​CrossWing 外伝 -月と光のほころび-  ♂×3 ♀×3 /白鷹

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所要時間:90分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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◆登場人物◆

ラヴィエル  ♀ 16歳(外見年齢)


    第4天・マコノムのミカエルより人界に遣わされた天使。
    明るく前向きな性格で行動力もあるが、取り返しのつかないドジを踏むことがよくある

 

 

クラーク・Z・ノーラン  ♂ 19歳
 

    明るく朗らかな青年貴族
    とても妹思いで優しく、街道で出会ったラヴィエルの明るさに惹かれ妹の話し相手として自宅に連れてくる

アラウン  ♂ 20歳(外見年齢)
 

    慇懃無礼でオーバーアクションな所があり、常に舞台俳優の様な喋り方をする悪魔
    人界においては街頭占術師として活動しており、未来視(さきみ)の能力で占いと称して人を陥れる
    人の苦悶や憎悪をこよなく愛する

 

エレクトラ  ♀ 17歳
 

    クラークの正式な婚約者。バーンズ男爵令嬢。高圧的で高飛車な話し方をする
    クラークに尋常でない好意を抱いている。彼の心を射止める為であれば悪魔に魂を売り渡しても構わないと思っている
    悪魔・アラウンにそそのかされて、ローゼンヴァーグ伯爵を殺害。バーンズ男爵家と共にクリストファー公爵の信頼を得る

 

フィオナ  ♀ 13歳

    

    クラークの妹。脊髄の病から足を患っており歩く事が出来ない為、少々引きこもりがちで内向的な少女
    本来は、兄と同じくとても正義感が強く曲がった事がきらいで、明るく社交的
    話し相手として兄が連れてきたラヴィエルととても仲良くなり、車椅子を使い外に出始めようとする

 

 

ロイス子爵  ♂ 40歳 (セリフ数少)
 

    クラークの父親で、ロイス領の当主。厳格だが、事なかれ主義
    昨今、クリストファー公爵に対する不満や疑念が議会に渦巻いている為、ローゼンヴァーグ伯爵を筆頭とする一派に組する
    が、ローゼンヴァーグ伯爵の不慮の死を境にあっさり裏切り、クリストファー公爵に忠義を誓う
    バーンズ男爵令嬢との閨閥を決定する

――――――――

役表

 

ラヴィ   (♀)・・・
クラーク  (♂)・・・
アラウン  (♂)・・・
エレクトラ (♀)・・・
フィオナ  (♀)・・・
ロイス子爵 (♂)・・・

――――――――――――――――――――――――
 

ラヴィ  「うわーーー! なんてきれいな空! 広い建物が沢山! すごい! 人界ってなんて素敵なの!」
     「あ! 翼! 人間って翼を持ってないんだった! しまうの忘れてた!! 大変、しまわないと!」
     「・・・って・・・、あ! ここまだ空だった! いやあああああ!! お~~~ち~~る~~~~~!!」
     「あい・・・、たったった・・・。ってぇ、そんな痛くなかった。下が柔らかかったおかげね、よかった・・・」
クラーク 「ん・・・、ぐ・・・っ、お、お、も・・・い・・・。どいてくれないか・・・、ぐぁ」
ラヴィ  「へ? もふもふ・・・、ん?」
クラーク 「レディ・・・、すまないが・・・、僕の上から、どいて・・・、くれないか・・・」
ラヴィ  「どこから声が・・・、って・・・、きゃあああ!! 下に人が!! やだ、なんで?!」
クラーク 「なんでもへったくれも、君が僕の上に落ちてきたんだろう」
ラヴィ  「ごごごご!! ごめんなさい!! あの、あの、け、怪我は・・・」
クラーク 「幸い、かがんでいたので怪我はないよ。ご心配どうも」
ラヴィ  「ホントにごめんなさい!」
クラーク 「いや、謝るより僕はどうして君が空から降って来たのか疑問なのだが?」
ラヴィ  「へ? あ、え・・・、と・・・。その、あの、や・・・屋根!!」
クラーク 「屋根?」
ラヴィ  「そう屋根!! 屋根の上で遊んでて、広い空を眺めてたら、足元が無くなってるのに気付かなくって!!」
クラーク 「レディが・・・、屋根に、のぼって、遊んでた・・・、のかい?」
ラヴィ  「うん、そう!」
クラーク 「ぷ・・・っ、ふはは、面白い子だね君は。君は、カヴァデールにずっと住んでいるのかい?」
ラヴィ  「ううん? さっき着いたところなの」
クラーク 「それで、珍しくて、屋根に上って辺りを見渡していた、という事かな?」
ラヴィ  「そう! それ! だから私、この街の事を何も知らないの」
クラーク 「そうか、ちょうど僕も街に遊びに来ていたんだ」
     一人で練り歩くのもつまらないし、よかったらエスコートさせて貰えるかい?」
     僕はクラーク。クラーク・Z・ノーランだ。お転婆さんの名前を聞いてもいいかな?」
ラヴィ  「ラヴィエル。みんなはラヴィって呼ぶわ」
     エスコート・・・、ってもしかして街を案内して貰えるの?」
クラーク 「君さえよければ」
ラヴィ  「とても嬉しいわ、ぜひお願いします」
クラーク 「この街はカヴァデールと言ってね、このグレイス・ブーデロンの首都だよ。港も近いし公道も整備されているから
     沢山の人達がこの街に訪れるんだ」
ラヴィ  「本当に人が沢山・・・。でも」
クラーク 「でも?」
ラヴィ  「ちぐはぐな感じがするわ。

     ほら、あの馬車から降りてきた人はとても楽しそうなのに、あっちの店の隅っこでうずくまってる人はとてもツラそう」
クラーク 「そんなに気にする事じゃないさ」
ラヴィ  「え。気にする事じゃないって・・・」
クラーク 「よく見てごらんよ。ああいう人達がけっこうたくさんいる。

     あっちの店の裏手にも、あそこの路地裏なんかはそういう人達だらけだ」
ラヴィ  「何も、しないの?」
クラーク 「今、例えばあの人がどうして辛いのか聞いてあげたとして僕らには何もしてあげられない。そういう事は、貴族院が
     何とかしてくれる。救貧の義務だってあるんだしさ」
ラヴィ  「だから・・・、見ない振りをするのね」
クラーク 「ん? なんて?」
ラヴィ  「ううん? なんでもないの」
アラウン 「失礼・・・、そちらのかわいらしいお嬢さん?」
ラヴィ  「根本的な問題があるのね・・・。ミカエル様は何もおっしゃらなかったけど」
アラウン 「もし、そちらのかわいらしい、長い髪のお嬢さん?」
ラヴィ  「今回の調査はひと月。報告してこれからの事を考える為なのかもしれないわね」
クラーク 「ラヴィ、キミの事を呼んでいるみたいだけど?」
ラヴィ  「へ? 誰が?」
クラーク 「そこの、小さな露店の人」
ラヴィ  「え? あ、あたし? え、と・・・。・・・っ! 悪魔!・・・しまった!!」
クラーク 「・・・、悪魔?」
アラウン 「これはこれは、ハハハ・・・。なかなか失礼なお嬢さんですね。いえ、まぁ確かにその呼び方は間違いないでしょう」
ラヴィ  「何の用ですか?!」
アラウン 「お嬢さん、あなたは非業の死を遂げますね。ひと月後の今日、見えますよ。
     飛び散る赤い血しぶきが、自らの血だまりに倒れこむ姿が・・・、なんと美しい・・!」
クラーク 「失礼なのは君だろう! なんだ、いきなり」
アラウン 「私は街道占術師。私の占いはとてもよく当たると評判なのです。いえいえ、お代は結構ですよ。
     私が勝手にみてしまっただけの事ですからねぇ・・・」
クラーク 「当たり前だ。とんでもない輩(やから)がいるものだ。行こう、ラヴィ」
ラヴィ  「ひと月後・・・、に」
アラウン 「私の占いは見るだけでは変わりませんが、お伝えした後に歩み方を変える事により避ける事が出来るもの」
ラヴィ  「避ける事が、できるの?」
クラーク 「こんなたわごとに耳を貸す必要はないよ。さぁ、行こう」
アラウン 「私に言える事は一つだけ。選択を誤らぬ様、お気を付けなさい」
クラーク 「いい加減にしろ!」
アラウン 「もちろんですとも! これ以上そのお嬢さんに余計な事は申しますまい」
ラヴィ  「選択を、間違えなければいいのね」
クラーク 「ただの占いだ。気にする事はない」
アラウン 「それはそうと、ロイス子爵ご令息様でいらっしゃいますね?」
クラーク 「なぜ僕の名を」
アラウン 「占い師にそれは愚問でございます。あなたは出会ったばかりのそちらのお嬢様に一目で恋されましたね」
クラーク 「なにを!」
アラウン 「いえいえ、余計な隠し立てはなさいますな。ですがその恋、実らせるには尋常ならざる努力を要しますぞ?」
クラーク 「貴様の言う事などこれ以上聞く必要はない。行こう、ラヴィ」
ラヴィ  「う・・・、うん」
アラウン 「お二人に幸多く訪れることをお祈りしております」

 

クラーク 「興ざめしてしまったね」
ラヴィ  「え、・・・うん」
クラーク 「でもあの占い師の言う事に一つだけ思い当たる事はあるかな」
ラヴィ  「思い当たる事?」
クラーク 「いきなり落ちてきて、押しつぶされたのに怒る気になれなかった」
ラヴィ  「それは、その・・・! ご、ごめんなさい!」
クラーク 「そうじゃなくて、君をみて、とてもきれいだと、そう思ったんだ」
ラヴィ  「へ?」
クラーク 「心が洗われる、というのかな。何だかとても輝いていて気持ちが和らいだんだ」
ラヴィ  「そ、そんなこと・・・、え、と、よく、わからない・・・」
クラーク 「参ったな、こういうのは初めてで」
ラヴィ  「あは・・・、は」
クラーク 「そうだ。キミ、ウチに来てくれないか?!」
ラヴィ  「え?」
クラーク 「実は、歩けなくて部屋に閉じこもりきりになってしまった妹がいるんだけど、どうにか気持ちを明るくしてあげたいんだ」
ラヴィ  「足が・・・、悪いの?」
クラーク 「落馬してね、背中を強く打ったらしい。それが原因で歩けなくなって。
     デビューはまだだが、元来明るくて社交的で、ダンスも大好きだったからふさぎ込んでしまってね」
ラヴィ  「でも、私が行ってもきっと何も解決なんて」
クラーク 「解決して貰おうと思っている訳じゃないよ。
     ただ、君みたいに明るい子が話し相手になってくれたら気分を持ち直すのではないかと思ってね」
ラヴィ  「なぁんだ、そんな事。よかったぁ・・・。怪我を治してくれ、なんて言われるんじゃないかと思った」
クラーク 「そういう事は、医者に頼むよ。それとも、君は医者、なのかい?」
ラヴィ  「私、お医者様に見える?」
クラーク 「見えないな、さすがに。それにこんなかわいらしい医者なら、怪我をしてなくても呼んでしまいそうだ」
ラヴィ  「いいわよ? 妹さん、え、と、なんて名前?」
クラーク 「フィオナ、というんだ。辻馬車を呼ぼう」

 

エレクトラ「お帰りなさいませ、クラーク様」
クラーク 「バーンズ・・・、男爵令嬢。今日は何のご用事で?」
エレクトラ「フィオナさんのお見舞いですわ。

     一緒に乗馬を楽しんでいたのに、目を放してしまった隙に落馬させてしまったのは他ならぬわたくしの責任ですもの」
クラーク 「令嬢が責任を感じる必要はありませんよ。これは事故なのですから」
エレクトラ「周囲の方はみな、そうおっしゃいますけれど、わたくしはそうは思えません。せめてお見舞いくらいさせて下さいませ」
クラーク 「余計な心労をお掛けして申し訳ない」
エレクトラ「そんな事・・・。ん? そちらの方は?」
クラーク 「あぁ、今日街で会ったんだ。とても明るい方でフィオナとも気が合うんじゃないか、と思って話し相手をお願いしたんだ」
エレクトラ「どこの誰かもわからないような方をお連れしたのですか?」
クラーク 「それこそ、令嬢にはあまり関係ない事ではありませんか?」
エレクトラ「わたくしはクラーク様の婚約者として・・・」
クラーク 「あくまで紹介を受けたというだけの事。まだ、正式には決まっておりません」
エレクトラ「でも、わたくしは」
クラーク 「令嬢のお気持ちだけありがたく受け取っておきます。今日の所はお帰り下さい」
ラヴィ  「あの、私が邪魔なら帰るけど」
クラーク 「君はそういう事を気にしなくてもいいよ」
ラヴィ  「気にするなって方が無理だわよ」
エレクトラ「・・・、随分、変わった衣装ですのね、というかはしたない。
     この様な昼間から肩を出して、ドレスの裾も短すぎて、膝が出ているわ。まるで、売女(ばいた)のようですこと」
ラヴィ  「あ、服はこっちに来てからかおうと思ってたのよね。うん」
クラーク 「バーンズ男爵令嬢、あまりに口が過ぎませんか? お引き取り下さい。当家の客人に失礼だ」
エレクトラ「・・・っ!! それでは客観的に申し上げますけれど。

     お父様でいらっしゃるロイス子爵のお立場をお考えになったらいかがですの?出過ぎた口をお許し下さいませ、クラーク様。

     今日はこれにて失礼いたしますわ?」
クラーク 「すまない、ラヴィ。気分の悪い思いをさせてしまって」
ラヴィ  「私は平気よ?」
ロイス子爵「クラーク、なんだ、その娘は」
クラーク 「父上」
ラヴィ  「あははー、なんだかさっきからあんまり歓迎されてないな」
クラーク 「そういう訳じゃないんだ、誤解させたならすまない。父上、彼女はフィオナの話し相手にと思って連れてきました」
ロイス子爵「話し相手だと? そんなものは要らん! 必要なのは医者だ。これでは嫁ぎ先すら決まらぬではないか」
クラーク 「父上、まだフィオナにはその話は早すぎます」
ロイス子爵「何が早いものか。第二王女でもあるプリムローズ様は、13歳で嫁がれ14歳で第一子を生んでおられる」
クラーク 「我が家は王家とは違いますよ」
ロイス子爵「なんでもかまわん! 貴族院に不穏な空気が流れている今我が家も礎(いしずえ)を固めておかねばならん」
クラーク 「父上・・・。少々、ご無理をなさっておいでではありませんか?」
ロイス子爵「何をのんきな事を言っておる。全く気楽なものだ、私は貴族院に出掛けて来る」
クラーク 「お気をつけて」
ラヴィ  「大変なんだね、色々」
クラーク 「フィオナの部屋に案内するよ」
ラヴィ  「うん」

 

クラーク 「フィオナ、クラークだ。入ってもいいかい?」
フィオナ 「お兄様? どうぞ」
クラーク 「入るよ。近頃は食事も部屋で取るようになってしまったから、1週間ぶりくらいか?」
フィオナ 「車椅子で移動するのが面倒なんですもの。そちらの方は?」
ラヴィ  「はじめまして。フィオナ、クラークにね、お友達になって欲しいって言われてきたの」
フィオナ 「あ・・・」
クラーク 「フィオナまで邪険にしてくれるなよ?」
フィオナ 「長い髪、なんてきれい・・・」
ラヴィ  「ん、と・・・、ねぇ、クラーク。フィオナと二人きりにして貰ってもいい?」
クラーク 「え、なんで?」
ラヴィ  「お願い」
フィオナ 「お兄様、わたくしからもお願いします」
クラーク 「早速意気投合か。全く・・・、わかったよ」
ラヴィ  「私の名前はラヴィエル。ラヴィって呼んでね」
フィオナ 「ねぇ、ラヴィ。わたくしは死ぬの?」
ラヴィ  「へ? なんで?」
フィオナ 「だって、あなた天使様でしょう? わたくしを連れにきたの?」
ラヴィ  「なんで、天使・・・、って」
フィオナ 「だって、こんなに心のきれいな人なんていないわ。

     みんな、お父様やお母様だってわたくしがこんな風になって困っていらっしゃる」
ラヴィ  「・・・、フィオナ。私はあなたを連れに来た訳じゃないわ。この国を見に来ただけ。今はそれだけよ、安心して?」
フィオナ 「こわ・・・、かった・・・。怖かったの、ずっと」
ラヴィ  「苦しかったのね、今まで誰にも話さずにずっと我慢してきたの?」
フィオナ 「わたくしが婚約していた方は、わたくしが歩けなくなったことが原因で婚約を破棄してしまわれたの。

     子に影響が出ては困るって。お父様はその方との繋がりを欲しがっていたからとても怒ってしまって」
ラヴィ  「怪我はフィオナのせいじゃないのにね」
フィオナ 「言っても・・・、だれにも信じて貰えないと思ってた」
ラヴィ  「なにを?」
フィオナ 「わたくしの落馬は事故じゃないの」
ラヴィ  「事故じゃない? それは一体どういう事?」
フィオナ 「バーンズ男爵令嬢が、わたくしの乗っている馬に鞭をはなって、それで馬が驚いて」
ラヴィ  「バーンズ男爵令嬢って、さっきのエレクトラって人よね?」
フィオナ 「お願い! この事は誰にも言わないで!」
ラヴィ  「どうして? 誰かに伝えたくて話したんじゃないの?」
フィオナ 「本当は知って欲しいけど、でも、怖いの。男爵令嬢が、時々来て誰かに話したら足だけじゃすまないって」
ラヴィ  「え・・・」
フィオナ 「怖くて怖くて、誰かに会ったら話してしまいたくなるから」
ラヴィ  「だから部屋に閉じこもっていたのね?」
フィオナ 「だから、誰にも言わないで」
ラヴィ  「うん、わかった。でも、どうしてエレクトラさんはあなたにそんなひどい事をしたのかしら」
フィオナ 「あの人は、お兄様の事がとても好きなの。ううん、好きとかそういう事じゃない。もっとゆがんでて・・・」
ラヴィ  「うーん、と。クラークが好きだとフィオナにこんなことするの?」
フィオナ 「わたくしは、子供の時から少し不思議な力を持ってて、その人の色が見えるの」
ラヴィ  「・・・、色が? 例えば?」
フィオナ 「例えば、お兄様は春の新緑の色。とても暖かくて優しいの。お父様は、深い海の様な青色。

     冷たい色だけど本当はとても深い心を持っているの。ラヴィ、あなたは真っ白で輝いていたわ」
ラヴィ  「そう・・・。それで私が天使だって判っちゃったのね?」
フィオナ 「でも、男爵令嬢は、黒いの・・・。真っ黒で回りまで黒く染めてしまいそうな人。

     だから、わたくしはお兄様との結婚に反対したの。どんなことをしても結婚はさせないって!

     そしたら次の日、遠乗りに誘われて・・・」
ラヴィ  「そう・・・、そっか。辛かったね」
フィオナ 「わたくしの足はもう戻らない・・・。わたくしの結婚だとか将来だとかはもうどうでもいいの。

     だけど、お兄様をあの人と結婚させたくはないわ!」
ラヴィ  「ねぇ、フィオナ。それは誰かに頼んでもきっと誰にも理解はして貰えないわ」
フィオナ 「じゃあ、どうすれば。ラヴィになら頼めると思ったのに!」
ラヴィ  「フィオナが自分でやらないとダメね? ・・・、フィオナは男爵令嬢が黒い事を知っていて誘われた遠乗りに一緒に行った。
     同じ失敗は二度と繰り返さないって約束できる?」
フィオナ 「失敗するとかしないとか、わたくしの・・・、こんな足じゃ限界があるわ」
ラヴィ  「背中、だったかしら?」
フィオナ 「え?」
ラヴィ  「お医者様に怪我をしてるって言われた場所を教えて貰える?」
フィオナ 「え・・・? 背中の、腰に近い、この辺り。でもどうして?」
ラヴィ  「少し触るわね?」
フィオナ 「え、ええ・・・」
ラヴィ  「この事は、他の人には内緒。ね?」
フィオナ 「背中が温かい・・・。なんだかじんわりと・・・」
ラヴィ  「これはね? 私たち天使が持ってる癒しの力。壊れてしまったものを治す力よ?」
フィオナ 「あ・・・、足に・・・、力が、入る・・・。」
ラヴィ  「急に治ったら、周りの人がおかしいと思うから、ゆっくり治っていく振りを忘れちゃだめよ?」
フィオナ 「どうして・・・」
ラヴィ  「フィオナにはきっと、もっと沢山やらなきゃならない事がある筈よ? 一つはエレクトラさんの事。
     だから、歩けなくなってこんな風に挫折してちゃダメなの。自分で歩いて、やるべきことをきちんとやってね?」
フィオナ 「わたくしに、出来る・・・?」
ラヴィ  「できるわ? 自信を持って」
フィオナ 「ねぇ、ラヴィ。また、会える?」
ラヴィ  「もちろんよ。クラークが連れてきてくれたらいつでも会えるわ。あと、部屋に閉じこもっていちゃだめよ?」
フィオナ 「えぇ、わたくし本当はとても外が好きなの。お母様には淑女はもっとおしとやかになさいって怒られるほど」
ラヴィ  「フィオナ、あなたに会えてよかったわ」
フィオナ 「ねぇ、ラヴィ、神様って本当にいらっしゃるのね」
ラヴィ  「うん、いるわよ? まだ私はあった事がないけれど、いつか会えたらいいな」
フィオナ 「あ、そろそろラヴィをお兄さまに返してあげなくてはならないわ」
ラヴィ  「は? 私クラークの物じゃないわよ?」
フィオナ 「あら、意外に鈍感でいらっしゃるのね」
ラヴィ  「鈍感って」
フィオナ 「お兄様の色がラヴィと一緒にいるととても柔らかくて深い色になるの。お兄様はラヴィの事好きなのよ」
ラヴィ  「それは・・・、とても優しくて素敵な方だと思うけれど」
フィオナ 「何か問題があるの? 人と恋してはいけない掟とか」
ラヴィ  「私はひと月しかここにいられないの。だから次の満月の夜には帰らなければならないの」
フィオナ 「まぁ、お兄様は報われないわね。・・・、わたくしも寂しいわ?」
ラヴィ  「そう思ってくれるのはとても嬉しいわ。また来るわね、フィオナ」
フィオナ 「楽しみにしているわ」

ラヴィ  「クラーク、まさかずっと部屋の前で待っていたの?」
クラーク 「ああ、いつ仲間に入れて貰えるのかと思ってね」
ラヴィ  「仲間になんて、変ないい方ね。私は今晩泊まるところを探さなくてはならないの、そろそろ失礼するわ。」
クラーク 「ラヴィエル・・・、フィオナが笑顔で見送ってた。キミを連れてきたのは僕の見込み違いではなかったようだね」
ラヴィ  「クラークから聞いていた通り、とても明るい子なのね。楽しかったわ」
クラーク 「そのお礼も兼ねて、宿屋を探すのを手伝いがてら、送り届けたいのだが」
ラヴィ  「ふふ、じゃあ、お願いしようかな?」

 

 

アラウン 「エレクトラ様の様なお美しいご令嬢のお誘いを無碍になさるなどと、私の様な不肖者には
     子爵令息のお考えなど到底理解には及びません」
エレクトラ「あなたは・・・、夫人が呼んだという街道占術師ね。確か、アラウンとかいう・・・」
アラウン 「おぉ・・・、名前を覚えて戴けるとはこの身が打ち震える程の恐悦。ありがたき幸せにございます」
エレクトラ「で? 何の用かしら?」
アラウン 「僭越ながら、先日よりご令嬢のご様子を拝見させて戴きまして」
エレクトラ「失礼な人ね」
アラウン 「おおぉ・・・、これはご気分を害されておしまいになられましたか。大変なご無礼を申し上げました」
エレクトラ「大げさな身振り手振りはもういいわ。用件を言いなさい」
アラウン 「はい。ご令嬢はクラーク様に大変な慕情を抱いていらっしゃいますね?」
エレクトラ「な・・・、なによ! 悪い?

     クラーク様はパブリックスクールでも監督生を務める程、成績優秀で武芸にも優れていらっしゃるもの。

     何より、社交的で・・・、それに、ハンサムだわ」
アラウン 「存じ上げております。ですから敢えてエレクトラ様にご忠告を」
エレクトラ「忠告・・・?」
アラウン 「あの様などこの馬の骨とも判らぬ娘など、放っておかれるがよろしい」
エレクトラ「ふんっ、元より気にしてないわ」
アラウン 「それは結構な事でございます。お気になさるは、ローゼンヴァーグ伯爵令嬢」
エレクトラ「ローゼンヴァーグ・・・、伯爵・・・?」
アラウン 「いかにも。現在議会の水面下において派閥争いが繰り広げられております。

     クラーク殿のお父君、ロイス子爵は、ローゼンヴァーグ伯爵との繋がりを深めるべきと考えておられるご様子。

     当然、最も有効な手段は閨閥でございます」
エレクトラ「そんな都合よく閨閥に利用できる人がいるものですか!」
アラウン 「ロイス子爵夫人は私の占術が非常によく当たるという評判を聞いて屋敷にお呼びになられた。

     私も未来を視る能力、他に引けは取らぬと自負しております」
エレクトラ「だからなんなのよ、あなたの話はイマイチ要点が掴めないわ!」
アラウン 「今より半月後にローゼンヴァーグ伯爵令嬢とクラーク様の婚約が整うでしょう。

     伯爵には来年社交界デビューを控えた大変お美しく、聡明なご令嬢がいらっしゃいます」
エレクトラ「なんですって?!」
アラウン 「無論、エレクトラ様のお美しさとはとは比較にもなりませんが。
     財力・勢力・伝統などはバーンズ男爵家では及びますまい」
エレクトラ「そんな・・・」
アラウン 「悲観なさるのはまだお早い。

     私は未来を知る事が出来ますが、それは口に出した時点で避けられる未来となるのです」
エレクトラ「は、半月後までに、何ができるっていうのよ?!」
アラウン 「なに、簡単な事でございますよ。ローゼンヴァーグ伯爵との閨閥の価値をなくしてしまえばよろしい」
エレクトラ「んん、難しい話は分からないわ!」
アラウン 「ロイス子爵は伯爵との繋がりを求めてはおりますが、なかなかに日和見な所もございまして、

     クリストファー公爵派に組する安全策も検討なされておいででございます。

     ゆえにローゼンヴァーグ伯爵がいなくなれば閨閥の意味が無くなるという事になります」
エレクトラ「意味が・・・、判らないわ」
アラウン 「いいえぇ・・・、聡明なエレクトラ様がおわかりになっていらっしゃらない筈がございません」
エレクトラ「・・・、そんな・・・、そんな恐ろしい事!」
アラウン 「ほぉら、おわかりになっていらっしゃる!!」
エレクトラ「つまり、伯爵を・・・、殺すという事でしょう?」
アラウン 「その通りでございます。やはりあなた様は私の見込んだ通り、とても聡明な方」
エレクトラ「できっこないわ! バレたらわたくしは身の破滅よ! お父様だって!」
アラウン 「バレなければよいのです。この様な不穏な空気が渦まく世の中、解明できない死亡事故がどれだけあるでしょう」
エレクトラ「事故に・・・、見せ掛けると、いうの?」
アラウン 「そして、それを行ったのがエレクトラ様だという事をクリストファー公爵に売り込む事もお忘れなく。

     バーンズ男爵の評価は一気に上がりロイス子爵もあなた様を閨閥にお望み下さるでしょう」
エレクトラ「そんな・・・、事故に、見せ掛けるなんてことが、できるの?」
アラウン 「できますとも! エレクトラ様の髪に編み込んであるシルクのリボン、それ1本で事は成し得ます。

     微力ながら私もお手伝いさせていただきましょう」
エレクトラ「リボン? ・・・、こんなリボン一つで一体何ができるというの? 首を・・・、絞める、とかかしら?」
アラウン 「まさかまさか、それでは事故ではなく殺人という事がバレてしまうではありませんか」
エレクトラ「では、一体・・・?」
アラウン 「私に備わる未来視(さきみ)の能力は、天変地異から風の向きまでをも完全に把握する事が出来るのです。」
エレクトラ「知るだけなんて、結構ちんけな能力ね。何の役に立つのかさっぱりだわ?」
アラウン 「チッチッチ・・・、未来視(さきみ)の能力を侮ってはなりません。七日後、王室でサロンが開かれる。
      あなたはそのサロンに招待されておりますね?」
エレクトラ「え・・・、ええ」
アラウン 「そのサロンにローゼンヴァーグ伯爵も招待されております。」
エレクトラ「当たり前ね」
アラウン 「視える・・・、視えますぞ? ローゼンヴァーグ伯爵に取り入る為に、ロイス子爵が帰り際、声を掛けるワンシーンが。
     エレクトラ様のビューーーティフル!なお姿も拝見できます。
     馬車の扉の取手にリボンを結びつけるだけの簡単なお仕事でございますよ?」
エレクトラ「馬車の取手にリボンを? 結ぶだけでいいの?」
アラウン 「いかにもそうでございます。馬車はそのまま優雅に動き出します。

     急な坂に差し掛かった頃、一陣の風がいたずらを致しますよ?取手のリボンが馬車の後輪に絡みついてしまいます。

     おおお、なんと大変な事に!強靭なシルクのリボンは切れる事なく、後輪はきしみ始めやがて車軸が折れ、馬車の車輪は外れます。
     ですがそこは急な坂道! 馬を追い越し馬車は成す術も無く坂道を転がり続けます! 大変なスピードで!

     オズウェル橋の欄干にぶつかり馬車は大破!!頭を強く打ったローゼンヴァーグ伯爵は意識不明のままご臨終致します。

     おお・・・、何たる悲劇! ご愁傷様にございますぅ・・・」
エレクトラ「チーン・・・」
アラウン 「なかなかユーモアセンスがおありですな」
エレクトラ「社交界で必要なコミュニケーションよ!」
アラウン 「それ本当ですか? ご謙遜なさらずとも、私はエレクトラ様の様な女性が好きですよ。

     あぁ、ご無礼な事を申しあげてしまいましたね。
     あなた様がクラーク様とその恋を成就するまでこのアラウン、できうる限りのご協力をさせて戴きましょう」
エレクトラ「クラーク様と結婚・・・、できる・・・?」
アラウン 「あなた様が私の言う通りにしてくださるのであれば・・・」
エレクトラ「クラーク様と結婚できる・・・。ふふ・・・。そう。いいわ、あなたと契約して差し上げるわ!
     クラーク様・・・、彼と結婚できるなら、わたくしなんだってするわ。
     ふふ・・・、うふふふふ・・・。他の女と結婚するくらいなら・・・、彼を殺した方がましよ。」

 

 

アラウン 「美しい・・・、なんと美しい。醜いなどと誰がこの世界を咎め立てできるというのだ!
     ローゼンヴァーグ伯爵は死んだ!! 成す術も無く『不慮の事故』で!!
     どうだ・・・? 苦しいか? 人間どもよ・・・。ふはは・・・。

     歴史が変わる・・・。クリストファーの悪虐から逃れさせなどするモノか! もっと苦しむがいい
     阿鼻叫喚こそが私の命の源なのだよ! 抗え! そして崩れ落ちろ!
     美味しい・・・、非常に美味だよ・・・! この甘美なる香り、芳醇に満ちた味わい、恍惚とした魅惑のなめらかさ
     憎いか・・・、ローゼンヴァーグ伯爵令嬢よ・・・、父を殺した犯人を探し求めようというのか! 愚か者よ!
     ふふふふふ・・・、ふはははは、もっと恨め! もっと憎むがいい!! 憎悪で焼き切れるがいい!!!
     はーーーーっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」

 


 

 

フィオナ 「お父様・・・。お話があるの・・・」
ロイス子爵「なんだ、フィオナ。私は忙しい」
フィオナ 「お父様がお忙しい事は承知しております」
ロイス子爵「閨閥の価値のない娘など要らん! 私に意見があるなら、その足を治してから言うがいい!」
フィオナ 「・・・っ! お兄様とバーンズ子爵令嬢の婚約を、フィオナは許せません!」
ロイス子爵「何を言い出すかと思えば、お前には何の関係もない事ではないか」
フィオナ 「お父様はこの家を守る為に、前後の見境を無くしていらっしゃいます!」
ロイス子爵「なんだと?!」
フィオナ 「わたくしにはバーンズ男爵家との閨閥が正しいようには思えないのです!」
ロイス子爵「女の分際で政治に口を出すでない!」
フィオナ 「男爵令嬢が、お兄様との婚約を確かなものにするために一体どれだけの物を犠牲にしているか
     それを知ったら、お父様だってお考え直しいただける筈ですわ?」
ロイス子爵「男爵令嬢が何をしていようが知った事ではない!」
フィオナ 「・・・っ、知っ・・・、た、事では、ないって・・・。お、お父様?!」
ロイス子爵「バーンズ男爵との繋がりを持つ事が出来たなら我が家は安泰だ!」
フィオナ 「そんな・・・、まやかしの上に立つ安泰など、砂上の楼閣に似た脆いものでございます!」
ロイス子爵「クラークと共に自由奔放に育て過ぎたか、知った風な口をききおって!!」
フィオナ 「どうしてそんな風に変わられてしまったの?
     昔のお父様は、お兄様だってわたくしだってもっと深い慈しみを持っていて下さったはずだわ!」
ロイス子爵「ローゼンヴァーグ伯爵が不慮の事故で亡くなったのだ」
フィオナ 「ローゼンヴァーグ伯爵・・・? 確か、貴族院で被支配階級の救貧を目的に活動なさっていらっしゃった方ですわ?
     亡くなってしまったのは・・・、おいたわしいとは存じ上げますけれど、だからと言って」
ロイス子爵「それからだ! バーンズ男爵家がクリストファー公爵家に取りざたされるようになったのは!」
フィオナ 「・・・、まさか・・・、バーンズ男爵令嬢が・・・」
ロイス子爵「クリストファー公爵に仇成すものは潰される。最悪の場合命を落とすのだ」
フィオナ 「そんな・・・」
ロイス子爵「フィオナ・・・、男爵令嬢に逆らうような真似はするでない」
フィオナ 「だからと言って! お兄様を令嬢に差し出すような真似をなさったというの?!」
ロイス子爵「仕方がないのだ・・・」
クラーク 「ロイス子爵家の、伝統と格式をバーンズ男爵家に売り渡すお積りですか、父上。」
ロイス子爵「ク・・・、クラーク・・・」
フィオナ 「お兄様・・・」
クラーク 「確かに、貴族院の派閥争いを考えるのであればクリストファー公爵の一派に着くのが一番の安全策と言えましょう。
     ですが、バーンズ男爵家と閨閥を行う事は賢明な判断だとは思えません」
ロイス子爵「お前に一体何が判るというのだ! 
     フィオナに閨閥の価値が無くなった以上、お前がそれを補う以外の方法があるというのか!」
クラーク 「僕もフィオナも子爵家の閨閥の道具だけの存在ですか?!」
ロイス子爵「閨閥以外の安全策を見付けてから話をしろ!」
クラーク 「父上・・・、現状を見て焦燥に駆られるお気持ちはお察しします。
     未だに儀礼爵位しか持たない僕には父上のお立場を十分に理解できている訳ではありません。
     ですが、王家を差し置いて執政権を壟断するクリストファー公爵の一派に属する事は将来的に正しい判断ですか?」
ロイス子爵「正しい判断でなかったとして、たてつく勇気がお前にあるか?」
クラーク 「・・・っ!」
ロイス子爵「母や、私、フィオナを犠牲にしてクリストファー公爵にたてつく勇気がお前にあるか!」
フィオナ 「誤ったやり方で我が身の保身を図るくらいなら、わたくしはこの命を棄てます!」
クラーク 「フィオナ・・・」
ロイス子爵「フィオナ! 何を言うのだ!」
フィオナ 「わたくし達の役割とは力ない国民を守る事です。権力に屈する事ではありませんわ!」
ロイス子爵「それが、我々家族だけでなく使用人に及ぶとしてもか!」
フィオナ 「お父様・・・、わたくしにはお父様の視野が狭くなっているだけのように感じます。
     人智の及ばぬ黒い大きな力によって、ねじ伏せられているように感じるのです」
エレクトラ「フィオナ様は、何やら訳の判らない占いでもなさったのかしら・・・?」
ロイス子爵「男爵令嬢・・・、いつからここに・・・?」
エレクトラ「つい先ほどですわ?」
クラーク 「勝手に入ったのですか?」
ロイス子爵「クラーク!」
クラーク 「まだ、僕は閨閥には同意していない! 勝手に当家に踏み入るのは余りに礼儀が無さ過ぎる!」
ロイス子爵「執事に、バーンズ男爵家よりおこしの方はすべてお通ししろと伝えてある!」
クラーク 「なぜそのような横暴をお許しになるのですか!」
エレクトラ「わたくしとクラーク様の閨閥は避けて通れぬものだからでございますわ」
クラーク 「男爵令嬢・・・。あなたは、この様な形で僕を縛り付けて満足ですか?」
ロイス子爵「無礼な事を言うでない!」
クラーク 「階級は我が家の方が上です!」
エレクトラ「わたくしを、王子様を待っている夢見る少女だとでも思っていらっしゃいましたの? クラーク様」
クラーク 「男爵令嬢・・・?」
エレクトラ「わたくし、欲しいものは何が何でも、力づくで手に入れる主義ですの。お判り?」
フィオナ 「男爵令嬢! あなたは間違っています!」
エレクトラ「間違いとは、敗者の事を言うんですのよ、フィオナ様。クラーク様、お決めになってくださいませ? 
     家族と使用人、ロイス子爵家の家族を全て守れるのはクラーク様以外にはありませんもの」
ロイス子爵「クラーク・・・、次期当主としての責任を果たすのだ」
フィオナ 「お兄様! 大丈夫です、わたくしは他に何か方法があると思います!」
クラーク 「・・・っ、僕には、お慕い申し上げている方がおります!」
エレクトラ「子爵家のご長男が、自由な結婚を出来るとお思いですか?」
ロイス子爵「あの、どこの馬の骨かもわからぬようなあばずれの事であろう!」
クラーク 「彼女に対する暴言はいくら父上でも許しませんよ!」
エレクトラ「では、彼女の身分を証明してくださいませ? 女王陛下に拝謁できるご身分なのでございましょうね?」
クラーク 「それは・・・!!」
エレクトラ「結構、それではアッパーミドルでもよろしくてよ? 学院の教授のお父君がいらっしゃる? それともお医者様関連かしら?」
フィオナ 「例えば身分がついていなくたって、ラヴィとお兄様が結婚できなくたって、エレクトラ様とは結婚なんてさせないわ!」
ロイス子爵「フィオナまで何を言い出すのだ!」
クラーク 「フィオナの言う通りです。必ずしもクリストファー公爵の傘下に入らねばいけない訳ではない!
     どこの派閥にも組しないという選択肢だってあるのですから」
エレクトラ「・・・っ! ずいぶんと強気な発言をなさるのね」
クラーク 「お帰り下さい。男爵令嬢。まだ、あなたは僕の婚約者ではない」
ロイス子爵「男爵令嬢、申し訳ありません。息子が大変な非礼を。 クラーク! お前も謝罪をしなさい!」
クラーク 「お断りいたします。僕は間違ってはいない」
エレクトラ「ふん・・・っ、謝罪など・・・。構いませんことよ? 未来は、変わりません。

     どれだけあがこうと・・・、・・・今日の所は失礼いたしますわ」

ロイス子爵「クラーク・・・。お前の言動が代々続いた格式ある子爵家を潰すかもしれぬ恐れは考えないのか」
クラーク 「どの道、バーンズ男爵家を通じてクリストファー公爵家の傘下に入るというなら、実質凌駕されたのと同じ事。
     それならば、僕は今すぐにでも子爵家の跡取りである身分を放棄いたします」
フィオナ 「お兄様?!」
ロイス子爵「何を言うのだ!! クラーク!!」
クラーク 「ロイス子爵、たった今よりあなたは僕の父親でもなんでもない。僕に命令する権利もない。
     数日の間に家を出ます。今までお世話になりました。」
ロイス子爵「クラーク!! どういう積もりだ!! 戻って来なさい!! クラーーーク!!」

 

 

エレクトラ「アラウン」
アラウン 「はい、エレクトラ様。悪魔アラウン、エレクトラ様のお呼びにあずかり参上いたしましてございます」
エレクトラ「クラークはとても頑固だわ? きっとあの女と添い遂げる積もりね。そんな事許さない。どうするべきか言いなさい」
アラウン 「ふぅむ・・・。あの娘、生かしておいては中々に邪魔な存在でございますな」
エレクトラ「直接手を下すのは嫌だわ。美しくない」
アラウン 「無論お美しいエレクトラ様のお手をあの様な穢れた存在の血で汚す必要はございません。

     このアラウンめに良い考えがございます」
エレクトラ「さっさと言いなさい」
アラウン 「その前に、お伝えしておかねばならぬ重要な事がございます」
エレクトラ「重要な事?」
アラウン 「なぜかフィオナ様のおみ足が治っているようでございます。
     車椅子を使い隠しているようでございますが、自室では自由に歩き回っているご様子」
エレクトラ「・・・、あなたみたいなおかしな存在がいるんだから、いまさら何が起こってもおかしいと思う事はないわ。
     でも、フィオナはわたくしの望みの邪魔をする。ことごとくね、嫌いだわ。
     殺す積もりで落馬させたのに失敗してしまったのよ。悪運の強い子だわ、忌々しい!」
アラウン 「あの、馬の骨と同時に始末してしまいしょう」
エレクトラ「うふふ・・・、あなたならそう言ってくれると思っていたわ? フィオナはわたくしの手で葬って差し上げてもよろしくてよ」
アラウン 「すべてはエレクトラ様のお望みの通りに・・・。
     このアラウン、我が能力の及ぶ限りエレクトラ様のお力添えとし、下僕に成り下がりましょう?」
エレクトラ「期待していてよ」
アラウン 「それと、大変怖れながら、ロイス子爵を完全に掌握せねばならぬでしょう」
エレクトラ「子爵は権力に逆らえない。もう十分なのではなくて?」
アラウン 「彼の気の弱さは確かにそうでございましょう。

     ですが、現在のエレクトラ様は虎の威を借る狐、ロイス伯爵が怖れているのはエレクトラ様ではございません」
エレクトラ「忌々しいけれど、それは本当ね。どうすればいいかしら」
アラウン 「全てを未来の風に任せるというのは証拠を残さない事も含め大変なメリットがございます。

     が、直接人に圧力を掛けるには力が足りません」
エレクトラ「わたくしはロイス子爵を掌握しておきたいのよ」

 

ラヴィ  「クラーク・・・。もう、私の所になんか来ちゃダメでしょ? 婚約者がいるのに。誤解されるよ?」
クラーク 「誤解? おかしなことを言うね、ラヴィ」
ラヴィ  「おかしなことなんて・・・」
クラーク 「誤解ではなく、真実だ。僕は君を愛しているし、君もそう思ってくれている、と感じている
     それは、僕の勘違いだったのか?」
ラヴィ  「勘違いじゃない! ・・・っ、勘違いじゃ、ないよ? 私もクラークの事・・・、うっ・・・」
クラーク 「そこは最後まで言おうか」
ラヴィ  「別に言わなくたっていいもの」
クラーク 「僕ははっきりと知っておきたいのだが?」
ラヴィ  「言っても、仕方のない事なのよ・・・? 何より、私はクラークと一緒にいる事は出来ないわ?
     私がここに来たひと月、クラークがいてくれてとても心強かったし、とても助かったわ、ありがとう」
クラーク 「まるで・・・、お別れの様な事を言うんだね」
ラヴィ  「だって・・・、私は明日、還らなければならないんだもの」
クラーク 「帰る? 一体どこに? 君の故郷はどこなんだ?」
ラヴィ  「伝えてもクラークには来る事が出来ない遠い所よ。」
クラーク 「ブーデロンではないのか? フランティエ? オルンド? それとも・・・?」
ラヴィ  「還るのがこんなに辛くなるなんて・・・、来た時は思いもしなかったのに・・・」
クラーク 「僕はラヴィとならどこにでも行けるよ。・・・、家を棄ててきた」
ラヴィ  「え・・・? 家を・・・、棄てるって・・・? どういう・・・?」
クラーク 「身支度をして家を出るんだ。出たら、もう戻るつもりはない」
ラヴィ  「そんな!! ・・・、フィオナが悲しむわ!!」
クラーク 「フィオナなら判ってくれる筈だ」
ラヴィ  「ダメよ! 家に帰って!! クラーク!! あなたは逃げてはならない事から目を背けようとしているわ」
クラーク 「ラヴィエル?」
ラヴィ  「私への気持ちはとても嬉しい。けれど、あなたはあなたの家で成さねばならない事がある筈よ」
クラーク 「もう、僕は子爵家とは何の関係もない。ノーランの名もロイス子爵も何もいらない」
ラヴィ  「ロイス子爵はそれでいいの?」
クラーク 「え?」
ラヴィ  「路地裏で凍える人達、食事を満足に取れない人たち、私はこのひと月そんな苦しみにあえぐ人たちを見て来たわ
     ねぇクラーク、貴族院というのはあなた方爵位のある貴族たちの集まりの事よね」
クラーク 「それは・・・、そうだが」
ラヴィ  「じゃあ、救貧の義務は一体誰が担うの?」
クラーク 「僕ら貴族だよ。それが幼い頃から叩き込まれる、ノブレスオブリージュだ」
ラヴィ  「よかった・・・、本当は、判っていたのね」
クラーク 「それは・・・、だが」
ラヴィ  「だが?」
クラーク 「今は、ダメだ。帰る事が出来ない」
ラヴィ  「どうして?」
クラーク 「今、帰ったとして父上と押し問答を繰り広げるだけだ。このまま家を出る事が正しい判断ではいというならラヴィ」
ラヴィ  「うん?」
クラーク 「少しでいい。ほとぼりが冷めるまで家を離れたい。そうでなければ僕は悪意のある権力者に飲み込まれてしまう」
ラヴィ  「本当に、少し経ったら帰って、クラークの本当の義務と向き合って貰える?」
クラーク 「約束するよ。ラヴィに失望されたくはない」
ラヴィ  「大袈裟ね・・・。私は大切な人を簡単に見捨てるように見えるのかしら?」
クラーク 「家から離れている間、ラヴィに傍にいて欲しい」
ラヴィ  「え?」
クラーク 「ブルームフィールドに行こう、ラヴィ」
ラヴィ  「ブルームフィールド・・・?」
クラーク 「ここからもっと北の方にある、田舎だよ。こんなに貧富の激しい所ではない。落ち着いた場所」
ラヴィ  「クラーク・・・」
クラーク 「一緒に来てほしいんだ」
ラヴィ  「優しい人・・・。クラーク、あなたは優しすぎるのね。だから、悪意のある権力者に流されてしまうのが不安なのだわ」
クラーク 「ラヴィと一緒にいればそれを避けて通れるような気がしているんだ」
ラヴィ  「うん、判った。あなたが、目を背けないと約束してくれたから、一緒に行くわ」
クラーク 「ラヴィ・・・、ありがとう」
ラヴィ  「大丈夫よ、そばにいる」
クラーク 「明日の夜、ランゲージ通りの噴水前で待っているよ」
ラヴィ  「明日・・・。うん、判ったわ」
クラーク 「クス、本当はキスの一つでもおいて行きたいけれど、我慢しようかな」
ラヴィ  「ふふ、我慢する事ないのに」
クラーク 「え?」
ラヴィ  「・・・ちゅ。・・・、また、明日ね、クラーク」
クラーク 「・・・っ、あ・・・、あぁ」

 

クラーク 「そんな風に見えないのに、結構大胆なんだから。全く毎度驚かされるよ、ラヴィには・・・
     月が高いな・・・。明日は、満月か・・・
     ・・・っ?! 何者だ!! ぐっ・・・!! か、は・・・っ!!」

 

ラヴィ  「フィオナ・・・? どうして・・・、ここに? 車椅子は・・・?」
フィオナ 「お願い、お兄様を連れて逃げて・・・」
ラヴィ  「逃げるって?」
フィオナ 「もう、ロイス家はダメよ! お父様が恐怖に屈して心を折られてしまっているの!
      このままではお兄様はバーンズ男爵家の傀儡にされてしまうわ!わたくしも・・・!」
ラヴィ  「どういうことなの?」
エレクトラ「わたくしから説明して差し上げましょうか? ・・・、天使ラヴィエル様? ふふふ」
フィオナ 「男爵令嬢!!」
ラヴィ  「どうして・・・、天使だって・・・」
エレクトラ「どうだっていいのではなくて? そんな事。重要なのは、それが人に知られているか否か」
ラヴィ  「この気配・・・! あなた・・・、近くに悪魔がいるのね?」
エレクトラ「ええ、契約したの。わたくしがクラーク様を手に入れる為にね」
ラヴィ  「・・・、・・・っ、・・・っっ!!」
エレクトラ「ふふ・・・、気高い天使様には悪魔の瘴気とか言うものが強すぎるのかしら。何も言えないようね」
ラヴィ  「何を・・・、したか判っているの?! 悪魔と契約するだなんて!! 何を奪われるかわからないのよ!!」
エレクトラ「まぁ、・・・ふふ、心配してくれるのね。なんてお優しい・・・。さすが天使様ですわ
     ついでに、死んでくださらない?」
フィオナ 「ラヴィ!! 逃げて!! この人はお兄様と結婚する為なら人を殺す事なんて何とも思わないのよ!!
     ラヴィがお兄様と心を通わせている事が許せないの!!」
エレクトラ「フィオナ様、わたくしの前に立ちはだかるなんてなんの真似ですの?」
フィオナ 「私はここを退く訳に行かないわ! 私が退けばラヴィを殺すんでしょう?」
エレクトラ「まぁ、わたくしそんなに物騒に見えるかしら?」
ラヴィ  「完全に、悪魔に魅了されてしまっている・・・。

     そんな・・・、この人は・・・、この人をこのままにしておけない! フィオナ! 退いて!!」
アラウン 「お可愛らしい天使様。大変ご無礼ですが、邪魔はしていただきたくないですねぇ」
ラヴィ  「あなた!! 街頭占術師!! は・・・っ、離して!! 私に触らないで!!」
アラウン 「大丈夫ですよ・・・。あなたは私たちが手を下さずとも死んでくださいますから、今殺したりしません」
ラヴィ  「え?」
エレクトラ「わたくしが邪魔なのはね? 小賢しく立ち回ってロイス子爵を救おうだなんて無駄な努力をするあなた」
フィオナ 「え?」
エレクトラ「落馬して死んでいれば、二度も苦しまずに済んだのにね」
ラヴィ  「は・・・っ?! フィオナ、ダメ!!!!! 逃げてーーーーーー!!!」
エレクトラ「今度こそさようなら、フィオナ様?」
フィオナ 「あ・・・、が・・・っ!!!」
ラヴィ  「フィオナぁ!」
フィオナ 「ラ・・・、ヴィ・・・。おにいさま・・・、を・・・、お、ね・・・・っ」
ラヴィ  「フィオナ! ダメ!! 死んじゃダメ!! ダメよ!!!」
アラウン 「人間とはかくも脆いものでございますなぁ? エレクトラ様。首を切りつけるだけで簡単に死んでしまうとは」
エレクトラ「そうね・・・。嫌だ、返り血が手に付いたわ?」
ラヴィ  「いや・・・、ダメ、死なないで! フィオナ!」
アラウン 「天使の癒しの能力など、本当に死にゆく者には無駄でございましょう・・・?
      ま、好きなだけ注ぎ込んでみればよろしい・・・。足掻くだけあがいてご自分の無能さをお知りになってください」
ラヴィ  「フィ・・・、オナ・・・、フィオナ!! あ・・・、あ、あ・・・。いや・・・! いやああああああ!!」
エレクトラ「わたくしの邪魔をするからいけないんですのよ? そこの天使さん? あなたもお気を付け下さいましね?」

 

クラーク 「くそっ!! ここも開かないか!! 窓には格子がはめ込まれているしこんな部屋、普段はなんに使うというんだ!!
     ・・・、ラヴィ・・・。待っていてくれ、必ず行くから・・・」
エレクトラ「クラーク様? 扉越しに失礼いたしますわ? 何か御不自由はなくて?」
クラーク 「その声は・・・、男爵令嬢か!! なぜ僕を閉じ込めたりしたんだ!! ここを出してくれ!!」
エレクトラ「出して差し上げるとは申しておりません。何か御不自由はないか聞いております、クラーク様?」
クラーク 「・・・っ!! あなたのしている事は病的だ! こんな事したって僕はあなたと結婚なんてしない!!」
エレクトラ「いいえ? あなたはきっと私と結婚してくださいます。
ですから、ラヴィとか言う少女の事は早くお忘れになってくださいませ?」
クラーク 「エレクトラ!! こんな事はいくらやっても無駄なんだ!! 僕はバーンズ男爵家との閨閥に賛同はしない!!」
エレクトラ「クラーク様・・・、あぁ・・・、嬉しい・・・」
クラーク 「エレクトラ・・・? 何を、言っているんだ?」
エレクトラ「初めてわたくしの名前を呼んでくださいましたわね。なんて素敵・・・」
クラーク 「・・・っ、あ・・・、男爵令嬢・・・? ぼ、僕をここから、出して・・・、くれ」
エレクトラ「男爵令嬢だなんて他人行儀な呼び方をなさらないで? もう一度、エレクトラ、と・・・」
クラーク 「・・・、こ、ここから・・・、出してくれ、エレクトラ」
エレクトラ「まるで素敵な歌を聞いた時の様に幸せですわ? クラーク様と結婚できれば毎日とても幸せになれるわ」
クラーク 「いい加減にしないか!! 男爵令嬢!! あなたがやっている事は、拉致監禁!! 立派な犯罪だ!!」
エレクトラ「あらそう? 聞いた限り不自由はなさっていらっしゃらないようですわね」」
クラーク 「く・・・、狂ってる・・・」
エレクトラ「わたくしは所用で少し出掛けてまいります。帰ってきたら出して差し上げますわ」
クラーク 「え?」
エレクトラ「念のために、あの女が死んだ事を確認してくるだけでしてよ?」
クラーク 「な・・・っ、何を言っているんだ!!」
エレクトラ「あら? ご存知ではなかったのかしら? アラウンはあなたも知っている筈だと言っていたのに」
クラーク 「どういう事だ!!」
エレクトラ「どういうこともなにも、クラーク様が殺すんですのよ?」
クラーク 「僕が? 彼女を? 何を言っているんだ!!」
エレクトラ「クラーク様が、彼女にまた会いたいとおっしゃったのでしょう?
     律儀に彼女はクラーク様との約束を守って、待ち合わせの場所で待って、ご自分の帰るべき時に帰るべき場所へ
     帰らなかったから、そのまま死地に向かうんですもの。」
クラーク 「そんな、・・・、そんな事があるものか!!」
エレクトラ「うふふ、クラーク様が逃げようなんてなさるから・・・。それでは、行ってまいりますわね」
クラーク 「待ってくれ!! エレクトラ!!! 僕をここから出してくれ!!
     彼女を!! ラヴィエルを助けたいんだ!!! エレクトラ――――!!」


クラーク 「僕の・・・、為にラヴィエルが・・・、・・・っ、くそ・・・っ、くそぉっ!! 誰か!! 出してくれ!! 誰か!!」

 

 

 

ラヴィ  「もうすぐ、夜が明けるのね・・・。神門が・・・、閉じてしまう・・・。
     ミカエル様・・・。教えて下さい。私は、あの時・・・、フィオナが殺された時どうすればよかったのですか?」
アラウン 「どうした所で人の運命を変える事も出来ないというのに、天空界も無駄なあがきをなさる」
ラヴィ  「今更・・・、クラークを救う事なんて出来るのでしょうか・・・?」
アラウン 「ちっぽけな天使が悩んで変わるなら世界はこんなゴミ屑になどなってはいないのですよ」
ラヴィ  「ううん、そうじゃない。救わないと・・・」
アラウン 「ほほほ、健気な天使ですな。わたくし感動してしまいますよ」
ラヴィ  「ミカエル様・・・。次の神門が開いた時には必ず帰ります。
     だから、ラヴィエルにもう少し猶予と力を貸してください・・・」
アラウン 「天に見離された憐れな子羊。天空界が力など貸してはくれませんよ」
エレクトラ「アラウン、いくら見ていても死ぬ気配がないわ」
アラウン 「もう少々、お待ちを、エレクトラ様」
エレクトラ「もう随分待ったわ」
アラウン 「短気は損気と申します。もうすぐ、夜会に飽きた一人の女性がこの場所までいらっしゃいます」
エレクトラ「夜会? 貴族夫人」
アラウン 「いーえぇ? とても美しいご令嬢ですよ? 聡明で美しく残酷です」
エレクトラ「美しい、令嬢」
アラウン 「ご心配なく。彼女はクラーク様の事を奪う様な存在ではございません」
エレクトラ「ならいいわ」
アラウン 「わたくしは彼女の様な高潔な残酷さが大好物でして」
エレクトラ「それならどうしてその令嬢の所に行かなかったのよ」
アラウン 「おやおや、もしかしてわたくしが他のご令嬢を褒めた事で拗ねていらっしゃる? 嬉しい限りでございますよ」
エレクトラ「別に! 拗ねたりなんて」
アラウン 「そのご令嬢はわたくしの様な身分素性の知れぬ下賤の者が近付いたら容赦なさらない方でございまして」
エレクトラ「容赦しない、って」
アラウン 「おそらくお声を掛けようものならば殺されてしまうでしょう」
エレクトラ「誰? その令嬢の名前を言いなさい」
アラウン 「イレーナ・ティファニー・ウィンターソン。スタイナー子爵令嬢でございます」
エレクトラ「スタイナー子爵令嬢・・・?」
アラウン 「はい。わたくしなどが近付けぬ理由がお判りですか?」
エレクトラ「そ、そんなの!わたくしだって近付けないわ! 彼女の恐ろしさが判っていないの?」
アラウン 「ええ、美しい殺人鬼ですからねーぇ」
エレクトラ「どうするのよ、彼女が来たってわたくしに出来る事など何もないわ」
アラウン 「さてさて、どうでございましょう? お嬢様にはもう一仕事お願いをしたいのでございます
     でなければ、殺す機会を失いクラーク様をあの小娘に取られてしまいますよ?」
エレクトラ「・・・っ! それは、嫌」
アラウン 「簡単でございます。馬車から降りた瞬間あの小生意気な天使がスタイナー子爵令嬢の傍を通ります
     お嬢様はそんな彼女に近付き」
エレクトラ「スタイナー子爵令嬢に向かって突き飛ばせばいいのね?」
アラウン 「おっしゃる通りでございます! スタイナー子爵令嬢は常に人を殺す理由を探しております!
     下賤で身分素性の知れない娘がぶつかったりなどすれば・・・!! ・・・、この先は、お判りでしょう?」
エレクトラ「ふふ、いいわ。令嬢に見付からないよう人ごみに紛れてあの小娘を突き飛ばすなら、うふふ」
アラウン 「さぁ! もうすぐクラーク様は身も心もお嬢様のモノになりましょう!
     スタイナー子爵令嬢がきました。なんと美しい、高貴なドレスをお召しでございますなぁ」
エレクトラ「そう、もっと、近付きなさい。馬鹿な天使・・・、ふふ」
アラウン 「お嬢様! チェックでございます!」
ラヴィ  「・・・っ?! あ?」
エレクトラ「死になさい」
アラウン 「見える! 見えますよ! 天空界の送り込んだ生贄が自らの血だまりに倒れ込む姿が!
     この世界の未来は・・・、くくく、思い通りでございます」
エレクトラ「ふふ、うふふ、なんて素敵。ねぇ、アラウンあなたも見ていたでしょう? スタイナー子爵令嬢の顔」
アラウン 「えーえぇ、見ましたよ、見ましたとも。あの天使はもう生きて行く事は不可能でしょう」
エレクトラ「わたくしの邪魔をするからそうなるのよ」
アラウン 「それで? これからどうなさるので? あの天使が死ぬのを見届けますか?」
エレクトラ「必要ないわ」
アラウン 「潔い決断とはなんとも美しい物でございます」
エレクトラ「行きましょう、アラウン。クラーク様が待っているわ」