はそれ程に大公に対し過敏になっているのでしょうか?」
シグマ 「彼の腹黒さは有名ですからね」
レスタ 「あなた方に害意があるとでも?」
シグマ 「臨終の鐘も、少なからず大公の恩恵に預かっているという事です」
レスタ 「あなた方の様な暗躍組織が貴族に重宝されている事も存じ上げていますよ
     汚職にまみれた人間が、邪魔者を消すのに利用している事も」
シグマ 「それなら、我々が過敏になる理由も見当が付くというものでしょう?」
レスタ 「判らない事もありませんが、依頼人を疑うとは余り感心しませんね」
シグマ 「・・・、依頼人は嘘をつきます」
レスタ 「私が何か嘘をついているように見えますか?」
シグマ 「いいえ、私の取り越し苦労だったようです」
レスタ 「あなた方が失礼な方たちだという事だけは判りました」
シグマ 「礼儀を尽くして欲しいなら、合法の依頼所へどうぞ」
レスタ 「合法、ね。無能な連中には用はないので」
シグマ 「育ちがよさそうで中々に手厳しい方ですね」
レスタ 「・・・、ローゼンヴァーグ伯爵の死因に、あなた方は見当が付いていないのですか?」
シグマ 「それについては全くの無関係です」
レスタ 「そう、ですか」
シアン 「レスター、待たせて済まない。思ったより早い進捗でよかった
     Mr.クライヴは近くの宿にいるという事だから連絡を取ってすぐに準備を進めよう」
レスタ 「当家の馬車を路地に着けてある、厳格な方だ。こちらが少し待つくらいの余裕を持って出掛けたい」
シアン 「ではクライヴを連れて来よう」
ディス 「あーちょっと待ってシアン」
シアン 「ん?」
ディス 「話があるんだけど、いいかな」
シアン 「はぁ・・・、手短に頼むよ。レスター、悪いが、このメモに書いている宿へ行ってクライヴを呼んできてくれないか」
レスタ 「判りました」

 

ディス 「さて早速本題に入っちゃおうか。シアン、何を企んでんのかなぁ?」
シアン 「今の会話のどこから企みを感じ取ったのか、僕が聞きたい」
ディス 「工作員の身元は問わない。けどそれはお互いが最低限のルールを犯さないという暗黙の了承の上で成立するモノだよね
     シアンが、この組織や幹部、そして何よりも僕に害意があるなら完璧に洗いだし、制裁対象にするだけさ」
シアン 「雇用時に聞いている」
ディス 「おっさんこと公爵がこの依頼のどこに関連してくるのか、業務報告してもらいたいかな」
シアン 「疑問を持つ人間を間違えているね」
ディス 「誰を疑えと?」
シアン 「オールチャーチ子爵、レスターだ」
ディス 「なるほど? しっかしアレは情熱的で暑苦しいタイプの人間にしか見えないけど」
シアン 「依頼内容と外見だけで判断するのは構わないよ。危険因子を見逃がすのは僕じゃない」
ディス 「・・・へぇ?」
シアン 「どれだけ愛情があろうがたかが人探しに1500ポンド。私兵団を使う事もせず、真っ先にこの組織に依頼をしたのは何故だ?
     そしてオールチャーチ子爵家はクリストファー公爵と、かなり深い繋がりがある
     クリストファー公爵はこの組織の後援者並びに支援者。

     君と大公がどのように知り合いどういう契約を結んだかは知らないが、もしも彼・・・、

     レスターが大公の計略の尖兵であれば、ディスペア、狙いは君ではないのかな?」
ディス 「ふぅーん、この組織の内情を知らないなりの推論っていう訳?」
シアン 「大公にとって都合のいい暗躍組織はここだけではないだろう?
     金と実権を大きく動かせる人物の傘下に入りたがる組織はいくらでもいる筈だ。
     邪魔になった組織や人を大公が今までどのように対処して来たのか。僕が忠告するまでもないだろう?」
ディス 「不要なゴミはゴミ箱にポイってか」
シアン 「これ以上余計な事は言わないでおくよ。君の機嫌には付き合いきれない」

 

シグマ 「どう・・・、されますか?」
ディス 「ま、あの公爵のことだし、ここが必要なくなったから取引を白紙に戻しちゃいまーす
     なんてきれいな手の切り方を取るとは思えないからね?」
シグマ 「特に、我々の組織は長く大公との繋がりを持っているせいで大公の内情を知り過ぎています
     穏便に行くとは考えにくい、私もシアン殿と同意見です」
ディス 「あーあ、最後までいけすかない老害だったな
     とはいえ、シアンの言う事を丸呑みする訳にもいかないし。ちょーっと調べてみる必要性あるね」

 

レスタ 「シアン、大公に面談をした上でどのようにすればよろしいのかお伺いできますか?」
シアン 「あぁ、彼と一緒にアフタヌーンティーでも楽しんでくれ」
レスタ 「は?」
クライ 「それは一体どういう・・・?」
シアン 「レスターは大公とシーズン最後の面談を楽しんでほしい
     クライヴはすまないがレスターの従者を装って彼の傍についていてくれ」
クライ 「何か、確信があって大公の所に赴くのではないのですか!
     僕は、その手掛かりになるのだと思っていたのです。それを! お茶を飲むだけとは!」
シアン 「クライヴ、確認しておきたい事がある」
クライ 「なんですか?」
シアン 「伯爵の死因が判ったとして、君はそれをどうする積もりかな?」
クライ 「仇を取ります」
レスタ 「やめたまえ」
シアン 「・・・っ?!」
クライ 「なぜですか?!」
レスタ 「君まで命を落とす事になるぞ」
シアン 「レスター?」
レスタ 「シアン、あなたがこうして隠密裏に動いている。その件を顧みるにローゼンヴァーグ伯爵はやはり何かの陰謀に巻き込まれた
     そして、おそらくは証拠隠滅の為に抹殺された。
     今まで関わってきた中で大公がその立場にある時、多くは大公の汚職を隠ぺいする為に」
クライ 「大公が・・・、という事は」
レスタ 「直接手を下したのが大公でなかったとしても、教唆したのは大公で間違いない。そうですね、シアン」
シアン 「君が、世襲制に胡坐を掻いたぼんくら子弟でなかったことが、いい事なのか悪い事なのか。僕には判断しかねるよ」
クライ 「大公が、そんな人が執政権を壟断していると!!」
シアン 「クライヴ・・・。正義感に燃えるのは構わないが、クリストファー公爵邸において君はただの従者になりきってくれ
     あまりにも、世の中を知らな過ぎる。無知は命を縮める」
クライ 「知っていて、誰も・・・、何もしないんですか?」
レスタ 「何かしようとする人はいるよ、例えばローゼンヴァーグ伯爵の様に」
クライ 「そして、不慮の死を遂げる、ということですか」
シアン 「僕が仇を取るから、今は無茶をしないで欲しい」
クライ 「どうやって!!」
レスタ 「我々がどう動いたって仇を取る前に潰されます。今はシアンの言う通りにしましょう」
クライ 「大公邸に赴いて一体何をすると? 無意味に時間を潰す事に何の意味があるのですか」
シアン 「あなた方が大公の足止めをしている間に僕が大公邸に侵入し情報を集める
     僕は今までに大公の汚職の実情を少しずつ集めて纏めている
     今回の件も大公にすれば小さな事件だが、全ての糸が繋がった時に追い落とす事も可能だ」
クライ 「僕に手伝ことは何もないという事ですか?」
シアン 「手負いの獣の様に攻撃的な人だね、君は。
     だが、女性の身の上では限界がある以上、レスターに頼ってみるのも悪くないと思うよ。

     レディ・レティシア」
クライ 「・・・っ!!」
レスタ 「・・・は?」
シアン 「あなたが女性であることは最初にお会いした時点ですぐに気付いた
     多少胸のあたりが豊満さに欠けていますが女性的な体つきというのはそうそう隠せるものではない」
クライ 「・・・っ、胸が貧相なのはシアン様には関係のないことでしょう?」
レスタ 「は? え? は? ・・・え? ええええ??」
シアン 「ローゼンヴァーグ伯爵とは面識がある。素晴らしい銀髪と鳶色の瞳が印象的な紳士の中の紳士だ
     遠縁と語るのであれば、父君の縁戚関係をもっと調べてから無理のない設定をするべきだったね」
クライ 「あなたは、何者ですか。ずいぶんと貴族院について詳しい
     それなのにあの様な辺鄙な場所で傭兵まがいの仕事をしている。不思議な人だ」
シアン 「僕の事はおいといて、レスター・・・、大丈夫か」
レスタ 「は、いや、その・・・。レディ・・・、レティシア?」
レティ 「・・・はい」
シアン 「人探しは一件落着、と。レスター、これは僕からの提案なのだが」
レスタ 「なんでしょうか」
シアン 「父君の事について、彼女はきっと気持ちが治まらないだろうから

     可能であれば伯爵の事について大公に軽く聞いてみるのもいいと思う。どの道、嘘八百しか述べられないだろうが、

     後の資料を纏めるにあたって、辻褄の合わない事が証拠になる事もあるかもしれない。・・・?

     レスター・・・、聞いているか?」
レスタ 「・・・、・・・はい?」
シアン 「・・・後で、二人でゆっくり話し合ってくれ」

 

シグマ 「さて、ディスペア。援護するにあたって、私はあなたの能力の全体像を把握しきれていません
     不完全な援護は邪魔をするより性質が悪い。今回の件、失敗は好ましくない」
ディス 「余り話したくないけど、仕方無いか」
シグマ 「私も興味本位で聞いている訳ではありません」
ディス 「判ったよ。まず、シグマが知っている通り、物質と物質の接続・融合。」
シグマ 「そちらの能力はおおむね存じ上げています。有機物同士、無機物同士の接続は勿論、有機物と無機物の融合も可能。
     注釈として付け加えるならば、切り落とされた生首があったとして、接続した際にその生命が復活する物ではない、と」
ディス 「そう。この作業において、それほど僕自身のエナジーは使わない。」
シグマ 「全く使わないという訳ではないが、作業の際に体力を削るのと同じ程度でしたね」
ディス 「今回使うのは、もう一つの能力。
     物質の内容物を視る事。モノが無機物ならばその組織、化合物、構造などを把握する」
シグマ 「前者の能力は、この大元の能力の副産物という訳ですか。」
ディス 「そうだね、視る対象物が生物ならば、思考・心理・記憶など程度にもよるけど、

     ほぼその生物が産まれてから、現時点までの全てを把握することができる」
シグマ 「なるほど? ディスペアに隠し事は無駄な労力ですね」
ディス 「まあね。けど、この工程にはすごい集中力とエナジーを使う。」
シグマ 「それで良く熊の冬眠並みに食って寝るんですね。お疲れ様です」
ディス 「仕方ないじゃん。人一人を集中的に隅々まで視た場合、僕自身の体力を70%消費するんだから」
シグマ 「70%・・・。100%は使わないのですか?」
ディス 「100%使えば消滅、人間で言うならば死ぬって。身体が知ってるからさ、70%でリミッターがかかって、
     残りの30%を使って、自動的に食事・睡眠などのエナジー回復に入るって訳。」
シグマ 「それは、能力を使いたがらないのも頷けますね」
ディス 「僕の能力の詳細をシアンが知っているとは考えにくいけど、

     情報を得る為に特殊能力を使っているのかもしれないと推測されている事は知っているからなあ。」
シグマ 「シアンについては、今の所ディスペアに対して害意がない筈。根拠のない短絡思考は好まない筈ではなかったですかね?」
ディス 「そうだよ。だからこの能力を使わずにおいたけど・・・」
シグマ 「つべこべ言っている状況ではなくなってしまいましたね」
ディス 「そ。シグマ、援護よろしくね?」
シグマ 「帰って来たようですね。了解しました」

 

シアン 「どうした、ディスペア。随分と物騒な顔をしているじゃないか。
     二人の依頼は終わったよ、二人とも報酬金の支払いに来てる。会計を頼むよ」
ディス 「そうだね。勿論報酬金の精算はさせて貰うよ、それよりも。シグマ!」
シグマ 「はっ!!」
レスタ 「・・・うっ!!」
シアン 「レスター!!」
レティ 「え?」
シグマ 「お3方ともそこから動かずに」
レスタ 「ふざけた事を・・・、この様に拘束して動くなと。動ける筈がない」
シグマ 「そうですね、拘束する為に10本のナイフで壁に縫い留めさせていただきましたから」
レスタ 「投げナイフで裁縫が出来るなど、奇妙な使い方をするんだな」
シグマ 「奇妙ではなく、器用と言っていただきたい。肌一筋、傷を付けてはいないのですから」
レスタ 「あぁ、その様だ」
シアン 「レスター・・・、怪我は」
レスタ 「大事には至りません。ご心配なく」
レティ 「何をなさるのです!! わたくし達はきちんと報酬金を支払いに来ているのです!!
     それをこの様な仕打ち!! どういうお積りですか!」
ディス 「へ? あぁ・・・、君女の子だったんだ。まあどうでもいいけど」
レティ 「すぐにレスターを解放しなさい!! ・・・、きゃああ!!」
レスタ 「レティシア!!」
ディス 「壁に突き飛ばしたくらいで大袈裟。邪魔なの。退いてくれない?」
レスタ 「彼女に手荒な真似はしないでくれ!」
ディス 「レティシア・・・、ね。なんだ、見つかってよかったじゃん」
レティ 「ぅ・・・、あ・・・」
レスタ 「何が、目的だ。・・・、金か?」
ディス 「金も戴くよ?それをもらわなけりゃ何のためにこんなことしてるかわかりゃしないじゃん。でもね、もっと必要なのは情報だよ。」
シアン 「ディスペア!! レスターに何をする積もりだ!!」
ディス 「あっれー? おかしなこと言うんだねえ? 彼に警戒しろと言ったのは君でしょうに」
レスタ 「・・・え? 私を・・・、警戒?」
シグマ 「彼を死なせたくなければ大人しくして戴こうか、シアン
     その、手に持ってる珍しい剣、東洋から取り寄せたのですか? 神秘的ですが物騒ですね。こちらに投げてよこしてください」
レスタ 「言う通りになどしなくても結構です!」
シアン 「僕はそんなに薄情に見えていたのかい? レスター
     シグマ・・・、その剣、用が済んだら、返してくれ。僕の大切なコレクションなんでね」
シグマ 「賢明な判断です。確かに受け取りました。用が済んだ際にあなたが御存命ならば、お返しいたしますよ。」
レスタ 「プリンス!!」
シグマ 「・・・プリンス?」
レスタ 「・・・っ!」
シアン 「せめて、そこの二人の命は取らないでくれ」
ディス 「物わかりのいい人間は嫌いじゃない。・・・はっ!!」
レスタ 「・・・っ!! レイモンド様!!」
シアン 「ぅ、ぐ・・・」
シグマ 「・・・、なるほど? そうですか。プリンス、レイモンド・・・」
ディス 「え、誰?」
シグマ 「レイモンド・グレーフェンベルグ・ヴァレスティア。ブーデロンの第一王位継承権の持ち主です」
ディス 「へぇ。シアンってば王子様だったんだ。そりゃ大したご身分だ
     もっとも、人が人に定めた身分なんて僕には何の関係もないけどね。」
シグマ 「ディスペア、一つ聞きます」
ディス 「なに、シグマ。僕、集中力を高めてるんだけど」
シグマ 「結構です。ですが、シアンの首を拘束する為に、壁に接着したコの字型のパイプ。どっから持ってきました?」
ディス 「暖炉の排気口に繋がってたパイプ」
シグマ 「あんたは、ことごとく・・・。器物破損はやめろと言ってるでしょうがー!」
ディス 「痛ったぁ・・・。何も殴らなくても!」
シグマ 「あんたがモノを大切にしないからでしょうが!」
ディス 「判ったよ! ごめんって!」
シグマ 「全く! 修理代はディスペアの割り当て分から控除します。異論は認めません」
シアン 「パイプで拘束されるとは・・・、これ以上の屈辱はないな・・・」
ディス 「さ・て・と? 視せて貰うよ、シアン。君の思考、企み、過去、何もかもぜーんぶ。」
シアン 「な・・・、んだって・・・?」
ディス 「あ、大人しててくれるかな?最悪の場合精神崩壊して死ぬよ。

     抗えば内側から一切合切、容赦無く壊れるから、その積もりでよろしく」
レスタ 「やめろ!! ディスペア!!」
ディス 「どうしてって顔してるよね。警戒を呼び掛けたのはレスターなのにどうして自分がこんな目に合うのか判らないって顔
     こういうのはね、とっかかりを作る最初の人間が一番怪しいんだよ」
レスタ 「やめてくれ! プリンスに! 手を出さないでくれ!!」
レティ 「んっ・・・、ぅ・・・、・・・っ?!」
ディス 「うるさいなぁもう・・・、シグマ、集中できないから黙らせて」
シグマ 「では、この様に・・・、ふっ!!」
レスタ 「か、は・・・っ!!」
シグマ 「腹をナイフで抉れば黙るかと」
シアン 「レスター!!」
レティ 「レスター! やめて!」
シグマ 「ご安心を。急所は外してありますので、命に別状はありません」
シアン 「彼には手を出すなと言った筈だ!」
ディス 「命は取るな、とは聞いたよ。要するに生きてりゃあ五体不満足でも最悪寝たきりもしくは、精神崩壊もありなんでしょ?」
シグマ 「我々幹部クラスであれば、人豚にしても生かす事は可能ですよ?」
レティ 「そんな・・・!」
シアン 「頼む・・・、二人にはこれ以上手出しをしないでくれ」
ディス 「おや、自分はどうなってもいいって? さすが・・・、見上げた主君だ。そろそろ、覚悟してよね、シアン」
シアン 「・・・っ!! ぅあああああああああああ!!!」
レスタ 「レイモンド様!!」
レティ 「もうやめてぇえぇえ!!」
ディス 「・・・、精神崩壊覚悟で抗うとか、いい度胸してるよ」
シグマ 「いかがでした?」
ディス 「あーそれね、やられたなぁこりゃ。」
レスタ 「プリンスは・・・、どうされたのですか・・・」
ディス 「死んじゃいないよ。

     こんな程度で死ぬほどシアンは弱くなかったみたいだね、むしろ正気を保ってるくらいだし、人間かどうかすら疑わしい」
シグマ 「やられた、とは?」
ディス 「それそれ! 誰かが謀略を仕掛けてくるよーなんてのは真ーーーっ赤な嘘
     僕に力を使わせる事そのものが目的だったみたいね。」
シグマ 「そんな事をして一体何のメリットがあるというのですか」
ディス 「まさかのまさかすぎたよ。天使ちゃんと組んでるなんて考えもしなかったなぁ。
     しかも、その情報・・・、最後まで隠し通す記憶操作までやってのけてるし。」
シグマ 「天使・・・? もしかして、依頼に来たルシエル・・・、と?」
ルシ  「その通り。あなたの働きには感謝いたします。シアン」
シアン 「・・・感謝、か」
ルシ  「これでわたくしは任務を滞りなく遂行する事が出来ます」
ディス 「ところでルシエルー。契約したんじゃないの? シアンとさ。力を分け与えてあげるとかそういうの」
ルシ  「わたくしにその様な権利はありません。元より人界において過度の干渉は制裁の対象となります」
ディス 「だってさシアン。や、王子様って呼んであげようか。どうすんのレイモンド王子?」
シアン 「・・・、どういうことだ」
ディス 「僕の能力に逆らって疲れたからって考える事放棄してんの? コレはあんたを利用したんだよ
     人の欲望を揺さぶって自分の思惑に嵌め、んでもって君に力なんてあげる積もりなんて欠片もありませーんって事」
シアン 「・・・、・・・ほぉ? まったくもって、僕の知ってる天使とは違う」
ルシ  「人界を監視、調整する立場にありながら、人に力の影響を多大に及ぼすあなたを
     第2天・ラキアが制裁を下します。覚悟なさい、堕ちた悪魔ディスペア」
レティ 「はっ!!」
ルシ  「ぅぐっ!!」
レティ 「・・・天使ですって? あなたが? ふざけないで!!」
ルシ  「ぁ・・・、が・・・っ!」
レスタ 「レ・・・ティシア? 一体何を」
レティ 「わたくしだって短剣の一本くらい持っています!」
レスタ 「しかし」
レティ 「大切な方を守る為なら! わたくしだって戦います!」
レスタ 「そんな、震える声で・・・、説得力はありませんね、レティシア」
レティ 「それでも! 黙ってあなたや、プリンスが傷付けられるのを見続けろと、おっしゃるのですか?」
レスタ 「いいえ。女性にこんな荒行をさせるとは、私は情けない男だ」
レティ 「過度の干渉が出来ないとか言いながら! あなたの任務とか言うのを遂行する為にこんな・・・
     レスターにもレイモンド殿下だって、こんな酷い仕打ちを受けなきゃならないどんな理由があるっていうのよ!!」
ルシ  「か・・・、は・・・。・・・に・・・んげ、んごときが・・・、わたくしに・・・、なにをしたあああああ!!!」
レスタ 「レティシア!! 危ない!!」
ルシ  「死ねぇ!! ・・・っ、ぐ、は・・・」
ディス 「悪魔的能力が使えないからって、安心したの?」
ルシ  「・・・ディ、ス・・・ぺ・・・、ア・・・?」
ディス 「そういう時は人間の便利な武器を使うよ。僕いつも携帯してるの。折りたたみナイフを。合計31本。
     天使だってなんだって人界の歯車に組み込まれて受肉した以上、致命傷を追えば死ぬ。知ってるよね、そーんな基礎的な事」
ルシ  「な・・・」
ディス 「僕ね、ある程度の嘘とか隠し事とか策略とか騙し合いとか、まさしくギャンブル的な駆け引き事は結構好きだけどさ?
     約束破りだけはどうにも許せないんだよね。シアンとの約束が果たせない? なら惨めに死ね」
ルシ  「そう、簡単に・・・、うぐぁっ・・・!!」
ディス 「銃・・・?」
シアン 「天使だの悪魔だの、人ではない存在が人の世界にわざわざ波乱を持ち込むような真似をしないで欲しいものだね。ここは人間界だ」
ディス 「・・・シグマ―? シアンから武器奪いきれてなかったじゃん」
シグマ 「す、すみません。まさか銃を携帯しているなどと思いもしなかったものですから」
ディス 「まぁ、災いが転じた結果だ。よしとしよう。取り敢えず、サンキュ、シアン」
シアン 「君を助けた訳じゃない。僕が臨終の鐘で依頼の一部を請け負っているのは利害の一致があるからだ
     組織的にまだ閉鎖して貰っては困るのでね」
ディス 「理由なんかどうでもいいよ。へへへ・・・、ねーシグマー・・・」
シグマ 「なんでしょう」
ディス 「医者呼んで来てもらってもいい? そこの3人死んで貰ったら非常に面白くないから」
シグマ 「判りました」
シアン 「自分達でやっておきながら助けるのか、変わったやつだ」
シグマ 「ディスペアのきまぐれは今に始まった事じゃありません。その後始末は毎度私ですから」
シアン 「苦労性なんだね。ご愁傷様」
シグマ 「・・・ん? ディスペア、どこに行くんですか? 寝なくてもいいのですか?」
ディス 「あーちょっとね、外の様子をみて来る。」
シグマ 「この死体はどうしますか?」
ディス 「路上に棄ててきて。夜が明ければ死体回収業者が持ってってくれるだろうからさ」
シグマ 「死体を片付けがてら、医者を呼んできましょうかね・・・」
シアン 「ディスペアは何をしに行ったんだ?」
シグマ 「毎月、神門が開くこの時期は落ち着かないのでしょうね。
     悪魔と言えど、故郷がある。ディスペアにもノスタルジーを感じる心はあるんですから」

 

 

 

 

ディス 「そろそろ次の神門が開く・・・、次に降りてくるのは、アイツかな・・・
     魔空界切っての異端児。レリリウム。全く、どれだけいても人界とは飽きない場所だ」