ラストクリスマスに眠る夢 ♂×1 ♀×1 / 白鷹

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所要時間:20分程度
利用規約をお読みいただきご利用下さい。

2019/3/2 利用規約を改訂しました。必ず読んでから上演をお願いいたします。

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乙葉(おとは)(♀) 28歳

バーの客

 

遊馬(あすま)(♂) 39歳

カフェバーのマスタ。

 

【配役】

乙葉(♀):

遊馬(♂):

 

 

 

遊馬「お姉さん・・・、ほら起きて。お姉さん、済まないね、起きて」

乙葉「ん、んん・・・、んぅ・・・」

遊馬「そんなに泥酔する程飲んでないだろう。ほら起きて」

乙葉「今何時・・・? 」

遊馬「2時半だよ。店はもう 1 時間も前に閉めてるんだ、ほら水はサービスだ、ちゃっと飲んで。終電はもう間に合わないだろう? タクシー呼ぶかい?」

乙葉「タクシーは、呼ばなくていい」

遊馬「ん・・・? 歩いて帰るのかい? 止めやしないが、家はこの辺り?」

乙葉「家はそんなに遠くないけど、まだ、帰りたくない」

遊馬「それは、困ったね。店はもう終わりだ、見ての通りここはカフェバーだから宿泊施設はないよ」

乙葉「一人の家に、帰りたくないの」

遊馬「参ったね、彼氏と喧嘩別れでもした? クリスマスも近いのに寂しい話だな」

乙葉「弟が死んだの」

遊馬「は・・・、え?」

乙葉「父が過重労働で息を引き取ったのが8年前。私が大学生の時、後を追う様に母が亡くなったのがその2年後の春先。私の就職が決まったんできっと安心したんだろうね。まだ弟がいるっていうのに眠る様に息を引き取ったわ。以来六年間弟と二人暮らししてた。一回りも年が離れててさ、まだ十六歳だったのよ?」

遊馬「それは、ご愁傷さまだったね。家族全部を亡くされたならそれはお辛いでしょう。・・・弟さんは病気、いや・・・、事故?」

乙葉「殺されたの」

遊馬「え・・・、は? こ、殺された?」

乙葉「ねぇ、マスタ。ここのカフェバーってアンティークなものが沢山あるわね。マスタの趣味?」

遊馬「いや、アンティークかなぁ? レトロな遊び道具かもしれないけど。私の趣味だよ。ビリヤードもダーツも、ジュークボックスも」

乙葉「もちろんマスタは全部遊べるのよね? 強いの?」

遊馬「そりゃ、これだって揃えるにはまあまあな金が必要だからね。プロじゃないけどそこそこ遊べるよ」

乙葉「私、ダーツがやってみたいわ。教えてくれる?」

遊馬「ビリヤードじゃなくていいのかい?」

乙葉「ビリヤードってルールが難しそうだもの。ダーツの方が簡単そう」

遊馬「お、言い切ったなあ。よし、じゃあダーツをやろうか」

乙葉「これを投げるのよね? 真ん中よりに当てればいいの?」

遊馬「どうせならきちんとゲームをやろう。スコア表だ」

乙葉「スコア・・・、点を多くとればいいんでしょう?|

遊馬「代表的なゲームは301(スリー・オー・ワン)って言われるものだよ」

乙葉「301?|

遊馬 「まずは各自の持ち点が 301 点あるんだ。それを先に 0 にした方の勝ち」

乙葉「結局、沢山点を取れば勝ちじゃない」

遊馬「301はね、まずゲームを始めることが難しい」

乙葉「え、なんで?」

遊馬「このボードを見てごらん? 外側のリングが二重になってるだろう? これをダブルリングと言って、点が2倍になる」

乙葉「ははあ・・・、真ん中寄りの二重ラインがトリプルってとこかしら?」

遊馬「当たりだ。そして301はダブルインというルールがある。ダブルのラインに入らないとゲームスタートにはならないんだよ」

乙葉「は? え? めっちゃ細いわよ? 難しくない?」

遊馬「当てずっぽうに点を取ればいいゲームじゃないことは確かだね」

乙葉「いや無理」

遊馬「ハンデをあげるよ。まずは君がスタートするまで僕はスタートしない。あと君が5本投げたら僕が1本投げる。どう?」

乙葉「あぁん? なにそのナメプ。ふざけないでよ」

遊馬「よし決まりだ」

乙葉「やってやろうじゃないの、えいっ! は? 的にすら当たらないとかある?」

遊馬 「いやあ、見事なノーコンだ。いいかい? まずは姿勢だ。投げる利き手の方を向くのではなく、きちんと的の正面に立って、左の肘を 90 度あげて右の肘を支える。投げるときは肘から下を、こう・・・、弧を描くように降る。手首のスナップを聞かせて」

乙葉「ほーん・・・、 力業じゃないのね、なるほど」

遊馬「極めると面白いよ」

乙葉「極めるって、相当やりこんで狙いどおりに打てるようにならないと無理じゃない」

遊馬「ちなみに、終わりも」

乙葉「ダブルアウト、とか言わないでしょうね」

遊馬「ご名答。もしくはトリプルアウト。あとは真ん中のブルに当てる。それと残りの点数が1になった場合はバースト。負けだ」

乙葉「待って? ちょっと待って?」

遊馬「ん?」

乙葉「ダブルで始まってダブルで終わるって」

遊馬「そうだねぇ・・・」

乙葉「301って奇数じゃない」

遊馬「そうだねぇ」

乙葉「何そのマニアックなゲームは、初心者にできるゲームじゃないわよ」

遊馬「まあまあ・・・、帰る気がないというなら時間はたっぷりあるんじゃないか?」

乙葉「そうね・・・。気長に投げてみるかぁ・・・。・・・ねぇ、マスタ」

遊馬「なんだい?」

乙葉「やくざって、未だにいるんだね」

遊馬「ああ・・・、昔よりもチンピラ風の人は減ったけどね。抗争とかはあるらしいし、最近は経済界にも進出しているらしいね」

乙葉「どうしてそんなクズが生きていけるのかしらね」

遊馬「そうか。殺されたっていうのは、抗争に巻き込まれたって事か」

乙葉「暴力団を認めない社会って、ただ表面上から何となく隠しただけでちっともなくなってなんかない。酷いわよね」

遊馬「一般人が巻き込まれるのは悲劇でしかないからね」

乙葉「馬鹿な子よね・・・。お姉ちゃんを助けるんだって言ってさ」

遊馬「助ける」

乙葉「お父さんが過重労働で亡くなったって言ったでしょう?」

遊馬「あぁ」

乙葉「小さな会社を経営していたの。幼い頃は割とお嬢様だったのよ? 私」

遊馬「中小企業のお嬢様か。負債を出して、父親は心身ともに疲れてなくなり、母親も後を追って・・・。よくある設定だな」

乙葉「そのベタな設定であたしは大学を中退して働いて、でも借金は払えなかったから母が亡くなって、自己破産したんだよね」

遊馬「・・・っ」

乙葉「だから結局働くって言ったってキャバクラが関の山だったんだけど、足りなくてさ。家には性質(たち)の悪い人達が来るし」

遊馬「巻き込まれた、とは言わないよ。それは」

乙葉「そうね。弟はさ、対立する一派に鉄砲玉として送り出されたんだよね」

遊馬「反撃を食らって死んだのかい?」

乙葉「多分ね。かなり凄腕のスナイパーだったみたい。元は同じ構成員だったみたいだけど、若頭と相性が良くなかったんだって」

遊馬「・・・、そうかい。そんなのを相手に鉄砲玉を送り込むなんてそのやくざも頭が悪い」

乙葉「そんなの・・・、どうでもいいわよ。せめて経歴は真(ま)っ新(さら)だった弟だけは、なんとか学校行かせて、普通の社会人にしてあげたかったのに。あの手この手で絡め取って、組に連れて行くなんてホントどうしようもないクズ」

遊馬「今時のやくざじゃないね。そんな古い手を使うんじゃそこもたかが知れてるな」

乙葉「もう少しあたしが、気を配っていれば良かった。青い蛇のタトゥーが右手の甲にある男って言ってたの」

遊馬「それはまた、ドラマみたいな展開だ」

乙葉「そんな事を言い始めるんだから、もっと気を付けていれば、危ない目に合う前にどこかに逃げ出せたかもしれないのに」

遊馬「そう言うのに限って、執拗に追って来るものだよ。逃げたいならもっと明確に計画を練らないと」

乙葉「弟を助けたかった」

遊馬「辛い思いをしたね」

乙葉「一人になっちゃった・・・。もう、誰かの為に生きるなんて出来なくなった」

遊馬「自分の為に生きる事は考えないのかい?」

乙葉「何も考えられなかったの、だから・・・。ねぇマスタ・・・、ジュークボックスで音楽かけてよ」

遊馬「いいよ、何の曲がいい?」

乙葉「ジュークボックスに入っていそうな音楽なんて知らないわ。でもそうね・・・、ワムのラストクリスマス」

遊馬「シーズンになると色々な所で流れるからね、流石に知ってるか」

乙葉「ラストクリスマスだなんて切ないわよね。・・・、こっちを見ないで」

遊馬「ダーツですら的を狙えないのに、拳銃が打てるかい?」

乙葉「狙わなくていいじゃない、この至近距離なら。ねぇ、その手袋外さないの?」

遊馬「ビリヤードも好きなんだ。ブレイクショットの時にキューで擦れると火傷するんだよ」

乙葉「馬鹿ね、キューを持つのって右でしょう? なのに右手に手袋?」

遊馬「左利きなんだ」

乙葉「なんで、見逃してくれなかったの? 明らかに弟はプロなんかじゃなかったでしょう? あなたの前に出て、人を殺す事なんて出来なくて、きっと怖かった筈なのに」

遊馬「一人で来たならきっと見逃していたし、少々のお金だって握らせてもう関わらないように言い含める事は出来たさ」

乙葉「じゃあどうして!」

遊馬「やくざが鉄砲玉を使うのは、便宜上の問題だからだよ。一人で僕の所に来ると思うかい?」

乙葉「だからって!」

遊馬「それにお姉さん想いの弟だ。僕を殺して少年院に入って服役が終わったって前科は消えない。やくざに捕まった人間に未来なんてないんだよ」

乙葉「だから殺したって言うの?! 弟の将来を心配したから?! 嘘を言わないで偽善者!」

遊馬「自分の行動を偽善で隠す様な事はしないよ。君の弟の為に命を棄てる理由がなかったからさ」

乙葉「弟を返して!」

遊馬「ほら外れた。至近距離だって銃は撃つ時の反動で銃口が逸れるんだ。素人には扱えない」

乙葉「私も死ぬわよ! けどそれじゃ弟の餞(はなむけ)には足りない! あなたの命ごと死ぬわ!」

遊馬「同情で、命は棄てられないんだ。ごめんね」

乙葉「・・・っ?!」

遊馬「お察しの通り僕の手の甲には蛇のタトゥーがあるよ。君の弟にも見せてあげた」

乙葉「私も・・・、殺すのね」

遊馬「選曲は悪くないと思うよ、ラストクリスマス」

乙葉「クリスマスはまだ先よ。・・・、ふふっ、地獄に堕ちろ」

 

遊馬「僕はいつでも地獄の縁を彷徨っているさ」

 

--END